平成6年
年次世界経済報告
自由な貿易・投資がつなぐ先進国と新興経済
平成6年12月16日
経済企画庁
第3章 先進国の雇用と途上国からの輸入拡大
【先進国の輸入増加と失業増加】
・先進国の製品輸入は増加しており,特に途上国からの輸入割合が高まる傾向にある。また,途上国からの追い上げもあり,工業製品に関する先進国の比較優位は変化している。
・70年代後半から,先進国では失業者が増加している。途上国からの輸入増加が,一部製造業の非熟練労働者の雇用を減少させた可能性は否定できない。しかし,雇用減少の大きさは非常に限られたものである。
【先進国の輸入増加と賃金抑制】
・80年代に入って,い〈つかの先進国では実質賃金の伸びが鈍化したり,下落している。このような賃金の抑制に,途上国からの輸入増加が与えた効果はほとんどないと考えられる。
・先進国では熟練労働者の賃金は上昇しており,また一部の国では非熟練労働者との賃金格差が拡大している。これは,熟練労働者が相対的に供給不足になっていることを示している。非熟練労働者の技能水準を高めるような教育や職業訓練を行うことが,賃金格差拡大や非熟練労働者の失業問題に対処するうえで重要である。
【雇用創出と貿易の一層の拡大】
・先進国の失業問題は,基本的に構造的失業の問題であり,景気が拡大しても失業はあまり減少しない。労働市場の硬直性をもたらしている社会保障政策等の制度的要因を,構造的に改革していくことが必要である。
・途上国からの輸入を制限することは,先進国の雇用問題の根本的解決にとって,適切な対処でないばかりか,弊害が多い。先進国の雇用維持・創出のためには,適切なマクロ政策によりインフレなき安定的な成長を持続しつつ,雇用関連政策の見直し,規制緩和,財政赤字削減等の構造政策を合わせて推進していくことが重要である。
東アジア,中南米,東ヨーロッパ諸国等の新興経済が,外向き政策により輸出を伸ばし,成長加速に成功してきたことを,第2章で明らかにした。世界経済の一体化が強まるなかで,途上国が輸出拡大をエンジンとして高成長を続ける一方,先進国経済においては1970年代後半から失業が趨勢的に増加している。こうした状況を背景に,アジアなどからの安い輸入品の急速な増加が,先進国の雇用を奪っているのではないか,あるいは賃金を抑制しているのではないか,という懸念がアメリカ,ヨーロッパの先進国に生まれている。
本章では,途上国の追い上げが,先進国における失業者の増加(第1節)や,賃金上昇の鈍化(第2節)と関係しているのかを検討する。安価な輸入品の増加により,先進国の雇用問題に悪影響が現れているのならば,それは戦後一貫して続いてきた貿易と投資の自由化の流れに対して,見直しを迫る論点を投げかけることになるかもしれない。最後に,先進国の雇用創出と貿易の一層の拡大に向けた取り組みを検討する(第3節)。