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第3節 コンパクトシティの形成へ向けて

これまでにみたように、医療のような基礎的サービスであっても、人口密度の低い地域では過少になる傾向にあり、車で移動のできない高齢者等の交通弱者が日常生活を送るうえでの困難が懸念される。また、効率的な行政の遂行のためには、より高密度の居住による人口密度の上昇が求められている。こうしたことから、今後急速な人口減少・高齢化の進展が見込まれる中で、市町村では、中心部へのより集中した居住と各種機能の集約等により、高齢者等が徒歩で生活できるようなコンパクトシティの形成が不可欠であると考えられる。

このため、ここでは、コンパクトシティの概念と目的について改めて整理した上で、DIDにおける集積の状況の分析を行う。また、2006年に改正された中心市街地活性化法に基づき策定された中心市街地活性化基本計画を有する市の人口集積の状況について分析を行った上で、中心市街地活性化基本計画の実施結果について概観し、コンパクトなまちづくりについて考える。

なお、本節における分析では、DIDが中心的な役割を果たす。人口集中地区であるDIDは、人口密度が4,000人/km2以上の国勢調査の調査区(居住世帯数がおおむね50になる区域)が互いに隣接して、それらの隣接した地域の人口が5,000人以上となる地域のことである。2010年の国勢調査の結果では、全国1,728市町村の約48%に当たる829市町村で、1,319地区が設定された。多くの市町村では、中心市街地等の中心部を含む高密度人口の地域が唯一つのDIDとして設定されているが、合併市町村等では、旧市町村の中心部を含む、複数の高密度人口の地域が異なるDIDとして設定されていることもある。

今後、人口減少が進む中で人口を集積させることの重要性が増していくものと考えられるが、その際には、低密度人口の地域ではなく高密度人口の地域、即ちDIDへの人口の集積を考えることが合理的である。こうした観点から、本節では、DIDを中心に据えた分析を行う。

1.コンパクトシティの概念と目的

コンパクトシティの概念や目的については、現状では、必ずしも万人共通の理解として定まったものはないように見受けられる。例えば、黒田・田淵・中村(2008年)では、郊外の開発を抑制し、より集中した居住形態にすることで、周辺部の環境保全や都心の商業などの再活性化を図るとともに、道路などのハードな公共施設の整備費用や各種のソフトな自治体の行政サービス費用の節約を目的としているとされている。

一方、山崎・西野・岩上(2004)では、都市の構造分析手法を用いたコンパクトシティの検討により、我が国の都市のコンパクト化は、通勤通学等行動圏域の広さでなく、DID人口密度やDID人口の総人口に占める比率等の指標により測られる空間構造により定義されることが示されている。そこで、ここでは、これらを踏まえ、コンパクトシティの形成の概念と目的について、以下のように整理する。

市町村がコンパクトであることは、DID人口密度が高いことにより定義され、コンパクトシティの形成とは、市町村の中心部への居住と各種機能の集約により、人口集積が高密度なまちを形成することである。コンパクトシティの形成は、機能の集約と人口の集積により、まちの暮らしやすさの向上、中心部の商業などの再活性化や、道路などの公共施設の整備費用や各種の自治体の行政サービス費用の節約を図ることを目的としている。

2.人口集中地区における集積

これまでに、政令市や県庁所在市等への人口と事業所の集中は依然続いていること、また地域ブロックにおいて、人口の集中度が高いほど、労働生産性は高い傾向にあり、その1つの要因として集積の経済が考えられることをみた。ここでは、そのような結果をもたらしたと考えられるDIDにおける人口集積の進捗状況について分析を行う。

(各都道府県内でのDID人口の比率は総じて上昇)

第3-3-1図は、都道府県における、全人口に占めるDID人口の比率をみたものである。2010年の水準でみると、政令市のある都道府県のほか、沖縄県では約60%以上となっており、これらの都道府県ではDIDへ人口の集中度が高いことがわかる。

