第1章 第2節 3.実感なき景気回復といわれる背景
今回の回復局面は、回復実感に乏しいと指摘されている。それでは、「実感のある」景気回復とはどういうものだったのだろうか。
まず、消費者マインドを過去に遡って調べてみる。
消費者態度指数をみると、バブル期の頃は50を上回る状況が何度かみられた。指数を構成するいくつかの要素をみると、とりわけ「収入の増え方」について、楽観的な見方を示す人が多かった。翻って、今回の回復局面において、「収入の増え方」は50を下回った状況が続いており、人々は収入の増え方に自信の持てない状況が続いていると言える(第1-2-5図)。
第1-2-5図 消費者態度指数の推移
-収入の増え方、暮らし向きが近年足かせに-
また、バブル期は各地の消費者態度指数は期を追うごとに変動係数(地域間のばらつき)が小さくなっていたのに対して、今回の回復局面では回復初期よりは小さくなっているものの、ここ1~2年はおおむね横ばいの状態が続き、直近ではやや上昇している(第1-2-6図)。
第1-2-6図 地域別消費者態度指数のばらつき
(備考) | 内閣府「消費動向調査」により作成。季節調整済み。 |
(1)伸びない所得
国土交通省のアンケート調査では、地域格差が拡大している点として、所得水準が挙げられていた。
地域別の定期給与の変化をみると、前回の回復局面では沖縄を除く全地域でわずかながら増加しているものの、今回の回復局面では増加している地域は3地域にとどまっている。都道府県別にみると、47都道府県中11都県が増加しているに過ぎない4(第1-2-7図)。
第1-2-7図 地域別定期給与の伸び率
(備考) | 1. | 厚生労働省「毎月勤労統計地方調査」、各県労働局資料により作成。従業員5人以上。 |
2. | 各都道府県の常用労働者数でウェイト付けして地域別に集計。 | |
3. | 04年12月までは毎月勤労統計調査[地方調査]、05年1月以降は都道府県別の毎月勤労統計調査の集計値。 |
(愛知県の雇用者所得)
以下では、全国で最も経済が好調と言われる愛知県5の雇用者所得の動向を見てみよう。
愛知県の雇用者所得全体(1人当たり現金給与総額【定期給与+特別給与】×常用労働者数)をみると、02年から06年にかけて、8%程度増加している。ただし、その要因は労働者数の増加の寄与がほとんどであり、1人当たり定期給与はむしろ低下に寄与している(第1-2-8図)。
第1-2-8図 愛知県の雇用者所得(02→06年)
02年から06年にかけての1人当たりの定期給与の変動要因をみると、給与水準の高い一般労働者数の増加とパートタイム労働者1人当たり給与の上昇が、全体としての上昇に寄与しているものの、相対的に給与水準の低いパートタイム労働者数の増加が平均水準を大きく引き下げているため、全体ではやや低下している。また、一般労働者の1人当たり給与はむしろ低下に寄与している(第1-2-9図)。なお、ボーナスの推移をみると、03年以降4年連続で前年を上回っている。05年に大きく伸びたこともあって、06年の伸び率は小幅にとどまったものの、水準としては過去10年で最高になっている(第1-2-10図)。
第1-2-9図 愛知県の1人当たり定期給与(02→06年)
第1-2-10図 愛知県内企業における一時金妥結額の推移(前年比)
-夏季一時金と年末一時金の計-
(備考) | 1. | 厚生労働省「毎月勤労統計地方調査」、愛知県提供資料により作成。従業員5人以上。 |
2. | 労働者所得は、1人当たり現金給与総額に常用労働者数を掛け合わせた試算値。 |
このように、経済が最も好調な愛知県に至っても一般労働者1人当たりの定期給与は伸びていない。これが個人レベルでの回復実感の乏しさにつながっていると考えられる。
(2)高額所得者の動向
視点を変えて、地域内に高額所得者がどれくらいいるのかを調べてみよう。
所得5000万円超の人が02年から06年までどれだけ増えたかをみると、全国で1万346人増えるなかで、東京が全体の3分の1強を占め、ついで神奈川県(全体の1割強)、愛知県(同1割弱)、埼玉県、大阪府、千葉県、兵庫県、京都府、福岡県、静岡県という順番になっている。福岡県を除くと、いずれも3大都市圏に集中しており、地域間で所得の格差が感じられる一因になっていると考えられる(第1-2-11図)。
第1-2-11図 高額所得者の動向
(備考) | 国税庁「統計年報」により作成。申告所得税。 |
4. | バブル期の絶頂の91年には全国平均で年間4.0%の伸びを記録した。 |
5. | 例えば、有効求人倍率は04年2月から全国1位を続けており、07年3月には2倍を超えた。 |