昭和53年度
年次世界経済報告
石油ショック後の調整進む世界経済
昭和53年12月15日
経済企画庁
アメリカ経済の拡大は,75年春の景気底入れ以来,すでに満4年近く続いている。ここ1年ほどの実質GNPの動きをみると,78年初には異常寒波や炭鉱ストの影響からゼロ成長となったが,4~6月には年率9%近い成長となって年初の遅れをとりもどした(第1表)。その後も根強く増加し,10~12月は非常に高い金利の下にありながら,6.1%に達した。この結果,年平均では,政府の年央見通し(7月,4.1%)をわずかに下回る3.9%となった。
これを映じて雇用情勢の改善は著しく,78年10~12月までの1年間に,就業者は約360万人(3.9%)増加し,失業率は6.6%から5.8%にまで低下した。
しかし物価は年間を通して高騰し,消費者物価の前年同月比上昇率は77年11月の6.7%から78年11月には9.0%に高まった。
貿易収支は1~3月を底に改善しつつあるが,赤字幅は1~11月累計ですでに267億ドルと77年通年(265億ドル)を上回って史上最高となった。これに年初来の物価高騰も加わって,10月末までドルの低落が続いた。
こうした中で政策運営の重点は,春ごろを境に,雇用の拡大から物価の抑制に転じている。
75年4月に始まった今回の景気上昇が,持続期間においても,拡大テンポにおいても,過去の景気上昇に比して遜色がないことは,本文第1章第1節,第3章第1節などで述べたとおりである。ここでは,GNPを構成する主な需要項目について,ここ1年ほどの動きをみよう。
(1) 個人消費の堅調
個人消費は,寒波など特殊事情のあった1~3月期を除いて,堅調に増加し,78年平均で3.9%増と,実質GNP(3.9%増)と同率の伸びを示した。
内訳をみると耐久財が5.0%増,非耐久財2.7%増,サービス4.6%増であった。こうした中で,個人消費の伸びはこのところ可処分所得(実質)の伸びを上回っており,これを映じて個人貯蓄率は低下を続けた。
(2) 大きく伸びた設備投資
非住宅固定投資は,77年に続いて78年も実質GNPの2倍程度のテンポで拡大した。この結果実質GNPに占める非住宅固定投資の比重は,76年平均の9.4%から78年10~12月期の10.2%にまで高まった。設備投資がこのように好調であったのは,①企業利潤(税引)が77年11.3%増のあと,78年1~9月も前年同期比13.3%増と引続き堅調であったこと,②製造業稼動率が着実な上昇を続け,78年後半平均では85.3%と,60~73年平均の84.0%をかなり大幅に上回るに至っていること,などによるものと考えられる。なお商務省が11~12月に実施した予測調査では,79年は名目11.2%(実質3%)の設備投資の伸びが見込まれている(78年実績見込名目12.7%,実質4.5%)。
(3) 住宅投資は鈍化
76,77年と前年比2割以上の著増を続けた住宅投資(GNPベース)は,77年10月~12月以降はほぼ横ばいで推移し,78年は3.5%増にとどまった。
78年の1つの特徴は,急速な金利上昇(たとえばフェデラル・ファンド・レートは,12月までの1年間に3.47%ポイント上昇)にもかかわらず,住宅投資がほとんど減少しなかったことである。民間住宅着工件数でみても78年平均は77年をやや上回り,12月も年率213万戸と,200万戸を越える高水準を依然として維持している。これは,若年層人口の増加を背景に住宅需要が基本的に強いことに加えて,6月以降,6ヵ月もの財務省証券金利に連動する新型債券の発行が可能となったことにより,住宅金融機関への資金流入が比較的潤沢であったこと,インフレ・ヘッジ目的の住宅購入が増加したことなどによるものとみられる。
(4) 低い在庫率
実質在庫投資(72年価格)は77年7~9月の年率125億ドル(GNPの0,93%)から10~12月には大きく減少して75億ドルとなり,その後78年前半は120億ドル台にもどったが,以後再び減少を続けて,10~12月には77億ドル(GNPの0.55%)となった。この結果,78年10~12月までの1年間に在庫投資の増加は2億ドルにとどまっている。企業家の慎重な在庫政策を映じたものといえよう。
事業在庫率(名目)をみても,75年3月の1.65(ヵ月分)をピークにほぼ一貫して低下している。ここ1年ほどの動きの中では,78年初にかなりの上昇がみられたが,これは寒波などの影響で製造業,卸・小売業とも売上が落込んだためである。その後,1.40をやや上回る程度の低水準(77年までの10年間平均は1.53)を維持し,11月には1.39となっている。
(1)鉱工業生産は着実に上昇
78年12月までの1年間に鉱工業生産は7.7%増加した(78年平均では5.5%増)。夏頃から鈍化した76,77年と異り,78年は年初の落込みからの急回復を終えた5月以降,年末までほとんど一本調子で上昇を続けた(第1図)。
財別にみると,77年と同じく78年も企業設備財の伸びが大きかった。設備投資の順調な伸びを映じたものといえよう。これに対して消費財の伸びは比較的低かった(第2表)。
(2)女性を中心に就業者の大幅増加
78年10~12月までの1年間に就業者(除軍人)が352万人の大幅増となる(73年までの10年平均166万人)など,雇用情勢の改善が進んだ。78年平均の就業者増加率は4.2%と実質GNPの伸び(3.9%)をも上回るものであった( 第3表 )。この結果,失業率も77年平均の7.0%から78年には6.0%と1ポイント低下した(78年10~12月には5.8%)。
就業者の増加(78年11月までの1年間)を男女別にみると,女性の増加が著しい。20才以上の女性だけで191万人増と全体の54%を占めた(20才以上の男性40%,16~19才の男女6%)。既婚で現に配偶者のある女性だけをみても,第4表のとおり,1年間に4.6%増と現に配偶者のある既婚男性の1.1%増をはるかにしのいでいる。既婚男性については,就業者の伸びは低かったものの,労働力人口の伸びが著しく鈍化しているため,失業率は急速に低下して78年11月に2.5%と,前回好況期(73年7~9月の2.1%)に迫っている。
こうした就業者の大幅増加もあって,労働生産性の上昇テンポは極端に鈍っており,78年7~9月までの1年間に0.3%しか伸びなかった(76年平均3.6%増,77年1.3%増)。
(1)年末まで衰えなかった物価高騰
78年の物価上昇は,前2年を大きく上回るものとなった。1~11月の前年同期比でみて,完成財卸売物価は7.6%(76,77年平均5.1%),消費者物価は7.5%(同6.2%)の上昇を示した。
年前半は牛肉,果物,野菜など食料が高騰の中心であった。完成財卸売物価(季節調整値)の前月比を1~6月平均でみると,食料の1.4%高に対して,除食料は0.7%高にとどまっていた(第5表)。消費者物価(季節調整値)でも食料の1.4%高に比べて,非食料は0.7%高と同傾向であった(第6表)。
しかし7月以降,上昇の中心は食料から工業品やサービスに移った。完成財卸売物価のうち,食料が7~11月平均0.4%高であったのに対し,非食料は0.6%高とこれを上回り,消費者物価でも,食料の0.4%高をしのぐ非食料の伸び(0.7%)がみられた。この結果,77年の場合と異って,年間を通じて物価の高騰が続いたが,この背後には,賃金上昇率の高まりがある。
(2)賃金上昇の高まり
第7表は時間あたり賃金と単位労働コストの上昇率をみたものである。時間あたり賃金上昇率は,77年10~12月以降,高まり続けており,78年7~9月には前年同期比9.4%に達した。
78年9月までの1年間の賃金上昇の内訳をみると,①従来と違って,組合に加入していない労働者の賃金上昇率が組合加入者のそれを上回っていること,②産業別には小売業,職種別にはサービス従事者の伸びが高いこと,が注目される(第8表)。78年初の最低賃金の引上げ(時間あたり2.30ドル→2.65ドル,15.2%,小売業などでは最低賃金で雇われている者の比率が高いといわれる)や雇用情勢全般の改善を反映したものとみられる。
貿易収支は78年1~3月を底に改善基調にある(本文1章2節3,「改善傾向のアメリカ貿易収支」参照)。これを映じて経営収支赤字幅も77年10~12月の70億ドルから78年7~9月には38億ドルへとかなりの縮小をみせた。
(貿易収支)
第9表は貿易収支(FASベース)改善の内訳を,石油と非石油にわけてみたものである。貿易収支の改善幅は,夏から秋にかけて小幅化している。しかし,これは,石油輸入(ここではSITC3類の鉱物性燃料輸入)の増加が月平均3.1億ドルの悪化要因になっていることによるところが大きく,その他品目の収支は,月平均4.6億ドルの改善を続けた。
工業品(SITC5~8類)の貿易収支を第10表でみても,改善傾向は明らかである。1~3月平均では10.5億ドルの赤字であったのが,赤字幅を着実に減らし,10~11月平均では1.4億ドルの黒字に転じている。
(経常収支)
78年1~3月を底に貿易収支(国際収支ベース)が改善していることを映じて,経常収支も改善傾向にあるとみられる(第2図)。ただし,78年1~9月累計赤字幅は138億ドルと,前年同期の83億ドルを大きく上回っている(第11表)。
78年初に発表された諸教書は,250億ドル減税を提案するなど,政策の重点を経済成長と雇用の拡大に置くものであった。これは①77年1~3月に7%台と高率であった経済成長率が期を追うごとに低下して,77年10~12月には3%台となった,②そのため物価上昇率はさほど高まらず(GNPデフレーターは前年比5.9%高),③失業率は高水準で推移した(年平均7.0%)ことによるものとみられる。しかし,諸教書発表後,雇用情勢は77年秋ごろから著しく改善したことが判明したほか,食料の大幅値上りなどから物価の騰勢が強まり始めたため,春ごろから経済政策の重点は,引続くドルの低落に対処する意味も含めて,物価の抑制に移ってきた。
(1) 物価対策
1月の大統領経済報告においては,節度ある財政金融政策,政府規制の再検討,民間部門の賃金物価抑制に関する自主協力(減速計画)等により成るインフレ対策(第12表)を打ち出し,さらに4月にはインフレ問題に関する大統領特別声明(第13表)を発表してインフレ対策を強力に推進することを・再確認した。しかしインフレの勢いを抑えることはできなかった。
(10月のインフレ対策)
こうしたことから,10月下旬に大統領はインフレ対策の“抜本的強化″を発表した。その内容はあらまし以下のとおりである。
A政府による措置
a厳しい財政政策の採用
○ 80年予算における連邦支出のGNPに占めるシェアを21%程度に引下げ。
○ 80年度予の算の赤字を300億ドル以下に削減
○ 連邦公務員(78年10月現在275万人)の雇用削減(79年度中に約2万人)
○ 79年度連邦公務員給与引上げ率を5.5%に抑制,高級公務員給与凍結(7月に発表済)
b政府規制改善努力の強化
○ 規制担当省庁による規制会議創設(重複等の調整に当る)
○ 79年にトラック,鉄道輸送の規制緩和
B民間部門の協力
a賃金基準
○ フリンジ・ベネフィットを含む賃金上昇率(契約期間平均)は7%以内,ただし多年度契約における初年度上昇率は8%以内
○ 時給4ドル以下の労働者等については適用除外
b物価基準
○ 79年の製品価格上昇率を,76及び77年の平均値を0.5%ポイント下回るレベルに抑制(経済全体では5.75%に抑制されることになる。)
○ 76,77年中の価格上昇が異常に高かった企業でも79年は9.5%に抑制
c実質賃金保障制度
消費者物価上昇率が7%を超えた場合には,賃金基準を守った雇用者に対して税金の払戻し
d基準遵守の監視
賃金物価安定委員会スタッフの増員(35名→135名)
e政府の制裁措置
基準をこえる賃金,物価引上げに対しては,(ア)輸入制限措置の再検討,(イ)政府規制料金の厳格な審査,(ウ)政府規制最低賃金・価格の修正,(エ)公聴会・報告書等による一般への情報提供を行う。
f政府購入
○ 500万ドル以上の政府契約の相手方は賃金・物価基準を守る企業に限定。
○ 500万ドル以上の輸出入銀行融資先は賃金,物価基準を守る企業に限定。
g経済全体としての賃金・物価の目標
○ 賃金基準と物価基準の関係
賃金基準(7%)+79年1月からの社会保障税引上げの影響(0.5%)-生産性上昇率(1.75%)=単位労働コストの上昇率(5.75%)=経済全体の物価上昇率=-76,77年物価上昇率の平均(61/4%)-0.5%
○ 適用除外の存在のため,基準が広範囲に遵守されても79年の物価上昇率は6~61/2%になる(53/4%ではなく)
以上のような10月のインフレ対策の特徴として,以下の3点をあげることができよう。
その1は,意図的な景気後退と賃金物価統制という両極端をこの段階では引続き排除していたことである。その2は,引締め政策も自主協力も限度いっはいの強化が図られていることである。引締めについては,79年の成長目標を引き下げて失業率の改善を一時的に棚上げしたものとみられる。また自主協力については,明示的基準の設定,制裁措置の導入及び実質賃金保障制度の提案という3点でかなりの強化が図られた。その3は政府自身のインフレ促進的行為の削減を中心として,政府規制の合理化を図ろうとしていることである。
(11月のドル防衛策)
こうしたインフレ対策は,国内問題としてのインフレに対処するとともに,ドルの強化をも目標として打ち出さわたものであった。しかし本対策発表後,これには新味もなく実効も期待できないとの失望感からドルは逆に大幅に下落した。これを放置すれば,輸入物価の高騰,さらには石油価格の大幅引上げを誘発してインフレ対策そのものの基盤がつき崩されるうえ,国際的なドル不安に発展するおそれもあったため,政府は11月初,大規模なドル防衛策(内容については白書1章2節の4参照)を発表した。すでに打ち出されていた財政面からの引締めと合わせて,ドル防衛策により,金融面からも一段と強力な引締め(公定歩合の9.5%への引上げ及び預金準備率の引上げ)に転じたわけで,10月のインフレ対策では排除していた意図的景気後退の危険を冒すことに事実上踏み切ったとみられる
(2)財政金融:引締め態度の強まり
(連邦財政)
78年1月,景気上昇を維持するため,大統領は79歴年ベースで245億ドルの減税(77年の名目GNPの1.3%にあたる)の78年10月からの実施を正式提案した。内訳は個人減税168億ドル,企業減税57億ドル,その他減税(消費税減税)20億ドルであった。同じく1月に提案された79年度(78年10~79年9月)予算では,財政赤字を606億ドルと見込んでいた(第14表)。
ところが5月には,物価高騰が続く中,財政赤字の縮小を通じて物価上昇圧力の緩和を図る目的で,政府は79年度減税規模の削減(79歴年ベースで190ないし200億ドルヘ)及びその実施時期の延期(当初提案の78年10月実施を79年1月実施へ)を提案した。これにより,79年の財政赤字は530億ドル程度に縮小するとされた。
その後の議会審議の結果,減税については①実施時期は79年1月,②規模は79歴年ベースで214億ドルと決定された(10月,大統領署名は11月)。内訳は,個人減税148億ドル,法入減税66億ドル(78年末に廃止されることになっていた雇用税額控除の単純延長分27億ドルを含む)となっている。また,79年度予算は,第2次予算決議(9月)で歳入4,487億ドル,歳出4,875億ドル,赤字幅388億ドルと定められた。
なお,(1)で述べたとおり,インフレ対策の観点から80年度の財政赤字は300億ドル以下に抑える旨大統領は提案し(10月),79年1月の予算教書では290億ドルとなっている。
(金融政策)
77年春ごろからの引締め基調が78年に入って強まり,とくに年後半には矢継ぎ早に公定歩合が引上げられた。年初,公定歩合は6%であったが累計7回3.5%引上げにより,11月初には9.5%の史上最高水準となった(従来の記録は74年後半の8%)。
78年の公定歩合引上げの特徴は,従来と異って為替市場対策の側面を色濃く持ったことである。第15表のFRB当局のコメントをみても7回のうち実に5回も“為替市場の混乱”に言及している。
プライム・レートも大幅に上昇した。年初には7.75%であったが,年末には11.75%に達し,既往最高(74年8~9月の12%)に迫るものとなった。
通貨供給(M2)の伸び率(平残ベース前月比の年率,季節調整値)は,短期金利の急上昇にもかかわらず9月ごろまで高まっていたが,以後年末にかけて著しく鈍化した(第3図)。四半期毎に公表されている通貨供給の長期目標をM2についてみると,78年7~9月期までの1年間に6.5~9%増と設定した(77年10月公表)あと変っておらず,79年7~9月期までの1年間についても同率となっている(78年11月公表)。
第3図 通貨供給(M2)伸び率とフェデラル・ファンド・レート
(3)難航後成立したエネルギー法
77年4月に大統領が国家エネルギー計画を発表して以来,1年半にわたって審議されてきた国家エネルギー法案は,議会会期末(10月央)に至ってようやく上下両院を通過した(大統領の署名は11月)が,当初の政府提案に比べると,消費抑制や石油輸入削減の効果は,小さなものとなった。
国家エネルギー法案は,結局,以下の各項目ごとに5つの法律となったが,政府提案の1つの柱とされていた石油平衡税賦課に関する法案は廃案となった。①新規開発天然ガス価格規制の漸次緩和,1985年以降-規制撤廃(NaturalGasPolicyActof1978),②エネルギー消費節約促進のための税制改革(EnergyTaxActof1978)(i)エネルギー節約投資に対し税額控除を実施(個人住宅・企業)(ii)燃料浪費車に対し,1980年型車より徴罰課税を実施,③石油・天燃ガスから石炭利用への転換を促進(PowerPlant&IndustrialFueIUseActof1978),④電気・ガス料金決定方法を消費抑制の方向で検討・変更(PublicUtilitiesRegulatory-PolicyActof1978),⑤その他エネルギー消費節約のための諸奨励措置(NationalEnergyCon-servationActof1978)
こうしたエネルギー関係5法により,エネルギー省では,85年までに,1日あたり239~295万バレルの石油輸入が削減されると推定している(第16表)。当初案では450万バレル/日,あるいはこれに民間の自主的な節約100万バレル/日を加えた550万バレル/日の石油輸入削減(85年には,何ら政策なかりし場合に予想される1,150万バレル/日の輸入水準から600万バレル/日の水準にまで削減)を図ることとなっていたから,それに比べると今回のエネルギー法の石油輸入削減効果は2分の1程度になったといえる。なお,エネルギー法の成立により,「85年末までに250万バレル/日の石油輸入節約をもたらす措置が78年末までに発効する」旨の主要国首脳会議(78年7月,ボン)におけるアメリカの約束は果きれた形となった。
78年末ごろまでの指標でみるかぎり,アメリカ経済は小売売上の持ち直し,住宅着工の高水準持続,設備投資や輸出の続伸などから,引続き順調に拡大しており,10~12月は年率6%をこえる成長となった。しかし司年後半の金利上昇が激しかったことを背景に,79年春すぎから拡大テンポは著しく鈍化し,79年全体としては78年の伸び(3.9%)を大きく下回る2~2.5%とみるものが多い(第17表)。79年へのゲタが2.0%程度となったから,79年が2~2.5%の成長ということは,79年平均の78年10-12月比は0~0.5%増にとどまることを意味しており,年金体としては,横ばいに近い姿で推移することになる。これを映じて,失業率は78年平均の6.0%から79年には6.5%程度に9上昇するとの見方が一般的,である。また79年の消費者物価上昇率については,78年(7.6%)とほぼ同程度とする向きが多い。さらに貿易収支ないし経常収支については,かなりの改善を見込むものが大勢となっている。
79年春ごろから成長率が著しく鈍化するとみられるのは,高金利の影響が表面化し,①住宅建設が減少に転ずる,②消費者信用も伸びが鈍り,このため乗用車販売も若干減少すると思われる,などのためである。ただ,①民間設備投資は底固い動きを示す,②輸出も増大傾向を続ける,③在庫率が低水準にある,などの事情からすれば,本格的リセション(リセションの定義は2四半期以上のマイナス成長)に陥る可能性は小さいと考えられる。
1978年のカナダ経済は景気の上昇テンポに高まりがみられるものの雇用情勢の改善は小幅にとどまり物価も高騰を続けている。このため抑制的な財政支出や史上最高の金利水準など慎重な政策がとられている。
77年の実質GNP成長率は,前年比2.7%増と70年不況につぐ低いものであった。76年後半より国内需要が不振を続け輸出の増勢も鈍化したためである。しかしながら住宅建設が減少を続ける一方で77年秋よりカナダ・ドルの低落やアメリカ景気の好調から輸出が再び増加に転じたことや,減税による刺激効果などから個人消費や民間設備投資が回復したため成長テンポは高まりをみせ78年7~9月期の実質GNPは前年同期比4.1%増となった。このような需要動向を反映して鉱工業生産は77年秋以降順調な増加を続けている。このため雇用情勢はやや改善を示しているが失業率は依然8%をこえる水準にある。
消費者物価は食料品価格や輸入物価の上昇から78年中も高騰を続け11月の前年同月比は8.8%高と高水準にある。一方賃金上昇率は労働需給の緩和もあって落着いてきたが物価・所得規制策の撤廃後,再び上昇圧力が強まると懸念される。経常収支は貿易収支の黒字幅が拡大したものの貿易外収支の悪化から大幅赤字を続けている。
こうした中で政府は8月に財政支出の削減と効率化を内容とする新経済政策を明らかにし,これを受けて11月には緊縮的な79年度予算案(79年4月~80年3月)が発表された。一方公定歩合はカナダ・ドル防衛の立場からあいついで引上げられ1月には史上最高の11.25%に達した。
(1)個人消費:政策効果もあり堅調
77年の実質個人消費は前年比2.8%増と前年に比べて大幅な鈍化を示し景気停滞の主要因となった。これは賃金や雇用の上昇鈍化,消費者物価の続騰などから実質可処分所得の伸びが76年の前年比6.1%増から77年には2.7%増へと大幅に低下したためである。(第2表)しかし77年秋より上向きに転じた実質個人消費は食料品などの非耐久財やサービス支出が低迷を続ける中で自動車や家具などの耐久消費財支出が増加し全体として78年秋まで比較的堅調を続けている。(78年1~9月の前年同期比は個人消費全体では3.6%増であるが耐久財,非耐久財,サービス支出は各々8.7%増,1.6%増,2.1%増である。)このような個人消費の立直りは77年10月に個人所得税減税がおこなわれたこと,年初にインデクセーションによる実質的な税負担の軽減があったことに加えて雇用の増加が高まったことから実質可処分所得の伸びがやや回復したためである。(78年1~9月の前年同期比は4.5%増)。さらに78年度予算案で4月から6ヶ月間,州小売々上税の減税措置が採られたことは耐久消費財を中心にかなりの刺激効果があったと思われる。(77年4~6月期以来11.5%であった貯蓄率は78年7~9月期には10.9%へと依然高水準ながらも顕著な低下を示し,消費者信用残高も78年9月には前年同月比15.7%増と77年9月の同12.7%増から大幅に増加した。)しかしながら賃金上昇率の低下や小売売上税の減税期間中の買急ぎの反動(10月の小売々上高は前月比3.5%減)などから79年初まで個人消費は鈍化する可能性が強いとみられる。
(11月の79年度予算案で製造業者等の出荷段階で課税される連邦売上税の減税措置がとられたが,効果が小売段階に及ぶのは79年に入ってからとみられる。)
(2)民間住宅投資の減少続く
民間住宅投資は住宅需要の低迷と売残り新築住宅の圧力から減少を続けている。
76年後半から減少に転じた民間住宅投資は77年に前年比4.6%減となったあと78年に入って4~6月期に一時増加をみせたものの,ならしてみれば減少を続けている(1~9月期の前年同期比は5.8%減)。住宅着工件数も4月以降,月平均年率20.9万戸と極めて低い水準にある(77年平均24.6万戸)。
これは政府の優遇措置等によって新築住宅が急増した一方で結婚数が77年に前年比3.9%減,78年1~6月の前年同期比1.6%減と減少していることなどから需要が低迷し76年以降売残り住宅が大量に生じたためである(新築住宅の売残り数は77年末には75年末の74.7%増となった)。
(3)立直りを見せる民間設備投資
実質民間設備投資は76年に前年比0.6%減少のあと77年も1.7%増と低迷を続けてきたが78年春以降やや上向く気配を見せている。実質民間設備投資の動きをみると1~3月期の前期比0.6%減のあと4~6月期には5.4%増と急増し7~9月期も1.3%増となり水準も前年同期比3.3%増と立直りを見せた。内容をみると機械・設備の増加が著しく一方非住宅投資は低迷している。
このような投資の急増は77年秋以降生産の増勢が高まりをみせてきたため,機械・設備の投資が活発になったことや4月より半年間実施された州小売々上税の減税措置によって事業用自動車の買急ぎ(78年4~9月の前年同期比は14%増,前年のそれは1.3%増)などがあったためである。このように一時的要因によるところも大きいが,製造業の操業度が78年7~9月期には87.4%と前年同期の83.3%から急速に改善を示していることや企業利益の回復(1~9月の税引前利益は前年同期比14.1%増)など設備投資増加の基盤も整いつつある。ちなみに10月実施の通産省の調査によれば,79年の主要企業設備投資計画は輸送機器,パイプライン産業を中心に実質で8%の増加が見込まれている(中小企業を含めた全体では78年の実績見込2%増に対して79年は3~5%増。但し11月以降の公定歩合引上の影響を考慮すると若干の下方修正が予想される。)
(4)低水準にある在庫率
在庫投資の動きをみると77年は小麦輸出の増加を中心に農業部門で大幅な取崩しがあり非農業部門で若干の積増がおこなわれたものの,全体としては経済成長にとってマイナス要因となった。(寄与度マイナス0.8%)78年に入ると1~3月期は輸出の急増などから非農業部門で大幅な取崩しがあったあと春から積増に転じ在庫投資のGNP増加寄与度は4~6月期,0.4%,7~9月期,0.3%と大きかった。一方製造業の在庫・出荷比率をみると77年以来漸減傾向にあったが78年に入ると出荷の増加から低下テンポを速め7~9月期は1.75(過去最低である73年1~3月期と同じ)と低水準にあり在庫投資の動きは当面景気拡大要因となろう。
(1)順調な拡大続く鉱工業生産
鉱工業生産は76年後半の足踏状態のあと77年に入るとゆるやかな増加に転じたが秋以降はさらに増勢を強め78年も順調な拡大を続けている。(77年7~9月までの一年間の増加率は3.9%であったが78年7~9月までの一年間は5.0%の増加をみた)。(第2-2図)
生産の動きをやや詳しくみると77年1~3月期に輸出の増加や在庫積増などから前期比2.5%増とそれまでの停滞を脱したが春以降,国内需要の弱さに加えて輸出が伸び悩んだことから一時鈍化をみせた。しかし同年秋より輸出が回復したことや個人消費の増加などを背景に再び増勢を強めた。78年に入ってからも堅調な個人消費や設備投資の立直りなどから4~6月期,7~9月期の前期比は各々1.3%増,1.5%増と順調な拡大を続けている。生産の内容をみると耐久財消費の堅調から輸送用機器(7~9月期の前年同期比は10.4%増)や家具(7.8%増)の増加が目立ちまた設備投資の活発化を反映して機械も17.6%増と大幅な伸びを示している。一方鉱業生産はストライキや米国向輸出の減少から13.2%減とふるわない。
(2)失業率:やや改善
雇用情勢をみると生産の拡大を反映して雇用機会が増加し失業率は78年夏以降やや改善をみせているものの依然として8%をこえる高水準にある。
77年は婦人や若年層の労働市場参入が続き労働力人口が前年比3.0%増と急増し,一方雇用者が1.9%の増加にとどまったため失業率は76年末の7.5%から77年末には8.5%へと急速な悪化をみせた。78年に入ってからも労働力人口の伸びは高く失業率も年央には8.6%と記録を更新した。しかしながら生産の順調な拡大を反映して雇用者の増加テンポは4~6月期前期比1.0%増7~9月期1.2%増と高まりをみせ失業率も夏以降やや改善し11月には8.3%となった。(第2-2図)
(1)高騰続く消費者物価
77年に入ってそれまでの鎮静化傾向から一転して騰勢を強めた消費者物価は78年も食料品を中心に年率9%近い高騰を続けている。(第2-1図)
78年の物価上昇要因は77年と同様,牛肉の供給不足にアメリカでの気候不順による生鮮食料品の不作が重なって食料品価格が急騰を続けたこと,カナダドルの下落による輸入物価の高騰などである(第3表)。ちなみに11月の消費者物価の前年同月比上昇率をみると全体では8.8%高であるがそのうち食料品価格は14.0%高(果物は16.1%高,牛肉は実に40.9%高)である。一方食料品以外では燃料・電気料金等のエネルギー価格の上昇が目立つものの全体としては鎮静化傾向にあり6.8%高と77年平均の7.8%を大きく下まわっている。
卸売物価の動きをみると消費者物価同様77年に前年比9.2%高と再騰し,78年に入ってからもモミ材・パルプなどの木製品や皮革などを中心に高騰を続けており11月の前年同月比は11.5%高となった。
(2)懸念される規制策廃止後の賃金動向
賃金動向をみると75年に急騰をみた上昇率は,同年暮に導入された賃・金物価規制策や労働市場の需給緩和を背景に期を追うごとに鎮静化してきたが78年に入ると一段と落着きをみせ前年比上昇率は6%を割るに至った。(第2-3図)
賃賀金実績を全産業の乎均週給でみると,76年の前年比上昇率12.1%増から77年には9.7%に鈍化した。78年に入るとこの傾向はさらに強まり7~9月の前年同期比は5.9%と6%を下回った。また賃金動向の先行指標でもある賃金協定妥結額をみると同6.8%増とやや高まるものの当面は落着くことを示唆している。こうした賃金情勢を反映して労働コストも改善を続けている。例えば非農業部門の単位当り賃金コスト上昇率をみると77年の前年比7.3%増から78年上期には前年同期比6.5%増と鈍化している。
一方79年の賃金動向をみると高騰を続ける生計費や企業利潤の回復を背景に強まりをみせている賃金上昇圧力が物価・所得規制策の撤廃にともない表面化するとみられるが労働需給の緩和などを考慮すれば10%をこえる大幅上昇はないと思われる。(コンファレンス・ボードは79年の平均週給の上昇を8.5%と見ている。)
貿易収支の改善テンポ鈍る。
77年の貿易動向を通関ベース(カナダドル減価の効果を除くため米ドルに換算)でみると,輸出がアメリカ経済の拡大やカナダドルの低落などを背景に前年比7.2%増と76年につづいて順調な伸びを示した反面,輸入は国内需要の停滞から4.1%増にとどまった。このため貿易収支は76年の14億カナダ・ドルの黒字から29億カナダ・ドルの黒字へと改善し,他の需要項目が低迷する中にあってGNP増加の主要因となった(寄与度1.6%)。78年も輸出は1~9月の前年同期比は9.0%増と77年を上回る伸びを維持している。一方輸入は個人消費や設備投資が上向いたことから乗用車や一般機械を中心にやや持直したものの1~9月の前年同期比は6.5%増にとどまった。この結果,同期間の貿易黒字は28億カナダ・ドルと前年同期を上回った。しかしながら四半期別にみると輸出は1~3月期の急増(前期比7.7%増)のあと加工原材料を中心に対米輸出が不振であったことや大規模な鉱山ストなどから4~6月期は0.8%増,7~9月は1.3%増と伸び悩みをみせている。一方輸入は景気拡大を反映して4~6月期の急増(前期比9.6%増)のあと7~9月期は0.5%増と横ばいながら高水準を続けている。このため貿易収支の黒字幅は1~3月期の13億カナダ・ドルから7~9月期には7億カナダ・ドルへと半減した。経常収支の赤字幅は1~9月を通してみると貿易外収支の悪化から31億カナダ・ドルと大幅赤字を続けている。(77年同期は33億カナダ・ドルの赤字)資本収支の動きをみると長期資本の流入幅は地方政府の外債発行の減少などから77年に続き78年も縮小し,短期資本も内外金利差の縮小などから大幅な流出が続いている。( 第4表 )
