昭和52年

年次世界経済報告

停滞の克服と新しい国際分業を目指して

昭和52年11月29日

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

I 1976~77年の主要国経済

第1章 アメリカ

1. 概  観

75年春の景気の底入れ以後,すでに3年を経過しようとしているが,アメリカ経済は依然として拡大基調がつづいている。

76~77年の実質GNPの動きをみると76年10~12月期に増勢が大きく鈍化したあと,年初の異常寒波の影響にもかかわらず77年に入り再び増加テンポの著しい加速がみられた。その後,7~9月期には年前半にくらべ増加テンポは鈍化したが,年末に至って再び増勢がたかまる気配がみられる。77年のアメリカ経済は前半の好調,後半の増勢テンポ鈍化と76年とほぼ同じパターンをたどったが全体として拡大基調をつづけ,77年の実質GNPの伸びも政府目標の5.1%に近い伸びに達するものとみられる。

以上のような実体経済の動きに対応して,雇用状勢も76年末から77年前半にかけて大きな改善がみられたが,77年後半に入って改善傾向も一服気味となった。

物価は年初,異常寒波の影響から卸売物価が急騰し,インフレ再燃が懸念されたが,異常寒波の終束とともに農産物の下落を主因に77年中はほぼ落ちついた動きを示した。

一方,内外景気のスレ違い,石油輸入の急増加などから77年に入り貿易収支の赤字幅の拡大がみられた。貿易収支の赤字基調は77年をとおしてみられ,政府筋では年間で300億ドルに達するものとみている。

こうしたなかで77年8月,10月と2回にわたって公定歩合の引き上げが実施されたが,4月以降急増するマネーサプライの抑制を目指したものとみられる。

2. 需要動向

(回復過程の特徴)

75年1~3月期に景気が底入れして以来,77年7~9月期ですでに2年3四半期になるが,実質GNPでみたアメリカの経済活動は,依然拡大基調が持続している。以下では主として76~77年のGNP需要項目の動きについて概観するが,そのまえに今回の景気回復過程(75年第1四半期~77年第3四半期)での各需要項目の特徴をみてみよう。

今回の景気回復過程での特徴は,まず第1に全体としての実質GNPの動きが,過去の景気回復局面とくらべて遜色のない伸びを示したことである。第1-1図は,景気の底を100とした場合の前回(70年10~12月期-72年4~6月期),前々回 (61年1~3月期-63年7~9月期)の実質GNPおよび主要な需要項目(72年価格)の推移をみたものであるが,実質GNPは今回は回復後9四半期目で114.8と前回の114.7と大差はないが,前々回の113.2を凌駕している。

第1-1図 回復過程の需要項目の動き

第2に今回の回復を大きくリードしたのはGNPの6割強を占める個人消費支出であった。

個人消費支出は景気の底入れに先がけて,上昇に転じて以来一貫して増加をつづけ,過去の回復局面にくらべても同程度の伸びを示した。ただ77年に入ってからは後にみるように,増勢テンポに鈍化がみられた。個人消費に次いで回復のリード役となったのは住宅投資である。住宅投資は76年まではほぼ前回程度の伸びであったが,76年後半から77年にかけて急増を示し,前回,前々回を大さく上回る増加となった。これに対して非住宅固定投資は今回の回復過程ではさえない動きを示した。非住宅固定投資はこれまでの回復過程にくらべ上昇のタイミングが大きく出遅れた。

以上のように従来にくらべ設備投資の盛り上がりに欠けたが,これを住宅投資が補い,さらに個人消費が従来と同程度の伸びを示したことが今回の需要項目の動きの特徴であった。

(76~77年の需要動向)

次に76~77年の需要動向についてみてみよう。76年の実質GNPの伸びは前年比6.O%となったが,四半期別には年初の好調な伸びから,次第に増勢は鈍化して76年10~12月期には前期比(季調済,年率以下同じ)1.2%増といわゆる中だるみの様相を呈した。中だるみの主因は在庫投資の減少にあったが,77年に入ると一転して,再び増勢テンポが著しく増加し,実質GNPは77年1~3月期の前期比7.5%,第2四半期6.2%増と好調な伸びを示した(第1-1表)。77年に入っての増加の主因は在庫投資が大幅増加に転じたことに加え,個人消費,非住宅投資が堅調な伸びを示したためである(第1-2表)。しかし7~9月期に入り住宅投資は減少したものの,政府支出が堅調な伸びをみせるなど各需要項目ともバランスのとれrこ伸びを示したため,上半期の6~7%にくらべ4.7%増と幾分おだやかな伸びとなった。主要な需要項自についての77年の動きは以下のとおりである。

第1-1表 実質GNPの動き

第1-2表 GNP項目別増加寄与率

(個人消費)

