平成2年
年次世界経済報告 本編
拡がる市場経済,深まる相互依存
平成2年11月27日
経済企画庁
―本 文―
世界経済は8年目の息の長い景気拡大の局面にあるが,インフレ抑制のために金融引締めを続けてきたアメリカ,カナダ,イギリス,オーストラリア等で景気鈍化が目立ってきた。日本や大陸ヨーロッパでは,これまでのところ概して好調な景気拡大が続いている。もっとも,イタリア,フランスでは好調を維持しつつも,減速局面に入りつつある。アジアNIEsでも最近成長が減速している。
こうした中で8月初めにイラクによるクウェイトへの侵攻が起き,石油価格が急騰した。今回の場合,過去2回の石油危機と比べ石油価格の上昇率が小さいこと,総じてみれば,各国経済の石油依存度が低下していることなどから,石油価格上昇による世界経済への影響は比較的小さいものになるとみられるが,それでも,世界各国で物価上昇圧力が高まるとともに,世界景気の鈍化が明瞭となり,いくつかの国では景気後退に突入することが懸念されている。とくに,石油依存度め高い非産油途上国や東欧諸国では国際収支と成長にかなりのマイナス効果がもたらされるおそれがある。
一方,昨年末の東欧の政治体制の変革の後を受けて,今年に入って,ドイツの統一が実現されたことに加え,ソ連・東欧諸国の市場経済移行という歴史的大変革が起きつつある。これらの国では,過渡期の混乱に伴い,大幅な生産の低下,モノ不足,コメコン貿易の縮小等がみられ,市場経済移行の道のりは険しいものとなっている。
こうした大変革は,世界経済に大きな影響を及ぼしつつある。まず,ドイツの統一はEC統合への政治的なモメンタムを高めつつある。次に東ドイツと東欧の市場経済移行と西側への門戸開放は先進国製品に対する需要を増加させるとともに,経済再建のための投資資金需要を増大させつつある。このような動きは,景気鈍化がみられる国を含めて先進国の設備投資の伸びが依然高い中で,アメリカの財政赤字や途上国の資金需要と相まって,世界的な貯蓄不足を引き起こすのではないかと懸念されている。
他方,1983年以降の長期にわたる世界的な景気拡大をもたらした要因として,貿易と直接投資の拡大を通じる世界経済の一体化とも呼ぶべき相互交流の活発化の傾向を見落すことはできない。このような貿易・直接投資を通じる相互交流の活発化は,自国及び相手国の構造調整を進め,その効率性を高めただけでなく,両国の経済活動の中に深く組み込まれ,もはや切り離せない重要な部分を形成している。こうした動きが強まった背景には貿易自由化,資本移動の自由化,EC統合と,企業活動のグローバル化があるとみられる。今後,このような世界経済の一体化は更に強まるとみられるが,そうした過程で各国の一層の門戸開放と諸制度の調和がますます重要な課題となろう。
本報告では,以上のような問題意識の下に,第1章で,石油価格高騰で今後の景気拡大がどのような影響を受けるか,世界の貯蓄投資バランスはどう変化するか等の問題を検討する。
第2章では,ドイツ統一が世界経済にどのような影響を及ぼすか。EC統合がどのような影響を与えてきたか,今後加速するかどうか等の点を検討する。
第3章では,ソ連・東欧の経済システムがどのような問題を抱えているのか,今後の改革のための課題は何か,を検討する。
第4章では,貿易・直接投資の拡大が,各地域の構造調整にどのように寄与してきたか,世界経済の持続的な拡大のための条件は何か,エネルギー・地球環境問題にいかに対応すべきか,等の問題を検討する。