平成9年

年次世界経済報告

金融制度改革が促進する世界経済の活性化

平成9年11月28日

経済企画庁


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はじめに

1997年の世界経済をみると,アメリカでは,7年に及ぶ景気拡大の中で,失業率の一層の低下と低インフレが実現され,企業利益の増大などを要因として,資本を引きつけている。欧州では,主権を異にする諸国の間に共通通貨を流通させるという壮大な実験が始まろうとしている。一方,ASEANなど新興経済諸国の中には,過大評価された自国通貨によって,資本が流出し,通貨が減価した国も出ている。

このように世界経済を概観すると,世界市場が一体化する中で,特に金融面でのグローバル化が進み,それが世界経済にも大きな影響を与えていることが理解される。資本が自由に動く中で,安い資金調達コストと効率的な運用がより一層求められている。金融システムにおいて,世界的な規模での制度間競争が生じており,各国の金融システムも変革を迫られでいる。

現在,アメリカでは,銀行,証券を分離していたグラス・スティーガル法の改正が議論され,より効率的な金融システムに向けて規制の見直しが進んでいる。イギリスは86年のビッグ・バン(証券市場の規制撤廃)により,ニューヨークにならぶ国際金融市場の地位を維持している。イギリスに刺激されて,ドイツでもフランスでも資本市場の改革を進めている。さらに,アジアでは,香港やシンガポールは金融関連規制の撤廃を行い,発展するアジア地域の金融取引の核として発展を遂げてきた。

このように,金融システムの変革が進んできた欧米諸国,香港,シンガポールに対して,タイなどのASEAN諸国は,現在金融・通貨の問題に悩まされている。アジアの成長テンポは現在も依然として高いものの,不良債権の影響が懸念されている。

本年度の世界経済白書は,このような問題意識に沿って,諸外国の事例の紹介と分析を行っている。第1章で世界経済情勢の年間レビューを行い,地域毎に主要なトピックをとり上げる。第2章では,金融の技術革新やグローバル化の中で,各国で行われた金融自由化および金融システム改革について,その要因と影響を分析する。


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