平成7年
年次世界経済報告
国際金融の新展開が求める健全な経済運営
平成7年12月15日
経済企画庁
第3章 国際金融の新展開と東アジア
【90年代前半の国際資金移動の特色】
・82年の中南米債務危機以降停滞していた途上国への資金フローは,90年代に入り,東アジアや中南米の新興経済向けを中心に拡大している。
・アメリカは,90~93年に資本流出入をともに拡大し,世界の金融仲介機能を高めた。94年に入り,国内の金利上昇を受けて,証券投資を中心にアメリカからの資本流出が減少し,メキシコ通貨危機の背景となった。
【東アジアへの資本の流れ】
・台湾,シンガポール,香港は,80年代半ば以降,恒常的な資本輸出国となっている。
・東アジアへの資金フローは,銀行借款のシェアが低下(80年→90年代前半:62%→15%)する一方,直接投資(10%→45%)と証券投資(2%→23%)のシェアが高まっており,特に直接投資のシェアが高い。
【東アジアの金融統合と国際金融センターの役割】
・香港,シンガポール両市場の国際金融センターとしての発展を背景に,東アジア域内での金融統合が進展しており,国内金利と国際金利との裁定の強まりや,各国の貯蓄率と投資率の相関関係の弱まりが見られる。
・東アジアの金融統合は,シンジケート・ローンや直接投資のみならず,90年代に入り,東アジア市場での起債(ドラゴン債など)や株式上場(中国企業の香港市場上場など)によっても進展している。
【資本流入への政策対応】
・資本流入の大幅拡大は,①インフレ,②為替割高化による輸出抑制,また資本の逆流は,③外幣危機,④金利急騰による景気低迷,などの悪影響を及ぽす。三うした悪影響を回避する諸施策の組合わせが重要である。
・資金移動の規制や不胎化介入は,中長期的には,資本流入の大幅な拡大を抑えたり,その悪影響を減殺することはできない。海外からの資本の安定的流入には,良好な経済ファンダメンタルズの維持が重要である。
東アジアの高成長をもたらしている要因としては,望ましい政策環境(財政赤字抑制で低インフレ,貿易・投資自由化や為替割高化回避の「外向き政策」)や高い貯蓄率などが重要である。平成6年度の本白書(第2章)では,これらの要因が成長を促進するメカニズムについて分析したところである。そのような「実物的」な要因に加え,東アジアが国際金融とのつながりを強めてきたという「金融的」な側面も,東アジアの高成長持続のメカニズムを理解するのに不可欠となってきている。
特に,80年代末頃から,東アジアへの資本流入が活発化し,東アジアの高成長を支えた。資本流入の形態も,直接投資や証券投資の形の資本流入が拡大し,従来の銀行融資主体から大きく変化している。そうした中で,アジアNIEsは資本輸入国から資本輸出国に転じた。また,香港やシンガポールは,国際金融センターとしての役割を強め,主に域内での重要な金融仲介機能を果たすようになってきている。
しかし,90年代前半の東アジアや中南米で見られたような資本流入の大幅な拡大は,インフレや通貨の増価などを生じ,経済に悪影響を及ぼす可能性がある。また,94年末に起こったメキシコ通貨危機は,資本流入の拡大に伴うリスクを明らかにした。
本章では,近年大きく変貌している東アジアと国際金融の相互のつながり(①国際金融の展開が東アジアに及ばす影響,②東アジアが国際金融で果たしている役割)に焦点を当てる。まず,第1節では,90年代前半における資本の流れの変化の特徴や,国際金融センターとしての香港・シンガポール市場の役割などについて分析する。また,第2節では,東アジアの経験を踏まえながら,資本流入の大幅な拡大や資本の逆流に対する政策対応のあり方について検討する。