第2部 6分野における構造改革

第1章 高度情報通信

I 基本的考え方

 高度情報通信分野は、豊かな将来への可能性を秘めた分野であり、明日の我が国経 済にとっての重要なフロンティアである。しかし、我が国の情報通信分野は、まだ欧 米に比べて立ち遅れが目立ち、しかもその差は拡大しつつある。事業者が自由に活動 しうる環境を整備し、その潜在的可能性が十分発揮されるようにすべきである。

(不確実性とリスク)
 情報通信分野の最大の特徴は、現在が情報通信の大変革期であり、将来への不確実 性が大きいということである。
 第1に、技術革新が急速に進展している。例えば、ワイヤラインと互角に競争しう るものとして、ワイヤレス技術が登場した。ワイヤレスは単に通話だけでなく、高度 情報通信の分野でもワイヤラインと競合しつつある。また、アナログからデジタルへ の技術変化は、通信システムの機能要素への分解可能性を前進させ、いわゆるアンバ ンドリングへの道を開いた。さらにCATVが通信と放送の垣根を取り払いつつある 。
 第2に、需要革新が進展している。かっては通信はボイスを伝達するネットワーク であったが、パソコンの普及やデジタル化によって、ユーザーのイニシアティヴが強 まり、ネットワーク事業者は需要者が自ら作るホームメード・メッセージの媒介をす るにすぎなくなった。
 こうした電気通信分野における技術革新、需要革新が今後どのような方向に進むか は誰も分からない。それだけに事業者にとっては、一方では大きな収益の機会が開か れていると同時に、他方ではそのリスクもまた大きい。このビジネス・チャンスとリ スクとを相伴った「不確実性」が、現在の通信産業の産業組織の最大の特徴である。 こうした状況の下で、望ましい技術が社会に導入され、それを可能とする投資を活発 に行わせるシステムは、市場メカニズム以外にはない。競争の下では、社会の求める ものを供給した企業の投資は報われるが、誤った技術を選択した企業は淘汰される。 こうした過程を通してのみ、どのような技術が社会に貢献するかが明らかになるので ある。

(NTTのマーケット・ドミナンス)
 現在の通信産業においては、昭和60年までの法的独占と既存技術体系の結果として 、市内電話網に関して、NTTのいわゆる「ボトルネック独占」が存在する。したが って、通信分野を真に競争的な市場にしていくためには、前述のような技術革新、需 要革新の動向に注意を払いながら、NTTの独占が競争を阻害しないよう、適切な措 置が必要である。 NTTの市内市場におけるボトルネック独占の弊害を除去するた めに、その分割を含む経営形態の再編成が不可欠か否かについては、様々な議論があ る。今回は、NTTの経営形態をどのようにすべきかについては取り上げず、そうし た問題からは独立に講ずべき競争促進政策を中心に検討を行った。NTTの経営体制 をどうするかの問題については、それが電気通信分野の不確実性を高める要因となっ ていることにかんがみ、早急な結論が得られるべきである。しかし、経営形態問題の 未決着を理由とした規制緩和等の構造改革の停滞は許されない。本報告書での提言は NTT経営形態のいかんにかかわらず、直ちに着手すべきである。

(6つの自由の実現)
 こうした通信産業の構造に合った競争メカニズムを実現するために、次の6つの自 由の実現を目指すべきである。

  1. リスク・テイキングの自由
    不確実性の高い中では、規制当局には指針を与えるべき拠り所がない。参入規 制を廃し、事業者が自らリスクを取って事業活動、投資活動を行う自由を保証す べきである 。
  2. 業務区分からの自由
    技術革新、需要革新が業務区分を越えた競争の可能性を広げている。事業者を 技術、設備などによって区別せず、業務区分を越えた競争を実現すべきである。
  3. 正確な市場の画定を通じた競争の自由
    電気通信産業では異なるネットワーク形態を持つ事業者が同一のサービスを目 指して競い合っている。規制が必要か否かは、どのサービスがどのような競争条 件の下で競争しているかを見極める「市場の画定」をした後に、独占の弊害があ るかどうかで判断されるべきである。
  4. 相互接続の自由
    市内電話網についてのNTTのボトルネック独占の解決のためにも、市内ネッ トワークでの相互接続の進展が不可欠である。自由かつ公正な相互接続のための 明確なルールの設定とそのための監視の仕組みが必要である。
  5. 海外への自由と海外からの自由
    競争は国境を越えて行われる必要がある。このため国内事業者の国際通信サー ビスへの参入、外資規制の緩和が必要である。
  6. 総括原価からの自由
    料金規制を撤廃・緩和していくと共に、規制に際しても総括原価を基準とする 方式を改めるべきである。

II具体的提言

1.参入規制の撤廃

 ドミナントキャリアであるNTTを別にして、電気通信分野の参入規制を原則とし て撤廃する。
 経済的規制としての参入規制(免許・許可等)は、自然独占などによって市場の失 敗が起こり、独占の弊害等が生じやすい場合に正当化される。こうした観点から見る と、NTTを除けば、一般の電気通信事業者が必然的に独占となる事業特性を持って いるわけではなく、現在の第一種電気通信事業者の参入を許可制とする経済的な根拠 はないものと考えられる。
 本年3月の規制緩和推進計画の改定を受けて、今後、道路占用権等の公益事業特権 付与が需給調整の観点からの参入規制とは切り離され、これに伴い、参入許可におけ る需給調整・過剰設備防止条項が削除されることが予定されている。残された許可要 件である事業の経理的基礎や事業計画の合理性等(電気通信事業法第10条第3号、第 4号及び第5号 (注))は、本来事業者の自己責任によるべきものであり、規制の根拠にはならない。
 したがって、電気通信分野への参入は原則自由とし(許可制の廃止)、その上で、 参入に際し公益事業特権付与を望む事業者には、別途の客観的基準に基づいてこれを 審査、付与することとする。無線の周波数割当て等技術的に必要な参入制約も考えら れるが、それも、設備を設置して電気通信サービスを提供する事業者一般を「第一種 」として、包括的に規制する理由とはならないものと考えられる。 この結果、現在の設備の有無による第一種、第二種という事業者の業種区分も不要 となり、事業者相互の設備の貸借やサービスの再販売、設備提供を目的とする設備貸 し事業も全く自由となる。さらに、これまでも国内/国際等の業務区分による規制は 行われていないと主張されてきたが、参入規制そのものの撤廃によって必然的に業務 区分の規制効果もなくなる。

2.NCCの料金規制の撤廃

 NCCの料金の認可制を撤廃する。
 認可料金などの価格規制は、参入規制と表裏の問題であり、参入規制によって、当 該市場が独占ないし寡占的となった時に、不当な価格設定が行われることを防止する ために行われるものである。したがって、ドミナントな事業者であるNTTを除けば 、料金を規制する必要はないものと考えられる。

3.NTTの独占性の客観的評価による規制

 NTTの独占の弊害を、具体的な市場の画定によって客観的に評価し、それに基づ いてNTTへの規制内容を定めるルールを確立する。
 今日なお、NTTは市内市場では独占であると考えられ、したがって、料金規制、 業務分野間の内部補助の制限、相互接続の義務付け等、その行為を規制していくこと が、電気通信分野の公正な競争の確保に必要である。NTTの経営形態の再編成のい かんにかかわらず、市内市場におけるNTTのボトルネック独占は直ちには解消しえ ないものであることから、その独占の弊害を客観的に見極める「市場の画定」等の独 占禁止法制上の考え方が重要である。同時に、ワイヤレスやCATV電話などの技術 革新が、日々市内市場の競争状態を変えつつあることを踏まえ、競争の実態を常時見 直し、独占度に見合った規制を行うとともに、独占の弊害がなくなったところから、 順次、規制を撤廃・緩和していくことも必要である。

4.NTTの料金規制における総括原価方式の見直し

 NTTの料金規制を総括原価方式からインセンティブ規制方式に改める。
 NTTについては、独占の弊害がある間は認可制等の料金規制が必要である。しか し、他の自然独占分野等における料金規制の在り方と同様、事業者の生産性向上への インセンティブを高めるよう、タイムスケジュールを定めて、現行の総括原価方式に よる料金認可からインセンティブ規制の方式への移行を進める。

5.相互接続の監視と厳正中立な裁定

 相互接続を監視するとともに、紛争を厳正中立に調停・裁定する。
 NTTによるボトルネック独占の問題を解決し、市内市場での競争を実現するため には、市内ネットワークでの相互接続が自由かつ公正に行われ、市内市場に多数の競 争者が新規参入する可能性が開けることが必要である。そのためには、相互接続に関 する公正で透明なルールの確立とともに、接続ルールの遵守を監視し、紛争を厳正中 立に調停・裁定する機能が必要である。
 通信分野に限らず、今後の行政は、事前予防的な介入を極力避け、明確なルールを 定め、ルールの遵守を監視し、違反を取り締まる、いわば事後的介入へと、その在り 方を改めることが必要である。また、産業・既存事業者の保護育成といった観点から ルールの裁量的な運用が行われることのないよう、産業政策的機能、ルールの策定機 能、監視機能ができる限り分離されることが必要である。
 特に、通信分野における相互接続に関しては、紛争時の調停・裁定のために、ネッ トワーク情報の保持者であるNTTの詳細な情報が監視機関に提供されることが不可 欠である。この場合、その情報が他の行政目的へ流用されないよう、情報の遮断が必 要である。
 このため、相互接続の監視、紛争の調停・裁定については、公正取引委員会または 独立の第三者機関による方法、審議会における審議の透明性の確保等、その具体化の 方策を検討すべきである。