2000年から2010年にかけて、DID人口の比率がどう変化したかをみると、岩手県、富山県、山梨県、岐阜県、和歌山県、島根県、香川県で、横ばいあるいは低下していることを除けば、各都道府県とも総じて上昇している。しかし、この事実は、都道府県内でのDID人口が増加していることを必ずしも意味しない。次に、この点についてみてみよう。

(東京都、神奈川県等13の都県を除く道府県では低下しているDID人口密度)

第3-3-2図は、都道府県におけるDIDの人口密度の推移をみたものである。2000年から2010年にかけて、DIDの人口密度は、東京都、神奈川県等、南関東の都県のほかは、栃木県、愛知県、滋賀県、兵庫県、岡山県、広島県、徳島県、福岡県、沖縄県でのみ上昇しており、その他の道府県では低下している。それらの道府県では、DID人口の比率が上昇しているにもかかわらず、DIDの人口密度は低下し、DIDにおける人口の集積度は低下していることがわかる。こうしたDIDの人口比率の上昇とDIDの人口密度の低下の両立の背景には、非人口集中区(以下非DIDと略記)の人口減少の進展があるものと考えられる。

(2010年では、全域の人口が減少している都道府県で低下しているDID人口密度)

第3-3-3図は、1995年から2000年と2005年から2010年にかけての、各都道府県の全域における人口増減率とDID人口密度変化率をプロットしたものである。

2つの時点とも、ほぼ同じ傾きを示している点では共通しているが、回帰直線は、2010年ではほぼ原点を通る直線であるのに対し、2000年では、原点から1%程度下方にシフトしたものとなっている。

このグラフでは、全域における人口増減率とDID人口密度変化率の間で正の傾きとなる場合、回帰直線の切片が原点より上にあれば、全域の人口がわずかに減少していてもDID人口密度は上昇しているため、切片が原点より上にあることはDIDへの人口集積の進展を意味する。一方、切片が原点より下にあれば、全域の人口がわずかに増加していてもDID人口密度は低下しているため、切片が原点より下にあることはDIDから非DIDである外延部等への人口の拡散を意味する。したがって、次のようなことが、第3-3-3図からわかる。

2000年の時点では、回帰直線の切片が原点より下にあり、都市の外延化の全国的な進捗が示唆されている。一方、2010年の時点では、回帰直線がほぼ原点を通っており、平均的な姿としては、DIDから外延部等非DIDへの人口の拡散も、非DIDからDIDへの人口の集積も起きていない状況にあると考えられる。この結果、2010年の時点では、総じてみれば、全域の人口が減少している都道府県は、DID密度が低下している都道府県という関係が成り立っている。

(人口密度が高いほど、人口増加率が高い都道府県のDID)

第3-3-4図は、都道府県DIDにおける、2000年における人口密度と2000年から2005年にかけての人口増減率、及び2005年における人口密度と2005年から2010年にかけての人口増減率とをプロットしたものである。

2時点とも正の傾きの回帰直線となり、各都道府県のDIDでは、人口密度が高いほど、人口増加率は高いという関係にあり、DID人口密度の高い都府県と低い道県との間のDID人口密度の格差は総じて拡大する傾向にあることがわかる。このことは、前図において、2005年から2010年にかけて、東京都、神奈川県等、南関東のほか、愛知県、滋賀県、福岡県、沖縄県など、DID人口密度の高い都県ではDID密度が上昇している一方、青森県、秋田県、山形県、福井県、和歌山県、山口県など、DID人口密度の低い県ではDID密度が低下していることにより、確認される。

(2010年にかけては、静岡市と北九州市を除く18の政令市のDIDで人口増加)

第3-3-5図は、政令市のDIDの人口増減率である。2010年にかけては、静岡市と北九州市を除く18の政令市のDIDで人口は増加しており、各地域ブロックの政令市では人口は増加している。

(2010年にかけては、都市部のほか、中枢的政令市で人口集積が進展)