78年の経済政策は景気が上昇テンポを高めているものの不十分な拡大を続ける中で,従来からのインフレ抑制や財政支出の縮小を優先する慎重な政策がつづけられ金融面ではカナダ・ドル防衛の立場から公定歩合が相ついで引上げられた。
(1)財政支出の抑制と選択的刺激策
78年中に発表された主な財政々策は75年末に導入されたインフレ対策の線に沿ったもので,財政支出によるインフレ再燃や民間部門の圧迫を避けつつ減税による選択的刺激を目指したものだった。
78年4月発表の78年度連邦予算案(78年4月~79年3月)は財政支出の伸びが前年実績見込比9.5%増と名目GNPの予想成長率11%(当初見通し)を下回る緊縮型であったが,一方では当面の景気・物価対策として州小売々上税の減税や長期的な民間産業の強化を目的とした研究開発投資等を促進するための税制措置がとられた。なかでも小売々上税の減税は個人消費を中心に内需の喚起にかなりの効果があったと思われる。
8月には財政支出を削減し国民経済に対する政府の役割を縮小するとともに政策の優先度に従い支出の再配分を行うことを骨子とした新経済政策が発表された。これを受けて79年度予算案が例年よりも早い11月に,財政支出の伸びがさらに抑えられた形で発表された。財政支出総額は前年実績見込比8.9%増と前年度の9.5%増を下回った。主要な財政措置は①連邦売上税の減税(税率を12%から9%に引下げ)②個人所得税の減税(所得控除限度額を250ドルから500ドルに引上げ)③失業保険料の引下げ④投資税額控除率の引上げと期限の延長などで,これによる歳入の減少は13.8億ドル(GNP比0.6%)と見込まれ実質購買力の増加による個人消費や,投資の促進などモダレートな刺激効果を期待している。
(2)史上最高となった公定歩合
金融政策をみると,カナダドル防衛のため78年春以降高金利政策に転換し公定歩合は7次(合計3.75%)にわたって引上げられ79年1月には11.25%と記録的高さに達した。
76年暮から77年春にかけて景気浮揚あため若干の金融緩和措置がとられ公定歩合は2%引下げられた。一方アメリカでは77年秋以降,インフレ再燃の懸念などから金融が引締められ両国の金利差は76年秋の4.5%から78年1月には1%へと大幅に縮小した(第2-4図)。これを反映して資本流入が減少し軟化傾向にあったカナダ・ドルの低落が加速され,輸入品を通して物価に悪影響が及び始めた。このためカナダ銀行は78年3月以来,通貨防衛に政策の重点を移し,米国金利の急上昇に追随してあいついで公定歩合を引上げ79年1月には11史上最高の11.25%とした。また75年暮よりとられた通貨供給量の増加率目標は78年9月にそれまでのM1の年率増加率7~11%増から6~10%増(基準時78年6月)に引下げられた。
1979年の経済成長見通しについては,アメリカ景気のスローダウンから輸出の増勢が鈍化する反面,設備投資の回復を中心に内需の増加が見込まれるため全体としての成長率は78年と同程度かやや上回るものとみられている。
(政府の実質成長率見通しは78年実績見込4%に対して79年は4~4.5%,コンファランス・ボードでは3.3%に対して3.4%)このため雇用情勢にも大きな変化はなく失業率が8%をこえる厳しい情況が続くとみられる。
主な需要項目の見通しをみると個人消費は乗用車の不振から耐久財購入が伸び悩むがサービス支出の増加を中心に78年と同程度の伸びが見込まれる。
民間設備投資は能力拡大等から相当な回復が期待できるが住宅投資については売残り住宅の水準が高いため減少が続く。輸出はアメリカ景気のスローダウンに伴い増勢が鈍化するとみられている。
一方物価については①食料品価格の上昇率が鈍化する見込みであること②これ以上大幅なカナダドルの下落は予想されないこと③連邦売上税減税の物価引下げ効果がでることなどからかなりの低下が予想される(78年,年平均実績見込9%に対して政府は6.5%,コンファランスボードは7.8%)。こうした中で規制策廃止後の賃金動向が注目されるが実質賃金の低下から賃上げ圧力は高まるものと予想され,回復しつつある輸出競争力の後退やインフレマインドの再燃など79年のカナダ経済にとって大きな不安要因となっている。
1978年のイギリス経済は,石油危機後の長びいた調整期を脱出して,比較的に均衡のとれた拡大を続けた。実質GDPの伸びは1~9月に前年同期比3.0%増と前年(1.3%増)をかなり上回った。個人消費の引続く好調,固定投資の立直りに加えて,輸出も増勢を続けたことによる。
この中で,失業者数は77年秋以来の漸減傾向を持続しており,77年9月から78年12月までに約11万人減少し,失業率も6.0%から5.5%へ低下した。物価も鎮静化を続け,77年央に約18%にも達した消費者物価上昇率が,78年春以降は7~8%台となっている。対外面での改善はおくれがちで政府当初見通しをかなり下回り,1~11月の経常収支は小幅赤字(3,000万ポンド)となった。
政策面では,景気浮揚を支援するために,財政政策は引続き減税を中心とする積極型とされる一方で,金融政策はインフレ予防などから,引締め基調を維持している。また,賃金については,77年8月以降の政府ガイドライン
(年間賃上げ10%)は比較的よく守られたが,78年8月からの新ガイドライン(同5%)に対しては労組の抵抗が強く,すでに大幅賃上げが行なわれたほか,20~40%にのぼる賃上げ要求が出されている。
こうした賃金交渉の成行きいかんが,今後の景気情勢に大きく影響するとみられる。政府はガイドラインが守られることを前提として,今後も均衡のとれた景気拡大が続くとみているが,成長率は78年の3%弱から79年には2.4%へと鈍化すると予測している。
実質GDP(支出ベース)は75年秋以降回復を続けているが,77年上期には内需の停滞から前期比0.4%減となり,下期には同2.3%増と持直したものの,77年全体の伸びは1.3%にとどまった。78年に入ってからも拡大基調が続いており,上期の前期比は1.4%増(前年同期比3.8%増)となっている。
このため,78年4~6月期の実質GDPは,不況の底(75年7~9月期)の水準を9.3%上回り,後退前のピーク(73年1~3月期)を3.0%上回った。
今回の回復過程では,在庫投資の変動が大きく,これを除いた最終需要でみると,回復のテンポは概してより小幅であった。また,77年上期を中心に内需が減少したために,国内最終需要は77年もマイナスを続けた。78年に入ると,逆に内需が回復テンポを高める一方で,純輸出は小幅な増加にとどまっている。
(1)好調な個人消費
個人消費は77年上期には前期比実質2.2%減と不振であったが,その後は増勢に転じて下期同1.6%増となり,78年に入ってからはさらに好調化して,1~9月の前年同期比は5.4%増となっている。このため78年7~9月期の水準は5年半ぶりに後退前のピークを若干上回った。
77年下期以降の回復は,主として耐久消費財が前期の減少から立直ったことによるものであり,とくに,乗用車は78年に入って大幅に増加した(上期の前期比28.9%増)。
こうした個人消費の好調は,77年秋以降,実質可処分所得が物価上昇率の鈍化や累次の個人所得税減税によって増加に転じたことを主として反映したものである。すなわち,実質可処分所得は75年初来2年半にわたって減少を続けたが(74年10~12月期から77年4~6月期まで6.5%低下),その後の1年間でほぼこの減少を取りもどしている(77年4~6月から78年4~6月まで7.6%増)。
貯蓄率はこの間も13~16%とかなり高水準に止まっており,消費態度が著しく変化したとはみえない。しかし,新規賦払信用をみると引続きかなり大幅に増加しており(77年下期前期比13.8%増,78年上期同13.5%増),賦払信用残高も急増して,対個人所得比率は75,76年の9%前後から78年上期には10.8%へ高まっている(72,73年当時は15%強)。
(2)設備投資の立直り
過去4年以上にわたって停滞を続けた固定投資は77年下期以降,民間部門を中心に回復基調を示すようになった。実質固定投資は76年末から77年初にかけて大幅に落込んだ後,77年下期にはほぼ底入れした(上期の前期比3.4%減,下期同1.0%増)。78年に入ってからも,住宅投資が再び停滞したものの,製造業を中心とする設備投資の回復が続いたことから,全体としては増勢を維持している(上期の前期比1.2%増,前年同期比2.2%増)。
設備投資(非住宅投資)は,77年下期の前期比0.9%増についで,78年上期も同3.4%増と立直りを示した(前年同期比4.3%増)。産業固定投資(設備投資に占める77年ウエイト約42%)が,77年初来回復に向い,77年実質9.1%増,78年1~9月6.9%増(前年同期比)と増勢を続けていることによる。この中で立直りが最も早かった製造業部門の水準は78年7~9月期までにほぼ後退前のピーク水準を回復しているが,産業固定投資全体ではまだ4.5%下回っている。
製造業部門のなかでも,回復の度合は業種別にかなり格差がみられ,78年1~9月期の前年同期比で実質20%以上の増加となっている製紙・印刷・出版業,石炭・石油製品,飲食・タバコ部門,10~20%の増加である化学,非鉄金属,機械部門などに対して,鉄鋼部門では約30%も減少している。このため,製造業全体では7.9%増だが,鉄鋼部門を除くと14~16%増となっているとみられる。なお,78年についての産業省の製造業投資見通しは実質10~11%増(78年9月調査),流通業は実質8~9%増であり,79年については,それぞれ4~8%増,3~7%増となっている。
77年下期以降の設備投資の立直りは,主として,①設備稼働率が76年初を底に徐々に改善を示していること(78年央までに14ポイント。ただし,水準は依然としてきわめて低い。),②企業利潤の増加が名目ばかりでかく実質でもみられるようになったこと,③企業の景気見通しが引続き改善していることなどを背景としたものである。
(3)住宅投資は再び停滞
住宅投資は77年上期に前期比実質10.7%減と大幅に減少したが,下期には民間住宅が増加したために全体としてやや持直した。しかし,78年に入って,公共住宅がさらに大幅に減少し,民間住宅も春以降再び停滞したことから上期には前期比8.2%減となった。
住宅着工件数でみても,77年に18.0%減となった後,78年1~3月期に前期比11.4%減とさらに減少した。その後はやや立直りを示しているものの1~9月の水準はほぼ同年同期なみとなっている(1.7%増)。
こうした住宅投資の引続く停滞は,新世帯増や物価の騰勢持続に対するインフレ・ヘッジなどから潜在的需要は依然強いものの,民間住宅については価格の大幅上昇,住宅組合の抵当金利の引上げなどが抑制的に作用しているとみられる。公共住宅の不振は主として政府が引続き支出削減方針をどっていることによる。
(4)在庫投資の大幅変動
在庫投資は77年下期にマイナスとなったが77年全体では前年に続いてプラスで,実質GDPを0.8%引上げた(76年はプラス2.4%)。78年上期にも,製造,小売段階の製品在庫を中心として増加している(GDPの1.0%)。これは需要の堅調化を予想した前向きの積増しとみられる。しかし,下期に入ってからは,製造業を中心に積増しは小幅化した。
製造業在庫水準は引続き上昇しており,在庫率(在庫水準/生産水準,1974年10~12月期=100)も緩やかに回復している。ただし,製品在庫率は77年春以降急上昇して,78年7~9月期には112.9となっている。
(1)回復テンポのおそい製造業
鉱工業生産は76年2.0%増,77年3.7%増の後,78年1~10月も前年同期比3.7%増と回復を続けており,78年4月以降は後退前ピーク(73年7~9月期)を上回る水準となった。
しかし,回復の中心は北海石油の生産が軌道にのった鉱業部門(75年ウエイト4.1%)であり,76年25.7%増,77年49.2%増,78年1~9月19.9%増と著増しているのに対して,製造業(ウエイト69.7%)では同じく,1.4%増,1.5%増,1.0%増の微々たる上昇にとどまっている。
とくに,78年下期に入ってからは自動車部門のストなどもあって,生産は足踏みを示しており,78年7~9月期の前期比は0.2%減,10月も1.0%減と連続減少した。このため,生産水準も不況の底(75年7~9月期)を11.0%上回ったにすぎず,10月の水準は再び過去のピーク以下となった。
GDPの回復がかなりのテンポですすんでいるにもかかわらず,製造業生産がこのように小幅なものにとどまっているのは,①消費増の一部が輸入品によって埋められており,とくに,乗用車,家電,繊維などの輸入比率の高まりが著しいこと,②製品在庫率が高いために78年央以降は在庫減らしがすすんでいるとみられること,③賃上げをめぐってストライキが引続き多発していること,などによるものとみられる。
こうした緩慢な生産回復を反映して,製造業部門では雇用者数がほとんどふえず,77年4~6月期までの1年間に1.4%増加したものの,その後はむしろ減少している(78年7~9月までに0.7%減少)。
全体としての雇用情勢は,サービス部門などでの改善を反映して,やや明るいものとなっており,雇用者総数は77年中の0.2%増についで,78年上期にも0.2%増加し,76年1~3月期の底の水準を0.7%上回っている。
完全失革者数(新規学卒,成人学生を除く)は77年9月の143.5万人をピークに減少傾向を続けており,78年夏に改善が一時足踏みしたものの,12月までに132.1万人に減少レた。失業率も77年9~12月の6.0%から5.5%へ低下している。また,末充足求人数も増加傾向にあり,最近では22.8万人と67年1~3月期の底からみると倍増している。
この数年とくに問題となっていた新規学卒者の就職難も78年秋には比較的に緩和されたと伝えられている。
こうした失業者数の減少には,75年秋以降,累次にわたって導入されてきた臨時雇用補助金制などの雇用対策が影響しているとみられる。これらの措置により78年春までに延べ約30万人がカバーさわた。さらに78年3月央,その一部が強化延長され,79年3月までの延べ対象人員は約40万人にふえると政府は推計している。
(1)物価の鎮静化つづく
消費者物価は77年央以降,急速に鎮静化に向い,77年6月のピーク時に前年同月比17.7%高にのぼっていた上昇率が,同年末には12%台に鈍化し,さらに78年に入ってからは二桁をわるようになった。しかし,下期には,夏の季節的反騰などもあって鈍化傾向は止まり7~8%台の上昇を続けている。
77年下期の上昇率の著しい鈍化は,主として,上期の物価急騰の主因であった食料が天候回復による季節性食品の値下りから,上期の前期比13.3%高から下期には同2.6%高へと大幅に鈍化したことによる。
78年に入ると,全般的な上昇率鈍化がみられたが,中でも食料,光熱費,耐久消費財などの鈍化が目立った。一方で,住宅費は公共家賃の引上げなどから1~8月に年率12.8%高へ,交通費も運賃の上昇(月15.8%高)からむしろ上昇テンポを高めている。
卸売物価の鎮静化はより顕著であった。工業品の前年同期比上昇率は,77年上期の21.3%から下期には18.5%へ,さらに78年上期10.4%へ,下期に入って7~49月期の7.2%へと着実に鈍化している。原燃料については,77年下期から78年上期にかけて,ポンドの対ドル相場が急上昇(12.1%)したことや国際商品相場の低落から,77年5月から78年2月まで10か月にわたって6.8%低下したほどであった。しかし,78年春以降は再び騰勢に転じており,3~11月間に5.8%上昇した。
こうした物価の著しい鎮静化には,景気の回復が緩やかなものにとどまっているのに加えて,賃金上昇が政府の自粛要請もあって比較的に小幅化したことが大きく影響している。
平均賃金収入(旧指数。北アイルランドを除く,主として製造部門をカバー。季調済み)の上昇は,75年には26.5%にものぼったが,76年15.6%,77年10.2%と著しく鈍化した。しかし,77年秋以降はこの鈍化傾向も足ぶみし,78年に入ってからは上昇テンポがやや高まっている(1~9月の前年同期比14.1%増)。
賃金については,法的強制力はないが75年夏以来,政府のガイドラインが年々きめられており,その第3年次にあたる77年8月以降は年間賃金収入の上昇を10%以下に抑えることとされた。特例として,生産性の上昇分に見合う附加的引上げ(生産性条項),賃金格差是正のための賃上げなどが認められており,年間上昇率は14%程度になると政府はみていた。実績は16.2%(旧指数。新指数では14.2%)の上昇と見通しをやや上回ったが,規制はそれなりの効果があったと評価されている。
しかし,78年8月以降の第4年次ガイドライン(年間賃金収入の上昇率5%)については,労組の抵抗が強く,TUC(労働組合会議),労働党年次大会が協力を否決しており,これに代る規制案についてもTUCの合意をえられないままとなっている。
この間,フォード労組の17%賃上げをはじめ大幅の賃金協約改訂が行なわれているほか,炭労,地方公務員(40%)などの大幅賃上げ要求が相ついで出されており,先行きが懸念されている。
こうした賃金上昇の加速化に加えて,生産性がほとんど改善していないことから,賃金コストは77年下期以後しだいに上昇テンポを高めており,78年上期には前期比7.8%高(前年同期比13。5%高)となった。
貿易収支は77年下期には顕著に改善して,小幅ながら黒字となったが,78年に入ると赤字基調にもどり,1~11月間に約11億ポンドの赤字となった(77年は17.1億ポンドの赤字)。
経常収支(季調値)も77年下期の11.7億ポンドの黒字から,78年上期は2.9億ポンドの赤字,7~11月1.2億ポンドの黒字と,78年に入ってからの改善の足どりは予想よりも緩やかなものとなっている(4月の78年度予算案発表時の政府見通しは,上期黒字2.5億ポンド,下期黒字5億ポンド)。貿易収支の改善が前年ほど順調ではない上に,貿易外収支の黒字幅が政府移転支出の増加などもあって前2年の高水準から急減していることによる(76年24.5億ポンド,77年21.2億ポンド,78年1~9月8.5億ポンドの各黒字)。
77年下期の貿易収支の大幅改善は,主として,上期に急増した輸入が反落したことによるものであり(前期比9.4%増から同2.7%減へ),輸出は増勢を続けたものの,そのテンポはかなり緩やかとなった(13.4%増から8.4%増へ)。78年に入ると,上期の輸出の伸のは前期比2.3%増とさらに鈍化したが,下期には増勢をやや強めている(7~11月平均の上期平均比6.7%増)。
一方,輸入は上期に前期比7.2%増と再び大幅に増加したが,下期に入ってからはならしてみると伸びは若干鈍化している(同4.7%増)。
輸出入のうごきを数量ベースでみると,輸出は78年上期に伸び悩んだものの,75年秋以降,年率8~9%の強い増勢を続けており,78年7~10月の上期比も4.4%増と堅調である。一方,輸入は,77年下期の減少と78年上期の急増をならしてみれば,増勢を維持しているが,輸出の伸びを概して下回っている。
こうした輸出の引続く拡大は,主として,アメリカ経済の好調持続,西ヨーロッパ諸国の景気の立直りに加えて,ポンド相場が76年はじめから秋にかけて大幅に低下(76年中の実効レート15.3%減)し,価格競争力が改善したことを反映したものとみられる。しかし,実効レートは77年に入ってむしろ上昇に転じており,とくに,78年1~3月期までの1年間では9.7%ももどし,それだけ価格上の優位性は失なわれバことに存る。 輸入は78年に入って,景気回復を背景に工業原料の伸びが大幅となっており(1~9月の前年同期比実質10.6%増。77年は3.6%増),また,工業品輸入が77年の実質12.8%増についで,78年1~9月も実質14.0%増(前年同期比)と一段と増勢を強めている,など問題が多い。
資本等収支は,77年には大幅な黒字(44.22億ポンド)を計上したが,78年上期には短資の大量流出(18.9億ポンド)から赤字となった(16.9億ポンド)。経常収支も上期は赤字であったため,総合収支は13.2億ポンドの赤字と,77年の73.6億ポンドの黒字に比較して大幅に悪化した。下期には,短資が純流入に変化する一方,経常収支は黒字化したことから,総合収支は再び黒字基調に転じている(7~9月期は2.1億ポンドの黒字)。
金・外貨準備は76年末の41.3億ドルを底に急増に転じ,とくに77年10月~
78年3月間には200億ドルを超す高水準を示した。しかし,78年に入ってからは,7,9月を除き,減少を続けており,11月末現在156.7億ドルとなっている。
78年の金・外貨準備の減少は,経常収支の改善が足ぶみしているのに加えて,76年秋のポンド危機以降とくに急増した対外借款について,返済が80年代初に集中するのをならすという政府の方針もあって,繰上げ返済を積極的に行なっていることによる。すなわち,78年1~9月間に,対IMF借款の返済5.3億ポンド,公共部門の対ECS(Exchange cover scheme)借款の返済5.7億ポンドなどが行なわれた。IMFにたいしては,さらに年末までに,7.5億SDR(約10億ドル)が返済され,78年の対IMF返済は累計約20億ドルに達している。このため,年末の対IMF債務残高は24.8億SDR(約34億ドル)に減少した。
なお,76年秋のポンド危機に際して与えられた一連の国際的支援措置(I MFとのスタンドバイ・クレジット39億ドル,主要中央銀后およびBISとの新バーゼル協定30億ドル)は79年初の期限ぎれとともに解消することが決められている。前者は約半分が引出されたが,過去1年以上引出しが行なわれておらず,後者については,一度も引出しが行なわれなかった。
(1)金融政策
77年秋以降,政策の優先順位はこれまでのインフレ抑制から景気回復の促進による失業減に移され,財政面からの景気刺激策が相ついでとられたが,金融面では中立的ないしは,やや引締めぎみの政策運営が行なわれた。
最低貸出し金利は77年10月に5%まで低下していたが,その後は上昇基調に転じ,78年に入ってから5回引上げられて11月初旬以降は12,5%と77年1月以前の高水準にもどっている。とくに,4月の78年度予算案発表と同時にきめられた1%引上げは,財政面で景気を刺激する一方で,金融面では引締めるというポリシイ・ミックスとして注目された。また,11月9日の引上げは,アメリカの金利上昇などによる市場の実勢金利の上昇を追認すると同時に,賃金交渉の見通し難などから金利先高感が強まり,国債消化が不振となったことなどを背景に,予想を上回る2.5%の大幅なものとされた。なお,最低貸出し金利は72年10月以降,大蔵省証券入札レートに連動する方式がとられてきたが,78年5月末,イングランド銀行はこの方式を改めて政策当局の判断によって決定することとした。
通貨供給量については,引続き目標増加率を設定し(78年度は前年より上下各1%引下げて8~12%増,ポンド建てM3),これを基準として量的な規制を導入している。たとえば77年秋以降,通貨供給量M3の増加テンポが急速な高まりを示したため,その急増の主因であったポンド相場への売り介入政策をやめて,フロート・アップにまかせるという方針がとられた。
また,78年度(78年4月から79年3月)に入ってから,通貨供給量の伸びがやや高まる傾向を示したため,6月央に,特別預金制度の補完措置(いわゆるコルセット制)を再導入し,市中銀行の利付き貸出し額の増加分について一定の規制を行うこととした。この措置は当初は10月央まで適用されることとなっていたが,その後,79年6月まで延長された。こうした規制もあって,通貨供給量の伸びはその後ほぼ落着いており,4~11月間の増加は年率約7%と政府目標の下限をも下回っている。
なお,この規制措置の導入もあって,78年夏にかけて一時金融が逼迫したため,6月央,イングランド銀行の特別預金預入率が1.5%引下げられた(9月末までにもとの3.0%に復元)。
(2)財政政策
77年度当初予算はインフレの抑制と国際収支の改善を主眼としていたが,10月末,補正予算を発表し,政策の重点は景気刺激に移された。78年度予算案(78年4月発表)も,失業の減少を主目的とした景気刺激型とされ,その後の予算審議の段階で追加減税がきめられるなど,さらに積極的なものとなっている。このため,7月のボン首脳会議でも,これらの措置の効果を見守ることとされ,新たな刺激策は何ら要請されなかった。
78年度予算案の主要内容は以下の通りである。歳入面では,個人所得税減税(総額平年度約25億ポンド)を中心とする大幅減税(①人的控除の引上げ一平年度5.1億ポンド,②25%の低率課税区分の新設一平年度15.7億ポンド,③高率課税適用所得限度の引上げ一平年度2.1億ポンド,など)が行なわれた。一方,歳出面では,1月発表の公共支出白書の支出計画への追加(総額約5億ポンド。うち,①児童手当の引上げ-1,7億ポンド,②追加的雇用対策-1.6億ポンド)がきめられた。これらの措置によりGDPは0.5~1.0%引上げられると政府は予測していた。
歳入面については,その後修正されて,①個人所得税の追加減税(基本税率の引下げ34→33%,および所得階層別課税所得限度額の引上げにより,総額平年度5.2億ポンド)が行なわれた。これによる歳入減を一部相殺するために,②国民保険の雇用主負担率を1.0%引上げて2.5%とすることとされた(平年度約9億ポンド)。78年度については約3億ポンドの歳入増となり,追加減税による歳入減は約1.5億ポンド(予備,費より支出)にとどめられた。
最終的には,78年度予算による減税額は総額30.2億ポンド(77年GDPの約3%)とほぼ前年度(総額32.3億ポンド)なみの大幅なものとなった。しかし,政府部門の赤字額(借入れ所要額)については,当初予算の85億ポンド(GDPの5.5%)に据置かれた。
78年度に入ってからの実績をみると,中央政府の一般会計歳出は,4~9月に前年同期比19.2%増と,当初予算案の伸び(18.1%増)を上回っており,前年の節約ムードとは様変りとなっている。歳出増は,主として公務員給与,物価の上昇によるものである。78年度についてもキャッシュ・リミット制(cash limit)が適用されているが,上期中に47%支出することとされたことによる(実績は46%)。一方,歳入は大幅減税が行なわれたこともあって4~9月の前年同期比は7.2%増と当初見通し(13.3%増)をかなり下回った。このため,一般会計の赤字幅は78年度上期は約50億ポンドに達しており,前年同期の約二倍となっている。公共部門全体についての借入れ所要額(PSBR,Pub1ic Sector Borrowing Requirement)も,上期は約42億ポンドと前年同期(約20億ポンド)を上回ったが,11月央の改訂見通し(78年度約80億ポンド)にほぼ見合ったものと政府はみている。
79年についての政府見通し(78年11月15日,大蔵省発表)は,現行の賃上げが前年次の約半分(7%程度)におさまり,ポンドの実効レート不変,通貨供給量の目標内の増加,来年度予算の減税といったかなり恵まれた条件を前提としているにもかかわらず,成長率は本年の2.9%から2.4%へ鈍化するというやや暗い見方となっている。主として,これまでの景気上昇の中心だった個人消費の伸びが鈍化(5.3→2.8%)すること,また民間固定投資が回復初期の急上昇を持続できないこと(6.0→2.1%)などによるものである。
在庫投資も前年に続いてマイナスとみている。
一方,輸出は世界貿易が改善すること,ポンド相場低下による輸出競争力改善の効果がまだ残っていることなどから伸び率はより高まるとしており(3.5→6.0%),また,政府投資もこれまでの沈滞からやや立直りを示すとみている(△6.5→2.8%)。
こうした景気の拡大のなかで,消費者物価の上昇は若干高まる(78年10~12月期の前年同期比8%から,79年には同じく8.5%へ)が,経常収支は78年と同様の小幅赤字(2.5億ポンド,ただし上期は均衡)と,内外均衡はそれほど悪化しないとみている。
政府のこの見通しに対しては,前提が楽観的すぎる(とくに,賃上げ率について)という批判が多い。NIESR(全英経済社会研究所,78年11月発表)は,賃上げ率12%を前提として,個人消費ブームが79年にもちこさわ(4.4%),民間固定投資も引続き改善することなどから,成長率はむしろ高まるとみている(3.8%)。
OECDの見通し(78年12月発表)は,現行の賃金協約改訂が平均10%程度に落着くことを前提に,79年は実質可処分所得の伸びが急速に衰え(78年6%→79年下期0.5%),したがって個人消費が鈍化し(54/3→23/4%),また民間非住宅投資も急速に伸びなやむ(10→1/4%)ことなどから,成長率も78年を下回るとみている(3→21/4%)。
77年春から夏にかけて停滞した西ドイツ経済は,秋口以降景気刺激策の効果もあって,内需を中心に力強い回復を見せ,10~12月期のGNPは実質で年率約6%もの急拡大となった。
しかし,78年に入ると為替不安や異常寒波,労使紛争といった要因から景気は停滞気味に推移し,1~3月期のGNPも年率約0.5%減に落ち込んだ。政府の78年成長目標(3.5%)の達成も,不可能であるという見方が大勢となり,追加刺激策を望む声が高まった。このような中で明るさを示していたのは,昨年末にひき続く建設受注の好調と,堅調な個人消費であった。
7月のボン先進国首脳会議を控えて,追加刺激策がとられることが確実になった年央頃から,悪化していた企業マインドも上向き,実態経躊も回復に向った。その結果4~6月期のGNPも建設投資の大幅増を中心に,年率約8%の伸びを見せた。7~9月期には年初来伸び悩んでいた機械設備投資が回復して,GNPは年率約2%の増加となった。結局78年は,下期に著しく経済が拡大し,成長率は速報値で3.4%とほぼ目標を達成できたことになった。
この理由としては,刺激策(特に企業減税)の発表による企業マインドの改善や,企業財産所得の大幅増から企業の設備投資が伸びたこと,また「中期公共投資計画」に基づき,政府による建設投資が進捗したこと,住宅建築もさまざまな促進策や低金利から伸びたこと,物価の安定から個人消費もひき続き好調だったことなどが挙げられる。
(1)個人消費:ひき続き堅調に推移
個人消費は77年に実質3.1%増となり,76年にひき続いて景気支持的役割を果したが,78年も堅調な伸びを見せた。(1)77年中に決定された措置により,年初から財産税率の引下げ,所得税の基礎控除額の引上げ,所得控除の導入などの減税(78年の減税効果は115億マルクといわれる)と,児童手当の引上げなどが行なわれたこと(2)78年一年間で180億マルク(77年は250億マルク)の財形貯蓄の解除があったこと(3)マルク相場の上昇から輸入物価が下るなど物価が安定していたこと,などの好条件があったため,年初より付加価値税が1%引上げられ,また7月に予定されていた社会保険年金の引上げが79年1月に延期されたにもかかわらず,個人消費は好調であった。78年は速報値で前年比3.8%増と,77年を上回る伸びを見せた。