6.NTTの参入を通じた国際通信市場の競争の強化

 NTTの国際通信市場への進出を認め、国際通信市場の競争を強化する。
 メガキャリアの国際的提携等、情報通信は急速にボーダーレス化が進展しているが 、我が国は、グローバル競争に立ち遅れつつある。
 現在3社(KDD、ITJ及びIDC)の寡占状態にある我が国の国際通信市場で は、我が国からの通話料金は依然として高く、コールバック・サービスが利益を生む 状況等が生じており、一層の競争を通じた効率化が求められている。
 NTTの参入を認め、国際通信市場の競争を強化し、グローバル競争に対応してい くことが急務である。なお、この際、国内部門から国際部門への内部相互補助のチェ ック等、NTTと他の事業者との平等な競争条件の確保を図っていくことが必要であ る。

7.外資規制の撤廃

 NTTへの出資を除き、原則的に外資規制を撤廃する。
 海外からの参入は、我が国通信市場の競争の促進のみならず、新たな技術や経営ス タイル等の導入の上でも極めて有益である。国際的状況に配慮しつつ、NTTへの出 資を除いて、個別各国の開放状況を踏まえつつ、原則的に外資規制を撤廃する方向で 進めることが必要である。

(注)電気通信事業法における第一種電気通信事業への参入許可基準(第10条各号) は次のとおり。
1) その事業の提供に係る電気通信役務がその業務区域における需要に照らし適 切なものであること。
2) その事業の開始によつて、当該事業を行う区域又は区間の全部又は一部につ いて電気通信事業の用に供する電気通信回線設備が著しく過剰とならないこと。
3) その事業を適確に遂行するに足りる経理的基礎及び技術的能力があること。
4) その事業の計画が確実かつ合理的であること。
5) その他その事業の開始が電気通信の健全な発達のために適切であること。

第2章 物流

I 基本的考え方

 物流は産業にとっての重要な中間財である。その物流コストが高いことは、我が国 経済の高コスト構造の重要な要因として広く認識されており、その低下が強く求めら れている。 物流分野における規制とそれに支えられた取引慣行・労働慣行は、物流 の効率化を妨げている。それは、荷主にコスト増をもたらすことによって経済全体の 効率化を阻害し、ひいては国民生活の質的向上を妨げている。また、経済活動のグロ ーバル化の進展の下で、国際物流コスト、特に我が国と競争関係にあるアジア諸国と 対比した国内物流の高コストが強く認識されつつあり、物流産業自体の空洞化も強く 懸念されている。
 物流分野における競争抑制的規制を撤廃・緩和し、競争の一層の促進と自由化を図 ることは、物流業にとっても国民経済全体にとっても重要な課題となっている。

(規制の撤廃の必要性)
 物流を含む運輸部門は、極めて規制が強く、各輸送手段別に参入規制、価格規制等 多くの規制が設けられている。近年、物流分野においても規制緩和が進展してきてい るものの、競争抑制的な規制がなお広範に存在している。
 一般に、参入規制、価格規制等の経済的規制は、自然独占等による「市場の失敗」 を補正するために必要となる。しかし、物流部門における各種規制は、中小零細企業 の保護等、市場の失敗の補正とは異なる目的から行われていることが少なくない。し かし、中小零細企業が必ずしも非効率であるとは限らない。また、こうした参入規制 は既存企業の効率化を遅らせ、さらには、革新的なサービスを行う企業の参入を阻害 することにより、物流部門の近代化・効率化を遅らせている。需給調整の観点からの 参入規制は原則として撤廃すべきである。
 参入規制の根拠の一つとされる零細運輸業者と荷主との公正な取引の確保は、独占 禁止法の運用強化で担保されるべきであり、また、零細業者や労働者の保護・育成は 、参入規制によるのではなく、それ自体を目的とした中小企業対策や所得再配分政策 等の直接的な政策によって行われるべきである。
 価格規制は、参入規制によって生ずる独占価格等の弊害を防止するために必要な措 置であり、参入規制を撤廃すれば不必要となる。したがって、参入規制の撤廃に伴い 価格規制は当然撤廃すべきである。なお、運輸業者による利用者の差別的取扱いを防 止することに価格規制の根拠が求められる場合があるが、差別的取扱いは競争が抑制 されている場合にこそ可能であり、必要があれば独占禁止法で対応すべきである。価 格は競争の最大の手段であり、様々なニーズを満たす多様な物流サービスが効率的に 提供されるためには、自由で多様な運賃・料金設定が可能でなければならない。

(効率的な社会資本の整備と運営の必要性)
 複合一貫輸送等を通じて社会全体として効率的な物流サービスが提供されるために は、各種の港湾施設、トラック・ターミナルなどの社会資本整備が進められなければ ならない。こうした社会資本についても、従来以上に効率的な整備と運営が必要であ る。その際、全国一律に容量、数の拡大を行うのではなく、隘路となっている大都市 部とその周辺を中心に効率の高い投資を行うべきである。また、複合一貫輸送等の推 進のため、異なる輸送手段を効率的に連結する施設整備が図られなければならない。 さらに、社会資本の建設、運営に当たっては、市場メカニズムの活用、民営化、地方 分権化を進めることによってコスト効率の改善及び受益と負担の一致を図るべきであ る。また、全国プール制のような内部補助のメカニズムを見直し、受益と負担の一致 を図っていくことも重要である。

II具体的提言

1.内航海運の規制の撤廃・緩和

 内航海運は大量の貨物を安価に輸送することが可能であるが、多くの規制がその近 代化、効率化を遅らせている。このため、以下の規制の見直しを早急に行う。

  1. 船腹調整制度の廃止等
    内航海運用船舶の新造等に係る船腹調整制度は、新規投資のコスト増要因となると ともに、採算面からの大きな参入障壁となっている。
    5年間の環境整備の後に「その達成状況を踏まえて同事業への依存の解消時期の具 体化を図る」とした現在の対応策は、船腹調整制度の撤廃を確約したものといえず、 不十分である。規制が作り出したレントである引当権利の担保価値の下落を制度存続 の理由にするのでなく、制度の廃止を前提にこれに伴う問題を処理すべきである。し たがって、船腹調整制度撤廃のための具体策をタイムスケジュールを示して策定し、 5年以内の出来るだけ早い時期に撤廃する。複合一貫輸送の担い手となるコンテナ船 、RORO船については直ちにその対象外とする。なお、解撤比率を一時的に引き上 げるという現在の環境整備計画は業界の構造改善を遅らせる可能性が高く、見直しが 必要である。
    平成10年度末までに廃止されることとなっている内航タンカー、内航ケミカルタン カーの運賃協定について、可能な限り早期に廃止する。
  2. 参入規制・料金規制の見直しによる競争の促進
    内航海運業に係る許可に際しての各種運用基準が結果的に新規参入を阻害し事業者 の自由な業務展開を妨げていることから、これらを早急に廃止する。また、内航海運 が本来的に競争的でありうる市場であることから、内航海運業の許可制度そのものも 届出制等へ緩和する方向で見直す。自家用船舶の建造や自家運送目的での使用に際し ての届出制は直ちに廃止する。
    自動車航送貨物定期航路事業(貨物フェリー)の新規参入の自由化、現実には貨物 輸送の役割をも担っている旅客フェリー運賃の自由化、弾力化により、内航海運の競 争を促進する。
    我が国を含め世界の主要国において、他国籍の輸送手段による国内輸送を認めない こと(カボタージュと呼ばれる考え方)が当然とされてきたが、運輸部門においても 相互に外国企業の参入を認める方向にむかうよう、世界に働きかけ、内航海運市場の 競争を活性化していく。

2.港湾における規制の撤廃・緩和等

 港湾サービスは、諸外国と比較してサービスの質が劣り、料金が高いという問題点 が指摘されている。これらには政府の行っている各種規制の競争抑制的効果に起因す るものも多いことから、規制の見直しを通じて、港湾における諸外国並みのサービス の実現に取り組む。

  1. 港湾運送事業に係る免許制度の見直し、認可料金制度の撤廃等
    港湾運送事業に係る需給調整要件を廃止するとともに、細分化された免許区分等の 抜本的な見直しを行う。また、港類別に同一料金となっている港湾運送料金に係る規 制を廃止し、港間での料金、サービス面での競争を促進する。さらに、輸送の一貫性 を保ち、効率的な物流ネットワークを構築できるよう、貨物運送取扱事業法に港湾運 送事業を含める。以上の対応が取られた後に、民間の慣行が自由な参入を妨げないよ うにすべきである。
  2. 埠頭等港湾施設運営の効率化、民営化等
    埠頭をはじめとした港湾施設が、ニーズに応じて効率的に運用されるよう、国や地 方自治体の建設した公共埠頭の第三セクター等への貸与等を通じて、港湾運営の弾力 化を図り、さらには民営化を検討する。
  3. 水先に関する規制の見直し
    我が国の高い港湾費用の一因である水先料金を改善するために、パイロット資格要 件及び水先料金のあり方を見直す。また、船舶の近代化を踏まえて、水先の必要な範 囲について随時見直しを行い、必要最小限の範囲にとどめる。

3.貨物鉄道事業の参入・価格規制の廃止等

 鉄道貨物輸送は、トラック輸送に比べて少ない人員で大量輸送が可能である等、多 くの利点を有しているにもかかわらず、我が国においてはそのシェアは低迷している 。インフラの整備等に加え、規制の撤廃等を行うことにより、鉄道貨物の利用の促進 を図る。

  1. 運賃認可制の廃止
    鉄道貨物事業は、トラック等代替輸送手段との間で実質的な競争が行われており、 自然独占等に基づく価格規制の根拠は失われている。トラック輸送との間の競争を促 進するため、積載率の低い列車等の利用に関して大幅な値下げを行う等、柔軟な運賃 設定を行うべきであり、貨物鉄道事業に係る運賃認可制を廃止する。
  2. 参入規制の緩和
    貨物鉄道事業の効率化、近代化を推進するために、新規参入を促進すべきである。 このため、参入要件の緩和等の措置を取る。

