平成3年

年次世界経済白書 本編

再編進む世界経済,高まる資金需要

経済企画庁


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本  文

はじめに

1990年から91年にかけての世界情勢をみると,東西ドイツが統一され,ソ連の中央指令型計画経済が崩壊し,また,湾岸危機が発生するなど,歴史的な出来事が相次いだ。一方,アメリカ等いくつかの先進国の景気は,90年に後退局面に入り,91年中頃より回復に転じたが,アメリカの景気回復力が弱いことが耳目を集めている。また,世界的な資金不足が生じるのではないかとの懸念が広がっている。GATTウルグアイ・ラウンドは91年内の終結を目指しているものの交渉は難航している。

今回の年次世界経済報告は,このような多くの重要な問題を4つの章に分けて分析している。各章のテーマと分析のねらいは次の通りである。

第1章は,世界経済の現局面とその特徴を取り扱っている。景気分析の立場から特に注目したことは,次の3点である。

第一は,アメリカ,イギリス等のいわゆるアングロ・サクソン系の先進国と日本,ドイツなどの先進国との間で景気の局面が乖離したことである。乖離をもたらした主な要因として,86年以降の為替レートが対照的な動きを示したこと,アングロ・サクソン系の国では不動産投資がブームの後,不況に転じた事をあげている。

第二は,アメリカの景気回復力がなぜ弱いかということである。ここでは,80年代の無理をした景気拡大のツケが景気回復の足どりを重くしていると判断している。90年代に引き継ぐこととなった負の遺産として,財政,家計及び企業の債務問題,不動産不況の問題,さらに銀行部門が脆弱化している問題を順次取りあげて分析している。

第三は,統一後のドイツで採られたマクロ政策が,80年代前半にアメリカで用いられたレーガノミックスと類似していることである。当時のアメリカと比較した場合,現在のドイツでは家計部門の貯蓄率が高い水準で安定していること,財政面でも増税が行われるなど健全な要素がみられる。東独地域の再建が不調に終われば,巨額の財政赤字はアメリカと同様に構造的なものとして持続する恐れがあるが,再建に成功すれば,ドイツの潜在成長率は一段と高まると述べている。

第2章は,ソ連と東欧の経済問題をテーマとしている。ソ連については,経済が破綻するに至った要因を分析した後,政治・経済面での再編成の動向を解説し,共和国間の(経済共同体条約」に含まれている問題点を指摘している。

また,ソ連経済の再建を進める上で重要と思われるいくつかの事項を分析的に取りあげている。例えば,共和国間の経済的相互依存関係が密接なこと,コメコンの仕組みと崩壊に至った原因,戦後の西欧復興のために実施されたマーシャル・プランと欧州決済同盟の考え方と手法などである。さらに,これらの分析を踏まえて西側の対ソ支援について,考え方と方法を論じている。

東欧については,ソ連よりも一歩先んじている経済改革の実施状況と経済の現状及び対東欧支援の実情を述べている。市場経済化を目指す改革では,国営企業の民営化に焦点を当てて,具体的な手法を紹介し,その特徴と問題点を説明している。

第3章は,世界の資金循環と資金不足の問題を分析している。まず,主要な国と地域について,経常収支と資本収支の動向をみた後,世界の資金フローが最近どのように変化しているかを概観している。90年以降の資金フローを地域別にみると,アメリカへの,資金流入が急減している一方,ECとアジア向けが増勢を維持している。

次に,先進国の長期金利が89年末から90年初めにかけて上昇し,その後も高どまっているという現象を取りあげている。長期金利の高どまりは,90年中頃から金融緩和政策を進めているアメリカ経済で特に問題となっている。その原因として,米国債の発行額が巨額であること,資金需要の旺盛なドイツの高金利が波及していることをあげている。

世界経済における今後の資金需給については,特定の前提条件を設けて定量的な試算を行っている。先進国経済の景気回復やドイツの旺盛な資金需要などを背景に資金需要は増大を続けるが,資金供給が追いつかないために,92年,93年には大幅な資金不足が見込まれるという結論を導いている。金利の上昇を伴うことなく,資金不足を是正する措置として,貯蓄の増強をはじめとする政策を提言している。

第4章は,世界の主要な地域で進行している経済関係の新たな結びつきを取りあげている。西太平洋地域では,アジアNIEs,アセアン,中国・香港などの相互依存関係が一層深まりつつあることを分析し,さらに,局地的な経済圏を形成しようとする動きを紹介している。中国については,79年以降の経済改革の動向と現在の課題を説明している。

ヨーロッパでは,ECの市場統合と通貨統合,南北アメリカ大陸では,米墨加自由貿易協定や中南米諸国による自由貿易地域の設立構想を取りあげて,それぞれの進捗状況を説明するとともに,ブロック化への動きがみられることを指摘している。

最後に,地域的な結びつきの合理性と問題点を論じ,ブロック化の動きを牽制,監視する上でも,GATTウルグアイ・ラウンドを成功させる必要があると強調している。


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