品目別小売売上げの動きを見ると(第4-3表),77年末にかけては,付加価値税の引上げを控えて,自動車・家具などの売上げが急伸した。78年初には,その反動から両者とも落込んだが,その後は増加傾向をたどっている。乗用車の新規登録台数は,77年に史上最高となったが,78年はそれをさらに上回ることが見込まれている。家具・調度品の売上げが好調なのは,住宅建設が促進されているためと見られる。また最近のすう勢としてサービス業に対する支出も増加している。
(2)機械設備投資:後半より盛上る
77年秋に刺激策の一環として,減価償却率の改善措置(9月に遡及)がとられたこともあって,資本財の国内受注,機械設備投資とも年末にかけて著しい伸びを見せた(第4-1図)。4~6月期から10~12月期までに,実質の機械設備投資は6.6%,受注は,大口受注の影響もあって,20.6%も増加した。しかし,78年に入ると,為替不安,異常寒波,労使紛争の頻発などから企業マインドは低下し(第4-2図),機械設備投資は,4~6月期まで伸び悩んだ。製造業におけろ設備稼働率も77年7月から78年1月にかけてわずかながら上昇を示したが,その後は再び下降している。正常な稼働率は88%といわれているが,7月時点では80.2%であった。
しかし,年央には7月のボン先進国首脳会議を控えて追加刺激策の決定が確実となったため,企業マインドは上向き,実態経済も回復に向ったことから,その後も次第に明るさを増し,73年初の水準まで回復した。このため7~9月期の機械設備投資は,前期比4.1%増と久しぶりに持直した。78年実績の速報値も前年比8.2%増で,77年を上回る伸びとなった。これには,77年に前年比3.5%増にとどまった企業財産所得の伸びが,78年には10.6%増(速報値)と国民所得の伸び(7.3%増)を上回る回復を見せたことも影響していると思われる。
(3)建設投資:受注急増
77年中,企業の拡張投資意欲の盛上り不足や,発電所などの大型プロジェクト建設の遅れなどから伸び悩んでいた建設投資(実質)は,78年には速報値で,前年比4.8%増の高い伸びとなった。
建設受注(実質;産業用,公共建物)は,「中期公共投資計画」による発注増や刺激策の効果などから上昇を続けた(第4-3図)。78年に入ってからも上記計画前倒しによる発注増や,企業の拡張投資も改善の方向にあること(第4-4図)などから,受注は増え続け,7~9月期は前年同期の水準を24.7%上回ってい7る。
しかし,建設業の雇用者は当時に比べてかなり減少しており(第4-4表),特に熟練枝術者の不足が生産の隘路となっている。また人件費や,建設資材の値上りから建築価格が急騰するなどの不安要因もみられる。
住宅建築も,77年中に政府によってさまざまな促進策(賃貸住宅に対する定率法による償却の復活,住宅暖房エネルギー節約投資への補助,低所得層向け住宅建設補助)や好金利条件(第4-8図)などから,受注が著しい増加を示した( 第4-5図 )。76年10~12月期から,77年10月~12月期までの
一年間に35.9%も増加した。78年に入ってからも住宅受注は増加傾向をたどり,7~9月期の水準は,74年末のボトムから実に68.4%も増加している。
(4)在庫投資-積み増しへ-
77年は春から夏にかはて景気が停滞したため,意図せざる在庫の積み増しが起ったようであるが,年末にかけては,景気の著しい回復が見られ,荷もたれ惑は弱まったと思われる。
78年1~3月期は,再び景気が不活発となったが,個人消費,政府消費は堅調だったため,意図せざる積み増しは起らなかった。しかし,4~6月期はGNP増加額の半分は在庫投資の増加によるものであり,7~9月期にはさらにこれを上回る在庫投資がみられた。
(1)生産:横ばいから持ち直し
鉱工業生産は,77年春から夏にかけての落ち込みのあと,年末にかけては刺激策の効果などもあって持ち直した。しかし,78年に入ってからは,寒波による建設活動の落ち込みや,金属産業における労使紛争が長びいたことなどにより,4~6月期まで横ばい状態が続いた(第4-6図)。自動車工業においては77年10~12月期から78年4~6月期までの間に6.3%も生産が減少した。
年央以降は,それまでの停滞の反動もあって,生産は拡大し,7~9月期には前期比2.6%増となり,その後も増加を続けている。
製造業国内向け新規受注も,ほぼ似た動きをしている。77年10~12月期にかけて,前記刺激策の効果や,大口受注などから急激な伸びを見せたあと,高ネどから急激な伸びを見せたあと,業マインドが低下し,78年1~3月期は前期比4.6%減と落ち込んだ。しかし,年央から持ち直して,7~9月期には77年末水準まで回復し,その後も増加傾向にある。
(2)雇用:構造失業
百万人台の大量失業が,75年から77年まで続いたが,78年央にはどうにか百万人台を割ることができた。その後も景気の回復を反映して,7~9月期には雇用者数,未充足求人数とも多少増加し,短時間労働者数も減少した(第4-5表)。78年平均では,失業者数が99.3万人,失業率は4.4%で,前年より若干改善した。
78年の雇用情勢の特徴としては,熟練労働者が不足している(特に建設業)こと,地域間での労働移動が少ないため,好調な自動車産業のある南部で労働力が不足している反面,鉄鋼や造船など不況業種のある北部で失業が深刻化しており,国内での格差が存在すること,などが挙げられる。また79年以降労働力人口の増大が見込まれていることから,政府も雇用促進法の改正など構造失業の改善にのり出した。
(1)賃金:賃上げと雇用確保
77年の賃金交渉においては,平均7%アップという比較的高い水準で妥結したが,景気が予想を裏切って停滞し,企業収益を圧迫したため,78年の賃金改訂をめぐって経営者側は非常に慎重な態度をとった。このため,交渉の長期化,ストの多発といった,いままで比較的労使関係のうまくいっていた西ドイツには珍らしい事態となった。1月に港湾労組がストを行なったのを始めとして,3月には印刷・製紙労組がコンピューターの導入による合理化に反対してストを起し,また3~4月にかけては,金属労組のノルトヴュルテンベルク,ノルトバーデン地区(自動車産業中心)でストとロックアウトが続いた。
これら賃金交渉難航の背景としては,①労働者の経営参加を内容とした「共同決定法」を経営者団体が違憲提訴(77年夏)したことから,いままで西ドイツの労使関係の安定に寄与していた「協調行動」がスムースにいかなくなった②マルク相場の高騰による国際競争力の低下懸念から,労働コスト削減のため経営者が合理化をすすめようとしていた③すう勢的に労働分配率が上昇している中で,経営者側は収益確保に対する意向が根強い,といったことがある。
78年の妥結状況は平均5%アップと,77年に比べると著しく低かったが,金属労組などでは,合理化に際し,組合員の下位賃金ランク,職種への配置転換は行なわないなどの付帯要求をかちとっており,使用者側にとって将来のコスト引下げに対する制約になるものと見られる。
全産業時間当り賃金率も,77年(年平均6.9%の上昇)に比べて上昇率が鈍り,78年1~3月期の5.9%のあと,4~6月期5.7%,7~9月期5.6%となっており,その後も鈍化傾向が続いている。
79年の賃金改定交渉では,鉄鋼労組が1ヵ月半のストのあと4%の賃上げと休暇増で妥結した(要求5%,週35労働時間制への段階的移行)。不況下における雇用の確保が,最近の課題であるが,労働時間の短縮は,雇用増に結びつかず,新たなコスト増になると使用者側は見ており,今後の動向が注目される。
(2)物価:予想以上の落着き
78年1月から付加価値税が引上げられた(標準税率11→12%,軽減税率5.5→6%)にもかかわらず,物価は全般的に見て,落着いていた。「年次経済報告」では,78年の消費者物価上昇率を前年比3.5%と見込んでいたが,実績は2.6%で予想を今きく下回った。76年の4.5%,77年の3.9%に比べると格段の安定ぶりであり,69年の1.9%以来の低い上昇率であった。工業品生産者価格も,76年の3.9%77年の2.6%のあと78年は1.2%という低い上昇率にとどまった。
この背景としては,マルク高による輸入品価格の下落,農作物の豊作による食料品の下落といった好条件に恵まれたことが挙げられる。輸入物価は年初よりゆるやかに下落し,11月までの間に2%低下した。特に食料品の輸入物価の下落率は大きかった(10月までに10.1%)。4農産物生産者価格も1月から11月までの間に約5%低下している(第4-7図)。
(1)貿易:完成品輸入の増加
77年10~12月期には,マルク相場の上昇継続予想による駈け込み輸出があり,輸出数量は前期比2.5%の伸びを見せたが,78年1~3月期にはその反動もあって減少した。その後4~6月期には為替相場の落着きもあって持直し,7~9月期以降も増加傾向を保った。
輸入は,77年秋の内需の回復以来年末まで急増し,その後も着実な増加を示している。
78年1~9月間の商品別の貿易動向を見ると(第4-6表),輸出の67.5%のウェートを占める完成品の最終生産物が,数量で前年同期比2.2%増と,全体の伸び5.2%を大きく下回っており,また資本財工業産品の輸出数量もわずか0.4%増の横ばいにとどまっている。輸入は,食料品・原材料の値下りから,輸入金額全体の伸びは前年同期比3.1%増にとどまっているが,数量は同7.6%増と,2倍以上の伸びを見せている。とくに完成品最終生産物の輸入数量は9.5%増と,全体の伸びを上回っており,資本財工業産品の輸入数量も10.7%増という高い伸びとなっている。
地域別貿易動向を78年1~11月間で見ると(全体では輸出が前年同期比4.6%増,輸入が4.1%増),北欧を除く西側先進国向け輸出はほぼ好調で,特にアメリカ向け輸出は,前年同期比12.2%の大幅増となっている。一方,欧州途上国向けは減少し,OPEC向けも伸び悩んでいる。輸入の方は,欧州の先進国から輸入が増え,特にノルウェーからは急増している。また共産圏,欧州途上国からの輸入も増加している。一方,アメリカからの輸入は伸び悩み,OPECからは,前年同期比18%以上減少した。
(2)国際収支:黒字幅拡大
75年から77年まで続いた経常収支黒字幅の縮小傾向は,78年には停止した。78年1~11月間の経常収支は131.3億マルクの黒字で,前年同期の53.0億マルクの2倍以上になっている(第4-7表)。この背景としては,マルク相場の上昇による交易条件の改善から,貿易収支の黒字幅がふくらんだことが挙げられる。同期間に,貿易収支は,仲介貿易などの補助取引を含めると,374.9億マルクの黒字で,前年同期の328.7億マルクの黒字より増加している。また,投資収益の増加などから,貿易外収支の赤字も前年同期よりかなり減少した。
資本収支面では,77年は長期資本の多量流出と,ほぼ同程度の短期資本の多量流入があったため,資本収支はほぼ均衡した。78年1~11月間を見ると,西ドイツへの長期資本の流入増から,長期資本収支が黒字に転じ,またマルク相場の高騰により,特に7月以降大量の短資が流入したため,資本収支は同期間に73.1億マルクの大幅黒字となっている。
このため総合収支も,1~11月間に177.6億マルクの黒字となり,76年以降の黒字幅拡大傾向を続けている。
(1)財政政策
76年~77年春まで景気浮揚力が弱かったのは,財政健全化を図るあまり財政政策が慎重だったからだという批判もあったため,78年度(1~12月)の予算案は,かなり積極的なものになった。77年9月,財政面からの刺激策と同時に閣議決定された同案は,歳出額1,866億マルク,前年度当初予算比10.1%増と,前年度の4.7%増に比べ大幅な伸びとなり,財政赤字も278億マルクと前年より67億マルク拡大した。
また「中期公共投資計画」も77年~80年に総額約200億マルク(当初予定約160億マルク)に増額され,78年末までに110億マルクの発注がなされた。
78年に入って,主要経済指標が悪化し,政府目標の3.5%成長達成が疑問視され始めた頃内外から追加刺激策の要請があったが,政府はボン首脳会議との関連から刺激策の決定を7月末まで引き延ばした。その間,5月に石炭・鉄鋼業など構造不況業種を援助するための補正予算が組まれた。
7月末決定された刺激策は,79~80年の両年にわたる減税と支出増を中必としたもので,79年実施分が7月からの付加価値税引上げ分を差し引いたネットで,約123億マルク(GNPの1%)であった。その後,議会審議の過程で一部変更となり,増額されて約135億マルクとなった。また81年から実施される措置も加わった(第4-8表)。
刺激策と同時に閣議決定された79年度予算案は,歳出額2,046億マルク,前年度予算比8.4%増で中期財政計画(6%増)より規模拡大が計られた。
(2)金融政策:年末より引き締めへ
77年12月に,マルク高騰による外資流入を抑制するため,公定歩合の引下げ(3.5→3%)や,対外債務に対する準備率の引き上げ及び特別準備率の採用などが決定された(78年1月より実施)。
その後,78年5月にはドルが反騰して金融市場がひっ迫気味となったため,マルク建外債発行の一時停止,債券の買オペレーション,預金準率の7%引下げと上記特別準備率の廃止(6月より実施)など一連の緩和策がとられた。
しかし,秋になると内需回復により資金需要が強まったこと,また,10月に入ってマルクが再び急騰したため,連銀による大量の市場介入が行なわれたことなどから流動性は過剰気味となった。
78年一年間で,ドル買支えやフロート通貨買支えなど市場介入に投じられた金額は計320億マルクにのぼり,中央銀行通貨残高も年平均11.4%増と,目標の8%増を大きく上回った。
この結果各方面からはインフレを懸念して通貨供給量の抑制が叫ばれ,連銀は11月の預金準備率9%引上げに続いて,79年1月からは手形再割引枠を50億マルク縮小した。またロンバート・レート(債券担保貸出金利)も3.5%から4%へ引上げられ,2月からの預金準備率5%引上げも決定されるなど,金融政策はインフレ防止色が濃くなってきた。
なお79年の中央銀行通貨残高の目標増加率は6~9%(年間ベース)と決定され,物価安定を最重視し,無制限な市場介入は行なわないという基本的姿勢も明らかにされた。
79年の経済見通しについて,政府は7月末に刺激策を発表したあとで,この措置の効果により実質成長率は1%カサ上げされて,3~4%になろうと見ていた。その際世界貿易数量は4~5%伸びると仮定している。
その後,各調査機間の発表でもほぼ3~4%,特に4%と見ているところが多い。10月に発表された五大経済研究所の秋季合同報告では,通貨不安が山を越し,西ドイツ製品に対する海外の需要が増加し,刺激策の効果も表われることから,79年は実質4%の成長を見込んでいる。消費者物価については,75年来持続してきた安定化が中断され,上昇率は前年比3.5%程度(78年実績2.6%)に高まるとしている。
11月発表の経済専門家委員会(五賢人委員会)年次報告でも,生産の増加が潜在生産力の成長(3%程度)を上回るため,投資マインドが改善され,成長率は3.5~4%になろうと見ている。消費者物価については2.5%程度の上昇と楽観的であり,失業については,五大研同様100万人台を下回ると見ている。
1977年を通じてほとんど停滞状態にあったフランス経済は,78年には民間固定投資が低迷を続けたものの,個人消費の回復,輸出の堅調,加えて在庫調整の進展により緩やかな景気回復を示した。
しかしそのテンポは雇用情勢の改善には全く不十分であり,失業者は夏以降,政策効果もあって僅かに減少しているが水準は依然として高く,企業の雇用態度も慎重であるなど厳しい情勢が続いている。
一方物価面をみると,78年は物価政策に大きな転換がみられた年であった。則ち,インフレ問題の根本的解決のために戦後一貫して実施してきた物価の直接規制を段階的に撤廃してゆく方針が決められ実施に移された。しかしこれは一時的には物価の騰勢を高めることになり,更に公共料金の大幅引上げの影響も加わって78年も相変らずかなりの物価上昇をみせ,西ヨーロッパ全体として物価が鎮静化に向うなかで対照的な動きを示した。
しかし76年秋の引締め政策以来,対外面での改善は続いており,78年には貿易収支は小幅ながら黒字基調を続け,経常収支も黒字化するに至っている。こうした対外面での改善を背景にフランも総選挙がらみで一時低落したもののほぼ堅調に推移した。
こうしたなかにあって,政府は76年秋のバール・プラン(内外不均衡の是正)は徐々に実を結びつつあるもののその基盤は未だ脆弱であるとの認識にたち,これまでの慎重な政策態度を変えず,雇用問題,不況業種問題などには個別の政策で対応した。79年の経済政策運営もこれまでの路線を堅持するとの方針を明らかにしており,経済の自律的回復のなかでバール・プランの成果をより確かなものにするための努力が続けられよう。
なお,左翼連合有利の予想が多いなかで,その成行きが注目されていた3月の総選挙は,与党連合の勝利に終り,特に大統領派であるフランス民主主義連合が躍進したことにより政治面での安定もより確かなものとなった。
(1)景気回復の主柱となった個人消費
個人消費は77年には2.5%増と74,75年の3%増をも下まわって低調に終ったが,78年は総じて好調に推移し景気回復の柱となった。これを小売売上げ数量(中央銀行調査)でみると,77年11月に増加に転じたあと78年にはいっても急テンポの増加が春まで続いた(第5-2図)。これは,77年前半に賃金上昇率の急速な鈍化と物価の高騰により急激に減退した実質購買力が,77年秋から78年初にかけては物価の騰勢鈍化により,そして4~6月期には賃金率の大幅上昇により回復したことによるところが大きい(第5-5図参照)。加えて,①77年秋からの老齢年金など各種手当の引上げ,②総選挙後の一時的ブーム,③工業品価格規制解除による将来のインフレを見越した買急ぎなどが,この間の消費を加速させる要因となった。しかしその後年央にかけ,こうした一時的要因がなくなり,インフレが再び加速するにつれて小売売上げは伸び悩み,高水準ながら横這いを続けたあと秋口からはやや弱含みとなっている(9~10月の前2か月比は2.3%減)。春の急増の主役であった耐久財のうち,自動車は比較的好調を持続しているが,家具,家電(特にラジオ,テレビ)の売上げが低下傾向を示しているためである。INSEE(国立統計経済研究所)の最近の見通しでは,10~12月期にはやや回復するものの,78年では個人消費支出の伸びは3%強と政府見通しの3.8%(9月)を若干下まわるとみられている。
(2)低調続く民間固定投資
77年には前年比0.6%減と全く不振に終った粗固定資本形成は,78年にはいりやや上向く気配をみせてはいるものの,2年余り続いた停滞を考えれば不十分なものであり,78年4~6月期の水準は77年1~3月期とほぼ同水準にとどまっている(第5-1図)。
住宅投資はなかでも不振で,77年に2%減(OECD事務局による推計)となったあと78年にはいっても減少を続けている。住宅着工件数は上期に前年同期比14.5%の減少となり,下期にはいりやや回復しているが78年全体では42~43万戸程度と77年(47.8万戸)を一割程下まわるとみられている。
OECDの見通しでも78年の住宅投資は23/4%減少するとしている。76年からの売残り住宅は,78年上期にはかなり解消されたが,所得の伸びの鈍化と将来の収入への懸念,H.L.M.(標準家賃住宅機関)に対する公的融資の減少,社会住宅の家賃の高騰などが住宅建設活動を鈍らせている。
企業設備投資もここ2年余り低調を続けており,77年の0.9%減に続き78年も3%増(9月の政府見通し)にとどまる見込みである(70~73年は年平均6.2%増)。なかでも民間企業の設備投資は不振で,国営企業(フランス電力など)で77年6.9%増,78年10%増と相当な伸びを示しているのに対して,民間企業ではそれぞれ2.1%減,2.8%増と全く対照的な動きとなっている。
企業の操業度は,78年にはいり年央にかけやや上昇したがその後ほとんど変らず,依然大きな需給ギャップが低調な設備投資の基本的な原因となっている。しかし,企業の経常利益は,景気の緩やかな回復,価格規制の撤廃,賃金コストの上昇鈍化などによりかなり回復しており,78年には20%程度増加するとみられ,更に貸出基準金利が3回にわたり引下げられるなど投資回復の素地は整いつつある。また最近企業家のなかには長期にわたる投資の低迷は,今後の国際競争力に悪影響を与えるとの考えも出てきており投資態度にも若干の変化がみえはじめている。
(3)かなり進展した在庫調整
76年後半からの景気回復テンポの鈍化,更に77年にはいっての停滞により77年の在庫政策はかなり厳しいものがあった。特に下期には在庫投資を除く総需要が前期比4%近くも増加したのに対し,総供給(国内総生産+輸入)が全く横這いとなったことを考えると,かなりの在庫減らしがあったとみられる。78年にはいるとこうした在庫調整の進展に加え景気が緩やかな回復をみせたことから企業の在庫政策は慎重ながらもかなり緩和され,上期の総需要(在庫投資を除く)が前期比2%増加したのに対し,総供給は2.6%の伸びを示した。最近の景況調査でも企業家は在庫水準をほぼ正常と判断していることから,今後も在庫が景気にとって少なくともマイナスの影響をもたらすことはないと考えられる。
(1)緩やかな増勢を続けた鉱工業生産
77年春以降全くの停滞状態にあった鉱工業生産は78年初よりようやく回復に向い,特に4月までのテンポは急速であった(78年4月/77年12月は7.4%増)。急テンポの回復の要因は在庫調整の進展による中間財部門の増加(同13%増)と好調な個人消費を背景とした消費財部門の堅調な上昇(同7.4%増)であり,更にエネルギー部門の増加(同10.2%)が増勢に拍車をかけた。こうしたなかにあって資本財部門の不調が目立ち,78年1~3月に前期比3.6%減となりその後やや回復したものの4~6月期の水準は77年10~12月期を1.4%上まわっているにすぎない。その後年央にかけて鉱工業生産はそれまでの急増の反動や6月の自動車部門のストの影響もあって一時低下したが上期は前期比年率4.8%の増加となった(77年下期は同3.2%減)。下期になると資本財部門の低迷が続き,中間財部門の増勢も衰えほとんど横這いとなったが,消費財部門での堅調な上昇持続により全体として再び緩やかな増勢を示し,9~11月平均は前3か月平均を2.4%上まわった。受注状況が比較的良好であり,在庫水準もほぼ正常であることから考えると今後も緩やかな生産増加が続くとみられる。
(2)厳しさ続く雇用情勢
77年は景気の停滞にもかかわらず雇用促進策の効果から夏以降失業者は一時減少をみせたが,78年にはいると反対に,景気が緩やかな回復をみせたにもかかわらず政策効果が薄れたことから失業者が増加を示し再び戦後最高を記録するにするに至るなど,雇用問題が依然として解決困難な課題であることを浮彫りにした。
雇用者の動きをみるとこの2年ほど一貫して減少傾向を示し,特に77年後半からそのテンポは高まり78年4月の水準は前年同月を2%も下まわった。
その後やや持直してはいるものの相変らず低水準にあり,企業の厳しい雇用調整が続いていることを物語っている。
こうした雇用状態が底流にあるため,失業者は雇用促進策により一時的に減少しても,政策効果が薄れると再び増加に転ずることとなった。すなわち,77年前半に急速に増大した求職者数は,7月より実施された若年者を中心とする雇用促進策の効果により8月をピーク(117万人)に減少に向い78年1月には103万人にまで減少した。しかしこの雇用促進策の適用期間が短かかったために効果の薄れるのも早く,2月より求職者は再び増加しはじめ,夏にかけては新規学卒者の市場参入が例年より早かったことも加わり8月には128万人に達した。
こうしたなかにあって政府は引続く厳しい雇用情勢,民間からの要望,また総選挙時の公約もあったことから5月,雇用促進策を一部修正のうえ継続することを決定した。最大の修正点は,若年者の新規雇用にかかる社会保険料企業負担分の国庫肩代り措置についてであり,77年は全ての企業を対象とし国庫の肩代りも100%であったのを,78年には対象企業を中小企業に限定し国庫の肩代りも50%とした点にある。この政策規模の縮小により国庫負担は前回の50億フランから今回は30億フランに減少するとみられているが,効果の方も小さくなり前回の政策適用者が55~60万人であったのが今回の措置では40万人程度と政府はみている。
秋口こなると77年同様,政策効果が表われはじめたこともあって求職者の増加傾向はようやくとどまり9~11月間に7.7万人減少して11月には120万人となった。しかし77年の同期間の減少幅が10.6万人であったことや,未充足求人数がごく僅かしか増加せず低水準にとどまっていることからも窺えるように今回の政策効果は77年ほどではない。さらに,失業水準がそもそも極めて高く,企業の雇用態度も依然慎重であり,加えて婦人,若年失業者が相変らず多いなど構造失業問題も根深いことを考え合せると雇用情勢はなお厳しく政府としても最優先課題として取組まねばならぬ問題である。
(1)賃金の上昇鈍化は足踏み
時間当り賃金率(生産労働者)は,77年初から急速に上昇テンポを低下させたが,年央以後その程度は小さくなり,77年末から78年春頃までは前年同期比で12%増程度で推移した。しかし4~6月期には,①春の賃金改定交渉が総選挙後に延ばされた,②賃金改定にあたって経営者側が,総選挙における左翼連合敗退からくる労働組合の攻勢を和らげるため幾分譲歩した,③政府のブロア計画(総選挙にあたり政府の出した政策綱領)に基づいて最低賃金がこの間大幅(7.9%)に引上げられた,などの理由から前期比4.2%(前年同期比13%増)の大幅上昇となった。このため政府は賃上げ状況を一層厳しく監視してゆくとともに,場合によっては大幅賃上げをした企業に対して何らかの制裁措置をとるとも言明した。その後7~9月期には前期比2.9%増とかなり鈍化したものの前年同期比では12.8%増と依然消費者物価を上まわる上昇が続いている。
こうした,状況の背景には,企業が賃金を物価にほぼスライドさせて決めていることがあり,加えて低賃金層に対する物価上昇以上の賃上げ,新規雇用の手控えによる雇用者の平均年齢の上昇などがあるといわれている。78年の賃金上昇率は12.5~13%と消費者物価上昇率(約10%)を2~3%上まわると予想されており,インフレ抑制,国際競争力強化を通じて経済の健全化を図ろうとする政府にとって充分な成果が挙がったとはいえず,79年も重要な政策課題のひとつとなった。
(2)根強い騰勢続く消費者物価
ここ一年間の消費者物価の動きをみると,77年末から78年初頭にかけ主として食料品価格の落着きから一時騰勢を弱めた(77/11~78/1の月平均上昇率は0.4%)が,その後再び徐々に高まり,特に4~6月期には公共料金の大幅引上げ(5~7月にかけて10~20%引上げ)などの影響から工業品,サービス価格がともに年率13%前後の上昇をみせ,総合でも12%高と高騰した。その後騰勢はやや鈍化したものの7~9月期には年率10%,10~11月も,同9%と依然かなりの高率インフレとなっており西ヨーロッパ全体として物価が鎮静化に向うなかで,対照的な動きを示している。特にこの間も工業品価格が年率9~10%,サービス価格が12%の上昇を示していることは,物価上昇の根強さを物語っている。
78年の政府の物価政策には大きな転換がみられた。すなわち,インフレ問題を本質的に解決してゆくには基本的なインフレ要因(賃金コスト,通貨供給量など)の管理を続ける一方で,企業の体質改善,競争の促進が不可決であるとの認識にたち,短期的には物価上昇圧力となることは認めつつも中期的視点から工業製品の価格規制の解除(6月に始まり8月央にほぼ終了)を手始めに戦後一貫してとってきた物価の直接規制を撤廃してゆく方針を明らかにし,実施に移した。公共料金の大幅引上げもこの一環で,77年の引上げが小幅(6.5%)だったこともあって公共部門の大幅赤字が続き,これが補助金の増加などを通じ国家財政の赤字幅を拡大させ,ひいては通貨供給量の増大によるインフレ圧力をもたらすとの考えによるものであった。
78年はこうした政策による消費者物価上昇への影響は2%程度(公共料金引上げ1~1.5%,工業品価格規制解除0.5~1%程度)であったとみられているが,79年の物価動向が政府の政策転換の成果をみるうえでのひとっの試金石となろう。
(1)堅調に推移した輸出
77年には内需が停滞するなかで輸出は前年比17.7%(数量ベースで6.6%増)の増加と好調裡に推移し,景気を下支えする役割を果した。78年にはいってからは77年の増勢は失なわれたものの堅調に推移しており,上期に前期比年率11.2%増(数量ベースで4.5%増)となったあと7~9月期も同11.7%の伸び(同7.6・%増)となりその後も増勢を維持している。貿易の中心であるEC諸国向けは,77年とほぼ変らぬ伸びを示しているが,非産油発展途上国向けは77年に19%も増加したのに対し78年上期には前期比年率3.4%の減少となり7~9月期にも同6.2%増と伸び悩んでいる。商品別には工業品が77年の16.7%増から78年上期には前年同期比11.4%増と増勢は鈍化しているものの比較的堅調に推移しており,77年に76年の干ばつの影響から著しく落込んだ農産物輸出も回復を示している。
一方輸入の動きをみると,76年秋の引締め政策以来77年を通じて景気の停滞を背景に落着いた動きを続け前年比13.3%増,数量ベースではわずか0.8%の増加にとどまった。78年になり景気が緩やかな回復をみせるにつれ輸入も動意をみせ,上期には前期比年率7.6%(数量ベースでは3.6%)の増加となった。この期間の増加の主因は,在庫積増しの動きを反映した中間財の増加と粗固定資本形成の持直しを映じた資本財輸入の増加であった。年央以降は個人消費の高水準維持を背景に消費財輸入が増加傾向を示したことや,秋頃にはOPECの値上げを見越した原油の買急ぎも影響して輸入の増加テンポがやや高まり,7~9月期に前期比年率12.7%増となったあと10,11月も緩やかな増加が続いている。
(2)貿易収支は黒字基調に
貿易収支(通関ベース)は,77年に輸出の好調,輸入の停滞から期を追って赤字幅を縮小させ,年間で111億フランの赤字と前年(203億フランの赤字)の約半分となった。更に78年には引続く輸出の堅調により,1月,8月にそれぞれ一時的要因から赤字を記録したほかは毎月黒字を続け,1~11月累計で29億フランの黒字(前年同期は124億フランの赤字)となるに至った。
こうした貿易収支の著しい改善に加え,貿易外収支の改善も注目される。
77年には,旅行収支の黒字幅拡大,途上国を中心とする技術協力・プラント輸出に伴なう収入の増加などから,貿易外収支(移転収支も含む)は14億フランの赤字と76年の赤字幅(62億フラン)を大幅に下まわるとともに71~76年平均(50億フランの赤字)とくらべてもかなり小幅となっている。78年になるとこの傾向は更に顕著に表われ,1~9月で43億フランの黒字となるに至っている(前年同期は22億フランの赤字)。
こうしたことから経常収支の改善も著しく77年の164億フランの赤字(76年は285億フランの赤字)のあと,78年4~6月期には86億フランの大幅黒字を記録し,1~9月でも92億フランの黒字と前年同期の164億フランの赤字とは様変りとなった。
一方,資本収支の動きをみると,76年にフランス経済の先行き懸念による資本流出から大きく悪化したが,77年には回復し216億フランの黒字となった。78年にはいると,1~3月期に総選挙での左翼連合勝利の予想から資本の流出と海外からの投資の減少が起き資本収支は大幅な赤字(88億フラン)となったが,4~6月期以降は与党勝利もあって黒字化している。
こうした国際収支面での著しい改善を背景にフランも総選挙がらみで一時低落したもののほぼ堅調に推移しており,同時に外貨準備も11月末には133億ドルと年初来31億ドルの増加をみた。
78年の政策スタンスは基本的には76年秋のバール・プランの延長であり,従って金融・財政政策とも慎重なものとなり,雇用問題や不況産業問題には個別政策で対応した。