4.トラック輸送に係る規制の撤廃

 トラック輸送は我が国の物流の中で最も中心的な役割を担っており、規制緩和も進 んでいるが、なお、数多くの規制が競争抑制的に作用しており、改善が必要である。
 トラック輸送に係る規制緩和に対する反対意見として主張される過労運転、過積載 の問題については、参入規制によって対応するのではなく、労働者保護、交通安全等 の観点からこれらを直接的に規制すべきである。参入抑制的な各種規制の撤廃により 、革新的な新規参入業者の創意工夫を通じたトラック輸送の近代化、効率化を促進す る。

  1. 営業区域・最低保有台数に係る規制の撤廃
    営業区域に係る規制が輸送効率の低下、競争の制限を招いていることから、営業区 域規制を全廃する。なお、同規制の目的のうち、営業管理等は本来、事業者の自己責 任によるべきである。また、あわせて、特別積合わせ運送事業の規制も廃止する。
    各営業区域ごとに配置する車両の台数は個々の企業がその実状、技術革新の状況等 に応じて適切に判断することが最も効率的であり、最低保有台数基準は撤廃する。
  2. 運賃・料金規制の撤廃
    実際の市場では、トラックの運賃・料金はかなりの値引きが行われている。事業者 の創意工夫を一層活用するためにも、こうした実態を踏まえ、運賃・料金の届出等を 廃止する。
  3. 事業遂行能力要件の廃止
    事業遂行能力要件が需給調整要件と同様の効果を生み出しているという指摘がある 。運行管理体制の整備については個々の企業の自己責任原則によるべきであり、最低 限の項目を届け出るだけでの運行を認める。

5.その他

  1. 各種申請手続等の大幅な簡素化
    各種申請書類の大幅簡素化と処理期間の大幅短縮、関係業界団体非加入者への機会 の公平の確保、申請手続に関する優良事業者への負担減免措置、電子的媒体による書 類提出範囲の拡大等の対応を取る。
  2. 幹線道路における重量制限の緩和等
    重量制限が緩和されたあるいは緩和される予定のルートについての情報提供をより 積極的に行う。また、25トン車の通行可能なルートの延伸に努める。さらに、軸重、 高さに係る規制の緩和を求める声が広範に存在していることから、道路の設計基準の 見直しを行うことも含め、規制を緩和する方向で検討する。


第3章 金融

I 基本的考え方

金融システムとその担い手である金融産業は、他の産業の活動や国民生活に不可欠 なインフラ的サービスを提供する重要な役割を果たしている。金融システムは、金融 サービスを使用する我が国諸産業や、保有金融資産残高が 1,000兆円を優に超える家 計といった利用者のために存在している。金融システムの活性化は、金融面のみなら ず、我が国経済全体にとっての大きな課題である。
 金融産業は、個別産業としても比較優位を持ってしかるべき産業であり、情報産業 的性格を強く持つその競争力を後退させてしまうならば、その損失は著しく大きい。

(相対的に劣化する我が国の金融システム)
 我が国の金融は国際面からも国内面からも、大きな変革を迫られている。
 国際面からは、世界経済を覆いつつある大競争の波が金融にも及んでおり、各国の 金融システムの間では熾烈な制度間・市場間競争が、各国金融機関の間では企業間競 争が繰り広げられている。
 国内面からは、経済の資金不足構造から資金余剰構造への転換、高齢化・ストック 化の進行、情報通信の面で爆発的に進行しつつある技術革新といった我が国全体の構 造変化の波が金融分野に大きな影響を及ぼしつつある。こうした中で、金融の分野に おいて、従来存在していた国境の壁、従来非金融として区分されていた周辺サービス と金融との間の壁、金融部門内の業務分野間の壁、金融サービス・商品間の壁など、 あらゆる人為的な「壁」の意義は急速に薄れつつある。
 欧米諸国やアジア諸国では、加速度的に金融システムの改革が進められ、金融産業 も競争力の強化に努めてきている。情報技術の革新に伴う企業組織の再構築や新たな 金融サービスの導入も進んでいる。これに比して、我が国の金融システム改革の動き は依然として鈍い。この結果、我が国の金融システムは、市場間競争・制度間競争へ の立ち遅れが目立ち、金融・資本市場は空洞化の危機に瀕している。我が国の金融シ ステム、金融産業は、諸外国に比べて相対的に劣化している。

(金融システム改革の考え方)
 我が国の金融システムは、こうした状況を脱し、国際的な大競争の中で効率化を進 めることにより、国民的期待に応えていくことが求められている。そのためには、従 来の護送船団行政の下での生産者(金融機関)重視の視点から脱却し、市場メカニズ ムと自己責任原則に基づく利用者重視の視点に立った抜本的な改革を進める必要があ る。
 その目標は、「健全で安定した金融システム」、「効率的で革新的な金融システム 」の構築である。金融システムをめぐっては、多くの規制が相互に複雑に入り組んで いることを考えると、改革の進め方は「漸進的、段階的に」ではなく、ある程度一気 に行わなければならない。しかも、諸外国との大競争を考えれば、それは早い程良い 。このため、「ビッグ・バン」方式により、以下に掲げる諸施策を、可能なものは直 ちに、遅くとも今世紀中には全面的かつ一挙に実現すべきである。また、個別事項に ついても、各々明確なタイムスケジュールを可能な限り国民に提示して、その実現に 取り組む必要がある(個別事項の提言の詳細については、10月の金融ワーキンググル ープ報告書を参照)。
 なお、本報告書では、公的金融等の改革の在り方、大蔵省や日本銀行等の金融行政 組織等の在り方については特に取り上げていないが、これらは我が国の金融システム の改革に際しては、いずれも極めて重要な課題である。これらについても今後各方面 において議論がなされ、各々の改革が実現されることを期待する。

II具体的提言

1.幅広い競争の実現

 これまでの我が国の金融システムに存在したのは、業態ごとに「仕切られた競争」 であった。仕切られた競争は、同質的なものであり、それに費やされる労力に比して 利用者の利便性向上にはつながりにくい。こうした同質的競争に代えて、各金融機関 の活動の場を抜本的に拡大し、非金融部門からの新規参入も含め、異質で多様な参加 者間の競争を促進する必要がある。
 このため、参入規制、業務内容・方法等への制限・禁止・許認可等は原則撤廃、例 外規制とする。規制を設ける場合には、法令に規制事項を限定列挙し、それ以外は完 全自由とするとともに、規制の根拠・許認可等の要件を明示し、行政の裁量の余地を できるだけ排除する。一方、インサイダー取引等の不公正取引に係る規制、不良債権 やデリバティブ等の情報も含めた金融機関の経営状況や金融商品についての情報開示 のための規制の強化が不可欠であり、これらを通じて、金融機関及び預金者・契約者 ・投資家の双方の自己責任原則を徹底する。(以下の2.でも同じ。)
 具体的には、以下の2つの段階を経て、幅広い競争を実現する。

  1. 第1段階:業態別子会社方式による相互参入の拡大等と金融持株会社の解禁
    第1段階は、これまでの金融制度改革で認められた業態別子会社方式による相互参 入の拡大と、金融持株会社の解禁によるその加速化を中心とする。具体的な施策は以 下のとおりである。
    1. 銀行・証券・信託の業態別子会社の業務分野規制の撤廃
    2. 生・損保及び保険業とその他金融業との子会社方式による相互参入
    3. あらゆる形態の金融持株会社の解禁
    4. 普通銀行等による金融債発行の自由化
    5. 金融商品(有価証券や保険商品)の販売に関する規制緩和
    6. リース・クレジット会社による資金調達(社債・CP発行及び債権流動化)に 係る制限の撤廃によるこれらノンバンクと銀行との間の競争の促進
    7. 預金取扱金融機関外への一部決済サービス提供機能(「決済情報の仲介機能」 )の開放
    8. 店舗設置の認可制等金融機関の業務運営等に係るその他の規制の撤廃
  2. 第2段階:証券取引法の改正と資産管理・運用サービス業の導入
    第2段階は、資産管理や資産運用といった分野での業態の垣根の撤廃を中心とする 。現状では、金融サービス産業を取り巻く経済環境と技術条件の変化の中で、この分 野での業態という枠組み自体が制約となり、効率的な資産運用にとっての弊害も生み 出している。 このため、現行証券取引法で規定されている「有価証券」のみならず 、債権・不動産の資産流動化商品、商品ファンド、商品先物など、資産運用やリスク ヘッジの手段としての性格を有する「金融類似商品」も包括的に対象とする「資産管 理・運用サービス業」という概念を導入し、統一的な枠組み・制度の下に置く。具体 的な施策は以下のとおりである。
    1. 証券取引法及び関連する諸法を抜本的に改正し、a.市場取引の公正性と投資 家の保護等を対象とする「資産取引法」と、b.業法としての「資産管理・運用 サービス業法」とに分割。
    2. 資産管理・運用サービス業については、証券、信託、投資顧問、商品ファンド 、商品先物等各業務別の登録制(登録要件は法令に明示)とし、業内部では一切 の兼業規制を課さないこととする。
    3. 決済サービスのうち、「支払手段の受入れ・運用」業務を行う者及び保険引受 業については、免許制を維持し、その他の金融業は登録制(情報仲介等その一部 については完全自由参入)とする。
    4. あらゆる金融業務の形態について、免許・登録要件を満たす業者には、子会社 、金融持株会社を通じた関連会社形態での相互参入を認める。
    5. a.預金取扱業務、b.保険引受業務、c.資産管理・運用サービス業務の間 での本体での相互参入については、一方における破綻の他方への波及を防止する ために必要な環境整備の進行を待って、全面的に認めることとし、それまでの間 は、現状で認められている範囲及び本報告書の提言の範囲内での相互参入にとど める。