第3-3-6図は、2000年と2010年における、東京23区と政令市のDID人口密度である。2000年から2010年にかけては、さいたま市、新潟市、静岡市、浜松市、京都市、堺市、神戸市、北九州市、熊本市を除く、東京23区と政令市のDIDでは密度が上昇しており、首都圏、名古屋圏、大阪圏のほか、各地域の成長を支える中枢的政令市で人口集積が進んでいる。

(2005年における政令市のDIDでは、人口密度が高いほど大きな人口増加率)

第3-3-7図は、政令市のDIDにおける、2000年における人口密度と2000年から2005年にかけての人口増減率、及び2005年における人口密度と2005年から2010年にかけての人口増減率をプロットしたものである。2005年の時点では、正の傾きの有意性がみられ、DIDの人口密度が高いほどDIDの人口増加率が大きいという関係にある一方、2000年の時点でそうした関係がみられないのは、全国的には都市の郊外化が進展していたためであると考えられる。

(都道府県、政令市ともに、DID人口密度の上昇により高まる労働生産性)

第3-3-8図第3-3-9図は、都道府県と政令市のDID人口密度と労働生産性の対数値の関係をそれぞれみたものである。都道府県、政令市ともに、2時点で、正の傾きがみられ、都道府県でも、政令市でも、DID人口密度の上昇、すなわち人口の集積度の上昇により労働生産性が高まる傾向にあることがわかる。

このことは、政令市等の都市においては、人口の集積度の上昇に伴い、人口規模に応じて規模の経済が働くとともに、企業間の地理的近接性の上昇が、アイデアや情報、技術知識の交換を通じたイノベーションを促進することにより、集積の経済が発現し、都市全体の生産性が高まる可能性を示唆している。

コラム 東京23区においても、人口の集積の進展度が高い区ほど、高い事業所密度上昇率

第1図は、東京23区の事業所密度をみたものである。水準を比較すると、2時点とも、中央区で最も高く、千代田区、台東区の順で続いている。2001年から2009年にかけての推移では、港区と品川区でのみ上昇している。

第2図は、23区のなかで事業所密度の高い6区について、23区の構成比を基準とした14業種の特化係数をみたものである。渋谷区と台東区を除く、4区、とりわけ千代田区では、情報通信や金融・保険のほか、都市における経済活動を支えるソフトインフラともいうべき、オフィス向けサービスを供給する、学術・専門サービスとその他サービスで、特化係数の水準が高くなっており、これらの4業種は事業所の集積を高める上で重要な業種であることが示唆されている。一方、台東区では、特化係数の水準が、卸・小売や製造業で他の5区より高くなっており、問屋街を有し、工芸品や皮革製品づくりが盛んな地域という特性が現れている。

第3図により、2001年から2009年にかけての、DID人口密度と事業所密度の増減率の関係をみると、近年人口増加が著しい中央区を除いた回帰では、有意に正の傾きがみられ、総じて事業所密度が低下している東京23区においても、人口の集積の進展度が高い区ほど、事業所密度の上昇率が高いことが示されている。

3.中心市街地活性化とコンパクトシティ

(1)計画策定市における現状の評価

(基本計画策定が直ちに人口密度の低下の緩和には結びつかない状況)

第3-3-10図は、2006年に改正され、コンパクトシティ形成への支援措置が拡充された中心市街地活性化法に基づき中心市街地活性化基本計画の認定を受けた107市のうち、98市について、1995年から2000年と、2005年から2010年にかけてのDID人口密度変化率をプロットしたものである。

2時点でのDID人口密度変化率の符号により、グラフの領域を4つの象限に分けると、第I象限(2000年、2010年ともにプラス)には9市(9%)、第II象限(2000年マイナス、2010年プラス)には10市(10%)、第III象限(2000年、2010年ともにマイナス)には54市(55%)、第IV象限(2000年プラス、2010年マイナス)には25市(26%)がそれぞれ含まれている。

2時点のDID人口密度変化率がともにプラスの第I象限内には、首都圏内の千葉市、柏市や首都圏に通勤可能な高崎市のほか、名古屋圏内の東海市、関西圏内の伊丹市、福知山市、宝塚市等、3大都市圏の通勤圏内の市が大多数を占めている。

