平成9年年次世界経済報告(世界経済白書)の公表に当たって

97年の世界経済を展望すると,アメリカ経済は,景気拡大が7年目に入り,雇用の拡大が続く中でインフレが抑えられ,安定的な拡大が続いています。西ヨーロッパでも,97年に入り,景気回復の動きがみられます。一方,アジアでは,タイなどASEAN諸国において,自国通貨の大幅な減価に見舞われ,景気は減速しています。

近年の世界経済の動向を方向づける要因として,金融市場のグローバル化の動きが挙げられます。為替取引の規制緩和や金融技術革新が進み,より利便性の高い市場を求めて資本の移動が拡大しています。各国においては,利便性の高いサービスを提供し資本を引き込むために一層の金融制度の変革を行い,効率的な金融取引の場を構築する努力をしています。こうした中,アメリカでは,銀行と証券の業務分野規制の見直しが見られますし,ヨーロッパでは,イギリスの「ビッグ・バン」を契機に,フランス,ドイツでも金融・資本市場の改革が行われています。また,アジアにおいて,香港,シンガポールは,東京に匹敵する金融センターとしての地位を確立するに至っています。このような動きは各国の公的金融制度や金融政策運営のあり方にも影響を及ぼしています。

経済・金融のグローバル化に伴い,国際的な制度間の競争はますます高まることが予想されます。我が国としても,規制緩和を中心とした構造改革を果断に進め,利便性の高い金融サービスの場を提供することが,景気の回復だけでなく,世界経済の発展に資する上でも不可欠であると考えています。以上のような認識の下で,今年度の世界経済白書は作成されています。今後の世界経済及び日本経済のあり方を探る上での指針となれば幸いです。

平成9年11月28日

尾　身　幸　次

経済企画庁長官