2.資産取引の自由化

 高齢化・ストック化が進行する中で、我が国経済は、低利で安定した資金供給以上 に、高利回りでリスクの少ない資産運用を実現することが重要となっている。このた め、以下のような資産取引の自由化を進める。

  1. 資本市場の機能向上
    低コストで規制が少なく、新たな金融技法の導入が盛んで効率的な海外市場へ取引 が流出するといった金融・資本市場の空洞化の危機から脱し、効率的な資産運用とベ ンチャー企業等に対するリスクマネーのより一層円滑な供給が可能となるような市場 の構築が、現下の我が国金融システムの最重要課題の一つである。このため、以下の 施策を実施し、資本市場の機能向上を図る。
    1. 有価証券に係る売買委託手数料の完全自由化、有価証券取引税の廃止等証券税 制の抜本的見直しによる資本市場における取引コストの削減
    2. 有価証券市場の開設等に関する規制や上場株式についての取引所集中原則の撤 廃・緩和による取引所外での取引の一層の自由化
    3. 店頭登録市場の改革
    4. 未登録・未上場株式への投資に係る規制緩和
    5. 新たな金融技法の導入促進(デリバティブ取引に関するa.規制の撤廃・緩和 、b.時価評価に基づく会計処理の導入、c.リスク管理体制の整備、d.情報 開示の徹底、及び資産担保証券等資産流動化手法の多様化の環境整備等)
    6. 社債発行・流通市場の改革
    7. ストックオプション制度の一般的導入
  2. 資産運用及び金融商品設計規制の撤廃・緩和
    国民の保有する資産の効率的な運用の障害となっているような、資産運用及び金融 商品設計規制については、撤廃・緩和する。具体的な施策は以下のとおりである。
    1. 保険会社の資産運用に係る規制の撤廃、保険商品に係る認可制の届出制への全 面的移行、損害保険料率算出団体制度の見直し
    2. 企業年金における「5・3・3・2」規制や投資一任契約・自家運用に係る制 限・制約等の資産運用規制の撤廃、企業年金の給付設計の弾力化
    3. 証券投資信託における集中投資の制限や私募有価証券等の組入比率の制限の撤 廃、投信約款の個別承認制からの届出制への移行、会社型投信導入のための環境 整備
    4. 商品ファンドにおける資産運用構成規制の撤廃・緩和、最低販売単位規制の撤 廃
  3. 外国為替管理制度の抜本的な改正
    欧米先進諸国並みの自由な国際金融取引環境を実現し、我が国金融・資本市場を世 界の主要な市場として機能させていくため、外国為替管理制度を抜本的に改正し、平 時の資本取引・対外決済の許可・届出制度の廃止と事後報告制度への移行、外為公認 銀行以外への外為業務の担い手の拡大等を行う。
    この場合、行政の過剰介入を排除するため、事後報告については必要かつ最小限の ものにとどめるとともに、外為業務の新たな担い手に対する業務分野規制、参入要件 、監督内容等については、原則自由、例外規制という考え方の下に、法令に規制事項 を限定列挙し、行政の裁量の余地をなくす。
    特に、外為公認銀行に対する持高規制、居住者ユーロ円債の国内還流制限は直ちに 撤廃する。

3.規制・監督体制の見直し

 従来の護送船団行政を改め、金融機関の破綻処理のためのもう一段の法的、組織的 手当を含めて、「健全で安定した金融システム」、「効率的で革新的な金融システム 」と両立的な規制・監督体制を確立する必要がある。

  1. 破綻処理の制度的基盤整備
    不良債権問題は未だ解決途上にあり、万が一への備えとしての、金融機関の破綻処 理の制度的基盤整備には課題が残されている。破綻処理制度が未整備な結果として、 処理が先送りされ、コストが膨らむことを防ぐ必要がある。具体的な施策は以下のと おりである。
    1. 預金取扱金融機関について、破綻処理の受け皿機関の整備や預金保険機構の財 政基盤の一層の充実、預金保険料率における可変保険料率の導入、破綻処理の透 明化
    2. 保険会社について、保険契約者に対する支払保証制度の創設とその場合の可変 保険料率の導入、倒産手続制度の整備等による保険契約者保護の強化等を含む、 上記1)で指摘した預金取扱金融機関の破綻処理と同程度の構造的対策の整備
  2. ルール型行政への転換
    金融当局の規制・監督行政は、金融機関過保護の裁量型行政から、市場機能重視の ルール型行政へと転換する。具体的な施策は以下のとおりである。
    1. 全ての金融機関に対する支払能力・リスク管理能力の監視と早期是正措置の導 入
    2. 金融機関の自己資本比率等の客観的な指標や格付けの基準等の法令への明示、 自己資本比率の水準や格付け結果等の公表
    3. 全ての業態の預金取扱金融機関と保険会社における不良債権の総額の開示
    4. デリバティブ取引を含むオフバランス取引についての情報の開示
    5. 国際基準の動向と整合した時価会計の導入
  3. 金融業における競争政策の強化
    金融分野は、これまで、各業法によってかなり詳細な規制が行われてきた結果、金 融機関の競争は制限され、他の業界に比べても強い横並び体質が形成されてきた。し かし、本報告書が提言する改革実施後は、金融機関の活動は大幅に自由化されること となるため、より一層公正な競争の確保に努める必要がある。
    このため、独占禁止法の一層厳格な運用等、公正取引委員会による競争政策を強化 し、独占禁止法の適用除外については、本報告書の提言に沿って、廃止・見直しを行 う。あわせて、インサイダー取引規制等の不公正取引規制は厳格に実施する。


第4章 土地・住宅

I 基本的考え方

 我が国の大都市の土地・住宅環境は「遠い・高い・狭い・醜い・危い」という五重 苦を抱えている。多くの人々が遠距離通勤に莫大なエネルギーを消費し、値段が高く 、面積が狭い住宅に不満を抱いている。都市の内部は混雑して景観が悪く、大災害に も弱い。こうした諸問題を解決する鍵は、土地の有効利用である。土地の高度利用等 による有効利用が実現できれば、通勤距離は短縮し、防災面や環境上有効な公共スト ックと空間を生み出すことができる。また、個々の住宅は広くて安価なものにするこ とができる。

(土地・住宅政策の目的)
 土地・住宅政策の主要目標の第1は、土地の有効利用である。大都市中心部にも、 遊休地や低未利用地が多数存在する。これらを十分に有効利用することによって、住 宅床の供給増加や道路・公園用地等の確保が容易になり、土地利用密度及び公共イン フラ投資効率が飛躍的に高まる。加えて住宅床の需給緩和により床面積当たりの地価 が低下すること等によって、国民全体にとって大きな利益がもたらされる。
 第2は、土地からの利得の公正な分配である。土地の値上がりは、ほとんどの場合 は、道路、公園等のインフラが整備されたり、経済活動が活性化することによっても たらされる。これらの開発利益は税制により吸収していくことが必要である。

(土地政策の副作用には別個の対策で対処)
 土地政策を進めていくためには、政策目的と政策手段の関係を整理しておくことが 重要である。例えば、土地の高度利用により、住宅問題に対処しようとすると、家賃 上昇等により既往借家人の居住継続が困難になる等の副作用がある。しかし、住宅床 の増大と既往住民の生活維持という二つの目的を、土地有効利用政策という一つの手 段で達成することはできない。「複数の政策目的には複数の政策手段が必要」なので あって、新しい居住形態に対応できない弱者に対しては、公的家賃補助、公営住宅へ の入居等による別個の分配政策を講じることが必要である。
 また、土地の有効利用を図ると住居地域に業務機能が進出したり、低層住宅地域に 高層住宅が混在するという問題に対しては、用途地域制(ゾーニング)の強化等の土 地の計画的利用という別個の政策で対応すべきである。

(大都市地域における市街地のあるべき姿)
 我が国では、都心部に高層、中層、低層のビルや住宅が無秩序に混在している。都 心まで1時間以内の地域に農地が混在している一方で、都心から1時間半も離れても なお高層のマンションがそびえ建ち、遠隔地まで延々と市街地が続いている。これに 対し欧米先進国では、郊外には広々とした一戸建ての低層住宅が展開し、農地はこの 郊外住宅地の外側に広がっている。街の中心部に向かうにつれて建物の高さは高くな り、共同住宅が増え、大公園や街路樹が都市に緑を供給し、中心部には高層ビルが林 立している。
 集積の利益を活用するとともに、快適な街を作るためには、企業が集積する都市中 心部は容積率を高くして高度利用を進める必要がある。これにより、交通時間・交通 コストを節約でき、道路、公園等の社会資本を整備することもできる。都心近接部に も住宅が必要であるが、希少性が高く商業用途と競合する地域であることを考えれば 、中高層の共同住宅となるのが自然である。

(床面積当たり地価の重視)
 地価の抑制という点では、基本的に重要なことは、床面積当たりの地価を低下させ ることであって、地価そのものの低下を図ることではない。地価を規制により強制的 に下げる国土利用計画法のような手法は資源配分を歪め、特定少数の人に不公平な利 得をもたらすものであり、早期に撤廃すべきである。