個人消費は77年1~3月期まで一貫して堅調な伸びをつづけ,回復のリード役を果たした。すなわち実質個人消費支出は76年前年比6.O%の増加のあと,77年1~3月期前期比5.3%増と好調な増加を示した。その後4~6月期1.6%増,第3四半期2.0%増とそれまでの堅調な伸びにくらべ増勢テンポは鈍化した。消費支出の動向を左右する実質個人可処分所得の伸びは名目所得の,増加に加え,物価上昇テンポが鈍化したことなどから,77年7~9月期まで一貫して堅調な伸びを示したことからみて,77年第2四半期以降の消費の伸びの鈍化は貯蓄性向が再びノーマルな水準に上昇しrこことによるところが大きかったとみられる(第1-2図)。事実,貯蓄性向は75年4~6月期の9.4%をピークに低下し,77年1~3月期まで4.1%とかつてない低水準に達したあと,再び上昇に転じ77年7~9月期には5.6%となっている。

消費支出の内訳をみると,77年1~3月期まで好調な伸びを示していた耐久消費財が,  4~6月期以降停滞していることが目立っている。耐久消費財は77年1~3月期,前期比4.7%増のあと4~6月期0.7%増,7~9月期1.0%の減少となっている。これに対して非耐久消費財は1~3月期以降前期比061%の低い伸びとなっているほか,サービス支出は1~3月期1.1%増,4~6月期0.7%増,7~9月期1.4%増と比較的堅調に推移した。

名目小売売上げの伸びも77年4~6月期以降停滞し,第3四半期は前期比0.1%の減少となったが,10月には前月比1.8%の増加となり,再び盛り上がる気配がみられる。

第1-2図 個人消費支出の推移

(設備投資)

非住宅固定投資は今回の回復局面において,景気の底から数えて第4四半期目に初めて上昇に転じたほか,回復テンポもはかばかしくなく,景気の底から9四半期目で上昇率は前々回の16.6%増,前回の22.8%増にくらべ,今回は9.5%増と弱いものとなっている。このように非住宅固定投資の盛り上がり感に欠けるのが,今回の回復過程の一つの特徴であった。76年全体では前年比3.6%の増加となったが,これには77年10~12月期のフォード自動車ストの影響によるところが大きく,10~12月期(前期比1.6%)を除く稼働率の上昇に対応して8~9%の堅調な伸びを示し,77年に入っても1~3月期19.3%増と好調な伸びがみられた。しかし,その後4~6月期7.0%増,7~9月期2.4%増と増勢テンポは鈍化している。商務省の10~11月実施の投資予測調査によると,本年は名目13.7%,実質8%の伸びになるものと予想されている。

第1-3図 設備投資の動向

(住宅投資)

すでにみたように住宅投資は77年第2四半期以降上昇に転じて以来, 一貫して力強い上昇をつづけ,今回の回復過程でのリード役の1つとなった。住宅投資(実質)は,76年前年比22.9%の大幅増加を示したあと,77年に入って異常寒波の影響から1~3月期5.7%の増加となったが,4~6月期は42.7%の著増となった。その後第3四半期は0.8%の減少となったが,住宅着工件数の動きなどからみて,前年比3~4割の高水率の伸ぴがつづいているとみられる。今後の住宅建築の動きについては,77年のような著しい増加テンポは期待できないものの,78年についても年率180~190万戸の高水準がつづくものとみられている(連邦住宅貸付銀行理事)。

(在庫投資)

76年末に軽微な在庫調整が行なわれたあと,77年に入り旺盛な最終需要の動きに支えられて再び活発な在庫積み増しがおこり,77年上半期におけるG NP著増の主因となった。

第1-4図 在庫率の動き

すなわち実質在庫投資は76年第4四半期18億ドルのマイナスとなったあと,77年1~3月期には97億ドルとプラスに転じ,第2四半期も132億ドルと順調な増加をつづけたあと7~9月期は154億ドルに達した。この間の動きを事業在庫率(在庫残高/売上高)との関連でみると,75年初の1.69をピークに一貫して下落をつづけたあと,76年10月に売上げの不振から在庫率のおだやかな上昇がみられ,76年末の在庫調整の主囚になったことを示している。その後77年3月まで低下したあと4月以降ゆるやかながら上昇に転じた。事業在庫率の水準自体は1.46前後でそれ程高くないものの,小売業での在庫率の上昇が目立ち,77年夏の中だるみは主として小売段階での在庫調整が主因であったことを示している。その後10月に入り小売売上げが再び活発化する傾向にあることを考えると,小売段階での在庫率も低下に転じるのではないかと考えられる。

3. 生産・雇用

(鉱工業生産)

