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アジア経済2000(要約)

<目次>

まえがき

第1章 東アジア経済の急回復

  第1章のポイント

   1 なぜ予想以上に急回復したか

   2 輸出が増加したのは何故か

   3 資本の流れは変わったか

   4 構造改革は進展したか

     (1) 金融システムは強化されたか

     (2) 構造改革への取組は続くか

第2章 IT革命下のアジアにおける経済発展

  第2章のポイント

   1 IT革命とアジアにおけるIT経済化

   2 ITの特質とアジア経済の発展形態

   3 指標が示すアジアのIT経済化と発展可能性

   4 各国のIT計画の現状と課題

   5 アジアにおけるニュー・エコノミーの実現に向けて

第3章 アジア・大洋州の各国・地域の経済動向(本文参照)

 


まえがき

 東アジア経済は、97年の通貨・金融危機によって深刻な不況に陥りましたが、その後は大方の予想を上回るスピードで急回復しています。この急回復の要因や構造改革の進展状況を体系的に整理しておくことは、東アジアの経済の現状を理解し、将来を展望する上で欠かすことができないものです。また、世界的に情報技術(IT)革命が進行する中で、アジア経済は新たな発展の機会と挑戦に直面しています。今後のアジア経済を展望する上でITは極めて重要な要素となっています。

 第1章では、東アジアの急回復に焦点を絞って、(1)なぜ予想以上に急回復したか、(2)輸出が増加したのは何故か、(3)資本の流れは変わったか、(4)金融システムは強化されたか、(5)構造改革への取組は続くか、という5つの基本的設問に答える形でまとめています。

 第2章では、IT革命下のアジアにおける新たな経済発展について幅広い展望を試みました。東アジアはIT関連機器分野という急速に成長する市場において一定の地位を確立しましたが、自らITを駆使して新しい知的な価値を創造していかなければ、IT革命がもたらす経済発展の機会を真に活かしているとはいえません。アジアの各国・地域は「雁行形態」と呼ばれる産業構造高度化の経路をたどって次々と工業化を進めてきましたが、ITの浸透においてはそのような予見性の高い道程は用意されていません。各国・地域それぞれの特性を活かすための創意工夫が求められています。

 第3章では、貿易、直接投資、為替レート、財政金融の最近の動向を分析し、各国・地域の動向を比較しやすいよう、共通の様式でまとめています。また、長期にわたる比較統計がとりにくいアジア各国・地域の60年代以降の主要経済指標などの参考資料も掲載しました。

 本レポートは、アジア問題や経済問題の専門家以外の方にもわかりやすい内容になるように努めております。アジア経済について理解を深めていただく上で一助となれば幸いです。

平成12年6月

経済企画庁調査局長

小峰 隆夫

 


第1章のポイント

【なぜ予想以上に急回復したか】

・99年前半の時点では、東アジア地域の各国政府や国際機関は、東アジア地域経済は回復するものの、そのテンポは緩やかなものにとどまると見込んでいた。実際にはそれらの見通しを大きく上回るスピードで東アジア地域の景気は回復している。急回復をリードしているのは、(1)電気・電子製品を中心とした輸出増加、(2)在庫調整の終了、(3)個人消費の増加であり、それらをもたらした要因には共通性がある。

・東アジア各国・地域の回復テンポは必ずしも一様ではない。これは、インドネシアの政情不安の影響を除けば、(1)ショックに対する調整速度の差、(2)産業高度化の差といった経済構造の違いによるところが大きいとみられる。
 

【輸出が増加したのは何故か】

・東アジア地域の輸出(ドル建て)は1998年に大きく減少したが、99年初頭から回復し、年後半にかけて高い伸びとなり、東アジア経済の予想以上の急回復をもたらす主な要因の一つとなった。なかでも、電気・電子機器の輸出が好調であり、アジアの域内貿易が活発化したことが特徴である。こうした輸出の増加の背景には、アメリカを始めとする世界的な情報・通信関連機器への需要拡大と、東アジアに形成された国際分業のネットワークがある。