(市場メカニズムの活用と計画的利用の促進)
 従来は土地・住宅の利用は外部性を伴うため、規制や計画によって市場取引に介入 することが合理的とされてきた。しかし、実際の規制は外部性とは異なる理由で行わ れたり、外部性コントロール手段としては不適切なため、かえって望ましくない事態 を生じている場合が多い。土地・住宅問題の多くは市場メカニズムによって解決でき るにもかかわらず、規制等により阻まれているのである。
 しかし、土地・住宅問題の解決にとって、市場原理は万能ではない。土地・住宅は 単なる個人的財産だけではなく、外部性を持っているという意味で社会的存在であり 、計画的な利用が必要である。また、その際には、市民参加が不可欠である。現行都 市計画法にも住民参加の条項はあるが、従来以上に「自分たちが住んでいる又は将来 住む可能性のある地域の土地利用計画は、自分たちで作成し調整する」といった市民 参加を制度的にも十分確保する必要がある。但し、住民参加が単なる既存住民のエゴ に終わることを防止するためには、市民参加は、当該地域に既に住んでいる住民だけ はでなく、当該地域に住む可能性のある潜在的住民も含むものとする必要がある。

II具体的提言

1.都市計画・建築規制の合理化(「一律型」規制から「市場活用型」へ)

  1. 容積率規制の緩和
    大都市、特に東京では、道路の渋滞、鉄道の混雑、住環境の悪化など集中に伴う外 部不経済が様々な場面で発生していることは事実であり、容積率規制が、これらの外 部不経済抑制手段としても位置づけられている。しかしながら、集中そのものを抑制 する必要はなく、集中に伴う外部不経済を直接的に抑制すべきであり、長期的には混 雑料金制の確立によって個別インフラごとの混雑をコントロールし、容積率規制の機 能を代替すべきである。また、容積率を増やすと、インフラが不足し混雑が激化する という意見があるが、現行の不十分なインフラに土地利用を合わせるのではなく、容 積率を高め、土地の高度利用を図ることにより、新たにインフラ用地を生み出すこと がむしろ必要である。
    こうした観点から、1)容積率規制が混雑料金制によって代替されるまでの間は、容 積率規制が大都市圏における集中の利益を阻害しないように、道路を中心としたイン フラ整備と併行して、容積率の上限を大幅に引き上げる、2)容積率の引き上げと相ま って、道路率や公園率等のインフラ率を大幅に引き上げるという2点を緊急に実施す る。
    なお、指定容積率の引き上げの基準は床面積当たりの地価とすべきである。床面積 当たりの地価が高いということは、それだけ土地を有効利用する必要性が高いことの シグナルだからである。
  2. 日影規制の適用除外による中高層住宅化の促進
    大都市中心部の特に高度利用すべき地域を日影条例の適用除外とする。これにより 、中高層化により実効容積率を上昇させて土地の有効利用を図ることが可能となる。 あわせて、日影条例を適用する地域については、街区単位の規制手法を確立する。
  3. 街区単位の建築規制と容積率等の売買市場の創設
    これまでのような単体敷地ごとの数値規制を原則とする考え方を転換し、住民参加 の下で街区単位としての土地の有効利用を図り、良好な都市環境を維持すべきである 。さらに、容積率や日照権の街区内の敷地間での売買等による移転を認め、これを登 記等の方法により公示すべきである。
  4. 敷地・建物共同化へのインセンティブの付与
    街区単位でのまとまりのある市街地の計画的な形成を促し、土地の有効利用による 高密度居住を実現するためには、零細な敷地と建物の共同化を図るとともに、これを 有効利用に適した形状となるように整形化することが必要である。
    このため、固定資産税等における小規模敷地優遇措置など、敷地細分化を有利にす るような制度を撤廃するとともに、現行の容積率規制が存続する間は、敷地を大規模 化すればするほど容積率が高くなるような敷地規模別容積率を導入する。
  5. 建築規制の実効性確保
    現状の違法建築物の多くが放置されていることが、市街地の環境を悪化させるとと もに、土地の有効利用を妨げている。まず規制そのものの整理合理化を図った上で、 なお必要とされる規制については、当該対象行為の外部不経済の程度に応じた課徴金 を徴収する経済的インセンティブ手法を導入し、建築規制の実効性を高める。

2.土地・住宅税制の改善(「土地所有優遇型」から土地公共性に根ざす「有効活用 型」 へ)

 土地税制は土地利用と土地をめぐる分配に大きな影響を及ぼすが、我が国の土地税 制は、地価が高騰すると強化され、地価上昇率が低下すると軽減されるという歴史を 繰り返してきた。このようなその場しのぎ的な土地税制は土地の有効利用を阻害し分 配面では不公平をもたらしてきた。土地税制は長期的な土地の有効利用と分配の公平 の観点から設計すべきであり、地価が変化する度に変更されるべきものではない。 長期的な土地の有効利用と所得分配の公平の観点から見れば、以下のような改善が 必要である。
 第1に、インフラ整備など土地所有者の努力でない原因による土地の値上がり益( キャピタルゲイン)を税によって吸収することである。これによってキャピタルゲイ ンを得る目的で資産として土地を保有する土地投機が抑制されるとともに、分配の公 平にも寄与する。有効利用によって十分な収益をあげることが必要となり、土地の有 効利用が促進される。この際、売買による実現益のみからキャピタルゲインを吸収し ようとすると、その実現を先延ばしする「凍結効果」を生じ、土地取引が阻害され、 有効利用を損なうおそれがあるので、これを中立化するための税制上の工夫(土地含 み益利子税、売却時中立課税等)が必要である。キャピタルゲインを吸収するための 税としてこうした工夫を加えた土地譲渡所得税を強化し、あわせて土地の固定資産税 の課税標準を取得額に改めるべきである。
 第2は、金融資産保有と土地保有の選択に対して、税制がバイアスを生じさせない ようにすることである。例えば、相続税における土地の評価を金融資産との有利さが 同等となるように見直す必要がある。
 第3に、土地有効利用の観点から建物に対する固定資産税等を、土地・住宅の流通 促進の観点から土地・建物取引への各種の課税(不動産取得税、印紙税、登録免許税 等)を、撤廃すべきである。
 また、キャピタルゲインを税によって吸収し、これを財源としてインフラ整備、土 地・住宅関連の弱者対策にあてる仕組み(例えば土地基金の創設)も検討すべきであ る。


3.定期借家権の導入

 現行借地借家法は、貸し手からの解約を強力に制限しており、賃料の改訂も事前に 予測することが難しい仕組みとなっている。こうした措置は、一見すると借家人を保 護しているように見えるが、結局のところは良質な借家の供給を阻害することによっ て、劣悪な居住環境を生じさせている。したがって以下の3点を早期に実施する。

  1. 従来型の借家権の存続を前提として、契約で定めた借家期間が終了すれば自動 的に 借家契約が切れる定期借家権制度を創設する。
  2. 継続賃料は、当事者の事前の合意がある場合にはそれを優先し、合意がない場 合は 、近傍の新規市場賃料を基準に設定する。
  3. 定期借家権導入の結果、居住等の場を失う弱者に対しては、国や地方自治体に よる 家賃補助政策、公営住宅への入居等の対策を充実する。 また、既存借家権についても、都心部等都市再開発の必要性が高い地区においては 、家賃補助等の代償措置の下でこれを消滅させることができるよう特例的立法措置を 講ずる。

4.土地収用の適正化

 土地の有効利用のためには、最終的な担保措置としての土地収用が重要な役割を果 たさなければならないが、現在はこれが有効に機能していない。これは、1)収用対象 事業の決定に際して、事前の十分な住民参加や情報開示がなかったことと、2)開発利 益のほとんどが事業の周辺の土地所有者に帰属し、被買収者との間で不公平があるの に加え、土地の資産価値が他の財に比べて圧倒的に有利なことから用地買収が困難化 していたことによる。 したがって、開発利益が公的に還元されるよう土地税制を改 革した上で、地域住民の総意として策定された都市計画に基づく道路等のインフラ整 備事業、特に都市防災性向上の観点から行われる事業については、速やかに土地収用 手続を取るよう運用の改善が必要である。
 また、収用適格事業については、事業計画の即地的確定後速やかに土地収用法によ る事業の認定を得るように現在の運用を改めることが適切である。
 さらに今後は、権利変換方式のみならず、住宅・都市整備公団等の公的デベロッパ ーによる全面買収方式の都市再開発も促進すべきであり、また民間デベロッパーによ る事業であっても、一定の公共要件を満たす場合には、収用権限が発動できる立法措 置の検討が必要である。


5.住宅政策における価格メカニズムの活用

  1. 住宅への公的資金投入の在り方の見直し
    我が国の住宅政策では、低利融資等の公的資金投入による「住宅取得能力の向上」 が重要視されてきた。これらは民間の住宅・金融市場が不完全な時代に一定の役割を 果たしてきたものの、土地供給市場の歪みを放置したままでは、こうした政策の有効 性は大きく低下してしまう。様々な住宅都市関連補助金、住宅金融公庫融資、住宅取 得促進税等は、市場の失敗、特に外部経済・不経済を根拠とするものに精選し、根拠 の明らかでない再分配措置は撤廃する。一方、住宅弱者に対する再分配措置としての 公営住宅、家賃補助等については、困窮度に応じて分配するという原則を一層貫徹し ていくことが必要である。
  2. 住宅・都市整備公団の市場補完機能への特化
    住宅・都市整備公団は、これまで大きな役割を果たしてきたが、現在では分譲住宅 や分譲宅地事業の大部分は民間と競合しており、公団自身がこうした事業を実施する 必然性が乏しくなってきている。公団は、計画や事業に関するノウハウ・技術を生か し、道路、公園、下水道等のインフラの先行的整備や、低層住宅密集市街地等の都市 再開発事業に事業の主力をシフトさせ、市場補完機能への特化を図っていくべきであ る。
  3. 交通等の公共インフラへの混雑料金制導入
    集中に伴う外部不経済をコントロールする手段としては、混雑料金制による価格メ カニズムの活用が有効であり、鉄道や高速道路におけるピークロードプライシング( 時間差料金制)等混雑料金制を導入する必要がある。