金融政策について概観してみると,まず金利動向はもっぱら通貨情勢を配慮しての動きとなった。短期市場金利は77年秋までかなり低下したあとその後年末にかけ再び上昇した。これはドイツ・マルクの上昇にフランが追随しきれずマルクに対しかなり下落したことから資本の流出,輸入インフレを懸念し金利を高めに誘導したためであった。78年にはいると2月に,総選挙を前にフランが売り投機にあったことに対処し,コール・レートは10.5%もの高水準に引上げられ3月の総選挙時まで同水準が維持された。しかし総選挙での与党勝利のあとフランは安定を取戻し,その後も国際収支面での良好さを背景に堅調に推移していることからコール・レートは急テンポで低下し,11月には76年2月以来はじめて7%を割り込むに至った。こうした金利低下傾向を背景に貸出基準金利も7,9,12月と3回にわたり引下げられたがその幅は小幅なもの(合計で0.5%)にとどまり,公定歩合も77年8月以来据置かれたままである。このことは銀行収益面への配慮もあるが政策当局が依然高いインフレ率を前に慎重な運営を続けていること示すものといえる。
次に通貨供給量(M2)の動きをみると,77年には,民間資金需要が弱かったことや対政府信用の伸びが国債発行もあって小幅であったことなどから前年比12.2%増(平残比較)と名目成長率(12%)並みとなるとともに政府目標(12.5%)の枠内におさまった。78年にはいっても依然として対民間信用は緩やかな増加にとどまっているが,財政赤字の拡大やフラン相場の堅調を背景に春以降かなりの外貨が流入したことから1~9月間の増加率は年率14%と政府目標(12%)を上まわる増加をみせた。このため国家信用理事会は10月,要求払い預金残高に対する準備率の2%引上げ(2-4%)を決定し余剰資金の回収を図った。また下期には105億フランの国債(78年には総額135億フラン発行)が発行ざれたことから対政府信用の伸びも鈍化するとみられ,モノリー経済相は『78年のM2の伸びは名目成長率(12.8%)の範囲内におさまる』としている。
79年についても,M2の増加目標を11%と予想名目成長率(12.9%)を下まわる伸びに置き,79年6月までの基準貸出枠も78年よりきつめに設定するなど引続き物価動向,通貨情勢を配慮しつつ慎重な金融政策がとられるとみられる。
財政面に目を転ずると,76年秋のバール・プラン以来総合的な景気浮揚策はとらないとの一貫した方針のなかで,78年の財政政策は77年にも増して慎重なものであった。
77年には,若年者雇用促進策(4月)や一連の景気テコ入れ策(8月)など小規模ではあるが追加的支出も行なわれ歳出は前年にくらべ11.8%の伸びを示した。一方歳入は12.3%の伸びとなったが,財政赤字は217億フラン(GDPの1.2%)と76年よりわずかに拡大した。78年度予算は当初89億フランの赤字でスタートしたが11月までの3回の補正で財政赤字は298億フラン(GDPの1.5%程度)に達するとされている。これだけをみると財政の景気に与えた影響はかなりのものがあったようにみえるが,その補正は,積極的な景気刺激の意図をもったものではなかった。すなわち新たな財政赤字のうち107億フランが77年の景気低迷を映じた歳入不足(付加価値税50億フラン,法人税42億フラン)であり,102億フランが歳出の増加である。歳出の増加も雇用促進策の継続(43億フラン),鉄鋼業救済措置などの産業政策(30億フラン),インフレによる公務員俸給の増加(14億フラン)などであり,補正後の歳出全体の伸びも77年を下まわるとみられる。
こうした慎重な政策態度は79年度予算案にも表われている。まず歳出面をみると,雇用対策,産業政策にかなりの重点が置かれ,特に構造不況業種の近代化ないし転業促進,それに伴なう地域的失業対策等のために産業適応特別基金(78年10億フラン,79~80年で20億フラン)が新設されたのが注目される。しかし,75年以来の財政赤字の累積から公債費が大きく増加していることもあり,管理運営,費,資本支出の伸びがかなり抑えられ,歳出全体の伸びは78年当初予算比15.2%増にとどまり,更に78年の第3次補正後予算とくらべると12.3%増と79年の名目成長率見通し(12.9%)をやや下まわっている。歳入面では,総選挙時あ各種税率据置(所得税,法人税,付加価値税)の公約もあり,そのままでは200億フラン程度の歳入不足が生ずるため所得税控除の削減,酒・タバロ・ガソリン税の引上げなどいくつかの増税措置により50億フランの増収をはかり,全体で78年当初予算比14.4%増としている。この結果総合収支尻は150億フランの赤字(GDPの0.6%)となっているが,78年の予想赤字幅の約半分であり,歳出の伸びとも考え合わせると79年度予算は景気に対しほぼ中立であると考えられる。
78年のフランス経済は77年の停滞のあと緩やかな回復を続け,成長率は約3%(政府:3.2%,OECD:3%)となるとみられている。
79年の経済は,政府見通しによれば企業設備投資が回復し,輸出も西ヨーロッパ,特に西ドイツの景気回復から堅調に推移することから,成長率は3.7%になるとしている(OECDは31/2%)。なお個人消費については78年と同じ伸びとされているが,79年1月より割賦販売金利の引下げ(18.8→17.3%)が実施される一方で,社会保険料率の引上げが行なわれ,これが購買力を低下させる(年間で1~2%)という懸念材料がある。また輸入は国内需要の回復持続から伸びがやや高まるとされているが,貿易収支はほぼ均衡を保つとみられている。
しかしこの成長見通しが実現されたとしても75~79年の平均成長率は3.6%にとどまり,オイル・ショック前(70~73年)の5.5%をはるかに下まわっており,雇用情勢の改善は期待できないとみられる。
一方物価については,需給ギャップの存在,高水準の失業,フランの堅調など,物価押し上げ要因は少なく,また78年のような大幅な公共料金の引上げも予定されていない。しかし賃金がほぼ物価上昇に見合って引上げられていることから急速な上昇鈍化は期待できず,79年は7.9%,(78年は10%)の上昇と予想今れている。
以上のように76年秋のバール・プランはいくらか実を結びつつあり,景気もようやく持続的かつ自律的回復をみせるに至っている。しかしフランス経済はなお戦後最大の不況からの厳しい調整過程にあり,インフレ,雇用が最大の問題として残っている。こうしたなかで79年もパール・プランの成果をより確固たるものにするための努力が続けられよう。
引締め効果の浸透によって77年春ごろから年末にかけて停滞色を強めていたイタリア経済は,78年に入って立直りをみせ,緩やかながら回復を続けている。雇用情勢にもようやく改善の気配がみられる。また,対外面では総合収支の黒字基調が続いており,対外債務の返済は順調に進み,リラも安定した動きを示している。しかし物価はひところに比べかなり落着いているとはいえ,騰勢はなお根強いものがある。
こうしたことを背景に9月には公定歩合が1年振りに引下げられた。しかし量的貸出し規制が延長(79年3月末まで)されたことを考えると,今後も引続き慎重な政策運営が堅持されるとみられる。79年度予算案(9月末,議会提出)も財政赤字の抑制をねらいとした引締め的性格が強いものとなっている。しかしこれまでのように引締め一辺倒ではなく,79年の成長目標を4%(78年の実績見込み,2.0%)とかなり高めに設定し,公共投資の拡大を軸として雇用創出を図るなど雇用対策,南部開発を中心とした積極的姿勢もみられる。だが,この成長目標は実質賃上げ率ゼロを前提としたものであり,こうした意味で秋から始まった労働協約改訂交渉は難航も予想され,春に議会多数派入り(与党化)を果した共産党の動向と共に,その成行きが注目される。
実質GDP成長率は,76年には引締め下にもかかわらず5.7%とかなりの成長を記録した。しかし77年は春以降引締め効果の浸透により停滞色を強めて1.7%増にとどまった。78年も2.0%程度の増加と見込まれている。
77~78年の需要動向を国民経済計算ベース(第6-1表)でみると,77年に景気停滞をもたらしたのは投資活動の低迷(0.1%増)や輸出の増勢鈍化(5.8%増)のほか在庫投資(対前年GDP比1.6%減)が減少に転じたためである。とくに下期には景気は停滞色を強めたが,これは設備投資の冷込みが著しかった(機械・設備は年率18.1%減)うえに在庫べらしが集中した1上期の0.5%増から4.4%減へ)ほか,これまで景気を下支えしていた個人消費や輸出がほとんど浮揚力を失ったためである。しかし78年上期には個人消費の立直り(年率2.5%増)や輸出の好転(同5.4%増)に加えて在庫も積増し(対前期GDP比1.1%増)に転じたため,GDP成長率は年率4.2%とかなりの増加となっている。
需要動向の推移をISCO(国立景気研究所)のビジネス・サーベイにおける経営者の受注・在庫判断でみてみよう(第6-1図)。これによると,受注は76年夏ごろから急落を続けたあと77年秋ごろを底に回復に転じ78年春以降そのテンポを高めている。国内受注,海外受注ともほぼ同様な動きを示しているが,落込みの激しかった国内受注の回復が顕著である。完成品在庫は77年に入って急上昇を示したあと年央には頭打ちとなり,78年春ごろからは低下に転じており,在庫調整がかなり進展していることを物語っている。
個人消費の動向をみると,耐久消費財の指標としての乗用車新規登録台数は,引締めや再三の値上げによって77年には前年比6%増(76年10.6%増)と増勢はかなり鈍化したものの底堅い動き示したあと78年に入って減少に転じている(78年1~9月の前年同期比8.1%減)。しかし四半期別にみると,78年1~3月期の前年同期比12.3%減から期を追って減少幅は縮小し,9月には久し振りに前年同月の水準を上回ったあと10月は36.8%の激増を示した(7~9月期2.2%減)。また,小売売上高(実質)は77年秋から年末にかけて一時的に微減となったにとどまり,78年春ごろには早くも立直りをみせている(第6-2図)。
このように消費需要は,増税,公共料金引上げ,自動車の値上げなどが春から夏にかけて集中したにもかかわらず,立直りを示しているが,その背景としては賃金上昇の持続に加えて賃金スライドの一部凍結解除(4月末)などが指摘されている。ISCO(7月調査)では78年の増加率は2.5%程度と見込んでいる。
鉱工業生産は76年の12.4%増から77年には0.9%増とGDPの伸び(1.7%)を大きく下回っており,とくに下期の停滞が著しかった。しかし生産の低下は年末ごろを底に78年に入って緩やかながら回復に転じている(ISCOでは78年全体の伸びを1.3~1.5%とみている)。これを第6-3図によって四半期別(当庁による季調値)にみると,77年春以降減少に転じて下期には完全な停滞状態となった。78年に入ると1~3月期の前期比3.4%増のあと4~6月期にも2.0%増と立直りをみせたが,7~9月期には1.4%減とやや足踏み気味となった。しかし秋ごろから再び持ち直し,9~10月平均では前2か月比1.9%増となっており,前年同期の水準を5.8%も上回っている。
しかし業種別の動きを78年1~9月の前年同期比でみると,回復を示しているのは化学(7.9%増),食料(4.2%増),輸送機器(3.9%増)などに限られている。繊維が10.2%と大幅減となっているのをはじめ非金属鉱物製品(2.5%減)などもいぜん停滞を続けているほか,投資活動の低迷を反映して機械(0.4%増),金属(1.1%増)もわずかな増加にとどまっている。
このような業種間のばらつきは製造業の稼動率の推移にもあらわれている。とくに消費財部門(78年7~9月期の稼動率74.2%)での回復が目立っているのに対して中間財部門(同68.5%)では前年同期の水準を下回っており,その不振の深刻さを示している(投資財同72.1%)。雇用情勢は,生産の回復が緩やかなものにとどまっていることからほとんど改善をみせておらず,ようやくその気配がみられる程度である。78年7月の失業者数(原数値)は165.8万人(失業率7.5%)と前年同月の水準(169.2万人,同7.5%)に比べ3.4万人の減少にとどまっており,就業者数は同期間に25.2万人の増加となっている(第6-2表)。しかし大手事業所(従業員500人以上)では所定外労働の増加で対処しているとみられ,労働時間は年初来かなりの増加を続けているものの雇用者数は増加を示していない(第6-4図)。とくに,若年失業者数(14~29才)は生産の立直りにもかかわらず増加を続けており,失業者全体の78%にも達している(その約40%が大学・高卒)。若年失業者の増大は,その南部地域への集中とあいまって深刻な社会問題となっている。政府は公共投資の増額によって79~81年の3年間に50~60万人の雇用機会を創出し,失業問題を緩和したいとしている(78年8月末)。しかし公共部門の大幅赤字や企業の省力化傾向という現状からみて前途はきわめて多難が予想される。
物価は内需不振,リラの安定化などを背景として77年春ごろから騰勢は急速に鈍化を続けた。78年に入っても高水準ながら比較的落着いた動きをみせていたが゛,秋以降再び上昇率の高まりがみられる(77年平均上昇率は卸売物価16.6%,消費者物価17.0%)。
第6-5図によって物価の推移を四半期別にみてみよう。卸売物価は77年1~3月期の前期比4.3%高から期を追って上昇率の低下を続け10~12月期には1.5%高となった。78年1~3月期には季節的な食料品の値上がりもあって2.4%高となったあとは2%前後で推移している。前年同期比では77年1~3月期の28.4%高から78年7~9月には8.6%高とかなり鎮静化した。しかし秋以降再び上昇率の高まりがみられ11月には9.0%高となっている。消費者物価もほぼ同様に77年1~3月期の前期比4.7%高から78年1~3月期には2.6%高となったあと増税や公共料金引上げが集中した7~9月期でも2.4%高にとどまったが,その後上昇率がやや高まっている(前年同期比では78年1~3月期の12.7%高→7~9月期11.8%高→10月11.9%高)。
こうした物価の推移を反映して賃金の上昇率は着実に低下傾向を続けているが,78年央ごろから上昇率の低下テンポはかなり緩やかなものとなっている。これを最低協約賃金(ブルー・カラー,工業部門)でみると,77年1~3月期の前年同期比33.6%高から78年4~6月期には15.8%高と顕著な低下を示したあと低下傾向に足踏みがみられ,8~9月平均では15.8%高となっている(第6-6図)。賃金上昇率はひところに比べかなり低下したとはいえ依然二桁という高水準にあり,生計費の伸び(7~9月期12.1%)を上回っていることに変りはない。政府は実質労働コストの上昇率をゼロに抑えるため賃金・物価スライド制の再検討を行なう方針を明らかにしている。しかし三大労組は「労働コスト抑制によるメリットが経済再建にどのようなかたちで生かされるかについて,明快な説明がなされていない」として批判的である。こうしたなかで賃金引上げ,労働時間短縮をめぐるストライキが一段と激化しており,秋から始まった主要産業の労働協約改訂交渉の成行きが,今後の賃金動向を左右するものとして注目される。
国際収支は76年の大幅悪化のあと77年には著しい改善を示したが,この傾向は78年にも続いている。
まず,第6-7図によって貿易収支(通関ベース,当庁による季調値)をみると,77年春以降輸出の好調と輸入の伸び悩みないし減少によって赤字幅は急速に縮小を続け,78年4~6期に味1,720億リラ(月平均)の黒字に転化した。7~9月期には港湾スト終結といった特殊要因による輸入急増によって再び赤字(710億リラ)となっている。しかし月別にみると,7月の大幅赤字のあと輸出の増加から4か月連続黒字を計上し,秋ごろから輸入の増加テンポが高まったにもかかわらず10月に3,530億リラの大幅黒字を記録したあと11月にも670億リラの黒字となった。その結果,1~11月間の累積黒字額は約0.5兆リラと前年同期の約2.4兆リラの赤字に比べ著しい改善となっている。これは非石油収支の黒字幅拡大(1~9月期の前年同期比39.1%増)と石油収支の赤字幅縮小(同5.6%減)によるものである。
経常収支(原数値,外為ベース)は貿易收支の好転に加えて観光収入の急増もあって77年春以来の改善傾向が続いており,78年上期の累積黒字額は約1.3兆リラに達している(前年同期は約2兆リラの赤字)。その後も輸出の堅調,観光ブームの持続等からかなりの黒字を記録しているとみられ,政府は78年全体では約4.4兆リラ(77年約1.5兆リラ)と楽観的見通しを示している(9月,予算相)。
総合収支(原数値,外為ベース)は経常収支の改善のほかリラの安定による資本流入の増加もあって黒字基調を続けており,78年11月で実に18か月連続の黒字を記録している。その結果,1~11月間の累積黒字額は約6.0兆リラと前年同期(約1.7兆リラ)の3.5倍に拡大した(第6-3表)。
こうした対外面での改善によって金・外貨準備は着実に増加を続け,78年に入ってからだけでも約25債ドル増加して11月末には141億ドルとなった(77年1月末67.3億ドル)。対外債務の返済も順調で3月(EC.IMF.西独約15.2億ドル),6月(EC3.5億ドル),7月(西独10億ドル)に続いて9月にも7億ドル(EC)を返済した(計33億ドル)。その結果.,対外債務総額は大幅に減少して約150億ドルとなった(77年6月は220億ドル)。また,リラの対ドル相場も堅調に推移しており,10月(平均)にはドルの急落から一時的に1ドル当り789.00リラとなったあとも830リラ程度で落着いた動きを示している(77年10月は880.63リラ)。
以上のように,イタリア経済は対外面での顕著な改善に象徴されるように「危機的状況」からは脱却したとはいえ,依然として巨額な対外債務残高を抱えており,今後生産の回復テンポが高まるなかで大幅な賃金改訂が行なわれた場合,国際収支の黒字基調の維持とリラの安定に大きな圧力がかかることも予想される。
76年秋以降厳しい引締め下にあったイタリア経済は,物価,国際収支面で顕著な改善を示したが,生産は停滞し,雇用情勢は悪化した。こうしたことを背景に77年央以降公定歩合引下げや為替管理の段階的緩和など引締め政策にも若干の手直しが行なわれた。78年に入っても基本的政策スタンスには変化はなく,引続き経済政策は慎重に運営されている。
政府は,77年12月下旬に預金利子の税率引上げ,ディーゼル・カーの付加税引上げ,付加価値税の納期変更などの新たな財政措置を決定した。78年初頭の政治危機で内閣が総辞職して以来54日間の空白のあと,共産党を含む野党支持のもとに新アンドレオッチ内閣が成立した(3月16日)。その施政方針は「耐乏政策を維持しつつ選択的拡大を図る」ことを主眼とし,これまでの政策路線を踏襲したものであった。これを受けて5月下旬には,財政赤字削減のために次の措置を発表した。すなわち,①各種増税(預金利子課税18→20%,7月15日実施,印紙税,不動産税などの引上げ,道路税の再導入,所得税の前払制度の拡大,これらによる増収見込み7,400億リラ),②公共料金引上げ(電気16%,6月1日および7月1日実施,鉄道20%,7月15日実施,これらによる増収見込み7,000億リラ),③投資を中心とする公共支出拡大(電力公社,公企業に対する交付金等を合せて2.8兆リラ)などである。
この間,生産の低迷による失業増大を背景としてテロ行為が頻発するなかで次期大統領の最有力候補・モロ前首相の殺害,レオーネ大統領の辞任と政局不安は極度に高まった。こうした政治的空白は夏のバカンスが終わるまで続いた。
秋になって,77年8月以来据置かれていた公定歩合が1%引下げられて10.5%となった(9月4日実施)。これに呼応してプライム・レート,預金金利もそれぞれ引下げ(16→15%,12.5%→11.5%)られたほか商業銀行等に対する債券強制保有率が大幅に引下げられた(30.0→6.6%)。しかし公定歩合の水準は二桁と高いうえ,量的貸出規制が79年3月末まで延長されたことを考えると,金融面でも引続き慎重な政策態度を維持しているものとみられる。
政府は,9月1日,経済再建3か年計画(1979~81年,いわゆる「パンドルフィ計画」)を公表したが,これによっても財政赤字の削減,インフレ圧力の鎮静化,失業問題の解決が最重点施策となっている。その主な内容は,①79~81年平均の公共部門赤字の縮小(現行制度を前提とした見込額51.1兆リラから34.8兆リラヘ),②3年間の実質労働コスト上昇率をゼロに抑制(そのために賃金・物価スライド制の再検討を行なう),③南部地域を重点に3年間で50~60万人の雇用創出などとなっている。また,9月30日に発表された79年度予算案も,この計画に含まれている政策諸目標に沿ったものであり,歳出の大幅抑制と増税によって財政赤字のGDP比率を前年度に比べ若干引下げることが目標とされるなど引締め的性格が強い。これによると,広義の公共部門赤字(現金ベース)は78年度実績見込み額(33.5兆リラ)に比べ約12%増の37.6兆リラに抑えられている(名目GDPは約17%増)。注目されるのは,引締め一辺倒ではなく,公共投資の促進によって雇用機会を創出し,失業問題の解決を図るなど積極的姿勢がみられることである。
79年の経済見通しについて,政府は実質GDP成長率(目標)4.0%と78年の実績見込み(2.0%)をかなり上回る拡大を見込んでいる。これは実質賃上げ率をゼロに抑制し,設備投資の急増(7.0%)を梃子とした国内需要主導の拡大(5.1%)を期待している(消費支出4.0%)。輸出も堅調(4.5%)を続けるとみられるが,内需拡大による輸入急増(9.0%)が予想されるため,77年,78年のように海外経常余剰は成長要因とならないとみている(第6-4表)。
この政府見通しについて,イタリア銀行では「決して不可能ではないが,この見通しの前提となっている賃上げ率の低下(実質ベースでは0%)が実現されなければ民間設備投資の拡大は到底期待しえない」としている。こうした意味で,秋から始まった基幹産業を含む労働協約改訂交渉の成行きが,この目標達成の最大の鍵となろう。
失業増大を背景として三大労組も賃上げより雇用確保に重点を置いた従来にくらべかなり柔軟な態度をとっているが,「賃金・物価スライド制のいかなる改訂にも絶対反対」を再確認している。
こうした労組の態度からみて予断はゆるされないが,12月発表のOECDの見通しでは賃上げ率がかなり抑制されることを前提としてGDP成長率を31/2%と予測している(時間当り賃金131/2%,労働時間の若干の増加を考慮した賃金総額では15%)。
このほか政府の経済見通しでは,物価は,賃金コストの低下,リラ相場の安定によりマイルドな上昇にとどまりGDPデフレーターは12.4%(78年13.9%)となり,対外面でも経常収支黒字を3.0兆リラ(同4.4兆リラ)と楽観的見方をしている。
(1)概 観
77年初めをピークとして停滞してきたオーストラリア経済は,10月の電力スト終了後回復に転じた。78年は年初来,民間設備投資が増加をつづけ,鉱工業生産も回復,小売売上高が増勢を持続し,消費者物価に落着きがみられるなど明るさがみられるが,反面,高水準の失業,経常収支の悪化がつづいている。
このような情勢のなかで議会に提出された1978/79年度(7~6月)予算案は超緊縮予算であったことなどからデフレを懸念する声も聞かれるが,政府は外資導入緩和,半世紀ぶりに外貨調達が許可された州政府のインフラ建設,輸入制限強化などにより産業活動が促進されものと期待している。
(2)回復力弱い産業活動
77年下期は干ばつによる農業部門での不振と電カストによる産業活動の停滞もあったが,実質国内総生産(非農業部門)は前期比1.8%増となり,上期(0.8%増)の約2倍の伸びであった。本年に入ると,非農業部門がスト終了による反動や設備投資増もあって1~3月期(前期比0.9%増),4~6月期(1.1%増)とも順調に回復してきたが,7~9月期は輸出や一時的な投資の減小などにより横ばい(0.1%減)となった。
鉱工業生産(季節調整済)をみると,75年5,6月を底として回復してきたが,77年1,2月をピークとしてふたたび低下,9,10月は電力ストにより急減した。スト終了により12月にはスト前の水準に回復,6月まで上昇してきたが,住宅建築,乗用車販売の不振や政府の賃上げ裁定方式の変更に対する労組の不満から,5月以降金属労組,鉄道労組など多く労組のストにより生産は低下している。とくに,自動車などの輸送機械や機械器機,金属製品の減小が大きい。
(3)内需に回復のきざし
実質個人消費は昨年後半以降微増してきたが,本年4~6月期,7~9月期とも前期比1%強増加した。これを小売売上高(乗用車等を除く。季節調整済)でみると,昨年10~12月期以降2.5%前後の増加と好調をつづけており,消費者物価の上昇分を差引いても1%前後増加している。しかし,乗用車(新車)登録台数(季節調整済)は76年末の豪ドル大幅切下げによる値上げ予想から急増した反動で77年に入って急減し,その後も低水準で推移したが,本年7月以降は買替え需要もあってやや回復する徴候がみられる。
新築住宅建築許可件数(季節調整済)も豪ドル切下げによる建築費の値上がり,金融引締めの強化などにより77年初頭より急減した。その後,78年2月に個人所得減税,金融の緩和などが実施されたが,引き続き減小傾向をたどってきた。しかし,本年7月を底としてやや増加しており,今後とも民間住宅を中心に回復するものとみられる。
一方,民間企業の新規設備投資支出額(季節調整済)は76年1月からの投資課税控除(78年6月まで発注分の40%,83年6月まで20%)の実施により,徐々に増加してきたが,77年央以降は控除率の引下げ前のかけ込みもあって増勢を強め,78年4~6月期は前期比11.2%増と目立って増加した。
7~9月期はその反動もあって1.7%増にとどまったが,外資導入の規制緩和もあり引き続き増大するものとみられている。
(4)雇用情勢の悪化つづく
1974年央以降急激に悪化した労働市場は年々その度合を強めてきたが,78年に入っても改善のきざしがみられない。失業者は73年6月の9.1万人から,76年1月に25.8万人,77年1月に35.5万人,78年1月には44.5万人(失業率7.2%)へと急増し,年々史上最高を更新してきた。その後季節的要因もあって10月まで減小しているが,その水準はなお高い。とくに,若年労働者の失業率が高能率の新鋭設備の導入や景気の停滞などにより高く深刻さを増している。
一方,未充足求人数はここ3年,2万人前後と依然として最低水準で推移している。
(5)物価,賃金落着く
オイル・ショック,2回にわたる豪ドル切下げにより消費者物価は高騰をつづけてきたが,金融引締め,物価・家賃の自主的凍結などの効果もあって昨年10~12月期には前年同期比9.3%高と5年ぶりに1桁台となり,本年7~9月期には7.8%高と鎮静化してきた。前期比上昇率も本年に入って平均1.7%で,75年7~9月期の特殊要因を除けば72年以来の低い伸びにとどまっている。
一方,男子の週平均賃金上昇率もオイル・ショック後の賃上げスト多発などにより著騰していたが,75年5月の賃金インデクセーション制度導入以降安定をとりもどし,本年4~6月期には前年同期比8.5%高と72年10~12月期以来の最低上昇率となった。一方,78年9月14日,賃金インデクセーシヨン制度の一部を賃金調停仲裁委員会が変更した。今回の制度変更は,物価の安定も考慮して従来実施されていた四半期ごとの賃金裁定を年2回(4月と10月)とし,生産性上昇分は年1回調整することなどを骨子とするものであった。しかし,これを不満とする労組の賃上げストが多発しており,今後の動向が憂慮されている。
(6)国際収支の悪化つづく
貿易収支は75~77年の3年間黒字を計上していた。しかし,堅調をつづけてきた輸出が,77/78年度(7~8月)には前年度比5.6%増(76/77年度21.2%増)にとどまり,本年7~9月期には前年同期比0.9%増と1よぼ横ばいとなった。一方,輸入は76年末の豪ドル切下げによる輸入価格の上昇と輸入制限緩和により77年に入って急増した。その後内需不振と輸入制限の再強化(77年9月,11月)により10~12月期には減小した。しかし,本年に入り輸入価格の上昇などから輸入額が増大しており,7~9月期の貿易収支はふたたび悪化した。このため,7月に家電製品などの輸入規制が強化された。
一方,運賃・保険料および対外借入に伴う利払増などにより貿易外収支の赤学が増大しており,経常収支の赤字幅はこの3年,年年増加してきている。この大幅赤字を補うため,政府の対外借入は昨年後半以降高水準にあるほか,10月には1,300億円(約5.8億豪ドル)に及ぶ円資金調達計画を発表するなど海外資金の導入に懸命である。また,民間資本の流入も本年に入ってふたたび増加している。
(7)財政政策等
以上のような経済情勢のなかで議会に提出(8月15日)された1978/79年度(7~6月)予算案は,歳出額を過去10年間の最低伸び率(前年度実績比増加率7.7%)に抑え,一方歳入面では消費税,個人所得税を引上げるといったインフレ抑制型の緊縮予算案であった。これにより,景気浮揚よりインフレ抑制を柱とした緊縮予算が3年続くこととなった。また,この予算案の前提条件となっている政策目標は,通貨供給量(M3)の伸び率を6~8%(前年度実績7.9%),実質経済成長率(非農業部門のみ)を4%(前年度実績1.9%)とすることを目標としている。なおこの目標成長率の達成には,資源開発促進を目的とした外資導入規制の大幅緩和,国内産業の保護と生産活動の活発化をうながすための輸入制限の強化,さらに,州政府による(今後8年間の計画額)約18億豪ドルにおよぶガス・パイプライン,火力発電などのインフラ建設などの大型プロジェクトのための外貨調達の許可(50年ぶり)などにより,景気浮揚と雇用増大効果を期待している。しかし,これらの諸施策も即効性に乏しく,輸出増による国際収支好転も先進国景気の停滞から望み薄であるため,超緊縮予算によるデフレ効果により,回復しかけてきた国内経済がふたたび不況になるのではないかと懸念されている。また,賃金インデクセーションの制度変更に対する労組の不満が大きく,賃金ストの多発から国内経済の先き行きを不安視する声も聞かれる。
ニュージーランド経済はイギリスのEC加盟,石油ショック,それにつづく先進諸国の景気停滞の影響をうけ,74年以降経常収支の赤字,財政赤字が増大した。また,75,76年の連続為替レート切下げがインフレをさらに高進させた。こうした情勢に対し,政府は輸出振興に力を入れる一方,国内面では引締めを強化したため,物価は落ち着いてきたものの,実質GDPは76年度横ばいのあと,77年度はマイナス成長となるなど不況色を強めた。このため,77年10月と78年2月に政府は引締め緩和措置を実施し,本年6月には総選挙(11月)前もあって景気刺激予算を上提するなど景気振興に踏み切った。この結果,国内経済もようやく下降局面から脱出するとみられているものの,鎮静化してきたインフレの再燃が予想されるなど,今後とも楽観を許さない経済情勢にある。
(1)国内需要に回復のきざし
実質GDPは74年以降の引締め強化により成長率が低下し,76年度(4~3月)に横ばい(0.1%増)となったあっと,77年度には遂にマイナス成長(2.1%減)となった。とくに,民間総固定投資の前年度比減小率は,資本財の輸入制限強化も加わって75年度の2.0%から76年度には4.5%へ,そして77年度はさらに8.5%へと減小幅を拡大した。また,実質個人所得も減少をつづけているが,これは農畜産業の不振,物価の上昇,賃金凍結などによる。