【資本の流れは変わったか】

・通貨・金融危機以降、東アジア地域では、国際的な金融支援などにより、通貨の安定、国際流動性の確保が実現し、外国資本の信認が回復したことや、危機への調整や構造改革を通じて、投資国としての魅力が高まったことにより、民間資金の再流入につながり、経済回復に寄与するという好循環が生まれていると考えられる。ただし、資金の再流入に関してもアジア地域での回復の度合いは一様ではなく、各国ごとにばらつきがある。

・資本取引規制の是非に関しては現在でも賛否両論あるが、少なくとも短期的・補完的には有効であるとする見方が増えている。しかし、資本取引規制は、あくまで一時的、緊急避難的措置にとどめるべきであろう。

【金融システムは強化されたか】

・アジア経済の成長が持続的なものとなるには、現在進められている金融部門の再構築を通じ、金融システムを強化することが必須である。通貨危機に見舞われた国々では金融システムの強化に向けて一定の前進がみられるものの、各国の金融システムには克服すべきぜい弱性が残っている。また、実質貸出残高が減少しているのはそもそも企業側の資金需要が弱かったからであるとみられるが、金融機関の仲介機能が低下したままでは、持続的成長は望めない。金融機関が90年代前半のような審査基準で貸出に応じるとは考えにくいことから、直接金融の役割が大きくなると考えられる。株式・債券市場の整備には一定の前進がみられている。

【構造改革への取組は続くか】

・IMFプログラムを実施したタイ、インドネシア、韓国においては、金融構造改革以外の分野における構造改革は目覚ましい進展を遂げているとはいえない。予想以上の景気回復を遂げてはいるが、現在の景気回復を持続可能な成長軌道に乗せるためには、構造改革を不断に進めることが不可欠であり、景気が回復している現状でこそ構造改革のペースを加速すべきであろう。

 
第2章のポイント

【IT革命とアジアにおけるIT経済化】

・アジアの経済活動はIT関連機器の生産に負うところがかなり大きい。しかし、アジアにおけるIT経済化の進展はハードウェアの生産に限られるものではない。携帯電話の急速な普及とインターネット利用の拡大など、アジアのハードウェア以外のITサービス市場は急拡大している。急速に進展するIT経済化は、早晩、“アジアのニュー・エコノミー”へと移行する可能性がある。

【ITの特質とアジア経済の発展形態】

・ITの特質として、(1)技術変化が速い上に学習コストが小さいこと、(2)情報・知識資産の価値が本質になるがその投資効率は著しく高いこと、(3)生産性向上において企業組織との間に補完性があること、(4)ネットワーク外部性が存在することが挙げられる。

・現在は先進諸国への輸出拡大によって進んでいるアジアのIT経済化が、域内需要の創出によるものへと転換するにはそれほど時間を要しない。ただし、基盤整備の遅れなどからIT利用における地域間・階層間の大きな格差(デジタル・デバイド)が生じることが懸念される。IT経済化においては、知識・情報といった無形資産の重要性が高まるが、工業化では必ずしも成果を挙げていないインド、フィリピンにおいて技術力の高いソフトウェア産業が育まれており、今後の発展も期待される。

・今後、アジア経済がIT経済化を通じて、「新しいアジアの奇跡」を起こす可能性もあるが、発展形態が雁行形態的なものではなくなる可能性が非常に高い。

【指標が示すアジアのIT経済化と発展可能性】

・アジア各国・地域経済のITの経済の現状と将来を総合的に評価するために、限られた範囲ではあるが比較的入手し易く、国際比較も容易な統計数値に基づいて指標化を試みた。

・IT経済化の進展を左右すると考えられる各国のインフラの整備、普及状況(基盤指標)は、ほぼ一人当たりの所得水準に見合った状況となっており、IT経済化を物的に支えるIT関連機器の生産力(産出指標)では雁行形態的な特徴がみられる。一方で、ITを活用したソフトウェアやコンテンツなど知識産業の発展可能性に関連のある知識水準(知識指標)は、所得水準とも雁行形態とも全く異なるパターンを示している。

