昭和60年
年次世界経済報告
持続的成長への国際協調を求めて
昭和60年12月17日
経済企画庁
第1章 1985年の世界経済
1985年にみられた世界経済の動きにみられた特色の一つは,総じて物価の鎮静化が更に進み,主要国にこれまでみられた成長率格差が縮小したことである。
84年央まで著しく高い成長をみせていたアメリカは,それ以降成長速度を低下させている。ドル高の下での輸入の増大が,堅調な内需を蚕食するようになり,設備投資増加率の低下や在庫調整の進展がみられるようになったからである。
他方,日本や西ヨーロッパでは,輸出の増勢に鈍化がみられるものの,総じて内需中心の緩やかな成長をみせている。
西ヨーロッパでは,依然として雇用情勢は厳しいものがある。しかし,物価上昇率は鈍化傾向を示している。アメリカ,日本及び西ドイツなど,既にインフレ率を低下させていた国では,景気上昇が続いているにもかかわらずインフレ再燃の動きはみられず,イギリス,フランス,イタリアなど,これまで高い物価上昇をみせていた諸国でも,物価の鎮靜化が進んでいる。
このような動きを反映して,世界貿易(輸出数量ベース,共産圏を含む)は85年に入ってから増加率を低下させている。84年には前年比9%という8年振りの高い増加をみせていたが,85年には4%増にとどまるとみられている(GATT,9月発表)。
主要国の経常収支不均衡が,ドル高の影響もあって一段と拡大したことも,85年の特徴である。アメリカ力の経常収支は84年の1,015億ドルの赤字から,85年上半期には年率1,243億ドルと更に赤字幅を拡大した。これに対し,日本と西ドイツの経常収支黒字は,1~9月期にそれぞれ年率447億ドル,93億ドルとなっている。フランスでも,84年のアメリカとの貿易収支は約23億ドルの赤字であったが,85年上半期では僅かながら黒字となった。
こうした経常収支不均衡は貿易摩擦激化の一因となり,アメリカなどでは保護主義的な動きが強まっている。他方,不均衡の背景にはアメリカの財政赤字があるとして,その削減を求める声も高まった。輸入の増大がアメリカの国内需要の伸びを蚕食するなど,ドル高による問題点が明らかになるにつれ,アメリカも財政赤字削減に本格的な取り組みをみせるようになった。また,金利の低下にも示されているように金融緩和にも一層の進展がみられる。
為替市場においては,ドル高修正が進展するようになった。85年2月末のピークから,ドルの実効変動レートは9月中旬まで10.7%下落していたが,主要国による為替市場への介入が行われたこともあり,その後11月14日までに更に6.8%の下落となった。最近2,3年来,世界経済にとって少なからぬ撹乱要因となっていたドル高が修正されつつあることは歓迎されるべきことであり,今後も各国の政策協力等により,この傾向が定着することが望まれる。
他方,発展途上国には多くの困難がある。アメリカ経済の拡大速度の鈍化は,アジアや中南米諸国などアメリカへの輸出依存度の高い諸国に大きな影響を与えている。東南アジア諸国の多くは成長率を低下させているし,中南米諸国は貿易収支を悪化させている。こうした動きには,従来の回復期と異なり,一次産品価格が低迷していることも影響している。SDR換算ロイター指数は,84年5月ごろから急速な低下をみせ,85年に入ってもその傾向は変らず,一次産品輸出国に大きな影響を与えている。