一方、2時点のDID人口密度変化率がともにマイナスの第III象限内では、県庁所在市である青森市、甲府市、岐阜市、富山市、福井市の5市を除くと、すべて3大都市圏への通勤圏内でなく、県庁所在市でもない市となっている。

また、2000年と2010年を比較すると、2000年から2010年にかけて、DID人口密度変化率が上昇したのは、36市(37%)に留まり、都市機能の増進及び経済力の向上を推進する中心市街地活性化基本計画の策定が、直ちには、人口密度の低下の緩和には結びついてはいない市が多いことがわかる。

なお、2000年から2010年にかけて、DID人口密度変化率が上昇した36市のなかで、3大都市圏への通勤圏内にない、富山市、宮崎市、日向市等では、中心市街地における地価の低下と区画整理の進展により、民間による共同住宅の供給が進んだことがその大きな要因となっている。このことは、まちなか居住の促進に際しては、法定されている中心市街地活性化協議会等の場を活用した、デベロッパーや地権者などの民間主体との十分な調整の重要性を示唆している。

(改善よりも悪化した目標指標の比率の方が高い居住人口等)

第3-3-11表は、2011年度末をもって、約5年間の計画期間を終了した、政令市を除く、全国11市の中心市街地活性化計画の最終フォローアップに関する報告に基づき、同計画の実施結果の概況を整理したものである。最終フォローアップに関する報告(以下、報告と略記)は、統一様式により、計画期間終了後の市街地の概況、中心市街地の活性化の状況とその要因等をまとめた全体総括と、個別目標ごとの事業の実施結果から構成されている。第3-3-11表は、同報告に基づき、それぞれの中心市街地活性化計画において複数設定されている目標指標の、当初の状況(2007年値)から現況(2010年値または2011年値)への改善率等を、通行量、居住人口等、施設入込数等、7つの分類ごとに整理したものであり、ここでは、この表により、11市の中心市街地活性化基本計画の実施結果を概観する。

まず、全体の目標指標の設定状況について、分野別に目標設定市比率をみると、通行量、居住人口等、施設入込数等の指標が50%を超える比率で設定されている一方、販売額等、空き店舗等、公共交通機関利用の指標の設定率は50%未満で低くなっている。中心市街地活性化基本計画は、中心市街地のにぎわいの創出、まちなか居住の促進、商店街の活性化等を主たる目的としていることを考慮すると、商店街の活性化の状況を最も端的に表すとみられる空き店舗等、販売額等の比率が低い。

次に、その他を除く分類別に目標指標改善比率をみると、施設入込数等、公共交通機関利用、空き店舗等が50%を超えて高い一方、通行量、居住人口等、販売額等は50%未満となり低い。特に、施設入込数等は86%と高い一方、販売額等は33%と低い。これらの点に関しては、例えば、青森市の報告では、施設入込数等の目標指標である「年間観光施設入込客数(人/年)」は当初状況から59%の増加となったことについて、新たに設置した文化観光交流施設がその機能を十分に発揮したとされている。一方、八代市の報告では、販売額等の目標指標である「中心商店街の売上額の増加(万円)」は当初状況から5%減少となったことについて、遊戯施設撤退による売上額の落ち込みが大きかったとされている。また、富山市の報告では、通行量の目標指標である「中心商業地区の歩行者通行量(日曜日)(人/日)」は当初状況から10%増加となったことについて、新たに整備した全天候型ガラス屋根広場が市民に定着し、集客力のあるイベントが定期的に開催されるようになったとされている。

市別に目標指標改善比率をみると、府中市では100%となり、4つの目標指標とも改善している一方、和歌山市と八代市では0%と、ともに3つの目標指標が悪化している。これらの点に関して、府中市の報告では、工場撤退により大規模に発生した空地での4小学校と中学校を統合した小中一体型校舎の開校と、有形文化財である老舗割烹旅館の保存・再生が2つの効果的事業として挙げられている。一方、和歌山市の報告では、周辺への波及効果が少ない等、現在のところ当初期待していた効果が出ていない、また八代市の計画では、それぞれの事業の効果が一時的、部分的に留まってしまい、事業間の相乗効果が得られていなかったとされている。