【各国のIT計画の現状と課題】

・1990年代に入り、アジアの各国・地域の多くが、経済戦略の中核にITを位置付け、情報通信基盤の整備や情報通信産業の育成に力を入れてきた。インターネットの将来性が明らかになるに伴い、各国・地域のIT計画は、大規模な国家投資による広帯域通信インフラ整備という戦略から、インターネットを活用し、通信インフラ整備については民間に委ねるという戦略へと軌道修正された。また、インターネットの普及に伴い、電子商取引(EC)への関心も高まっている。今後のIT計画推進の重点として共通しているのが国民のIT意識の向上、規制緩和の推進、行政ITのアウトソーシングの3点である。

【アジアにおけるニュー・エコノミーの実現に向けて】

・アジアにおいては急速にIT経済化が進んでおり、一様ではないものの、その発展可能性も高い。しかしその途上では、(1)通信などの社会資本や法制度などの制度資本といった各種のインフラ、(2)IT経済化に対応した知的資本、(3)リスク・マネーがボトルネックとならないよう対応する必要がある。

 

第1章 なぜ予想以上に急回復したか

 1999年前半の時点では、東アジア地域の各国政府や国際機関は、東アジア地域経済は回復するものの、そのテンポは緩やかなものにとどまると見込んでいた。実際にはそれらの見通しを大きく上回るスピードで東アジア地域の景気は回復している。

(急回復の要因)

 景気回復の第一の要因である輸出の大幅増加は、世界的なIT関連機器等の需要増と東アジアの域内貿易の回復によってもたらされた(第1-1-6図)(詳細は第2節)。

 景気回復の第二の要因は、在庫調整の終了である。通貨・金融危機が発生した直後から、国内の金融混乱や部品・原材料の輸入困難により、生産と在庫がともに減少するという在庫調整局面が始まったが、財政金融政策の緩和と輸出増から需要の回復が始まると、アジアNIEsでは99年4~6月期に在庫調整が終了し、ASEAN4でも、98年後半には生産の下げどまりがみられ、99年には在庫の減少が小幅になる中で、生産は増加している。

 景気回復の第三の要因は、個人消費の増加である。失業率の動向をみると、危機前の水準に比べれば雇用情勢は依然として厳しいものの、生産活動が活発化するにつれて上昇傾向が止まり、回復スピードの速い韓国などでは低下傾向にある。韓国の家計調査を用いて消費性向の動向をみると、99年後半の消費性向は危機前よりも約3%ポイントも高くなっており、98の買い控えの反動がみられる。

(一様ではない東アジアの景気回復)

 東アジアの景気回復は必ずしも一様ではない。通貨危機に見舞われた諸国で回復が始まったのは、韓国が98年10~12月期からと最も早く、続いて99年前半にフィリピン、マレイシア、タイが回復し始めた。しかし、インドネシアで回復が始まったのは99年後半からである。

 こうした回復テンポの違いの背景には、基本的に(1)ショックに対する調整速度の差、(2)産業高度化の差といった経済構造の違いがあると考えられる。韓国の回復が早かったのは、他の国に比べショックに対する調整が速い上に、域内の負の循環から受ける影響が小さかったからであろう。韓国とそれに次ぐマレイシアの回復の力強さは、IT関連機器等の高い輸出競争力に支えられている(第1-1-14図)。他方、インドネシアの回復が特に遅れたのは、通貨危機に政情不安の影響が重なったためであり、世界的なIT関連需要の拡大から受ける恩恵も小さかったものと考えられる。

2 輸出が増加したのは何故か

(電気・電子機器の輸出がけん引した輸出の増加)

 東アジア地域の輸出(ドル建て)は1998年に大きく減少したが、99年初頭から回復し、年後半にかけて高い伸びとなり、東アジア経済の予想以上の急回復をもたらす主な要因の一つとなった。輸出の動向を品目別にみると、NIEs、ASEAN4、中国のいずれの地域、国でも、電気・電子機器の輸出の増加が続いており、これが輸出が急回復した一因となっている。(第1-2-5(1)図)。この背景には、北米を中心とした世界的な情報関連機器等の需要増と、東アジア地域での景気回復があるものと思われる(第1-2-6図)