鉱工業生産も需要の動きを反映して76年夏から秋にかけては鈍化したが,76年全体では前年比10.2%の増加を示した。四半期別には76年9月から始まったフォード自動車ストの影響で,10~12月期は前期の1.2%増から0.5%増へと増加テンポの鈍化がみられた。77年に入って異常寒波の影響から1月0.5%の減少となったが,その後増勢をとりもどし,  1~3月期1.5%増と再び盛りかえしたあと4~6月期は2.5%増と拡大基調が持続した。7~9月期は先にみた在庫調整から増加テンポは前期比1.2%増へと鈍化した。77年の動きを期別にみると,上期の生産増加の主因は企業設備関連製品の増加にあったとみられる。企業設備関連財は77年1~3月期前期比2.6%増,4~6月期3.6%増の大幅増加のあと7~9月期は1.7%の増加にとどまった。加えて消費財も77年中堅調な増加基調をつづけたが,とりわけ自動車を中心とする耐久消費財の増加が大きかった。

第1-3表 鉱工業生産の動き

(雇   用)

生産の増大テンポに対応して76年末から77年初にかけて雇用状勢は著しい改善を示した。就業者数の動きでみると76年9月,10月と2ヵ月連続して減少したあと11月から増加に転じ,10月から76年末までの2ヵ月間に703千人の増加をみた。その後77年に入っても,異常寒波のあった1月を除いて実体経済の活発さを反映して好調な増加を示し,3月末までには76年末にくらべ,さらに1,034千人の大幅増加となった。4~6月期も好調を持続し,さらに1,204千人と1~3月期を上回る伸びとなった。しかし,7~9月期に入ると増加テンポは鈍り,416干人の増加にとどまった。

7~9月期の雇用状態の改善の一服は,失業率の下げどまりという形であらわれている。失業率は76年8月に8,0%と年内のピークに高まったあと低下に転じ,77年5月には7%を切り6.9%となった。しかしその後は7%前後で推移しており,下げどまり傾向がみられる。

77年のグループ別の失業率の特徴をみると,まず白人については,76年11月の7.3%から一貫して低下を示し,77年7~9月期には6.1%と1%ポイントを上回る低下となった。これに対して有色人種についてば,76年末から77年にかけて目立った改善をみせておらず,逆に77年8月には14.5%と76年末の13.5%前後にくらべ大幅に悪化したことが目立っている。男女別には男子の失業率が76年末の6.2%から77年9月には46 9%と5%前後まで低下したのに対し,女子については76年末の7.4%から77年7~9月期には7%前後と目立った改善はみられなかった。

4. 物  価

76年は消費者物価,卸売物価ともに前年にくらべ落ちついた動きとなった。77年に入っての動きの特徴としては,年初農産物の急騰を主因に卸売物価が急騰を示し,インフレ再燃が懸念されたことである。76年工0~12月期に月平均上昇率0.6%前後で推移したあと,卸売物価は2月から4月まで月率約1%の急騰がみられた。急騰の主因は農産物価格の上昇であった。農産物価格は76年12月から急騰を示していたが,異常寒波の影響もあって,生鮮野菜や果物などを中心に2~4月に月平均で2.7%の大幅上昇を記録した。

一方,工業品価格はこの間,月率0.6%前後で比較的落ちついた動きを示した。年初の急騰にくらべ6月に入ると一転して卸売物価は下落に転じ,6月,前月比0.9%,  7月,同0.1%と2ヵ月連続して下落した。異常寒波の影響の終束とともに農産物価格が5月以降大幅な下落をみせたことが主因であった。また加工食品・飼料も6月以降9月まで下落を示したため,6~9月の卸売物価はきわめておちついた動きとなった。その後10月に入り再び農産物価格の反発からややたかまりがみられる。

一方,消費者物価についても,年初月平均で0.8%と76年7~9月期の0.3%にくらべ大幅な上昇がみられた。急騰の主因は食料品価格の上昇であった。しかし,7月以後は食料品価格が落ちつくにしたがって,前月比0.3%前後とおちついた動きとなった。

第1-4表 卸売物価上昇率

第1-5表 消費者物価上昇率

5. 貿易・経常収支

貿易収支は76年57.2億ドルの赤字を計上したあと,77年に入るとさらに赤字幅を拡大させ,77年1~10月で224億ドルの大幅赤字を記録するに至った。経常収支も貿易収支の大幅赤字から77年に入って大幅赤字となり,76年の14.3億ドルの赤字にくらべ77年上期だけで87.6億ドルの赤字となった。

(貿易収支)

