昭和54年
年次世界経済報告
エネルギー制約とスタグフレーションに挑む世界経済
経済企画庁
75年春の景気底入れ以来,78年末までの実質GNP伸び率は平均年率5.4%と,戦後過去5回の景気上昇期の平均5.2%を上回る拡大テンポとなった。その後の実質GNPの動きをみると,79年初の寒波から1~3月期は年率1.1%増と伸び率が鈍化したあと,4~6月期は①全米トラック労組のストに起因する輸送の混乱,③ガソリン・パニックで消費者がショッピングの足に不便をきたした等の要因から,個人消費,設備投資,輸出に悪影響を及ぼし,年率2.3%の減少となり,7~9月期は,ガソリン不足の解消から前期の落ち込みを取戻し年率3.1%の増加を示した。79年は以上のようにジグザグな動きを見せているが,1~9月間の実質GNPを平均して78年10~12月期と比較してみると0.1%の微増にとどまり,国内最終需要では0.2%のマイナスとなり,アメリカの景気は輸出の好調に支えられて横ばいで推移している(第1-1表)。
雇用情勢は景気の頭打ちにもかかわらず,79年11月までの1年間に190万人の増加を示し(78年は1年間に329万人増),1~11月間の平均失業率は5.8%と78年の6.0%を下回った。
物価は高騰を続け,完成財卸売物価の前年同月比上昇率は78年11月の8.5%から79年11月には12.8%となり,消費者物価も同じく78年11月の9.0%から79年11月で12.6%に高まった。
貿易収支赤字幅は,石油輸入額が大幅増加したものの輸出の好調と石油を除く輸入の鈍化により,1~11月累計値の年率で234億ドルと78年の284億ドルから改善を示した。
以上のような経済情勢下で政策運営の最重点目標はインフレ抑制に置かれている。
79年に入って景気が頭打ちとなり,今後景気の悪化が見込まれるという要因については需要項目別に本文第一章第2節などで述べたとおりである。ここでは,各項目別に補足しつつその動きをみてみよう。
(1)自動車部門の落込み大きい個人消費
78年には実質GNPを上回る伸びを示した個人消費は,79年に入り石油価格の引上げ等の要因から物価が高騰した結果実質可処分所得が伸び悩み,1~9月平均の対78年10~12月期比では0.1%増と横ばいになっている。特に貯蓄率は,4~6月期にガソリン不足から消費が減少した結果5.4%に一時的に戻したが7~9月期は4.3%に下がり,1~9月平均してみると4.9%と79年と同水準にある。このように79年の消費活動は一進一退はあるものの,78年末以降ほとんど変っていない(第1-2図)。
財別に消費をみると,サービスを除き耐久財,非耐久財ともに79年9月まででは実質で78年10~12月期を上回る期はなく,物的消費の基調の弱さを裏付けている。中でもガソリン価格の上昇から自動車需要は減少し自動車産業への打撃は大きい。個人消費に占める自動車部門のウェートは,78年10~12月期の6.9%から79年7~9月期では6.2%へと減少している。
(2)増勢維持した設備投資
78年に前年比8.4%と力強い伸びを示した民間設備投資は,79年に入っても,設備投資を除く最終需要が0.1%減少(1~9月平均の対78年10~12月期比)したにもかかわらず,1.9%の伸び(79年1~9月期の前年同期比では7.3%増)を堅持した。この結果同部門の1~9月間の実質GNP増加寄与率は133%と輸出に次いで景気の下支えをした。
また,79年10,11月の商務省投資予測調査では,79年の実績見込みは名目14.7%増,実質5%増と,7,8月調査における同名目13.7%増,実質4.0%増から上方改訂された。80年についても同調査によれば,上半期は実質で前期比1.5%増,前年同期比約4%増という調査結果となっている。
これは,①製造業稼動率が1~9月平均86%に高まっている(78年平均84.4%,前回のピークは73年7~9月期の87.8%),②企業利潤(税引)が78年前年比16.3%増のあと,79年1~9月も前年同期比21.4%増と拡大した等を映じたものとみられる。
しかし企業利潤を在庫評価調整後減価償却前利益(非金融法人企業)でみると,1~9月の前年同期比は9.7%増にすぎず,インフレにより表面上企業利潤はカサ上げされているとみられ,また非軍需資本財受注は79年1~3月期にピークに達したあと,4~6月期7%減,7~9月期1.1%減,10,11月の前2か月比1.6%減と軟化している。従って,最終需要が今後頭打ちから減少に向かうとみられる中で設備投資も景気にやや遅れて減少傾向を強めると考えられる。
(3)住宅投資は緩かな減少
78年には急速な金利上昇があったにもかかわらず住宅投資(実質GNPべース)は,前年比4.2%の増加となった。しかし78年4~6月期をピークにその後79年7~9月期まで連続5四半期連続のマイナスを続けている。これは79年に入っても住宅抵当貸付金利が一貫して上昇し続けたことによるとみられるが,その減少幅は79年7~9月期の対78年4~6月期比で7.1%の減少にとどまっており,74年景気後退前のピークである73年1~3月期から5四半期目までの落ち込み幅27,3%に比較すると予想外に力強いといえる。
住宅着工件数でみても78年の202万戸に対し,79年1~10月は年率176万戸となっている(73年205万戸に対し74年は134万戸へ減少)。
この要因については,本文第1章第2節で述べたとおりであるが,その後の記録的な高金利から貯蓄金融機関への資金流入減少が目立ち始め,住宅金融機関の資金枯渇問題が再び注目されている。これに対し10月下旬FHLBB(連邦住宅貸付銀行理事会)とHUD(住宅・都市開発省)は住宅金融円滑化の新措置(第1-3表)を発表した。
今回の措置で短期的対応は可能と思われるが,現状の高金利はしばらく続くと予測されるため,資金のアベイラビリティの低下は避けられないとみられる。11月発表の商務省の建設支出予想では,79年の住宅着工件数実績見込み175万戸に対し80年は140万戸(前年比20%減)とされている。
(4)反応速い在庫管埋
78年後半からの在庫投資(72年価格GNPベース)の動きは,78年7~9月期から79年1~3月期まで,120億ドル台で推移したが,4~6月期は最終販売の減少から181億ドルに増加した。79年7~9月期は,最終需要が前期比1.6%増に対し生産の伸びを低く抑えた(0.2%増)結果,71億ドルに低下した。
在庫水準を事業在庫率(名目)でみると,最近のボトムである78年12月の1.39から79年4月に1.44まで上昇した後11月には1.41に低下している。事業在庫率は79年1~11月平均では1.41と78年平均の1.42と比較してもむしろ低水準であり,企業の適正在庫維持への反応は速いとみられる。
従って今後予想される最終販売の減少に見合った在庫調整は不可避と予想される。しかし79年10月現在で過剰在庫は一部業種に限られており(特に自動車部門),75年に経験したような景気の回復過程に入ってまでも調整が長びくことはないと思われる。
(1)鉱工業生産も頭打ち
78に最終需要の増加を反映して前年比5.8%の増加となった鉱工業生産は,79年に入り先に述べたとおり需要の頭打ちと慎重な企業の在庫管理から3月をピークに横ばいで推移している(第1-4図)。財別にみると,個人消費支出(実質GNPベース,耐久財消費および非耐久財消費の合計)が79年7~9月期の対78年10~12月期比1.6%減となったのに伴い,消費財生産も同期間比1.1%減少している(特に自動車を中心とする耐久財の落ち込みが大きい)。一方企業設備財の生産は,受注が低下傾向を見せ始めてはいるものの水準は高く,財別には79年で最も高い伸びを示している(第1-5表)。
(2)サービス産業に依存した雇用の増加
78年は景気の拡大とともに就業者数は1年間に329万人(77年12月から78年12月まで)増加し,失業率は77年平均7.0%から78年同6.0%へと改善した。79年においても雇用情勢全般については,1~11月間の平均失業率が5.8%と78年平均を下回った。
就業者数の動きを79年11月までの1年間についてみると第1-6表のようになる。この1年間に就業者数は190万人増加したが,増加寄与率では成人女性層が76%と圧倒的(前年同期間では55%)で同部門の失業率は5.8%から5.5%へ低下している。これに対し,成人男性の就業者の伸びはこの1年間で1%にとどまり,労働力人口の伸び率1.4%を下回り,失業率は3.9%から4.3%へと高まっている。産業別には,特に製造部門における雇用吸収力が需要の低下も加わって極端に鈍化している(被雇用者数伸び率4.2%→0.6%)。一方サービス業部門は79年に186万人増加し,全就業者数増加寄与率は98%(78年は72%)に達し,79年の雇用の伸びを一手に吸収した形となっている。
(1)物価高騰続く
79年の物価は,年初の食料品の値上がり,6月のOPEC原油の価格引上げ,秋以降の住宅ローン金利上昇等による住宅費の値上がり,さらに生産性伸び率を上回る賃金上昇等を背景に高騰が続いた。
完成財卸売物価は,春から夏にかけて食料品価格上昇が鈍化したことから1~3月期の前期比年率14.0%高から4~6月期は9.2%高に鈍化したが,その後石油価格の上昇が加わり1~11月間の前年同期比では10.9%高と昨年を大幅に上回った(第1-7表)。
消費者物価は,食料品価格が卸売物価にやや遅れて鈍化したものの,エネルギー価格の高騰などから1月以来年率2桁の上昇を続け,1~11月間の前年同期比では卸売物価同様昨年を上回る11.1%高を示した。また,食料およびエネルギーを除く物価の基調も月を追って高まっている(第1-8表)。
(2)実質賃金の減少続く
1人あたり週賃金(非農業民間部門)は,78年に名目7.8%増,実質0.2%増となったが,79年の1~10月平均を前年同期比でみると名目では7.8%増となっており,実質賃金では2.9%の減少となっており,実質賃金では減少が続いている。
時間あたり賃金の上昇率(名目)でみると(第1-9表),78年の8.6%増に対し,79年1~9月間の前年同期比では9.8%の増加となった(非農業民間部門)。また,この間単位労働コストは,製造業で前年の伸びを若干下回ったものの,サービス業を含む非農業民間部門では,79年1~9月の前年同期比で8.9%の上昇(78年8.0%増)を示した。これはサービス部門中心に女性および若年層を中心とする未熟練労働者の雇用増,また79年1月より公正労働基準法による最低賃金の2.65ドルから2.90ドルへの引上げを含む賃金率全般の上昇によるものとみられる。
大手労働協約改訂交渉による初年度賃上幅(全産業,1,000人以上の事業所対象で生計費エスカレーター条項=COLAによる上昇分を含まない)は,79年1~9月間平均で7.5%と78年平均7.6%とほぼ同率となり,協約有効期間の年平均上昇率も78年平均6.4%を下回る6.1%となっている。しかし,米労働省の調査対象(414の協約妥結数で2,637千人の労働者対象)となった1~9月間の協約改訂下にあった労働者の58%はCOLA適用対象者(78年は37%)となっており,これを除く協約改訂交渉妥結額は初年度で9.1%(78年8.0%),協約有効期間年平均上昇率で8.1%(78年7.1%)と上昇している(第1-10表)。
このような名目賃金率の上昇に対して消費者物価の上昇率は1~9月の前年同期比で10.8%となっており,実質賃金の拡大は難しい状況にある。
(貿易収支)
石油収支の安定していた78年は,農産品,工業品等の輸入を上回る輸出の増加から貿易収支は一貫して改善傾向をみせていた。
79年に入るとOPECによる原油の公式販売価格の相次ぐ引上げ実施により,石油輸入量(石油製品を含む,fasベース)は1~9月間で前年同期比3.1%増だったのに対し,輸入金額は同32.5%増となり,月を追って石油収支赤字幅は拡大する結果となった。しかし,貿易収支赤字幅の石油収支悪化に伴う増加はあまりみられず,4~6月期を底にわずかながら再び改善傾向をみせている。これは本文第1章第2節で述ぺているとおり工業品,農産物の輸出が堅調な伸びを示したことと,石油(含同製品)を除く輸入の伸びが78年に26.0%増加したあと79年1~11月では前年同期比12.3%と景気の停滞から鈍化しているためである(第1-11表)。
(経常収支)
78年10~12月期から黒字に転じた経常収支は,79年4~6月期にトラック運転手労組のストライキの影響による輸出の鈍化や石油輸入の増加などによる貿易収支の悪化から10.6億ドルの赤字となった。しかしその後7~9月期は再び輸出が増加し,石油を除く輸入が景気の停滞から鈍化した結果貿易収支赤字幅が縮小し,さらに投資収益の受取りが順調に増加したため,経常収支は再び7.6億ドルの黒字となった。
79年1~9月間累計ではすでに1.2億ドルの黒字となっており,10,11月の貿易収支(fasベース)も輸出の好調,輸入の鈍化から赤字幅が縮小傾向にあり,79年の経常収支は黒字化する可能性もある。
78年春頃よりカーター政権にとっての経済政策の重点は,すでに経済成長と雇用の拡大から物価の抑制に移っていた。そしてインフレ対策の骨子は78年10月の総合インフレ対策(フェーズII;78年4月にインフレ問題に関する大統領特別声明をすでに発表している)発表をもって明らかにされ,その成果は79年に待たれていた。こうした中,79年初に発表された諸教書は「インフレ抑制を最優先課題とする」旨表明するとともに,緊縮予算,金融引締め,賃金物価の自主規制等により官民協力してこれら厳しい制約に耐えようとするものであった。因に大統領経済報告における経済政策の四大目標は,①インフレの抑制,②政府の効率化,⑧「インフレと戦うに社会的弱者の機能を以ってせず」(具体的には景気後退に陥らせずインフレを鈍化させることができる),④「強く安定したドル」を含む世界経済への貢献(インフレ抑制が結果的にドルを強化することになる)となっていた。
そしてインフレ対策が具体的実施段階を迎えた79年に第二次石油危機が起こり,エネルギー価格の上昇という悪条件が加わり政府はエネルギー対策の早期実行をも迫られることとなった。
(1)賃金物価自主規制策
78年10月の賃金物価ガイドライン(民間部門の自主的協力要請)発表後(詳細については53年版世界経済白書,参考資料,第1章,6参照),同年12月に賃金物価安定委員会は,①賃金基準に関し,フリンジ・ベネフィットの一部(現行健康保険給付水準維持に要する7%を超えるコスト増大分及び現行年金給付水準維持に要するコスト増大分)を7%の賃金基準適用水準から除外する,②価格基準に対し利潤率基準(79年の売上高利潤率を前3か年中の最良の2か年の平均以下とする)を援用しようとする企業に対し,更に利潤額の増加率を6.5%以下に抑えるよう要請する基準改訂を行なった。また同時に委員会は確定された基準に基づき監視活動を行ない79年4月以降違反者の名前を定期的に公表する旨発表した。
こうしてスタートした賃金物価自主規制策は,これに反対するAFL-C IO(米国労働総同盟産別会議)が政府の違反者に対する経済措置を違憲として連邦地裁に提訴する(最終的には連邦高裁において適法判決)など紆余曲折はあったものの,現在当初対象期間(78年10月2日に始まる1年)を改訂し第2年度(改訂後対象期間は78年10月2日に始まる2年間)に入っている。
当該自主規制策の第1年度目の評価は,実質賃金保障制度(基準を遵守した労働者に対し消費者物価上昇率が7%を超えた場合,実質賃金の目減りを防ぐため税金の払戻しを行なう)の税制案が議決されていないにもかかわらず,賃金面では一応の成果をあげたとみられる。これはガイドライン設定後消費者物価上昇率は年率12%を超えているが,賃金は付加給付も含めて約8.5%の上昇にとどまっており, 一般的な労働側の物価上昇分プラス生産性向上分の賃上要求からみれば物価上昇率を超える賃金率となってもおかしくないとみられるからである。
なお改訂後の基準は,賃金ガイドラインが新設の賃金協議会(Pay Advi-sory Board)で検討中のほか(12月末現在)第1-12表のとおりである。
(2)財政金融政策
(連邦財政)
79年1月の予算教書では,先のインフレ対策で発表された「厳しい財政政策の採用」(①80年度予算における連邦支出のGNPに占めるシェアを21%程度に引下げる,②同予算赤字を300億ドル以下に削減する)を受けて,財政赤字は290億ドル,歳出のGNPシェア21.2%という緊縮予算が提案された。これはその後の議会審議の結果歳出額5,476億ドル(前年度比10.9%増),赤字幅298億で第2次予算決議(79年11月)として発表された(第1-13表)。
歳出の内訳は国防費が1,299億ドルと前年度比実質2.5%の伸びと大統領の実質3%増加要求を下回るものとなったほか,所得保障費が1,900億ドル(歳出総額の34.7%)と79年1月の予算教書で提案された1,791億ドル(同34.0%)を上回った。所得保障費の増加は受給者の増加のほか,物価上昇に伴う支給費の自動増加によるもので,予算そのものは大統領のインフレ対策における公約を守る緊縮型となっている。
今後の景気悪化予想から減税要求の動きがあるが,12月末現在政府筋は「インフレが減速するまで減税問題について慎重に取り組まねばならない」としている。
(金融政策)
78年に消費者物価が7.7%に上昇したあと,79年は景気が停滞したにもかかわらず年初来年率2桁の高騰が続き,金融引締め基調は一段と強化されている。特に78年はインフレ抑制よりも為替市場の混乱(ドルの減価)に対処しての引締め策であったのが,79年はインフレ抑制を前面的に言及している(第1-14表)。
第1-14表 4回の公定歩合引上げにおけるFRB当局のコメント
79年の推移を見ると,上半期までは4~6月期の景気悪化から,物価上昇が続いているにもかかわらず特に引締め策は採られず,実質金利の低下を招きインフレ心理に油を注ぐ結果となった。これに対処して7月以降9月まで連続3回,累計1.5%ポイントの公定歩合引上げが実施されたが,物価高騰下で再び7~9月期は景気が上向きやや遅きに失した感がある。その後10月6日には公定歩合の1%ポイント引上げ(11~12%)を含む金融引締め措置が採られた。
これは公定歩合引上げのほか,①銀行信用拡大のために使用される運用負債の増加に対し,当該増加分の8%を準備金として要請する(運用負債には期間1年未満10万ドル以上の大口定期預金,ユーロ・ダラー借入,米国債及び政府機関債を対象とする買戻し条件付売却,連銀非加盟金融機関からのフェデラル・ファンド取入れ等を含む),②通貨供給量増加目標達成のため,金融市場操作対象を従来のフェデラル・ファンド・レート一辺倒から銀行準備の管理により重点を置くこととする等の総合的なものである。
またこの金融引締め策発表と同時に79年10月~12月期のマネーサプライ・コントロールの目標を従来通りM11.5~4.5%,M25~8%に据え置いた(第1-15図)。
(3)エネルギー政策
大統領が77年4月に国家エネルギー政策(NEP)を発表して以来1年半に亘る審議の結果,エネルギー関係5法が78年10月に成立した。その概要は,①エネルギー消費節約のための税制改正,②天然ガス価格規制の緩和による同価格の引上げ,③石炭への転換促進,④電力料金体系の改訂,⑤エネルギー消費節約措量の実施の5項目からなり,政府原案に盛込まれていた消費削減により効果的とみられる原油平衡税(78年以降国産原油価格に対し,80年には国産原油価格を77年当時の国際価格にさや寄せしようとするもの),ガソリン消費税,石油・天然ガス消費税の3,税が廃案となった。
しかしその後,78年11月からのイランの大幅減産,同年12月および79年3月のOPEC原油の公式販売価格引上げ決定(3月のOPEC総会ではさらに割増金の賦課が各国の自主的判断に委ねられた)による石油をめぐる国際環境の悪化から,大統領は79年4月に新エネルギー政策(NEP,PhaseIIともいう)を発表した。この申で前回廃案となった国産原油価格統制の段階的撤廃を再度登場させ,これによる石油会社の利益に「超過利得税」を賦課し,その税収を「エネルギー安定基金」としてプールし,これをエネルギー開発投資,大量輸送システム導入助成,一部低所得者救済に充てるものとした。
また6月にはソーラー・ハウスを唱える「太陽エネルギー・メッセージ」を発表し,4月発表のエネルギー政策とともに,78年10月成立の5法とは別に150万バーレル/日の石油輸入削減が可能とした。
さらに7月大統領は再度エネルギー計画(NEP,PhaseIIIともいう,正式1ζは石油輸入削減への大統領計画)を発表し,90年までに石油輸入量を450万バーレル/日削減するとして,超過利得税を財源に90年までの10年間に総額1,420億ドルを充てる代替エネルギー開発,消費節約計画を提案した。この具体的内容は石炭液化・ガス化,オイルシエール,従来開発されなかった天然ガスの開発等のための「エネルギー安定公社」(90年まで880億ドルの予算充当)の設立,石油火力の石炭への転換,超重質原油の開発,住宅や商業ビルの消費節約等で基本的には従来の計画とあまり変わらないものだが,大規模かつ野心的である。
これら一連の大統領計画に対して,消費者,石油業界の利害の対立などから議会審議は遅れているが,石油超過利得税法案,合成燃料開発計画等の重要法案は何らかの形で成立するものとみられる。
79年9月までのアメリカ経済は,GNPの約2/3を占める個人消費が実質個人可処分所得の伸び悩む中で貯蓄率を低下させつつ横ばいで推移し,輸出の好調,設備投資の堅調に支えられて本格的リセッション(定義は2四半期以上連続のマイナス成長)に陥ることはなかった。また10,11月の指標についても,住宅着工件数の減少幅は拡大しているものの依然小売売上は落ち込みをみせず,輸出も増勢を維持しているため,10~12月期の景気は横ばい乃至若干上昇するとみられる。従って79年平均の経済成長率は,政府年央見通し(79年7月)の1.7%を上回り,2%台になるとみられる。
しかし,①貯蓄率が異常な低下を見せ,個人消費支出における内部不均衡は拡大している,②緊縮財政,金融引締め政策を今後も堅持する状況下にある,③エネルギー価格が一段と上昇するなどの要因から,80年はマイナス成長を予測する向きが多い(第1-16表)。ただ,在庫,設備投資に前回不況のような投機的行動は見られず,貿易収支の改善も見込まれるため景気の落ち込み幅はそれほど大きくないと思われる。景気の回復は80年後半になると
見る向きが多く,増勢テンポもインフレの鎮静化があまり期待できないところから緩慢なものとなろう。
1979年のカナダ経済は,78年に比較して実質GNPの成長率はやや低下するとみられるものの,生産は緩やかに増大し,雇用情勢は多少改善が進み,民間の設備投資は活発に推移している。消費支出は政策的努力に支えられ総じて漸増しているが,物価は依然として高水準にあり,かつ経常収支や財政収支は大幅赤字が継続しているため数次にわたる金利の引上げと抑制的な財政運営が続けられている。不確定な国内政治情勢及び内外のエネルギー価格の一層の上昇に直面する80年のカナダ経済は,予測されるアメリカ経済の後退の影響をはじめとして,かなり困難な状況に置かれるものとみられている。
78年の実質GNP成長率は,前年比3.4%と,77年の2.4%からやや立直りをみせたが(政府の当所目標値は5%),これは総じて直接及び間接税減税の効果が現われた個人消費支出の伸びと民間設備投資の増大,カナダドルの低落やアメリカの好況による輸出増に支えられたものであった。79年に入っても,輸出の不安定な動きがあるものの,減税措置等による個人消費支出の堅調,活発な機械設備及び非住宅建設投資の継続等に,年央までの在庫増も加わり,79年の実質GNP成長率は2.8%程度に達するとみられている。
このような需要動向を反映して,鉱工業生産は,ストライキの影響を受けて79年第2四半期にマイナスとなったものの,総じて順調な拡大が続いている。このため労働力の増大以上に雇用の伸びがつづき79年9月までに,失業率は78年同月の8.5%から7.1%までに低下した。
78年には,食料品価格や輸入物価の上昇から対前年比9.0%の上昇をみた消費者物価は,79年も食料品価格の動き等に左右されつつ,夏場の対前年同期比8%台の上昇率から,9~11月の3ケ月に再び同9%台ヘアップしている。又,工業品販売価格も78年第四半期から2ケタの上昇率となり騰勢がつづいている。
一方,賃金上昇率は失業率の漸減,10%近い消費者物価水準の持続等に,物価,所得規制策の撤廃が加わって,全産業の平均週給は78年の対前年比伸び率6.2%から,79年7~9月期には対前年同期比9.2%へと大幅に増加している。
経常収支は,貿易黒字幅が拡大気味に推移しているものの貿易外収支の赤字幅が巨大であるため79年においても,年率50億ドル前後の赤字が続いている。
78年から79年にかけての物価上昇,100億ドルを越える財政赤字,77年から続くカナダ・ドルの低落傾向等を打開するため,トルドー政権(自由党)によって新経済政策(78年8月),緊縮的な79年度予算案(78年11月)及び公定歩合の相つぐ引上げ等の政策措置が打出された。しかし,79年5月の総選挙では進歩保守党のクラーク政権が誕生した。同政権は前政権の政策基調維持の上に積極的なエネルギー政策の展開等を盛りこんだ80年度予算案を議会に問うたが(79年12月)不信任決議を受け,議会は解散され,今後のカナダ経済の行方は,本年2月の総選挙後にかかることとなった。
(1)個人消費:政策が下支え
77年秋より上むきに転じた実質個人消費は自動車や家具などの耐久消費財支出が増加し78年秋まで比較的堅調を続け78年の対前年増加率3.0%を記録した(第2-1表)。これは所得税や小売売上税の減税などの効果と実質可処分所得の伸びによるものであったが78年10月初に小売売上税の減税措置が終了するとともに78年10~12月期は横ばいとなったが,79年に入ると前期の反動もあって,1~3月期は耐久財を中心に盛りかえした。これにはケベック州で州政府による売上税免税措置の終了が4月に見込まれていたため,その地域のかけこみ需要増も寄与したからである。4~6月期の微減ののち,7~9月期は1.3%の増加となったが,これは,4~6月期の79年子女税額控除制度(CHILD TAX CREDIT)による税金の還付等が7~9月期の非耐久消費財等の購入,あるいは臨時リベートの支払いや割引が行われた79年型自動車の購入に向ったものと考えられるが,7~9月期の反転は一時的要因による色彩が強く,消費支出の基調は弱まっているとみられている。
(2)民間住宅投資:長びく停滞
76年から減少に転じた民間住宅投資は77年にマイナス5.1%となったあと,78年にも4.6%の後退をみた。これは新築住宅が急増したにもかかわらず結婚数が徐々に減少していること,住宅抵当金利の上昇(79年7~9月期には,期間3~5年もので,12.5~13.25%と過去最高になっている。)等により需要が減退し,76年以降売残り住宅が大量に発生しているからである。79年に入ってもこの事情は基本的には変らず1~3月,4~6月にいずれも減少をみている。しかしながら7~9月期には,1年ぶりに増加に転じた。民間住宅着工件数でみても(第2-2表),79年10~12月期には13.4%増となっており,今後の動きが注目されよう。クラーク政権は,以上のような長期にわたる住宅投資の減退を防ぐため79年9月に住宅抵当金利の税額控除と住宅所有者税額控除の導入を予定していたが,議会の承認を得られないまま廃案となった。
(3)活発な民間設備投資
78年春に上昇気配をみせた実質民間設備投資(住宅投資を除く)は,機械設備投資が78年4~6月期以来連続6期増加し,また非住宅建設投資もエネルギー関連を中心として79年4~6月期以来大幅な増加を示している。このような投資の急増は,①企業収益の好調(税引後利益で79年1~3月期前年同期比45%増,4~6月期同54%増),②製造業稼動率の回復(79年7~9月期87.1%,78年平均86.6%),③同新規受注の好調(79年4~6月期2.3%増,7~9月期2.7%増)等の要因によるものである。これらの指標の推移を背景として,通産省が79年10月に行った大企業の80年の投資見通し調査結果は総計243.6億ドル(79年実績見込み比10.2%増)となっている。
(4)在庫積増しから在庫取崩しへ
78年春から積増しに転じた在庫投資はその後,輸出及び物的消費の弱まりに影響された「意図せーざる在庫」として79年1~3月期にピークに達したのち,79年7~9月期には農業部門の大幅な取崩しが行われて前期比大幅減少を示している。一般的に在庫は過剰気味であり,今後は更に調整が進むものと考えられる。製造業の在庫・出荷比率は78年7~9月期の1.75ケ月から79年同期の1.86ケ月に増加している。
(1)引続き順調な拡大続く鉱工業生産
78年の鉱工業生産は堅調な個人消費や設備投資の立直りなどから順調な拡大を続けたが79年1~3月期に1.0%増加したあと,4~6月期に前期比1.2%の減少をみた。これは鉱山部門のストライキによるものであり7~9月期には前期比2.6%と増加した。これは逆に鉱山労働者のストライキ終結に伴う鉱業注産の急増及び製造業の回復が寄与したものである。総じて生産はこれまで順調に拡大しているといえよう(第2-1図)。
(2)失業率:かなりの改善
77年,78年は,失業率は8.1%,8.4%と増加基調で推移したが,79年に入るとともに顕著な改善を示し79年9月には7.1%まで低下した。これは生産の順調な拡大によるものと考えられるが,特に製造業における雇用1の拡大,若年労働力の失業率の改善が注目される。しかしながら79年10月以降再び失業率増大の気配があり,今後の雇用情勢は予断を許さず,80年は再び8%台の失業率を生むとの見方もある。
(1)高騰持続する消費者物価と加速する工業品販売価格
78年の主要な消費者物価上昇要因は食料品価格であったが,79年においてもそれが物価上昇率を左右する大きな構成要素であった。すなわち消費者物価は79年1~3月期には食料品価格の高騰により前年同期比9.1%高となり,7~9月期には前年同期比8.7%と,8%台に下落したが,これは逆に食料品価格の安定が寄与したためである(第2-3表)。79年10月以降再び食料品価格の上昇がみられ,また交通費,家賃等も上昇要因となっており,再び物価上昇率が9%台に戻り,今後も上昇が続くものとみられる。