コンパクトシティ形成の観点からは最も重要な指標分類である居住人口等については、11市のうち、9市の計画で、目標指標が設定され、そのうちの4市で、当初状況から現況は改善している。例えば、金沢市の報告では、目標指標である「中心市街地の人口の年間社会動態(人)」は当初状況から500人の改善となったことについて、戸建て住宅の建設・購入、共同住宅の購入・改修への助成事業の推進により定住人口の促進が図られているとされている。一方、高岡市の報告では、目標指標である「中心市街地における居住人口(人)」は当初状況から9%の悪化となったことについて、高齢者の人口割合が高く、当初の予測を上回るペースで人口の自然減、社会減が発生している、またまちなか居住支援に係る各種事業による効果が計画通りに上がっていないとされている。以上のことは次の4点にまとめられる。

1つ目は、通行量と施設入込数等については、目標指標とされた比率は高く、また改善となった比率も高い。これは、計画の中に集客のための新たな施設の設置等が盛り込まれる場合が多いためであると考えられる。

2つ目は、商店街の活性化の状況を最も端的に表すとみられる販売額等、空き店舗等については、目標指標とされた比率は低く、また悪化となった比率も高い。このことは、小売業は全国的に厳しい状況にあるなかで、新たな集客施設の整備やイベント開催等による通行量等の増加も、商店街の活性化の面では効果が限定的であったことを示唆している。

3つ目は、コンパクトシティ形成の観点からは、最も重要な指標分野である居住人口等については、目標指標を設定した市の比率は高いが、設定しなかった市もある。また、改善よりも悪化した目標指標の比率の方が高くなっており、その背景には、中心市街地における高齢化率の高さ等があるとみられる。

4つ目は、個別の事業事例として、工場跡地での統合小中一貫校の開校は、新規性と事業効果の高さにより注目に値することである。

(コンパクトシティ形成の意識が必ずしも十分に共有されていない可能性)

第3-3-12表は、11市の報告における取組状況を、コンパクトシティ形成の観点から、整理したものである。具体的には、コンパクトへの言及の有無のほか、都市機能の集約、まちなか居住の促進と、コンパクトシティへの居住が促進されるべき高齢者等交通弱者に関する取組に着目し、各種の施設整備、共同住宅の供給や住宅購入等への支援、移動手段の提供等の事業の有無を整理した。また、平成の大合併を踏まえた合併関連の取組や、景気低迷等による事業の中止・延期の有無についても合わせて整理した。第3-3-13表は、これらの取組状況の概要であるが、そのポイントは以下の5点にまとめられる。

1つ目は、コンパクトシティ形成への意識が十分に共有されていなかった例がみられたことである。具体的には、和歌山市の報告において、協議会の意見として、「協議会としては、中心市街地活性化基本計画の基本理念である「コンパクトシティ」を目指していたが、和歌山市はコンパクトシティに特化した考え方ではなかったため、議論にミスマッチを起こしてきた」と記述されており、同市の中心市街地活性化基本計画の取組において、コンパクトシティ形成の意識が必ずしも十分に共有されていないことが示唆されている。中心市街地の活性化を図るための基本方針(2006年閣議決定)において、多様な都市機能がコンパクトに集積した、歩いて暮らせる生活空間を実現することが目標の1つとされているものの、コンパクトへの言及が、11市のなかの5市の報告ではみられなかった。