(域内貿易の比重が増す東アジア貿易)

 98年は、NIEs、ASEAN4、中国のいずれにおいてもドル建てでみた輸出が減少したが、輸出相手先別にみると、域内貿易の減少が大きかったことがわかる(第1-2-7図)。輸出の減少は、通貨価値の大幅な変動という危機の直接的な影響だけでなく、金融引締めや、多額の不良債権を抱えた金融機関の貸出抑制等による流動性制約から部品や原材料の輸入が停滞した結果と考えられよう(第1-2-8図)

 次に、NIEsの輸出相手国をみると、90年には日本及びアメリカ向けがNIEs・ASEAN・中国向けを上回っていたが、99年には域内向けが日米向けを上回っている。この背景として、NIEs・ASEAN地域では家電製品やコンピュータ製造の分野で、相互に部品を供給しあう国際分業ネットワークが形成されていることが指摘されている。このことは、他面で一か国での流動性危機が輸入の減少を通じて周辺国の輸出に波及し、域内に縮小の連鎖が生じることを意味する。今回のようにIMFによる支援や、新宮澤構想、あるいは各国で採られた経済対策等の措置により、速やかに制約要因が除かれれば、域内貿易、ひいては生産の急速な回復につながる。2000年5月のASEAN、日本、韓国、中国蔵相会議で合意されたスワップを含む通貨当局間の協力強化は、円滑な資本と貿易の連環を維持し、貿易を通じた持続的な成長を確保するための重要な一歩となろう。

3 資本の流れは変わったか

(アジアに再流入した資金フロー)

 通貨・金融危機以降、東アジア地域では、国際的な金融支援などにより、通貨の安定、国際流動性の確保が実現し、外国資本の信認が回復したことや、危機への調整や構造改革を通じて、投資国としての魅力が高まったことにより、民間資金の再流入につながり、経済回復に寄与するという好循環が生まれていると考えられる。ただし、資金の再流入に関してもアジア地域での回復の度合いは一様ではなく、各国ごとにばらつきがある。

 国際金融協会(IIF:Institute of International Finance)の推計により資本の流出入の動向をみると、IMF、世界銀行、アジア開発銀行など国際機関やわが国の「新宮澤構想」などによる国際的な金融支援は、通貨の安定、国際流動性の確保を通じて外国資本の信認回復に寄与し、東アジア5か国の民間資本と公的資本を合わせた資本純流出は、98年143億ドル、99年21億ドルにとどまり、2000年には12億ドルの純流入に転じると予測されている(第1-3-1図)

 アジア各国への直接投資受入額(フロー)をみると、危機の影響が大きかった98年には、総じて大幅な減少がみられ、増加がみられた中国、韓国、タイでも伸び率は前年に比べ大幅に低下している。景気が回復傾向を示した99年は、韓国、台湾、シンガポールのアジアNIEsの受入額が軒並み前年比で増加に転じた一方、ASEAN諸国や中国では総じて減少がみられる(第1-3-6表)。このことからは、通貨下落の影響以上に、収益環境をどれだけ改善できたかが重要であったと考えられる(第1-3-7表)

(通貨・金融危機に対応した資本規制)

 今回の危機を通じて、短期資金移動の管理のあり方について議論が活発化した。資本取引規制の是非に関しては現在でも賛否両論あり、国際的なコンセンサスは得られていないが、マレイシアの例にみるように、少なくとも短期的・補完的には、国内金利の急激な上昇が国内の金融機関の経営などに与える悪影響を避けるためにも有効であるとする見方が増えている。しかし、長期にわたる資本取引規制は、適切な資本取引を妨げ、結果として投資家の信認を失うなど、必然的にコストやリスクを伴うため、あくまで一時的、緊急避難的措置にとどめるべきであろう。