6.地方自治体の関与の在り方

 各地域ごとの環境の違いを考慮に入れなければ、望ましい土地利用は不可能であり 、その影響が当該地域の範囲内にとどまる事項については、各地域の実情に合わせて 、都市計画や規制を各地方自治体独自の創意と工夫により活用できるようにすべきで ある。
 また、地方自治体が土地・住宅政策に関与する際に重要なことは、地域住民の代表 である地方議会での審議・議決を経るという法治主義を貫徹することである。宅地開 発等に際しては、負担金や施設の提供義務等が、地方自治体の要綱の形態で法的根拠 なく存在しているが、条例化できない要綱はすべて撤廃すべきである。 条例化されたとしても、現在の細分化された自治体単位の中で土地・住宅問題に関 する完結的な政策が実施できるかについては疑問があり、中長期的には、各自治体が 連携し広域的単位での地域土地・住宅政策の策定が必要である。

7.生産緑地制度の見直し

都心部に生産緑地が無秩序に混在していることは、良好な環境に寄与しないばかり か、土地の有効利用を大きく妨げている。このような都心部周辺の生産緑地について は制度の根本的な見直しを図り、緑地とすべき所は土地関連税を財源として公的部門 が買収して積極的に公園化し、それ以外の生産緑地については宅地と一体化して区画 整理等による都市開発を進める。

8.住宅市場における情報提供の充実

住宅の性能情報について、まず、新築時における性能表示を客観化するとともに、 性能情報を提供する仕組みを整備すべきである。あわせて、中古住宅を客観的に評価 して、品質についての詳細情報を住宅供給者、不動産業者等が消費者に提供する仕組 みを整備する。住宅市場が整備されれば、標準仕様の住宅が大きなシェアを占めるよ うになり、建築部品標準化による費用削減、新築住宅の販売管理費の削減等のコスト ダウンが可能になる。また、国民のライフステージに合わせた住み替えも容易になる 。


第5章 雇用・労働

I 基本的考え方

(我が国経済の構造改革と雇用・労働)
 雇用・労働分野における改革は、我が国経済全体の構造改革の成否の鍵を握ってい る。 第1に、経済構造が急速に変化する中で、構造改革を円滑に進めるためには、 労働力が常に「適材適所」の状態に配置され、労働者の潜在能力を十分発揮できる条 件が整備されていなければならない。
 第2に、高齢化に伴って増大する年金、医療、介護等の費用を担うべき労働力人口 が21世紀には減少に転じる中で、現在相対的に低い水準にある女性及び高年齢者の労 働力率を引き上げるとともに、労働の質を高めていく必要がある。高齢化に伴って貯 蓄率が趨勢的に低下し、物的投資の原資が減少していくことが予想されるため、人的 投資の重要性は一層増すものと考えられる。

(労働政策の転換の必要性)
 我が国の労働市場を律する法制度は、第二次世界大戦直後に抜本的な改革が行われ 、労働組合法、労働基準法、職業安定法などが制定され、今日に至っている。こうし た法制度は、第二次世界大戦前にみられた封建的な身分拘束等の労働問題に対する根 本的反省に立ったものであり、また、労働力供給超過状態の中で使用者に対して極端 に弱い立場に置かれた労働者が「搾取」を受け易かった状況にふさわしいものであっ た。
 しかし、我が国経済はめざましい発展を遂げ、労働市場も1960年代には先進国型の 労働需要超過基調へ転換し、いわゆる「不完全就業者」の滞留といった問題は解消し た。そうした中で、第二次世界大戦直後に設定された制度と今日の労働市場との間に は状況対応的な姿勢では対処できない懸隔が生じているが、その典型が職業安定法等 に基づく労働力需給調整システムの在り方である。
職業安定法には、「国民の労働力の需要供給の適正な調整を図ること」が政府の行 う業務として定められているが、これは公共職業安定所を始めとする国の機関が行う 職業紹介でなければ、労働力の適正な需給調整とはいえないという発想に基づく規定 である。こうした「職業紹介の国家独占」の考え方は、乏しい人的資源を企業に「配 給」することが求められた時代には一定の有効性を持っていたが、多様なニーズを持 ち、グローバルな変化に応じた動態を示す今日の労働市場にはそぐわないものとなっ ている。
 一方、最低労働基準の保障、未組織労働者の紛争時における救済等、労働市場にお ける市場原理の活用を図る上でむしろ充実強化していくべき分野も存在しており、こ うした点もあわせて労働政策は抜本的な転換を図るべき時期を迎えている。

II具体的提言

1. 労働力供給の拡大及び質的向上の促進

 賃金稼得による所得が増加するとかえって手取所得が減少したり、ある所得層にお いて限界的な手取所得の伸びが抑制的であるといった労働供給制限的な効果を有する 税制・社会保障制度等(給与所得者の配偶者の取扱、在職老齢年金制度における所得 制限・部分年金方式等)については、個々の制度の撤廃も含めて抜本的な見直しを行 い、労働力供給の拡大を図っていく必要がある。こうした改革は、給与所得者の配偶 者及び高齢者において、その就業意欲のみならず職業能力向上意欲にも及んでいるデ ィスインセンティブを除去することとなる。
 特に、給与所得者の配偶者についての所得要件は近い範囲で連動又は重複し、労働 供給行動に総合的な効果をもたらしていることに留意が必要であり、働けば働くほど 夫婦合算した場合の所得が増加するような制度設計への変革は急務である。
 もとより、こうした改革は、税制、年金制度全体の検討の中で多様な選択肢を視野 に置いて行われるべき問題である。また、企業の配偶者手当の在り方は本来、労使間 の協議によって決めるべき問題ではあるが、グローバル化の中でメガコンペティショ ンが進み、企業の国際的な市場価値が問われる時代が到来しつつあることなどを労使 共に認識すべきである。

2.労働者の能力の弾力的活用を促進するための改革

  1. 労働時間制度等の弾力化
    需要側において、労働力の一層の活用を促進するため、以下のような点で労働時間 法制及び労働契約法制を弾力化する。
    第1は、裁量労働制に関する規制緩和である。
    裁量労働制の導入によって、労働者の自主性が尊重されるため仕事の成果が高まり 、効率的な業務の遂行が可能となるため仕事以外の日常生活においても自由度が高ま る。同時に、仕事に関する成果志向が徹底される結果、労働者の仕事に対するインセ ンティブの向上、ひいては企業の生産性の向上に資する。こうしたメリットを広く享 受していくため、裁量労働制の対象業務を企画立案や調査分析を始めとするホワイト カラーの業務一般へ大幅に拡大する。
    現行の裁量労働制は、みなし労働時間制の一つと位置づけられており、時間外労働 、休日労働、休憩及び深夜労働に係る規制の適用について従来の規制をあてはめてい る。この点を改め、自由かつ創造的な業務の遂行を一層促進するため、労使の合意や 対象労働者の同意を要件とする適用除外方式(イグゼンプション方式)を導入する。
    第2は、変形労働時間制の一層の弾力化である。
    1年単位の変形労働時間制は、閑散期に休日を集中的に設定することや繁忙期に労 働力を集中的に投入することを容易にする。しかし、労働日ごとの労働時間の特定に 係る要件は硬直的であり、対象期間中の中途採用者、異なる事業所への配置転換対象 予定者、定年退職予定者等に対しては制度の適用が認められていない。このため、1) 労働日ごとの労働時間の特定に係る要件の緩和、2)1日及び1週間の上限時間の引き 上げ(対象期間にかかわらず1日10時間、1週52時間程度を目途)、3)適用除外の労 働者の季節労働者への限定といった規制緩和を実施する。
    第3は、有期の労働契約期間制限の緩和である。
    期間の定めのある労働契約については、一定の事業の完了に必要な期間を定める場 合等を除き、1年を超える期間について締結してはならないこととされているが、こ の規制が外国人研究者の招聘、経験と意欲のある高齢者の嘱託としての再雇用又は専 門的能力のある契約社員の雇用等、多様な労働契約の可能性を狭めている。
    こうした多様な契約の締結を促進し、能力と意欲のある労働者の活躍の場を広げ、 同時に比較的長期のプロジェクトの遂行等をより円滑なものにするため、期間の上限 を3年ないし5年へ延長すべきである。労働者に退職の自由が保障されている雇用保 障期間として労働契約を締結する者については1年を超える期間の設定が可能と解さ れているが、その場合にも期間の上限規制が心理的障害になっている面があり、こう した解釈を法令上明らかにすれば、障害を取り除く効果が生じる。
  2. 「女子保護規定」の解消
    現在、女性が現実に家庭責任を有している状況等にかんがみ設けられている労働基 準法上の「女子保護規定」は、企業の女子労働力に対する需要を制約し、男女の均等 な取扱の障害となっている。「女子保護規定」のうち例えば深夜業をめぐる規制につ いては看護婦等が行う保健衛生業務、放送番組制作業務等については既に適用除外と されている。しかし、サービス経済化や企業行動のグローバル化の急速な進展の中で その他の多くの産業分野において、高度な分析力、判断力を必要とする密度の濃いプ ロジェクト型の業務遂行が広く行き渡り、専門性を持った女子労働者が深夜業を行わ ざるを得ない局面も増加している。
    労働者福祉を増進する観点から時間外労働の適正化等を図っていくべきことは言う までもないが、かかる取組は性別を問わない労働時間の短縮策として強力に推進され るべきものであり、女子のみを対象とする保護規定はかえって女子労働者の能力発揮 と高度な就業の機会を奪うなど、デメリットが大きい。
    このため、時間外、休日労働、深夜業に関する女子保護規定を解消する。
    なお、性別に関係のない公正な労働条件の確保のためには、「女子保護規定」の解 消の一方で、募集・採用、配置・昇進、教育訓練、福利厚生、定年・解雇等、様々な 面での男女均等な機会及び待遇の確保に向けた取組が必要であり、引き続き一層、男 女雇用機会均等法の実効性を確保するため、様々な立場からの議論を深めていくべき である。