とくに,実質賃金は76年度に微減したあと77年度は6.0%減と目立って減小した。この結果,個人の消費支出も減少しており,国民1人当たりの実質小売売上高(季節調整済)でみると,76年年央以降減少傾向を強め,77年10~12月期には74年7~9月期のピークと比べ18.8%減の水準にまで低下した。
たゞ本年に入ってからは,個人所得減税,消費者金融規制の緩和などからやや持直している(1~3月期に前期比1.4%増,4~6月1.1%増)。また,乗用車(新車)登録台数は価格凍結解除に伴う値上がりから年末にむけて減小したが,12~1月を底として徐々に回復してきた。民間の新築住宅建築許可件数も移民の流出増大に伴う住宅需要の減少と金融引締め策などにより減少してきたが,金融緩和もあって本年1月を底としてやや増加している。このように国内需要の減少傾向も本年初に底に達したものとみられているが,今後の回復力には実質個人所得の減小,移民流出,公共料金の引上げに伴なう物価の上昇などから力強さに乏しい。
(2)産業活動は著しく停滞
製造業生産は77年1~3月期まで増加傾向をたどっていたが,内需が前述のように著しく不振であったために,メーカーおよび流通在庫が急増し,生産は4~6月期に減小に転じたあと,78年1~3期まで急減した。とくに,冷蔵庫,洗濯機,テレビなどの生産は76年上期のピークに比べて約3分の1と著しく低下している。ニュージーランドの主要製品である農蓄産物も輸出不振から前年をやや下回る水準にあり,国内の産業活動は全般的に低迷状態にある。
労働市場はこれを反映して急激に悪化しており,75年末に1万人台に乗せた失業者数(中央・地方政府の特別失業対策事業雇用者を含む)は76年央以降やや減小傾向をみせたものの,77年央以降は増加の一途をたどり,77年6月末の12.7千人から本年1月末には約2倍の28.5千人となり,さらに,9月末には49.6千人と,この1年間に約3倍の著増,失業率も4.1%に達したが,なお,増勢がつづいている。一方,求人数は75年以来の低水準にあり,77年央以降は1,500人未満といった非常に低い水準にあったが,78年央になってややふえてきている。
(3)物価・賃金は落着く
76年央から実施された賃金凍結(6月)とこれの補完策として施行された物価・家賃の凍結(8月)により,消費者物価の上昇率は76年6月の前年同月比17.7%高を最高に,その後徐々に鎮静化していたが,77年5月に物価・家賃の凍結が解除されて77年6月にはふたたび前期比4.8%高と大幅な上昇を示した。その後は国内の不況と食料品価格の落着きから本年9月には前年同月比11.1%高と74年6月以来の低い上昇率となった。
また,賃金凍結も77年8月に解除され,12月の賃金は前期比2.5%増と3期ぶりの大幅増となったが,78年3月は0.8%増にとどまっている。この結果,実質賃金は76年の前年比5.1%減につづいて77年も1.2%減となり,74年末以来の減小傾向をつづけている。
(4)貿易収支の改善すすむ
石油ショック後交易条件が急激に悪化し,貿易収支の赤字は急増したが,76年度(7~6月)に入り輸出は酪農製品,食肉,羊毛などが先進国の景気回復などに伴って市況の回復と輸出数量増で大幅に増加したが,77年度は食肉,木材・木製品の不振もあって小幅増にとどまった。
しかし,輸入が輸入規制の継続と国内不況を反映して76年度の19.4%増から77年度は7.6%減と減小したため,貿易収支は76年度の69百万NZドルの赤字から263百万NZドルの黒字に好転した。旅行収支悪化や政府借入の利払増などから貿易外収支が既往最高の赤字となったが,貿易収支の好調から経常収支は709百万NZドルの赤字と赤字幅が縮少した。この経常収支赤字をうめるための政府の外債発行や対外借入が増大している。
(5)景気刺激策に転じた経済政策
国内経済の急速な悪化にかんがみ,政府は77年10月,それまでの強力な引締め政策から緩和策に転じた。まず①10月の補正予算で個人所得減税(一律5%引下げ),農業,輸出部門への融資拡大などを,②78年2月には消費者金融の大幅緩和,輸出減に悩む牧羊農家への補助金供与,住宅融資わく拡大,商業銀行等の政府証券保有率の引下げなどを実施した。
さらに,78年6月に議会に提出した78年度(4~3月)予算案は景気刺激型で,まず歳入面で中間所得層を中心に個人所得税の減税を行なうなどにより,歳人額を前年度実績比11.7%増(前年度24.3%増)におさえ,歳出面では産業開発費を大幅にふやす(前年度実績比23.2%増)ほか,干ばつ被害を受けた農業部門へのてこ入れをするなどにより,前年度実績比16.5%増(同18.8%増)と歳入の伸びを上回る歳出増としたため,前年度へ当初比2.8倍の10.6億NZドルの大型赤字予算(前年度実績7億NZドルの赤字)となっている。
以上のような景気刺激策への転換は,悪化の度を強めてきた国内経済の下支えをねらったもので,これらの施策により景気が回復する程の強力なものではない。一方,鎮静化してきたインフレの再燃が予想されることから,9月に部分的な金融引締め策(政府証券保有率の引上げ等)が実施された。
(1)概 観
韓国経済は先進諸国の景気が低迷しているなかで,77年の実質GNP成長率は10.5%と前年に続いて2桁台の成長を遂げた。これは輸出が前年と同様好調に推移し,内需も堅調であったことによる。この結果,生産活動も順調で,特に建設業の伸びは著しかった。ただ,農業生産は米の豊作にもかかわらず,麦類の減産や漁業の不振から前年に比べ大きく鈍化した。また,物価は内外需の好調に伴うマネー・サプライの著増や附加価値税の導入などから,様々な物価対策をとったものの二桁台の上昇が続いた。
78年の経済は,輸出が好調を持続する一方,内需も建設活動が上期に過熱状態となり,建設規制措置をとらざるを得ないほどに盛り上がり,個人消費も賃金の上昇を反映して高水準に推移した。このため,鉱工業生産は前年を上回る増加テンポとなった。こうした経済の活況から78年の実質GNPは前年比12.5%(速報)と年初の成長目標(10.5%)を上回った。ただ,輸出が好調である反面,輸入もそれ以上の増勢を示したことから貿易収支は再び悪化傾向をたどり,また,年初来高水準にあった物価は年末にかけ一層騰勢を強めている。
(2)生産動向
77年の農業生産は3.1%増と前年の8.9%増から大きく鈍化した。これは寒波の影響で麦類の生産が前年比53.3%もの減収となったことや漁業の不振(前年比1.4%減)によるもので,主穀である米の生産は前年比15,2%増(601万トン)と5年連続の大豊作であった。
78年の農業は,初夏の干ばつの影響などから米の生産が前年比3.5%減(580万トン)と73年以来の増産記録がストップしたほか,野菜類も不振であった。また,前年大不作となった麦類の生産は78年にゃや回復したものの政府目標を25.8%下回り,漁業も前年に続き低迷した。このため,農業生産は前年比2.3%増にとどまった。
鉱工業生産をみると77年は前年比19.9%増と前年の29.8%増に比較すると鈍化したものの依然高い増加であった。前年より鈍化したのは,輸出が先進国の需要停滞などから前年より伸びが鈍化したことによるもので,特に,輸出は年央の伸び悩みが目立った。産業別では繊維や木製品など輸出関連産業が低迷した。しかし,年末には輸出が回復し,また,内需も堅調(消費活動をソウル卸・小売額指数でみると前年比24.5%増,また,前年低迷した建設活動も建築許可延面積でみると同24.2%増)に推移したことから年間では順調な増加となった。
78年に入ってからは輸出が好調を持続したことに加え,内需も一層の盛り上りをみせたことから1~9月の鉱工業生産は前年同期比23.5%増と好調である。1~9月期の内需をみると,民間設備投資,公共投資が活況を呈し,建築許可延面積は前年同期比43.1%増と著増した。特に,上期の建設活動はブーム状態となりセメント等の建設資材不足や不動産投機の過熱を生み,このため政府は5・6月と建設規制を強化し,8月には不動産投機抑制措置をとっている。また,消費活動も好調でソウル卸・小売額指数をみると前年同期比30.7%増と高く,家電や自動車などの売行きが高い。こうした消費活動の活発化は近年の賃金水準の向上が背景にあり,77年に33.8%の上昇をみせた賃金(製造業)は78年上期も前年同期比32.1%増となっている。
このような内外需の好調から上期の失業率も3.1%と前年同期の4.1%から大きく改善した。
(3)貿易及び国際収支動向
77年の貿易は輸出が前年比30.2%増と前年の51.8%増に比べ鈍化したものの引続き高い伸びで,先進諸国の需要が低迷する中で100億ドルの輸出目標を達成している。品目別では船舶等輸送用機器や魚介類,セメント,化学肥料が好調であったのに対し,先進諸国の需要低迷や保護主義の高まりを反映して繊維製品,衣類,合板等が不振で,電気製品も伸び悩んだ。
一方,輸入は前年比23.2%増と3年連続して輸出の伸びを下回った。この結果,貿易収支は大幅に改善し,赤字額は472百万ドルへと前年より縮小した。また,貿易外収支は中東を中心とした海外建設活動の活況や観光収入の増大で4年振りに黒字に転じており,移転収支の黒字もあって経常収支は66年以来の黒字(12百万ドル)を記録した。一方,資本収支も民間の資金導入,政府の借入れ等前年と同様順調であったことから総合収支は1,370百万ドルの黒字を記録した。この結果,77年末の外貨準備高は前年末比45.4%増の4,306百万ドルに達した。
78年の貿易は,輸出が引続き好調で前年比27%増の127億ドルと目標の125億ドルを上回った。これは先進諸国の需要がやや持直したこと,ドル安が好影響を与えたことなどによるもので,国別にも欧米諸国向けが順調に拡大する一方,低迷していた日本向けも下期にはは復をみせた。品目別では輸送用機器や電気製品の好調に加え,前年低迷した繊維製品も回復したが,前年急増したセメントは国内の品不足(建設活動の活況による)から大きく減少した。
一方,輸入は1~11月間に前年同期比37.6%増と輸出の増勢を再び大きく上回った。これは内外需の好調を反映して中間財や資本財の輸入が増加したこと,対日輸入依存度が高い(77年で36.3%)ことから円高の影響を受けて輸入代金が増加したこと,国内産業の国際競争力強化やインフレ対策等を目的に77年後半以降数次にわたり輸入規制措置の緩和(79年1月現在の輸入自由化率は68.6%)を進めてきたことなどによるもので,特に,年末にかけ輸入は急増した。このため,貿易収支は再び赤字幅を拡大している。ただ,この間資本流入が順調であること,海外建設工事代金の受取りや観光収入の増加から外貨準備高は年初来大きな変動はなく,11月末現在で44億ドル(前年末比2.5%増)と安定した水準を保っている。
(4)金融財政動向
金融面をみると,政府は77年も物価上昇圧力が高いことや経済の安定的成長を図るために引締め政策を堅持した。しかし,海外部門の好調からマネー・サプライが急増した。このため10月に輸出前受金や海外建設工事請負代金のウォン貨転換を年内禁止する措置をとったほか,財政支出の圧縮,市中貸出しの抑制等対策をとったが,年末の通貨供給量は前年末比40.7%増の高率に達した。なお,公定歩合は前年央から19%と高率に引き上げられたが,77年7月に附加価値税(税率10%)が導入されたことに伴い,企業の金利負担を軽減すること等を目的に公定歩合の一部が19%から15%に引き下げられた。また,同時に市中銀行の貸出最高金利も21%から19.5%へと引下げるなど若干の金融緩和を実施した。
78年に入ってからも物価上昇圧力が高く,金融は引締め基調を堅持しており,2月に金融機関の支払準備率の引上げ,3月に海外建設工事請負代金のウォン貨転換禁止,6月に公定歩合さらに,州政府による(今後8年間pァ措置をとった。このため,マネー・サプライの増加率(前年同期比)は上期の33.7%増から7~9月期には17.2%増と鈍化しており,この影響から資金繰りがひっ迫し,中小企業の倒産などもおこっている。
財政面をみると,78年度(暦年)の予算は総額3兆5,170億ウォン(約73億ドル),前年度当初予算比32.3%増と前年の伸び(31.3%増)を上回る大型なものとなった。歳出面では在韓米軍の撤退の動きから国防費が前年比35.2%と増加し,総予算の35.6%を占めているのが目立っている。
79年度の予算も総額4兆5,338億ウォン(約94億ドル),前年比28.9%増と引続き大型予算となった。前年と同様,総予算の中で国防費のウエイトが34.4%ともっとも高く,また,社会開発費にも重点をおいている。
(5)物価動向
近年,根強い騰勢を続けている物価は77年も卸売物価が前年比9.0%高,消費者物価が同10.1%高と前年よりやや鈍化したとはいえ依然高水準にある。
これは前述のようにマネー・サプライの増加を主因に,その他,春先きの寒波の影響による食料品価格の上昇,7月の附加価値税の導入,前年末の石炭燃料価格の大幅引上げによる光熱費の高騰などの要因による。しかし,このような物価高騰要因が多かった中で,一応高水準ながら物価が政府目標の10%前後で落着いたのは総合物価対策として①輸入の自由化,関税率の引下げ等輸入の促進,②独・寡占品目,生活必需品の最高価格指定および7~8月中の価格凍結,③公共料金の年内値上げ見送り等の強力措置を7月以降実施したこと,年間を通し金融を引締めてきたことなどの効果による。
78年入ってからは,卸売物価が1~10月に前年同期比で11.5%高,消費者物価が1~11月に同14.3%高と上昇率を高めており,とりわけ年央以降の上昇が目立っている。これは干ばつの影響による野菜等食料価格の上昇,建設ブームによる資材の高騰,賃金の上昇,輸出等海外部門の好調によるマネー・サプライの増加,輸入価格の上昇(77年は0.9%高,78年1~10月は前年同期比3.2%高),7月以降の交通料金,電力料金等公共料金引上げなどによる。
こうした情勢に対し政府は公定歩合の引上げ,建設規制や不動産投機抑制,輸入自由化の促進(5月及び9月),品不足品目(繊維製品等)の輸出抑制,緊急輸入などの対策を実施しているものの,当面鎮静化は困難とみられる。
(6)経済見通し
第4次5ヵ年計画(77年~81年,実質成長率は年平均9.2%,1人当りG NPを81年に1,512ドルヘ等の目標を掲げる)の初年度,2年目と経済は予想以上に好調で,78年の1人当りGNPは1,242ドルと初めて千ドルの大台を超えた。
こうした状況下で,政府は79年の経済について①物価安定,②物資供給の拡大,③住宅の普及拡大などを重点におき,目標成長率を9%に設定した。
ここ数年の実績からみて,このような控え目な目標となったのは,従来の高度成長から経済の安定に政策の重点を移そうとする意図の表われと考えられる。また,輸出は155億ドル,輸入180億ドル,外貨準備高58億ドル,1人当り国民所得1,470ドル,物価上昇は10~12%以内等の目標が設定されている。
(1)概 観
台湾では77年10~12月期に入って増勢を回復した輸出が,78年に入って期を追って増加し,一方国内でも民間設備投資,公共投資が堅調に推移した。
78年後期には輸出の一段の増大に加えて,12大建設(注1)の開始のほか,賃金上昇を背景とした個人消費の盛りあがりによって,景気はブーム状態を示し,従来安定していた物価も,78年下期に入って次第に上昇傾向を強めてきた。
政府発表によると,78年の実質成長率は12.8%と前年の8.1%(目標値8.5%)を大きく上回った。このうち工業生産は前年比25.4%増(前年11.7%増)となったが,農業生産は気象条件に左右されて前年比1.5%減少した(前年4.7%増)。対外貿易は輸出127.5億ドル(前年比35.7%増,77年14.6%増),輸入110億ドル(前年比29.5%増,77年12.0%増であった。一方物価動向をみると卸売物価3.5%高(前年2.8%高),消費者物価は6.3%高(前年7.0%高)であった。
(注1)12大建設とは,77年に一応完了した10大建設にひきつづき施工される,下記のような12項目の公共事業である。そのうち主要なものを取りあげると,①台湾環状道路,②東西貫通道路,③銑鋼一貫コンビナート,④原子力発電所,⑤台中港の整備建設,⑥都市住宅建設,⑦農業機械化基金設置による機械化の促進,⑧農地水利工事の改善拡充,⑨文化諸施設の建設拡充等である。
(2)貿易動向
対外貿易の動向をみると,77年には増勢は鈍化したが,10~12月期に入って,ドル安や円高等の影響をうけて輸出の増勢が高まった。これは台湾元がドルリンクから離脱したためである。
輸出の増勢は78年に入っても続き,とくに78年下期は,前年同期比で7~9月期41.0%増,10~11月は33.7%と大幅増と大幅増をつづけている。商品別にみると主力の繊維,プラスチック,合板が,アメリカ,日本,西欧向けを中心に好調のほか,鉄鋼,電気機器の輸出も発展途上国(タイ,フィリピン,サウディ,香港等)向けに好調である。
一方輸入も,機械設備,原油,工業原材料を中心に輸出と同じくかなりな伸びをみせ,前年同期比で7~9月期に36.4%増,10~11月には36.1%増と著増した。しかしなお貿易収支の黒字が続いていること,海外投資(華僑投資,外国人投資をふくみ2.1億ドル,前年比30%増)や観光収入(1~11月,前年同期比14.6%増)が増加したこともあって,外貨保有高は78年10月末に約16億ドル77年末の14.5億ドルを上回っている。
なおアメリカ向けの出超増加を背景に,78年11月,米国からの輸入品目400項目について30%の関税を引き下げ,またカラーテレビの輸出規制についても,79年には第1段階(2月~6月)12.7万台,第2段階(7月~80年6月)37万台(78年には65万台の実績見込み)の枠をのむことに決定した。政府当局の意向によると,台湾は輸入制限よりも輸出拡大を求める方針に政策を改め,従来規制をつづけていた対日輸入を緩和し,また生産品の大部分が対日向けの場合は,日本からの企業投資をすべて認可する政策をとることになった。なお懸案の輸出入銀行については,79年1月11日に正式に発足し,発展途上国への中長期融資が積極化することになった。
また中央銀行筋からしばしば伝えられていた変動為替レートへの移行については,79年から従来米ドルに固定していた外国相場を,情勢に応じ機動的に変動させる方針を定めた(78年1月16日,1ドル=38新台幣から36新台幣に改めた)。
(3)生産動向
政府当局は企業の金利負担の軽減,輸出競争力の強化をはかることを主眼に,77年に公定歩合を引き下げた(77年6月以降公定歩合8.25%)。さらに民間設備投資促進の見地から,「投資奨励条令を改正し,8月には輸出商社に対する融資の強化,機械設備輸入関税の免税,海外華僑投資促進のための利潤送金枠の拡大,輸出入銀行および開発銀行の設立などを内容とする「投資環境改善」措置を公布した。また9月,従来施工されてきた「10大建設」のほぼ完了と同時に公共投資振興のための「12大建設」のプロジェクト計画を発表した。以上のような景気振興措置と輸出の漸増により,77年10~12月から工業生産は拡大し始めたが,78年に入っても増勢はつづき,とくに78年下期に入って,上述のような輸出の増大と国内投資の活発さのほか,個人消費の盛りあがりにより(製造工業月平均賃金上昇率,1~6月間前年同期比16.7%増),鉱工業生産も4~6月期に前年同期比21.7%増のあと,7~9月期には35.7%増と一段と高まり,10月にも前年同月比34.1%の増加となった。
(4)物価動向
78年下期に入って景気が過熱気味となったため,上昇率が高まっている。
マネーサプライも7~9月期には前年同期に比べて39.2%増加し,このほか内外需の好況が影響して,セメント,銅材,建設機械など一部資材の供給不足が伝えられ,また工業原材料輸入品価格が上昇してきたこともあって,78年上期ごろまで安定していた物価も次第に上昇傾向を強めている。卸売物価は前年同期比7~9月期には3.0%高のあと,10~11月には6.6%高となり,78年全体としては前年比3.5%高(前年2.8%高)となった。消費者物価も7~9月期の2.9%高から,10~11月には8.1%高と上昇を高めている。
(5)経済見通し
政府発表によると,78年の成長率は12.8%に達した。79年の成長率見通しについては当初8.5%と見込んでいたが,景気の好調持続を前提に,いくぶん高目に修正し,10~11%の成長が達成されるものとみている。ただ輸入品価格の上昇,賃金水準の引きあげ等から,物価の上昇圧力が高まり,物価堅7~8%の上昇が見込まれるとしている。
なお71年から着手された経済6ヵ年計画の後半3半年間(79~81年)については,78年の景気の好調持続から判断して,年間成長率を従来の7.5%から8.5%に引きあげ,物価上昇率は5%(原計画5.7%),失業率は2.7%(原計画2.0%)に修正した。
(1)概 観
77年のフィリピン経済は輸出が1次産品価格の上昇などから好調に推移したことや鉱工業生産も前年に引続き回復基調にあったことなどから実質GN P成長率は6.3%と比較的順調な成長を遂げた。ただ,物価は前年に比べやや上昇気配をみせた。また,輸出の好調から貿易収支は改善したものの依然大幅な赤字で,このため膨大な借入れを行っており,対外債務も増大している。
78年の経済は,製造業は比較的順調であったものの前年好調であった輸出が主要輸出産品である砂糖の急減などから一転して低迷したほか,農業や鉱業生産も伸び悩み,このため成長率は5.8%と目標の7%を下回った。また,輸出や物価等も当初目標を達成することはできず,特に,貿易収支は再び悪化傾向を強めている。
(2)生産動向
農業生産をみると,77年は比較的天候にめぐまれたことから穀物生産が順調で,なかでも米の生産(籾ベース)は前年比6.2%増の690万トンと5年連続の豊作を記録し,10万トン程の輸出余力を生じた。ただ,商品作物はバナナが前年比5.2%の増産であったものの,砂糖は国際市場での価格下落などから前年比6.4%の減産で,コプラも前年を下回る生産であった。このため,農業生産は前年比4,6%増と前年の7.9%増から大きく鈍化した。
78年も穀物生産がとうもろこしは順調であったものの,かんじんの米の生産が台風の被害から懸念されており砂糖も輸出急減の影響からかんばしくないなど全体としての農業生産は前年の伸びを下回ったとみられている。特に,米の生産は春作が干ばつの影響を受けたあと,秋作(主期作)も当初順調で豊作が見込まれたものの,10月末の台風によって34万トンの被害を受けたことから必ずしも楽観できない状況となり,政府は米の輸出を禁止している。
製造業をみると生産は73年にピークに達したあと低迷が続き,76年に入り前年比4.8%増とようやく回復に転じた。77年も輸出の好調や賃金引上げによる購売力の増加などから同3.5%増と引続き拡大している。業種別では金属製品や電気機械,木製品等が好調であったが繊維製品は低迷した。また,鉱業も輸出増を反映して前年の不振から回復した。ただ,主力の銅は価格の低迷から増産とはなったものの低調であった。一方,前年まで好調であった建設業はホテル建設ブームが一段落したことから増勢は大きく鈍化した。
78年に入ってからも製造業の回復基調は続いており,1~9月期に前年同期比4.7%増と順調である。これは繊維や玩具などを中心とした新興産業の成長によるものである。ただ,鉱業生産は銅の輸出不振などから低迷している。
(3)貿易と国際収支動向
77年の輸出は前年比23.1%増と好調に推移した。これは1次産品市況の上昇が大きく寄与しており,最大の輸出産品であるココナッツ製品(総輸出の24%を占める)は前年比42.4%もの増加をみた。また,規模は小さいもの衣類や電子製品,化学品などの工業製品の輸出も急速に増加している。国別にみると日本向けが引続き低迷しているものの,欧米諸国向けは順調で,また,社会主義国向けも76年以降急増しており,-77年にはソ連と中国のこの2国向け輸出は前年比89.8%増となっている。こうした貿易相手国の多角化の進展から日・米両国に対する輸出依存度は74年の76.1%をピークに77年には59.6%へと低下しており,同様のことが輸入に関しても言える。
一方,同年の輸入は前年比8.4%増と前年と同様輸出の増勢を下回った。
商品別では機械類の増加が目立っている。
この結果,貿易収支赤字は依然巨額であるものの前年の11.2億ドルから8.4億ドルへと大きく改善し,経常収支も観光収入の増大などが加わり8.3億ドルの赤字へと改善した。一方,こうした赤字に対するファイナンスは比較的順調であったことから総合収支も0.3億ドルの赤字にとどまった。
78年の貿易動向をみると,輸出は一転して増勢が鈍化しており,上期の輸出は前年同期比1.8%増にとどまった。これはココナッツ製品に次ぐ輸出産品である砂糖の不振によるもので,価格の下落から上期に前年同期比71.1%もの急減となったほか,銅も低迷している。
一方,輸入は同12.6%増と輸出の増勢を上回っている。このため,貿易収支は再び悪化傾向を強めており,中央銀行発表による1~9月間の貿易収支赤字は前年同期の約2倍に達している。
このように貿易収支の大幅赤字が継続していることから,このファイナンスのため対外借入れが急増している。目下,この借入れは順調で,外貨準備高は9月末現在で前年同期比24.3%増の18.8億ドルと77年の輸入の約5ヵ月分を保有している。ただ,その反面債務残高も急増しており,77年末の65.6億ドルから78年末には77.8億ドルに達しており,債務返済比率も78年6月時点で18.4%と危機ラインといわれる20%に近づいている。政府はこうした問題を解決するために,78年に輸出促進5ヵ年計画(78~82年まで。主な目標としては輸出の年平均増加率18.5%,工業品の輸出増,貿易相手国の多角化等が挙げられる。)を策定したほか,第2の輸出加工区の創設,工業化の促進等の努力が進められている。
(4)財政動向
フィリピンの予算年度は77年に入ってから,従来の会計年度(7~6月)を暦年に改訂している。
78年度の予算は総額339億ペソ(約46億ドル)と,前年比29.4%増の大型予算であった。これは5ヵ年開発計画の初年度予算としてインフラストラクチャの整備や教育の充実等経済・社会開発に重点を置いたもので,また,地方開発も重視している(なお,歳入不足を補うため,5千ペソを超える預金の金利に対する課税,旅行税等新税の創設を行った)。
79年度の予算は前年比1.2%増の343億ペソ(約47億ドル)と控え目なものになった。収支尻は前年を上回る赤字(76億ペソ)予算である。
なお,金融面では78年からの新5ヵ年計画の開始に伴い,資金調達コストを引下げ,低迷している民間投資を刺激することや堅実な長期資本市場育成等を目的に78年1月から新金利政策(商業銀行等の貸出金利の実質引下げや定期預金等の期限前解約の許可等)を実施したほか,9月には伸び悩む輸出の振興を目的に短期外貨貸付規制の一部緩和等の措置をとっている。
なお,新5ヵ年計画では期間中のGNP成長率を78年の7%から81年以降は8%へ,物価上昇率を年平均7%へ等の目標を設定している。
(5)物価動向
75,76年と比較的落着いた動きをみせていた物価は77年に入って卸売物価が前年比9.9%高,消費者売物価が同7.9%とやや上昇率をたかめた。これは4月の石油価格値上げ(20%),公共料金の値上げの影響のほか大型財政や輸出の好調による国際収支の改善等によるマネー・サプライの増大(前年比23.7%増)などがある。政府は77年中にも関税の引下げ(1月から45品目),生活必需品の物価凍結令(5月),価格統制令の2年間延長(6月)等の対策をとっている。
78年に入ってからの物価は1~9月間に前年同期比で卸売物価が5.6%高,消費者物価が7.2%高と当初目標の7%前後にあり,比較的落着いている。
なお,こうしたなかで2年振りに最低賃金法が改正され,78年7月から最低賃金が1ペソ(1ドルは約7ペソ)引き上げられ(首都圏の非農業労働者の場合1日11ペソとなる),また,79,80年にも各1ペソづつ引上げられることになった。
(1)概 観
タイ経済は75年7.7%(実質GDP成長率),76年8.2%と順調な拡大が続いたが,77年は6.2%(目標は7.1%)とやや鈍化した。これは干ばつの影響で農業がマイナス成長となったことによるもので,鉱業や製造業などは好調に推移した。また,輸出が年末に大きく低迷したのに対し,輸入は一貫して高い増勢を続けたことから貿易収支は大幅に悪化した。物価も食料品価格の上昇や公共料金の引上げなどから騰勢を高めた。
78年の経済は前年不振であった農業が穀物の豊作などにより大きく回復したほか,鉱工業生産も引続き順調に推移するなど比較的好調で,政府は7.9%と高い成長を見込んでいる。ただ,輸出は78年に入ってから再び徐々に増勢を回復しているものの,輸入の増勢を下回っているため貿易収支の悪化傾向が続いている。また,物価の騰勢も続いている。
なお,同国はドル相場の急落から78年3月にバーツのドル・リンク制を廃止し,通貨バスケット方式に移行したが,さらに11月から市場の実勢に応じて毎日1回為替レートを決定するディリー・フィクシング・レート方式(d aily fixing rate system)に変更した。
(2)生産動向
77年の農業生産は前年比1%減と低迷した。これは東北部及び北部の農村地帯が干ばつに見舞われたことなどから大きな被害を受け,主要穀物の米の生産が前年比12.3%減,とうもろこしも同30.2%減と不振であったことによる。
78年の農業は9~10月に洪水に見舞われたものの,全般的には天候にめぐまれ,穀物生産は米が前年比21.2%増の16百万トン,穀物全体でも22.3%増の19百万トンと史上最高の豊作と推計されている。
製造業は国民所得ベースでみると77年は前年比14.2%増と前年同様好調であった。業種別にみると活発な公共投資を映じてセメントや鉄鋼等の建設資材関係が好調のほか,機械や木製品の伸びも高かったが,織物の伸びは低いものにとどまった。
78年に入ってからも工業生産は順調で,1~10月間の鉱工業生産指数は前年同期比9.2%増と高い伸びを続けている。こうした活況からこれまで低迷していた国内の投資活動も活発化しており,投資局への投資申請(金額ベース)は77年に前年比約4.7倍,78年上期も前年同期比86.5%増となっている。しかし,外国からの直接投資は依然低迷しており,工業部門に対する投資は77年が前年比5.1%減,78年上期も前年同期比では37,1%増となっているものの金額ベースでみると最盛期の74年の約1/4と水準は低い。特に,繊維部門への投資は過剰気味であったことから,ここ数年外国からの投資は激減しており,さらに政府は78年2月に合繊工場新設を禁止した。
(3)貿易と国際収支動向
77年の貿易は,輸出が前年比17.2%増であったのに対し,輸入は29.2%増と増勢を高め,この結果,貿易収支は再び大きく悪化した。まず,輸出面をみると,前年に引続き秋口までは好調に推移したものの,その後年末にかけ急速に増勢は鈍化した。これは主要輸出産品であるとうもろこしが大不作となり輸出余力をなくしたことによるもので,前年に比べとうもろこし輸出は41%も減少した。また,タピオカ,砂糖,ジュート,えび,それに内需の拡大からセメント等が不振であったが,最大の輸出産品である米や錫は好調であった。特に,米は同年の生産が思わしくないことから国内の米不足が懸念され,5月以降数次にわたり輸出規制が強化されたものの,前年比54.9%もの増加であった。また,金額は少ないものの機械類も前年比38.8%増と好調であった一方。75,76年と低い増加にとどまっていた輸入は,と比較的順調な景気拡大を背景に77年には生産財を中心として急増した。
この結果,貿易収支は794百万ドルと大幅な赤字(前年は185百万ドルの赤字)を記録した。また,貿易外収支も観光収入は増大したものの,アメリカ軍撤退に伴い,軍関係受取りがほぼゼロになったことなどから前年より悪化した。このため経常収支は11億ドルとこれまでにない大幅赤字(前年は4億ドルの赤字)を記録したが,資本収支が順調であったため総合収支は幸うじて黒字となり,外貨準備高もほぼ前年と同水準を維持した。