また工業品販売価格は,消費者物価以上のペースで(78年10-12月期から対前年同期比上昇率2ケタとなっている)。加速している。これは皮革,木材,一次金属等の高騰によるものであり,今後はさらにエネルギー価格の上昇が本格化してくるため,一層の加速が懸念されている。
(2)規制廃止後上昇する賃金
78年に前年比6%台と低下した賃金上昇率は,賃金物価規制策廃止後徐々に加速している(第2-4表)。これは基本的に,①高騰を続ける消費者物価,②雇用の拡大,失業率の改善,③企業収益の好調等によるものと考えられる。79年7~9月期の対前年同期比賃上率は9.2%まで高まり,これは1976年7~9月期の9.4%に次ぐ高い上昇率である。今後も大手労組のCOLAの影響等により更に上昇傾向が続く可能性がある。
生産の飛躍的拡大があるとはいえない状況での雇用の拡大,失業率の改善は,結果としてカナダの生産性の絶対水準を低下させているといわれ,それとの関連で加速する賃金上昇率は,単位労働コストの上昇を生んでいる。
貿易動向を通関ベースでみるとカナダドル低落の効果もあって78年10~12月期に対米向け等を中心として輸出は前期比8.9%増となりその後,79年4~6月期には対米自動車輸出の大幅減少,さらには港湾ストも手伝って,同期に前期比マイナスを記録したが,7~9月期には,穀物,非鉄金属を中心として9.9%の大幅増となった。
輸入については,78年10~12月期から機械,トラックなど設備投資関連財の増加が続いたが(同期10.2%増,79年1~3月期6.8%増),4~6月期は国内耐久財需要鈍化を反映して前期比2.2%の減となった。しかし,7~9月期には再び10.3%の大幅増を記録している。このような輸出入の動きの中で,特に輸出の好調から貿易収支の黒字が継続している。けれども貿易外収支の慢性的赤字拡大から経常収支は依然として赤字となっており,総合収支パランスの確保を目的とする高金利政策による資本流入超過が続いている(第2-5表)。
79年の経済政策は,景気が緩やかに拡大しているもののなお力強い歩調を示すに至らない中で,従来からのインフレ抑制や78年のボンサミット以後の新経済政策による財政支出の縮小,効率化を優先する慎重かつ抑制的な施策が実施され,金融面では,77年から急速に減価したカナダ・ドル相場維持のため公定歩合の引上げが,年間計5回にわたって行われた。
(1)財政赤字の縮小努力と選択的刺激策の継続
78年9月に発表された新経済政策は,財政支出の内容を見直し,政策の優先度に従って再配分を行い効率を高めるとともに政府の国民経済に対する規模を縮小することにその目的が置かれた。この新政策の方向づけの下で79年2月に発表された,トルドー政権最後の79年度連邦予算案(79年4月~80年3月)は,79年5月に誕生したクラーク政権の予算案としてそのまま受けつがれた。この予算案は,財政支出の伸びが対前年度実績見込比8.9%増の526億ドルと,79年の名目GNP予想成長率11%を下回る抑制的なものであった(第2-6表)。これに先立って78年11月に発表された歳入予算案は,連邦売上税の減税,個人所得税減税,失業保険料の引下げ,投資税額控除率の引上げ等を主要施策として含み,これらは79年の個人消費支出の下支え,あるいは上昇要因として効果を発揮し,また民間設備投資の増大を継続させる一因となった。
進歩保守党のクラーク政権初の歳入予算案は予定より2~3ケ月遅れた79年12月に議会に提出された。この予算案は財政赤字の圧縮を最大の目標とし,79年度約100億ドルと見込まれる財政赤字を1983~84年度において半減させるとの方針のもと80年度の赤字額を82億ドルに抑えることとし,このため歳出を極力切りつめ,法人税,間接税の増税,失業保険料の引上を図るという厳しい内容のものである。他方,選択的景気刺激策として,低所得層をエネルギー値上げの打撃から保護するためのエネルギー税額控除制の導入,個人所得税減税,企業に対するキャピタルゲイン課税の緩和等も盛り込まれている。またエネルギー政策推進関係としては,①エネルギー価格上昇による増収分吸収を目的とするエネルギー新税,②すべての輸送用燃料に対するガロン当り25セントの消費税の新設,③国内石油価格及び天然ガス価格の引上げ等が予定されている。
もっとも,提案後数日を待たず本予算案に対する議会の不信任決議が採択され,議会も解散されたので,この予算案の実現の行方等は80年2月の総選挙後にかかることになった。
(2)史上最高を更新しつづける公定歩合
金融政策をみると,カナダドル防衛のため78年以来とられている高金利政策は79年に入っても一段とその程度を強め,79年1月から10月まで,合計5回の公定歩合引上げが行われた。すなわち,それまでの史上最高水準といわれた79年1月の11.25%から,11.75%(7月),12.25%(9月),13%(10月)とつぎつぎに史上最高値を更新し,10月下旬の第5回目の引上げにより14%の高さにまで達した。この公定歩合の一連の引上げは,国内のインフレ抑制を目的とするとともに,アメリカの金利引上げに伴い,カナダ金利との格差縮少が進み,アメリカからの資本流入が減少し,結果としての国際収支の悪化,カナダドルの軟化という悪循環の発生を防止するためであった。公定歩合のこのような引上げにより現在アメリカの公定歩合とは,2%ポイントの格差がある。しかし,カナダ・ドル相場自体は,実効為替レートで78年平均1米ドル=1.14カナダドルから79年第3四半期平均1.17カナダドルと依然軟化基調にある。
また,通貨供給量の増加目標率は,78年9月から,Mlの年率増加率6~10%増(基準時78年6月)とされていたが,79年12月に5~9%増とさらに一段と目標増加率が圧縮された。
1980年の経済成長見通しについては,アメリカの景気後退の影響を受け,輸出の不振等を中心に,かなり悲観的見方が強い。
最大のGNPの構成要素である個人消費支出(対GNP比率で約6割)は,減税等の政策的刺激が持続的に行われないかぎり,実質可処分所得が幾分ダウンすることが見込まれ,さらに雇用の改善,物価水準の下落がそれほど期待できない以上,この増加に多くを望めない。79年中は好調であった民間設備投資も,エネルギー関連を除き,米国内の需要の後退から輸出部門を中心に先行きは弱く,また国内エネルギー価格の引上げ,賃金・物価規制政策廃止後,上昇する賃上げ率など,生産コストを上昇させる要因が存在するため79年の伸びを大幅に下回ることも考えられる。住宅建設投資の伸びは,税制上の優遇施策の実現や売残り住宅ストックの減少にかかっている。また在庫投資も調整が進むものとみられる。
以上のような需要の主要項目の弱さから生産も大幅ににダウンするものと考えられ(OECDは80年の生産はゼロ成長と予測している),79年中に多少の改善をみた雇用情勢は再び悪化する可能性が強く,物価についても,食料品価格あるいはエネルギー価格の上昇から79年水準以下への見通しはたたない。また輸出の後退が見込まれる以上経常収支の改善も進まないものと考えられる。
このような景気諸要因の悲観的見方を前提として,79年12月のクラーク政権の80年GNP成長率見通しは1%程度であり(79年実績見込みは3%),失業率も8.3%に再び悪化するとされている。民間予測機関のコンファレンス・ボードは,成長率0.7%,消費者物価上昇率9.3%,失業率7.8%とみており,不信任を受けた政府80年度予算案が実現するとすれば,成長率は更に低下し,消費者物価は10%を上回ることになるなど厳しい見方をとっている。またOECDも1.5%のGNP成長,8.5%の消費者物価上昇率を予測している。
1979年のイギリス経済は,景気の上昇が年央頃までに頭打ちとなる中で,物価は騰勢を強めて春以降二桁上昇を続け,経常収支の改善も足踏みするなど,比較的好調だった前年に比べ情勢は著しく悪化した。
実質GDP(生産ベース)は78年には2.9%増と前2年の平均2.4%増をやや上回る伸びを示したが,79年1~9月期の前年同期比は1.7%増とかなり鈍化した。過去3年余にわたる緩やかな景気上昇がピークにさしかかったのに加えて,年初の悪天候や貨物輸送スト,夏から秋にかけての労働争議の悪化といった不規則要因,さらに, OPEC原油価格の大幅引上げ,5月に再登場した保守党政権による慎重な政策運営なども景気の冷却化を促進したとみられる。
失業者数の減少傾向も79年秋までに頭打ちとなり,失業率も年末には上昇に転じたとみられる。労働協約改訂をめぐる労働争議が頻発したのも79年の特徴であり,生産を大きく阻害し,輸入急増の一因ともなった。賃上げ率も,新政権による自主的賃金交渉方式への移行後,大幅化する傾向を示している。政府は過度な労使対立を回避するため,新雇用法案を提出した。
一方,消費者物価は78年央以降しだいに上昇テンポを高めていたが,79年に入って,原燃料価格の急騰,公共料金の引上げ,賃金コストの上昇などからさらに加速化し,とくに6月の付加価値税の大幅引上げにより上昇率は一段と高まった。79年11月現在の前年同月比上昇率は17.4%で,年初の水準と比較すると約9ポイントも高くなっている。
北海石油の生産が軌道にのり,79年秋には石油自給率が80%に達し,石油収支もほぼ均衡したにもかかわらず,79年1~10月の経常収支は約る億ポンドの赤字となり,黒字基調を続けた前2年と対照的であった(77年2.9億ポンド,78年10.3億ポンドの各黒字)。
保守党の経済政策は,政府の経済面への介入を縮小することを基本としており,6月発表の79年度予算案でも租税の直接税依存度の引下げや政府支出の削減,国有化企業の政府保有株式の放出などにより,政府部門赤字幅を縮小(GDPの約4.5%へ,前年度は5.5%)するなど,選挙公約どおりの財政改革が実施された。金融面でも,インフレ圧力の抑制を最優先とする引締め政策がとられており,予算案発表と同時に最低貸出し金利が2%引上げられた後,11月央にもさらに3%引上げられて17%と史上最高に達した。
こうした引締め政策の強化や第二次石油危機による世界経済の悪化などから,80年のイギリス経済はマイナス成長におち,物価上昇率は二桁にとどまるという,第一次石油危機後のスタグフレーション再来を予想する見方が,政府を含めて多数説となっている。
過去3年余り続いた景気上昇局面も,79年下期に入って,頭打ちから下降に転じたとみられる。
実質GDP(生産ベース)は,第一次石油危機後の不況期(73年7~9月期から75年7~9月期)の落込み(約4.7%減)を76年末までに取もどして,その後はほぼ一貫して上昇を続けており,76年2.2%増,77年2.5%増,78年2.9%増と連続増加した。とくに,78年下期には,①個人消費の堅調化,②設備投資の立直り,③輸出の回復などから盛り上りを示し,前期比年率3.4%増になった。
79年に入ると,年初の悪天候や貨物輸送ストなどから経済活動は大きな打撃を受け,1~3月期には前期比年率2.4%減となったが,その後,個人消費ブーム,輸出の回復などに支えられて4~6月期には同12.1%増と急速に持直し,上期全体では同1.6%増となった。しかし,7~9月期には,個人消費が反落し,設備投資は頭打ちとなり,輸出が伸び悩んだことなどから同8.1%減と再び減少した。
このように四半期別にみると実質GDPは増減を繰返しているが,79年1~9月期の前年同期比は1.7%増と増勢はかなり弱まっており,下期に入って景気は横ばいから下降に転じたとみられる。
(1)弱含みに転じた個人消費
個人消費は77年下期以降,増加基調を続けてきたが,79年の夏から秋にかけて頭打ち傾向を示し,これまで果してきた景気の牽引力も急速に衰えた。
78年の実質個人消費は5.4%増と前年の不振から大きく立直った。79年に入ってからも,年初の悪天候や貨物輸送ストにより一時は落込んだものの増勢を続け,とくに初夏には付加価値税引上げ前のかけこみ購入による消費ブームがみられたために,上期全体では前期比年率6.6%増となった。しかし,7月以降はこのブームの反動もあって頭打ち傾向を示しており,7~9月期の個人消費は前期比実質3.9%減,1~9月期の前年同期比も4.3%増となった。
小売売上げ数量(乗用車を除く)でみても,増税前後の不規則変動期を除いて8~11月の水準を2~5月と比較すると0.8%減とほぼ横ばいとなっている。
79年夏頃から個人消費が横ばいから弱含みに転じたのは,主としてつぎのような要因によるとみられる。第一は,過去2年にわたって続いた耐久消費財の強い増勢が,増税前のブームを経て反転したこと(79年7~9月期の耐久財は前期比17.5%減),第二は,インフレの加速化とストなどによる労働時間の減少から,78年春以来増加基調にあった実質可処分所得が下期に入って伸び悩んでいること,第三は,賦払信用残高が急速な高まりを続け,79年央には個人所得の約7%に高まっていること(76年は4.5%),第四は,貯蓄率が79年に入って低下傾向を示しているものの,インフレの加速化が続いていることもあって,大幅には低下が見込めないとみられることなどによるとみられる。
(2)設備投資は頭打ちから下降へ
78年の総固定投資は民間投資の引続く回復に支えられて前3年の停滞から立直りを示したが,79年に入ると,設備投資にも頭打ちから下降傾向がみられる。
民間設備投資をほぽカバーする産業固定投資(総固定投資に占めるウエイトは約43%)は,第一次石油危機後の不況から早目に回復をはじめ,76年1~3月期の底から78年4~6月期までに約2割回復し,過去のピーク(74年上期)の水準にほぽもどった。その後は,北海石油関連投資がピークを越したこともあって高水準横ばいを続けていたが,79年に入ってからは下降傾向を示している。
これは主として,商業および製造業部門で過去3年以上にわたってみられた回復が,①利潤率の改善傾向が79年に入って,生産,輸出の伸び悩み,原燃料・労働コストの上昇,などから逆転(上期の税込み純収益の営業資産比率は3.5%,前期は5%)していること,②稼働率の回復も頭打ちとなっていること,③金融引締めの強化により金利が記録的高水準となり,資金の借入れが制約されていることなどを反映したものとみられる。
とくに,製造業投資は79年初より下降に転じたとみられ,1~9月期の前年同期比は1.9%減となっている。産業省の投資見通し調査(10月発表)も79年について実質3%減,80年はさらに7%減と連続して低下するとみている。これまで好調だった輸出関連部門で,競争力の低下や輸出受注の不振などが続いていること,またリースに依存する比率が高まっていることなども製造業の投資減退を促進したとみられる。
(3)停滞を続ける住宅投資
民間住宅建築は77年後半から78年初にかけてかなり回復した後,78年中は弱含み傾向を続けていたが,79年に入ってからは,年初の悪天候などにより大きな打撃を受けて情勢はさらに悪化した。このため,79年上期の水準は前期比16%減,前年同期比23.2%減となり,60年代の不況期(66年下期,63年など)にほぼ近い水準まで落ちている。
政府部門住宅の停滞はより深刻で,77年中やや回復したものの,78年は11.9%減,79年上期の前年同期比9%減と大幅減少を続けている。
住宅着工件数でみても,79年上期の前年同期比は民間17.8%減,政府32.9%減となっており,春以降は民間部門を中心にやや回復しているものの,7,8月の前年同期比はそれぞれ2.1%減,18.9%減と依然として低水準にとどまっている。
政府住宅建築の不振が過去3年以上にもわたって続いているのは,前労働党政権以来の政府支出削減方針を反映したものであり,とくに保守党政権は,経済面への政府介入縮小の基本方針から持家住宅の促進をすすめているため今後も政府住宅投資は減少を続けるとみられる。
民間住宅建築が79年に入ってからも停滞を続けている主因としては,①住宅価格の引続く急騰(79年1~9月は約30%高),②高金利により住宅組合への純資金流入が,とくに秋以降頭打ち傾向を示しており(住宅抵当金利は12月に一年ぶりに15%に引上げ),③利用可能な土地供給の制約などがあげられている。
(4)高水準の在庫投資
79年に入ってからも在庫は増加を続けており,製造業の在庫水準は74,75年の不況時よりも2~3%高くなっている。76年下期以降の在庫水準の一貫した高まりは循環的なものとみられ,当初の意図的積増しから最近では意図せざる在庫の比率が高まっているとされる。とくに79年7~9月期には製造業の完成財在庫が大幅に増加した,製造業在庫率(在庫水準/生産)も上昇傾向を続けていたが,79年7~9月期には生産がストなどで低下したこともあって,完成財および半製品を中心に大幅に上昇し,74年10~12月期比5.1%高となっている。もっとも,原燃料在庫率は同9.7%減と引続き低い水準にとどまっている。
(1)伸び悩む製造業生産
鉱工業生産は75年秋に底入れして以来増勢を続け,78年4~6月期には後退前のピークを回復したが,その後は拡大の足が鈍っており,とくに79年に入ってからは,年初の悪天候スト頻発などもあって一進一退を続けている。
北海石油の順調な増産による鉱業部門の好調が続いているものの(78年約40%増,79年1~9月の前年前期比45.2%増),製造業部門では78年0.8%増,79年1~9月0.4%増ときわめて小幅な伸びにとどまっている。とくに,機械部門の生産は78年横ばいの後,79年1~9月も前年同期比1.2%減と不振であった。79年の減産は主として,夏から秋にかけての機械工労組の週二日休暇ストによるものである。
79年には,年初の貨物輸送ストをはじめとして,賃上げや労働時間短縮などを要求するストが相つぎ,1~10月の労働損失日数は約2,700万田に達し,大恐慌期の1926年以来の記録的高水準となった(78年は940万日)。
こうした供給面での制約が,インフレや労働コスト上昇による国際競争力の低下とともに,79年における工業品輸入比率の高まりを促進したと指摘されている。
(2)労働市場の改善傾向とまる
雇用者総数は78年中はサービス部門を中心に緩やかながら漸増傾向にあったが,79年に入ると伸び悩みを示している。78年初来減少傾向にあった製造業雇用が,78年の0.6%減についで79年上期の前年同期比も0.8%減となったほか,これまで好調だったサービス部門の女子を中心とする雇用増も頭打ちとなっているためである。
77年11月の142.4万人をピークにほぼ一貫して減少してきた完全失業者数(新規学卒を除く,季調値)は79年夏から秋にかけて減少傾向がとまり,9月の126.4万人(失業率5.2%)を底に年末にかけて増勢に転じ,12月には129.4万人にふえ,失業率も5.3%にたかまった。
労働需給の変化をより敏感に示す未充足求人数は6月(26.2万人)からすでに連月減少を続けている(12月22万人)。また,新規雇用の雇用期間の短縮が続いているほか,製造業雇用者が離職に抵抗感を強めているなど,需給の緩和はみかけより急速にすすんでいるとみられる。
79年央以降,労働需給が再び緩和に向かっているのは,製造業生産の伸び悩みや景気の先行き悪化が基本的要因であるが,そのほかに前労働党政権が75年夏以降すすめてきた各種の雇用対策の多くが期限ぎれとなったり,規模を縮小したりして,その適用人員も最近では約30万人(7月末現在)へと減少していることも影響しているとみられる。
(1)依然として強い賃上げ圧力
雇用情勢が悪化に向っているにもかかわらず,インフレ加速化が続いていることもあって79年に入ってからも賃上げ圧力は依然として強く,ストライキが多発して生産を阻害し,賃金コストの上昇を促進するという悪循環が続いている。
平均賃金収入の上昇は78年春以降再び加速化をはじめ,78年に前年の9.1%から13.0%にたかまった後,79年1~9月期にはさらに14.4%(前年同期期比)となった。7月までの年間では16.2%高で,前年同月の水準と同一となっている。
とくに,夏から秋にかけては機械工労組を中心とする労働協約改訂をめぐるストが多発し,機械工労組が平均20%の賃上げと労働時間短縮(週40→39時間,81年実施)で10月初妥結したのをはじめ,フォード(21.5%),炭労(平均20%)など大幅賃上げが相ついだ。
このため,79年に入ってからも賃金コスト(製造業)の上昇傾向が続き,78年の12.7%増についで79年上期も前年同期比12.0%増となっている。
大幅な賃上げ上昇に歯止めをかけるため,前労働党政権は賃金収入について年間上昇率に上限を示し,労組が自主的に遵守する方式を75年以来とってきた。この方式ははじめは有効であったが,5・とくに78年8月以降の第4・年次についてはTUC(労働組合会議)ばかりでなく労働党も反対したため効果をあげることができなかった。
保守党新政権は,直接的な賃金規制は行なわない方針であるが,新たな雇用法を制定して,①ストライキ決定は組合員の秘密投票による,②先優権制の緩和,③合法的ピケの制限などによって,組合活動の過激化に歯止めをかけ,正常な自主的賃金交渉にもどる環境をととのえる準備をすすめている(79年12月,議会へ法案提出)。
(2)再び加速化した物価上昇率
消費者物価上昇率は75年夏をピーク(約27%)に鈍化を続け,78年春には7%台へと低下していたが,その後上昇に転じ,とくに79年に入ってからは,付加価値税の大幅引上げなどもあって急テンポの上昇を示し,年末には17%台と再び77年央頃の高水準にもどった。
78年央以降の再加速は,それまでの上昇率鈍化を支えていた①賃金所得の伸びの鈍化,②原燃料価格の安定,③景気回復にともなう生産性の上昇,などの好条件が逆転したことに加えて,保守党政権による税制改革,価格規制の撤廃,公企業価格の見直しといった政策的変更も,物価上昇を促進する要因となったとみられる。
79年9月までの一年間の上昇を品目別にみると,ガソリンの53%高を除いては石油関連価格の値上りは平均を下回っている。しかし,住宅ローン金利や公共家賃の上昇のほか,付加価値税の引上げ(標準税率8%,高率課税12.5%を一率15%へ,6月18日実施)により,7月の消費者物価は一挙に約4%上のせされるなど,政策関連の物価上昇が目立っている。
原燃料卸売物価は77年春から78年初にかけて約6%低下したが,春以降は国際商品相場の反騰もあって強含みとなり,秋までには再び上昇基調に転じた(78年平均は0.7%低下)。79年に入ると上げ足は一段と高まり年初の8%台から10月以降は20%台にのせた。国際商品相場が年初来急上昇を続け,OPECの原油引上げも加わって,ポンド相場が比較的に堅調に推移したにもかかわらず,輸入価格が大幅に上昇しており,1~9月の前年同期比は8.5%高になっている。
工業品卸売物価も78年には9%高と一桁上昇を示していたが,79年春以降は再び二桁上昇となり,とくに下期には上昇テンポをたかめた(上期9.5%高,下期14.7%高)。
(1)依然大幅な貿易収支赤字
78年中は貿易収支の改善がすすみ,赤字幅も前年の17.4億ポンドから11.8億ポンドヘ縮小していたが,79年には赤字幅が再拡大して1~11月で約23億ポンドの赤字となった。もっとも,この大幅赤字の大半は年初の悪天候や貨物輸送ストによるものであり,春以降は輸出・入とも正常化に向かい,赤字幅も急速に縮小し,上期の月平均3.8億ポンドから7~11月には平均1.6億ポンドに縮小した(前年同期の平均は0.9億ポンドの赤字)。
79年の輸出は,年初の大幅な落込みを春以降取もどして上期の前年同期比10.0%増,7~11月同19.3%増と前年(10.3%増)を上回る増勢を示している。数量ベースでみても上期同2.9%増,7~11月6.0%増と前年の4.5%増に匹敵する伸びを続けた。
地域別にみると,EC向けが前年を上回る大幅増となっているほか,その他西ヨーロッパでも顕著に回復しているが,北米向けはほぼ前年なみ,イラン,ナイジエリアなどを中心に産油国向けは大幅減となっている。商品別には北海石油の順調な増産により燃料輸出が約7割増(数量ベースでは約4割増)となっているほか,化学製品の伸びも大きい。しかし,車輛,機械などはストライキなどもあって前年の伸びを下回っている。
しかし,輸入が輸出の伸びを上回る増勢を続けており1~11月の前年同期比は19.1%増(輸出は同14.3%増)と,前年の8%増から急増した。とくに,工業品の伸びは1~9月に前年同期比19.6%と前年(22.6%増)につづいて高率で,なかでも車輛は約4割も増加した(前年3割増)。相対的に高いインフレ率,ポンド相場の回復(78年9.4%,79年1~9月間10.7%,対ドル・レート)による国際競争力の低下に加えて,頻発するストライキが供給を制約したのが主因とみられている。このため,工業品の輸入/国内需要比率はさらに高まって78年央の24.5%から79年央には25.5%となった。
(2)黒字基調の国際収支
経常収支は79年上期には,貿易収支の赤字幅急拡大に加えて,貿易収支も黒字幅が縮小したため前期の黒字から大幅赤字(19.2億ポンド)となった。
下期に入って,貿易収支が回復したことから経常収支も急速に改善している(7~11月の赤字幅5.1億ポンド)。
貿易外収支の黒字幅が79年に入って急減したのは,主として,①北海石油会社による海外への純利子・配当支払い増,②EC財政負担の急増を反映したものである。
資本等収支は79年に入って長・短資とも純流入基調を続けている。とくに,ポンド相場が北海石油に支えられて強含みであることから短資の純流入が78年下期以降大規模化した。また,6,7月の為替規制緩和(外貨持出し制限の撤廃,海外証券投資制限の一部緩和)や10月末の完全撤廃(ローデシア関係のみ12月)の後,民間非銀行部門の純流出が一時的に急増したものの,年末までにはこれも純流入基調に復したとみられる。
こうして資本等収支の黒字幅が経常収支の赤字幅を上回ったため,総合収支は78年下期(約2億ポンドの黒字)についで79年にも黒字基調を読けた(上期14.5億ポンド,7~9月3億ポンドの各黒字)。
これに伴なって,金・外貨準備も78年末以降ほぼ一貫して増加を続けた。
とくに,79年4月末には,金を市場価格で再評価することとしたため,一挙に約4億ドルも増加した。しかし,7月の235億ドルをピークに,下期には減小を続け11月には224億ドルとなった(78年末は157億ドル)。主として,公共部門による債務返済が引続き積極的にすすめられていることによる。
(1)厳しい金融政策の引締め
金融政策は通貨供給量の急増傾向を背景に,77年秋頃から引締め気味に運営されてきた。とくに79年5月再登場した保守党政権は,インフレ抑制の観点から,金融面での引締めを一段と強化した。
通貨供給量M3(ポンド建て)は,79年に入ってからも,春頃の一時期を除いて,高い伸びを続けており,新政権下の最初の半年間の伸びは年率約14%と政府目標(7~11%増,80年10月まで)の上限をかなり上回った。主として,引続き大幅な銀行の対民間貸付け増によるもので,とくに企業向けは利潤や流動性悪化を反映して伸びが大きかった。為替管理撤廃も企業の対外投資のための資金調達を促進したとみられる。中央政府の赤字幅も依然として大きく,国債の市中消化が順調だったものの,とくに7~10月には予想以上に赤字幅が拡大したため政府純借入が大幅にふえた。
こうした通貨供給量の急増を抑制するため,政府は①M3(ポンド建て)についての増加率目標を引下げ(年率8~12%増を7~11%増へ,79年6月発表),②最低貸出し金利の大幅引上げ(79年6月2%,11月3%),③特別預金制度の補完措置による銀行貸出しの量的規制の延長(80年6月まで)などの措置を相ついでとった。この結果,最低貸出し金利は17%という史上最高を記録し,企業の借入れ意欲を抑制している。
(2)財政政策も引締めへ
財政政策は77年秋以後,失業削減に重点を移し,景気刺激的に運営されてきたが,保守党が政権に復した79年5月以降は,金融面での引締めと足並みを揃えて,引締め基調とされている。
79年度予算案は,総選挙(4月末)のため例年よりおくれて6月12日に発表されたが,その内容は政府の経済面への介入を縮小するという保守党の公約に沿った,緊縮色の強いものとなった。すなわち,①租税の直接税依存度を引下げるため,個人所得税について基本税率引下げ(33→30%),最高税率の引下げ(83→60%),基礎控除水準の引上げなど,総額平年度45.7億ポンドの減税を行なう一方で,付加価値税率の引上げ(標準税率8%および割増し税率12.5%を一率15%へ。平年度41.8億ポンド)が行なわれたほか,②政府支出の削減(総額約25億ポンド),③国有化企業の政府保有株式の放出(ブリテッシュ・ペトロリアム社を中心に約1億ポンド)などの措億がとられた。
これにより79年度の公共部門借入れ所要額(PSBR)は82.5億ポンドに縮小し,対GDP比率も約4.5%と前年度(92,5億ポンド,GDPの約5%)をかなり下回ると推定されている。79年度予算措置が景気を抑制する度合は,公共部門の賃上げが大きいこと,支出削減の約1/3が移転支出項目であることなどから,見かけよりは小さく,79年度はGDPの0.2%,80年度1.1%程度のマイナスとNIESR(全英経済社会研究所)はみている。
79年度に入ってからの中央政府一般会計の実績をみると,10月頃から付加価値税率引上げの効果があらわれて来たものの,上半期の歳入の伸びは見通しを下回り,一方,歳出は大幅増を続けているため,赤字幅縮小のテンポは見通しよりややおくれている。
なお,11月初発表された80年度公共支出計画では,支出総額を79年度比実質横ばいとしており,前計画(79年1月発表)の2.3%増と比較すると厳しいものとなっている(79年度予算そのものが6月に削減されているため,実質的には前計画の水準に対して約5%の削減となる)。
内需が自律的な反転期にあったの加え,インフレ加速化を背景とした引締め政策の強化,第二次石油危機によるインフレ・デフレ圧力の強まり,などイギリス経済の先行きは79年末にかけて一段と暗さをました。
「1975年産業法」に基づいて年2回,大蔵省が行なっている経済見通しの最新版(79年11月発表)によると,80年にはGDPが実質2%減,インフレ率は二桁上昇を続けるなど,前回見通し(6月発表)と比較してより悲観的なものとなっている。北海石油の増産が続き,80年中に石油自給が達成されるという有利な条件があるにもかかわらず,内外需とも拡大要因が全くみられないためである。
