第3章 第1節 1.観光客数の実態

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地域経済が自立するためには、地域の構造的な問題を把握したうえで、その地域に合った活性化策を採ることが求められている。

高度成長期以降、局面に応じて様々な地域活性化策が採られてきた。「全国総合開発計画」、「列島改造」、「ふるさと創生1億円基金」、「総合保養地域整備法(いわゆるリゾート法)」、「地域振興券」、「構造改革特区制度」が代表例である。

活性化策には、大きいものから小粒なものまで幅広いが、活性化が目指す対象とその効果によって、大きく分けて2種類あると考えられる。具体的には、地域資源(観光や地域ブランド等)を活かす自前型と公的投資や工場誘致を通じた外部資源活用型である。

認識しておく必要があるのは、地域の実状はどこも違うということである。無論、人口減少・高齢化、グローバル化という流れは地域共通の問題として存在する。しかし、地域の産業構造は異なる。それを踏まえれば、手法は千差万別であってしかるべきである。

しかも、ある地域で有用だった手法が他の地域においても有用であるとは必ずしも言えないと考えられる。地域を取り巻く事情が異なるなか、これをやれば必ず成功するという意味での、地域に通じる共通解はない。どのような手法を取るにせよ、地域の特性を活かす方策以外は考えられない。その際、特性-強みといっても良いが-、これを知ることが必須条件である。特に、地域の資源-人的資源にせよ、地理的条件にせよ-をよく理解したうえで、それを伸ばす手法を取ることが必要である。さらに、その強みが他の地域と比較しても強みになりうるのか、つまり、いかに差別化を図るのか、という視点が重要となってくる。

以下では、地域経済自立に向けた活性化策について、具体的に検討する1

その際、活性化は行政だけが担うものにとどまらないことに注意しなければならない。活性化に対する貢献度に違いはあるにせよ、家計、企業、非営利団体、全ての経済主体が活性化の担い手になり得る存在である。ここでは、民間部門が中心となって進める活性化の動きを紹介する。

また、地域は何に力を入れて経済を活性化していくのが良いのか、製造業なのか、観光なのか、あるいはそれ以外なのか。以下では、地域の資源とは何かということを考慮しながら、観光、医療・福祉産業の活性化、寄付、製造業、地域ブランドの活用といった様々な分野における活性化策について、検討する。

第1節 観光振興による地域活性化

「観光立国」という目標が脚光を浴びて久しい。サービス収支の恒常的な赤字が続く日本経済にとって、今後この部分を黒字化していくことで、ホスピタリティの上でも大国への道が開けることとなる。国際的にみて、外国人観光客数は30位程度と、他の先進諸国と比較して、大きく遅れを取っている。地域経済を考える上では、外国人を呼び込むことはもちろんのこと、国内の観光産業を活性化し、交流人口を増加させることが、極めて重要なポイントとなってくる。以下では、都道府県ごとに観光産業の実態をみるとともに、各県ごとの潜在力を検討し、実力が発揮されていない要因、観光におけるキーパーソンの役割を探ることにする。

1.観光客数の実態

国土交通省の「宿泊旅行統計調査」で、観光目的の宿泊者数をみると2、07年1-3月期では北海道が突出して多く(421万人)、次いで千葉県(272万人)、沖縄県(266万人)、静岡県(227万人)、長野県(200万人)となっている。200万人を超えるのはこの5県のみである3 。一方、最も少ない徳島県では9万人、埼玉県では11万人と、最高県と最低県とではおよそ40倍の差がある(第3-1-1図)。

第3-1-1図 都道府県別の観光宿泊者数

第3-1-1図

(備考) 1. 国土交通省「宿泊旅行統計調査」により作成。07年1-3月期。
2. 観光宿泊者数は、観光目的の宿泊者数が50%以上の施設における宿泊者数の計。(以下同様)

交流人口の規模をみるために、上記のデータに06年6-8月期を足し合わせて、人口1,000人当たりに変換してみると、高い順に沖縄県(3,445人)、長野県(1,929人)、山梨県(1,911人)、北海道(1,825人)、石川県(1,623人)、大分県(1,382人)、和歌山県(1,319人)、京都府(1,311人)、福島県(1,247人)、栃木県(1,230人)、静岡県(1,223人)、群馬県(1,126人)、山形県(1,111人)、岩手県(1,033人)、長崎県(1,007人)、鳥取県(1,000人)と、1,000人を超えた道府県は16あるが、他方、200人を割っている県も愛知県、埼玉県、福岡県の3県ある(第3-1-2図)。

第3-1-2図 人口1,000人当たりの観光宿泊者数

第3-1-2図

(備考) 国土交通省「宿泊旅行統計調査」により作成。06年6-8月期と07年1-3月期の合計。

このように、観光客数は都道府県によって大きく差が開いており、いわゆる「観光地」とそれ以外の実力が明白に表れるという結果になっている。観光地は古くからの温泉地や宿場町、神社・仏閣の逗留地、さらに自然条件に恵まれているかどうかなどなど、様々な条件の下に形成されてきたと考えられる。


1.
地域経済活性化の中には、中心市街地の活性化も一要素として含まれるが、昨年の「地域の経済2006」で検討したため、ここでは取り上げない。
2.
このデータは宿泊を伴う旅行者数をデータ化したものであり、日帰り客はカウントされていないことから、観光客数の実態を全て把握できるものではないが、おおよその実態は把握できると考えられる。
3.
この調査は06年6-8月期と07年1-3月期、4-6月期の3期しか公表されていない。06年6-8月期の調査においても、観光目的の宿泊者数が200万人を超えたのは、上記の5県のみである。

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