平成7年
年次世界経済報告
国際金融の新展開が求める健全な経済運営
平成7年12月15日
経済企画庁
第2章 アメリカの財政改革
【財政赤字の現状と見通し】
・連邦政府財政収支は,近年やや改善傾向にあるものの,依然大幅な赤字を計上している。債務残高は,平時としては最高水準(GDP比50%超)に達している。公的年金・医療保障・利払い費が今や歳出の過半(96年度55%)を占めており,構造的に歳出抑制が困難になってきている。・現行制度が不変の場合,21世紀初頭には大幅な赤字拡大が見込まれる。
【アメリカの財政赤字の問題点】
①財政赤字は国内貯蓄を低下させ,国内貯蓄の減少は国内投資の縮小につながる傾向があるため,中長期的な経済成長力を低下させる。
②世代間の公的負担格差が拡大している。政府投資(GDP比)が低下する中での公債累積は,将来世代への公的負担先送りとなっている。また,高齢化の進展で,世代間の受益・負担の歪みが大きく拡大する。
③財政赤字削減の取り組みが不十分で,将来財政赤字が大幅化する場合には,「双子の赤字」が拡大し,ドルの不安定化を招くリスクもある。
【財政収支均衡を目指す動き】
・7年後の収支均衡を目指す予算決議が95年6月に,同決議に基づいた財政調整法案が10月に議会で可決された。11月には大統領も,7年後の収支均衡に基本的に合意するなど,均衡予算への動きが大きく進展した。
【医療・福祉制度改革の展開】
・歳出の中で最も増加率の高い医療支出の抑制が,財政改革の喫緊の課題となっている。民間保険市場の競争を活用する方策の検討が進んでいる。
・連邦政府の福祉政策を州政府に一括委譲しつつ,連邦補助金を大幅に削減する内容の「福祉改革法案」が95年秋までに上下院で可決された。
【抜本的な税制改革】
・①貯蓄不足の解消と②税制の簡素化を中心に,現行制度を抜本的に変革する税制改革論議が盛んになっている。従来の所得税に代えて消費支出のみに単一税率を課する「フラット支出税」が注目されている。
アメリカでは,1995年春に,連邦財政の収支均衡を義務付ける憲法修正案が議会で審議され,下院では大差で可決されたが,上院では可決に必要な3分の2の賛成に1票足らず,議会を通過しなかった。その後も財政赤字削減論議は勢いを失うことなく,95年6月の上下院の96年度予算決議において,7年後の2002年度に収支均衡を目指すことが目標とされた。一方,それまで,財政収支均衡を目指すことに反対していたクリントン大統領も,95年夏には10年後に収支均衡を目指す対案を提示し,11月には,収支均衡の目標期限を2002年度とすることについて,議会と基本的な合意に達した。また,議会を中心に福祉制度や公的医療保険制度について大幅な改革案が提案されており,税制に関しても,税率の単一化を図ろうとする大胆な税制改革案が検討されている。本章では,こうしたアメリカ財政の政策課題と,その取り組みの状況について検討する。
第1節では,財政赤字の現状と問題点を見る。最近の財政均衡を目指す動きなどが,一時的な保守回帰に過ぎないと見ることはできず,今後の高齢化の進展などを踏まえた不可避の取り組みと捉えられるべきことを検証する。第2節では,予算制度,社会保障制度,税制について,具体的な取り組みの内容と今後の見通しを明らかにする。