4 構造改革は進展したか

(1) 金融システムは強化されたか

 アジア経済の成長が持続的なものとなるには、現在進められている金融部門の再構築を通じ、金融システムを強化することが必須である。通貨危機に見舞われた国々では金融システムの強化に向けて一定の前進がみられるものの、各国の金融システムには克服すべきぜい弱性が残っている。実質貸出残高が減少しているのは企業側の資金需要が弱かったからであるとみられるが、金融仲介機能の低下から、今後の資金需要の高まりに対応できない可能性がある。今後、直接金融の役割が大きくなると考えられるが、株式・債券市場の整備には一定の前進がみられている。

(不良債権問題は解決したか)

 各国の金融政策当局は、金融システムの再構築を最重要課題と捉え、規制強化や構造改革に向けた法整備などを行っている(第1-4-5表)。その結果、韓国とマレイシアでは98年下期をピークに、タイとフィリピンでは99年上期をピークに、不良債権の比率は次第に低下してきているが、インドネシアでは対応に遅れがみられる(第1-4-2表)

 金融機関、特に商業銀行の経営改善を図るために投入された公的負担は巨額に上っている(第1-4-3表)。韓国やマレイシアでは99年上期時点で政府による支援が概ね完了しているとみられる。一方、タイ、インドネシアでは、今後も負担が増加する可能性がある。

(何が実質貸出残高の減少をもたらしているのか)

 金融緩和に転じた98年後半以降は、一部の国を除いて貸し渋りが行われていた可能性は少なく、実質貸出残高が減少しているのはそもそも企業側の資金需要が弱かったからであるとみられる(第1-4-81-4-9図)。景気回復後においても、企業部門による金融機関からの借入需要が弱かった背景として、(1)投資水準が危機前の水準にまで回復していないこと、(2)輸出増に伴いキャッシュフローが増えていること、(3)株式市場が好調であったこと、の3点を挙げることができる。ただし、各国とも金融部門にぜい弱性を残しているだけに、今後、資金需要が高まったときに、その需要に応じた資金供給を金融機関が行えるかという問題に直面しないとも限らない。

(証券市場は整備されたか)

 今後、企業債務のリストラクチャリングが進展し国内需要の拡大が本格的なものとなったとき、再び大規模な資金需給の不均衡が起きかねない。このような事態の下では銀行などの金融機関を介さずに投資資金を調達することができる直接金融の役割が大きくなると考えられる。通貨・金融危機の影響を強く受けた国ばかりでなく、中国・香港やシンガポールなどでも、近年、株式・債券市場の整備に一定の前進がみられている。

(2) 構造改革への取組みは続くか

(経済構造改革の具体的内容)

アジア通貨危機に際して、IMFがタイ(97年8月)、インドネシア(97年10月)、韓国(97年12月)に対して示した融資条件及びそれに対する各国提出の趣意書(letter of intent)には、従来のIMFプログラムにおいてもよくみられる財政金融政策の緊縮的な運営による健全化のほかに、金融部門及びその他広範な分野の構造改革に関する項目が含まれている。

 3か国においては、構造改革の重点の置き方や取り組み姿勢には若干の違いがみられ、タイでは、外資の参入自由化や中小企業の支援策に重点的な取組みがなされている一方、インドネシアでは、国営企業の民営化及び民間企業の債務再編を重要課題とし、外国からの信用を回復することを目指している。韓国では、財閥改革を中心とした企業部門の経営効率改善や労働市場改革、外資規制の緩和において進捗がみられる(第1-4-16表)

(優先順位を明確にした経済構造改革の必要性)

 今回のIMFプログラムに対しては、複数の論者から批判がみられたが、中長期的な課題である構造改革に取り組むという姿勢を示すことには一定の意味があり、また、危機のような状況でこそIMFの外圧を利用して問題視されながらも着手できなかった経済構造に切りこむことができるというメリットもある。ただし、IMF自身の事後的評価における意見にもあったように、プログラムにおいては広範な分野での構造改革を漫然と列挙するのではなく、各国の実情にあわせ、優先順位を明確にしたうえで長期的に取り組むことが重要といえる。現状では、3か国においては、金融構造改革以外の分野における構造改革は目覚ましい進展を遂げているとはいえないにも関わらず、予想以上の景気回復を遂げている中で、構造改革への取組み姿勢に緩みがみられるのは問題である。現在の景気回復を持続可能な成長軌道に乗せるためには、構造改革を不断に進めることが不可欠であり、景気が回復している現状でこそ構造改革のペースを加速すべきであろう。