すなわち,内需については,①大幅賃上げが今後も予想されるものの,物価の上げ幅も大きいため実質可処分所得はむしろ小幅減となり,個人消費は79年の実積見込み4%増から80年には0.5%増へと伸び悩むとみられること,②固定投資は,住宅,公共投資の引続く停滞に加えて,製造業投資も景気先行きの悪化,利潤の低下,金融引締め堅持などから減少が見込まれること,③在庫投資は79年末までに減少に転じ,80年には対GDP比マイナス2%になるとみられること,④政府支出も11月発表の公共支出白書にしたがって実質横ばいと予想されるためである。
輸出についても80年には増加はほとんど期待できないとしている。第二次石油危機による世界景気の悪化から先進国の成長率は1%程度に鈍化し,世界貿易もほとんど伸びないが,イギリスの工業品輸出市場は79年の実質5~6%増についで80年も約4%増と見込まれている。それにもかかわらず,イギリスの輸出が伸びないのは,インフレ高進とポンドの実勢レートが相対的に高く,競争力が低下するとみているためである。
80年の実質GDPの2%低下は,前回石油危機後の74年の低下とほぼ同程度であり,この景気下降過程で失業者数も増勢を続けるとみられる。物価の先行きは,賃金交渉の成行きにもよるが,国際商品相場は世界景気の下降から弱含み,ポンド相場は横ばいとみられるため輸入価格の急騰はしだいに鎮静化に向い,消費者物価上昇率も80年末には14%程度に鈍化すると予測している。
この政府見通しは,これまで発表された民間見通しより最も悲観的である。
西ドイツでは78年央以降景気が拡大し,78年の実質GNP成長率は3.5%となって政府目標を達成した。個人消費が聖調だったこと,住宅建築が増加したこと,公共投資の進捗などの要因が挙げられるが,特に民間設備投資が盛り上ってきたことが景気拡大を自律的なものに導いた。
78年末から79年初にかけて異常寒波や鉄鋼ストの影響から生産は一時的に落ち込んだが,春以降は力強い拡大を続けている。建設投資や機械設備投資の好調持続,輸出の増加や在庫投資増などによるものである。一方,個人消費はインフレの進行などから秋には停滞した。
このような景気上昇を背景に雇用情勢も改善を続けた。しかし,78年中建設価格を除いて非常に安定していた物価は,79年には原油高騰やマルク相場の安定による輸入物価の上昇,付加価値税の引き上げなどから騰勢を強めた。このため,金融政策は引き締め基調が堅持され,79年中に公定歩合が3度も引き上げられ,年末には6%の高水準となった。
(1)個人消費:下期にインフレ悪化の影響
78年の個人消費は実質で前年比3.4%増と前年同様景気を下支えした。その際,消費者物価上昇率の小幅化による実質可処分所得の急増(前年比3.5%)や,消費者償用(とりわけ車・家具)の拡大が重要な要因となった。79年に入ると①ボンサミットの刺激策による年初からの所得税減税や児童手当引き上げ ②半年間延期されていた社会保険年金の年初よりの引き上げ③雇用者数増加による雇用者所得の増加,など諸要因により個人消費は年央まで再び勢いを増した。これには7月1日からの付加価値税引き上げ(標準税率12→13%,軽減税率6→6.5%)前の駈け込み購入の影響もある。
その後夏から秋にかけての個人消費は不振だった。7~9月期番どは実質で前期比1.2%減となり,小売売上数量も3.1%減となった。乗用車新規登録台数も7~11月間に前年同期比9.8%減に落ち込んだ。このような消費不振の原因としては,前述の駈け込み購入の反動や,インフレの悪化による実質可処分所得の減少(第4-2表),外国旅行支出の増加といったことが挙げられる。特に燃料価格の上昇の結果,他領域における消費の減退が想像される。
79年1~11月間の乗用車新規登録台数は前年同期比0.3%減となり,75年以来4年間続いた自動車ブームも過ぎ去った。
(2)機械設備投資:景気拡大の主役
機械設備投資は77年にGNP成長率を大きく上回る伸びとなったあと,78年1~3月期には,為替不安や寒波,労使紛争の頻発などから一時的に停滞した。しかし4~6月期以降は著しい拡大に転じ,78年全体では実質で前年比8.2%増となった。79年に入ってからも機械設備投資は引き続き好調で,建設投資と並んで景気拡大の原動力となっている(第4-1表)。
このように78年央以降機械設備投資を含め民間設備投資が好調なのは次のような理由による。①77,78年と賃上け低水準に収まったことや景気浮揚により企業利潤が改善している,こと―粗企業・財産所得をみると,78年4~6月期以降ほぼ国民所得を上回る伸びとなっている。この結果利潤分配率も上昇し,73年当時の水準まで戻った(第4-3表)。②77年春以来横ばい状態だった製造業稼働率が78年夏から上昇し始めたこと(第4-1図)―78年6月の80.8%から79年6月の84.9%へ上昇している。
機械設備投資の先行指標である資本財国内向け新規受注(除自動車)も,鋼構築物が急増しているほか,一般機械や電機も増加傾向にある(第4-2図)。
また78年に引き続き,79年も資本財輸入の増加が著しい(第4-2図)。
(3)建設投資:引き続き好調
建設投資は73年以降77年まで長い間低迷していたが,78年には前年比実質で4.9%増となり,久し振りに景気のリード役となった。
建設投資が立ち直ったのは,①「未来投資計画」(77年3月閣議決定。77~80年の4年間に総額200億マルク《当初予定160億マルク》を発注する計
79年1~3月期は,異常寒波のため建設投資は前期比9.5%減(実質)となったが,4~6月期にはその反動もあって同17.2%増と急増し,7~9月期もさらに同1.7%増加した(第4-1表)。
建設新規受注は,住宅部門が建築価格の高騰や金利上昇(第4-9図)などから高水準ながら最近は頭打ちとなっているのに対し,産業用建設部門では増加を続けている。また公共建設部門では前述の計画による発注は減少している(79年初から79年9月末までに約28億マルク発注)。
新規受注の水準がなお高水準であること(第4-3図)や,熟練工の不足で生産が受注に追いつかず受注残高が大きいことなどから,建設投資は引き続き堅調に推移することが見込まれている。
(4)在庫投資:大幅積増し
78年秋以降,在庫投資は経済成長にプラスの影響を与えている。その際景気拡大に伴う積極的な在庫積増しの他に,石油価格急騰や,一次産品の値上りを見越しての原材料の備蓄もかなりあったものと思われる。第4-4図のように,原材料輸入数量は78年10~12月期以降急増しており,基礎財の国内向け受注数量も4~6月期には前期比7.7%の大幅増となったあと7~9月期もさらに増加した。
(1)生産:夏まで急増
78年前半に寒波や自動車産業における労使紛争などから停滞していた鉱工業生産は,年央から持ち直し,7~9月期には前期比2.6%の大幅増となった。その後は11月末から1月央まで40日以上にわたる鉄鋼ストがあったことや,異常寒波で建設生産が落ち込んだことなどから,79年初まで鉱工業生産は横ばい状態が続いた(第4-5図)
79年春以降は,鉄鋼や建設生産が力強い立ぢ直りを示した他,消費財,資本財の生産も増加し,鉱工業生産は7~9月期まで急拡大を続けた。こうした中で自動車生産だけは,1~3月期をピークに生産鈍化傾向にある。
製造業新規受注もほぼ以た動きをしている。78年末から79年初の一時的停滞のあと7~9月期まで増加を続けている。しかし,ここでも自動車産業の新規受注が4~6月期をピークに7~9月期は前期比8.5%の大幅減となっている(第4-6図)。
(2)雇用:摩擦的失業とミス・マッチ
79年の雇用情勢は引き続く景気拡大により全般的にはかなりの改善がみられた。まず雇用者数は78年平均の2,158万人から79年7~9月期には2,200万人に増加した。また78年央まで減少していた外国人雇用者も78年末以降増加に転じている。次に失業者数は,75年から77年まで百万人台が続いたが,78年にはかろうじて百万人台を割り,79年7~9月期には85万人へ減少した。失業率も同様に4.4%から3.7%へ低下している。短時間労働者の改善は特に著しく,79年に入ってからは74年以前の低水準になっている。未充足求人数も78年平均が前年比14,000人の増加にすぎなかったのに対し,79年7~9月期には前年同期比で66,000人も増加した(第4-4表)。
このように全体的には改善が進んだものの,地域間,業種間の格差は依然として解決されていない。例えば造船業を抱える北部や石炭・鉄鋼業の中心地ルール地方,ザール地方など,23の雇用事務所管轄地区(連邦全体では146)では,78年の平均失業率が6%を超え,最も高い地区では10%近くになっていた。79年9月時点でも平均失業率(原数値)が3.2%であるのに対し,ルール地区のあるノルトライン・ヴエストファーレン州の失業率は4.0%と高く,最も低いバーデン・ヴエルテンベルク州の1.9%の2倍以上になっている。この・ため政府は,この23地区を対象に,職業訓練の促進や社会福祉関連事業による雇用創出を内容とした「特定地域雇用特別対策」を決定した(79年8月~80年7月まで,総額5億マルク)。この措置は,構造転換を迫られている業種において労働者の熟練化を図ろうとするものである。
他方78年に引き続き79年も,ブーム状態の建設業では熟練労働者が不足し,生産拡大の隘路となった。
以上のように78~79年の労働市場情勢は,雇用の拡大と同時に,摩擦的失業やミス・マッチが目立った。
(1)賃金:小幅賃上げから大幅要求へ
79年度の賃金協約改訂交渉に際しては長期間に亘る高失業の存在,合理化の進行に伴う雇用不安の高まりなどを背景に雇用の確保が重要な課題となった。このため,賃上げよりはむしろ労働時間の短縮,休暇の増加などに重点が置かれた。しかし,労働時間の短縮は新たなコスト増につながるため使用者側の抵抗は強かった。最初に交渉の始まった鉄鋼労組では5%の貨上げと段階的労働時間の短縮(週40→35時間)の要求を拒否され,11月末から1か月半にわたり50年振りのストを行なった。結局4%の賃上げ(15か月間)と82年までに全被用者一律6週間の年休を確立することで妥結した。これを受けてヘッセン州の金属産業でも1月下旬,13か月間4.3%の賃上げ(要求は6.5%)・と82年までに全被用者一律6週間の年休確立を協定した。このヘッセン地区金属産業の協定がモデルとなって他地区の金属産業及びその他主要産業の交渉妥結に大きな影響を与えた。
79年の平均賃上げ率(付加給付を除く)は約4.5%で,78年の5.1%,77年の6.4%に比べかなりの低水準で収まった。
このような低率賃上げに対し組合の下層部には不満が残った。そこへ石油価格急騰による思わぬインフレの波が押し寄せ,夏には消費者物価上昇率は年率5%近くに達し,実質賃金がマイナスになるという事態が生じた。このため穏健な西ドイツ労組の中では戦闘的なバーデン・ヴュルテムベルク州金属労組から,追加賃上げ要求の動きが起った。しかし,組合上層部は労使双方の合意で締結した現行協定を尊重するという賃金自治のたてまえから,追加賃上げは行なわない方針をとった。
80年の賃金協約改定交渉では,企業収益がなお好調を続けていることや,追加賃上げを見送ったことを背景として,79年とは対照的に大幅賃上げに重点が置かれている。賃金リーダーである金属労組は,12月上旬最高10.5%アップの方針を決定した。これをうけて地区ごとに9.5%から10.2%の要求が出されている。連銀は,80年の生産性が2.5%程度にとどまることや,インフレ率も,4~4.5%に収まりそうなことから6%以下の賃上げが妥当であるとしている。石油価格の上昇が続く申で賃上げ動向が今後の経済問題の焦点となっている。
(2)物価:原油高騰による輸入インフレ
78~79年の物価情勢については,本文第3章第2節の2に詳述した。
(1)貿易:貿易黒字の縮小
78年秋から79年初にかけてイラン革命や鉄鋼ストなどの影響で横ばい状態を続けた輸出は,春以降急拡大に転じた(第4-7図)。西ドイツの輸出の約半分を占めるEC諸国での景気回復が決定的要因となったほか,マルク相場の安定も有利に働いた。79年1~10月間の輸出数量は前年同期比7.7%増(78年同期け4.4%増)となり,西ドイツ経済に刺激を与えた。特に,78年において不振だった資本財工業産品の輸出が79年には著しい回復をみせた(第4-6表)。
輸入は内需拡大や,石油価格引き上げ前の駈け込みなどから78年中増加を続けたあと,79年に入ってからも1~10月間に数量ベースで前年同期比9.6%増と輸出の伸びを上回っている。金額ベースでは石油代金の膨張から同18.8%の急増を示したため,貿易収支の黒字が縮小した。
(2)国際収支:14年振りの経常赤字
79年の国際収支は78年とは全くの様変りとなった。78年の経常収支は約176億マルクの大幅黒字だったが,79年1~10月には約80億マルクの赤字を計上した(第4-7表)。79年全体でも80億マルク以上の赤字になることが確実であり,経常収支が赤字になるのは1965年以来14年振りのことである。
この原因はまず第1に,78年にはマルク相場の上昇による交易条件の改善から拡大した貿易黒字が,79年には石油輸入金額の膨張,内需好調による輸入増などにより4割近く縮小したことが挙げられる。次に,78年に増加した投資収益が79年には減少し,さらに外国旅行増も加わって貿易外収支赤字幅が縮小から拡大に転じたことも影響した。
資本収支面では,78年まで赤字化傾向をたどった長期資本収支が79年1~10月には,証券投資流入増から大幅黒字に転化している。
(1)財政政策:上期の個人消費を下支え
79年2月に成立した79年度(1~12月)予算は,ボンサミット関連の減税と歳出増(ネットで約128億マルク,78年GNPの約1%)を含み,歳出額は前年度当初予算比8.0%増となった。これは中期財政計画に盛込まれていた伸び率(6%増)を上回り,財政赤字も前年度より拡大を見込んだ景気浮揚型予算である。79年上期は前述の1月1日からの所得税減税や児童手当増の措置により個人消費に好影響を与えた。
その後7月には,前述の「特定地域雇用特別対策」や企業新規設立促進策などを内容とした第1次補正予算が成立したが,財源は他支出の削減により調達された。
さらに10月,低所得層に対し1回限りの措置として暖房費補助を行なうこと,トルコ援助,エネルギー対策費などを含んだ第2次補正予算が成立した。これらは約14億マルクの支出拡大を伴うものであるが,一方失業手当の減少やその他支出削減が約20億マルクあったため,第2次補正後は差し引き約6億マルク当初予算より歳出額が減少した。また自然増収は全て財政赤字の縮小に充てられた。
79年の西ドイツ経済が予想を上回る上昇を示し,一方石油価格高騰からインフレ再燃の懸念が高まる中,財政面からもインフレを抑制すべきだという考えから,80年度予算の大枠については79年5月時点で前年比5%増とすることが早々と決められた。12月半ば下院を通過(事実上成立)した時点で前年度当初予算比5.2%増と77年度当初予算の同4.4%増に次いで低い伸びとなっている。
政府は80年には,78,79年に中断していた財政の健全化を再び実施する考えであるが,野党はインフレと「累進税率の急カーブ」が原因で生じた税負担の軽減を80年から行うべきだと主張した。この減税論争は80年秋の総選挙も背景となっている。これに対し与党は12月,所得税率構造の是正や児童控除の導入,クリスマス控除などを内容とした,80年末から82年にわたる総額約190億マルクにのぼる減税と歳出増の措置をまとめた。
(2)金融政策:引き締め基調堅持
金融政策は74年秋から78年秋まで緩和基調を保っていたが,その後徐々に引き締め策が導入され,79年に入ってからは一貫して引き締め基調が堅持されている。
78年央以降西ドイツの景気が力強い上昇を示し,資金需要が増加を始め,また秋のマルク急騰により連銀が大量の市場介入を行なったことなどが原因となって,マネー・サプライは高い伸びを続けた。このため10月頃から引き締め策がとられ始めた。
78年の中央銀行通貨は目標増加率(年平均8%)を大きく上回る11.4%となったが,西ドイツでは,マネー・サプライの増加率と物価上昇率との間に強い相関関係があるといわれているため,五大研究所や五賢人委員会などから度々通貨膨張に対する警告が発せられていた。79年の中央銀行通貨の目標設定に当っては,従来の年平均から10~12月期の前年同期比に変更され,6~9%増と幅をもたせたやや抑制気味のものに決定された。
79年に入ると石油価格の急騰などさまざまなインフレ加速要因が出てきたため,公定歩合が3度引き上げられた他,新たな量的規制(ロンバート貸付枠の設定)も導入されるなど厳しい引き締め策がとられたが,流動性がひっ迫しすぎて景気の足をひっぱることのないように部分的緩和策も併用された(例えば手形再割枠の拡大や債券の買オペなど)。
引き締め策の効果から,79年の中央銀行通貨の伸びは6%強と目標値の下限になりそうである。しかし,前年からのゲタが高かったため,年平均べ一スでは約9%増と名目成長率見込みを上回る模様で,民間部門の流動性は潤沢だったといわれている。
80年の中央銀行通貨の目標増加率は11月末,5~8%(10~12月期の前年同期比)と79年より低目に設定され,信用拡大抑制が継続されることになった。
80年の経済見通しに際して大方の意見は次のような点で一致している。
①第2次石油危機により,西ヨーロッパ,日本,アメリカなどの景気が鈍化し輸出が伸び悩む②79年のような規模の減税が行なわれないため,個人消費もそれ程伸びない⑧79年中景気にプラスに作用した在庫投資が80年には縮小する④固定投資は,79年よりはテンポが鈍るものの,受注残の高さなどからみて80年も引き続き景気を支えるとみられる⑤物価上昇は80年中鎮静化傾向をたどるとみられるものの年平均では79年並みにとどまるしかし,固定投資や輸出の増加率の見方に差があったため,秋頃には80年の実質GNP成長率について1.5%から3.5%まで意見が分れていた。年末になると引き続く石油価格高騰からifo研究所が2%へ見通しを下方修正(五大研報告では2.5%)したほか,連銀も3~3.5%を約3%へと,低めの見通しに変更し始めた。
1978年より景気回復に転じたフランス経済は,79年中も緩やかな景気上昇を持続し,経済成長率は78年の3.3%を上まわり約3.5%を達成したとみられる。個人消費は年初より鈍化したのに対し,出遅れていた固定投資は下期に入りやや盛り上がりを示し始めた(第5-1図)。
雇用情勢は一段と悪化し,夏以降,雇用対策の効果もあって求職者数は僅かに減少を示したが,依然高い水準が続いている。
これに加えて,第二次石油危機の発生はその他の基礎的条件をも再び悪化させることとなった。すなわち,78年には不十分ながらも一応の鎮静化傾向にあったインフレ率は,年初より加速し,二桁上昇となったあとも根強い騰勢が続いている。こうした状況から賃金・物価の悪循環構造の強まりが危惧されており,79年に予定されたサービス価格の自由化も80年1月実施へ延期された。また78年に改善された貿易収支も,原油価格の上昇から5月以降赤字に転じた。
こうしたなかにあって,金融政策は通貨防衛,インフレ抑制の観点から引締めが強化された。財政政策はインフレ克服を最重点課題としたこれまでの基本的な運営態度は変えない申で,デフレ効果に対処した景気支持策が実施され,この方向は80年度予算案にも盛り込まれた。
このようにバール・プラン実施後3年目にして,仕上げの年と目差された79年のフランス経済は,緩やかな景気上昇は持続したものの,その成果は乏しく不本意なものとなった。
(1)弱まった個人消費
個人消費は78年には4.O%増と実質経済成長率3.3%を上まわる伸びを示し,今回の景気回復の先導役を果した。しかし79年に入ると個人消費の伸びは鈍化した。これは,実質可処分所得の鈍化に加えて,2回(1月,8月)にわたる社会保障料個人負担率の引き上げも大きく影響している。79年におけるこの影響度は実質可処分所得の0.7%に相当するとみられている(OECD推計)。
個人消費の動向を小売売上げ数量(中央銀行調査)でみると(第5-2図),78年末にかけて家電・自動車・被服等を中心に持ち直し,79年初まで続いたが,その後は基調としては弱含みとなった。すなわち,5月以降も夏頃までは高原横ばい状態をつづけたが,これには耐久消費財(家電製品・家具)を中心に値上りを見越した繰り上げ購入の動きがあったとみられている。こうして9月は前月比5.3%の大幅な減少となり,10月にはやや回復を示したものの,9~10月の前2か月比は2.7%減となった。もっとも,秋に実施された低所得者向け社会給付の臨時増額(20億フラン)は,個人消費の下支え要因となり年末にかけてやや持ち直すとみられる。
このようなインフレ心理の買い急ぎなどの要因により,貯蓄率は78年の18.2%から79年は17%弱に低下し個人消費の鈍化の幅は和らげられたが,79年の伸びは約3.3%(政府見通し,9月)と78年の4%から鈍化したとみられる。
(2)遅れて出てきた民間設備投資
粗固定資本形成は77年の1.3%減から78年には0.7%増と回復を示したものの,他の需要項目との比較では著しく弱いものであった。79年に向けて,自律的景気上昇への鍵とみられた固定投資は,78年10~12月期には前年同期比5.2%増と好伸したが,第二次石油危機による国際環境の悪化と国内景気の鈍化予想から出遅れ,7-9月期に前期比3.1%増となったものの79年の粗固定資本形成は前年比1.75%増(OECD)にとどまるとみられている。
住宅投資は75年以降不振をつづけ78年も前年比1.6%減であった。住宅着工件数も78年8%減のあと,79年上期も前年同期比0.7%減と不振をつづけた。しかし下期に入ると,76年以降高水準にあった売残り住宅は急速に減少し,10年来の低水準となったのに加えて,新規住宅需要も急速な盛り上がりを示した(需要の「強」「弱」の差:79年1月▲54→10月▲5)。これら環境の改善と,8月には住宅建設・省エネルギー投資等の促進策(25億フラン)が決定されたこともあり,高金利持続による影響度にもよるが今後の住宅投資は80年にかけて持ち直すとみられる。
企業設備投資には78年末頃回復の兆しがみられたものの,盛り上がりを示し始めたのは下期に入ってからとなった。このため,INSEE(国立統計経済研究所)の79年の製造業設備投資予測調査は78年11月調査時点の6~7%増から79年11月には1.5%増へ下方修正された。なかでも民間企業の設備投資は出遅れが目立ち,国営企業(フランス電力など)で78年12.3%増,79年9%増と相当な伸びを示しているのとは,全く対照的な動きとなっている。
投資環境では過剰設備の調整過程をほぼ終了し,投資回復の素地は整っている(本文第1章3節)にも拘らず,このように出遅れたのは第二次石油危機の発生に伴い景気の先行不透明から,企業家が慎重な態度をくずさなかったためとみられる。
しかし,企業家の中には,長期にわたる設備投資の不振は生産設備の老朽化を招いており,操業度が比較的高い部門では生産能力の低下が障害となっているとの指摘がみられ,下期に入ってから民間設備投資が盛り上がりを示してきたことは注目される。
政策面でも4月に設備投資振興策(58億フラン)実施され,これからも生産設備の近代化を促す政策努力がつづけられよう。
(3)増加に転じた在庫投資
77年には景気の停滞により意図せざる在庫の増加を招き,78年央まで厳しい在庫調整を余儀なくされた。78年にはいると在庫調整の進展に加えて,景気も回復局面に入ったことから下期より再び在庫投資は増加に転じた。この増加基調は79年に入っても持続され,在庫投資のGDP比率は,78年の1.1%から79年上期は2.1%へと高まった。下期に入っても内外需の堅調を背景に完成品在庫の増加がみられたほか,7~9月期以降石油,一次産品価格の高騰に備えた手当買い等により原燃料在庫も大きく積み上がったことから,在庫投資は79年中景気に対してプラスに作用した。
(1)緩やかな増勢を続けた鉱工業生産
78年初より回復に転じた鉱工業生産(土木・建設を除く)は緩やかな増勢を続けた。79年に入ると寒波やストライキの影響に加えて,企業家がより慎重になったため一進一退のジグザグな動きとなり,上期中は極めて緩やかな増加にとどまった(第5-3図)。こうした中にあって中間財部門は3~4月の鉄鋼ストライキにも拘らず,需要の堅調を背景に比較的好調を持続した。消費財部門も増勢は維持したものの個人消費の鈍化懸念などから緩やかなものとなった。一方,資本財部門は78年末にかけて情報・電子産業部門を中心に急増したが,79年に入ると力がなくなり急速な減少を示した。
79年央以降,鉱工業生産は急増した。これには自動車部門での夏期休暇の変更に伴う労働日数の増加や鉄鋼部門でのストライキからの立ち直り等の特殊要因も指摘されているが,需要が意外なほど堅調を続けたためいつせいに増産に向ったためとみられる。この結果7-9月の平均は前3か月比3.8%増と好伸した(前年同期比7.0%増)。INSEEの景況調査(11月)によれば,企業家の生産見通しは明るさが戻り,受注状況が比較的良好であり,在庫水準もほぼ正常であることから(第5-4図),当面緩やかな生産増加が続くとしている。
(2)厳しさ続く雇用情勢
78年以降緩やかな景気回復に転じたにも拘らず,失業者数は増加をつづけ79年8月まで最高記録を更新しつづけるなど,多くの近隣諸国での改善傾向とは対照的な動きを示し,雇用問題が依然として解決困難な課題であることを浮き彫りにした。このため景気対策とのからみで論議が沸騰し4月には臨時国会まで召集された。
79年8月には141万人(前年同月は125万人)に達した求職者数は,第三次雇用対策(7月実施)の効果もあって9,10月と2か月連続して減少したが,全体として政策内容に斬新さを欠き一時的なものとみる向きが多い。雇用者数増加率も,第三次産業を中心に78年央以降増加しているが,製造業では依然として減少傾向が続くなど,全体として伸びは不十分なものとなっている( 第5-5図)。INSEEの見通し(7月)でも,失業者数は年末には150万人にも達すると厳しい見方をしており,婦人・若年労働者層の供給圧力が引続き強いことを考え合わせると,雇用情勢はなお厳しく80年に向けて未解決の問題の1つとして残されることとなった。
(1)実質賃金の上昇率は鈍化
時間当り賃金率(生産労働者)は,バール・プランの「賃金上昇抑制勧告」もあり,77年から急速に上昇テンポを低下させたが,78年は前年比12.5%増と77年並みになった。79年に入りインフレ率の高まりとともにやや上昇テンポを高めたが(78年12.5%→79年13.O%),消費者物価はそれ以上に上昇したため(同9.1%→約11%)実質賃金の上昇率は鈍化した(第5-6図)。
このように,本年の賃上げが比較的マイルドな水準に収まった背景として,労働組合が雇用情勢の悪化から要求の重点を賃上げよりむしろ雇用の維持ないし拡大に置いたことがあげられよう。一方,最低賃金(S.M.I.C.)は年4回の引き上げが実施され,低所得者層保護の観点から上昇率も14.3%(年末比較)となった。
インフレ率が高まるなかで,80年の賃上げ率の動向が注目される。政府はすでに「実質購買力は維持又は削減」と賃金抑制に対して厳しい姿勢を打ち出している。賃金・物価の悪循環を立ち切ることが出来るか否かが,80年代に向けてインフレ抑制し国際競争力強化を通じて経済の健全化を図ろうとする政府の目標を達成できるかどうかの一つの大きな鍵となろう。
(2)高まった消費者物価
消費者物価上昇率は年初より加速した。78年下期の年率9%から,本年上期は二桁上昇となり,下期に入るとさらに加速し10月には11.3%高(前年同月比)となった(第5-1表)。食料品価格は寒波などの影響から上期に急騰した。公共料金の引き上げや家賃の高騰はサービス部門の上昇圧力となった。工業品価格も78年下期からの卸売物価の上昇を反映して79年に入って加速した。このうち,エネルギー価格は原油価格の大幅値上げから急騰し,10月には18.2%高となった。こうして79年の消費者物価は10.7%(年平均,OECD)高となるとみられる。さらに80年についても卸売物価が14%台の騰勢をつづけていることから,かなり厳しいものが予想される。
こうした中で,政府は78年に着手した価格統制の撤廃の方向はくずさなかったものの(工業製品価格は78年実施),79年に予定されたサービス価格の統制解除は80年1月実施へ延期された。国際環境の急変という外部要因が加わったため,この自由化政策の成否の見極めには月日を要するとみられるが,これからも競争の促進政策と合わせてインフレ抑制の努力が続けられよう。
(1)堅調に推移した輸出
78年の輸出は前年比12.1% (数量ベースで6.0%)の増加と輸入の伸び(同7.8%,実質5.2%)を上まわり堅調に推移した。79年に入ると,近隣諸国の景気上昇から1~3月期13.5%,4~6月期17.5%,7~9月期24.1%と期を追って伸びを高め,景気上昇の大きな要因の1つとなった。商品別にみると,工業品輸出の増加が大きいが,その中でも自動車,資本財輸出の増加が顕著にみられた。このほか,農産物輸出の回復も寄与したとみられる。
地域別には貿易の中心であるEC諸国向けが堅調な増加をつづけた。
一方輸入の動きをみると,内需の堅調と石油価格の上昇から,4~6月期以降輸出の伸びを上まわる増加となった。国内景気の上昇を映じて,工業品輸入(資本財・消費財)が根強い増勢を続けたことに加えて,石油輸入額が急速に高まったためである。石油価格の値上り(10月時点で輸入単価は78年末鄭4%高)に加えて,原油備蓄のために79年の原油輸入数量も前年比7.3%増となったとみられる。
(2)赤字に転じた貿易収支
