平成元年
年次世界経済報告 各国編
経済企画庁
I 1988~89年の主要国経済
第3章 イギリス:景気拡大の減速
政府は公式の経済見通しを春と秋の年2回発表している(1975年産業法)が,その最新の89年度オータム・ステートメントでみた概要は以下の通りである(第3-10表)。
① 実質成長率の鈍化…89年の実質成長率を2%へと相ついで下方修正(88年秋3%,89年春2%%)。北海石油生産の回復の遅れが主因。90年についてはI1/4%と更に大幅に低下し,80年代初の不況期以来の低水準となる。89年の成長の牽引力である設備投資が,89年の実質9 1/4%増から90年には4 1/2%増に低下し,民間住宅投資は89年10%減,90年5 1/2%減と低下が続き,総固定資本形成では,89年5 1/4%増,90年1 3/4%増となるため。
② インフレ率の緩やかな低下…インフレ抑制を最優先としてきたにもかかわらず,89年には予想を上回る上昇が続き,10~12月期の消費者物価前年同期比上昇率は7 1/2%に改訂(春の見通しは5 1/2%)され,90年10~12月期は同5 3/4%と緩やかに低下。
③ 経常収支の大幅赤字続く…89年の赤字は200億ポンド(対GDP比4%)と,88年秋,89年春の見通し(それぞれ110億ポンド,145億ポンドの赤字)から更に悪化。しかし,90年には,輸出の回復(89年4 3/4%→90年6 1/4%)から貿易収支赤字幅の拡大にも歯止めがかかり,経常収支赤字幅も150億ポンドに縮小する。
④ 財政収支は黒字基調…89年度は125億ポンドの黒字(対GDP比2.5%,89年春は143億ポンドの黒字予測)に改訂。歳出,歳入とも予算時の見通しを上回って伸びたが,民営化収益が当初予想の50億ポンドを下回ることから黒字幅は当初より小幅化の見込み。
この政府の見通しは,民間の予測よりもより悲観的であり,例年とは逆のパターンとなっている。このように,90年についてきわめて厳しい内容となっているのは,蔵相によれば,インフレ克服のために短期的に成長率は鈍化するが,イギリス経済にはこの短期的困難を乗り越える力が蓄えられており,これによって90年代を,80年代の時よりもはるかに良い状態で迎えることができるとみていることによる。