第2章 IT革命下のアジアにおける経済発展

1 IT革命とアジアにおけるIT経済化

(先進国におけるIT経済化)

 IT革命は、知的な生産性を向上させることによって、経済成長を加速する。また、高度で密度の高いコミュニケーションを可能にすることにより、企業や市場という経済組織のあり方を大きく変えるばかりでなく、家族や地域社会とそこに帰属する個人の関係ひいては国家のあり方に至るまで、社会構造も変革を遂げると考えられている。

 アメリカでは、労働生産性が飛躍的に向上し潜在成長力が高まるなど、「ニュー・エコノミー」へと経済が脱皮しつつある。新しい産業・雇用の創出やサービスの質の向上、物価の低下などの成果もみられる。また、IT経済化はアメリカにとどまらず、日本や欧州諸国では、通信手段や端末の多様性という新しい展開も示している。

(アジアにおけるIT経済化)

 アジアの経済活動はIT関連機器の生産に負うところがかなり大きい(第2-1-1図)。このようなIT関連機器の生産拡大は、単に主要輸出先であるアメリカなどにおけるIT関連機器への需要拡大によってもたらされたという他律的な面がある。しかし、アジアにおけるIT経済化の進展はハードウェアの生産に限られるものではなく、携帯電話の急速な普及とインターネット利用の拡大など、ITサービス市場は急拡大している(第2-1-3図)

 携帯電話の急速な普及の背景には、技術進歩とそれに伴う各種コストの低下に加えて、90年代に相次いで移動体通信分野における民営化や参入規制、外資規制の緩和、独立監督機関の設置などインフラ整備がある。また、アジアでもインターネットの利用は爆発的に広がっている(第2-1-5図)。NIEsにおけるインターネットの急速な普及の背景は、プロバイダー間の競争による料金低下に加えて、比較的高い所得水準や各種インフラの整備水準などインターネットの普及を可能とする素地があったことである(第2-1-6図)

(アジアにおけるニュー・エコノミーの可能性)

 急速に進展するIT経済化は、早晩アジアの経済構造をアメリカのそれのように知識集約型へと変貌させ、生産性の飛躍的な向上などの成果がもたらされる次のステップ、すなわち“アジアのニュー・エコノミー”へと移行する可能性がある。

2 ITの特質とアジア経済の発展形態

(工業化と異なるIT革命の経済的特質)

 IT革命下のアジア経済における成長、産業高度化、国際分業の変化などについて考える上で重要なのは、第一にITは技術変化が速い上に学習コストが小さいこと、第二にIT経済の発展においては情報・知識資産の価値が本質になるがその投資効率は著しく高いこと、第三に生産性向上においてITと企業組織との間に補完性があること、第四にITの普及が取引費用の低下を通じて消費・生産に対して好循環をもたらすというネットワーク外部性が存在することである。

(アジアにおける今後のIT経済化の多様な展開)

 IT経済化は、工業化と比べてスピードが圧倒的に速いという特徴がある。このため、現在は先進諸国への輸出拡大によって進んでいるアジアのIT経済化が、域内需要の創出によるものへと転換するにはそれほど時間を要しないであろう。

 基盤整備の遅れなどによりIT利用における地域間・階層間の大きな格差(デジタル・デバイド)が生じ、これが所得格差、地域格差を拡大させる可能性がある。

 IT経済化においては、知識・情報といった無形資産の重要性が高まり、国際貿易においてもソフトウェアなどのITサービスの占める比率が高まっていくものと考えられる。工業化では必ずしも成果を挙げていないインド、フィリピンにおいて世界的にみても一定水準に達したソフトウェア産業が育まれている(第2-2-5表)