2つ目は、都市機能の集約については、各市において、商業機能を集約する複合施設等の整備が、中心市街地活性化基本計画の中心的事業として実施されており、商業機能の中心市街地への集約は進んでいる一方、他の都市機能、例えば、基礎的サービスである医療や福祉等の中心市街地への集約の取組は少ない。この点に関しては、中心市街地への医療・福祉施設の新築・移転等の問題点として、高地価・高家賃・駐車場の確保が挙げられている調査結果もあるが(第3-3-14図)、一方で中心市街地活性化計画による取組が、依然として商業地の活性化を主たる目的として行われていることも背景にあると考えられる。高齢者が徒歩や自転車で行ける範囲に必要な施設・機能として病院・福祉施設、また中心市街地に必要とされる住居施設として高齢者向け福祉住宅があげられている調査結果もあり(第3-3-15図第3-3-16図)、中心市街地においては、商業機能に偏ることなく、こうした医療・福祉面での機能集約も考えていく余地があろう。

3つ目は、まちなか居住の促進については、多くの市で共同住宅の供給が行われ、分譲が行われた共同住宅は、いずれの市でもおおむね完売しており、共同住宅の供給は、まちなか居住を促進する上で効果の高い取組であることである。一方、これに関しては、帯広市、長野市では計画されていた事業が経営環境悪化のため中止になったほか、中心市街地における複雑な権利関係が共同住宅の供給を妨げている要因であることが示唆されている。また、8市による共同住宅供給の取組は、八代市による1棟の賃貸住宅の供給を除き、すべて分譲によるものであったが、賃貸による供給への需要も相当程度あり、分譲とともに賃貸による共同住宅の供給も選択肢として考えられよう。

4つ目は、高齢者等交通弱者に関する取組は、高齢者等に必要な都市機能の集約、まちなか居住の促進と移動手段の提供に分けられるが、いずれについても、事業を実施している市は少ないことである。コンパクトシティの形成が十分に意識されていれば、コンパクトシティでの暮らしが優先されるべき高齢者等に関する取組も行われると考えられることから、高齢者等交通弱者に関する事業が少ないことにも、中心市街地活性化計画の取組が、まちのにぎわい、商業地の活性化を主たる目的として行われていることが反映されていると考えられる。

5つ目は、3つの合併市のうち、2つの合併市では、中心市街地と旧町村を結ぶ、鉄道やバス等による公共交通ネットワーク形成の取組が行われていることである。合併市町村に複数あると考えられる市街地のなかで、中心市街地が合併市の各種の都市機能を集中させる区域として設定される以上、中心市街地と旧町村を結ぶ公共交通ネットワークの確保はすべての合併市町村において重要であると考えられる。

(2)コンパクトシティの形成に向けて、基本計画を推進する上での課題

中心市街地活性化基本計画に基づく取組はコンパクトシティを形成する上で、最も重要な取組である。これまでの分析や上記の中心市街地活性化基本計画の実施結果等を踏まえると、今後、各地域においてコンパクトシティの形成を進める上での課題として、以下のことが挙げられる。

(コンパクトシティ形成を主目的にする実効性の高い取組が行われるための仕組みづくり)

上記の11市の報告でも、コンパクトへの言及がみられたのは6市に留まっており、例えば、和歌山市の報告では、協議会による意見では、「和歌山市はコンパクトシティに特化した考え方ではなかったため、議論にミスマッチを起こしてきた」と記述されているなど、中心市街地活性化基本計画の実際の取組が必ずしもコンパクトシティを指向しているものでないことが示唆されている。

中心市街地活性化基本計画がコンパクトシティを指向することは法定化されていない。また、中心市街地の活性化を図るための基本方針(2006年閣議決定)において、「人口減少・少子高齢化社会の到来に対応した、高齢者も含めた多くの人にとって暮らしやすい、多様な都市機能がコンパクトに集積した、歩いて暮らせる生活空間を実現すること」が目標の1つとされているが、市町村は地域の実情に応じて、重点化等を行って目標を設定することができる。

