平成2年
年次世界経済報告 各国編
経済企画庁
I 1989~90年の主要国経済
第3章 イギリス:景気後退色強まる
90年度秋季財政演説(11月8日発表)で示された政府の経済見通しの概要はつぎの通りである(第3-14表)。
① 91年のイギリス経済は,前半には内需の低下が続き,外需の伸びも主要先進国の成長鈍化が予想されるためあまり期待できず,実質GDPは横ばいとなるが(上期前期比0.1%増),後半には景気は自律的に反転し,急速に回復する(下期同2.1%増)。しかし,91年全体では1%増と81年のマイナス0.2%以来の低い伸びとなる。
② 実質個人消費の伸びは,実質可処分所得増加の鈍化,住宅不況,貯蓄率の上昇などから更に鈍化して,91年には13/4%となる。実質総固定資本形成は,90年11/1/2%減に次いで,91年も21/2%減とほぼ同程度の低下が見込まれている。内訳をみると,民間住宅投資は91/2%減から4%増へと回復するが,企業設備投資が1/2%増から21/2%減と低下することによる。政府投資も,住宅・土地の民間払い下げ(マイナスの投資項目)を推進していることもあって,23/4%減から更に31/2%減へと減少幅が拡大するとみる。在庫投資(変化幅の対GDP比)のマイナスも90年下期1.4%→91年上期2.9%→下期0.8%と調整過程が続き,91年全体でも13/4%(同)の大きいマイナスとなっている。
③ インフレ率は,90年中の一時的上昇要因(人頭税,住宅ローン金利)がなくなること,景気の冷え込み等から91年には急速に鈍化し,10~12月期の前年同期比は51/2%に低下するとみる。
④ 世界貿易(工業品輸出)の伸びは,91年には5%前後と前年に続いて過去5年の平均を下回るが,なお80年代の平均を維持する。この中でイギリスの工業品輸出は拡大を続けるものの,前年の伸びをやや下回るとみる(上期53/4%%,下期51/4%)。特に,イギリスのERM参入の結果,国際競争力の改善のためには,これまで以上に単位当たり労働コストの上昇の抑制に成功する必要性があるとしている。
⑤ 輸出全体の伸びは,90年41/2%から91年21/2%に鈍化するが,輸入の伸び率鈍化(21/2%→11/4%)から貿易収支は引き続き改善し,経常収支赤字も110億ポンド(対GDP比11/2%)に縮小するとみている。
なお,本見通しは,①91年度の財政収支の均衡,②石油価格は,91年末には1バーレル当たり25ドル近辺にもどる,などを前提としている。