貿易収支(通関ベース)は78年に19.5億フランの黒字となったあと,79年4月まで黒字基調を維持したが,エネルギー収支の赤字幅拡大などから5月以降赤字に転じ(第5-7図),1~11月で累計107億フランの赤字となった(前年同期は30億フランの黒字)。地域別貿易収支の動向をみると,エネルギー収支の悪化から対OPEC諸国の赤字幅が拡大したほか,対米貿易収支も悪化した。また対ECについても78年につづき赤字となり,先進国市場に対して比較的弱いフランスの貿易構造は改善されなかった。他方,共産圏・非産油途上国に対しては黒字になっている。このほか,商品別にみてもやや自動車部門にかたよりすぎている傾向もみられる。一方,経常収支(季調値)は黒字幅は縮小したものの7~9月期までは引続き黒字基調を維持した(第5-2表)。これは貿易外収支が土木工事・技術供与面での高水準の受取り持続および観光収支の好調等から引続き大幅黒字を記録したためである。本年の経常収支は約50億フランの黒字を達成するとみられている(フランス銀行)。
資本収支の動きをみると,海外金利高から企業の外債発行が停滞したこと,プジョー・シトロエン社の対外大口直接投資などから長期資本収支は大幅な赤字をつづけた。一方,短期資本収支は輸出前受金の流入などから,概ね黒字をつづけ,7~9月期の資本収支は1年振りにわずかながら黒字となった。
79年の政策スタンスは基本的には76年秋のバール・プランの延長であり,インフレ抑制を最重点課題とした慎重な運営がつづけられたが,財政政策では第二次石油危機に伴うデフレ効果に対処して景気支持的な配慮がみられるようになった。金融政策はインフレ率の高まりとともに引締めが強化された。
(1)金融政策は引締め強化へ
金利動向をみるともっぱら通貨情勢を配慮しての動きとなった。短期市場金利は78年3月以降フランの安定と国際収支の改善を背景に,景気の回復テンポも緩やかであったことからゆるやかな低下傾向を持続した(第5-8図)。しかし79年に入ると,物価の騰勢の強まりと近隣諸国の金利引き上げに対応して,フラン防衛の観点より,フランス銀行はコール・レートを高目に誘導した。このためコール・レートは急速に上昇し11月央には12.25%と5年来の高水準に達した。これを受けてプライム・レートも7度にわたる引き上げが実施され11.50%となっている。なおこの間公定歩合は77年8月以来据置かれたままとなった。
通貨供給量(M2)の管理としては,市中銀行に対する基準貸出枠の設定,準備率の操作等による直接的コントロールが主たる手段となった。6月までのM2の増加率は目標値11%を大幅に上まわり,年率14%の伸びを示した。
これは民間資金需要は弱かったにも拘らず,年初から対政府信用が膨張したためである。しかし下期に入り,増勢は鈍化しつつあり,経済省は「79年のM2の伸びは12.5~12.7%の間におさまり,予想名目成長率13.2%を下まわる」と予想している。
なお,引き続き大幅な財政赤字が見込れる80年については,通貨供給量増加目標値は79年と同じく11%と予想名目成長率(11.8%)を下まわる伸びに置き,80年6月までの基準貸出枠も79年よりきつめに設定(79年下期実績比0.5%減)するなど,引締め基調を堅持する方針を明らかにしている。
(2)財政政策
76年秋のバール・プラン以来統合的な景気対策はとらないとの一貫した方針なかで,79年の財政政策は景気に対して選択的な配慮がみられるようになった。
すなわち,4月に設備投資振興策(総額58億フラン,79~80年に渡り実施)がとられ,8月には第二次石油危機によるデフレ効果を和らげるため,建設・公共投資の拡大と社会福祉手当の臨時増額を内容とした総額45億フランの追加財政支出を決定した。一方では,社会保障関係収支の改善のため,財政支出の増加抑制と企業及び個人負担率の拡大の措置もとられ健全財政への努力もなされた。これに加えて雇用対策費の増加等の歳出増に対して,低成長を映じて歳入の伸び悩みから,79年の財政赤字は当初の150億フランより約400億フラン(GDPの1.9%)へ拡大するとみられる(78年はGDPの1.6%)。
80年度予算案をみると(第5-3表),第二次石油危機によるデフレ効果をかなり意識したものになっている。まず歳出面では,公共事業・住宅投資・省エネルギー関連投資助成等の重点施策に加えて国債発行額累積を映じた国債費の大幅増加から,79年当初予算比14.3%増と80年名目成長率11.8%をかなり上まわる伸びとなっている。他方,歳入面では石油会社に対する臨時課税(約5億フラン),及び自動車税・酒税・タバコ消費税等の引き上げ実施の一方,個人所得税に対し物価調整減税(約62億フラン)もあって,79年度当初予算比11.6%の伸びにとどっている。このため,収支尻は79年度当初予算の約2倍にあたる310億フランの赤字がみこまれている。
(3)エネルギー政策
エネルギー政策では,まず2月にエネルギーの安定的供給確保のために石油及びガスの供給先多角化に努力すると共に,原子力発電計画の促進等による石油依存度を引き下げる方針が決定された。また第8次社会経済発展計画案(対象期間81~85年)の重点政策の中にもエネルギー輸入依存度を現在の75%から85年には50%へ引き下げることが盛り込まれた。さらに6月には,石油輸入量を抑制するため,家庭用暖房用燃料に対する割当量削減及び暖房温度の引き下げ等を主内容とした27項目にわたるエネルギー節約策を決定した。これにより80年末までの1年半の間に8.4百万トンの石油輸入節減をねらっている。
80年の経済は,政府見通し(9月)によれば,個人消費の鈍化と世界貿易の伸び率鈍化に伴う輸出の伸び悩み等から成長鈍化は避けられず2.5%になるとしている。もっともこれを達成するには企業設備投資が3.2%へ増加することが必要となる(第5-4表)。OECD及び民間予測機関では,内外経済の不透明さを映じて固定投資もそれほど強くなく,GDP成長率は1.8~2.1%とみる向きが多い。
このような低成長下では雇用の改善は期待できず,OECDでは失業率は6.75%(79年推計6.1%)へ高まるとみている。
物価については,賃金・物価の悪循環が生じないことが前提条件となるが,卸売物価の消費者物価への波及,石油価格や公共料金の引き上げ,タバコ・アルコール税の引き上げ等の要因から,政府は9%と低めにみているが,OECDでは11.5%と厳しい見方をしている。
貿易収支は,低成長に伴い輸入量は減少するとみられるものの,石油輸入額の増大から赤字幅が拡大する。一方経常収支は引き続きサービス部門の寄与から,赤字幅は比較的小幅にとどまるとみられている。
以上のように,バール・プラン実施後3年を経過したフランス経済は下期に入り民間設備投資に動意がみられ始める等底固さもうかがわれるが,インフレ率などの基礎的条件は一段と悪化してきている。こうした中で,再び迫りくる三重苦への対応を余儀なくされており,81年の大統領選挙を控えて,今後の政策運営が注目される。
78年秋ごろからはっきりした回復基調を示していたイタリア経済は,79年に入って労働協約改訂をめぐるストライキの続発によって大きな影響をうけたが,これまでのところ緩やかな拡大傾向を維持している。しかし雇用情勢にはほとんど改善がみられず,物価の騰勢は次第に強まり,秋以降一段と加速している。また,対外面では貿易収支の悪化にもかかわらず総合収支の黒字傾向が続いているが,資本流入の弱まりもあって年央ごろから黒字幅はかなりの縮小を示している。
こうしたインフレ加速のほか内外金利差による短資流出懸念や中東情勢悪化による為替市場の緊張の高まりなどを背景に,インフレ抑制とリラ防衛のため,10月と12月の2回にわたり公定歩合が大幅に引上げられた(10.50→15.00)。また,年初来半年にわたる政治空白のあと成立(8月)したコッシーガ少数連立内閣が発表した80年度予算案(9月末,議会提出)も予想されるインフレ加速と成長鈍化に対処することが狙いとなっている。この予算案ではマイルドな引締めという政策スタンスは堅持されているが,景気下支えに対する配慮もみられる。
いずれにせよ,イタリア経済の緊急課題はインフレの克服であり,このためにも経済3か年計画で示された諸政策の具体化が必要であろう。
実質GDP成長率は,77年には引締め効果の浸透により停滞色を強め2.0%増にとどまった。しかし78年には緩やかながら回復をみせ2.6%増となった。79年には4.3%とかなりの増加が見込まれている(予算・経済省,79年9月)。
78~79年の需要動向を国民経済計算ベース(第6-1表)でみると,78年に入って立直りをみせた景気は秋以降はっきりした回復基調を示し,GDP成長率は下期に年率4.6%と高い伸びを記録したあと79年上期にも4.2%増となっている。こうした景気回復をもたらしたのは,輸出の好調(78年下期11.8%増,79年上期5.7%増),個人消費の立直り(同3.6%増,4.8%増)に加えて低迷を続けていた民間非住宅投資の急速な回復(固定投資は78年上期の1.3%増から下期5.5%増,79年上期3.7%増へ)のほか在庫投資もわずかながら積増しに転じたためである。
需要動向の推移をISCO(国立景気研究所)のビジネス・サーベイによる経営者の受注・在庫判断でみてみよう(第6-1図)。これによると,受注は77年秋ごろを底に回復に転じ78年を通じて急上昇を続けたあと79年央にはストライキの影響もあってやや頭打ちとなっている。こうした旺盛な国内・海外需要によって,完成品在庫は78年春ごろから低下に転じ,この傾向は79年央まで続いたあと極めて低い水準(景気が急上昇した76年の水準を大幅に下回っている)で横ばいとなっている。このことは在庫調整が一巡し,積増しに転じつつあることを示している。
個人消費の動向をみると,耐久消費財の指標としての乗用車新規登録台数は77年の前年比5.2%増から78年には0.8%減と落込んだあと79年には立直り,かなりの増加を続けている(79年1~8月の前年同期比14.0%増)。これを四半期別にみると,78年1~3月期の前年同期比12.3%減のあと期を追って減少幅を縮小したあと秋以降増加に転じ,79年に入っても1~3月期13.2%増,4~6月期8.8%増,さらに7~8月には20.0%と著増を示している。また,百貨店売上高(実質)も78年秋ごろから増勢を高め,79年上期には6%を上回る高い伸びを維持している。このように消費需要が底固い増勢を続けている要因としては物価・賃金スライド制に支えられた実質賃金の上昇持続(79年1~9月の前年同期比3.1%増)が大きく寄与しているとみられる。政府(9月)では79年の個人消費の伸びを4.8%と見込んでいる(78年2.9%)。
固定投資の動きをみると,粗固定資本形成は78年には前年比0.4%減と不振であったが,下期には民間設備投資を中心に急速な立直りを示し,79年には3.4%増(設備投資5.8%増)とかなり高い伸びが見込まれている(9月の政府見通し)。このように投資が立直りをみせたのは,78年秋以降の急テンポな景気回復に伴い設備稼働率が79年1~3月期には75.8%と第1次石油危機後のピーク(76年10~12月期75.6%)を若干上回る水準まで回復したほか企業収益も徐々に改善をみせ,企業マインドにも明るさが出てきたことが指摘されている(ISCO)。
鉱工業生産は78年には緩やかながら回復に転じ前年比1.8%増(77年1.1%増)となったが,GDPの伸び(2.6%)をかなり下回った。しかし生産は秋以降個人消費と輸出に支えらわてはっきりした回復基調を示し,79年に入ってストライキの影響で一時的に落込んだものの,緩やかな拡大傾向を維持しているとみられる。これを第6-3図によって四半期別にみると,78年10~12月期に前期比6.2%の著増を示したあと労働協約改訂に伴うストライキの頻発によって79年1~3月期1.3%増のあと4~6月期には2.6%の減少となった。ISTAT(統計局)によれば,ストライキで中心的役割を果した金属機械・化学部門では6月の生産は前年同月比6%以上減少したが,その他部門では5%程度増加したとしている。しかし生産はスト終了とともに立直り7~9月期1.2%増のあと10月には前月比3.6%の急上昇・を示し,前年同月の水準を10.1%も上回った(OECDではストによる生産の損失は下期には取戻すとみている)。
しかし業種別の動きを79年1~9月期の前年同期比でみると,回復が目立らているのは繊維(14.0%増),食料(7.2%増),化学(5.5%増)などに限られており,輸送機械(0.8%減),金属(0.2%減),機械(1.8%増)はストの影響もあって低迷ないしわずかな増加にとどまっている。
このような生産活動の回復に伴って製造業の稼働率は79年7~9月期には75.5%まで回復した(77年10-12月期71.5%)。とくに中間財部門(71.5→78.7%)での回復が目立っているのに対して投資財部門(70.3→73.4%)ではわずかな上昇にとどまっており(消費財72.1→76.0%),業種間のばらつきが認められる。
雇用情勢は,生産の回復にもかかわらずほとんど改善をみせていない。79年7月の就業者数(原数値)は前年同月に比べ24万人増加したが,サービス部門を中心に労働市場への新規参入がそれ以上に急増した。そのため失業者数も同期間に22万4増加して188万人に達し,失業率は8.3%(回7.5%)と急上昇した(第6-3図,第6-2表)。とくに,若年失業者数(14~19歳)は生産の回復にもかかわらず減少を示さず,いぜん失業者全体の7割以上を占めている。こうしたなかで,議会は雇用維持のため社会保険料企業負担の一部国庫肩代り措置の延長を決定りた,(8月)。今後予想される景気の伸び悩みを考えると,雇用問題の前途はかなり厳しいものとみられる。
リラの堅調による輸入価格の低下や賃金抑制策の効果もあって高水準ながう比較的落着いた動きをみせていた物価は,78年秋ごろから再び上昇率を高め,79年に入って一段と騰勢を強めている,(78年平均上昇率は卸売物価8.4%,消費者物価12.1%)。
第6-4図によって物価の推移を四半期別にみると,卸売物価は78年7~9月期の前期比1.8%高のあと再び上昇率を高め10~12月期には2.3%高となった。79年に入ると異常寒波による食料品の値上がりや石油等一次産品価格の急騰によって1~3,月期には4.4%高となったあと4~6月期4.6%高,,7~9月期4.3%高と高騰が続いている(前年同期比では1月10.1%→10月19.6%高)。消費者物価もほぽ同様に78年7~9月期の前期比2.4%高から79年1~3月期に3.8%高となったあと3%台で推移している。とくに7月末以降,石油製品,新聞代,鉄道運賃,電気料金など公共料金の値上げが目立っており,物価の騰勢は一段と強まっている(生計費の上昇率は6~8月平均1.0%→9~10月2.4%)。
こうした物価の推移を反映して賃金の上昇率は78年夏ごろを底に徐々に高まりをみせ,79年に入ってそのテンポは加速している。これを最低協約貨金(ブルー・カラー,工業部門)でみると,78年7~9月期の前年同期比15.3%高から79年1~3月期に16.5%高となったあとも上昇率を高め7~9月期には20.9%と生計費の伸び(15.8%)を大きく回った(第6-5図)。難航を続けていた金属・機械など主要産業の労働協約改訂交渉は7月中旬から下旬にかけて相次いで妥結した。その主な内容は,物価上昇分のほかに3年間に月額4.6万リラの段階的賃上げ(81年までの年平均上昇率は約5.7%)と有給休暇年5日間の増加などである(金属・機械産業)。労組が強力に要求した週労働時間の短縮(40→36~38時間)は実現されなかったとはいえ,労働コスト上昇への影響は年率4.5~7.0%と推計されている。政府は,家計に対する地方税控除額の引上げと引換えに,賃金・物価スライド制の手直しを提案するなど賃金の先行きに対する警戒姿勢を変えていない(8月9日)。しかし9月には大規模なストライキを背景に公務員に対する物価手当の算定を民間並みの3か月毎(従来は6か月毎)に改めることに同意しており,インフレの元凶とされている賃金・物価スライド制の手直しがきわめて困難であることを示唆している。
国際収支は76年の大幅悪化のあと77年央以降顕著な改善を示し,この傾向は78,79年にも続いている。
まず,第6-6図によって貿易収支(通関ベース,当庁によ地季調値)をみると,78年10~12月期に輸入の伸びを上回る輸出の著増によって1,313億リラ(月平均)の黒字を記録した。しかし79年に入ると,輸出の好調持続にもかかわらず石油輸入急増によって赤字に転じ,1~3月期の1,736億リラから7~9月期には3,613億リラへ赤字幅は拡大した。その結果,1~9月間の累積赤字額は約2.4兆リラと前年同期め約0.7兆リラに比べ3.4倍となった。これは主として石油収支の赤字幅拡大(1~9月の前年同期比15.2%増)によるものである。
経常収支(原数値,外為ベース)は貿易収支の悪化にもかかわらず観光収入や移民送金の増勢持続に支えられて改善傾向が続いており,79年上期の累積黒字額は前年同期を上回る約1.8兆リラに達している(前年同期は約1.3兆りラの黒字)。政府では79年全体では約4兆リラ(78年約5.3兆リラ)になるとの楽観的な見方をしている(9月,予算相)。
総合収支(原数値,外為ベース)は経常収支の改善のほか景気や輸出の拡大を反映して資本流入が増加を続けたため黒字基調を維持している。しかし黒字幅は資本流入の弱まりもあって79年央ごろから縮小し1~10月間の累積黒字額は約2.3兆リラと前年同期(約6.1兆リラ)に比べかなり小幅化している(第6-3表)。
こうした対外面での改善によって金・外貨準備は着実な増加を続け,79年に入って69.1億ドル増加して10月末には217.4億ドルとなった。また,リラの対ドル相場はEMS発足(3月)以降も予想外の堅調を維持しており,9月(平均)には一時的にやや低下し1ドル当り825.38リラとなったが,10月と12月の2回にわたる公定歩合の大幅引上げ(10.50→15.00%)によってこれまでのところ落着いた動きを示している(11月815.10リラ)。
78年央以降公定歩合引下げや為替管理の段階的緩和など引締め政策にも若干の手直しが行なわれていた。しかし79年に入って石油高騰等によるインフレ再燃懸念のほか労働協約改訂に伴うスト続発,政局不安などもあって引続き慎重な経済政策の運営を余儀なくされている。
政府は79年初めに財政赤字の削減,インフレ圧力の鎮静化,失業問題の解決をねらいとした経済3か年計画(1979~81年)を国会へ提出した。その直後に共産党の閣外支持撤回に端を発したアンドレオッティ内閣総辞職による一連の政局不安は8月5日,基民党を中心とするコッシーガ少数連立内閣(基民・民社・自由)が成立するまで続いた。この間3か年計画の国会討議は中断されたほか有効な経済政策はほとんど打出されなかった。コッシーガ首相は議会における施政演説のなかで「今後,経済成長を実現し,雇用水準を引上げるためには,インフレの克服が緊急の課題である」とし国民に耐乏と協力を要請した。具体的にはスカラ・モ-ビレの再検討,脱税防止の強化,公共料金引上げ,国家資金の効率的利用,石油製品価格の決定方式の修正等を提案したが,前内閣の政策路線を基本的に引継いだものであった。9月末に発表された80年度予算案も予想されるインフレ加速と成長鈍化に対処することが狙いとなっている。これによると広義の公共部門赤字(現金べ一ス)は42兆リラ,その名目GDPに対する割合は13.7%とほぼ79年度(13.6%)並みに抑えられており,マイルドな引締めという政策スタンスは堅持されている。しかしそうした枠のなかで公的住宅建設促進,所得税減税,企業に対する社会保険の一部国庫肩代りなど景気下支えに対する配慮もみられる(政府ではこれらによる景気下支え効果はGDPの1%と期待)。
金融面では,78年9月以来10.50%に据置かれていた公定歩合がインフレ抑制とリラ防衛のため10月(10.50→12.00%)に続き12月にはさらに3%引上げられて15%の高水準となったほか市中銀行に対する量的貸出規制が強化された。これら措置の背景としては,インフレの加速傾向,内外金利差の縮小による短資流出懸念,中東情勢悪化による為替市場の緊張の高まりなどが指摘されている。イタリア銀行では,経常収支は引続き黒字を計上しており,リラ売圧力を誘発する基盤に乏しいがEMS参加後でもあり,早や目に手を打ったとしている。
いずれにせよ,景気下支え的予算案を考慮すると,金融当局は80年には一段と慎重な政策運営で臨むものとみられる。
80年の経済見通しについて,政府は実質GDP成長率を1.5~2.5%と79年の実績見込み(4.3%)に比べかなりの低下を見込んでいる。これは79年下期から80年にかけてインフレ加速および世界景気の鈍化が予想されるからである。すなわち,個人消費が物価上昇による実質所得減等から大きく低下する(4.8→1.5%)ほか輸出も国際環境の悪化から鈍化(6.0→4.0%)が予想されるうえ,設備投資も企業マインドの慎重化,合理化投資の一巡等から伸びの半減(5.8→2.5%)が見込まれている。このほか政府の経済見通しでは,物価は景気停滞に伴う需要圧力の弱まり,一次産品価格の低落からGDPデフレーターは14.1%(79年15.4%)とやや騰勢の弱まりを期待しているほか対外面でも引続き経常収支の大幅黒字(4兆リラ)を予想している。
この見通しについて,イタリア銀行では,80年度予算案に盛込まれた景気刺激措置が効果をあらわすまでにはタイム・ラグ等があるため,政府が期待する成長率押上げの達成は困難とみており,景気は予想以上に停滞の様相を呈するおそれが強いとしている。
なお,12月に発表されたOECDの経済見通しでは,80年の実質GDP成長率は2.0%とみているほかGDPデフレーター16 3/4%,経常収支黒字約55.0億ドルとなっている。
1978年初以来回復基調に転じたオーストラリア経済は,79年初から石油,食料品(特に牛肉)などの価格急騰を主因としたインフレ再燃の気配を伴いながら総じて順調に回復した。輸出,民間設備投資が大きく伸び,民間住宅建築も好調,小売売上高も堅調であった。鉱工業生産も活発である。失業率は79年も引き続き高水準であるが年末になって改善の兆しもでてきた。対外面では,主要輸出品が価格,量共に大きく改善し,経常収支の赤字幅も徐々に縮小した。
こうした中で政府はインフレ抑制,財政均衡をめざす79/80年度(7~6月)予算案を議会に提出した。
需要動向
1974-75年の不況から漸進的に回復してきたオーストラリア経済は76年下期から77年下期まで低迷した後,再び回復を始め,78/79年度の実質GDPは77/78年度の4.7倍と急成長した。これには農作物の大豊作による農業部門の在庫の大幅積み増しが大きく寄与している。その後79年7-9月期も輸出の大幅増もあり,前期比0.7%増と好調を続けている。
(1)堅調な個人消費
実質個人消費は,77/78年度の所得税率引下げ政策による可処分所得の増加と,輸出価格改善を反映した非賃金所得の急増により77年7-9月期より堅調に伸びた。しかし,その後78/79年度予算から課された特別付加税,原油課徴金(パリティー方式により輸入原油の価格上昇分を上乗せして徴収する。)の引上げ,健康保険の個人負担増,各種消費税引上げなどの増税措置,物価上昇,賃金所得の伸び悩みの中で78年下期は不振となった。しかしその後は79年1-3月期に新年度予算での増税前のかけこみ需要で前期比1.4%増と急伸,,4-6月期に微減した後7-9月期は昨年度の豊作による農家の消費増を主因に同0.8%増と総じて堅調に推移している。今後も①12月1日で特別付加税が廃止されること,②農家層の所得増で上昇していた貯蓄率が低下し始めて75/76年度以来の下降傾向にもどったこと,などから,部分インデクセーション実施や物価上昇の申でも引き続き堅調と思われる。
79年の個人消費を小売売上高(乗用車を除く,季調済)でみると,1-3月期に前期比2.8%増,4-6月期はストの影響もあり1.1%増にとどまったが7-9月期は4.4%の急増となり,その後10-11月も堅調である。一方,乗用車(新車)登録台数(季調済)は77年からの低水準後,78/79年度予算での販売税引下げ(27.5%→15%),78年11月,79年4月の新型車発売などの刺激を受けながら,78年後半から好調な売行きを示した。しかし79年9,10月には減少している。石油価格上昇,小型化指向に伴い価格が大幅に下落した中古車の人気の高まりを反映して79年の新車売上げは78年と同レベルに終わると業界はみている。
第7-1表 実質GDPの前年度または前期比伸び率(%)および貯蓄率
(2)回復著しい民間住宅と民間設備投資
新築住宅的需要は76年10-12月期のピーク以来,金融引締め下での業界の在庫調整,海外からの移民が少なくなっていること,低い人口増加率,結婚件数の減少などの人口動態,新築より低コストの中古住宅購入や改造,建て増しへの消費者の出費傾向といった情勢の中で構造的弱さを呈していた。しかし78年末には住宅金融拡大,未売却の住宅在庫が調整され,新住宅の価格競争力が改善されたことなどにより,新たな昂揚の兆しが現われた。先行指標である住宅建築許可件数(季調済)をみると民間部門の増勢はめざましく,78/79年度全体では6.3%増(前年度13%減)となり,その後79年7-9月期も前期比2.0%増,前年同期比19.5%増と好調である。政府による住宅建設が予算の大幅削除により著しく減少しているにも拘らず,全体でも前年度比3.0%増(同13%減)となった。しかし需要回復と石油価格上昇の影響により,それまで一般物価の上昇率より低かった住宅建設資材コストも79年初以来ジリ高となったb民間企業の新規設備投資(季調済)は,生産の回復,税引き利益の改善及び76年1月から実施された投資課税控除制度により,鉱業部門を中心に77年央以降顕著に増加し始めた。78年4-6月期以降は鉱業以外の化学・石油・石炭工業や商業部門など全業種の設備投資も増加している,最近では控除率が79年6月末で40%から20%に引下げられることによるかけこみ投資後,増勢が弱まっているが,機械機器の生産増,輸入増は資源開発の好調を主とした民間設備投資の力強い潜在力を示している。
(3)大幅に積み増しされた在庫
在庫投資は77/78年度と78/79年度上期に実質GDPを引下げた後,大きく改善した。非農部門は78年7-9月期から79年1-3月期まで積み増した。
農業部門は77/78年度は大早魃の影響で大幅減となったが,78年下期の大豊作の結果,78/79年度は急増し,非農部門,とともに実質GDPの成長に大きく寄与した。
生産・雇用
(1)鉱工業生産,総じて回復
鉱工業生産は78年7-10月にストで低迷したが,79年初まで順調に回復,その後6月まで全国的ストの影響で足踏み状態となったものの,スト終了後は再び活発さを取り戻している。特に金属,機械機器,化学品などが著増している。石油不安による生産活動の縮小は今のところないといえよう。
(2)高水準の失業
74-75年の不況以来失業率は悪化し続けたが,78年央からはその増加テンポはほぽ横這いとなった(この一因には78年央から労働力率が低下していることもある)。しかし,若年層を中心に依然失業率は高水準にあり,インフレと共に重要な問題となっている。この背後には,雇用効果の大きい製造業の低迷,手厚い失業対策,インフレ抑制を優先する政策などが挙げられる。
しかし79年11月には5.5%と,前年同月の5.8%を大きく下回り,雇用も78年下期以降それまでの減少傾向から上昇に転じ最近特に増勢を強めているなど,79年末になって改善の兆しがでてきた。
物価・賃金
(1)騰勢強める消費者物価
消費者物価は鎮静化していたが,78年末以来再上昇を始め,インフレ再燃の懸念が出てきた(第7-4図)。特に78年10-12月期は,78/79年度予算で発表された原油課徴金引上げ,各種消費税引上げを主因に前期比2.3%の急騰となった。半年毎の賃金裁定に移動して最初の賃上げが79年1-6月について78年4-9月の消費者物価上昇分4%と決定されたこと,食料(特に肉類),原油の価格が大幅に上昇したことなどの影響は79年1-3月期には現われず1.7%高にとどまったが,4-6月期には上記の要因に加えて衣料品価格の季節的上昇もあり,2.7%高と急騰した。7-9月期は肉類の価格上昇率の鈍化もあって2.3%高とやや増勢を弱めたものの10-12月期以降は9月より引上げられる医療費,原油課徴金上乗せ(5月以降)の製品価格への転嫁,牛肉価格の新たな上昇を含む食料品価格の上昇により急上昇が予想される。
(2)賃金は低い伸びにとどまる
賃金上昇率は,インデタセーション制度によって75年央以来規定されているが,貨金調停仲裁委員会は78年12月の完全インデクセーション決定後,79年7-12月の賃上げについては6月に,78年10月-79年3月までの消費者物価上昇率4%の8割3.2%増を認める部分インデクセーションを決定した。こうした中で男子週平均賃金は79年1-3月期に消費者物価を上回る前期比4.1%増の大幅上昇であったが,その後7-9月期まで低水準で推移している。
現行方式を不満とする労組は,完全インデクに加えてこれまで実施されなかった生産性上昇分についての調整も74年来の分について要求している。一方政府は部分インデクにとどめたい考えである。調停委の次回の決定が注目される。
貿易・国際収支
(1)輪出大幅に伸びる
輸出は78年7-9月期頃までやや不振だったが10-12月期以降肉類,鉱産物などの一次産品価格の回復,豊作による小麦の数量増加,日本,アメリカなど主要輸出国の景気拡大などにより急速に伸びた。特に79年9-11月の伸びは著しい。一方輸入も,関税割当てや輸入割当ての制限措置の中で,石油輸入量の急減にも拘らず,機械・輸送機器を中心に79年6月まで大幅に伸びた。これは前記の投資控除率引下げを前に機械機器の引き取りが集中したこと,輸入品価格が上昇したことなどによる。7-9月期,10,11月はかけこみ後の一段落もあって減少している。この結果貿易収支の黒字幅は7-9月期以降急速に拡大した。
(2)経常収支も改善傾向へ
貿易外収支は①輸送手段の所有が少ない,②外資導入が多いため投資収益支払いが大きい,などのため恒常的赤字であるが78/79年度は運賃および対外借り入れに伴う利払いも急増して,経常収支の赤字幅は特に大きかった。
しかし79年7-9月期には輸出の好調で大幅改善となり,10,11月も改善は続いている。
(3)資本収支,79年末に減少