3.労働力需給調整(労働市場におけるマッチング)機能の強化

  1. 有料職業紹介事業に関する規制緩和等
    労働力人口が 6,000万人を超える巨大な労働市場において、「適材適所」の配置を 常に実現するためには、求職者の多様なニーズに即応した有効な職業情報を提供し、 きめ細かく職業相談、職業紹介を実施していくことが不可欠である。
    現行の職業紹介法制において、職業紹介事業は一義的には国家の独占事業とされて おり、民間の有料職業紹介事業は例外的にしか認められていないが、これは既にみた ように法制定当時の労働力供給超過状態の下で労働者保護を図る観点から成されたも のであった。しかし、その後のめざましい経済発展の中で、若年層や専門的・技術的 職業においては労働力不足基調に転じており、全体としても交渉力の弱い労働者に対 する「搾取」の恐れはほぼ解消している。現実には強制労働や中間搾取等の労働事犯 は依然存在するが、それらを取り締まるべきは警察及び司法の任務であり、また労働 市場を「市場」として機能させるにあたって検査・監督機能を適切に強化する必要が あるが、それは労働基準行政の強化等によって担われるべき問題である。
    イギリスやアメリカではそもそも「職業紹介の国家独占」は採られて来なかったこ とに加え、近年、オランダ、スウェーデン、オーストリア、ドイツ等が経済社会の構 造改革の一環として労働市場の活用を進めるため「職業紹介の国家独占」を放棄して いるといった国際的な動向にも留意が必要である。
    このため、1)取扱職業の範囲の原則自由化(ネガティブリスト化)、2)サービスの 多様化・複合化に対応した料金徴収の自由化・多様化(求人者から徴収するサービス 料金額の自由化、求職者からの実質的なサービス料金徴収の容認)、3)許可要件の緩 和、許可等の手続の簡素化・明確化といった規制緩和を実施する。
    なお、国による職業紹介事業自体は、以上によって何ら否定されるものではなく、 むしろ国民への最低限のサービスを提供する役割を担った必要不可欠な存在として考 えられるべきである。しかし、国による職業紹介事業が必要不可欠であることは、職 業紹介の国家独占を正当化する根拠となるものではない。
    また、有料職業紹介の自由化は使用者のみを利し、労働者を不利な立場に追い込む ものであるという見方があるが、それは逆である。労働者は、使用者に比べて労働市 場における情報が不足しているが故に不利となることが多く、就業可能な職場に関す るきめ細かい情報を入手できれば、使用者に対する交渉上の地歩が強まり、ひいては その待遇の改善に資することは明らかである。
    さらに、情報化の進展に伴い、コンピューターネットワーク上において、個別求職 ・求人情報の提供が行われるという状況が新卒労働市場等において生まれつつある。 今後は、ネットワーク上の求人情報をみて転職の可能性を探る在職求職者等も増加し よう。しかるに、ネットワーク上における情報の流通に関しては、多様な情報が瞬時 に得られる反面、現実面での担保の無い情報が氾濫することや個人のプライバシーが 侵害されることなどが危惧される。こうした危険性を除去し、公正な取引と安全を確 保していくためには、利用者から料金を徴収して個別の情報を個別の利用者に提供す る事業者を広く認め、その理解と協力の下、「ネッ職」労働市場の公正と安全を担保 する新しいシステムを構築していくべきである。
  2. 労働者派遣事業に関する規制緩和
    労働者派遣は、マクロ的には労働力の稼働率を高めることに貢献する。また、個々 の派遣先企業にとっても、労働者派遣の活用は、必要に応じた人材の活用に道を開き 、「固定費」の節減に資する。また、ベンチャー企業が創業時に派遣労働を活用する ことを可能にするため、そうした企業の育成、ひいては経済全体の活性化にも資する 。さらに、就業意識が多様化する中で、労働者派遣により就労することを希望する労 働者も増加しており、労働者派遣事業をめぐる規制を緩和していくことは、潜在的な 就業意欲を持つ者に実際の就業機会を与える効果も有する。
    また、現行法制においても建設、警備等の業務はネガティブリストとして列挙され ており、労働者保護にもとる蓋然性の高い業務をこれに追加する方式を採ることが可 能であることにも留意し、適用対象業務を原則自由化(ネガティブリスト化)する。 また、一般労働者派遣事業の許可要件の緩和、許可等の手続の簡素化・明確化を行う 。

4.ホワイトカラーの自己啓発等支援政策

 これまでの我が国の職業能力開発システムは、対象者としてはブルーカラーを、ま た方式としては企業等の組織を活用したOJTやOff-JTを、そして教育訓練の背 景にある雇用システムとしては新卒一括採用、長期雇用、年功的処遇等の「ストック 型雇用」を、それぞれ理念形として発展し、大きな成果をあげてきた。
 しかし、今後の職業構成についてはホワイトカラー化の一層の進展が見込まれ、労 働者は自らのキャリアへの関心を強めており、雇用システムについても通年採用の導 入や年功賃金の見直し等の変化が生じつつあり、産業構造の変化に伴う転職も増大し て「フロー型雇用」が一般的になっていくものと考えられる。
 今後、労働を通じて高い付加価値を創出することが求められる中で、その鍵を握る のは、自律的な判断業務に携わるホワイトカラーにふさわしく、同時に「フロー型雇 用」に見合った自己啓発という形態の普及促進が図られるか否かという点である。
 そのための方策として第1に、個々のホワイトカラーの知識・技能や経験等を客観 的に分析するシステムを開発すれば、分析結果に則ったきめ細かなキャリアカウンセ リング等を実施することが可能になる。また、ホワイトカラーの職業能力を外部労働 市場で客観的に評価する尺度を広く社会的に定着させていくことができれば、「フロ ー型雇用」の時代にあって外部労働市場で転職求職者の職業能力を客観的に評価する ことや、企業に対する個々の労働者の貢献度を適切に評価することが容易になる。こ の点で現行の「ビジネスキャリア制度」の一層の活用も必要である。
 第2に、フレックスタイム制の活用、時間外労働の適正化、有給教育訓練休暇制度 の普及促進、職業生涯の節目ごとに付与される長期休暇制度の導入促進等により、多 くの労働者が自己啓発の障害としてあげる就業時間面での問題を解決する。こうした 改革の具体策として、労働者の自発的能力開発を促進する奨励金制度等の創設等は重 要な課題である。 第3に、職業能力を高める目的で自己啓発投資を行う労働者の投 資経費について、所得税制上の控除を行えば、税に対する人々の関心が高いこともあ って、その効果が広範に及び政策の実をあげることが可能となり、また、働き盛りの 労働者の人的投資にかかる機会費用も含めた高いコストを個人、企業及び国の税制と いう三者により分担することも可能となる。さらに、この優遇税制は直接的には税収 を減少させるが、教育訓練事業者の生産の拡大に資するとともに、長期的にみれば国 民の生産力を向上させ、むしろ税収の増加に寄与するものである。
 こうした観点に立って、現行の給与所得控除との関係の整理や自己啓発の必要性の 判断基準に関する検討等を進めることは喫緊の課題である。


第6章 医療・福祉

I 基本的考え方

 21世紀に向かって、少子化、高齢化が進む中で、医療・福祉はますます重要な分野 となる。少子化のスピードは加速しており、少子・超高齢社会への歩みは、これまで の予測を上回るペースで進んでいる。高齢化の進展の中でも、75歳以上の後期高齢者 数が医療・福祉分野では大きな意味を持つが、高齢者人口のうち後期高齢者の占める 比率は、今後急激に上昇すると予想されている。このまま推移すれば、医療・福祉費 は21世紀に入り、さらに速度を速めて増加が予想される。
 少子・超高齢社会の到来を目前に控え、医療・福祉分野について、現状をチェック し、その効率的なサービスの提供を目指していくことが今や喫緊の課題である。
 医療・福祉制度は、各国ごとに大きな差がある。文化的・歴史的相違を反映して、 社会保障制度に対する考え方には違いがあり、所得に占める国民医療費の比率もいか なる制度を持つかによって異なり得る。我が国の医療・福祉制度改革の検討に当たっ ては、このような諸外国の動向を踏まえることも重要である。

(医療・福祉サービスの効率化と民間活力の導入)
 医療・福祉費の増大が確実視される中で、医療・福祉においては、そのコスト構造 の効率化を進める必要がある。しかし現在は、あらゆる診療行為や薬に公定価格が決 められているため、計画経済にも似た資源配分の失敗が大なり小なりあると考えられ る。これを改めるためには、公定価格制そのものを廃止するか、公定価格の決定プロ セスをより一層透明化し、国民に理解を得た資源配分の決定システムを構築しなけれ ばならない。
 また、医療・福祉分野の制度改革に際しては、民間企業の経営手法を採り入れるな ど、可能な範囲で新たに一層の民間活力の導入を図り、市場メカニズムを機能させて いくべきである。これは、1)現段階の我が国では、画一的な医療・福祉サービスを提 供するよりは、市場メカニズムを活用した多様なサービスが求められていること、2) 高齢化が進展する中で、市場の競争を強めて、より安価な医療・福祉サービスが提供 される必要があること、3)今後期待される技術革新の成果が医療・福祉分野にも幅広 く波及していくためには、基本的には民間主体の利潤動機を活用すべきことであるこ と、による。但し、人が生きていく上で最も基礎的なニーズを満たす医療・福祉につ いては、弱者に対する配慮が必要であり、「実験的」な制度改革とならぬよう十分な 留意が必要である。

