「アジア経済1996」について

公表にあたって

経済企画庁では、昨年7月に、アジア経済の動向をとりまとめた初めてのレポート として、「アジア経済1995」を公表しました。このレポートのねらいは、ダイナミッ クに成長するアジア経済を、縦軸(過去10年の動向及び今後の展望)と横軸(各国・ 地域経済を比較)の両面からとらえて、総合的に理解できるようにする点にありまし た。「アジア経済1995」は、予想以上の反響をいただき、多くの読者の方々に読んで いただきました。
今回、昨年に続く第二回目のレポートとして、 「アジア経済1996」をとりまとめま した。今年のレポートでは、アジア経済の最新の動向について広範かつ詳細に調査分 析するとともに、APEC(アジア太平洋経済協力)、AFTA(ASEAN自由貿 易地域)等のアジアを巡る地域経済協力の新たな展開についてもまとめています。ま た、各国の経済情勢等の分析の他に、昨年は、クルーグマン教授(スタンフォード大 学)の「東アジアの成長限界説」が大きな関心を呼んだことを受け、東アジアの成長 は持続性を持っているとの分析を行いましたが、今年は、アジアで最近活発化してお り、新たなビジネス・チャンスの拡大として注目を集めている民活インフラの問題を とりあげています。
調査対象国・地域としては、昨年とりあげた中国、NIEs(韓国、台湾、香港、 シンガポール)、ASEAN(インドネシア、タイ、マレイシア、フィリピン、ベト ナム)、インド、北朝鮮、ロシア極東、オーストラリア、ニュージーランドに、ミャ ンマーとパキスタンを新たに加え、計17カ国・地域をとりあげています。
「アジア経済1996」の特徴としては、次のような点があげられます。

  1. アジア地域のマクロ経済の動向について、1.過去10年の展開、2.現状、3.今後の展望を、体系的に分析・評価しています。
  2. マクロ経済動向に加え、貿易、直接投資、為替レート、財政金融の最近の動向を分析しています。また、貿易・投資については、日本との関係も整理しています。
  3. アジアの民活インフラが活発化している背景、現状、今後の課題について、多面的に検討しています。
  4. アジア問題や経済問題の専門家以外の一般読者にも、わかりやすい内容になるよう記述しました。また、各国・地域の動向を比較しやすいよう、共通の様式でまとめています。
  5. 長期にわたる比較統計がとりにくいアジア各国・地域の60年代以降の主要経済指標 などの参考資料を掲載しました。

このレポートが、アジア経済の動向を理解するための一助となれば幸いです。


「アジア経済1996」の概要

第1章

【成長と物価安定化の95年アジア経済】

  • 95年のアジア経済は、総じて高水準の成長が続く中で物価上昇率は低下しており、経済パフォーマンスは改善している。
  • アジア全体の経済成長率は、94年の8.4%から95年は8.0%となり、やや減速しつつも高水準の成長が持続している。中国が過熱経済の引締めから、成長が鈍化した。一方、成長が加速した国には、インドネシア、ベトナム、ミャンマー、パキスタンなどがある。
  • アジア全体の消費者物価上昇率は、94年の11.5%から95年は9.3%へと低下し、2年ぶりに一桁の上昇となった。シンガポールやマレイシアでは高成長にもかかわらず、上昇率は1~3%台で安定している。中国、ベトナムでは依然二桁の上昇となっているものの、上昇率は低下してきている。
  • 95年のアジア諸国の中では、シンガポールが経済成長(8.8%)と物価安定(1.7%)の面で、最もパフォーマンスが良かった。
  • アジア全体の経常収支は、赤字幅が94年の43億ドルから95年には116億ドルへと 2.7倍に拡大した。中国の黒字が拡大したものの、ASEAN諸国やインドの赤字拡大が、アジア全体の経常収支赤字の拡大をもたらした。

【アジア経済の96~97年見通し】
  • 96~97年のアジア経済は引き続きやや減速し、7%台の成長が見込まれている。中 国や韓国では成長が減速し、ASEAN諸国ではほぼ横這いとなり、南アジアでは加速すると予想される(図表1)。
  • 物価上昇率は、引き続き鈍化するものとみられる。アジア全体の経常収支は、中国 の黒字の大幅縮小から、赤字幅の拡大が見込まれるが、シンガポールの経常収支は、GDP比16~17%の高水準の黒字が続くものと見込まれる。

図表1 96年のアジアの経済成長率見通し

図表1

【高成長を支える貿易と投資】
  • アジアの財貿易をみると、輸出(実質)は94年14.1%増、95年13.6%増と高水準の伸びが続いている。アジアのサービス貿易額は、94年までの10年間で4.3倍に拡大し、 特に90年代に入って財貿易の伸びを上回っている。NIEs諸国のサービス貿易における競争力が高まってきており、貿易額で世界の20位以内にランク入りしている。
  • アジアへの直接投資は、94年には80年代前半と比較して10倍以上の規模となっている。94年には世界の直接投資受入れの4分の1強のシェアをアジアが占めている。 NIEsやASEAN諸国では、ハイテク産業やサービス業への投資が大きく伸びている。