78年の貿易は1~9月期の輸出が前年同期比9.2%増と引続き低迷している。品目別にみると,とうもろこし,米(ともに前年の不作),砂糖(価格の下落)等が不振で,特に米は前年同期比26%減となっている。これに対し,ゴム,錫,タピオカ(ともに価格の上昇)や工業製品の輸出は順調であ一方,輸入は同期間に前年同期比14.5%増と増勢は大きく鈍化した。これは,前年の貿易収支が大幅な赤字であったことから政府が様々な輸入抑制策をとったことによる。例えば,78年2月に奢侈品18品目(乗用車・オートバイ等)の輸入禁止措置および輸入業者に対する信用供与の増加を抑制するための公定歩合の引上げ(年9.0%→10.5%へ)を行い,さらに3月には141品目(テレビ等奢移品が中心)の輸入関税引上げとバーツのドル・リンク型の廃止及び通貨バスケット方式への移行等の対策をとっている。
ただ,依然輸入の増勢が輸出のそれを上回っていることから貿易収支あ赤字はさらに拡大している。特に,対日依存度が高いことから円高の影響は大きい(77年の場合でも貿易収支赤字の約7割が対日赤字による)。
(4)財政動向
78年度(77年10月~78年9月)の予算は前年度比17.7%増の総額810億バ-ツ(約40億ドル)であった。歳出をみると米軍の撤退等から国防費が前年度比20.1%増で総予算の19.5%を占めているほか,借入金の返済が急増し総予算の13.3%を占めている。収支尻は190億バージの赤字予算であった。
79年度の予算は前年度比13.6%増の920億バーツとやや抑制気味の予算であった。歳出面ではインドシナ半島の政情不安などから国防費が前年度比20.2%増と総予算の206.6%(治安維持費を含めると26.1%)を占めているほか,経済開発費が総予算の19.5%,教育関係費が同19.3%を占めている。経済面では灌漑施設の整備拡充など農村開発に重点がおかれている。なお,本年度も収支尻は200億バーツの赤字予算となっており,これは対外借入れや中央銀行等からの借入れによって賄なわれる。
なお,金融面もみると前述のように輸入規制を主目的に78年2月から公定歩合を10.5%へと1.5%引上げたが,12月にはさらに12.5%へと引上げた。
今回の引上げの意図は,第1に内外の金利差を拡大して外資の流出を抑え,バーツ価値の維持を図ること,第2に,製造業を中心とした過熱的な景気を抑え,輸入の増加率を少しでも低下させることにある。
(5)物価動向
75・76年と落着いていた物価は,77年に入って卸売物画が前年比5.4%高,消費者物価が8.4%高と上昇率をやや高めた。これは3月の石油製品価格引上げ(10.6%~16.5%の引上げ)や8月の電力料金引上げ(20%引上げ),9月のLPGガス引上げ,10月からの最低賃金の引上げ(首都圏で1日25バーツから28バーツヘ),食料品価格の上昇(農業の不作による)等による。
78年に入ってからも3月のガソリン価格の引上げ,食料品,交通費,医療の上昇,輸入価格の上昇等を反映して消費者物価は上昇しており,1~9月間に前年同期比9.2%高とタイとしては比較的高い上昇となっている。このため政府は所得保証のために一般労働者の最低賃金を1日28バーツから35バーツヘ(但し,首都圏の場合),公務員の最低賃金を月額750バーツから900バーツヘ,籾の買上価格をトン当り2,100バーツから2,400~2,700バーツヘ(農民の最低賃金保障のため),等の最低賃金引上げを決定し10月から実施した。
(1)概 観
インドネシア経済は70年代に入ってから順調な成長を遂げていたが,75年は輸出の低迷,プルタミナ(国営右油公社)の財政危機(短期対外債務急増を主因とした債務返済困難)やそれに伴う国際収支難等から成長率(実質G DP)は5.0%と低迷した。しかし,76年には輸出の回復やプルタミナ問題の一段落などから成長率は6.9%と再び高まった。
77年の経済は農業生産の伸びが低かったものの,石油を中心に輸出が好調であったこと,それに伴って鉱工業生産も順調に推移したことなどから7.5%の成長を達成した。また,騰勢を続けていた物価も上昇テンポが低下した。
78年の経済をみると,前年好調であった輸出が上期に大きく増勢を鈍化させ,石油生産も低迷するなどあまりかんばしくない。ただ,ここ数年足踏み状態にあった米の生産が天候にめぐまれたことなどから豊作が見込まれており,物価も一桁台の上昇へと落着いてきている。
なお,政府は78年11月16日にルピアの対ドル・レートを従来の1ドル=415ルピアから625ルピアへと33.6%の大幅切り下げを行うとともに,ルピアの対ドル・リンクを廃止し,通貨バスケット方式に移行した。
また,79年度から第3次5ヵ年計画が実施されるが,この期間の経済成長率目標は年来均6.5%と設定されている。
(2)生産動向
農業生産をみると,77年は穀物や商品作物であるゴム,コーヒー,砂糖等め生産はいずれも前年を僅かに上回った。このうち,米の生産は干ばつや病虫害等の被害から前年比1.3%の微増にとどまっており,74年以降の年平均増加率も2.0%と人口増加率(2.6%)を下回っている。このため米の輸入は年々増加しており,77年には260万トン(精米),682百万ドル相当が輸入された。なお,穀物全体ではとうもろこしが前年の不作から回復したこともあって前年比2.7%増となった。
78年には,天候にめぐまれたことから米の生産は雨季,乾季作ともに順調で前年比6.8%増(25百万トン)の豊作と推計されているが,とうもろこしは再び不作であった。
鉱業生産をみると,77年は基幹産業である石油生産が輸出の増加を反映して好調で前年比11.9%増であったほか,錫,ボーキサイト,ニッケル等も前年の不振から回復をみせるなど総じて順調であった。ただ,石油生産は78年に入ってから日本及びアメリカ向け輸出が減少(1~9月間の対日輸出は10.8%減。但し,日本の通関統計による)したことから低迷しており,1~9月間に前年同期比2.2%の減産となっている。
製造業生産は近年順調な成長をみせているものの,その規摸は未だ小さくGDPの9.5%(77年)を占めるにとどまっている(農業は同31.3%,鉱業が19.4%)。77年度(4~3月)の生産量をみると,セメント(前年比45%増)や肥料(同2.5倍)は好調に推移しているが,繊維(同6.8%増)は若干の増加で,鉄筋は低迷している。
78年もセメントは順調に拡大しているが,繊維の低迷が続いている。
(3)貿易及び国際収支動向
77年の貿易は輸出が前年比27.0%増と好調に推移した。これは総輸出の約7割を占める石油がアメリカや日本向けを中心に前年比21.6%増と好調であったのに加え,1次産品市況の上昇を反映してコーヒー(前年比2.5倍),錫(同1.5倍),茶(同2倍)等の輸出が軒並み著増したことによる。
一方,輸入は食料輸入が増大したものの,肥料やセメントが国内生産増大により輸入が減少したことや国内産業保護の目的で1月から繊維製品や鉄筋等の輸入を制限したことなどから,前年比9.8%増にとどまった。この結果,貿易収支は32.9億ドルもの黒字を記録し,経常収支も前年の9億ドル赤字(これは貿易外収支が石油企業の利潤送金で毎年大幅赤字になることによる)から51百万ドルの赤字へと改善した。このため,資本流入は前年より減少したものの総合収支は大幅黒字で,77年末の外貨準備高も前年末比67.8%増の25.2億ドルに達した。
78年上期の貿易は輸出が石油輸出の不振やコーヒーの減少(価格下落)などから前年同期比8.4%増と前年から一転して低迷している。これに対し,輸入は同17.2%増と増勢を高めているため貿易収支は黒字幅を縮小している。こうしたことから外貨準備高も9月末現在で前年同期比1.2%減の23.8億ドルとやや減少している。
(4)財政動向
77年度(4~3月)予算は前年度比20.6%増の総額4兆2,473億ルピア(約102億ドル)と同国のインフレやこれまでの予算の伸び(前年は28.7%増)から比較すると緊縮予算となった。本予算の基本方針は経済の安定を図るための均衡財政の維持,開発支出の5ヵ年計画に基づく重点配分等におかれている。
78年度の予算は総額4兆8,263億ルピア(約116億ドル)で前年度比13.6%増と先進国の景気低迷を背景に石油輸出が伸び悩むとの見通しから70年代では最低の伸びとなっており,また,本予算の基本方針も前年度と同じである。歳出面をみると経常支出が前年度比14.1%増となっているが,その中で対外債務償還が急増しており前年度比52,3%増(約8億ドル)である。また,開発支出は同13.2%増であるが,教育や労働部門及び鉱工業部門に重点がおかれている。
一方,歳入面では石油会社税が6.2%増(総歳入の42.8%)にとどめられており,外国援助受入れも12.2%増(同17.7%)と抑制されている。
金融面では78年1月から預貸金金利の引下げ等を実施したが(1年ものの定期預金金利を12%から9%へ,商業銀行の支払い準備率の引下げ等),これは現在創設を準備中の証券市場の環境づくりの他,輸出が鈍化傾向にあり,民間投資も停滞していることから,それらを刺激することを目的としたものである。
また,前述のルピア大幅切下げは過去数年のインフレによって過大評価されたルピアを実勢に戻し,ルピアを安定させることや,セメント,繊維等の輸出競争力強化等を目的にしたほか,政府の財政収入増大(石油会社税が外貨建であることからルピア・ベースでは増加する)を意図しているとみられる。
(5)物 価
77年の消費者物価は前年比11.0%高(政府目標は10%)と依然高水準であるものの,前年の19.8%高に比べると相当落着いてきた。これは政府が重要物資(米・砂糖・肥料等)の備蓄政策や公共料金(石油・電力)の値上げ抑制等の物価対策をとってきたことによる。
78年に入っても米の豊作などから物価の鎮静化傾向は続き,1~9月間の上昇率は前年同期比8.7%高と一桁台に安定してきた。ただ,11月のルピア大幅切り下げによってインフレ再燃が響念されている。政府はルピア切り下げ後,米・魚・砂糖・塩・繊維製品等生活必需品の価格統制を行うなど対策をとっているが,この規制も12月下旬に一部解除されている。
(1)概 観
77年のインド経済は農業生産が好調で,とくに,穀物生産は記録的豊作といわれた75年の水準を上回り,また,商品作物も前年の不振から大きく回復した。しかし,前年好調だった工業生産は再び伸び悩み,また,前半高い増勢を見せた輸出も後半鈍化した。このため,77年度(4~3月)の成長率(実質GNP)は5.0%にとどまったと推計されている。なお,前年下落に転じた物価は77年に入って再び上昇をみせた。
78年の経済は農業生産が洪水の被害等に見舞われたものの引続き順調で,工業生産も若干回復の動きをみせている。しかし,輸出は不振を続け,貿易収支は悪化傾向を強めている。ただ,外貨準備高は海外からの送金が順調であることなどから高水準に達している。また,物価は落着きを取り戻し,全く安定している。
(2)生産動向
農業生産をみると,77年は天候にめぐまれたことから大豊作を記録した。
米(籾ベース)は前年比25.4%増の79.1百万トンと史上最高を記録したほか,小麦も豊作であった前年をさらに上回る(0.7%増)29百万トンと順調で,穀物全体でも前年比13.5%増と史上最高の138百万トンに達した。なお,75年以降穀物生産は豊作が続き,食料備蓄が増加していることから一部に倉庫不足がおこり,維持費も膨大であること等から77年10月以降,米・麦の各州間取引規制を撤廃しており,また,77年に入ってから穀物の輸入も急減している。商品作物はジュートが不振であったものの前年不作であった落花生,綿花,砂糖等の生産が回復し,また,茶も豊作であった。
78年についてみると,穀物生産はラビ作(乾期作,春収穫)が順調であったのに続き,カリフ作(雨期作,秋収穫)も9月末から10月初にかけて洪水の被害を受けたものの順調で,米の生産が前年比0.8%減の78.5百万トン,小麦が7.9%増の31.3百万トン,穀物全体でも0.8%増(FA0,11月末推計)の生産となったと推計されている。こうした豊作から穀物在庫は年末には19百万トンに達したとみられている。なお,商品作物では綿花や落花生が順調である。
77年の鉱工業生産は前年比5.1%増と鈍化した。これは電力不足や貨車の不足等の輸送上の問題,3月の非常事態宣言解除後の労働争議の多発等が影響したとみられる。電力,石炭,鉄鋼,セメント,商業車等重要産業の生産が鈍化したほか,綿織物工業も不振であったが,食品,電気機械,化学品およびゴム製品などは順調であった。
78年に入ってからは労働争議の多発等問題を残しているものの,上期の鉱工業生産は前年同期比5.7%増とやや回復の気配をみせてきた。業種別にみると産業機械,輸送機械,金属製品が順調で,綿花や織物も増産に転じている。しかし,鉄鋼や石炭生産は低迷している。
(3)貿易動向
77年の輸出は前年比18.6%増と前年に続き順調であった。ただ,問題は上期に好調であった輸出の増勢が一次産品市況の軟化にともない下期には急速に鈍化したことである。品目別にみると紅茶,コーヒー,機械類等の輸出が好調であったのに対し,砂糖などが不振であった。
一方,輸入は4月に大幅な輸入規制緩和策(必需物資の充足,国内産業の国際競争力の強化,物価抑制をねらいとしている)の発表があったものの,前年比14.7%増にとどまった。これは農業の豊作から穀物の輸入が急減したほか,肥料(国内生産の増大)や鉄鋼が減少したことによる。この結果,貿易収支(fobベース)は987百万ドルと大幅な黒字を記録した。加えて,インド人外国居住者や中東を中心とした出稼ぎ労働者からの本国送金の増大(77年中に約22.6億ドル)や観光収入の増大などから77年末の外貨準備高は前年末比68.6%増の51.8億ドルとなった。
78年の貿易をみると,上期の輸出は前年同期比22.0%減と急減した。これは鉄鉱石輸出が日本向けを中心に減少していることや,紅茶や砂糖の国際価格が下落していることなどによる。一方,上期の輸入は前年同期比9.1%増と増加していることから貿易収支は再び赤字に転じている。ただ,外貨準備高は海外居住者等からの本国送金が依然順調であることなどから増加傾向は続いており,9月末現在65.2億ドル(77年末比25.8%増)と前年の輸入額60.2億ドルを上回る高水準にある。
(4)財政動向
77年度(4~3月)の予算は前年度当初予算比20.0%増の1,566.8億ルピー(約179億ドル)であった。本予算はジャナタ政権初の予算で「庶民の予算」というキャッチ・フレーズがつけられており,農業生産拡大に重点を置くとともに,N用の促進や所得格差是正などにも力を入れている。
78年度の予算は前年度比18.3%増の1,841.7億ルピー(約211億ドル)とほぼ前年度並みの伸び率であった。本予算も前年度同様,農村部の開発,雇用機会の創出,所得格差是正等を目標においている。このため,歳出面では前年度に引続き防衛費や行政費等が抑制され,農業・農村開発振興関係費が増大している。歳入面では租税収入が前年度比11.4%増にとどまったほか,外国援助受入れが同6.8%減となったのに対し,国債発行は同65%と増加しており,総歳入の約1割を占めるに至っている。なお,収支尻は105億ルピーと大幅な赤字予算である。
なお,政府は78年3月に新5ヵ年計画(78年4月~83年3月)を発表した。
この計画はガンジー政権によって策定実施されてきた第5次5ヵ年計画を1年残して廃止し,それに替えて策定されたもので,「ローリング・プラン方式」をとっている。計画の基本目標は,失業の解消を通じての貧困の追放,前政権の重工業優先政策から農業・農村開発優先(小規模工業,村落産業など労働集約的産業の振興)へ,食料穀物の自給体制の確立,資本財および原材料の輸入緩和,労働集約および技術製品の輸出拡大等である。なお,計画期間中の年平均実質成長率は4.7%,うち,農業生産伸び率4.0%,鉱工業生産伸び率6.9%とな゛っている。
(5)物価動向
76年に下落レと転じた物価は,77年に入って卸売物価が前年同期比7.3%高,消費者物価が同8.5%高と再び上昇に転じた。これは食用油や綿花等が前年の不作から供給不足となったことや,3月の非常事態宣言解除後の投機的買いだめ及び売り惜しみ,5月の賃金物価手当の強制貯蓄の撤廃などによるものである。このため,政府は産業界に対し製品価格凍結を呼びかけたり,輸入規制の大幅緩和等の対策をとった。
78年に入ってからは前年及び本年と農業の豊作が続いたことを主因に物価は落着きを取り戻しており,1~9月の卸売物価は前年同期比0.9%減,消費者物価も同2.4%高と全く安定している。
(1)概 観
70年代に入ってからのパキスタン経済は農・工業ともに不振で,輸出も停滞気味となっている。76/77年度(76年7月~77年6月)の経済も当初は8.1%の成長(実質GDP)を目標としたが実績は0.5%と低迷した。これは主要商品作物である綿花の大凶作(76年8月の洪水により2年連続の凶作)によるもので,このため工業生産も綿工業(原料不足)を中心に不振が続いた。加えて,77年3月の総選挙後の国内政治情勢の混乱は経済に大きな悪影響を与えた。また,貿易は輸出が低迷した一方,輸入が増大しており,このため貿易収支は大幅に悪化し,外貨準備高も減少した。
77/78年度の経済をみると,農業は綿花生産の回復や穀物生産の増大(但し,米は好調であったが,小麦は減産であった)などから比較的順調であらた。一方,工業生産も77年末からようやく回復の動きをみせており,同様に輸出も増加に転じ金など経済には明るい動きが見えだしている。ただ,成長率は当初目標9.6%に対し,経済の目復力が未だ弱いこともあって6.5%程度と推計されている。また,物価は77年の年初にやや騰勢を高めたが,その後徐々に落着いてきており,78年は比較的安定した動きをみせている。
なお,政府は78/79年度の経済成長目標を6.2%においている。
(2)生産動向
76/77年度の農業生産をみると,穀物生産は小麦が前年度比6.4%増の910万トン,米も同4.6%増の269万トンとともに史上最高の豊作を記録したが,商品作物の綿花は年度当初の洪水の被害から,不作であった前年をさらに15.3%も下回る大凶作で,生産高も目標の400万俵に対し245万俵にとどまった。なお,砂糖の生産は順調であった。
77/78年度には,穀物生産は米が引続き順調で前年度比6.0%増であったのに対し,小麦は78年春に洪水に見舞われたことや病虫害の発生,肥料不足などから前年度比7,8%減と不作であった。このため,国内では小麦の供給不足が懸念され,77/78年度に約100万トンの小麦が輸入されており,78/79年度も250万トンの輸入が必要とみられて,いる。なお,綿花は天候にめぐまれたことから323万俵と久し振りに順調な生産をみせ,再び輸出余力を回復している。
鉱工業生産は基幹産業である綿工業の不振(輸出の低迷や原料不足等による)や企業の国有化不安による投資減退等から74年以降ほとんど停滞している。77年の鉱工業生産も前年比2.6%増にとどまり,生産の水準は74年当時とほぼ同様である。このため,政府は77年の9~10月にかけて,投資活動を刺激するために,民間企業の固定投資に対する融資金利に上限を設ける,塩ビ製品,混紡織物等11品目については消費税・販売税の軽減又は廃止等の税制面での優遇及び競合輸入品関税の引上げ等の保護強化措置,国有化企業によって占められていた分野への民間投資の開放等の措置をとった。こうした措置に加え,77年後半には綿花生産が回復したことなどから,鉱工業生産は77年10~12月期に前年同期比31.6%増と久し振りに増産に転じ,78年1~3月期も同13.2%増と2期連続拡大した。業種別では繊維製品にわずかではあるが改善の動きがあり,また,精糖,セメント,植物油,自転車などの生産は順調である。なお,78年7月からの新年度においても政府は,低迷している繊維産業救済のために,各種繊維製品の消費税全廃,工場の近代化等のための機械輸入に対する免税措置等の対策をとっている。
(3)貿易及び国際収支動向
77年の貿易をみると,輸出は前年比0.7%増と低迷している。これは主要輸出産品である綿花が前年比34.6%減(綿花輸出が好調であった75年と比較すると80%減)となったほか,最大の輸出産品である米も同13.3%減となったのが響いており,石油製品,衣類,カーペット類は増加している(なお,70年代に入ってからの同国の輸出は年平均7.1%増と非産油発展途上国の同20.2%増に比較すると著るしい不振であった)。一方,輸入は物価対策や国内生産の増強を図るために輸入自由化を促進したこともあって同15.0%増と輸出の増勢を上回った。
この結果,貿易収支は13.7億ドルと輸出総額を上回る大幅赤字となった。
ただ,経常収支は在外パキスタン人の本国送金(主として中東から)が急増したことから前年より若干改善し,7.3億ドルの赤字であった。こうした赤字に対し,資本収支は援助資金受取りが前年より減少したことなどから前年ほど順調ではなかったため,総合収支もわずかながら赤字となり,77年末の外貨準備高もやや減少した(前年末比2.6%減)。
78年に入ってからの貿易をみると,1~9月間の輸出は前年同期比25.4%増とこれまでの低迷から一転して増勢を続けている。これは綿花生産の持ち直しから,同期の綿花輸出が前年同期比4.4倍と急増したことによるもので,米の輸出も同10.6%増と堅調に推移している。これに対し,輸入も27.2%増と高い増勢が続いている。これは前年の7月に続き,78年7月にも国内産業開発及び生活必需品の確保を目的に輸入自由化拡大措置を実施したことから国内開発資材が増加したほか,小麦輸入が急増したことによる。このため貿易収支は引続き悪化しているが,資本流入や海外居住者からの本国送金が順調であることから78年9月末の外貨準備高は前年末比38.8%増の745百万ドルとなっている。
(4)財政動向
77/78年度予算は前年度当初予算比12.7%増の373億ルピー(約38億ドル)と緊縮予算であった。本予算は農・工業生産の回復に重点をおき,9.6%の経済成長を目標とした。
78/79年度予算は前年度比15.8%増の432億ルピー(約44億ドル)と緊縮予算を継続している。本予算では民間投資促進や生産増大を目的としている。
このため,産業国有化をこれ以上進めないこととし,新規投資に対する税制・金融面での優遇を図り,また,繊維産業救済措置をとっている。なお,新年度(78/79年度)の成長率(GDP)は6.2%を目指している。
歳出面をみると国防費,一般行政費の伸びが抑制されているのに対し,債務返済は増大している。歳入面では電力・電話・セメント・石油製品・植物油等の公共料金や専売価格を引上げたため,経常収入が45.2%増(補正予算比でも12,6%増)と好伸したほか,外国からの援助も前年度並みを維持した。この結果,収支尻は2億ルピーの黒字となっている。
なお,同国は78年7月から第5次5ヵ年計画(78年7月~83年6月)を実施している。本計画では国民経済の基礎固めを目的に,農村地域の開発,国民の基本的要求の充足と社会的公平化の推進,長期経済成長を可能とする基盤整備等を図ることにしている。なお,期間中の年平均GDP成長率は7.2%(前計画中の実績は3.1%)と設定している。
(5)物 価
77年の物価は卸売物価が前年比9.4%高,消費者物価が同10.1%高と上昇率を高めた。これは前年末のタバコ,石油製品等の値上げや,77年4月の公務員賃金の大幅引上げ(諸手当を含むと約4割の引上げ),小麦生産の不振,政情不安等が加わったことによる。このため,政府は6月に公定歩合を引上げる(9%から10%へ)とともに,市中預貸金金利を引上げており,7月には輸入自由化を促進する等対策をとっている。
78年に入ってからは農業生産が順調であることなどもあって1~9月間に卸売物価が前年同期比4.6%高,消費者物価が同6.1%高と落着きを取り戻しているが,年央に公共料金等を引上げたことなどから下期に入りやや上昇気配がみられる。
(1)概 観
エジプト経済は,イスラエルとの関係が改善するにつれて,累積債務問題などでは依然厳しい状態にありながらも鉱工業生産を中心に上向き始めている。
1977年にエジプトは,工業生産,原油生産の増加に支えられて実質GDPで,8.8%(名目17.0%)の成長を示した(第9-1表)。生産面を見ると,GDPの約20%を占める鉱工業部門で,製造業が食品,繊維産業の順調な伸びにより名目で約13%増加したほか,原油生産は数量ベースで27.4%の拡大となった。しかしGDPの約30%をを占め同国最大の産業である農業部門は,実質2.9%増と前年よりさらに増加テンポを高めたものの,73~77年平均の増加率では発展途上国の水準を大幅に下回っている。
物価は高騰を続けており,特に消費者物価は統計上でも前年に続いて年率2桁の上昇となっている。
国際収支面を見ると,通関ベースでは輸入が中間財,資本財を主に輸出の伸びを大きく上回るテンポで増加したため,貿易赤字は大幅に拡大した。ただし経常収支は,前年と同規模の赤字となっている。なお,77年初には6億ドルを越える対外支払遅延が生じたが,その後のアラブ産油国の援助,6月の債権国会議の成功などにより当面乗り切ることができた。しかし累積債務問題は依然危機ラインにある。
(2)生産動向
77年の農業生産は,FAOの統計によると前年比2.9%増と前年の1.9%を上回ったが73~77年平均の増加率では発展途上国の2.9%に対し0.8%にすぎない(第9-2表)。特に食糧生産は前年比0.9%の増加(発展途上国平均2.5%)にとどまり,人口1人当りの生産量では逆に1.0%の減少を示した。食糧生産の中で穀物の生産動向を見ると,77年の生産は約800万トンと前年比では2.6%の減少となり,小麦(前年比4,5%減),米(同1.3%減),とうもろこし(同4.8%減)などが不振である(第9-3表)。また非食糧の分野では,輸出全体の1/4以上を占める綿花が,76/77年度(76.8.1~77.7.31)には約40万トンと前年度比3.7%の増加を示した。しかし生産水準は,70/71~73/74年度平均の約50万トンに比べるといまだ低迷を脱するには至っていない。77/78年度も,全体の収量は前年度比で1,3%増(速報)となったが,エーカー当りの収量は前年度比11.3%減と大きく落ち込んでいる(第9-4表)。最近では国内消費の拡大もあり,アメリカ,スーダンから一部輸入も余儀なくされている(後出第9-1図)。
一方工業生産は,77年に名目で約13%の増加を見せ,主力の繊維部門は約14%の伸びとなった。数量ベースでは綿織物7.8%,綿糸6.8%の増加となっている。また原油生産は77年に41万8000バーレル/日を記録し,76年の42.6%増に続き,27.4%増と順調に拡大している(第9-5表)。
(3)物価動向
物価は,前年比で卸売物価が76年の7.7%から77年の9.7%へ,消費者物価が同じく10.3%から12.7%へと上昇テンポの高まりを見せた(第9-6表)。特に消費者物価では,食料,衣類,サービス分野の上昇が顕著に,なっている。なお,経済全体の効率化の観点から,IMFがエジプト政府にスタンドバイ・クレジットの供与をめぐる交渉で提案していたエジプト・ポンドのレート一本化が実現すれば,小麦などの基礎物資の輸入に対する,実勢レートよりも割高な公定レートの適用もなくなり,輸入品価格の上昇,ひいてはインフレの一層の悪化を招くことも懸念されている。
(4)貿易・国際収支
77年貿易収支は,通関ベースで輸出の前年比12.3%増に対し輸入は26.3%増となり,赤字幅は12億1,280万エジプト・ポンド(公定レート換算,約30億9,940万ドル)へと拡大した(第9-7表)。輸出では綿花が市況の高騰から金額では増加したものの,数量ベースでは国内消費の増加もあり減少し,(第9-1図),原油も数量ベースでは鈍化している。一方輸入を見ると,金額で化学工業品(前年比44%増),木材(同176.2%増)の増加が目立つほか,鉄道車両,繊維機械などが重要な地位を占めている。また本来農業国であるにもかかわらず,食糧輸入の割合が高い(第9-2図)。ただし経常収支は,運河収入,観光収入及び海外からの送金収入の増加により8億1,400万ドルの赤字と前年並みであった(第9-8表)。なお77年末現在,エジプトの中・長期債務(除軍事)は約81億ドルにのぼり,77年の債務返済比率も20%強と76年の約25%から若干改善されたとはいえ,20%の危機ラインを上回っており,依然厳しい状況にある。
(1)概 観
1973年の原油価格の大幅値上げを契機に,イランは急速な経済開発を進め,石油を除く実質GDPでは非常な高度成長をとげてきた。しかしその過程では,インフレの高進など各種のひずみが発生し,78~79年の政情不安をもたらす大きな要因となっている。
77/78年(77.3.21~78.3.20)のイラン経済は,実質GDPで1.7%の増加と前年の成長率12.1%に比べて著しい成長鈍化を見せた(第9-9表)。これを主要部門別に見ると,GDPの約32%を占める石油部門は,世界的な原油の供給過剰,77年上半期のイラン原油の高率値上げなどから,前年比で実質7.2%の減少となった。また非石油部門では,建設を含む工業部門が,電力,技能労働者の不足などのボトルネック,インフレ抑制を目的とした政府の厳しい金融引締政策などのため前年の18.4%から8.6%へと伸びが著しく鈍化したほか,農林水産業部門でも天候不順で農業生産が実質4.9%の減少と振わず,全体でも前年比0.8%の減少を示した。
他方,物価面では77/78年に卸売物価,消費者物価とも前年の上昇率を上回ってインフレはさらに高進した。特に消費者物価については住居費の上昇が顕著となり,78年後半から激化した反体制運動の下地になったと伝えられる。
また国際収支では,77年に輸出が原油輸出の停滞を映じて全体の伸びも鈍った反面,輸入も経済開発テンポのスローダウン,金融引締政策などで鈍化し,経常収支は76年を上回る黒字となった。
以上のように77/78年には,生産が停滞する中で物価の騰勢は逆に強まるなど経済の不均衡が拡大した。78/79年に入るとイラン暦の第I四半期(78.3.21~78.6.21)には,原油生産が回復を始めたほか,物価も引締政策,物価統制などの効果により統計の上では鎮静化し,一旦は経済は回復に向かった。しかし78年秋になると政情不安は急速な高まりを見せ,特に11月からは,石油生産,精製,港湾関係労働者のストの影響により,原油の生産,出荷が急減した(第9-3図)。さらに12月末からは原油輸出は全面停止状態となった。その一方では,公務員を含む多数の労働者に対し大幅な賃上げが行われ,新たなインフレ要因が創出されたほか,大量の資本が国外へ流出したと伝えられるなど,経済状況は76/77年に比べ相当悪化している。
(2)物価・賃金
77/78年には,物価の騰勢は前年に比べて一層高まり,77/78年平均上昇率で卸売物価が14.6%,消費者物価が25.1%と,76/77年の各々の上昇率13.4%,16.1%を上回った。このうち消費者物価の対前年の動きを費目別に見ると(第9-10表),住居・燃料費が36.3%高,食料品関係が19.9%高,衣料品関係が21.1%高,運輸・通信関係が31.9%高となってお1),農村からの都市への人口流入も相まって住居・燃料費の上昇が顕著となっている。しかし78/79年になると消費者物価は,公式統計ではしだいに鈍化に向い,総合で第4月(78.6.22~7.22)には前年同月比で8.1%と鎮静化し,住居・燃料費も,家賃統制,家主に対する空室賃貸の強制,住宅建設への国庫補助などの効果により,前年同月比で4.7%のマイナスとなった。反面,食料品関係の上昇率が17.3%高と引き続き高水準にある。ちなみに第4月までの半年間に主食(パン,米)が38~150%,肉42~92%値上りしたと伝えられる。