(国民への情報開示苟I択肢の提供)
 医療・福祉の分野には、社会保険や税金という公費が大規模に投入されている。そ れだけに、この医療・福祉費については、1)国民から見て透明な制度であり、かつ、 2)国民が議論と決定に参加できる制度に改革することが重要である。負担と給付の水 準とその内容を決定するのは国民であり、今後の負担増に備え、国民に正しい情報と 議論の場を提供する必要がある。

II具体的提言

1.医療

 我が国では、要介護の高齢者が、福祉施設(特別養護老人ホ-ムなど)ばかりでな く、医療施設(老人病院など)でも介護を受けている。入院治療の不要な高齢者が、 病院で暮らしていることを、「社会的入院」と呼ぶ。この「社会的入院」の歪みは、 医療施設の方が倍近いコストがかかる一方、居室面積が福祉施設より狭いことに端的 に現れている。こうした医療偏重の巨額な無駄が続いていることの背景の一つに、医 療施設(老人病院)は主に保険(社会保障費)で賄い、福祉施設(特別養護老人ホー ム)は主に税金で賄っていることが挙げられる。今後、国民医療費の高騰を防ぐに当 たっては、財源論にまで踏み込んだ議論が不可欠であり、そのためにも医療・福祉制 度の情報開示、透明化が必要である。 また、現行の診療報酬制度の在り方について も、それが医療偏重を可能とし、社会的入院等の背景となっているという問題点を抽 出すると同時に、その見直しが必要である。
 以上のような観点から、具体的には以下のような措置が必要である。

  1. 診療報酬制度の在り方について
    診療報酬制度について、次のような措置を講ずる。
    1. 診療報酬制度の透明化のための中央社会保険医療協議会(いわゆる「中医協」 )の見直し
      27兆円にも上る国民医療費の資源配分を左右するのが、診療報酬点数と医療用 医薬品、特定保険医療材料の価格を厚生大臣が諮問する中央社会保険医療協議会 である。この中医協での議論の透明化のため、詳細な議事録の公開が求められる 。また、メンバー構成が長年にわたって定席と化しているとの指摘もあり、現在 の我が国社会を正しく反映し、代表したものに見直す。
    2. 医療機器の輸入販売に係る高額な診療報酬の是正
      海外の約3倍の値段で納入されている医療機器の存在が指摘されるが、このよ うな内外価格差の是正のためには、流通慣行の見直しとともに、こうした高額販 売を可能としている診療報酬を是正する。
      なお、この点について、厚生省より、こうした内外価格差の解消のためには、 市場競争を促進することが必要であり、1)医師の個人使用の場合に限定されてい る個人輸入について、輸入手続の簡素合理化を検討すること、2)並行輸入の促進 のための具体的方策について検討を進めること、3)価格形成の透明化、輸入業者 、流通業者の取引の適正化など、流通慣行の合理化に取り組むこと、という措置 が発表されている。診療報酬の是正も含め、今後の早急な実施が期待される。
  2. 民間活力の導入等による医療機関の効率化
    医療費の効率化を進めるためには、民間企業の経営手法を採り入れるなど、適切な 民間活力の導入等による医療機関自体の効率化を促す仕組みを整備する。
  3. 遠隔診療を可能とするための規制の緩和
    情報通信技術のめざましい進展を医療分野に応用することにより、遠隔地からの専 門医の所見の導入が可能となっていることを受けて、医療分野においては、医師法の 対面診療原則を緩和する。
    なお、この点については、厚生省において、初診時を原則として除き、遠隔診療を 認める旨の医師法の解釈通知を出すことが既に検討されており、早期の実施が期待さ れるところである。
  4. カルテの共用化を進める一方、患者がカルテの内容を知ることを保障すること
    重複検査を排除するための方策として、医療機関を超えたカルテの共用化を進める 。一方、患者が自らの診療方法を自己決定する前提として、自ら望む場合、カルテの 内容を知りうることを制度的に保障する。

2.医薬品

 処方薬の公定価格を決める薬価基準制度の存在が不適切な薬価差益を生む要因にな っており、これが医療を受ける国民の大きな負担となっている。薬価差益に病院経営 が依存せざるを得ない状況が存在する一方、国際競争力を持たない我が国医薬品業界 は行政への依存体質が強く、そうした病院、医薬品業界、行政の三者間関係が過度の 薬漬けや薬害を引き起こしているという懸念が指摘されている。また、研究開発が、 質より量の同種同効に偏している。この結果、世界には通用しないが日本国内では高 い薬価が付けられる「ゾロ新」と呼ばれる新薬を多数開発するために莫大な研究開発 費が投じられている。
 こうした中で、我が国の医療用医薬品は、1)薬価が高く、同効種ならばより高額な 薬が選ばれることが多いこと、2)欧米では有効性や新規性に乏しいという理由で新薬 として承認されないものが承認されること、3)欧米の医薬品メーカーに比べて国際競 争力が格段に劣ること、4)薬害が絶えないこと、5)薬価の決定が不透明であること、 6)流通段階に前近代的な部分が残っていること、といった特徴を持つに至っている。
 こうした認識を踏まえ、以下の措置が必要である。

  1. 新薬承認基準の見直し
    過去の薬価引下げの結果、多数の「ゾロ新」を市場に送り出すという結果を生じ、 医療費も医薬品市場も拡大してきた。こうした状況を是正するため、診療報酬の在り 方や新薬承認基準の見直しを図る。
  2. 薬事行政の透明化
    上述した医薬品開発に係る非効率性が温存されている背景としては、国民に対し、 十分かつ詳細な情報が提供されず、チェック機能が働いていないことが挙げられる。 そこで新薬承認手続や薬価の在り方について、国民に詳細な情報を提供する必要があ る。
  3. 医薬品流通の適正化
    医療用医薬品の流通においては、卸と医療機関の間に納入価格が決まっていないに もかかわらず医薬品を納入するという「未妥結・仮納入」が長期間継続することや文 書による契約の締結率が低いこと等といった前近代的な商慣行が残っている。多品種 にわたる医薬品の流通をつかさどる卸機能の健全化や書面(約款)による取引の促進 を通じ、自由かつ公正な価格形成が行われるよう医薬品流通の早急な改善を図る必要 がある。

3.福祉

 我が国の福祉はとても十分とは言えない。福祉の役割を医療が担い、残りの多くは 家族の役割とされてきた。福祉分野は民間マーケットの拡充が期待されており、その 意義を経済的にも積極的に評価すべきである。
 しかし、民活の推進が叫ばれているにもかかわらず、民間福祉のシェアは期待され るほど上昇していない。また、民間福祉に関わる消費者被害が頻発しており、唯一産 業として離陸した有料老人ホームは、倒産の不安と質に対する不信感が増大している 。こうした民間福祉の発展が阻害されてきたことについては、福祉サービスの品質保 証が、シルバーマーク制度等の業界の「自主規制」に任されてきたこともその一因と なっている。現状の業界の自主規制は、1)需要者たる消費者が安心してマーケットに 参加する基本的なルールとして機能していない上に、2)供給者たる民間事業者に対し ては、マーク取得業者に利益を保障し、多種多様な機器・サービスを提供する意欲の ある事業者の新規参入の大きな障壁となっている。
 こうした認識を踏まえ、以下のような措置を講ずる必要がある。

  1. 特別養護老人ホームの拡充・民間企業による施設介護サービスの提供
    公的福祉については、特別養護老人ホームの拡充が急務である。社会的入院の解消 とは、病院から要介護の高齢者を退去させる手法ではなく、福祉施設の増床によるべ きである。
  2. 公的福祉における規制の緩和
    特別養護老人ホーム等の設置に多くの要望があるにもかかわらず、国の補助決定が 、厚生省の通達、内部規則等により厳しく制限されているため、その設置が遅々とし て進んでいないと指摘されている。こうした過度にわたる制限を撤廃し、必要な公的 福祉の拡充を急ぐべきである。
  3. シルバーマークの撤廃
    シルバーマーク制度は、業界団体である社団法人シルバーサービス振興会が、国が 定めたガイドラインを受けて、具体的にサービスの基準を定め、これに適合すると認 められる事業者に対してマークを交付する制度である。
    このシルバーマーク制度については、1)行政に代わって公益法人が規制を行ってい るという問題点、2)業界団体(シルバーサービス振興会)が排他的に認定しており、 参入規制につながる懸念、3)社会保険庁の政管健保在宅介護支援等事業の対象業者と いった公的な恩恵の独占、などの問題点が指摘されている。
    こうしたシルバーマーク制度について、厚生省は、民間の実施しているマークを国 が推奨し、結果として民間事業者の参入の妨げになっているという指摘のある当該指 導については、廃止することを検討している。また、福祉サービス事業者を評価し、 その結果を表示する民間団体は複数存在しても差し支えないものと考え、行政庁とし てそうした民間の自主的活動に対し関与すべきではないと考えていると発表されたと ころである。
    こうした取組の方向性は評価できるものの、経営側からは自己に不利益な情報が開 示されないことと、参入規制やカルテル行為の温床になりやすいことから、現行のシ ルバーマーク制度を撤廃し、新規参入や自由な価格競争が行われるような環境の整備 を行う。
  4. 民活の推進と消費者保護
    民間事業者の福祉マーケットへの参入を促進するに際しては、民間福祉においては 、市場に参加する経営側と消費者側との情報の非対称性(圧倒的な優劣)が存在する ことに留意する必要がある。
    このため、情報開示や約款の統一化といった消費者保護の最小限の公的なルール作 りを行うことによって、高齢な消費者が安心して市場に参加できるようにする。