【新たな進展をみせる地域経済協力】

  • アジアを取り巻く地域経済協力は、大きな進展をみせている。
  • 1.APEC(アジア 太平洋経済協力)では、95年の大阪行動指針に基づいて、96年に貿易・投資の自由化のための「行動計画」を各国・地域が作成する。
  • 2.ASEANでは、AFTA(ASEAN自由貿易地域)の関税引き下げ目標を、当初の2008年から2003年に前倒しで実施する。
  • 3.ASEM(アジア欧州会合)が、これまで関係の弱かったアジアとヨーロッパの間(貿易・投資)の協力推進のため、96年3月に初めて開催された(図表2)。

図表2 アジアを取り巻く地域協力
図表2

第2章

第2章では、中国、韓国、台湾、香港、シンガポール、インドネシア、タイ、マレ イシア、フィリピン、ベトナム、ミヤンマー、インド、パキスタン、北朝鮮、ロシア 極東、オーストラリア、ニュージーランドの17か国・地域についてそれぞれの経済 動向を、1.最近の経済情勢と見通し、2.貿易・直接投資の動向、3.各国別の特徴的な 経済的動きに焦点をあてた「トピック」の3項目に分けて共通に分析している。また 、各国経済の10年というコラムを設け、中期的な経済動向について分析している。 各国の冒頭には、地図や人口、主要な経済的事歴等、基礎的な指標を共通の形式で整 理しており、一目でその国の概要が把握できるようになっている。

第3章

【民活インフラの活発化】

  • アジア諸国が高成長を続けるには、膨大なインフラ投資が必要である(図表3)。世界銀行によれば、2004年までの10年間に東アジアで必要なインフラ投資額は1.3~1.5兆ドルにのぼり、 GDP比では6.5~6.8%と、日本の高度成長期(GDP比5%台半ば)よりも高い。
    図表3
  • 近年アジア諸国では、政府に代わって民間企業がインフラ事業の資金調達、建設、操業を行うことが増えている。フィリピンの場合、発電容量に占める民間のシェアが、 91年の0%から98年には80%に達するとの予測もある。民活インフラの拡大は、民間企業にとって大きなビジネス・チャンスである。

【民活インフラ拡大の背景】

  1. 膨大なインフラ需要を、アジア諸国政府の財政負担によって満たし続けることは難しい。
  2. 民間企業がインフラを供給する場合の「市場の失敗」(自然独占やただ乗りなどの問題)が現実にはあまり大きくないと考えられるようになってきた一方、政府がインフラを供給する場合の「政府の失敗」(非効率な事業運営等)が注目されてきた。
  3. 国際資本移動の自由化により、先進国の資金が途上国に投資されやすくなった。

【「政府がリスクを多くとる時代」から「民間がリスクを多くとる時代」へ】

  • インフラ事業には、多様かつ大きなリスクが存在する。リスクをいかに低減・分担するかが事業成立の最大の鍵である。民活インフラでは、プロジェクト・ファイナンスという手法 (将来の事業収入と事業資産を担保に、当該プロジェクトのために設立した法人の名義で借入れを行い、親会社が基本的に債務を保証しない方式)でリスク管理が行われている。
  • アジアの政府は、先駆的な案件ではリスクを多くとったが、最近リスク回避指向を 強めている。これは、企業の参入意欲の高まり等を反映した自然な流れであり、 また、政府がコマーシャル・リスクを回避することは、将来の財政負担の拡大を避ける上で望ましい。

【アジアと先進国の政府・日本企業の今後の対応】

  • アジアの政府の対応としては、1.許認可手続きの透明化等の制度整備、2.投資家の 為替リスク軽減のための国内資本市場育成、3.全国的計画と個別案件との調和、等が重要である。
  • 先進国政府の対応としては、1.民活インフラの枠組み作りへの知的貢献、2.民活インフラ施設の周辺施設や、民間資金で賄えない事業への援助資金の重点配分、 3.公 的金融機関等がプロジェクトに関与することで、プロジェクト全体のリスクを低減 すること、が重要である。・日本企業がアジアの民活インフラの潜在的なビジネス ・チャンスを活かするためには、1.経営者や社員の報酬体系を、従来の年功序列制 から変革することにより、サラリーマン的な行動様式を企業家的行動様式へ変える こと、2.日本国内のインフラ事業にもっと競争原理が導入され、民間企業がインフ ラ事業の経験を蓄積できる環境が作られること、が必要である。

●「アジア経済1996」は、政府刊行物サービスセンター及び大手書店にてお求めになれます(定価1500円)。
●なお、本件についてのお問い合わせは、経済企画庁調査局海外調査課あてご連絡ください。
問い合わせ先 電話番号 03-3581-0056
内閣府 Cabinet Office, Government of Japan〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1
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