このインフレ高進の一つの要因とされている賃金の上昇も依然として続いている。77/78年の製造業(除く建設業)に従事する労働者1人当り賃金の上昇率は25%と前年の29%からやや鈍化したものの,大幅な伸びとなっている。また建設労働者の場合は,前年の39.4%に続き34.4%と高い上昇を示した。
(3)財政・金融
78/79年当初予算(78.3.21~79.3.20)は,一般会計で歳出2兆9,359億リアル(約416億ドル,前年比22.8%増),歳入2兆7,960億リアル(約396億ドル,前年比25.5%増)となった(第9-11表)。予算の性格は,77/78年に続き大幅な赤字予算であり,予算規模の伸びは物価上昇率を考慮すると実質的にはほとんどないものの,歳出面で経常費の伸びを圧縮し,投資部門を増加させていることから,景気,経済開発に対しては前向きと言うことができる。しかし,歳入面では内外から4,000億リアル(前年は当初で2,500億リアル)の借入を予定しており,物価に対しては上昇要因の一つと見られる。
78/79年の当初予算と前年の当初予算を歳出について比べてみると,一般行政費が前年で4.0%の減少となった反面,電力,石油,運輸,通信などの経済関係は34.8%増と歳出全体の伸び22.8%を上回っている。特に電力は46.2%,運輸84.6%の増加となっており,インフラストラクチャー整備に重点が置かれている。
なお78/79年予算は,78年秋の原油生産の大幅な低下に伴う歳入の減少,同じく政情不安の高まりを押えるための社会福祉関係費,人件費などを中心とする歳出の増加により大きな変更を余儀なくされている。たとえば,原子力発電所建設計画は一時凍結,あるいは中断したと伝えられる。
金融面では,厳しい引締政策のために77/78年は引き続きマネーサプライの増加テンポは20%台で推移した(第9-12表)。なお78年11月初,政府は冷え切った民間部門へのテコ入れを目的として,市中銀行の預金準備率の引き下げなどを内容とする金融緩和措置を発表した。しかし政情不安が高まる中で,中央銀行職員のスト,銀行がデモの目標とされたこともあり,国内の金融機能はかなり低下している。
(4)貿易・国際収支
77年の経常収支は,51億ドルと大幅な黒字となった(第9-13表)。これは原油輸出の伸び悩みから輸出全体が前年比1.7%の増加にとどまったにもかかわらず,輸入が国内経済開発テンポのスローダウン,金融引締めなどから前年比0.1%の減と停滞したためと見られる。しかし,78年の貿易動向をリアル建ての貿易統計(通関ベース)で見ると(第9-14表),第I四半期には石油(製品などを含む)輸出が前年同期比で6.8%減少したことにより,輸出全体は同じく6,5%減となったのに対し,輸入は25.0%増と貿易黒字は縮小している。
(1)概 観
サウジアラビアは,1973年以来,大規模な工業開発を進めてきた。しかし,開発に伴うボトルネックの発生,インフレの激化などから,近年ではまずそのようなひずみの原因を除去するため工業開発基盤の整備に力を入れている。
76/77年(76.6.28~77.6.17)には,実質GDPで15.7%と前年の8.4%を大きく上回る成長をとげた(第9-15表)。これを石油部門と非石油部門とに分けて見ると,76/77年でGDPの73%を占める石油部門では,76/77年半ばから後半(77年上半期)にかけて,OPECの二重価格制で相対的に割安となった同国産原油への需要が著増したため,実質15.5%と前年の0.7%に比べ大幅に増加した。他方,非石油部門では港湾整備,住宅建設などに対する建設投資を中心に,実質16.0%と前年の19.6%に続き急速に増加している。
物価面では,76/77年のGDPデフレーター上昇率(非石油部門)が前年の41.9%から17.2%へと著しい鈍化を見せた。また消費者物価も77/78年の半ば(78年1~3月期)から,統計の上でははっきり鎮静化している。
以上のようにサウジアラビア経済は,非石油部門の急速な伸び,物価の一応の落ち着きなど,しだいに次の飛躍への土台を整えつつある。しかしGD Pの伸びではほぼ計画目標に沿っている反面,工業化プロジェクトの進捗状況は必ずしも順調と言うことはできない。また経済全体の動きは,依然原油生産ひいては対外経済要因に大きく依存している。
(2)原油生産
経済の中心である原油生産は,77年に過去最高の920万バーレル/日(前年比7.2%増)を記録した。しかし78年に入ると,同年上半期までの世界的な原油の供給過剰に加え,政府が需要の多いアラビアン・ライトの輸出量を年間で全輸出量の65%以内に抑えるとの規制を始めたことから,産油量は78年上半期に前年同期比で17%減と著しく低下した。これは,従来アラビアン・ライトが産油量全体の70~80%と今回の規制枠65%をかなり上回って生産,輸出されてきたためである(第9-16表)。つまり仮にこれまでのアラビアン・ライトの数量を確保し且つ65%の規制枠を満たそうとすれば,需要の低迷している中重質油を増産する必要があり。それは即販売面での困難を惹起するため,アラビアン・ライト,ひいては全体の産油量を抑制する結果となっている。この新政策の目的は,78年上半期までの原油の供給過剰を解消するOPECの生産調整の一環であるとともに,埋蔵量と比べて軽質油に過度に偏重したこれまでの生産パターンを是正することにあるものと見られる。また重質油の需要の伸びは,今後代替エネルギーの開発,先進国の産業構造の変化により低めにとどまるとの予想も,今回の政策を採る一つの動機になったと考えられる。なお,79年1月初もイラン原油の輸出停止に対応し月間1,000万バーレル/日を越える生産を行っていると見込まれるため,同国が79年の産油量の上限をどう扱うか注目される。
(3)物 価
75,76年には30%を越した消費者物価の上昇は,77年に前年比11.4%,78年4~6月期には前年同期比で逆に2.0%のマイナスと,統計の上では完全に鎮静化した(第9-17表)。78年1~3月期における前年同期比で物価の鎮静化傾向を費目別に追うと,77年1~3月期の前年同期比で13.5%上昇していた住居費が0.4%のマイナスとなったほか,食料が28.0%高から2.4%高と大幅に鈍化した。しかしこの背後には,やや強引ともいえる物価統制,生活必需品への価格補助等の政府の物価政策があり,完全にインフレ圧力が払拭されたと見るのは難しい。
(4)財 政
78/79年予算(78.6.6~79.5.26)は,歳出,歳入とも総額1300億サウジリャルと,歳出では前年の当初予算歳出1114億サウジリヤルを17.1%上回った。予算の性格としても,4年続いたインフレ抑制中心から一歩踏みだしたものとなっている。しかし一方では,歳出が当初案1450億サウジリヤルから最終的に150億サウジリヤル削減されており,インフレ再燃を懸念する政府の慎重な姿勢を窺うことができる。次に歳出面の概要を見ると,港湾,道路,空港,通信施設などのインフラストラクチャーの整備に全体の31.4%,教育,技術訓練などの人的資源の開発に12.1%と,引きはき工業開発を推進する上での各種のボ,トルネックの解消に一つの重点が置かれている。歳入面では1300億サウジリヤルのうち約90%の1151億サウジリヤルを石油収入が占めている。
(5)貿易・国際収支
77年の経常黒字は,128億ドルと76年の138億ドルからやや縮小した。特に輸入は経済開発の進行,個人所得の上昇に伴い,機械類,建設関連の資材,自動車などを中心に前年比で38.1%増と,輸出の13.0%増を上回るペースで増加している。また78年の貿易動向をサウジリヤル建ての統計で見ると(第9-18表),78年上半期に輸出は前年同期比で15.8%減となったのに対し,輸入(F.O.B)は28.5%増となり,輸出総額に対する輸入総額の比率は51.7と一時的に貿易黒字はかなり圧縮されたと見込まれる。
(1)概 観
ブラジルは世界の中で最も石油ショックの影響を強く受けた国の一つがあり,今なお,その後遺症に苦しんでいる。第10-1表のように73年秋の石油ショックを境に経済状況は,はっきりと悪化している。しかし政府が76年以降,緊縮経済政策をとりつづけたこともあって,77年にはインフレ,国際収支ともに前年より改善の方向があらわれ,78年に期待をつないだ。
ところが,年初から主要穀倉地帯を襲った大干ばつは,78年のブラジル経済の各方面へ少なからぬ影を落した。農産物収穫が減少したのはもちろん,農産物輸出所得が大幅に減少し,77年にようやく黒字化した貿易収支も再び赤字となり,経常収支の赤字幅も拡大した。また食料品の値上がりを引き起こし鎮静に向っていたインフレを再び悪化させた。
しかし反面,工業品生産活動は77年の緩慢な伸びから一転して活発となり,工業品の輸出も堅調を続け,農産物輸出減少の影響を薄めるのに役立った。こうして78年は従来,1次産品の国際価格や生産状況に大きく左右されていたブラジル経済が工業部門の成長により,その経済の腰を確実に強化していることを示した年であった。
また79年も減速経済政策が持続される見通しで5.0~5.5%の成長率が予想されている。
(2)生産動向
1977年の部門別生産(GDPベース)は第10-2表のとおりであるが,農業部門がコーヒー,大豆などの高収穫から前年比9.6%増と好調であったものの,工業部門では金融引締めや公共投資の大幅削減から前年比3.9%増と緩慢な伸びにとどまった。
78年の農業生産は南部穀倉地帯に5か月続いた大干ばつ(77年12月~78年5月)の影響で大きく低下するとみられる。被害の大きかったのは大豆,とうもろこし,米,綿花などあるが,1970年代になってコーヒーに次ぐ重要な輸出産品となった大豆の被害が最も大きく,収穫量は77年より28.3%減少し898万トンの見通しである。またコーヒー生産は8月に降霜があったものの78年産には大きな被害はなく前年比28.6%増の247万トンの収穫が見込まれている。しかしコーヒーの国際価格が77年4月に史上最高値をつけたあと下落を続けており,78年輸出所得は大きく減少するとみられ,実際1~6月の輸出額は10.9億ドルで前年同期の21.5億ドルから半減している。一方穀類生産はFAOの予測によれば,とうもろこしなどの雑穀が前年比27.4%減少,米が18.0%の減少とみられる,また小麦は前年が不振であったことから23.8%増の260万トンとなる見込みであるが,76年の収穫320万トンを末だ下回っており,小麦の輸入は今後もなお続くとみられる(77年の小麦輸入数量は268万トン,78年1~6月期の小麦輸入は197万トンと前年同期より32.8%増加している)。
一方工業生産は第10-3表のとおり77年が前年比2.3%増と緩慢な増加であったが,78年1~6月には前年同期比6.4%増と伸び率は高まった。もっとも77年も上期には同7.2%増と順調であったが下期には,インフレ抑制,貿易収支改善策としてとられた金融引締め,公共投資の大幅削減などの効果があらセれ,多くの産業で生産が減少し,年全体では2.3%増に止まったものである。また78年上期の生産の特徴は,すべての業種で生産増加がみられることであり,特に輸送機器は前年の不振から大幅に改善した。たとえば自動車生産は1~7月で前年同期比14.1%増加し,60万台余となり,12月中旬には100万台を突破したもようである(77年は92万台)。
(3)物価動向
ここ数年,ブラジルにとってインフレの抑制は最大の政策目標となっている。77年のインフレ率は年間上昇率38.8%と高水準ながら前年の同46.3%より幾分低く抑えられた(因にブラジルの物価は比較的落着いていた70年頃でも上昇率は20%前後に達していた)。しかし78年には年初の政府目標35%を上回る41%程度になりそうである。1~11月のインフレ率は38.7%で前年同期のそれを2.8ポイント上回っている。これは干ばつによる農産物の値上がりが最大の要因であり,1~7月間の卸売物価上昇率をみると食料品が36.5%高と前年同期の26.0%を10ポイントも上回っているのに対して,工業品は20.7%(前年同期22.8%),原材料は16.2%(同17.9%)で,いずれも前年同期の上昇率を下回っている。
こうした基礎品目にみられる物価上昇の再燃もあってサンパウロ地区を中心に軍事政権成立(1964年)以来禁止され,ほとんどみられなかった労働者のストライキが続発し,賃金の15~20%引き上げで妥結している。こうしたインフレ過熱気配に対して政府は6月21日,外資流入の急増がインフレを助長しているとして外国からの借款を30日間凍結(中銀に預託)し,クルゼイロへの転換を停止する金融引締め策を発表した。その後再三にわたりその凍結期間を延長し,8月には150日間に延長した。しかしインフレは一向に減速をみせないため,政府はこの期限切れとなる11月に緊急インフレ対策を発表した。これはブラジル銀行の融資大幅制限や外資凍結期間の実質的延長などで,金融引締めを一層強化したものとなっている。
(4)貿易・国際収支
1977年の貿易収支は輸出の好調,輸入の減少から7年ぶりに1.4億ドルの黒字を計上した(76年は約22億ドルの赤字)。輸出はコーヒー,大豆の国際価格が上半期に高騰したことや,工業品輸出が好調であったことから前年比19.9%増加し,輸入は国内景気の停滞や輸入抑制策から前年比2.8%減少した。
貿易外収支は利子支払い,利潤送金の増加から前年より5億ドル赤字幅が増え44億ドルの赤字となった。また債務償還も前年より12億ドルほど増えて41億ドルとなったが,貿易収支好転から借款,融資受け入れは前年より17億ドルほど少なく83億ドルであった。結局,総合収支は4億6千万ドルの黒字となり,77年末の外貨準備高は72億ドルに達し,国際収支は幾分改善した。
78年の貿易動向をみると,1~10月で輸出が前年同期比1.4%の微増,輸入が同11.2%増と大幅に増加し,貿易収支は再び7億8,400万ドルの赤字となった。輸入は干ばつ被害から穀物輸入が増加したこと,更に輸送機器や鉱物性燃料の輸入増加によるものである。輸出は工業品が輸送機器など機械類を中心に好調(1~6月で前年同期比31.4%増)であったが,コーヒー価格の低下,大豆収穫の不振から増加幅が小さかった。政府筋は78年の貿易収支は結局8億ドルの赤字になると見ている。
ところで,ブラジルの輸出構造は第10-2図のように年々工業品のウエイトが増大しているが,1次産品も77年時点で全輸出の6割強を占めており,ブラジル経済の1次産品依存度は依然大きい。第10-3図は最近4年間の輸出額と貿易収支を月率換算して示したものであるが,工業品輸出が順調に増加を続けている中で貿易収支の動向にコーヒー,大豆の増減がそのまま反映されているのを見ることが出来る。更にもう一点注目されるのは,干ばつの影響と工業品輸出増加の関係である。78年は大干ばつの影響で農産物輸出所得は前年に比べて15億ドル減少となり逆に輸入は5億ドル増加する(ベロゾ企画長官)と言われており,合計20億ドルの貿易収支マイナス要因となる。しかし工業品輸出の好調から全体としての貿易収支は前年より10億ドルの悪化にとどまる(ブラジル銀行)とみられており,工業品輸出が農産物の不振を補い,一次産品の不作や値下りによる悪影響を柔らげていることは注目される。
また年間40%前後のインフレ下にあって,こうした工業品輸出好調を持続させている一因に制度化されたクルゼイロの対米ドル為替レートの小刻み切下げ(クローリングペック方式)があると思われる。78年もクルゼイロは16回切下げられ,年初来の切下げ幅は30%に達している(77年は15回,27.7%)。
国際収支面では貿易収支の悪化に加え利子,利潤送金及び債務償還額(78年は47億ドル余り)が増加しているが大量の外貨流入から総合収支は黒字を計上するとみられている。78年の外国からの融資,借款,投資は約100億ドルになるとみられ,年末には対外債務残高は410億ドルに達したと言われる。
(5)経済見通し
79年3月に大統領に就任するフイゲイレド将軍はインフレ抑制のため,現在の減速経済政策を継続するとみられる。ロンドンE.I.U.の79年経済見通しによれば,農業生産が改善すること,旺盛な消費財需要に支えられて工業生産の増大が続くとみられることなどから経済成長率は78年とほぼ同じ5.0~5.5%になるとしている。またインフレ率はOPECの原油価格引上げ(年平均10%)が年初より実施されることから78年を更に上回るものとなりそうである。
(1)概 観
1978年のメキシコ経済は,ポルチーヨ内閣が政権に就いてから2年目を迎え,ようやく危機的状態を脱したと思われる。78年の経済成長率(実質GDP)は石油生産の好調を中心に,年初政府が目標とした5%にまで高まり(76年は1.7%,77年は3.2%),インフレ率も77年の年間上昇率20.7%から15%ほどに低下するとみられる(第10-4図)。しかし貿易収支は,輸入の増大から赤字幅が拡大し,22億ドル程度の赤字になるとみられる(77年は13.9億ドルの赤字)。
また76年9月にフロート制に移行(実質的な切下げ)した通貨ペソは77年春頃から1ドル=22.8ペソ程度で安定しており(フロート前は1ドル=12.5ペソ),企業活動の基盤が整ってきた。79年の経済は,インフレ,国際収支に不安材料が残るものの官民ともに投資活動がやや活発となり,成長率は7~8%に高まるものと予想されている。
(2)生産動向
最近の鉱工業生産は第10-5図のように77年第2四半期から製造業,石油産業を中心に活発化している。とりわけ,原油生産の急増ぶりは著しく,77年は前年比16.4%増,78年1~6月では前年同期比11.5%増と大幅な増加傾向を続けており,12月には日産150万バーレルに達している。メキシコは1938年に国際石油資本を国内から排し,石油産業の国有化を宣言した。その後石油生産は大きく低下したが,これが結果的には資源の温存につながった。そして73年秋の石油ショックを契機に大規模な石油開発投資が行なわれ,それ以降生産量は増大をつづけている。78年9月の大統領教書では,7月末時点でのメキシコ石油の確認埋蔵量は202億バーレル,推定埋蔵量は370億バーレル,潜在埋蔵量は2,000億バーレルと発表された。しかしその後も埋蔵量は拡大修正されており,PEMEXは78年末時点での確認埋蔵量は400億バーレル強と発表した。これでメキシコは世界第6位の産油国になった。セラノPEMEX総裁によれば,メキシコの石油開発6か年計画は予定より2年早く80年にほぼ達成され,生産量は225万バーレル/日となり,うち110万バーレル/日が輸出される予定である(78年12月の輸出量は48万バーレル/日)。工業化が離陸段階に達しているメキシコにとってこの石油収入をいかに国の発展に活用するかが今後の経済・社会発展の大切な鍵となろう。
また製造業の生産活動も輸出の好調,政府の重点投資の効果があらわれ,通貨の安定などもあって活発となり,78年1~3月期は前年同期比で6.4%増,4~6月期は9.8%増と増加している。1~5月でみて,業種別に増加率が高いのは,自動車(前年同期比49.2%増),トラック(同48.8%増),鉄鋼,ソフトドリンク,タイヤ・チューブ,石油製品などであり,逆に繊維(同2.0%減),肥料,被服などは不振であった。
農業生産をFAOの統計でみると,1977年は前年比6.3%増と,かなり改善した(76年は同3.5%減)。この要因としては①気象条件に恵まれたこと,②灌漑貯水量の増加,③作付面積の拡大,④農業金融の浸透などがあげられる。しかし小麦収穫は前年比26.5%減少し250万トンとなるなど穀類の収穫は不振で,依然相当量の食料輸入が続いている。一方78年の農業生産見通しはFAOによれば,穀物生産はやや増加するものの全体ではほぼ前年並みと予想されている。
(3)物価・賃金動向
1977年の消費者物価(全国)は,消費需要の減退や,賃上げが前年比10%増と低く目に抑えられたこと,通貨が安定したことなどから前年より幾分低下し,年間上昇率は20.7%(76年は27.2%)となった。
78年1~9月間の消費者物価上昇率(インフレ率)は12.6%で前年同期間の上昇率16.8%よりやや改善した。しかし,年間では15%程になると予測されており,政府の当初目標12%は達成不可能になった。少し遡ってみるとインフレ率は76年をピークに徐々に低下しているが,60年代後半から72年までが5%前後であったことからみれば依然高いインフレ状態にある。
(4)貿易・国際収支
1977年の貿易動向をみると,輸出面では石油・同製品が前年比64.4%と大幅に増加して9.2億ドルに,工業品も同16.8%増加して13.9億ドルとなり,農産物もコーヒー価格の高騰が寄与して16.3%増加し,輸出全体では前年比23.4%増の40.9億ドルとなった。一方輸入は投資の低迷,ペソ切下げ,輸入事前許可制などの輸入制限策から生産財を中心に減少し,前年比9%減の54.9億ドルとなった。但し四半期別に輸入動向をみると(第10-7表),77年1~3月期を底にその後は毎期増えつづけ,10~12月期には前年同期比15.2%増にまで回復しており,拡大傾向にある。しかし77年全体では輸出好調,輸入停滞から貿易収支は13.9億ドルの赤字となり,赤字幅は77年のほぼ半分に縮小した。貿易外収支は観光収入が増加したものの,国境取引収入の減少や資本収益赤字幅の増加から前年より赤字蝉が増加し,全体として約3.9億ドルの赤字となった。この結果,経常収支は前年より小さな17.8億ドルの赤字となった(76年は30.4億ドルの赤字)。
輸入の事前許可制は75年に輸入品のほぼ全品目について義務づけられ,国産化,輸入代替の促進,貿易収支赤字対策として実施されたが,結果的には国際競争力の弱い産業を生んだことから現政権は,国内産業を強化し,国際競争力をつけるため輸入自由化政策をとり,対象品目を徐々に増やしている。
また自由化された品目は関税によって国内産業とのバランスを考えることとしている。
78年に入ると,輸入自由化が一層促進され,7月現在で全輸入品目の6割弱が事前許可対象品目から外された。更に国内景気の立直りもあって78年上期の輸入額は大幅に増加した。すなわち1~3月期は前年同期比23.5%増,4~6月期は同26.8%増と拡大傾向が続いている。一方輸出は石油・同製品の好調が続き,1~6月で前年同期比13.6%増加し,24.1億ドルとなった。
しかし石油を除く商品では,前年同期と全く同額の17.1億ドルで伸びが見られなかった。これは,工業品が前年同期比14.2%増加し7.97億ドルとなったものの,農水産物がコーヒー収入の大幅減少などから,同27.0%減少したためである。こうして77年に縮小に向った貿易収支の赤字幅は再び拡大する傾向にある。
(5)経済見通し
76年末の経済混乱期に政権に就いたポルチーヨ大統領は任期6年間を2年ごとの3段階に分けて経済政策の目標を明示している。第1段階(77~78年)は危機の克服,第2段階(79~80年)は経済の安定,第3段階(81~82年)は経済成長の加速である。78年の大統領教書では,第1段階の目標はほぼ達成されたと自信のほどが示された。
79年の経済見通しについては,ロンドンE.I.U.によれば,政府のインフレ抑制重視政策から実質所得の伸びが期待できず,消費の伸びは3~4%と緩慢となるが,投資面では地方政府投資が実質で10%台の伸びを示し,民間投資もやや盛り上がり6~8%となる。貿易面では国内経済の回復から輸入の伸びが輸出の伸びを上回ると予想されるなど,全体として経済成長率は7~8%になるとみている。
1977年のソ連経済は,農業,運輸,建設と広汎にわたって生産計画が達成できず,予想外に不振であった。このため,支出国民所得成長率は,76年実績を1.5ポイント下回る3.5%と極めて低い伸びに止まり,計画の4.1%にも到達しなかった。この結果,成長計画が4年連続して未達成になるという異ば,この成長目標は達成される模様である。
しかし,「効率と質の改善」をスローガンとした第10次5か年計画(1976~80年)は,3か年を経過してすでに目標を大幅に下回る結果となっている。工業では,77年の生産高は前年比5.7%増と76年に比べて増勢が強まり,計画を僅かながら上回った。ただ,第10次5か年計画での工業生産増加率が年平均6.3%となっていたことからすると,伸び悩み傾向は否めない。78年の工業生産は,計画の4.5%を上回る前年比5%の増加が見込まれている。
農業では,77年の総生産高は前年比2.9%増と小幅な増産に止まり,年次計画目標(前年比5.1%増)は達成できなかった。78年も,穀物生産が前年比2割増の記録的豊作となったものの,畜産物生産が77年の急回復の後一服状態となっため,農業生産は前年比4.1%の増産が見込まれるに止まり,意欲的な水準に設定された計画目標には到達しなかった。ただ,農業生産は76年以降着実に増大してきており,農業重視の経済政策がようやく結実してきたと言える。このような状況下,78年央には,農業生産の一層の増大と農村生活の改善に向けた新農業政策が,党中央委員会総会において採択された。
民生面では,生活水準の向上が着実にはかられているものの,経済成長テンポの鈍化にともなって,所得の伸び率や消費の拡大テンポも鈍化を余儀なくされている。
対外面に目を転ずると,76,77年と好調に増大してきた輸出は,78年に入って目立って鈍化する一方,輸入は78年に入って増勢を強めている。これ指標の推移は,自由主義経済圏への輸出が78年に入って減少に転じる一方,77年に抑制されていた対先進工業国輸入が,再び増大に転じているためである。
79年計画は,ほとんどの主要経済指標が78年計画に比べて高い水準に設定された。第10次5か年計画目標に比べると依然低い目標水準に止まっているが,79年計画を達成することで,長らく続いた低迷状態からの脱出を意図しているものと考えられる。その中で,国民の消費生活の充実を目指して,従来に比べて大幅な消費財の増産を目指していることが79年計画の大きな特徴となっている。
77年の工業生産は,年次計画を僅かに上回る前年比5.7%の増加となった(第11-1表)。これは,電力,鉄鋼・非鉄金属,建設資材などの基幹工業部門が不振であったものの,76年に原材料の供給不足によって減産に追い込まれていた食品工業が目覚しい回復を示したほか,耐久消費財生産も比較的好調であったためである(第11-2表)。しかし,第10次5か年計画では年平均約6.3%の増産を計画していたことからすると決して高い増加率とは言えない。
また,労働力が増勢鈍化傾向にある中で,労働生産性の向上が生産拡大に果す役割は大きくなってきているが,77年の生産性の向上は前年比4.1%と計画の4.8%を下回った。
78年の工業生産計画は,食品工業の伸び悩みや労働生産性の向上テンポが77年実績をも下回ることが予想されたため,前年比4.5%増と76年に次ぐ低い増産計画となっていた。これに対して,実績見込みでは前年比5%の増産となり,年次計画目標は上回る模様である。しかし,77年実績に及ばず,工業の伸び悩みは依然続いているとみられる。
部門別生産動向を78年1~6月期の実績についてみると 第11-2表 のようになる。機械・金属加工,文化・生活・家庭用品工業が従来通り大幅な増産を達成している反面,鉄鋼・非鉄金属,建設資材工業が78年に入っても振わず,燃料採取工業の増勢鈍化も顕著となっている。また,77年に急速に回復した食品工業も78年に入って増産テンポは緩慢となっている。
78年の労働生産性の向上は,年次計画の3.8%を下回る前年比3.6%の上昇に止まることが見込まれ,第10次5か年計画に入って生産性の向上計画は一度も達成されないという困難な事態に到っている。
農業生産は,76年に前年比6.5%増となった後,77年も同2.9%の増加となった。さらに,78年は同4.1%の増産が見込まれており,これで3年連続して増産を達成することになる(第11-1表)。60年代末より不安定化していたソ連農業は,ようやく安定化の足掛りをつかみ始めたと言えよう。
77年の農業は,畜産部門が76年の減産状態から目覚しい回復を示したものの,穀物生産が目標を大幅に下回ったため,前年比2.9%の増産に止まり,年次計画目標(前年比5.1%増)は達成できなかった。
78年計画では,前年比6.8%増と77年よりさらに意欲的な目標設定が為されていたが,実績見込みでは同4.1%増とそれには及ばない模様である。耕種部門で穀物生産が前年比2割増の2億3,500万トンと記録的豊作となったものの,農業生産の55%(1971~75年実績)を占める畜産部門が,77年の急回復の後,一服状態となって伸び悩んだためである。
〈新農業政策〉
ところで,78年7月初の党中央委員会総会において,ブレジネフ書記長兼最高会議幹部会議長は,「農業の一層の発展について」と題する長文の報告を行った。これは,過去10有余年にわたるブレジネフ農政一農業部門への重亭投資によって農業9機械化・化学化を達成し,生産基盤の整備・強化をはかるという農業政策-の正当性を確認するとともに,ソ連農業が抱える欠陥や問題点を指摘することによって,農業生産の効率向上を目指そうとしたものである。またこの中で,生産拡大を促すために,農産物の国家買い上げ価格の引き上げ(79年1月より実施)やコルホーズ員の年金最低支給額の引き上げ等,各種の施策が講じられることが明らかにされた。
さらに注目号れるのは,第11茨5か年計画(1981~85年)の穀物および食肉生産目標が公表されていることである。穀物は年平均2億3,800万~2億4,300万トン,食肉(吉計画期末迄に1,950万トンの生産を達成するとしている。
労働状勢をみると,国民経済全体での労働者・職員数(コルホーズ農民は含まれない)は,77年に前年比2.1%増加した。当初の見通しが同1.8%増であったことからすると,かなりの増加であった。業種別にみると,サービス関係の増加率が相対的に高かった(第11-4表)。注目される工業部門の増加率は,前年比1.7%増と小幅な伸びに止まった。
78年1~6月期の労働者・職員数は前年同期比2.2-%増と77年の増加率を維持した。しかし,人口の動きからみて労働力の増勢鈍化は避けられず,このような傾向も一時的な現象とみられる。
77年の所得動向をみると,労働者・職員の月平均賃金は前年比2.7%増と76年より目立って鈍化したものの,計画を上回る増加となった(第11-1表)。また,コルホーズ農民の労働報酬(現物供与も含む)は,同4.3%増と順調な増加を示した。しかしながら,国民1人当りの実質所得(賃金・報償金,年金・扶助金・奨学金などの社会消費基金からの給付,個人副業経営収入,等)は,前年比3.5%増と計画の3.8%に僅かに及ばなかった。
78年も,労働者・職員の平均賃金は前年比3%増と計画を上回る増加が見込まれている。
消費面をみると,77年の小売売上高(国営・協同組合商業)は,前年比4.4%増と所得の伸びを上回る増加となったが,計画目標には到達しなかった(第11-1表)。ただ,77年初に行なわれた小売価格の改訂によって一部耐久消費財の価格が引き下げられた結果,それらの売れ行きが好調であったことは注目されよう(第11-5表)。
78年の小売売上高(公共給食事業を含む)は,前年比4.5%の増加が見込まれ,計画の3.9%を上回る増加となっている。
ところで,77年1月の小売価格の改訂(タクシー,航空運賃は4月実施)に続いて,78年3月にも同様の小売価格の改訂が実施された。白黒テレビ,冷蔵庫,合繊衣類の値下げが行なわれる一方,ガソリン,貴金属,コーヒーなどの価格が引き上げられた。生産コストの上昇や輸入価格の大幅上昇などによる財政負担の増大を軽減するため,消費者に応分の負担を求めた事例として注目されよう。
(1) 77年貿易:対先進工業国輸入の減少
77年の輸出は前年比18.7%増と76年に比べて増勢は強まった。他方,輸入は同4.7%増と76年よりも増勢は更に鈍化した。この結果,貿易収支は76年の7.4億ルーブル(10.1億ドル)の赤字から31.6億ルーブル(42.9億ドル)の大幅黒字に転化した。