資本収支はインフラ整備用の州政府関係機関の対外借入れの認可(78年11月),金利引上げ,資源関連投資の活発化などから78年下期より黒字幅が広がり,特に79年4-6月期には資源産業への民間資本流入の急増で大きく伸びたが,その後急減,9月には海外の利子率上昇や配当金の本国送金という季節的要因および急激に伸びた輸出信用により,78年2月以来初めての流出超となった。10,11月は日本からの外貨借入れ(145百万豪ドル)もあり,やや改善したが,民間部門はまだ輸出の信用取引きの影響をうけている。政策面では6月,鉄鉱石,ウランへの外資導入規制緩和策が採られた。
経済政策
(1)金融政策,引締め基調続く
78年末からのインフレ再燃懸念に対処して政府は従来の金融緩和方針から転換して79年1,2月に支払準備率の各1%引上げ(3.5→5.5%)4月国債金利引上げ(8.75→9.25%)などの引締め措置をとったが,通貨供給量(M3)は,景気の予想外の回復,一次産品価格の急騰などにより78/79年度では11.8%増と予算編成時の目標6-8%を大きく上回った。しかし新年度の財政赤字大幅縮小政策のもとに伸び率は減少に転じ,加えて9月,18カ月ぶりの民間資本の大幅流出,政府移転収支が7-9月期に前年同期より647百万豪ドルも減少したことなどから9月までに10%となった。
(2)財政政策
新年度予算は経済成長よりインフレ抑圧を優先している。歳出の伸びを予測のインフレ率10%を下回る9.1%増に抑制,歳入は原油課徴金の大幅引上げ,11月末まで継続させる特別付加税(個人所得税の2.57%)を主因に15.4%増と大きく見込んで財政均衡回復を図っている。歳出面では(1)産業奨励補助金,輸出開発補助金の大幅増,(2)年金等の給付金につき半年毎のインフレ率に連動したインデクセーション制を導入,(8)9月1日より,入院費25%増,個人負担の実質的増加,(4)失業対策の一環である職業訓練への予算の大幅削減(安易な失業への戒め)などがある。歳入面では(1)昨年度からの特別付加税の12月1日からの廃止,(2)石炭輸出税の縮小,(3)間接税増額の見送り,(4)石油課徴金の引上げ,などが主である。
経済見通し
新年度予算の前提とした経済見通しは以下のようなものである。(1)消費者物価の上昇率10%(前年度8.2%),(2)平均週賃金の伸び9~9.5%(前年度7.7%),(8)全雇用の伸びは1%とわずかで,失業はほとんど変化しない,(4)実質非農生産の伸び3%以上(同2.8%),(5)農業部門は昨年度より成長鈍化(6)経常収支の赤字幅は輸出増から昨年度より減少,民間資本流入の増加,(7)M3の伸び10%(同11.8%),(8)GDPの伸び2~2.5%(同4.7%)石油不安は短期的にはコストアップ要因となるが,中,長期的には資源保有国としてのオーストラリアの地位向上となろう。他方で企業,消費者の自信は回復しており,鉱業部門の開発,輸出の伸びも予想され,今後も引続き回復するものと思われる。
ニュージーランド経済は73年のイギリスのEC加盟,第一次石油ショックの影響をうけ,74年以降国際収支の悪化,財政赤字の増大などから国内経済は停滞をつづけてきた。その後78年に入って輸出の増大と大型赤字予算などによる景気刺激策により,景気は4年ぶりに明るさを取り戻したが,79年は第2次石油ショックによる輸入額の急増,物価上昇,失業の増大など再び暗いかげが広がっている。
このような情勢のなかで,政府は年初来金融引締め策を強化するとともに,6月にはインフレ抑制型の79年度緊縮予算案を提出するなど厳しい態度で臨んでいる。このため,国内経済はふたたび停滞すると予想され,失業の増大から頭脳流出など今後の経済発展に対しても懸念される諸問題も生じてきている。
(1)国内需要は停滞の様相
実質成長率は引き続く引締め政策の結果,74年以降低下をつづけ,77年度には遂に1.8%のマイナスとなった。しかし,78年度はやや回復(1/4%増)した。これは78年に入って,肉類,酪農製品,木材などの輸出が,価格の上昇と数量増から急増したこと,個人所得減税,消費者信用規制の緩和などから実質国民1人当たり小売売上高が増加に転じ,住宅着工,乗用車販売も回復したこと,さらに,政府支出の増大などによるものであった。
79年に入っでも,上期の実質国民1人当たり小売売上げ高は78年下期とほぼ同水準にあり,ボトムの78年上期を4.6%上回っている。これは所得減税の効果などによるものである。また,78年に金融緩和から1-3月期を底に回復した乗用新車登録台数は78年10-12月期,79年1-3月期に減少したあと,4-6月期には増加して78年1-3月期のボトムに比べ26.6%高の水準となった。しかし,新築住宅建築は79年1-3月期には建築コストの上昇もあって昨年同期のボトムをも下回り,74年4-6月期のピークと比べると57.7%の減少と非常に低い水準となった。4-5月の2か月平均は前3か月比9.6%減とさらに低下している。住宅建築の不振は金融引締め強化や物価の上昇などによるものである。また,民間企業の設備投資も輸出の好調な畜産・資源関連部門を除いて低調であり,78年につづいて減少している。
(2)産業活動は一部を除き好調
製造業生産は78年1-3月期を底に回復してきている。これは輸出産品と個人消費関連製品の好調によるところが大きい。生産の回復してきている製品には,輸出の好調な肉類,羊毛,酪農製品,木材・同製品などがある。また個人消費関連の冷蔵庫,洗濯機,テレビ,ラジオなどの生産は79年1-3月期に前年同期に比べ45%前後の増加とその好調が目立っている。これを反映して,メーカー在庫率(=在庫額/出荷額)は78年1-3月期の2.7か月分まで増加したあと減少に転じ,10-12月期には2.0か月分にまで低下した。
流通在庫も78年中減少して年末にはほぼ適正水準(1.8か月分)まで低下している。
労働市場は新規学卒者の増加から急激に悪化しており,失業者数(中央・地方政府の特別失業対策事業雇用者などを含む)は77年6月末の12.7千人から78年6月末には42.3千人へと1年間に3.3倍に増加したあと,79年1月末には51.5千人と最高を記録し,その後も高水準にある。一方,求人数は74年央の5千人台から77年末に1.2千人台に減少したあと,78年末には2.3千人台に回復したものの,ふたたび減少傾向にある。こうした状態から若年,熟練労働者や医師などの頭脳労働力の流出(78年4月ヘ79年3月間に81千人)が増加してきており,今後,熟練労働者不足がさらに深刻化するとともに,総人口の減少という事態まで発生して,政府,産業界に危機感が高まっている。
(3)物価の上昇と賃金
消費者物価は77年4-6月期に物価・家賃の凍結解除(76年8月より)から前期比4.8%高と大幅上昇を示したあと,国内不況と食料品価格の落着きから79年1-3月期まで比較的に落着いていた。しかし,年初来のOPECの原油価格引上げ,肉類を中心とした食料品価格の値上がり,公共料金の相次ぐ引上げ,為替レートの切下げなどにより,4-6月期には前期比4.5%高,7-9月期にも5.0%高と大幅に上昇して前年同期比も15.2%高と2ケタ台の高騰となっている。
一方,賃金は78年9月に著しく増加したあと伸び率が停滞しており,消費者物価の上昇率を下回っている。しかし,実質賃金でみると,77年10-12月期以降ほぼ同水準で推移している。今後については政府が7月27日に議会に提出した「新給与法案」によってインフレと雇用問題に対処するために賃上げ抑制を強化しようとしており,物価の上昇を考慮すると今後は実質賃金が低下するものとみられている。
(4)輸出の好調つづく
停滞していた輸出が,78年に入ると肉類,羊毛,酪農製品,木材・同製品などの数量の増加と価格の上昇から急増し,79年に入っても高い増勢をつづけている。輪入は輪入規制と国内不況を映じで78年1-3月期まで減少してきたが,79年4-6月期には輸入担保金制度の廃止,輸入ライセンス枠の拡大など保護貿易策を相次いで緩和したことと,原油価格の上昇もあって急増した。貿易収支は輸出の好調から78年初以来大幅黒字をづづけている。しかし,経常収支尻は運輸・旅行収支の悪化,政府借入の利払増などからなお赤字基調から脱していない。このため政府の外債発行や対外借入が引き続き増加している。
(5)ふたたび引締め政策へ転換
国内経済は77年10月以降の金融緩和,78年度(4-3月)の景気刺激型予算により,78年には4年ぶりに回復してきた。しかし,鎮静化してきたインフレが,マネーサプライの増加から再燃することが予想され,78年9月には部分的ながら金融引締め策に転じた。
79年に入るとOPECの原油価格引上げ,肉類を中心とした食料品価格の上昇など物価上昇圧力が強まったこと,マネーサプライ(M3)が78年6月末の前年同期比15.9%増から,12月末に21.2%増,79年3月に21.6%増へと膨張し,民間信用も増大してきたため,79年1月に公定歩合を引上げ(12→13%へ),3月と7月には商業銀行の準備預金控除額を削減(100百万NZドル→50百万NZドル→0),4月には政府証券保有率引上げ(12.5→15%へ)と主要金融機関の貸出増加率のガイドライン(79年度)引下げ(78年8月発表の年率10-15%→8-12%へ)など,矢継早に金融引締め政策を実施した。また,輸出振興の見地から6月22日には為替レートを主要通貨に対し5%切下げ,今後0.5%以内のレート微調整をひんぱんに実施すると発表した。
さらに,6月にはインフレ抑制型の79年度(4-3月)の緊縮予算案を議会に提出した。まず,歳入では,所得減税を盛込んでいるものの,たばこ,酒類の販売税引上げ,郵便料金引上げなどにより大幅増加(前年度実績比21.8%増)を見込んでいる。一方歳出では,社会保障費や債務償還費などは増加するため,産業開発費を大幅に削減(同16.1%減)するなど,各項目の伸びを抑制して過去5年間で最低の増加率(同12.0%)に抑えた。この結果,財政赤字は1,090百万NZドルと昨年実績(1,446百万NZドル)をかなり下回るものとなっている。
以上のように,国内経済がやや回復した段階で,インフレ再燃懸念,経常収支の引続く赤字などからふたたび引締め政策が強化された。このため,個人消費を除いて,住宅建築や民間設備投資が引続き低迷することが予想されており,緊縮財政への転換から政府支出の停滞が見込まれる。そのうえ,本年末からの輸入原油価格の上昇により,国際収支,物価面などにさらに悪影響が見込まれることから,今後の国内経済活動の悪化が懸念されている。
(1)概 観
78年の韓国経済は前年に引続き好調を持続し,実質GNP成長率は11.6%と三年連続の二桁成長を達成した。これは,輸出が好調を持続する一方,内需も建設活動が建設規制措置をとらざるを得ないほどに盛り上がり,また,個人消費も高水準に推移するなど好調であったことによる。このため鉱工業生産は前年を上回る増加テンポとなった。しかし,こうした好況の中で物価は一段と騰勢を高め,政府は過熱景気の鎮静化やインフレ対策のために公定歩合の引上げ等金融引締めを強化した。また,貿易収支も輸入の増勢が輸出のそれを上回ったことから再び大幅に悪化した。なお,製造業等非農林漁業部門の好調(前年比16.1%増)に対して,農林漁業は漁業不振や米の生産減などから前年比4%減と不振であった。
79年の経済は輸出が伸び悩む一方,内需も急速に鈍化しており,実質GNP成長率は前年同期比で1~3月期13.3%,4~6月期9.9%,7~9月期4.8%と期を追って停滞色を強め79年の実質GNP成長率は7.1%と当初目標9%を大きく下回った。内外需の鈍化は前年からの厳しい金融引締めに続き,4月に発表された経済安定化総合政策により輸出金融を含めた金融引締め政策が一段と強化されたこと,4月,7月と実施されたエネルギー消費節約令による消費節約運動が高まったこと,石油価格の大幅引上げ等で物価がさらに高騰していること,等による。また,貿易収支は輸入の増勢が強いことから赤字幅を一段と拡大している。ただ,外貨準備高は対外借入れが順調であることや,貿易外収支の好調から引続き増加している。なお,農業生産は米の生産が前年を下回り,2年連続減産となるなどかんばしくない。
政府は80年1月12日にウォンの対ドル・レートを19.8%切り下げて従来の1ドル=484ウォンから580ウォンにすることを発表し,即日実施した。これは,今後の輸出振興を図り,かつ貿易収支を改善することを目的としている。つまり,79年度後半から経済は急速に停滞色を強めたが,その原因の1つがこれまでの高度成長を支えた輸出の増勢鈍化にあることによる。ただ,これにより今後一層のインフレ悪化が懸念されるが,政府は同時に金利を大幅に引上げている。
(2)生産・需要動向
農林漁業生産は78年に前年比4.0%減と不振であったが,79年もかんばしくない。79年上期は冬作穀物(麦類等)が順調であったことなどから前年同期比15.7%増と好調であったものの,下期に台風の影響等で主穀である米の生産が減産となったことによる。韓国の米の生産は76年にほぼ自給を達成し,77年は600万トンと大豊作を記録したが,その後二年連続減産となり,79年は前年比4%減の552万トンにとどまった。80年の米の需要が555万トンと見込まれているので若干不足するが,これは在庫によって十分賄えるとみられる。
鉱工業生産は78年に内外需の好調から前年比22.9%増と高い伸びを示したあと,79年1~9月は前年同期比(以下同じ)15.5%増と伸びを鈍化させた。特に,四半期別では1~3月期の22.3%増のあと,4~6月期15.0%増,7~9月期10.0%増と急速に増勢を鈍化させている。業種別では衣類,木製品,機械類等が低迷しているほか,その他の産率も軒並み前年よりは増勢が鈍化している。
これは前述のように金融引締めの強化やインフレの高進等から内外需が鈍化したことによる。消費活動をソウル卸・小売額指数でみると78年に前年比8.5%増のあと79年1~9月間には前年同期比16.8%増と同期の消費者物価上昇率(18.0%高)を下回る伸びとなっている。これはインフレによる購買意欲の低下やエネルギー消費節約キャンペーンによるもので,家電製品の売上げなどが鈍化した。なお,自動車の売上げもこの影響で一時鈍化したが,秋口頃から需要は再び増加している。
一方,投資活動は公共投資が高速道路建設等引続き高水準に推移しているものの,民間設備投資は金融引締め強化の中で伸び悩んでいる。また,住宅建設も前年5,6月と実施された建設規制措置の影響が大きく,このため低迷している。,これを建築許可延面積でみると78年は前年比37.9%と急増しているが,79年1~9月には前年同期比15.0%減と大幅に減少している。このためセメント等建築資材の需給が緩和してきており,政府は8月及び9月と建設規制措置を一部緩和した。
こうした景況にかかわらず物価は依然騰勢が強く,金融の引締め基調が続いている。このため中小企業を中心に資金繰りが悪化しており,倒産や操業短縮も相次ぎ,上期の失業率は3.7%.と前年同期(3.1%)よりも悪化している。
(3)貿易及び国際収支動向
78年の輸出は前年比26.5%増の127億ドルと目標の125億ドルを上回った。これは先進諸国の需要が持直したことやドル安(西欧・日本等向けに有利),円高(日本製品と競合する分野でアメリカ市場等で有利)が好影響を与えたことなどによる。これを受けて79年の輸出目標は当初155億ドル(前年比22%増)と設定された。しかし,79年の輸出は前年比18.5%増の150.6億ドルと目標を達成できなかった。これは78年に30.1%増と好調であったアメリカ向け輸出が1~10月間に前年同期比8.9%増(アメリカ通関統計による)にとどまったこと,中東向けが減少したことが大きく影響しており,また,好調であった対日輸出も年末にきて増勢を大きく鈍化させている。特に,賃金等コスト上昇圧力の高まりから輪出単価が急上昇(79年1~11月間に前年同期比18.2%高)しており,数量ベースマは前年に比べ79年は微増したにとどまる。こうした,国際競争力の低下に加え,4~6月にかけ輸出支援金融の適用を厳しく行った(不正流用を防ぐこと等を目的にしている)ことも輸出伸び悩みの一因となっている(ただ,政府は輸出拡大を図るために7月から再び輸出支援金融の拡充強化を行った)。品目別にみると繊維製品,履物,玩具等軽工業品が伸び悩んでいるほか,海運不況で船舶輸出も不振であった。
一方,輸入は78年に前年比38.5%増と急増したあと,79年も国内景気の鈍化から年末には伸び率が鈍化したものの1~11月間では前年同期比36.9%増と輸出の増勢を大きく上回った。これは79年に入ってから原油価格が大幅に引上げられたことや一次産品市況の上昇などから輸入単価が急騰したこと(輸入単価は前年比で78年4.3%高,79年1~11月は24.9%高)によるものである。
この結果,貿易収支は再び大幅な赤字を記録しており,1~11月間に46.8億ドルと前年同期の赤字19.8億ドルの2.4倍に拡大している。対日赤宇は前年とほぼ同じであるが,これまで3年間大幅黒字を続けていた対アメリカ貿易が赤字に転じたほか,中東も赤字となっている。
貿易外収支は中東での建設工事代金受取りが鈍化していることや運賃・保険等の支払増などから黒字幅が縮小しており,このため1~11月間の経常収支は34.9億ドルの大幅赤字(78年同期は8.6億ドルの赤字)となった。ただ,この間資本流入が順調であったことから外貨準備高は増加傾向を保ち,11月末現在55.3億ドル(78年末比12.0%増,同年の輸入の4.4か月分相当)を保有している。
(4)物価動向
第一次石油危機以降根強い騰勢を続けている物価は79年に入ってからも前年を上回る上昇を続けた。1~11月間の卸売物価は前年同期比で18.2%高(78年は11.7%高),同じく消費者物価が18.1%高(78年は14.4%高)となっている。これは輸入価格の上昇,賃金の上昇(1~7月間に前年同期比32.2%増)等に加え,公共料金の相次ぐ大幅引上げ(3月に電力料金を平均12%,4月に鉄道・バス・タクシー等交通料金,水道等,7月に再び電力料金を平均35%等),石油製品価格を3月に平均9.5%及び7月に同59%引上げ,その他,独寡占及び行政指導品目(セメント,鉄筋等)の引上げ(2,4,7月に実施)等によるものである。こうした情勢に対し,政府は金融引締めの強化,輸入自由化の促進(1月及び7月),経済安定化総合政策の実施(4月,後述),低所得者の所得税の引き下げ等の対策を実施したものの,騰勢は持続した。特に,年末には原油価格が再び大幅に引上げられており,加えて,80年早々にはウォンが切下げられたことや公共料金の引上げが予定されていることもあり,当面物価の鎮静化は困難とみられる。
(5)経済政策の動向
政府は79年1月に,86年(第5次経済開発5か年計画終了年)の輸出を500億ドルに設定し,そのため79年から輸出商品構成をできるだけ重化学工業製品に転換することを決定した。そして,鉄鋼,非鉄金属,機械,造船,自動車,電子,石油化学,セメント,陶磁器,繊維工業の10産業を輸出戦略産業として選定し,育成に力を入れることにした。
しかし,一方で慢性的インフレと賃金の大幅上昇,需給のアンバランスなどが深刻化し,これまでの輸出と重化学工業化を中心とした同国の高度成長にも国際競争力の低下と国内経済のひずみ等が顕在化してきた。こめため,政府は4月に経済安定化総合政策を発表した。これは,物価の上昇を抑制し,長期的な経済安定の基礎を築きあげることを目的としたものである。その内容は①生活必需品の供給拡大と価格安定(関税の引下げや生産設備の増論等),②金融引締め政算の強化,③重化学工業向け内型投資を抑制り,その財源を生活必需品の生産拡大等を目的に軽工業部門へ,④不動産投機対策の強化,⑤貧困家庭の扶助,等からなっている。これを受けて,5月に重化学工業投資計画を一部延期ないしは中止する等手直しが行われた。
なお,10月に朴大統領が殺害されたものの,同国経済に大きな混乱はなく,引続きインフレ抑制を重点国民生活優先の経済安定化路線が継続されている。
一方,79年に入ってからのOPECによる再三の原油価格大幅引上げは同国にも物価の高騰,貿易収支悪化等大きな影響を与えた。このため政府はこれに対処するために4月から第一次エネルギー消費節約(公共建物の冷暖房の温度規制等)を,7月から第2次節約(ネオン等の禁止,給油所の日・土曜及び祭日の販売禁止等)を実施した。また,6月に発表された79~81年の中期経済運用計画ではエネルギー政策として国内賦存資源の経済的開発促進,資源の安定的供給源確保,代替エネルギーの開発促進をあげている。
予算面をみると,79年度(暦年)は総額4兆5,338億ウォン(約94億ドル),前年比28.9%増の大型予算であるが,安定成長を指向したことから伸び率は前年より抑えられた。歳出面では教育拡充費や低コスト住宅開発費を中心に社会開発費が前年比41.3%と大幅に増加したほか,国防費が総予算の34.4%を占めているのが目立つ。
80年度の予算は総額5兆8,040億ウォン(約12億ドル),前年比28.0%増である。これは物価上昇等を勘案すると近年ではもっとも低い伸びの緊縮財政である。前年と同様,歳出の中で国防費のウェイトが36.7%と%強を占めており,前年比でも37.6%と最も高い増加である。
(6)経済見通し
第4次5か年計画(77~81年,年平均成長率9.2%,1人当りGNPを81年に1,512ドルヘ等の目標を掲げる)の前半2年間の経済は予想以上に好調であったが,79年経済はインフレの高進,保護主義の台頭,第二次石油危機の発生等から高度成長を主導する輸出環境が悪化し,また,国内経済も伸び悩むなど厳しい年となった。そして,それまでの高度成長経済から安定成長に政策変更する転換の年ともなった。ただ,1人当りGNPは78年に1,279ドルと初めて千ドルの大台に乗ったが,79年には1,624ドルと81年目標を上回った。
こうした状況下で80年経済は引続き安定成長を目指しており,当初(79年11月時点発表の80年経済政策の運用計画)成長率は8~9%にする等計画した。しかし,12月のOPECによる原油価格引上げや最近の内外の経済状况から手直しを行っており,それによると80年の成長率は3~5%,物価上昇率は消費者物価が22~23%,卸売物価が27~28%,輸出170億ドル,輸入225億ドル,等各目標が大幅に下方改定されている。
(1)概 観
1978年には,好調な内需と輸出の伸びを反映して,ブーム状態を示した台湾経済は79年に入っても,1~3月期までは順調に推移したが,その後,輸出の増勢鈍化や電力規制による工業生産の伸び悩みにより成長鈍化の色彩を濃くし始めた。79年の実質成長率は昨年上方改訂された年間目標である8.5%を下回り,8.0%に止まる見通しである。工業生産は1~11月期に前年同期比7.6%増(78年24.9%増)と大幅に鈍化した。また,78年末以来上昇傾向を強めていた物価が,79年に入り原油など輸入品価格上昇の影響を受けて急騰している。
(2)貿易動向
貿易の動向を見ると,78年には台湾元がドルにリンクしていたため,円高,ドル安の有利な刺激を受け,輸出が好調な伸びを示した。79年に入ってからも,第一の貿易相手国であるアメリカとの国交断絶の影響を受けることなく1~3月期までは順調に推移した。そして2月には予定通り米ドルに対する固定相場制を廃止し,中央銀行によって管理されたフロート制へと移行した。これによって円高による輸入インフレを防ぎ,国内産業の体質強化をはかるためでめる。しかし,5月に対米輸出が,カラーテレビに対して輸入制限枠を設けたことなどにまり,大幅に減少したのを受けて輸出全体の伸びが鈍化し,その後もアメリカを始めとする貿易相手国の景気鈍化の影響で,金額ベースで見ると1~11月で前年同期比27.9%増(78年同37.1%増)であるが,数量べースで見ると1~9月に前年同期比5.3%増(78年同29.0%増)と大幅に鈍化している。特にセメントなど電力多消費型の製品は,国内需要を優先させ,輸出制限を行なったので輸出量の減少が著しく,その他主要輸出品目である繊維製品,輸送工具,罐詰類なども減少した。今後,原油価格の上昇により台湾の輸出増大にとって一層不利な影響がもたらされると考えられる。輸出依存度が5割以上を占める台湾にとって,これは成長鈍化の要因となるため,政府は,輸出競争力の強い製品の開発,東欧など新しい市場の開拓に全力を尽くす構えである。一方,輸入は,原油,工業原材料価格の上昇により大幅増が続いている。1~11月に金額ベースで前年同期比34.9%増(78年同29.5%増),数量ベースでも1~9月に前年同期比10.0%増(78年同14.8%増)と輸出を上回る伸びを示した。しかし,7~9月期に入ると輸入物価の急騰もあって金額ベースでは大幅増を示しているが,数量べースでは内需の不振のため,伸びが鈍化し始めた。このため黒字幅は1~11月に前年同期比19.6%減の12億ドルとなった。しかし,観光収入の増大,華僑,外国人による台湾への投資活動が活発なため(1~11月で3.1億ドル,前年同期比63.7%増)外貨保有高は,79年10月末に15.6億ドルで,前年末と比較して横ばいである。また政府は,対米出超,対日入超のアンバランス是正のため,アメリカに対しては8月に買付団を派遣し9.5億ドル相当の物資を買い付け,日本に対しても買い付け額拡大の要請,対日輸出専門商社の設立などの対策を打ち出している。その結果アンバランスは是正される方向に向かっている。
(3)生産動向
78年には,「10大建設」,のほぼ完了にともなって,新たに「12大建設」も開始され,内需の増大と輸出の好調を反映して,工業生産は前年比24.9%増の伸びを示した。しかし,79年央から,石油価格上昇の影響によるコスト上昇,輸出の鈍化のため伸び率が低下し始めた。こうした中で政府は,技術サービスの範囲拡大,海外における天然資源開発の促進,中小企業合併の奨励などを骨子とする「投資奨励条例」の修正案を発表したが,6月1日より,省エネルギー政策の一環として工場に対して電力規制を行なったこと,また輸出鈍化の影響を強くうけ4~6月期に前年同期比9.8%増,7~9月期には同0.3%増と大幅に鈍化した。業種別に見ると,精密機械,雑貨などが不振のほか,多くの業種が生産目標を達成することができなかった。9月末に,電力規制を一部解除したことなどから,年末に至ってやや持ち直し,10~11月には前年同期比2.8%増となったが,輸出の鈍化,高金利による資金繰りの悪化も加わって回復の基調は弱いと思われる。
また,農業生産は,78年には,気象条件が不利であったため前年比1.5%の減少であったが,79年は,前年比2.1%増と若干の伸びを示した。米が,235万トンの生産目標に達したほか,果物,野菜の生産も好調であった。しかし,甘薯,大豆,とうもろこしなどは減産した。
(4)物価動向
物価は,78年上期には安定していたが,年末に入って景気が過熱気味に推移し,マネーサプライが増加したごと,セメント・鋼材などの資材が内外需の好況を映じて供給不足になったこと,および原油・工業原材料など輸入品価格上昇の影響により上昇を始めた。79年に入ると,この傾向は更に強まり,卸売物価が7~9月期に前年同期比17.1%高,消費者物価が同12.0%高と急騰を続けた。政府はこの物価の高騰を重視し,物価対策最優先の見地から5月央に公定歩合を1.25%引き上げ,(8.25%→9.5%),また8月央には更に1.5%引き上げて11.0%とした。卸売物価は8月に電力料金の引上げ(平均24.9%),台風など特殊要因の影響が加わって79年中最高の上昇を記録したあとも10~11月期で前年同期比15.3%高と依然として高水準にある。消費者物価も,10月より鎮静化傾向を見せているが,今後の石油情勢如何では,再上昇の可能性も強い。
(5)見通し
79年の経済成長は,上半期の実質成長率が9.6%増と,好調であったが下期の鈍化が著しく,年間目標の8.5%は達成できずに終わる見通しである。
また物価上昇は,目標の5%を大きく上回り,工業生産は逆に12%の目標達成は不可能と見られている。
なお今後の見通しについて,政府は12月に国民党第11期中央委員会第4回会議(4中全会)を開き,今後10カ年の成長目標を発表した。それによると,来年の実質成長率は,世界の景気後退とインフレにより成長鈍化は必至であるが,目標は8%と高めに設定している。そして,物価上昇率を年平均6%の水準に抑え,工業生産の年平均成長率を10%とするなど,かなり強気の目標を掲げている。また10年後には国民総生産を現在の約5倍の1,250億ドルの水準にまでひきあげようとしている。
なお台湾経済の成長にとって大きな制約となる石油危機に対処するため5年間で石油輸入量を5.6%減少させ,石炭や原子力など代替エネルギー開発に力を入れるなどの対策を打ち出している。
(1)概 観
78年のフィリピン経済は実質GNP成長率が6.1%と目標の7.0%を下回ったものの比較的堅調に推移9した。成長率が目標を達成できなかったのは上期の一次産品市況の軟化から輸出が伸び悩んだことを主因としており,農業,製造業,建設等は比較的順調に推移している。また,物価も前年より増勢をやや鈍化させた。
79年上期の経済をみると,前年低迷した輸出が一次産品市況の上昇から好調に推移しているものの,国内経済は鉱業生産が回復しているほかは,農業,製造業ともに前年同期よりも成長率は鈍化している。また,輸入の増勢も高いことから貿易収支赤字額は前年同期を上回っており,一方,物価も上昇率を高めている。特に,年後半には秋作の米が減産となったほか,物価も20%台を記録するなど悪化しており,79年の経済成長は目標の6.5%達成が困難とみられている。
(2)生産動向
農業生産をみると78年は天候が不順であったにかかわらず穀物生産は順調で,米の生産(籾ベース)は前年比5.8%増の730万トンと史上最高の豊作となった。このため,90日分の備蓄が確保される一方,インドネシア,マレーシアヘ7万トンの米の輸出が行われた。ただ,商品作物は国際市況の低迷から不振で,なかでも砂糖,タバコの生産は前年を下回った。
79年め穀物生産は米が天候不順で前年比4.1%減の700万トンにとどまったものの,とうもろこしが好調であったことから全体では豊作であった前年並みの収穫とみられている。また,ココナッツやアバカなどの商品作物の生産も上期には停滞するなど,農業生産は総じてかんばしくない。
製造業をみると78年は飲食料や衣類,家具等の生産拡大から前年比4.9%増(前年は3.4%増)と回復基調を続けた。