前小節でみたように、多くの道府県では、人口の集積度は低下しており、人口密度の低い地域では、高齢者等の交通弱者が日常生活を送るうえでの困難が懸念される状況の下、市町村では高齢者等が徒歩で生活できるようなコンパクトなまちづくりという考え方は重要である。コンパクトシティ形成を誘導する、まちづくり三法(大店立地法、中心市街地活性化法、都市計画法)のなかで、まちなか居住等、直接住民に働きかけを行う役割を担っているのが中心市街地活性化法である。したがって、同法の下で推進される中心市街地活性化基本計画の取組が、コンパクトシティの形成を重視した実効性の高い取組として行われるための仕組みを検討していくことも考えられよう。

(合併市町村における中心市街地と旧市町村間の公共交通ネットワークの確保)

平成の大合併により多数の合併市町村が生まれた状況下で、合併により広域化した市町村において、どのようにコンパクトシティを形成していくかは大きな課題である。中心市街地は、原則的に一市町村に一区域であり、そこに各種の施策を集中的に行って、人口や各種の都市機能の集積を高めていく。合併市町村では、旧市町村のそれぞれに市街地があり、一定の都市機能の集積があると考えられるが、合併後の中心市街地には、旧市町村の市街地にはない様々な機能が集まることになる。このため、旧市町村と中心市街地を結ぶ公共交通ネットワークの確保は不可欠であり、先にみたように、3つの合併市のなかで、富山市と八代市では、鉄道やバス等の公共交通機関のネットワークにより、中心市街地とすべての旧市町村を結び、すべての住民が公共交通機関により、中心市街地にアクセスできるようにしている。

このように合併市において、旧市町村と中心市街地を結ぶ公共交通ネットワークの確保は、基本的にはすべての合併市町村において重要なポイントであると考えられる。また、合併市において、中心市街地とすべての旧市町村が既に公共交通ネットワークにより結ばれている場合でも、中心市街地は各種の都市機能を集中させる区域として設定される以上、旧市町村から中心市街地への公共交通機関によるアクセスのさらなる向上を考えていく必要があろう。

(収益性の低い区域で共同住宅の供給を促進する手法、スキームの開発)

まちなか居住の促進は、各種都市機能の集約とともに、コンパクトシティ形成の中核をなす取組であり、上記の11市の報告にみられたように、民間による利便性の高い共同住宅の供給が基本的かつ効果的な取組である。8市で実施された共同住宅の供給は、1つを除き分譲による供給であったが、購入が困難な居住者も相当程度いると考えられることから、一定割合の共同住宅が賃貸により供給されることが必要であると考えられる。

こうした民間による共同住宅の供給では、不動産に関する権利関係が複雑な中心市街地の区画整理等が効率的行われることが前提になるが、そうした区画整理等に関する調整は民間のデベロッパーに委ねられている。現在、中心市街地で進められている共同住宅の供給は、デベロッパーが事業化に乗りだすような利便性、収益性の高い区域でなされている。そうした利便性、収益性の高い区域が残されていない中心市街地において、民間による共同住宅の供給を促進する手法、スキームの開発は、今後、コンパクトシティの形成を推進する上で大きな課題であると考えられる。

なお、いくつかの市では、近年の景気低迷により民間による共同住宅の建設が凍結や中止になっている一方、金沢市では戸建て住宅の建設・購入への支援等により、まちなか居住人口の増加で一定の成果を上げている。中心市街地の空間的な集積密度を高める上では、共同住宅の方がより効果的であるが、地方圏では戸建て住宅への志向にも根強いものがあると考えられる。さらに、民間による共同住宅の供給とは異なり、景気動向にとらわれず安定的に行えるというメリットもあることから、金沢市のような戸建て住宅の建設・購入への支援も有効な施策であるといえる。長野市における空き家を活用したまちなか体験事業についても、景気動向にとらわれず行えるほか、空き家の解消という追加的なメリットもある。民間による共同住宅の供給だけでなく、こうした景気動向にとらわれず行える施策を組み合わせ、多様な施策によりまちなか居住を促進していくことが重要であると考えられる。

(福祉施設併設共同住宅の供給等による高齢者等交通弱者のまちなか居住の促進)

