平成5年

年次世界経済報告

構造変革に挑戦する世界経済

平成5年12月10日

経済企画庁


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第3章 世界貿易の新たな展開―「戦略的貿易政策」を越えて

戦後の世界経済はGATT・IMF体制の下で自由貿易と自由な資本移動の拡大にリードされ,戦前を上回る高い経済成長を達成してきた。しかし,こうした状況には70年代後半以降大きな変化が現れつつある。

その第1は,不況の長期にわたる継続や,対外不均衡の拡大,更に構造的には戦後の自由貿易を支えてきた米国の相対的な力の低下等を反映して,先端技術産業等において保護主義的措置が増大しつつあることである。かつての重商主義以来,その時代の先端産業を保護・育成し,世界市場におけるシェアを拡大しようとする動きは繰り返されてきたが,特に,近年においては,先端技術産業における「市場の失敗」(規模の経済の存在による寡占化,外部経済の存在)を理由として,先端技術産業分野において政府は市場に積極的に介入すべきとする「戦略的貿易政策」と呼ばれる新たな主張が台頭しつつある。

第2には,EC統合の進展,NAFTAの結成にみられるような地域統合の進展である。

これら2つの問題のうち,地域統合及び地域主義の問題については昨年の世界経済白書で取り上げたところである。本章では,先端産業分野に焦点を当てつつ世界の貿易・投資の動向を概観し,今後,各国が採用すべき政策対応の方向を模索することとしたい。

具体的に,第1節ではまず,先端産業分野における貿易,直接投資の動向など戦略的貿易政策が叫ばれるに至った背景に重点を置きつつ,世界貿易及び世界の直接投資の動向を分析する。

第2節では,先端産業分野を含め,貿易,直接投資を通じ日本・米国等との国際分業を進め,ダイナミックな発展を遂げている東アジアの状況を概観する。

第3節では,戦略的貿易政策の根拠となっている,先端技術産業における規模の経済,寡占的市場における超過利潤(レント)及び外部経済の有無,大きさを検討する。また,先端技術産業が一国のマクロ的なパフォーマンス(成長率,所得,経常収支等)にどの程度の影響をもたらしているのかを分析する。

第4節では,以上の分析を踏まえ,「戦略的貿易政策」に対する総合的評価を行うとともに,各国が目指すべき政策の方向,GATTの新たな役割等を検討する。


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