79年に入ってからは物価の急騰下で消費需要が減退していることなどから工業製品の輸出が好調であるにかかわらず生産は総じて伸び悩んでおり,上期の製造業生産は前年同期比3.9%増となっている。その中で,食品及び木材加工等は順調に推移している。なお,下期の生産はインフレ加速の中で6月に金融引締めが強化されたこと(一部企業で資金繰りが困難となっている)もあって大幅な回復は困難とみられている。
鉱業生産は78年にニッケルや鉛の生産減から前年比9.9%減と不振であったが,79年上斯は亜鉛等の生産増から前年同期比13.9%増と回復している。
なお,同国の石油自給率は0に近かったが,油田開発の進展で79年に本格的生産(ニド油田は3月から商業ベースに乗り,8月には日産4~4.2万バーレルに達している)が始まり,79年の自給率は15~17%になったとみられる。
(3)貿易と国際収支動向
78年の貿易をみると,輸出は上期に一次産品市況の軟化から低迷し,下期はやや回復したものの,前年比7.7%増にとどまった。品目別にみると砂糖,コプラ,ニッケル等の一次産品が前年を大幅に下回っているのに対し,電気・電子機器,衣類等の工業製品は好伸している。一方,輸入は機械輸入の増大(新5か年開発計画の初年度で,予算も経済・社会開発に重点をおいていることが反映している)を中心に前年比20.4%増と輸出の増勢を上回った。
この結果,貿易収支赤字は13億ドルと巨額に達した。しかし,資本流入が順調であったことから総合収支は前年の赤字から黒字に転じ,外貨準備高も増加に転じている。
79年上期の貿易をみると,輸出は一次産品価格の上昇でココナッツ製品や木材等一次産品が増加しており,また,衣類(前年同期比43%増),電子製品(同82%増)等工業品輸出も好調であることから全体で前年同期比36.8%増と急増している。
一方,輸入は同29.0%増と引続き増勢が強く,貿易収支はやや改善傾向にあるものの,赤字額は大きい。中銀発表(速報)によると1~9月の貿易収支赤字額は12.7億ドルと78年の赤字とほぼ同額となっており,経常収支赤字も前年同期の2倍(約1.O億ドル)に達している。ただ,外貨準備高は対外借入れが順調なこともあって増加傾向を続けており,10月末現在21.7億ドル(78年輸入の約5.1か月分)を保有している。こうした対外借入れがぼう大な額となっていることから対外債務残高も増加しており,6月末現在で78年末比9%増の87.4億ドルにのぼっている。
なお,政府は輸出促進を目的に79年に入ってからも2月に輸出奨励企業に対する所得税控除などの優遇策の適用範囲を拡大したほか,3月に輸出産業助成のため金融面での優遇措置を,10月には輸出奨励措置(税制衛での優遇措置)をとっている。
(4)物価動向
77年に10%近くまで上昇した物価は,78年は穀物生産の豊作やマネー・サプライの増加率鈍化などから前年比で卸売物価6.8%高,消費者物価7.6%高と比較的落着いていた。
79年1~9月間の物価は卸売物価が17.1%高,消費者物価が同17.3%高と騰勢を高めており,特に,7~9月期にはともに20%台と急騰している。こうした上昇は,3月にバス,タクシー等の運賃(バス・ジプニーは平均32%)及び石油製品(平均23%)の値上げが行われたあと,4月には最低賃金の引上げや物価統制下にある食料品の値上げ,8月には本年2回目の石油製品値上げ(平均27%)や公共料金引上げ(バス10%,タクシー32%),9月に電力料金引上げ(18%)等値上げ要因が目白押しであったことによる。このため,政府は6月に金融引締めを強化(商業銀行に対する再割引枠削減等)したほか,7月に一部輸入関税の引下げ(食料品及び加工食品原材料等40品目が対象),9月に不動産価格や家賃の凍結等の対策を実施している。
(5)財政動向
80年度(暦年)の予算は前年度比16%増の398億ペソ(約54億ドル)と控え目であるが,歳入の1/4を借入金に依存する実質的赤字予算である。
歳出面をみると住宅建設・社会福祉関係費等が前年比2.2倍と著増したほか,政府の対内外の債務返済増に伴い一般行政経費も増大(41.5%増)したものの,歳出の4割を占める経済開発費が9.1%増にとどまったこと(インフラストラクチャー整備投資の抑制による。但し,歳出の3%に相当するエネルギー開発費が新設されている)や国防費(歳出の10.3%を占める),教育費,医療費の削減から全体では16%の伸びにとどまっている。
一方,歳入は租税等収入が前年度比10.1%増と低い伸びにとどまることから借入金が47.3%増の81億ペソと著増し,歳入の20.5%を占めるに至っている(うち,対外借入れは44億ペソ)。
なお,79年の金融・財政政策をみると,インフレの昂進から引締め政策を実施しており,特に,金融は6月に政府債権類の買い上げ停止,輸出手形の再割停止(8月以降再開),中央銀行債権発行(2億ペソ)による市場からの資金吸い上げ,中央銀行と市中銀行間の外貨スワップの禁止等の厳しい措置をとっている。このため,企業の資金繰りが困難となっており,また,国内の短資市場の金利は高騰している。
(1)概 観
タイ経済は石油危機以降も順調な成長を続けており,78年は実質GDP成長率が12.0%と70年代では最も高い成長(66年の12.2%に次ぐ)を達成した。これは農業が前年の不振から一転して大豊作となったこと,鉱工業生産も引統き好調に推移したことによる。輸出も一次産品市況が低迷する中で輸入の増勢を上回る順調な増加をみせた。しかし,こうした好況の中で物価は前年より上昇率を高め,政府は過熱的景気を抑制するために公定歩合の大幅引上げ等金融引締め策をとった。
79年に入ってからの経済は農業生産が大豊作であった前年並みの生産と順調で,鉱工業生産も好調を持続するなど生産活動は順調に推移している。また,輸出も一次産品市況の上昇から一段と高い増勢を続けている。ただ,物価は石油製品価格の大幅引上げ等で騰勢を高め,年央には二桁の上昇となっている。なお,79年の成長率は農業が順調であったものの前年の大豊作には達しないとみられていることを反映して鈍化し,6.5%程度になると推計されている。
(2)生産動向
農業生産をみると,78年は天候に恵まれたことから大豊作となり,特に,77年が不作であったことから前年比14.5%増(国民所得ベース)と高い増加をみせた。なかでも穀物生産は米(籾ベース)が前年比25.9%増の17.5百万トン,とうもろこしが同63.8%増の30万トンと好調で,全体でも31.8%増の20.7百万トンと史上最高の豊作であった。また,その他の商品作物もゴム,タピオカ,大豆,ジュート等ほとんどの作物が増産となった。ただ,近年低迷している林業は78年も不振で前年比6.5%減であった。
79年の農業生産は穀物生産がほぼ前年並みの収穫とみられているほか,砂糖を除くとキャッサバやゴム等主要農産物も順調に推移している。ただ,全体では前年の大豊作には達しないとみられており,増加率は前年比マイナス1.9%と推計されている。また,年末に一部地区で干ばつが続いていることから米の生産(80年5月頃収穫の二期作)に影響がでるのではと懸念されている。
鉱工業生産をみると,78年も内外需が順調であったことから好調に推移した。このうち,製造業(前年比9.7%増)は繊維,衣類等が輸出の増加もあって好調,また,機械(電気機械含む),ゴム・同製品等も好調と木材や石油精製を除くほとんどの産業が順調であった。また,建設活動も公共投資の拡大等からセメント等資材不足を生むほどに活発化し,前年比17.9%と増加した。
79年の鉱工業生産は内外需が前年以上に順調なこともあって好調を持続しており,1~10月間の鉱工業生産指数は前年同期比13.6%増(78年は9,3%増)と拡大している。業種別にみると,機械,金属,食料等の生産の伸びが大きく,繊維(稼動率は前年より上昇している)も大手は手持ち受注で年内はフル生産が続りたとみられている。ただ,一盤に小規模企業は石油製品価格の引上げや金融引締めによる資金繰り悪化等の影響を大きく受けており,大手と小企業とでは好・不況が乖離しているのがみられる(なお,79年の製造業は10.0%の成長と推計されている)。
一方,建設業は78年央から資材不足,コスト上昇に見舞われており,79年に入ってからは金融引締めによる資金不足,石油製品価格の大幅引上げ等が加わりかなり厳しい環境にあるとみられている。
(3)貿易と国際収支動向
78年の貿易は輸出が一次産品市況が軟化した中で前年比17.0%増と順調に推移した。これまでの最大の輸出産品であった米が前年の不作の影響から前年比22.3%減と不振であったほか,砂糖も46.6%と急減したが,タピオカが41.1%増と好調で78年の最大の輸出産品となったほか,錫やゴム,(この両品目とも一次産品市況が全般的に軟化するなかで,78年の価格は上昇した)が急増したことによる。また,工業品輸出も好調で,特に繊維製品は78年総輸出の8%を占めるに至っている。
一方,輸入は前年の急増から78年は16.O%増と輸出とほぼ同じ伸びにとどまった。これは,貿易収支の大幅悪化から78年中に奢侈品の輸入禁止及び関税引上げ等の措置をとったことによる。しかし,それでも貿易収支は14億ドルと大幅赤字を記録し,観光収入の急増等貿易外収支黒字が増加したものの経常収支は11.4億ドルと前年をやや上回る赤字となった。これに対し,資本の流入が伸び悩んだことから総合収支は6億ドルの大幅赤字となった。
79年の貿易は1~8月間に輸出が前年同期比32.7%増と好調に推移している。これは一次産品市況の上昇を反映したもので,一方,工業品輸出も順調に推移している。品目別にみると前年不振であった米が前年同期比54.2%増と急増したほか,ゴム,錫等も好調である。
一方,輸入も同34.6%増と輸出の増勢を上回った。これは国内経済活動が順調であることに加え,石油等輸入価格が上昇したこと,3月に輸入禁止措置の一部を緩和したことなどによる。このため,貿易収支赤字は1~8月間に10億ドルと前年を上回るテンポで拡大しており,総合収支も赤字となっている。このため,外貨準備高も減少しており,10月末現在前年末比9%減の19.3億ドル(78年輸入の約4.3か月分)となった。
(4)物価動向
78年の物価をみると卸売物価は前年比4.7%高と比較的落着いていたが,消費者物価は8.0%高と前年より上昇率を高めた。これは,3月のガソリン価格の引上げ,関税の引上げ,4月の交通料金引上げ等のほか,建設活動の過熱による資材不足等が影響している。
79年は上期に卸売物価が前年同期比で9.4%高,消費者物価が7.0%高のあと7~8月に各々15.2%高,10.5%高と騰勢を高め2桁上昇となっている。1月に石油製品価格を平均12.4%引上げた後,7月に再び平均57%と大幅に引上げたのが影響している。その後も,8月末にバス,10月に電話,11月に電気・水道といった公共料金が大幅に引上げられたほか,10月に最低賃金の引上げ(29~40%引上げ)等が実施されており,今後一層の騰勢が懸念される。なお,こうした情勢下で政府は79年1月に物価統制品目を従来の35品目から60品目に拡大したほか,公定歩合の引上げ等金融引締めを強化するなどの物価対策を実施している。
(5)財政動向
79年度(78年10月~79年9月)予算は前年度比13.6%増の920億バーツ(約45億ドル)とやや抑制気味の予算であった。本予算ではインドシナ半島の政情不安から国防費が増加し,総予算の20.6%を占めたほか,農村開発にも重点がおかれている。
80年度の予算は前年度比18.5%増の1,090億バーツ(約53億ドル)と大型予算である。歳出面をみると経済開発費(住宅建設や電力開発に重点,前年度比28.7%増)や農村を中心とした教育費(同27.0%増)の伸びが高く,また,借入金返済額(同23.4%増)も総予算の11.4%を占めている。一方,歳入は国内景気の拡大から租税を中心とする政府歳入の伸びを20.8%増と期待している。また,インフレ抑制の見地から借入金(歳入の16%を占める),は前年度比4.8%増と低い伸びにとどめてある。
79年の金融は引締め基調で推移してきたが,4~6月にかけ市中金融が極度に逼迫したことから,国債買戻し政策,海外借入れ利子課税の一時停止,法人税分割払い,預金準備率の引下げといった緩和策をとった。しかし,その後インフレの高進もあって10月に公定歩合を引上げた(商業銀行ごとに金額限度を設け,その限度内では従来どおり12.5%,限度を超える貸出しは14.0%へ)。
なお,同国の通貨バーツは78年11月に変動相場制に移行したが,79年中もほぼ1ドル=20,4バーツと固定相場時代と同じ安定した水準で推移している。
(1)概 観
78年度(4~3月)のインドネシア経済は前年に引続き順調で,実質GDF成長率は7.2%を達成した。これは穀物の豊作から農業が好調(前年度比7.2%増)であったことや工業生産も高い増加(同14.8%増)をみせたことによる。また,二桁台の高い騰勢を続けていた物価は農業の豊作もあって一桁台へと落着きをみせた。ただ,石油生産は減産となり,また輸出も石油輸出の低迷から伸び悩んだ。
政府はこうした経済情況下で,輸出拡大を促進することを主目的にルピアの対ドル・レートを従来の1ドル=415ルピアから625ルピアへと33.6%の大幅切下げを行うとともに,これまでのルピアの対ドル・リンクを廃止し,通貨バスケット方式に変更することとし,78年11月16日より実施した。
79年に入ってからの経済は穀物生産が干ばつ等の影響から前年を下回るなど農業生産は豊作であった前年に比べやや不振である。しかし,工業生産は引続き順調で,石油生産も安定した水準を保っている。また,輸出も上期は石油輸出不振のあおりを受け,他の輸出が好調にかかわらず全体ヤは伸び悩んでいるが,下期は石油価格の引上げにより増勢を回復している。ただ,前年落着きを取り戻した物価はルピアの大幅切り下げを契機に79年に入ってから上昇率を高め年央には20%台の上昇と高騰している。
79年度の成長は目標の6.5%を上回る7%前後と予測されている。
なお,同国は79年度から第3次5か年計画が実施されているが,この期間の年平均成長率は第2次5か年計画の7.5%を1%下回る6.5%と設定されている。
(2)生産動向
農業生産をみると78年は天候にめぐまれたことから順調で,うち,穀物生産は米が前年比11.2%増の25.9百万トン(籾換算)と史上最高を記録したほか,全体でも12.5%増の29.9百万トンと好調であった。
79年の穀物生産は米が年初に洪水,また,8月に干ばつに見舞われたことなどから前年比3.5%減の部百万トンとみられるほかとうもろこしも不振で,全体では前年比5.7%減の28百万トンとやや不振であった。
鉱業生産は78年は低迷した(年度では前年度比2.8%増)。これは基幹産業である石油生産が輸出不振や生産能力の限界(75~77年の探鉱活動が停滞し,新油田の発見がほとんどなく,多くの油田が老朽化している)から減産となったことによるもので,石油生産指数は前年比3.0%減であった。その他の鉱産物は,石油,錫,ニッケルが好調であったが,ボーキサイトや銅等は前年より減産となった。
79年の石油生産は1~9月間に前年同期比2.8%減と引続き不振であるが年央頃から回復の動きをみせている。
工業生産をみると78年は好調で,なかでも電気機器,繊維製品,セメント,肥料等の生産が増加した。なお,ルピア切下げによる原材料輸入価格の高騰が企業活動に大きな影響を与えることを懸念して政府は約900品目の工業用原材料・部品の輸入税及び輸入販売税を50%減免した。
79年の工業生産はインフレの昂進下で,物価抑制策のために製品価格が抑えられていることなどから増勢は前年より鈍化している。このため,政府は3月に法人税の大幅引下げ等,4月に国内販売税の引下げ及び関税の引上げ(特に,国産品と競合する品目に対する関税引上げは大きい),等の企業活動の補護・促進策を実施している。
(3)貿易及び国際収支動向
78年の貿易は輸出が前年比7.3%増と前年(27.0%増)に比べ増勢を大きく鈍化させた。これは同年輸出の64%を占めた石油及び同製品(以下,石油と略す)輸出が日本及びアメリカ向け輸出の低迷から前年比1.9%増と不振であったことによる。しかし,石油以外の輸出は18.3%増と好調で,ゴム,錫,パーム・オイル等一次産品が増加したほか,繊維製品も金額はまだ少ない(18百万・ドル)ものの前年の約3倍に急増している。一方,輸入は穀物生産の豊作から米の輸入が前年比46.5%減(343百万ドル)となったことや機械輸入が上期の投資プロジェクトの減少で7.3%増と伸び悩んだことなどから全体でも輸出の増加率とほぼ同じ6.4%増にとどまった。この結果,貿易収支は28億ドルの黒字となったが,一方,貿易外収支が外国石油企業の利益送金で大幅赤字であることから,経常収支は13億ドル(前年は0.7億ドル)の赤字となった。ただ,資本流入は順調で総合収支は3年連続の黒字で,外貨準備高も増加している。
79年の貿易動向をみると上期の輸出は石油がアメリカ向け低迷を主因に前年より減少しているものの,ゴムや木材,コーヒー,繊維製品等が好調であることから前年同期比11.9%増と増加している。特に,鋼材,繊維,コーヒー,木材等は輸出の好調から国内市場で品薄となったり,価格が急騰しており,このため政府は4~7月にかけてこれら品目の輸出制限ないしは一時的輸出禁止措置をとった。下期の輸出も石油価格引上げ等から一段と増勢を強めるとみられ,全輸出の約4割を占める対日輸出も上期の34.9%増(前年同期比,日本の通関統計による)から7~11月間には101.6%増と急増している。
一方,輸入はルピア切下げの影響や4引の関税引上げなどから前年より減少しており,1~5月間に前年同期比14.4%減となっている。この結果,貿易収支は大幅な黒字が続き,このため外貨準備高も高水準で増加し,11月末現在で41億ドル(78年輸入の7.4か月分)と史上最高を記録している。
(4)物価動向
78年の消費者物価は米の豊作などから落着きをみせ前年比8.1%高と73年以降の2桁上昇からようやく一桁台の上昇へと安定してきた。ただ,11月のルピア切下げによって,物価は再び高騰の気配をみせた。このため政府は国営企業の値上げ禁止,金融引締め,政府在庫放出のほかに,生活必需品の価格統制及び切下げ直後に値上がりした物資の価格を切下げ前の価格に強制的に戻させる等の措置をとった。こうした措置で物価は年内は結局落着いた動きで推移した。
しかし,12月に130品目,79年1月に207品目の値上げガイド・ラインを示す等物価規制を緩和し,2月には「移行期間」の終結が宣言され,物価は市場の実勢にゆだねられることとなった。その後,3月に鉄道・バス等交通料金や電話・郵便料金及びLPGガス価格が引上げられ,4月にガソリン等価格が35~55%引上げられるなど値上げが相次いだ。この結果,1~8月間の消費者物価は前年同期比17.5%高と高騰し,特に年央には25%前後に上昇している。このため,政府は民間への信用供与の規制,品不足物資の輸出禁止(年央),国内で供給不足気味の化学品,紙,タバコ等約千品目の輸入関税引下げ(9月)等の措置をとった。こうした対策もあって物価は10~11月と上昇テンポを鈍化させている。
(5)財政動向
79年度の予算は総額6兆9,340億ルピア(約110億ドル)で前年比43.7%増の大型予算である。本予算は79年度が第3次経済開発5か年計画の初年度であることから,計画の年平均成長(6.5%)を達成すべく開発支出に重点をおいている。
歳出面をみると,開発支出が防衛・治安部門の前年度比120.9%増を筆頭に鉱工業部門の97.9%増などから42.1%増と急増している。また,経常支出は対外債務償還が75.3%増と急増しているのが目立っている。
歳入面ではルピア切下げに伴う外国石油会社からの税収増(前年度比61.8%増で歳入の48.2%を占める),と外国援助等受入れ増(同74.5%増で21.5%を占める)が中心となっており,輸入税は前年を下回る見込みで,所得税も低い伸びにとどめられている。
なお,80年度予算も前年度比52%増,10兆5千億ルピー(約168億ドル)の大型予算が提案されている。歳入面では外国石油会社からの税収入が92%増と予定されており,これは総歳入の71%を占めることになる。
79年度から始まった第3次経済開発5か年計画は,食料,衣料の確保,石油以外の輸出産業の振興,所得分配の公平化と就業機会の均等化等に重点をおいている。期間中の平均成長率は6.5%としており,うち,各産業の平均増加率は農業3.5%,鉱業4.0%,工業11.0%等においている。そして,最終年度にはGDPに占める農業の比率を27.2%(78年は34%を占めている)に下げ,工業を12.6%(但し,78年に12.3%に達している)に高めることとしている。
(1)概 観
77年度(4~3月)に農業の大豊作などから7.2%(実質GNP)と高い成長を達成したインド経済は78年度も3.5%と成長率は鈍化したものの順調に推移した。この成長率鈍化は農業の成長鈍化によるものであるが,前年度が大豊作であったことを考慮すると78年度の農業も好調であったといえる。
また,鉱工業生産も前年度の不振から立直った。前年度上昇をみせた物価も落着きを取り戻している。ただ,輸出は茶やコーヒー等伝統的商品の不振などから伸びは大きく鈍化した。
79年の経済は,年初は穀物生産(ラビ作,春収穫)の豊作,鉱工業生産の拡大,輪出の回復等順調に推移していた。しかし,年央以降農業生産(カリフ作,秋収穫)が干ばつの影響で穀類を中心に不作となったほか,工業生産も電力不足等から低迷しており,そうした中で物価は騰勢を高めるなど年初の順調な経済動向から一転して悪化傾向を強めている。
(2)生産動向
78年の農業生産は天候にめぐまれたことから前年を上回る豊作であった。
このうち,穀物は米(籾換算),小麦ともに好調で,全体でも前年比3.5%増の142.6百万トンと史上最高の収穫を記録した。こうした豊作から政府は78年に入ってから穀物の輸出(アフガニスタン,ヴェトナムに小麦を,モーリシャスに米を等)をはじめており,年末の穀物在庫も前年末よりやや減少したものの16.5百万トンに達している。また,綿花や落花生,砂糖等商品作物も順調であった。
79年はラビ作が豊作であったものの,カリフ作はモンスーン期(6~9月頃,播種期)に北インドを中心に25年ぶりともいわれる大干ばつに見舞われ,穀物(米が中心)が大幅減収となったほか,綿花やジュート等商品作物も前年より減収とみられている。特に,穀物は年間生産でみても前年比9.1%減の130.9百万トン(うち,米は前年比14.5%減の69.0百万トン,小麦は豊作で前年比11.8%増の35.0百万トン)と不振で77年の水準にも達していない。ただ,7月末現在で政府の穀物在庫が21百万トンと大量にあることから当面食料輸入の増大や食料不足等の問題は生じないとみられる。
鉱工業生産は,78年に前年比6.9%増と比較的順調に回復した。これはこれまで大きなネックとなっていた電力不足が改善(モンスーンが順調であったことによる)したこと,一方,内需も近年国内経済が順調に推移していることを受け拡大していることによる。業種別では繊維,食品,発電の伸びが大きいほか石炭,鉄鋼の不振を除くほとんどの業種が前年を上回っている。
79年に入ってからも年初は拡大基調が続いたものの,年央以降停滞色を強めており,政府は79年の鉱工業生産が当初目標の6.7%増に対して3%前後にとどまるとみている。こうした低迷は電力不足(干ばつ及び石炭生産の不振による)や鉄道輸送のボトル・ネック,鉄鋼やセメントなどの基礎資材不足等に加え,労働争議の頻発が原因となっている。業種別にみるとセメント,石炭,機械類が減産となっているほか,鉄鋼,肥料などの生産も停滞している。
(3)貿易動向
78年の輸出は主要輸出産品である鉄鉱石,紅茶,砂糖等一次産品の国際市況が低迷したことから不振で,前年比3.8%増(前年は14.9%増)にとどまった。一方,輸入は同国が輸入自由化政策を促進していることもあって機械類や食用油,合繊等が増加しているものの,近年,農業の豊作が続いていることから穀物輸入がほとんどなくなり,全体では前年比11.4%増と前年より増勢は鈍化した。ただ,輸入の増勢は輸出のそれを上回っていることから貿易収支は赤字幅を拡大している。
79年の貿易をみると上期の輪出は前年同期比11.7%増とやや回復している。これは前年の後半頃から一次産品市況が上昇に転じ,同国のコーヒーや鉄鉱石等の価格が上昇したことによるもので,工業製品は低迷している。また,主要輸出産品である紅茶や黒こしょうの価格は引続き低迷しており,輸出が急減していることおよび,スリランカやインドネシア等との競争が激化していることから,79年2月に政府は両品目の輸出税を撤廃した。一方,同期の輸入は同8.2%増と低い伸びにとどまっている。この結果,貿易収支は78年末以降改善基調にあり,また,インド人外国居住者や中東を中心とした出稼ぎ労働者からの本国送金がこの2~3年増大しており(76~78年度の間に63.5億ドルに達する),それが79年初までは順調に続いたことなどから6月末現在の外貨準備高は77億ドル(78年末比13.2%増)と78年の輸入のほぼ一年分を保有している。ただ,今後は同国が引続き輸入自由化政策をとっていること(5月発表の79年度輸入政策は中小企業の保護・育成のため一部原材料輸入規制を強化したものの,機械類を中心とする資本財輸入は拡大する等基本的には規制緩和方向にある),石油価格の大幅引上げなどで輸入が増大すると思われるのに加え,中東ブームも一段落した感があり,中東からの送金もこれまでのような増加は期待薄で,外貨準備高の増加テンポは今後鈍化するのではとみられている。
(4)物価動向
77年にやや上昇をみせた物価は78年に入って農業の大豊作などを主因に落着きを取り戻し,前年比で卸売物価が0.1%下落,消費者物価は2.5%高であった。しかし,79年に入ってからは期を追って騰勢を高めており,卸売物価が1~3月間に前年同期比1.9%高,4~6月期7.9%高,7~9月期15.1%高,消費者物価も1~3月期2.8%高,4~6月期4.2%高,7~8月7.9%期高となっている。これは4月からの物品税の大幅引上げ(5~37%引上げ)により製品価格が上昇したこと,8月に石油製品の値上げを行ったこと(うち,ガソリンは8%引上げ),財政赤字による政府支出の増大,供給不足からくる工業製品価格の上昇等の要因による。このため政府は9月に市中預貸金金利を引上げたほか,10月には生活必需品等に関する闇および売り惜しみ行為禁止法を実施した。ただ,年央以降干ばつの影響で農業生産が打撃を受けていること,年末のOPECの原油価格引上げ等から,今後一層の高騰が懸念される。
(5)財政動向
79年度の予算は前年度当初予算比0.6%増(78年度は18.3%増),補正後比ではマイナス6.1%の緊縮予算であった。本予算はジャナタ(人民)党政権になって3度目の予算で,農業開発,農村工業の振興,小企業・零細企業の保護・育成に重点をおいており,農村向けの優遇政策が目立っている。こうした政策をうけ歳出(1,852.6億ルピー)は経済開発費のうち電力,農業関係で17.4%増と大幅な伸びを予定しているものの州政府等への貸付金などは前年度より削減されている。一方,歳入は生活基礎物資(穀類等)や農業関連物資を除くほとんどの物品に対する物品税率の引上げにより租税収入が前年度より14.6%増加するものの外国からの援助受入が減少することもあって,前年度を1%下回る1,717.1億ルピーにとどまっている。この結果,赤字額は前年度(過去最高)を上回る135.5億ルピーに達している。
こうした予算面における農村開発を金融面から支援するために,3月に農村向け農地開発,灌漑設備建設の設備資金貸出し金利をこれまでの年率11%から9.5%に引下げる等商業銀行の農村向け貸出し金利を一部引下げた。なお,9月に入りインフレ対策を主目的に市中預貸金金利が引上げられ,商業銀行の最高貸出金利が15%から18%人引上げられる等の措置が採られたが,農業関連,輸送・輸出関連業者向けについては原則的に本措置の適用が除外された。
(1)概 観
第一次石油危機以降,輸出の伸び悩み,農工業生産の不振等から長期にわたり低迷を続けていたパキスタン経済は77/78年度(7~6月)になってようやく回復の動きをみせ,実質GDP成長率は7.2%と70年代ではもっとも高い成長を達成した。
しかし,78/79年度に入ると再び経済は停滞色を強め,成長率も5.9%にとどまったと推計されている。これは製造業が前年度の9.2%から4.8%へと増勢を半減させたのが大きく響いており,農業生産は綿花や砂糖きびの不作にかかわらず,穀類の大豊作によって前年度の2.5%から4.2%へ伸びている。
なお,低迷を続けている輸出は78年に回復をみせたあと,79年には一段と増勢を高め,好調に推移しているが,一方,輸入もそれを上回る増勢を続けている。このため貿易収支は大幅な赤字が継続しており外貨準備高も78年末以降減少の一途をたどり,79年後半には極めて低水準の保有高にとどまっている。また,物価も78年中は比較的安定していたが,79年には上昇率を高めている。
79/80年度の経済について政府は6.5%の成長目標を掲げているが,年度初め早々から物価高騰,経済開発計画の規模縮小,穀物生産の干ばつによる被害等困難に見舞われている。
(2)生産動向
農業生産をみると,78年(暦年ベース)は穀物生産が小麦の減産(さび病や洪水の被害による)から米の増産にかかわらず前年を下回る収穫で,商品作物も主産品の綿花が不振であるなどかんばしくなく,FAOの農業生産指数によると前年並みの生産にとどまった。79年の穀物生産は前年とは逆に米が干ばつの影響を受け減産(前年比6.2%減の450万トン)となったのに対し,小麦は大豊作(前年比17.9%増の990万トン)となったことから全体では6.1%の増産となった。このため,79年度(4~3月)の小麦輸入は1.0百万トンと前年度の2.2百万トンより減少するとみられる。なお,79年の.綿花生産は前年の不振からは回復しているものの,目標の360万俵(前年実績比37.4%増)は虫害から達成困難とみられている。