 世界的にみると今後もソフトウェア産業を中心としてIT産業における人材不足が見込まれており、国民一般へのIT教育、高度なIT人材育成のための教育機関設立などはアジア各国・地域にとって、効率の良い投資になると考えられる。

(崩れる雁行形態的序列)

 今後、アジア経済がIT経済化を通じて、「新しいアジアの奇跡」を起こす可能性もあるが、その発展形態は各国・地域の発展の予見可能性をもたらしていた雁行形態的なものではなくなる可能性が非常に高い。ITによって、工業化の一過程を飛び越えて一気にIT経済化し、資本集約型から知識集約型へと一足飛びに産業構造を高度化するところが出てくる可能性があるからである。IT経済化のこれまでの工業化とは異なる経済的特質をうまく活かせるかは、各国・地域における各種インフラやIT関連の人材の質や量、あるいは言語や文化といった社会経済条件およびIT経済化を促進する政策にかかっている。

3 指標が示すアジアのIT経済化と発展可能性

 アジア各国・地域経済のIT経済化の現状と将来を総合的に評価するために、限られた範囲ではあるが比較的入手し易く、国際比較も容易な統計数値に基づいて指標化を試みた(第2-3-1図)。(注:今回の指標は、データの制約がある中で、あくまで試算として作成したものであり、ひとつの目安とされたい。)

 IT経済化の進展を左右すると考えられる各国のインフラの整備、普及状況(基盤指標)は、ほぼ一人あたりの所得水準に見合った状況となっており、IT経済化を物的に支えるIT関連機器の生産力(産出指標)では雁行形態的な特徴がみられる。一方で、ITを活用したソフトウェアやコンテンツなど知識産業の発展可能性に関連のある知識水準(知識指標)は、所得水準とも雁行形態とも全く異なるパターンを示している。

(参考)IT経済化指標の作成方法

 NIEs、ASEAN4、中国、インド、米国、日本の計12か国について、IT産出指標、IT基盤指標、IT知識指標のそれぞれについて関係があると考えられる個別統計を収集し、集計に当たっては、標準化の上、単純合計して平均値を求めた。取り上げた統計は以下の通り。

(1)IT産出指標-OECD"Information Technology Outlook 2000"で取り上げられている情報通信技術(ICT:Information and Communication Technologies)関連の産出額(データ処理機器、オフィス機器、無線通信、通信機器、オーディオ機器、部品)を各国の人口で割って、1人あたり産出額を算出したものを使用した。

(2)IT基盤指標-固定電話加入率、携帯電話普及率、コンピュータ普及率、ハードウェアに対するソフトウェアの支出、インターネット利用者数、インターネットホスト数、テレビ台数、ケーブルテレビ世帯普及率、衛星テレビ世帯普及率、電子商取引額、クレジットカードの発行枚数を採用し、ITサービスの利用、普及を促進させる一要素として電話料金を採用した。

(3)IT知識指標-国民の教育レベルを表す進学率、アメリカへの留学生の数、科学技術進展度を表す特許出願件数や技術開発者数、科学論文相対被引用度を取り上げた。TOEFLの点数(英語のスコア)を取り上げたのは、英語のコミュニケーション能力がITを利用した活動において、重要であると考えたためである。

4 各国のIT計画の現状と課題

(各国のIT計画の現状)

 1990年代に入り、アジアの各国・地域の多くが、経済戦略の中核にITを位置付け、情報通信基盤の整備や情報通信産業の育成に力を入れてきた(第2-4-1表)。しかし、IT計画の中軸として大規模な情報インフラ整備が進められていた国のいくつかでは、危機の影響で幾つか計画の遅延・中断がみられた。その結果、アジア域内におけるインフラ整備面での格差が、さらに拡大したことは否定できない。