前節でみたように、低密度人口の地方都市においては、医療のような基礎的サービスであっても、高齢者等の交通弱者の日常生活における困難が懸念される。この観点からは、高齢者等の多くの交通弱者の、コンパクトなまちの中心である中心市街地における徒歩での暮らしを実現することが重要であると考えられる。

高齢者等交通弱者のまちなか居住の促進では、高齢者等が徒歩で回れる範囲内への主要な施設の配置といった施設面での集約が基本的な施策となる。しかしながら、先にみたように、11市の取組状況では、高齢者等交通弱者に関する取組そのものが少なく、都市機能の集約では商業施設への偏りがみられ、共同住宅の供給では、高齢者向けで計画されたものはあったが、実行に至ったものはなかった。

中心市街地活性化基本計画の取組が依然として、まちのにぎわい、商業地の活性化を主たる目的として行われていることが、こうしたことの背景にあると考えられる。しかし一方で、高齢者が徒歩や自転車で行ける範囲に必要な施設・機能として病院・福祉施設を挙げる調査結果や中心市街地に必要とされる住居施設として高齢者向け福祉住宅を挙げる調査結果もある。もっとも、中心市街地への福祉施設の新築・移転等の問題点として、高地価・高家賃・駐車場の確保が挙げられている調査結果もあり、高齢者等向け福祉施設を単体で中心市街地に設置することは、収益面等から容易ではない。そこで、青森市等、いくつかの自治体で既に実施されている高齢者等向けの福祉施設併設共同住宅の供給等を重点的に図っていくことも選択肢となろう。

4.まとめ

本節では、DIDにおける集積の状況の分析を行ったほか、中心市街地活性化基本計画の実施結果について概観し、コンパクトシティの形成に向けて、中心市街地活性化基本計画を推進する上での課題について考察を行った。要点をまとめると次のようになる。

(これまで以上に重要となっているDIDへの集積を活かすための取組)

各地域におけるDIDの人口増減率の人口密度への回帰では正の傾きがみられ、東京圏、名古屋圏、関西圏のほか、各地域の成長を支える中枢的政令市等、高密度地域への人口集積が進んでいる一方、東京都、神奈川県等13の都県を除く道府県ではDIDの人口密度は低下している。東京都や大阪府等の都市部も含め、事業所の集積度は総じて低下している状況にあるなか、DID人口密度の上昇は労働生産性を高める傾向にあることから、一般論としては、DIDへの人口集積を高めることが望ましいと考えられる。現在でも、全域の人口が減少している道府県ではDIDの人口密度は低下しており、大都市圏はもとより、今後、人口減少・高齢化が急速に進む地方圏においても、地域づくりの取組に当たって、広域的な目配りをしつつ、DIDへの集積のメリットを活かしていくことがこれまで以上に重要となっていると考えられる。

(コンパクトシティ形成を主目的にする実効性の高い取組が行われるための仕組みづくり)

2006年に改正された中心市街地活性化法に基づき認定された中心市街地活性化基本計画を有する98市についての、1995年から2000年と、2005年から2010年にかけてのDID人口密度変化率の比較からは、まちなか居住の促進を指向する中心市街地活性化基本計画の策定が、直ちには、人口密度の低下の緩和には結びつかない状況にあることが明らかになった。

また、2011年度末をもって計画期間を終了した、全国11市の中心市街地活性化基本計画の取組状況の分析からは、多くの市では、コンパクトシティ形成への意識が十分には共有されていないことが示唆された。

今後、各地域において、中心市街地活性化基本計画の推進により、コンパクトシティの形成を進める上では、コンパクトシティ形成の必要性が十分に認識され、中心市街地活性化基本計画の取組が、コンパクトシティ形成を主たる目的とする実効性の高い取組として行われるための仕組みづくりを検討していくことも考えられよう。また、同計画の具体的な取組に際しては、合併市町村における中心市街地と旧市町村間の公共交通ネットワークの確保、収益性の低い区域で共同住宅の供給を促進する手法、スキームの開発や福祉施設併設共同住宅の供給等による高齢者等交通弱者のまちなか居住の促進が課題となると考えられる。

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