一方,鉱工業生産は基幹産業てある綿工業の不振や企業の国有化不安による投資減退等から74年以降長期にわたり低迷しているが,78年は前年比8.6%増と回復の動きを示した。これは77年後半に投資活動を刺激する目的で企業国有化政策の停止,金融・税制面での優遇策,国有化企業によって占められていた分野への民間投資の開放等の措置をとったことや,輸出の回復,綿糸,綿布の生産が政府の救済融資等により徐々に回復していることなどによる。ただ,78年後半から増勢は再び鈍化しており,79年に入ってからはセメントや肥料等大規模工業の低迷など総じて不振が続いている。これを鉱工業生産でみると1~5月間に前年同期比1.2%増にとどまっている。政情不安の中で産業界では投資活動に模様ながめの空気が強く,その中でストライキが頻発していることがこうした低迷の一因となっている。そのため政府は79年に入ってからも2月に「産業財産権保護令1979年」を公布し,今後の国有化を原則として禁止したほか4月に現在推進中の第5次経済5か年計画(78年7月~83年6月)の中の工業投資計画を増額修正する等の措置をとっている。また,3月には外資導入の促進ならびに雇用創出を目的に輸出加工区(カラチ及びラホール)の設置を決定した。
(3)貿易及び国際収支動向
78年の貿易は,輸出がこれまでの長期にわたる低迷から脱し,前年比27.2%増(前年は0.6%の微増)と増大した。これは過去2年間低迷していた綿花輸出が回復し前年比4.4倍と急増したのを主因に,最大の輸出産品である米も13.4%増と堅調であったことによる。一方,輸入は国内開発資材や小麦,原油が急増したことから前年比35.8%増と輸出の増勢を上回った。この結果,貿易収支は18.5億ドルと前年に続き輸出総額を上回る大幅赤字となった。このため,経常収支は在外パキスタン人による本国送金(主として中東)の急増等あったものの7.4億ドルと前年を上回る赤字となった。これに対し,資本収支はこの赤字を補填できず,総合収支は僅かではあるものの5年連続の赤字となり,外貨準備高も78年末には同年輸入額の1.7か月分の4.9億ドルへと減少している。
79年1~7月間の貿易は,輸出が前年同期比35.6%増と引続き好調に推移している。前年急増した綿花が78年に生産不振であったことから同年12月に紡績用綿花輸出を停止したため,79年に入って綿花輸出が急減したものの,米が好調であるほか皮革,魚等も順調であることによる。一方,輸入も同26.5%増と高い増勢を続けている。このため,貿易収支赤字は引続き多額にのぼっている。そうした中で同国は輸入自由化政策を推進しており,79年7月からも一般消費財,機械類,原材料等の輸入規制を一段と緩和した(但し,部分的には国内産業保護のために輸入規制を強化している)。しかし,大幅貿易収支赤字や対外債務返済,援助の前年度よりの削減等から10月末の外貨準備高は2.4億ドルにまで減少(78年輸入の0.8か月分相当)した。なお,79年6月末の公的対外債務残高は74億ドルに達している。
(4)物価動向
78年の物価は卸売物価が前年比5.2%高,消費者物価が同6.7%高と前年より上昇テンポが鈍化するなど比較的落着いた動きを示していた。しかし,78年12月のOPECの原油価格引上げ発表に伴い,同月石油製品価格を5.4~15.6%引上げたことや,79年に入ってからマネー・サプライが急増していること,輸入物価の上昇テンポが高いことなどから,物価の上昇テンポは高まっており,79年上期の卸売物価及び消費者物価はともに前年同期比8.6%高となっている。特に,7月からの新年度に間接税や公共料金(ガス,水道,鉄道料金等)が引上げられたことから上昇率は一段と高まっており,7~8月の消費者物価は前年同期比11.7%高と二桁上昇となっている。なお,79年12月のOPECによる原油値上げに伴い,同月,各種石油及び同製品について12.8~43.4%の大幅値上げを行った。
(5)財政動向
79/80年度の予算は前年度当初予算比20.6%増(補正後比12.5%増),521億ルピー(約53億ドル)の大型予算となっている。本予算は前年度の経済が政情不安を背景とした民間投資の低迷等を主因に低迷したことから,農・工業部門への民間投資促進に重点をおくと同時に大幅な赤字基調にある貿易収支を改善するために輸出産業の育成にも重点をおくこととしている。
歳出面をみると農村のインフラストラクチャー整備,大型製鉄所建設等開発支出や債務返済額が増大しているほか,国防費(総予算の22.5%を占める)も増加している。一方,歳入は前年度比4.6%増にとどまった。これは租税収入等の経常収入が間接税や公共料金の引上げを行ったものの,反面,国内産業育成や輸出振興の見地から繊維製品等の国内消費税の撤廃,機械等の関税の減免等の措置をとったことにより9.6%の低い伸びにとどまったこと,外国からの援助が前年度より4.6%の減少となったことなどによる。
この結果,収支尻は111億ルピーと過去最高の赤字となった。
なお,79年6月に開催された世銀主催のパキスタン債権国会議では同国に対する79/80年度の援助資金を前年度より21.4%減の6.6億ドルとすることで合意した。特に,同国の2.3億ドルの債務救済要請に関しては,国際収支改善のあとがみられないこと,農業生産の拡大,人口増加抑制の実績があがっていないこと等により債権国側は応じなかった。
また,政府は資金不足を理由に79/80年度の開発計画のうち公共部門投資目標額を10.2%縮小した。
(1)概 観
1972~77年の5年間にイランは,実質GDPで平均17.0%増,非石油部門でも同じく13.3%増の高度成長をとげた。しかしその過程では,農村の疲弊インフレの昂進,インフラストラクチャーや技能労働者の不足などのさまざまな不均衡が顕在化し,79年2月のイラン革命の一因となった。
革命後,イランは,石油の付加価値を高める石化事業は別として,全体的に雇用創出効果の乏しいプロジェクトよりはむしろ農業,労働集約型二次産業を重視する方向に向いつつあるものと見られる。すなわち,79/80年度予算(79.3.21~80.3.20)では軍事費の大幅削減,原子力発電所プロジェクトの廃棄などを行い,歳出規模は小さくなっている反面,農業関連地方振興プロジェクトなどが盛り込まれ,歳出全体に占める投資的経費の割合も前体制下で作られた前年度予算のそれとほぼ等しくなっている。
なお,産油量は革命前の水準の約2/3に縮小されているが,輸出額を見ると価格の高騰により79年の7~9月以降は前年同期の水準に達しており,石油減産は経済規模の大幅な縮小には必ずしもなっていないと考えられる。
(2)石油生産
78年の石油生産は,①上半期の世界的な原油供給過剰,②11月からの石油,港湾労働者のストライキなどにより,前年比8.1%のマイナスを記録した。79年に入ると産油量は1月には44.5万B/Dにまで落ち込み,内需の約70万B/Dさえ賄えない状況となった(第9-1図)。しかし,2月中旬バザルガン政権の発足に伴い,産油量は次第に回復に向い,4月には革命後政府が目標としていた400万B/Dまで戻し,その後10月までは概ね350~380万B/Dの水準で推移している。このように新政権が石油生産を削減した経済的背景としては,①国家予算規模が前年度の3/4に圧縮され,必要とされる資金規模も小さくなっていること。②石油価格が大幅に上昇していること。③ポスト・オイル経済の建設までは石油資源を枯渇させることができないことなどがあげられる。なお11月に発表されたアメリカ上下両院合同経済委員会の報告書は,79/80年度イランの予算規模に照らし,期間中のイラン原油の平均価格を21ドル/バーレルとすると,石油輸出量は330万B/Dとなると見込んでいる。
(3)財 政
79/80年度予算(79.3.21~80.3.20)の一般会計は,歳出2兆4,630億リアル(=約350億ドル,前年度比24,8%減),歳入2兆1,074億リアル(=約300億ドル,前年度比12.0%減)とされた(第9-1表)。王制の下で作られた前年度予算に比べて歳出規模が3/4に圧縮されているが,これは主として軍事費削減,国威発揚ためのプロジェクトの廃棄などによるものと推定され,輸入に対しては減少要因となるものの,必ずしも経済規模の縮小は意味しないと考えられる。むしろ,投資的経費のウェートを36%と前年度並みに保ちつつ,歳出力ットによりインフレの一因であった財政赤字を前年度の1/2以下に削減しインフレ抑制への配慮も見せているため,予算どおり執行されれば,財政は健全化に向かっていると言える。なお,プロジェクトの見直しについては,軍事基地建設,イラン南部の原子力発電所プロジェクト,コムとバンダルホメイニとを結ぶ高速道路建設などが廃棄された反面,農業,地方振興プロジェクトが行われることとなったと伝えられている。
(4)農業生産
78年の農業生産は,FAOの統計によると対前年比2.3%増,食糧生産も同じく2.3%増と天候不順による前年の落ち込みを取り戻した(第9-2表)。ただし人口一人当りの農業,食糧生産は各々1.0%減,0.9%減とわずかながらとはいえ二年連続して低下している。全体としての生産が回復した背景には,降雨が順調であったほか,建設活動の不振から一旦流出した労働力の一部が農村に戻ってきたことが指摘されている。
78年の主要穀物の生産動向を見ると,主食の小麦は570万トン(前年比3.6%増:79年の見込は610万トン)と比較的順調に推移しているのに対し,米(130万トン前年比7.1%減)雑穀(110万トン同15.4%減)は不振と推定されている。
(5)物 価
IMFの統計によると,物価の騰勢は78年には依然高水準を続けているものの,前年に比べると鈍化している(第9-3表)。これを対前年比の推移で見ると,卸売物価は77年の17.2%高に対し78年には10.1%高,消費者物価は同じく27.3%高に対し11.6%高となっている。この背景には,革命前の家賃統制,革命前後にかけての外国人の国外脱出などによる都市部の賃貸住宅家賃の大幅な下落が指摘されている。しかし,食料品価格は輸入の遅れなどを反映し,逆に上昇したものと推定される。
(6)貿易収支
78年の貿易動向をリアル建て統計で見ると(第9-4表),輸出は主力の原油が減少したことにより年平均では7.7%のマイナスとなった。他方,輸入は77/78年度の国内農業生産の不振を背景に,食料を中心として22.9%の増加を示した。ただし,金融引締などによる経済開発テンポのスローダウンもあって機械・輸送用機器,原料別製品の輸入の伸びは鈍化していると見られる。79年に入ると1~3月期には輸出入とも激減したが,その後次第に回復している。特に7~9月期には産油量は政変後大幅に削減しているにもかかわらず,原油価格の高騰で輸出額はほぼ前年同期の水準に達している。
(1)概 観
サウジアラビアでは73~75年にかけて石油収入の大幅な増加,大規模な経済開発などに伴い,ボトルネックの発生,インフレの昂進など経済の不均衡が表面化した。そのため,75年から始まった第二次5ケ年計画では,①ヤンブー,ジュベールのコンビナート建設に代表される工業開発とならんで,②港湾,道路などのインフラストラクチャーの整備,③人的資源の開発に重点を置いている。ただし近年では,①の工業開発よりはむしろ,②,③の開発基盤の整備に力が注がれていると見られる。
(2)77/78年度(1977.6.18~78.6.6)の経済動向
77/78年度の実質成長率は7.3%増と,石油部門の不振を反映して前年度の17.0%増からかなり鈍化した(第9-5表)。
まず名目GDPで6割以上を占める石油部門は前年度比,実質1.6%の減少となった。これは,77/78年度の下半期(78年1~6月期)の世界的な原油の供給過剰に加え,他の油種と比べて相対的に需要の多いアラビアン・ライトの輸出量を全輸出量(べリー原油は除く)の65%以内に押えるとの同国の石油政策が主因と見られる。他方,非石油部門では港湾,道路,住宅建設などの建設投資を中心に実質17.0%増と,前年度の21.7%増に続いて高度成長をとげている。
物価面では,77/78年度のGDPデフレーターの上昇率は,前年度の30%から18%へと鈍化した。また消費者物価を見ても,統計上では77/78年度の後半(78年4~6月期)から前年同期比でマイナスを示している。
以上のように,サウジアラビア経済は,非石油部門の急速な伸び,インフレの一応の鎮静化など,80年半ばから始まる第三次5ケ年計画スタートの土台を整えつつあると言えよう。
(3)石油生産
経済の中心である原油生産は,78年に806万B/D(対前年比10.7%減)と大きな落ち込みを見せた。しかし,78年秋から生産は次第に増勢に転じ,79年上半期には900万B/D(前年同期比18.8%増)となった。これは,78年12月末から3月初までイランの原油輸出が全面的に停止したことに伴い,79年1~3月期の産油量の上限をこれまでの850万B/Dから950万B/Dへ引き上げ,世界の石油需給のバランス維持に努めた結果と考えられる。
なお,LPG(液化石油ガス)について,同国の国営石油会社であるペトロミンは,79年半ばから,D-D取引の量を増加させており,LPGの分野でも石油同様,流通機構の変化が生じている。また価格面でも,ペトロミンはプロパン,ブタンの価格を大幅に引き上げている(第9-2図)。特にブタンは,近年その用途の拡大に伴い需要も急増しており,価格上昇が顕著になっている。
(4)物 価
75,76年には前年比上昇率で30%を越した消費者物価の騰勢は,77年には同じく11.4%,78年には同じくマイナス1.6%と,統計上では完全に鎮静化した(第9-6表)。78年4~6月期における前年同期比で物価の鎮静化傾向を費目別に追うと,77年4~6月期の前年同期比でマイナス0.8%であった住居費は,マイナス7.3%とさらに大幅な下落を示したほか,食料費も同じく18.8%高からマイナス1.7%となっている。この背景には,政府の積極的な住宅建設,円滑な物流を確保するための港湾道路建設の効果も大きかったものの,食料品,住宅,電気など生活必需物資への政府の価格補助の効果も無視できないと考えられ,インフレ圧力が完全に払拭されたと見るのは難しい。
(5)財 政
79/80年度予算(79.5.26~80.5.14)は,歳出,歳入とも総額1,600億リアル(=約470億ドル),歳出の伸びは前年度歳出実績比8.5%増となった(第9-7表)。予算の性格としては,依然インフレ抑制のため歳出の伸びを低く押えているほか,港湾,道路,通信施設などのインフラストラクチャー整備(全体の26.2%),人的資源の開発(同じく10.7%)に重点が置かれている。
なお78/79年度予算の実績については,歳出が当初よりも145億リアル上回った反面,歳入は当初を下回ったため236億リアルの赤字になったと伝えられている。
(6)貿易収支
78年の貿易動向をリアル建て統計で見ると(第9-8表)。輸出は上半期の原油輸出の大幅な落ち込みを反映し年全体では11.4%の減少となった。他方,輸入は78年の対前年比で21.8%増と依然高い伸びを示しているが,一部プロジェクトの見直し,インフラストラクチャーの整備優先などにより,そのテンポは鈍化している。この結果78年は,輸入総額に対する輸出総額の割合も52.0と貿易黒字はかなり圧縮された。しかし79年に入ると原油輸出額が急増しており,再び黒字は拡大している。
(1)概 観
中南米の大国ブラジルは経済規模(GNP)でみると自由世界ではカナダにつぐ8番目の経済大国である。同国は1968~73年の6年間“奇跡”といわれた高度成長をつづけたものの,石油輸入依存度が大きいことから73年末の第一次石油危機以降今日まで減速経済を余儀なくされ,低成長,高インフレ,経常収支の大幅赤字に苦闘している。
1979年の生産活動は工業が政府の振興措置もあって前年の好調を持続しており,農業も前年の干ばつによる大不振から回復をみせている。しかし原油価格め再三の値上げによる輸入費用の増大,対外債務利子支払い額の増大から経常収支赤字は前年を大幅に上回る90億ドルにのぼるとみられるほか,インフレが1964年以来最高の75%の高率になるとみられるなどインフレと国際収支が最悪の状態に陥っており,政府は12月初に為替レートを一挙に30%切下げるという異例の通貨政策を打ち出した。また長期的には緩慢な経済成長下で石油消費の節約,代替エネルギー開発促進,農業振興に重点をおいて開発政策を進めている。
(2)生産動向
1978年の部門別生産(GDPベース)は第10-1表のとおり農業(牧畜を含む)が干ばつによる不振で前年比1.7%減となったものの,工業は工業品輸出促進策がとられたことから前年比8.1%増加し,GDP全体では6.0%成長と,当初の政府見通しの5%を上回る高さとなった。
79年に入ると,農業部門では前年不振であった大豆,とうもろこしが共に前年比50%強増加するなど回復を示し,コーヒーも前年比22%増加した。また小麦,米も増産が見込まれている。3月に発足したフィゲイレド新政権は農業重視政策をとり,5月に農業運転資金の融資限度枠の撤廃,異常天候による被害額の100%支払い保証等を決定,8月には生産振興のため農産物の最低保証価格を平均68.5%引上げた(大豆は最高の110%引上げ)。また従来工業部門融資に重点をおいていた経済開発銀行も79~84年の6年間に農牧業,農産物工業(アグロインダストリー)部門に対して1000億クルゼイロ(約1兆円)の融資を決定するなど,次々と農業振興策を打出している。
鉱工業生産は第10-2図のように78年央以降急速な回復をみせ,79年上期も総合では順調な生産活動がつづいた。しかし耐久消費財は年初から,資本財部門も4~6月期に入り増加率に低下傾向がみられる。これは79年度連邦予算の7%削減(400億クルゼイロ,2月発表)や,政府企業の予算の7.9%削減(427億クルゼイロ,5月発表)などの政府投資の縮小から国内需要が低下しはじめた為であり,特に資本財産業では手持受注残の減少から既に雇用削減も始まっているといわれる。
(3)物価動向
物価上昇率を総合物価指数(年間上昇率)でみると第10-3表のとおり78年は干害による食料品価格の高騰が響いて年間40.8%と前年をやや上回る上昇率となった。79年に入ると輸入石油価格の再値上げから物価上昇率は更に高まり4月の緊急インフレ対策も甲斐なく第10-4図にみるように年後半に入って上昇の勢いはますます高まり,1~11月間の上昇率は65.1%に達している。これは1964年の軍事革命直前の92%上昇以来初めての高率インフレである。こうした高インフレの原因は60年代後半から進められた工業化優先政策の陰で農業部門が立ち遅れ,生産の低迷,農産物輸入の定着化などの構造面の矛盾が石油価格をはじめとする基礎資材の上昇と重なって表面化してきたものとみられている。前述の農産物最低保障価格の引上げは一時的にはインフレを加速させる要因となるが,農産物供給の増大が達成されれば有効なインフレ対策となろう。また政府は11,12月にはガソリン,電力,タクシー,バスなど公共料金の値上げを相次いで認めるなど目先のインフレ上昇に捉われず来年以降のインフレ沈静を目ざしているとみられる。もっとも,この為に79年の年間上昇率は75%というブラジルにとっても久々の超インフレになりつつある。このため10月末には従来年1回であった給与調整を年2回とする法案が可決され11月より実施,最低賃金も11月1出こ引上げられた。また政府の民主化推進政策から規制が緩められたこともあって労働争議が頻発し,特に3月の自動車を中心とする金属労組ストは大規模であった。他にバス運転手,教員,銀行員ストなども続きこうしたスト頻発は高インフレと共に社会不安の種となっている。
(4)石 油
ブラジルは石油消費の約85%を輸入に依存しており,その量は1日当り約100万バーレルに達している。この輸入石油の経済規模を78年の対GDP比率,対輸入比率でみるとそれぞれ,2.5%,30.7%で,丁度日本のそれ(各々2.6%,32.3%―IFSより試算―)と同程度であり,今日の石油価格上昇のもたらす影響の深刻さが窺われる。資源大国といわれる同国も石油資源のみは乏しく,石油自給率は第10-5表のとおり年々低下しており,国営石油会社ペトロブラスは1975年以降リスク契約のもとに外国企業の探鉱を認可している。
こうしたエネルギー危機に対処して,7月中旬に初の国家エネルギー委員会が開かれ,石油輸入量を79年上半期の平均である96万バーレル/日に抑制すること,国内石油生産量の増加,アルコールなど代替エネルギー開発強化などの方針が決定されている。
(5)貿易・国際収支
貿易面をみると,第10-6表のとおり78年は輸出の微増,輸入の大幅増から貿易収支は10.2億ドルの入超に転じた。これは干ばつやコーヒーなど国際商品価格の低下から農産物輸出が不振であったこと,穀物,鉱物性燃料,機械・設備の輸入が大幅に増えたことによるものである。しかしこうした中でも工業品輸出は前年比33.2%の著増が続いた。
79年に入ると,工業品輸出の増勢が続き,一次産品輸出も回復したことから輸出は期を追って増大し,1~9月では前年同期比20.5%増となった。一方輸入も石油,化学品,原材料が増勢を強め,機械・設備に増勢鈍化がみられるものの,総額では1~9月の前年同期比で輸出の増勢を上回る26.7%増となった。この結果貿易収支赤字は同期間で14.3億ドルとなり,前年同期の6.8億ドルを大幅に上回っている。デルフィン・ネット企画相は79年の貿易赤字幅は25億ドルになろうと語っている。
国際収支面をみると,78年は貿易の入超,利子支払いの増大(前年比35.7%増)などから,経常収支赤字は前年より18.9億ドル増加して59.3億ドルであった。しかし外国からの借款・融資が127億ドル(前年比64.8%増)にのぼったため総合収支では38.8億ドルの黒字となったよ
また対外債務の償還額は76年以降,毎年約10億ドルずつ増加しており,78年は51.7億ドルとなり,利子等の支払いと合計した債務返済額等はこの年84億ドルにのぼった。こうした債務返済額等の急増は,石油輸入代金の急増と共に現在のブラジル経済の成長を大きく制約しているとみられる。第10-7図は両者の合計が輸出額に占める割合を示したものである。74年に石油の割合が急増し,76年から債務返済が急増しているのが判る。また現時点の推計で,79年には石油輸入額が64億ドル,債務返済額等が105億ドルになるとみられており遂に両者の合計が輸出額を上回るとみられる。
(6)経済見通し
80年の連邦政府予算は総額9,980億クルゼイロ(約236億ドル)で,79年当初予算比75.2%増である。しかし今年のインフレ率を考慮すると実質伸び率ゼロの緊縮予算とみられる。こうした厳しい財政としぶといインフレを考えると80年経済は今年並みの成長率にとどまるとみられる。
(1)概 観
ポルチーヨ大統領は76年のインフレ,不況,金融危機という経済混乱期に大統領に就任し,石油開発を柱に経済建直しに着手した。その後第10-8図にみるように成長率は毎年高まり,インフレも沈静化に向った。
79年は工業生産活動が活況を呈しており,消費需要も旺盛で業種によっては設備不足による生産の伸び率鈍化がみられる程である。投資も積極的で外国からの資金流入が急増している。このためインフレは前年の16%を上回り再び上昇傾向にあり,今後の動向が注目される。
他方,OPEC原油の輸出価格引上げに歩調を合わせて,メキシコ原油の価格も79年には4回引上げられた。年初には150万バーレル/日(以下B/Dと略す)であった生産量も11月末には181万B/Dとなり,産出能力は順調に増大している。
(2)生産動向
鉱工業生産は総合でみて(第10-9図),78年4~6月期に一段高となった後,2四半期ほど横ばいとなり,79年1~3月,4~6月期には前年同期比で各々12.5%増,7.2%増と再び増加している。産業別には製造業,鉱業,石油部門で揃って増加しており,特に石油生産の急増ぶりは著しい。79年9月の大統領教書によれば石油確認埋蔵量は458億バーレルと78年末の400億バーレルを上方修正,可採年数も60年と推定されており石油資源の豊かなことを示している。原油生産量は11月末には181.8万B/Dに達しており,1976年11月の90.7万B/Dから僅か3年間に2倍になった。「石油開発6か年計画(1977~82年)」の石油生産量を82年までに225万B/D(輸出は110万B/D)とする計画は2年早めて80年にも達成する見通しである。しかしメキシコの石油開発の基本政策は国の長期的発展の必要性から生産量を決定するとしており,ペメックスのデイアス総裁は生産量は225~250万B/Dを上限に以後は増産しないと語っている(3月)。
一方農業生産は依然回復の兆しがみられない。78年が前年比2.4%増と人口増加率(3%)を下回ったのに続き,79年も依然不振が続いている。FAOの食糧見通しによれば小麦は20%近い減収が見込まれており,実際1~9月の輸入は前年同期比360%と大幅に増加している。他にとうもろこし,豆類も6月の干ばつ,灌漑設備の不足から減産の見込みである。
(3)物価動向
全国消費者物価の上昇率(年間上昇率)は76年の27.2%をピークに77年20.7%,78年16.2%と近年沈静化傾向にあったが,79年には再び高まりをみせており,1~9月の期間内上昇率は14.4%と前年同期の12.7%をやや上回っている。また79年の卸売物価(メキシコ市)も前年を上回る上昇をみせており,年間20%近い上昇率へと高まりつつある(79年1~9月は16.1%高,78年同期は11.4%高)。こうした中で注目されるのは消費財価格の上昇率(17.9%)が生産財のそれ(12.9%)を大きく上回っていることである。特に非加工食料品は同期間に20%も上昇している。こうした食料品高騰の原因は,食料生産が人口増加率をなかなか追い抜けないための供給不足にある。
さらに工業部門でも最近の景気浮揚に併う需要の増大に供給面が追いつけないこと,すなわち機械・設備の老朽化が物価安定のボトルネックとなっているといわれている。
(4)貿易・国際収支
メキシコの貿易収支はここ25年余常に赤字である。76,77年にやや縮小した赤字幅は78年に景気回復と共に輸入が急増し再び拡大,79年も産業活動が石油ブームから活況を呈し,輸入が大幅増をつづけたため,石油輸出の激増にもかかわらず更に拡大している。79年1~9月の輸入額は前年同期比43.2%増の82億ドルに達している。品目別にみると,工業品輸入が国内景気の好調を反映して急増しおり,機械・設備などの投資財が1~9月の前年同期比で57.7%増と大きく,次いで鉄鋼,化学品の急増を中心とする工業原材料が同30.8%増加しそいる。一方輸出は79年1~9月で59億ドルと前年同期を47%上回る増加をみせた。この主因はもちろん石油輸出の激増で,それは同期間で石油製品を含めて25.3億ドルど昨年同期を13.6億ドル上回り(116.7%増),その輸出総額に占めるシェアも42.7%に達している(78年は31%)。
また工業品輸出も同期間に17.7億ドルと,前年同期を21.7%上回った。しかし四半期ごとに79年の増加率(前年同期比)をみると1~3月期35.8%,4~6月期19.3%,7~9月期11.7%と期を追って小幅になっており,対輸出総額シェアも78年には34.5%であったが,79年1~9月では30%に低下している。
79年上半期の国際収支面をみると,経常収支赤字は貿易収支赤字(13.7億ドル)をやや上回る15億ドルであった(78年上半期は約11億ドル)。これは貿易外収支の赤字幅が小さいためである。すなわち公的債務の利払いが急増し利潤送金等を含めた投資に伴なう純流出は79年上期で15億ドルになったものの,観光や国境取引等による純流入も増加し同期で12億ドル余りになったためである。また同期の資本収支(ネット)は資本流入が大幅に伸びたことから20億ドルの黒字であり,総合収支は若干の黒字になっている。
またメキシコは80年5月末までにガット加盟の態度を決定することになっており,79年10月ガットで成文化された加盟議定書をめぐり現在議論が沸騰している。
(5)経済見通し
1980年の経済見通しについて,ロンドン・エコノミストでは民間投資,政府投資は79年に引き続き11~12%の好伸が続くものの,民間消費は賃金交渉による付加給付の評価が難かしく予測は困難であるが,6%程度の伸びとみられ,全体としてGDP成長率は8~9%になると予測している。但しインフレ率は18%を超えないと仮定している。なお,79年の成長率は8%,インフレ率は20%程度とみられる。
「効率と質の改善」をスローガンとした第10次5か年計画(1976~80年)が実施に移されてから,すでに4か年が経過した。しかし,その諸目標の達成はおろか,5か年計画の進展に応じてその軌道を修正する目的で策定される単年度計画(大体において5か年計画目標を下回る控え目な計画となっていた)でさえ達成できなくなっている。したがって,ソ連経済は抜本的な改革を必要とする時期に差し掛っていると言えよう。
1978年の経済情勢を振り返ると,農業面では穀物が記録的豊作となるなど明るい側面もみられた。そして,78年計画は全体として達成されたが,計画目標が低目に設定されていたことを考慮すると,必ずしも順調であったとは言えない。また,主要工業品の多くが生産計画未達成となったことも問題であった。
1979年計画は,78年計画の達成状況と農業大豊作を基にして,第10次計画中の単年度計画としては最も高い,意欲的な目標となっていた。しかし,異常寒波等の天候不順の影響を強く受けて生産活動は混乱し,それにソ連経済が抱える構造的問題も加わって,計画は年初より大幅に遅れていた。このため,11月末の最高会議(国会)において公表された79年経済実績見込みによれば,多くの重要目標が大幅に計画未達成となる見通しである。国民所得(支出ベース)は計画の4.3%に対して,前年比2%台の低成長に止まるとしている。これは,工業,農業,建設,運輸等,ほとんどの生産部門で計画が末達成となるためと考えられる。とりわけ,国民所得の半分以上を産出している工業部門では,生産が前年比3.6%増と計画目標を2%ポイント程下回る不振となっている。これは,終戦直後の混乱期を除いて戦後最低の増加率である。
このような経済不振に対して,政府当局は短期,長期両面にわたる対策を打ち出している。その中でも注目されるのは,7月下旬に出された決定で,ソ連経済の安定的発展を実現する上で不可欠とみられる経済効率の向上を遅滞なく達成するために,計画化方式の改善と独立採算制等の経済メカニズムの導入強化が盛り込まれている。