77年の貿易で特徴的なことは,75,76年と続いた対西側先進国貿易での大幅不均衡が目覚しい改善を見せたことである(本文第I-5-4表参照)。
まず取引圏別に貿易動向をみると,ソ連貿易の6割を占める社会主義諸国との貿易では,輸出が前年比16.1%増,輸入は同13.7%増と輸出入ともに76年を上回る増加率となった。これを数量ベースでみると,75,76年と伸び悩んだ輸出数量は前年比8%増と目立って加速化する一方,輸入数量も同9%の増加となった。75年以降恒例化した取引価格の改訂にともなって,輸出入数量は伸び悩み傾向にあったが,77年は数量面でも順調な増加となった(第11-6表)。また価格面をみると,77年も輸出入価格は上昇を示したが,石油を中心としたエネルギー価格の上昇を反吟して,交易条件はソ連に有利化した。この結果,対社会主義国貿易収支の黒字は13.4億ルーブルから19.3億ルーブルに拡大した。
西側先進工業国との貿易では,輸出が前年比12.5%の増加を示したのに対して,輸入は同8.3%減と2目立って縮小した。輸入の減少は,資本財輸入の抑制や穀物輸入の減少に負うところが大きいと考えられる。この結果,対先進国貿易赤字は76年の29.9億ルーブル(39.7億ドル)から11.1億ルーブル(15.1億ドル)へと目立って縮小した。特に,77年7~12月期には,2J億ルーブルの黒字を記録した。
発展途上国との貿易では,輸出が前年比42.7%増と急速な拡大を示す一方,輸入は76年の減少を補う程度の増加に止まった。輸出の急増は,インド,イランなどの対途上国貿易で大きな比重を占める国への輸出が大幅に増加したことに加えて,アンゴラ,エチオピアなどへの輸出が対ソ関係の深化を反映して急伸したためである。
(2)78年貿易:対先進国貿易収支は再ひ悪化
78年1に9月期の貿易をみると,輸出は前年同期比7.5%増と77年向期の20.3%増に比べで増勢は目立って弱まった。他方,輸入は77年同期よりやや加速化して同10.0%増加となった。
取引圏別にみると,対社会主義国質易では,輸出が煎年同潮比16,1%増,輸入は同11.6%増と輸出入ともに順調な増加となった。
対先進工業国貿易では,輸出が剪年同期比2.1%減と停滞を示しているのに対して,輸入は穀物や資本財を中心に前年同期比11.4%増と再び増加テンポを高めている。このため,貿易収支赤字は77年1~9月期の11.7億ルーブル(15.8億ドル)から21.6億ルーブル(31.4億ドル)へと倍増した。
発展途上国との貿易では,輸出が前年同期比9.9%増と77年の急増の後も順調な増加となった。しかし,輸入は同2.8%減と停滞状態を示した。このため,貿易収支の黒字幅は,77年1~9月期の13.8億ルーブルから18.2億ルーブルへとさらに拡大した。
78年計画では,主要経済指標の伸び率が極めて低い水準に設定されていたのに対して,79年計画では,国民所得をはじめとしてほとんどの指標が78年計画よりも高目に設定された( 第11-1表 )。それでもなお,第10次5か年計画の目標水準に比べて依然低い計画内容となっている。計画当局はこの計画を達成することで長らく続いた経済不信からの脱却をはかろうとしているものと考えられる。
79年の国民所得成長率目標(支出ベース)は,前年比4.3%と78年計画のそれより僅かに引き上げられた。
工業生産は,前年比5.7%増と78年計画の同4.5%増に比べて目立って目標水準が引き上げられ,第10次5か年計画に入って最も高い増加計画となった。注目されるのは,生産財の伸びを前年比5.8%増に抑えるかたわら,消費財を同5.4%増と極めて高い水準に置き,両者の成長格差を是正していることである。このことは,工業生産の伸び悩み傾向が続く状況下でも,国民の高まる消費需要には承大限に答えて行かねばならないとする政府当局の強い決意の表われとして注目される。
工業生産拡大の大半を担うとされる労働生産性の向上は,前年比4.7%と過去のすう勢からみて高い水準に設定された。近年,労働生産性が計画を下回りながらも,労働力を過剰に投入することによって生産計画を超過達成するという無理な状態が続いているため,労働生産性の向上計画の達成が強く望まれている。
農業生産は,前年比5.8%増と大幅な増産計画となっている。穀物生産が記録的な豊作となった78年実績見込みが前年比4.1%増となっていることからしても,79年計画は意欲的内容と考えられる。そして,穀物生産目標は78年計画を700万トン上回る2億2,700万トンに置かれている。
建設投資面をみると,79年の総投資高(固定投資)は前年比4.5%増と78年計画に比べて大幅に引き上げられている(第11-1表)。国民経済の一層の均衡化を目指して,燃料採取,化学・石油化学,鉄鋼・非鉄金属,機械,軽工業,さらに鉄道運輸部門に投資が重点配分されることになっている。
所得面では,労働者・職員の平均賃金を前年比1,8%増と極めて低い増加率に抑える一方,コルホーズ員の労働報酬を同5.2%増と高目に設定して,都市と農村の所得格差を是正しようとしている(第11-1表)。国民1人当りの実質所得は,前年比3.3%増ど78年に続いてやや抑え気味の計画となっている。
これに対して,消費面では,小売売上高を前年比4.8%増とやや高目に計画するとともに,生活サービス供与高も同7.7%増と引き続き大幅な伸び率を予定して,消費生活の改善に意欲的に取り組んでいる。
対外面をみると,西側諸国との取引の見通しが不確定であるせいか,79年の貿易見通しは未公表となっているが,79年も社会主義諸国との貿易取引が他地域の伸びを上回るテンポで拡大するとみられる。
79年経済計画の成否は次期5か年計画(1981~85年)の内容にも大きな影響を与えるものと考えられ,ソ連経済は引き続ぎ正念場に立たされていると言える。
1976年9月に毛沢東主席逝去の後を埋めて,10月に華国鋒政権が成立し,77年7月に部小平副主席が職務復帰した後は,中国は従来の閉錯的な外交経済政策を改め,開放的な色彩を鮮明にしてきた。78年2月には日中間に長期貿易取決めを結び,同年4男にはEC・中国間に通商協定を結び,8月には日中平和条約が調印,されて両国間の経済的基盤が固められた。さらに78年12月央には,一般の予想を上回る早さで,米中間に79年1月1日に国交を正常化し,これにともない米国は米台相互防衛条約を廃来することを通告するという共同コミュニケを米中両国間で発表した。
以上のように71年10月に中国に国連復帰が決まった後,中国は西側先進国と政治・経済面で急テンポをもって相互関係を強めており,西側諸国との経済関係も一段と高まる情勢にある。
しかし,中国経済の分析に当たって,まとまった統計指標が公表されないため,計数的分析はきわめて困難である。もともと理論的に言って,経済的にサービス産業を重視しない国柄だから,マクロ経済概念としての国民所得概念は存在しても国民総生産概念は存在しない。これはソ連など他の社会主義諸国も同様である。しかも挙国的に臨戦体制をとっている中国では,経済指標は主要なものを断片的に発表,しても,1959年に「中国人民共和国,経済・文化統計」という比較的まとまった「国民経済統計集」を国家統計局から公表して以来,対外的考慮もあって建国以来29年間というもの,まったくと言ってよい程まとまった統計表を公表していない。そこでアメリカではCIAや国務省や商務省,農務省で,あるいは米議会では役所や大学教授等の専門家を動員して,1967年以来たん念に断片的な中国の公表数字を蒐集,整理,加工して「中国経済論文・統計資料集」を作成しているが,これとても重要品目の生産量あるいは対外貿易など特定の数字を除いては,過去29年間の傾向を判断し得ても,絶対値そのものを系統的に真正面から信頼するわけにはいかない。米議会上下両院合同経済委員会では,1967年,72年,75年,78年と過去4回にわたって,数百頁に及ぶ「中国経済報告書」を作成してきて,最近では1978年11月に「Chinese Econmy Post-Mao」という大著を発表した。中国側でも,アメリカ議会やCIA,あるいは国連,FAOなどから発表される「報告書」あるいは「経済統計数字」に対して,以前程の不信の念を抱かなくなったし,傾聴すべき資料は傾聴するという態度に変ってきている。それにはそれなりの理由がある。第1に米中関係は第2次大戦後,かつてみられなかった程の緊密な外交関係を保持するという関係に変様したし,第2に,アメリカの中国経済を分析する専門家も若返り,また分析態度も客観的に対処するという余裕が出てきたし,第3に,数千年の歴史をもつ中国では,文化的遺産は大きくても,経済的には発展途上国に属し,経済近代化のために中ソ対立以後西側先進国から多くを学び,設備・プラントを導入するという政策にかわってきている。第4に,経済数字については,中国は後進国だし,また日本の国土面積の26倍という960万平方キロの広域な面積を持つ中国では,中国自らが,最も基本的な人口推計ですら,食糧生産を取り扱う農村部の把掴している人口数と,食糧配給を取り扱い,人民登録数を取り扱っている民生部の把掴する人口数とが異なるという一見奇妙な事情(カイロ旅行中における李先念前財政部長の記者談話エピソード)もある。これにはそれなりの事情があって,死亡者の手続きを遅らせて,食糧を余分に配給してもらうという人民のインセンテイブが働いたり,地方に配属された大学新卒者が逃亡して流民になるといった不可抗力もある。とかく数字について,中国はある面ではおうような面もある。その反面対外貿易の価格交渉については,一円たりとも安く買い高く売るという,ことミクロ経済の利害関係に関する数字では強力にねばるという面もあって,一面的に中国人の心底を計ることはきわめて難しいという面もある。人口数については中国の文献であらわれてくる文面では,中国高官の談話として8億人と言ったり,9億人と言ったりきわめて大雑把だし,アメリカや国連の数字をみても,1977年の数字は9億8,300人(米議会資料)から,国連の8億6,568万人にいたるまで約1億人の開きがあるという大まかさである。大雑把な人口センサスは1953年に実施されて以来,現在にいたるまで実施されていない。
それでも那小平副総理が,「農業,工業,国防,科学技術」の四つの近代化を進める過程で,「国家統計局」の機構は徐々に整備してきており,すくなくとも対内的には,計画経済を遂行する必要性からも統計数字は整備されてきているようだ。とくにミクロの段階では,西側企業からのプラント導入に当たって,きわめて詳細な数字を企業や銀行等に提供していると言われているが,紳士協定の枠を守って絶対対外的に公表されることはない。
以下では中国公表の断片的なマクロ数字および,とくに最近入手したアメリカ議会上下両院合同経済委員会編“Chinese Economy Post-Mao”Nov.1978にもとづいて,77~78年の経済動向を概観することとする。
米議会資料によれば,77年の国民総生産を3,730億ドル(77年米ドル価格)としている。中国の公表した工業生産の伸びや,穀物,綿花,非食糧作物の生産費をベースにして計算されたものである。これでみると政情不安や河北でその水準が低すぎたせいもある(第1表および第1図参照)。しかし77年後半から78年前期にかけて工業生産は急激な伸びを示し,1~6月間の工業生産ば前年同期比24.6%の著増を示し(前月の増加率1.4%),従来の趨勢を上回る増産過程に入っている。近代化の指向にともなって,当然大規模企業による工業生産の伸びが著しく,78年の実績見込みは,粗銅生産3,100万トン(77年実績2,600万トン),原油生産1億トン以上(77年実績9.030万トン),石炭約6億トン(77年実績約5億トン)と著増している。しかし中国にとってアキレス鍵となっている食糧生産は,自然災害の影響と人口増で,政府当局のかなりな増産努力にもかかわらず停滞的であり,米議会資料でみても,人ロ一人当り食糧生産は1957年水準を現在も上回ることなく,配給制がとられている。78~79食糧年度(7月~6月)には,戦後最高の870万トンの小麦およびとうもろこしを輸入している(第1図および第4表参照)。しかし一方,香港,シンガポール等に対し高い輸出価格の米を輸出し,カナダ,オーストラリアメリカ等から相対的に割安な小麦,とうもろこし等を輸入するという操作を行なっており,かなりきめ細かな外貨節約面の考慮も払っている。
第1図 中国のGNP,農業生産,一人当り食糧生産,工業生産の推移
参考までに,中国がもっとも重視し,工業化や輸出増強にとってもっとも関連の深いエネルギー生産,主要機械生産,あるいは停滞的な穀物生産等を一表にして示し,そのなかで主要鉱産品と金属品の生産力の各国比較を別表に掲げておいた(第2表~第5表参照)。
産業政策のうえでも華国鋒体制に移行してから,とくに77年7月の三中全会で郁小平が副主席,副総理,解放軍総参謀長などの要職に復帰した後は,目を見張る程の急テンポで政策転換が推し進められた。経済面に限ってみて
も,産業政策のうえでは,①企業管理の重視(政治・行政権が直接介入した革命委員会を廃止し,純経済的に企業長の責任を重視する管理方式),②労働生産性の向上のための労働賃金の上向き改正(77年10月に全国甲に実施),③労働者の労働意欲向上のための,ノルマ達成奨勲給の復活④農業の近代化促進,⑤国営大規模企業と農村人民公社経営企業の協業化(農村の余剰労働力排出と農村蓄積の増大),⑥近代化実現のための教育改革,⑦技術習得のための技術者海外留学制度の新設等である。しかし以上の諸政策の実現には諸種の困難がともない,とくに工業と農業,知識労働者と肉体労働者,農民所得と工業労働者所得等の格差を広げる可能性がある。
77年以後の対外貿易政策は,産業政策にみられる以上により鮮明に部小平色を明確にしなが-ら展開され,78年に入ってからは閉鎖的な「四人組」当時の貿易政策はまったく影をひそめてしまった。その象徴的なあらわれとして,中国が中ソ借款の経緯から,これまで固く否定してきた借款受け入れについても,78年7月あたりから微妙に変化し,民間企業からの受け入れを認めるようになり,最近では国連開発計画(UNDP)に対し技術協力を要請し(約1億ドル),また国際機関だけではなく政府借款についても,日本の海外協力基金等について,これを導入する方向で検討を開始し始めたといわれる(78年末の日中政府混合委員会における中国側の発言)。また西側先進国との間に資源の共同開発(石炭,原油,非鉄金属など)方式の検討を進め,合弁事業についても検討を始めたといわれる。もちろん共同開発あるいは合弁事業の促進等については,中国の国内法の改訂,あるいは西側先進国の合弁にともなうリスク負担等の危濯もあって,その実現までには一定の期間を必要としようが,77年までの「四人組」支配当時の情勢にくらべると,まったく予狙を超える事柄であり,それだけに,①中国側の近代化に対する強烈な意慾,②中ソ対立のきびしさと長期化,③中国が当初予定した補償貿易(コンペンセーション・ディール=生産分与方式)に対する西側先進国の製品引取りに対する難色から,政府借款受け入れや合弁事業導入の検討など,急激な政策変化に踏み切ったことができる。中国の当面の関心は,変動する国際為替動向を背景に,如何かに有利に,また低利率で西側先進国から融資を受け入れるかである。4,000億円を上向るという上海率山製鉄所の日本からのプラント輸入についても,12月初旬,米ドル建てと円建ての折半で現金決済することが決められた。なお中国は昭和30年代の高成長下の日本経済における産業政策に重大な関心を向けている向きがあり,急スピードで近代化を進めるという中国側の政策路線を如実に示すものである。
産業界では,とくに装置産業の場合,中国では最新鋭のプラントを稼働させるソフト技術についての累積した経験と蓄積に乏しく,プラントが完成しても,果して円滑に稼働するかどうかという疑問を提示する向きもある。しかし一市般の発展途上国と違い,勤勉な良質の労働力が豊富であり,近代化に対する熱意も高いので一定の期間を与えれば,かなり高成長を遂げるものとみられている。
中国の対外貿易の動向をみると,今後の拡大は基本的に原油輸出の動向,あるいは,委託加工貿易方式の拡大.繊維品,機械類),あるいは前述のような借款受け入れの動向に大きく左右されるとみてよい。
中国の原油生産は78年に約1億トンを上回るとみられ,今後海底油田の開興にともなって将来性が期待されており,また内陸でも大慶油田の規模拡大のほか,勝利油田,大港油田,華北油田(任邸油田),南新彊油田(仮称)等の開発が促進されている(任邸油田および南新彊油田は78年に新たに開発)。しかし中国産原油の性状は重質油で凝固点が高く,品質の割には割高という輸出価格の面もあって,この解決にも一定の期間を必要とする。また国内の近代化にともなって,国内の石油需要も国防需要は別としても,一石油化学の増設,大規模銑鋼一貫工場の新設,農業の機械化等に応じて増大する傾向にある。石油開発に関する日本,アメリカ,ノルウェー等西側先進国との共同開発にともなう諸問題,原油輸出にともなう性状,輸出価格のほかに国内需給調整等には今後なお多くの変遷があろう(第6表参照)。
外貨取得のためには,西側先進国からの民間・政府借款の受け入れのほか,香港から華僑送金,事業利潤の受け入れ,観光収入の増加など,きめ細かな対策も積極的に講じており,78年10月には,在香港の中共系13銀行の人民元建予金利子率を0.75~1%引き上げた。香港系や外国系銀行の予金利子率に比べて約1%の高利率で利子課税の負担も免れるという利点がある。
また輸出の拡大にも努めており,78年1~8月間の貿易は,前年同期に比べて輸出29.8%増,輸入59.2%増で1~12月の貿易緋徊は前年比39%増となった(輸出28.6%増,輸入50%増)。日中貿易も78年に入って急増し,ドル建名目値で1~9月間に日本の輸出19.9億ドル,日本の輸入14.1億ドルとなり,輸出入合計でみて,すでに前年年間の39.4億ドルとほぼ同規模の34.1億ドルとなっている(第7表参照)。さらにプラント契約の出蒋が始まる79年以降には大幅に増大する状勢にある。
主要輸出相手地域としては,74~76年平均でみて,西側先進国が37%,発展途上国が44%(うち香港17%)で,共産圏諸国はわずかに19%を占めるに過ぎない(第2図参照)。一方主要輸入相手地域は,74~76年平均で,西側先進国が72%,発展塗上国が13%,共産圏諸国が15%となっており(第3図参照)。西側先進国の比重が圧倒的に大きい。なお77年の主要貿易相手国は日本が最大の相手国であり,次いで香港(輸出のみが大きく,輸入はきわめて少ない),西ドイツ,ルーマニア,オーストラリア,カナダ,アメリカ等である(第9表参照)。今後は78年2月に調印された日中長期民間貿易取決め(期間78~85,輸出入規模400億ドル前後,さらに期間を90年まで5年延長して取引き規模を3倍に拡大するという方向で,政府間で合意し検討が進められている)。また78年4月にはECとの間に貿易協定が調印され,78年12月にはフランス・中国間で借款協定が調印された(期間10年,借款規模300億フラン,金利6.5%)。あるいは米国からの穀物,綿花など農産品の輸入再開,資源開発のための共同開発案等も進められているところから,西側先進国との貿易はかなり大幅に増大する可能性がある。しかしこの場合でも主要商品の輸出入動向は,74~76年平均でみて第4図および第5図に表示されるとおりである。
輸出商品としては農産品38%,原油9%,工業製品(繊維および衣類20%,軽機械類4%となっており,有望商品としては前述のように原油,繊維品,耐久消費財等である。輸入商品としては食料品15%,資本財27%(機械16%,輸送機械11%),その他工業品57%-(繊維原料8%,鉄銅をふくむ金属29%),となっており,今後農業生産の拡大によって,極力食料品輸入を減少させ,資本財(プランド・機械類)を増大させるような産業貿易政策がとられるであろう。そのためにも外貨保有高に制約のある中国では,従来の閉鎖的な対外貿易政策の基本原則を放棄してまでも,西側先進国との合弁事業にまでも踏み切ろうとしているが,基本的には中国産原油の増産と輸出拡大が最大のきめ手とならう。
77年秋以降軟化したドルは,78年に入っても10月まで大勢として一貫して下落傾向を続ける一方,円,マルクなど黒字国通貨は大幅に上昇し,ポンド,フランス・フラン,リラなどもドルに対してかなりの上昇を示した。
(1)ドルの大幅下落
アメリカの経常収支の大幅赤字を背景に77年9月末以後軟化したドルは,米政府当局者の相次ぐドル防衛発言にも拘らず下落傾向を続け,12月には円高の一服感からマルク買い投機が再燃した。このため西ドイツ政府は12月中旬公定歩合の引下げおよび外資流入規制措置を発表したが,これはほとんど効果をあげるに至らず,12月末から78年初にかけてドルは全面安に陥った。
こうした情勢に対処して,アメリカは78年1月4日,財務省と西ドイツ連銀との新スワップ協定締結などの市場介入政策を発表,ついで公定歩合を引上げた。その後も,アメリカは3月に米独連銀間のスワップ枠拡大(20→40億ドル),4月に財務省保有金売却計画発表(5月より6か月間,月々30万オンス),相次ぐ公定歩合の引上げなどのドル防衛措置を実施した。しかし,これらの措置はドルに対して束の間の小康を与えただけで,その後も経常収支の大幅赤字の継続やインフレの加速などを背景にドルは大勢として下落傾向を続け,7月下旬から8月にかけては,OPEC専門家委員会が石油価格を従来のドル建てから通貨バスケット方式へ移行させることでほぼ合意したと伝えられたことなどから大きく軟化した。こうした情勢からカーター大統領は,8月中旬あらゆるドル防衛策の検討を指示し,その後公定歩合の引上げ,財務省保有金売却量の拡大(従来の月々30万オンスを11月以後75万オンスヘ),連銀加盟行の対外借入れ準備率の撤廃などの具体策が相次いで発表された。しかし,その後もドルの地合は好転せず,10月にはエネルギー法案の成立,新インフレ対策の発表といったドル支援材料があったが,これらも全く評価されずむしろ対策が出尽したとの見方から再び全面安となり,1ドル=180円,1.8マルクを割り込み,他の主要通貨に対しても大幅に下落した。この結果,年初来10月までの間のドルの実効切下げ率(ロイター・カレンシー・インデッグスによる)は21%にも達した。
(2)アメリカの強力なドル防衛策発表
こうしたドルの全面安に対処して,アメリカ当局は,11月1日,公定歩合の大幅引上げを含む強力なドル防衛策を発表した。すなわち,(1)公定歩合を8.5から9.5%へ1%引上げると同時に,一口10万ドル以上の定期預金に対する準備率を2%引上げる(2)300億ドル相当の介入資金を調達し,為替市場に対して強力かつ協調的介入を実施する。資金調達の手段は①30億ドル相当のIMFリプーブ・トランシュの引き出し②20億ドル相当のSDRの売却③日本,西ドイツ,スイスの中央銀行との間のスワップを現行の74億ドルから150億ドルヘの拡大④100億ドル相当の外貨建て証券の発行による。(3)財務省保有金売却量を月間75万オンスから12月以降少くとも150万オンスヘ拡大する。これを受けてドルは11月中に円,マルクに対して10%強上昇したほか,ポンドやフランス・フランに対しても大幅に値上りした。
(3)主要欧州通貨の堅調
一方,78年の主要欧州通貨は,ドルの軟化傾向が続いたこともあって総じて堅調に推移した。マルクは経常収支の黒字と-物価の安定を背景に,77年9月末の1ドル=2.3045マルクから77年末には2.1075マルクヘ9.3%上昇し,さらに78年に入ってからも上昇を続け,10月末には1.7293マルクへとさらに21.9%も上昇した。また,10月中旬には,欧州通貨制度(EMS)発足前にマルク切上げは不可避との思惑からマルクへの買い圧力が高まったため,E C共同フロートの介入点調整が行なわれ,マルクはデンマークおよびノルウェー両クローネに対し4%,ベネルックス通貨に対して2%切上げられた。その後マルクは11月初のアメリカのドル防衛策発表により反落し,11月末現在1.92マルク台となっている。フランス・フランは3月の総選挙における左翼連合進出への懸念から2月初に急落し,一時1ドル=4,92フラン台の安値をつけたが,その後政府の下落阻止対策などから待ち直し,総選挙後は与党連合の勝利に終わったことなどからほぼ堅調に推移した。ポンドは,年初に1ポンド=1.96ドルの高値をつけたあと高値警戒感などから軟弱地合となり,4月には大型予算の発表によるインフレ懸念などから1.81ドルまで低落した。しかし,その後はかなり持ち直し,10月下旬には76年3月以来はじめて2ドル台を回復した。また,リラも総じて堅調に推移した。
(1)経 緯
前述のようなドルとの低落傾向を背景に,ECでは欧州通貨の安定を目標とする欧州通貨制度(EMS)創設構想が急速に具体化し,78年12月の欧州理事会でEMSの創設が正式に決定された。これにより,ECは発足以来の旗印となっていた通貨統合へ向けて新たな一歩を踏み出すことになった。
ドルの大幅下落を背景に,77年秋以降ECでは,通貨安定圏形成に関する討議が活発化していたが,78年4-月の欧州理事会(EC首脳会議),6月のシュミット西独首相,ジスカールデスタン仏大統領の会談を経て安定的通貨体制の創設構想が次第に具体化し,7月のブレーメンにおけるEC首脳会議で欧州通貨制度(EMS)設立につき基本的合意が成立した。EMS設立に関するブレーメン合意の概要は以下の通りである。
①欧州・通貨単位(ECU)を同制度の中心に置き,特に通貨当局相互間の決済手段として用いる。ECUの最初の供給は,各加盟国が金と米ドル(例えば,加盟各国の外貨準備高の20%)及びこれと同額の自国通貨を預託することを見合に行なわれる。
②EMSにおける為替レート管理は,少くとも現行EC共同フロート制(変動幅上下2.25%以内)と同程度の厳格さをもつものとする。但し,現行EC共同フロート(スネーク)不参加国には,過渡的措置として若干広い変動幅が認められることもある。
③ECと密接な経済関係にある非加盟国も本制度への参加が認められる。
④中心レートの変更には加盟国相互の同意が必要とされる。
⑤EMSの中核となる機構として欧州通貨基金(EMF)を設立する。
⑥現行スネークはそのまま存続する。
その後,ブレ-メンでの合意に沿って,EC蔵相理事会や独仏首脳会談(アーヘン)など一連の二国間首脳会議でEMSの問題点が討議された。この過程で最も意見の対立を呼んだのは,パリティ・グリッド方式(各国通貨相互間の中心レートを基準に変動幅を定める現行スネーク方式)と通貨バスケット方式(各国通貨のバスケットによるECUを基準にして変動幅を定める方式)をめぐる価値基準の選定問題である。スネーク参加国(独,蘭,ベルギー,ルクセンブルグ,デンマーク)はパリティ・グリッド方式を主張し,その他の国(英,仏,伊)は通貨バスケット方式が良いとしたが,妥協案として出されたべルギー案(パリティ・グリッド方式を用いるが,同時に介入の際の参考指標としてバスケット方式も平行して用いる)がイギリス(留保)を除いて概ね支持された。
その後,EMSは,11月下旬のEC蔵相理事会で最後の詰めが行なわれたあと,12月4日,5日の欧州理事会で79年1月1日より正式に発足することが決定された。参加国は,イギリスが当面参加を見送ったためEC加盟8か国で,ノルウェーは,EMSへの不参加を決定すると同時に,EC共同フロートから離脱した。
(2)制度の概要
EMSの創設及び関連事項に関する12月5日の欧州理事会決議によるEM Sの概要は以下の通りである。
①EMSは1979年1月1日に創設される。
②同制度は,ブレーメン欧州理事会で発表されたように,欧州通貨基金の創設並びにECUの準備資産および決済手段としての全面使用を伴うものである。
③ECUはEMSの中心であり,その価値および構成は本制度発足当初はEUA(欧州計算単位)と同じである。
④ECUは,(a)域内為替レート・メカニズムの表示単位,(b)特定通貨の乗離の度合を計る指標,(c)介入および信用メカニズムの表示単位,(d)EC通貨当局間の決済手段として使用される。
⑤各通貨はECUに対して中心レートを設定する。これらの中心レートは,各通貨相互間の基準固定レート(パリティ・グリッド),を設定するために使用される。また,これらの基準レートに対して上下2.25%の許容変動幅が設定される。現在,EC共同フロートに参加していないEC諸国は,EMS発足当初は上下6%までの広い幅を選択できるが,この変動幅は経済的条件が許し次第,徐々に縮小されねばならない。
⑥市場介入は原則として参加国の通貨で行なう。
⑦ECUバスケットは,EC通貨間の乖離の度合を計る指標として使われる。各通貨について最大乖離幅の75%に達した場合には,次のような措置がとられるものとする。(a)各種介入,(b)国内通貨政策措置,(c)中心レートの変更,(d)その他の経済政策措置,特別の事情で,そのような措置がとられない場合には,その理由を特に“中央銀行間の協議”により,,他の当局に示さねばならない。必要があれば,閣僚理事会を含む適当な共同体機関において協議が行われる。
⑧発足当初のECUの供給は,現在中央銀行が保有する金及びドル準備の20%の預託に対して欧州通貨協力基金(FECOM)により行われる。
⑨EMSの初期の段階では,信用メカニズムが現行の申請ルールのままで維持され,EMSの最終段階で単一の基金に統合される。信用供与枠は250億ECUまで拡大され,その配分は短期通貨支援=140億ECU,中期金融援助110億ECUとする。
⑩ECと特に強い経済的,金融的結びつきを有する欧州諸国は,為替レ-ト及び介入メカニズムに参加することができる。
⑪EMSは,現在及び将来ともIMF協定の関連事項と完全に両立するものである。
以上のように,EMSの従来のスネークとの最大の相異点は,ECUを同制度の中心に置き決済並びに準備通貨として使用することおよびEMFを創設することにある。
(3)問題点と影響
ドル相場の激しい変動は,欧州諸国の通貨の安定及び貿易関係に悪影響を及ぼしてきた。その意味において,EMSの設立は欧州にとって好ましいことであり,一方,欧州通貨が安定すればドルの安定にも貢献するであろう。また,EMSが円滑に機能するためには加盟各国の経済政策運営面での規律(discipline)の確立とくに通貨政策面での協調が不可欠であり,これを通じてEC各国のインフレ抑制への努力が一段を促進されることが期待される。EMSが成功すればこの実験を基礎に新しい国際通貨体制への展望が開けると期待もある。しかし,EMSにはいくつかの問題点が含まれていることも事実である。例えば,現行EC共同フロート参加国と非参加国(仏,英,伊)との間にみられる物価上昇率の大きな格差を考えると,同制度が長期にわたり広汎,円滑に運営されるためには,関係国の少なからぬ努力が必要とされよう。また,ECUは,単なるニュメレール(価値基準)として使われるだけでなく,決済手段,準備通貨としても使われる。いわば,IMFにおけるSDRのような役割を果すことになるとみられる。資金規模も,I MFの390億ドル(78年10月末現在)に対して,EMFは約330億ドルとほぼIMFに匹敵する規模をもつことになる。前記のEMS創設決議のなかでは,IMFとの共存をうたっているが,実際に,IMF体制とどう調和させていくかが,将来大きな問題となろう。さらに,EMSが,金の時価評価,ECUの準備資産化を通じてドル離れを促す側面をもっていること,EMSの成立により欧州経済のブロック化が一段と促進されることへの懸念も強い。仮に,欧州通貨の安定が実現した場合,円の孤立化といった問題もでてこよう。
このように,EMSは,当面の国際通貨安定に大きく貢献することが期待される一方,将来の国際通貨体制へ与える影響も大きく,今後の動向が注目される。