 アジアの国・地域の多くでは当初、インターネット接続は制限されていたが、インターネット鎖国を続ければ経済的に不利になるとの認識から、徐々に解禁され、その後急速に普及している。インターネットの将来性が明らかになるに伴い、各国・地域のIT計画は、大規模な国家投資による広帯域通信インフラ整備という戦略から、インターネットを活用し、通信インフラ整備については民間に委ねるという戦略へと軌道修正された。インターネットの普及に伴い、電子商取引(EC)への関心も高まり、今後の売上予想では各国とも大きく市場が拡大すると考えられている。また、ECの発展に不可欠なサイバー法の整備も積極的に行われている。

(IT計画推進の重点)

 IT計画推進における重点として、国民のIT意識の向上、規制緩和の推進、行政ITのアウトソーシングの3点が挙げられる。

(1)国民のIT意識の向上-シンガポールにおけるインターネットやITリテラシーに関するトレーニングセンターの設置、マレイシアの戦略目標(国民すべてのIT言語理解の促進)、韓国における国民各層間のデジタル格差縮小のための情報教育・支援などが挙げられる。

(2)規制緩和の推進-各国・地域はこれまでも電気通信市場の自由化や民営化を行ってきているが、情報通信産業分野の一層の開放、規制緩和が進められている。

(3)行政ITのアウトソーシング-行政がそのIT業務を内外企業にアウトソーシングすることは、公的資金とグローバルなIT企業の持つ最先端の技術力とが直接に結びつくことを意味する。例えば、シンガポールや香港では、公共のIT関連サービス・投資をアウトソースしていく方針を発表している。

5 アジアにおけるニュー・エコノミーの実現に向けて

(IT経済化に対応したインフラ整備)

 NIEs以外の国々では、IT経済化に対応した社会資本や制度資本などのインフラが量・質ともに不足しており、このことが、IT経済化の進展においてボトルネックとなる可能性がある。ASEANや中国、インドなどにおける固定通信回線の普及率の低さなど社会資本の不足はこれまでも繰り返し指摘されている。技術革新が進んだため、規制緩和によって民間主導でもインフラ整備を進めることができるようになってはいる。しかし、インドネシア、タイ、中国では他のアジア地域と比べるとこの分野における規制改革に遅れが目立つ。

 商取引や犯罪取締についての法制度などの制度資本をIT経済化に対応したものとしていく必要があるが、アジアにおける取組は、一部に先進国以上に進んでいるところがある一方で、対応が非常に遅れている国・地域や分野も多い。また、知識集約型経済は、新しい知恵の自由な創出と交流を妨げないよう、知的財産権に関する法制度の整備を要するが、全般に法の運用が円滑に行われておらず、実効性が低い。

(IT経済化に対応した知的資本)

 ニュー・エコノミーの持続的な繁栄を可能とするのはITを有効に活用するための「人」と人に付随した知識・情報、すなわち知的資本が経済成長の源泉として非常に重要となる(第2-5-3表)。IT関連の労働力に対する需要は世界的にも大幅な増加を続けると見込まれているが、アジアでは、中等教育以上への進学率の低さなどこれまでの教育投資の不足がIT分野の人材育成にとって大きな制約となる可能性がある。さらに、それを使う側のマネジングスキル(経営技術)も十分でないことが指摘されている。また、アジアにおける知的資本の水準は、高度なものになるほど遅れが目立つ。この際、国外から力を借りることも重要であり、外資規制の緩和を始めとした民間資金・人材を通じ海外からの技術移転を促するような措置を講じていくべきである。

(リスク・マネーの供給)

 アジアはこれまで間接金融を中心とした経済発展を遂げてきた。しかし、IT経済化が進む中で、新しい技術やビジネス手法を開発し、それを利用した新ビジネスを創出していくためには、将来性があっても創業後まもなく資金を持たないリスクの高い企業へ多大な資金を投入していかなければならない。アジアでは、ベンチャー・キャピタルが国内に少ないことがボトルネックとなっており、投資機会を世界中に求めている先進国のベンチャー・キャピタルを活用するため、今までの直接投資とは性格が異なることを踏まえて外資規制を緩和すべきである(第2-5-6表)