昭和63年

世界経済白書 本編

変わる資金循環と進む構造調整

経済企画庁


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第3章 世界に拡がる構造調整

第1章,第2章でみた経常収支不均衡の縮小,健全な資金循環の維持・拡大のためには,実体経済面での構造調整が必要であることは広く認識ざれており,各国の政策上の進展もみられる。構造調整の概念は幅広く,また,各国に求められている構造調整も各々の経済状況により異なってこよう。しかし,現在各国とも市場原理に基づく構造調整を推進しているところは共通となっている。

主要先進7か国は,トロント・サミットにおいて「構造改革は,マクロ経済政策を補完し,その有効性を高め,また,より堅固な成長の基礎を提供する。我々は,共同しで構造改革の進展を吟味し,構造政策を我々の経済協調プロセスに組み入れるよう努力する」と述べ,個々の国の優先課題を確認している。それによれば,(1)アメリカは貯蓄インセンティブの増大,産業部門の国際競争力強化,カナダでは米加自由貿易協定実施,(2)ヨーロッパは雇用創出,潜在成長力の強化,持続可能な対外均衡パターンの達成のため,92年域内市場統合プ

ログラムの枠内での構造改革の実施があげられている。これらの検討に資するため第2節では,アメリカの国際競争力の強化と米加自由貿易協定,第3節ではヨーロッパの雇用創出上の問題と92年市場統合を取り上げる。次に発展途上国に関しては,アジアNIEsの急成長とラテンアメリカの累積債務問題による低迷が対照をなしている。そして,アジアNIEsにおいては日本への追い上げとASEANからの追いつきの中で,市場メカニズムに促された産業構造の高度化が進展している。ラテンアメリカにおいては,一次産品依存,工業品輸入代替の政策からより市場・成長指向的な工業品輸出指向的政策への転換,その中での財政赤字削減等の構造調整が必要となっている。これらの途上国の構造調整の問題を第4節で取り上げる。社会主義国でも,ソ連のペレストロイカ,中国の経済開放政策はいずれも,自由経済のメカニズムを取り入れようとする構造調整の動きであり,これを第5節で述べる。これら各国の構造調整に共通でかつ,構造調整の進捗状況を端的に表すのは民間設備投資動向である。長期にわたって設備投資が活発な国では,資本蓄積や生産性も高く,構造調整が進展し,成長率も高まろう。設備投資が沈滞している国では,構造調整が遅れ成長率も低くなろう。88年には米,欧の投資は増加しているが,第1節では長期の投資動向を各国について比較する。さらに構造調整のスピードの違いが,各国の経済パフォーマンスの差となって現れ,構造調整の遅れている国では貿易面での保護主義の台頭にもつながることから,自由貿易体制の維持・強化の必要性についても第6節で述べる。


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