昭和60年
年次世界経済報告
持続的成長への国際協調を求めて
昭和60年12月17日
経済企画庁
1985年の世界経済をみると,全体としての緩やかな上昇の中で,次第に景気拡大速度を低下させる国・地域が多くなっている。今回の景気上昇の原動力はアメリカ経済の急速な拡大であったが,その速度に鈍化がみられるからである。
他方,西ヨーロッパ諸国は,総じて緩やかな景気拡大を続けているものの,雇用情勢は依然厳しい。
発展途上国,特に新興工業国は,アメリカへの輸出増で景気回復のきっかけをつかんだ。しかし,85年に入ってからは輸出の伸びの低下など,アメリカ経済の拡大速度鈍化の影響を受け,成長率を低下させるようになっている。また,中南米諸国を中心とする累積債務国は,インフレの激化,アメリカへの輸出伸び悩み等,先行きに不安を残している。景気の回復・上昇に伴って,一次産品価格は上昇をみせるのが通常である。しかし今回の上昇局面では一次産品価格は低迷を続け,こうした産品輸出に依存する国の困難が続いている。
アメリカのいわゆる双子の赤字は,アメリカの持続的成長を制約するものであったが,85年には連邦財政赤字も経常収支赤字も一層拡大するようになった。
アメリカの景気拡大速度は鈍化し,保護主義も激化した。85年上半期中にアメリカは純債務国化したと推定されるが,これは1917年以来のことであった。こうしたことから,アメリカの政策転換の必要性が認められるようになった。
9月下旬,主要5か国蔵相・中央銀行総裁会議が開催され,本格的なドル高修正への動きが進展している。こうした動きがアメリカの経常収支改善に結びつくには時間が必要であろう。しかし,国際的協調の中での大きな前進といってよい。
本報告は,まずアメリカの84年央までの力強い上昇とそれ以降の成長速度の低下,及び各国への影響などを分析し(第1章),さらにアメリカ等主要国の成長力の検証を行う(第2章)。次いで巨大企業による国際的な生産基地の移動とその背景にあるものを,特に発展途上国との関連で論ずる(第3章)。そしてインフレなき持続的成長への課題(むすび)を取りまとめることとする。