対外面に目を転ずると,78年には,ソ連の主力輸出商品である原燃料輸出が伸び悩んだため輸出の増勢が鈍化し,他方,輸入は資本財や食料品を中心に前年よりも増勢が強まった。この結果,貿易収支黒字は目立って縮小した。
とくに対西側先進国貿易では赤字幅が倍増していることが注目される。さらに79年1~9月期についてみると,輸出が対先進国輸出の急増にともなって加速する一方,輸入も前年同期の増勢を維持した。取引圏別にみると,対西側先進国貿易での基調変化が著しく,特に,エネルギー価格の急騰を反映して,輸出の急増が目立っている。このため,対先進国貿易収支赤字は,78年同期に比べて半減するまでに改善した。
1979年経済計画が前述のように不調となったため,1980年経済計画も控え目な内容にせざるを得なくなっている。国民所得成長率は前年比4.0%と4%台の成長を守り抜いてはいるものの,全体として低成長計画であることは否めない。工業生産は前年比4.5%増と76年に次ぐ低い増加目標(78年も同じ4.5%の計画であった)となっている。ただ,消費財と生産財を同率の増加計画にしている点は,国民の消費生活の一層の向上を目指している政府当局の強い決意の表われとみられよう。全般に控え目な計画目標の中で,農業生産だけは前年比8.8%と極めて大幅な増加を見込んでいる。79年の落ち込み分を考慮しても,畜産の停滞が予想されることなどからこの目標の達成は難しいものと考えられる。
(1)工 業
工業生産は,依然として鈍化傾向にある。そして,第10次5か年計画期に入って,その年平均目標増加率の6.3%を上回った年は一度もない。農業生産の不安定性や輸送部門の計画未達成など,原料や資材の供給・流通面の隘路が恒常化していることが大きく影響しているとみられる。また,労働力の確保が困難となっている状況の下,労働生産性が予想外に伸び悩んでいることも大きい。
1978年の工業生産は,前年比4.8%増と計画目標の4.5%は上回った。しかし,77年実績(前年比5.7%増)に比べて増勢は鈍化した。内訳をみると,鉄鋼・非鉄金属,建設資材,木材・製紙,食品工業と広範囲にわたって伸び悩みが目立っている(第11-2表)。また,従来は好調に拡大していた化学・石油化学工業にも増勢鈍化の傾向がはっきりしてきている。そして,主要工業品の多くが生産計画未達成となるなど必ずしも順調ではなかった。
1979年の工業計画は,78年の農業豊作によって軽・食品工業の好調な増加が見込まれたり,78年に不振だった部門の回復が見込まれたりしたことで,前年比5.7%増とやや高目の目標となっていた(第11-2表)。しかし,山積した問題が容易に解決されない上に,初年の異常寒波やエネルギー不足(イランからの天然ガス輸入の途絶も一因を為している)が大きく影響して,実績見込みでは前年比3.6%の増加に止まることが明らかにされている。これは,終戦直後の混乱期を除いて戦後最低の増加率である。また,効率の改善を経済運営の最重点課題としているにもかかわらず,工業における労働生産性の上昇率も計画目標を大きく下回るとみられ,4年連続の計画未達成となる見通しである(第11-1表)。
主要工業品の生産動向をみると,計算機や自動化機器,カラーテレビなどの先端技術品目の生産が引き続き好調であるものの,鋼材,非鉄金属品,石炭,石油,化学肥料,プラスチック・合成樹脂,紙などの重要品目の生産計画が未達成どなる見込みである。のみならず,前年実績にさえ到達しない品目が数多くみられるなど異常事態となっている。計画経済体制下では,一部品目の生産計画未達成であっても波及効果が極めて大きいため,政府当局はこのような事態を極めて深刻に受けとめているとみられ,生産計画の達成と供給契約の遵守などの対策を相次いで打ち出したり,不振部門への批判を集中している。
(2)農 業
多大な投資による機械化,化学化,土地改良等を推進しているにもかかわらず,農業生産が天候に大きく左右されるという体質は依然として変っていない。特に,穀物の豊凶の繰り返しは,畜産の順調な発展の隘路となっている。
1978年の農業生産は,穀物が記録的豊作どなったことにより,前年比3.4%の増加となった。しかし,農業生産の半分強を占める畜産が期待程の大幅な増加をみなかったため,計画目標には遠く及ばなかった(第11-1表)。
1979年の農業生産は,前年比5.8%増の計画に対して同3.3%の減少となる見込みである。穀物生産が天候不順によって前年比24.5%減の1億7,900万トンの低水準に止まり,畜産もほとんど停滞していたためとみられる。
穀物不作に伴う飼料不足を補うために,対外穀物買付けの動きが活発化していた。穀物輸入の大宗を仰いでいるアメリカからの穀物買い付け量は,1979年度(78年10月~79年9月船積み分)には1,600万トンにも上った。さらに現行80年度については,米・ソ両政府の協議の結果,2,500万トンまでの穀物輸入が認められていた。しかし,アメリカ政府は,ソ連のアフガニスタンへの軍事介入に対する制裁措置として,80年1月初,80年度の対ソ穀物輸出枠を米・ソ穀物協定の基本枠の上限である800万トンにまで削減した。
また,カナダやオーストラリア等の同盟諸国もアメリカの動きに同調しており,ソ連がアメリカの輸出削減分を世界市場で手当てすることは困難になるとみられる。このため,畜産に悪影響が及ぶことは避けられないと考えられる。
(3)運輸・建設
運輸活動をみると,石油・石油製品輸送の中心となるパイプライン輸送は大幅な増加を示しているものの,貨物取扱い高の6割を占める鉄道輸送は,輸送計画の不備や荷物の積み降し場面での機械化の遅れ等,多くの問題が障害となって不振である(第11-1表)。そして,79年の輸送計画は寒波の影響も加わって目標を大幅に下回る見込みである。輸送部門は,ソ連経済の隘路として第一に指摘される部門であり,政府当局も問題の解決に腐心している。
建設面をみると,投資高(固定投資)は第10次計画目標を上回る増加を示している。しかし,資金の分散が続き,設備の稼動は予定通り行われていない。このため,かなりの量の工業生産物が計画通りに生産できなかったと言われる。建設計画の遅れの責任は,建設担当各省のみならず,発注主体の各省にもあるとされ,無責任な建設計画の作成が問題を大きくしていると言われる。また,設備始動用機械の供給期限破りが設備の遊休化を促していることも指摘されるなど,建設面の問題は深刻と言えよう。
雇用面をみると,国民経済全体の労働者・職員数は,人口増加率の低下に伴って増勢鈍化傾向にある(第11-4表)。増加率は,1971~75年平均の2.5%増から78年には前年比2.0%増,79年1~6月では前年同期比1.8%増にまで落ちている。このため,各方面で,労働力不足が伝えられる。また,労働力を計画以上に抱えても,人材の配置のまずさや教育訓練の不足などのため,充分に利用できない企業があることも指摘されている。このような情勢下,高齢労働力の積極的利用に向けて年金割増制度の導入(1980年初より実施)が決定された。
所得面をみると,労働者・職員の月平均賃金も生産不振に伴って次第に伸び悩むようになっている(第11-1表)。一方,これを上回るテンポでコルホーズ員の労働報酬は増加していたが,79年には,農産物の買い上げ価格が年初に引き上げられたにもかかわらず不作のために労働報酬は伸び悩み,労働者・職員の賃金を下回る見込みである。
国民の消費生活は,所得の増勢鈍化にもかかわらず活発とみられ,小売売上高,生活サービス供与高はともに賃金の伸びを上回るテンポで拡大している。しかし,国民のニーズに合致した商品の生産やサービス供与が依熱不充分であると言われる。このような状況の中で,1979年7月初には,貴金属,家具,自動車等,国民生活に密接に関連した商品の小売価格やレストランの料金などのサービス価格が10~50%引き上げられた。超過需要の抑制や財政負担の軽減,さらにはサービスの改善を目的としたものとみられる。これで,77年以来3年連続して物価の改訂が実施されたことになる。
(1) 1978年の貿易動向……再び悪化した対先進工業諸国貿易収支
1978年の輸出は前年比7.3%増となり,増加率は77年に比べて半減した(第11-5表)。これは,①輸出価格が僅かな上昇に止まった(第11-6表),②生産の不振から,原燃料や食料品の輸出余力が低下した(第11-7表),ためとみられる。内訳をみると,金属製品,木材,綿花等の主力輸出商品の輸出が前年実績を下回っているほか,輸出の3割近くを占める石油・石油製品の輸出増加率が目立って低下している。他方,輸入は前年比14.8%増と再び加速している(第11-5表)。これは,輸入価格がほぼ横ばいであったものの(第11-6表),①の資本財輸入が輸入抑制の反動もあって目立って増加した,②一部食料品の輸入が大幅に増加した,ためとみられる(第11-7表)。内訳をみると,資本財関係では機械・設備・輸送機器の輸入が前年比3割近く増加したほか,鉄鋼品も同程度の増加を示して77年の減少分を取り戻している。また,77年の不作で穀物,砂糖の輸入が急増している。
この結果,貿易収支黒字は1977年の31.6億ルーブルから,78年には10.9億ルーブルへと縮小した。
取引圏別にみると,社会主義諸国との取引は,計画ベースで行われていることもあって著しい変化はみとめられないが,貿易収支の大幅黒字は是正されている。対先進工業国貿易では,輸出が前年比1.3%減と振わなかった。
主力輸出品の原燃料輸出が停滞したためと考えられる。他方,輸入は,不作に伴う穀物輸入の増大や外貨事情の好転に伴う資本財輸入の再加速によって,前年比10.6%増となった。この結果,対先進国貿易収支赤字は77年の11.1億ルーブル(15.1億ドル)から22.8億ルーブル(33.4億ドル)へと倍増した。対発展途上国貿易では,輸出が前年比7.3%増と77年のブームはおさまったものの引続き増加をみた。主な取引国であるインド,イラン,エジプトへの輸出が停滞ないし減少したことが大きく影響している。他方,輸入は前年比5.5%の減少となった。このため,貿易収支黒字は一層拡大して,29.0億ルーブルに達した。
(2) 1979年の貿易動向……対先進工業国輸出の好調
1979年1~9月期の貿易をみると,輸出は前年同期比15.6%増と78年同期(前年同期比7.5%増)と比べて加速している(第11-5表)。原燃料価格の上昇と先進国の景気上昇による需要増大が大きく貢献しているとみられる。他方,輸入は同9.3%増と78年同期の増加テンポ(同10%増)を維持した。これは,東欧諸国の経済不振を背景にこれら諸国からの輸入の増勢がやや鈍ったものの,穀物や資本財を中心に西側先進工業諸国からの輸入が前年同期比二桁の好調を持続し,さらに発展途上諸国からの輸入が減少傾向を脱したためである。
この結果,79年1~9月期の貿易収支は,78年同期の7.2億ルーブルの赤字から,24.3億ルーブルの大幅黒字に転化した。
取引圏別にみると,輸出増加率は西側先進工業諸国向けが跳び抜けて高く,前年同期比32.9%増となっている(第11-5表)。これは,78年同期のこれら諸国向け輸出が不振であったためでもあるが,主として,エネルギー価格の急騰に負う所が大きいと考えられる。他方,輸入増加率も西側先進工業諸国からのが最も高く,前年同期比12.0%増となっている。これは,資本財輸入が引き続き順調に拡大しているとみられることに加えて,不作に伴う穀物輸入の急増が大きく影響していると考えられる。
ところで,対先進工業諸国貿易収支赤字は78年1~9月期の21.6億ルーブル(31.4億ドル)から79年同期の11.1億ルーブル(16.9億ドル)へと目立って改善した。79年10~12月期に入ってもエネルギー価格の上昇など貿易収支の改善要因はあるものの,同時に大量の穀物の入着もあると考えられ,79年10~12月期の対先進工業諸国貿易収支は大幅な改善は望めないと思われる。
1980年経済計画は,第10次5か年計画の枠にとらわれることなく,最近の経済計画の達成状況を踏まえて,控え目で現実的な内容となっている(第11-1表)。このため,仮りに1980年計画が順調に達成されたとしても,第10次計画の達成は不可能となった。
国民所得成長率(支出ベース)は,前年比4.0%と79年計画より引き下げられている。
工業生産は,前年比4.5%増と農業不作で史上最低となった76年計画(前年比4.3%増)に次ぐ低い増加目標となっている(78年計画も同率であった)。ただ,農業不作の影響が憂慮されるにもかかわらず,消費財と生産財を同率の増加としていることは,国民の消費需要を満すことを最重点課題と考えている現政権の強い姿勢の表われとみることができよう。一方,工業生産の増加分の大半を担うとされる労働生産性の上昇率は,前年比3.8%となっている。この目標は,近年の計画達成状況からみると,意欲的目標である。
農業生産は,前年比8.8%増と79年の減産分を差し引いても大幅な増産計画となる。畜産が飼料不足によって停滞するとみられるため,この目標の達成は困難と考えられる。
建設面では,国家投資高(総投資高の9割近くを占める)は前年比2.7%増と比較的低い目標となっている。投資の無原則的拡大よりも,建設中のプロジェクトに投資を集中して,生産力の早期稼動を目指す政策が強力に推進されると考えられる。
民生面では,1人当りの実質所得が前年比2.9%増となるなど,生産鈍化に伴って所得の向上テンポも鈍化が避けられなくなっている。ただ,消費面では,小売売上高が従来にも劣らぬ増加計画となっており,消費生活の一層の向上を目指そうとする姿勢が見られる。
対外面では,貿易高(輸出入合計額)が前年比4.7%の増加となることを予定している。世界経済が不透明の度合を増すに従って,ソ連はコメコン(経済相互援助会議)を通じた国際分業に熱意を燃やしてきており,したがって,社会主義諸国との貿易取引は引き続き安定した増加をみると考えられる。一方,西側先進工業諸国との取引は,西側諸国の景気いかんとソ連の外貨事情に大きく左右されるとみられる。加えて,アフガニスタンへのソ連の軍事介入に伴うアメリカの対ソ経済制裁措置の決定等,西側諸国とソ連の政治対立が経済にまで深刻な影響を与えており,80年のソ連の対西側先進国貿易は停滞することが予想される。
1979年6月,第5期全国人民代表大会第2回会議が開催された。2週間にわたる全人代では,経済に関連する議題として,「79年度国民経済計画案」と「78年度国家決算と79年度国家予算案」が上提され可決された。
これらの報告のなかで,77年および78年の過去2年間に,中国の国民所得はそれぞれ77年8%,78年12%と高い伸びを示したが,文革期以降,「四人組」支配当時の後遺症として,国民経済の内部に各部門間のアンバランスが発生し,生産,流通,建設,分配面の混乱現象がまだ完全に一掃されず,都市・農村の国民生活の向上についても適切な対策を講ずる必要性が指摘されたらこうした現状をふまえて,79年から81年までの3年間を調整期間として位置づけ,国民経済の調整,改革,整頓,向上を実施し,逐次,持続的な均衡のとれた高度成長の基盤を固める必要性が強調された(調整政策の詳しい内容については 本文第1章第5節参照)。この決定にもとづいて,78年に作成された79年度国民経済計画に修正が加えられることになった。修正後の計画の重点は,農業の発展と軽工業,紡績工業の発展を早め,石炭,石油,電力,運輸,建設材料の生産と建設を強化することとされた。また同時にエネルギー供給量の範囲内において工業間のバランスを図り,資金および資材の供給量に応じて基本建設投資を調整すること,また商品の供給量を増やし,対外貿易を拡大して,都市および農村の経済交流,あるいは国内外の経済交流を極力さかんにし,都市と農村の国民生活を改善することになった。
79年計画の大筋としては,①農業生産の成長率4%,②工業生産の成長率8%,うち軽工業8.3%,重工業7.6%),⑧国家予算に組みこまれる基本建設投資額360億元,これに外貨融資による基本建設投資額40億元を加えると400億元,④商品の小売総額1,750億元(前年比14.6%増),⑤輸出入総額440億元(前年比24%増)となっており,工農業の成長率は過去2年の伸びをやや下回り,基本建設投資額も前年に比べてほぼ横這いの計画となった(第12-1表参照)。
国家統計局の公表によると,工農業総生産額は78年に5,690億元(前年比12.3%増)であったが,79年には前年比7%増の6,087億元が予定された。
うち農業生産額が78年に1,459億元(前年比8.9%増),79年には前年比4%増の1,517億元,工業生産額が78年に4,231億元(前年比13.5%増),79年には8%増の4,570億元の計画目標が設定された。いずれも79年に入って伸び率はかなり低下することとなっている。
まず農業生産のうち基幹品目としての食糧および綿花をみると,食糧生産は78年に3億475万トン(前年比7.8%増)と3億トンの大台を突破した。
79年には前年比2.5%増の3億1,250万トンの生産が予定されている。新中国成立当時の49年の食糧生産量(1億810万トン)に比べると,かなりな増産量だが,人口の急増によって,一人当たり食糧生産は現在もほとんど55年水準と変わらない(本文第1章第5節参照)。
一方綿花生産量は78年に216.7万トン(前年比5.8%増)であったが,79年には農業および軽工業重視政策のもとで,前年の伸び率をはるかに上回る10.8%増,240万トンの生産目標が設定された。
以上のように,79年の農業生産および食糧生産の計画目標の伸び率は,78年の伸び率を下回るものであるが,実績をみると,夏収作物は豊作で,小麦を主体とする食糧生産(年間総収量の約20%)は,6,490余万トンに達し,前年比550余万トン増,伸び率は9.4%増となった。一方早稲は作付面積が減少したにもかかわらず,単位生産量(土地生産性)が上昇したため,総生産量はほぼ前年並みの水準に達した。油料作物も前年比12.2%増,豚の飼育頭数は上半期に前年同期比4.2%増,羊の飼育頭数は7.5%増,牛・馬・驢馬は0.5%増,卵の買上げ量は同期間に前年同期比42.9%増という大幅な増加を示した。また年間食糧収量の約70%を占める秋季作物も全般的に好調で,79年の食糧生産は当初計画目標の3億1,250万トン(前年比2.5%増)の超過達成は可能とみられている。こうした農業生産の背景要因としては,①天候条件に比較的めぐまれたこと,②人民公社の自主権が法律的な保護をうけたこと,⑧農・副業生産物の買付け価格が引上げられたこと(18品種の農副産物,平均24.6%の引上げ),④農業用工業品の供給価格が引下げられたこと(平均9~15%引下げ),⑤中国農業銀行による農業貸付金額が増大したこと(1~8月間,前年同期比30.8%増)などが指摘できる。
工業生産の実績をみると,上半期には前年同期比4.1%増にとどまり,年間計画目標の8%増を大幅に下回った。しかし第3四半期以降に入って,全国的に増産・節約を中心とする労働競争が展開されたこともあって,増産テンポが高まり,7月には前年同月比11.0%増,8月9.3%増,9月11.5%増,10月17.5%増となった。1~10月間の累計工業生産総額は前年同期比7.4%増となり,このまま推移すれば,年間計画目標の8%達成は可能とみられる。なかでも政府当局が重視している軽工業の伸びは重工業の伸びを上回って推移している。
工業生産の増産傾向のなかでみられる特長をみると,第1に,下半期に入って増産テンポが逐次高まってきていること,第2に,工業製品の品質が漸次高まったこと,第3に,原材料・燃料動力の消費原単位が大幅に低下傾向を示していること,第4に,新産品や工業品種の数が大幅に増加していることなどである。
なお78年においてエネルギーのなかでも電力の供給量が,需要量に対して20~30%不足したことが伝えられた(日中経済協会編「中国の経済調整と近代化の展望一調査委員会訪中代表団報告)。中国経済のボトルネックとなっているエネルギー対策として,短期的には節約を奨励し,長期的には外資を導入して石油,石炭,電力などエネルギー開発に取り組んでいる。中国では一次エネルギー供給のなかで,近年石油の占める比率が高まっているが,現在でもなお圧倒的な比率は石炭で占めている。一方一次エネルギー消費の分野では,鉱工業,農業の占める比率が高まっており,政府はとくに最近農業および軽工業向けのエネルギー供給量を増加させようとしている(第12-1図参照)。
中国の78年末総人口は9億7,523万人(前年比1.2%増,これから台湾人口を差引くと,約9億5,809万人となる),うち就業者数は農村労働者(農林水産牧畜業および社隊営工業労働者をふくむ)約3億人,都市労働者(職員・労働者総数)9,499万人(国営企業労働者7,451万人,集団所有制企業労働者2,048万人)となっている。当面中国にとって最大の課題となっているのは,大量の失業者の存在である。失業者数は約2,000万人(孫治方論文,“経済研究”79年10月号―日中経済協会編“中国の経済調整と近代化の展望”向坂訪中代表団報告によれば,失業者数は1,000万人前後となっている)ともいわれている。失業者発生の要因としては,①過去の急激な人口増による労働力人口の増加,②「四人組」支配当時の経済政策の軽視による成長鈍化,③知識青年層の地方農村への下放促進と,挫折者の都市への還流などがあげられる。
これら失業者および新規労働力をふくめて,79年に750万人の新規労働者を吸収する予定であることが,79年6月の全人代における余秋里報告で明らかにされた。また長期的人口抑制対策として,78年に1.2%に低下した自然増加率を,79年には1.0%,85年には0.5%にまで低下させるという目標が提示された。上海特別市あるいは四川省では,すでに人口自然増加率は0.5~0.6%にまで低下している。
中国の農村人口は全人口の約80%を占める。しかし現在のところ,農村から都市へ自然的に人口が流入するほどの工業化はまだ進んでおらず,都市化の現象はみられない。また大都市に存在する大規模企業では,労働生産性を高めるため近代化が急がれており,雇用吸収力は乏しい。雇用吸収に当っては,地方都市企業の増加,サービス産業の拡大,中小規模の集団所有制企業の増強,人民公社の社隊営企業の増強,知識青年層の地方農村への下放運動の継続など,中国経済の産業構造に見合った現実的な対策が講じられようとしている。
つぎに中国の賃金体系を概括すると,①基本賃金,②補助賃金,③附加賃金の3種類から構成され,基本賃金はさらに,イ.標準賃金(時間給制),あるいはロ.出来高払制による直接支払賃金,ハ.奨励給の3種類に分かれる。基本賃金は国営企業において「8級賃金等級制」の体系が整えられ,技術者および国家機関職員等については,それぞれ別体系の賃金等級制が定められている。また集団所有制企業は一応国営企業の賃金体系を参考としながら別個の賃金体系が各企業ごとに自主的に定められているようである(第12-2表参照)。
過去の推移をみると,標準賃金率は長期的に固定され,また出来高払制の適用や奨励給の支給についても,文革期およびその後の「四人組」支配当時は,物質的刺激の性格が強いということで廃止されてきた。しかし華国鋒体制に移行した76年以降から出来高払制および奨励給も復活し,79年6月の全人代以降は,労働生産性向上対策の一環として奨励給の支給体制はいっそう強化されている。
一方国営企業労働者および国家機関職員を対象として,賃金引上げが77年10月から79年11月にかけて再三実施されている。賃金引上げは昇級という形式によって実施されているが,77年10月には,職員・労働者数の46%を対象として,主として低所得者層を主要対象として労働意欲を高めるために実施された。これによって国営企業労働者の年間一人当り賃金は,77年から78年にかけて7%増え,年間644元となった。さらに78年には職員・労働者数の2%,79年11月には職員・労働者数の40%を対象として賃上げが行なわれた。なお79年11月から,肉類,卵,野菜,水産物,牛乳等の小売価格が引上げられたため,政府当局は圧倒的多数の職員・労働者および都市住民の生活水準の低下を防ぐため,毎月,職員・労働者(定年退職者と見習工をふくむ)に一人につき5元,牧畜地区では8元の補助金を支給することになった。
中国ではすべての物資,サービスに公定価格・料金が設定されており,物価水準は長期的に安定している。なお農業の発展テンポを早め,軽工業により多くの原料を提供し,重工業により多くの資金を蓄積し,生産の全面的発展を促進するため,過去数回にわたって農産物,副業生産物の買付け価格を引上げ,農業向け工業製品の販売価格を引下げてきた。また食糧の政府買付け価格も数回にわたって引上げると同時に,食糧の小売価格を一貫して安定させ,買付け価格と小売価格の差,および食糧管理費はすべて国家が補助し,労働者と都市人民の生活に極力影響を与えないような措置を講じてきた。以上のような措置によって工農業生産物の鋏状価格差は次第に狭められている。
なお79年に入っても,78年末に開催された第11期3中全会の方針にしたがって,国務院は3月以降,18種の主要農産物の買付け価格をつぎつぎに引上げた。18種の主要農産物とは食糧,油料作物,綿花,豚,牛,羊,卵,水産物,甜菜,さとうきび,麻,マニラ麻,ひまし油,まゆ,木材,竹材,牛皮,水牛皮である。
食糧は79年の夏収作物から引上げられたが,引上げ幅は20%(超過買付け分はさらに50%増),油料作物は25%(超過買付け分はさらに50%増),綿花は15%(超過買付け分はさらに30%増),豚は26%,その他の農産物は20%から50%引上げられた。今回の農産物の買付け価格の引上げは,工農業生産物の鋏状価格差がまだかなりの開きがあり,また多くの農業向け工業品の価格がいぜんとしてかなり高いため,農業の生産コストが高くなり,農業の蓄積が増加せず農業生産の発展が鈍化傾向を示しているためである。
国家物価管理局の見積りによると,今回の買付け価格の引上げによって,79年の農民の収益は70億元以上に達するといわれる。
一方国務院は79年11月から,豚肉,牛肉,羊肉,家禽類,卵,野菜,牛乳の8種類の農業副産品の小売価格を引上げた。食糧,油料作物,棉布など現在配給制が実施されている重要商品価格および砂糖,石炭価格などは現状の小売価格水準を据えおき,原料高による製品への価格上昇の波及を極力抑制することにしている。
8種類の農産物小売価格の引上げ幅は,豚肉33%,卵32%,水産物33%,牛肉および羊肉は豚肉のそれとほぼ同率,野菜の値上げ幅は小幅にとどめ,家禽類と牛乳の価格は適当に調整し,しかも値上げ幅をきびしく統制することになっている。農業副産品の値上げによって,政府は年率約50億元の財政収入増となるが,他方,職員・労働者に対し79年11月から補助手当を支給することにしており,補助金の支出額は年率約60億元に達し,差引き財政支出増となる。
政府は生産の発展と商品流通の拡大を通じて需給を調節し,投機の発生を阻止しようとしている。さらに農業副食品の引上げによる工業製品価格上昇への波及,あるいは便乗値上げなどについて警戒措置を講じている。
中国の対外貿易はこのところ急速な拡大をみせている。華国鋒体制に移行したあと,大きく西側諸国に門戸を開き,四つの近代化をめざして,西側先進国から技術およびプラント設備を大量に増大して,工業化の進展と生産効率を高めようとする中国当局の政策表明の結果ともいえる。西側諸国もこれに応じて,政府ベースの信用供与,あるいは民間銀行ベースの信用供与を積極的に取り進めている(第12-3表参照)。
このような情勢のもとで,78年には前年に比べて輸入41.1%増,輸出20%増となった。しかし79年に入って調整政策が実施に移され,基本建設プロジェクトの整理・淘汰の方針が確認され,これにともなって79年初には既契約の導入プラントの輸入延期や契約中止の現象があらわれた。79年6月の全人代で発表された79年計画でも,前年に比べて輸入32.4%増,輸出14.7%増と定められ,78年実績に比べると,国民経済の全般的な調整計画に応じて,対外貿易の縮小化傾向が目立った。
しかし基本建設投資の整理・淘汰の進捗状況は計画当局の予定に反して,整理テンポが遅く,対外貿易は79年に入って大幅な伸びを示している。これには輸出入価格の上昇という要因もあるが,上半期には前年同期比でみて人民元建の輸入59.9%増,輸出26.8%増となり,計画目標を大幅に上回った。また1~10月の累計額(ドル建)では前年同期比で輸入51.8%増,輸出41.3%増と輸出の上昇テンポが高まってきたが,貿易収支バランスでは赤字幅は16億ドルに増大した(第12-4表参照)。
輸出入商品構成をみると,輸入面では技術・プラント,農産物(食糧,綿花),化学肥料,農薬,機械の伸びが著しく,鉄鋼の輸入は減少した。輸出面では農産物,紡織品,軽工業品,原油,鉱石類の伸びが目立った。
なお全人代で「中外合資経営企業法―外資法」が公布されたが,これに即応して,中国国際信託投資公司が設立された。同公司の主要任務は,国務院の各部門,各地方の委託を受け,合弁法および関係法令にもとづいて,外国資本と先進技術・設備を導入して,共同で合資企業をつくることである。
同時にまた外国投資管理委員会と輸出入管理委員会を設立し,合弁企業の許認可,輸出入,外国為替勘定の操作,新技術導入の管理に当たることとなっている。
米中間の動きとしては,79年7月10日正式に貿易協定を調印し,米議会の承認待ちとなった。さらに永い間懸案となっていた米中間の凍結資産解除についても,10月両国間で解除宣言が公布された。米中貿易協定は,①最恵国待遇の供与,②政府間信用の供与などを骨子とするもので,8月にはモンデール副大統領によって,5年間で20億ドルの借款(米輸出入銀行借款)を供与する用意があることを明らかにした。
また中国の最大貿易相手国の日中間では,79年5月,輸出入銀行が中国銀行に対し,4,200億円(約20億ドル)の円建て融資を行なうことに合意し,さらに79年12月中国側が要請していた9項目のプロジェクトのうち,6つのプロジェクトに対しアンタイドの政府借款(海外経済協力基金による円借款)を供与することに合意した。資金供与額は差し当たり初年度の79年に500億円を供与することになっている。同時に80年4月をめどとして,中国からの輸入品に「特恵関税」を適用することとなった。