貿易収支(FAS)ベースは,76年10~12月期の25億ドルの赤,字から77年1~3月期には59.3億ドルの赤字へと著増した。その後期を追って赤字幅は拡大し,4~6月期66.6億ドル,第3四半期67.1億ドルとなった。このように貿易収支の赤字幅が拡大したのは,76年夏以降農産物を中心に輸出が伸び悩んだことに加え,ここ2~3年基調的に増加をつづけている石油輸入が,77年初に急増したことを主因に輸入が大幅増加を示したためである。期別に輸出入の動きをみると,輸出は1~3月期前期比0.7%減のあと4~6月期3.4%増,第3四半期0.5%増となっており,76年の前年比7.1%に対し1~10月で前年同期比5.4%増にとどまっている。一方,輸入は77年第1四半期前期比10.0%と大幅増のあと,第2四半期4.9%増,第3四半期0.5%増となっており,前年の25.4%増につづき1~10月で前年同期比23.5%の大幅増加を示している。

輸出の内訳をみると,農産物が77年1~9月で前年同期比8.9%の減少を示したほか,機械輸送設備も4.1%の増加にとどまった。とくに輸送設備が1.4%増と不振だったのが目立っている。輸入については景気拡大を反映して殆んどの品目で増加がみられたが,とくに石油輸入の大幅増加を反映して,鉱物性燃料の77年1~9月の伸びが前年同期比で36.5%と著増しているのが目立っている。77年1~9月の前年同期にくらべての輸入増のうち,41.4%が鉱物性燃料の増加によるものであった。その他,化学製品(23.9%),機械輸送設備(19.0%)も高い伸びとなった。

なお本年の貿易収支の赤字幅は300億ドルにのぼると政府筋でみているが,78年も赤字基調はつづき77年と同程度の赤字幅になるものとみられている。

(経常収支)

76年7~9月期から赤字に転じた経常収支は,77年に入り大幅に赤字幅を拡大し,  1~3月期41.6億ドル,4~6月期46.1億ドルの赤字を記録し,上期だけで87.6億ドルの赤字と76年の赤字14.3億ドルを大きく上回った。政府筋では77年の赤字幅は160~200億ドルになるものとみている。すでにみたように貿易収支の大幅赤字が主因である。一方,-サービス収支は77年も好調を示し,  1~3月期41.1億ドルの黒字のあと4~6月期も44.9億ドルの黒字となった。

好調の主因は海外からの投資収益の受取りが順調に増加したことによるところが大きかった。海外からの投資収益の大幅増加は,主として海外の石油会社からの配当によるものである。

6. 経済政策

(財政政策)

76年央以来の景気の中だるみに対処すべく,フォード政権の後を受けっぐことが確定したカーター次期大統領は,77年1月7日,2年間にわたり300億ドルにのぼる財政上の刺激措置を提案した。この提案によると1977会計年度150億ドル,78会計年度150億ドルの施策が見込まれており,計画の内容としては個人所得税の戻し税114億ドルが予定されている。その他恒久減税40億ドル,法人減税20億ドル,雇用促進計画80億ドル,公共事業計画40億ドルが予定されていた。本計画はカーター大統領就任にともない,77年2月議会に正式に提案された(第1-6表)。

第1-6表 カーター提案の景気刺激策

ところが4月14B,カーター大統領は突然戻し税(1人あたり50ドル,総額114億ドル)と企業減税(9億ドル)の撤回を発表した。

これは,①77年初の経済諸指標が予想以上の好転を示し,戻し税がなくても力強い上昇テンポを示すとみられたこと,②バーンズFRB議長の主張するように,インフレ再燃を招く懸念がでてきたこと,など経済的理由によるものとされている。

以上の戻し税撤回を考慮した78年度財政見通しでは,615億ドルの赤字が見込まれていたが,9月15日の見通しでは613億ドルの赤字となっている。

第1-7表 歳入・歳出見通し

(金融政策)

76年にひきつづき77年初も金融緩和策が維持された。しかし4月に入りマネーサプライが急増したことなどから,インフレ懸念などを背景に金融政策も引締め気味に運営されることとなった。M1の増加テンポ(当該週の4週間平均の13週間前との比較)は,4月まで平均4~5%の伸ぴに推移してきたが,4月下旬ごろから急増し,その後9%前後の高水準で推移した。これをうけて4月の公開市場委員会は,マネーサプライの増加目標をM1については据えおいたが(4.5~6.5%),M2,M3については7~9.5%,8.5~11%へとそれぞれ上限を0.5%ずつ引き下げた。

短期金利も4月以降急騰に転じ,年初来4.5%前後で推移したフェデラルファンドレートは4月下旬に5%台に急騰し,5月下旬には5.45%にのせたあと9月には6%をこえ,その後11月に入って6.5%前後で上げどまりの状態となっている。

こうしたなかで連邦準備制度理事会は,8月30日から公定歩合を0.5%引き上げ5.75%とすることを決定した。当局は短期金利の上昇に追随したものであるとしているが,マネーサプライの増加に鑑み,将来のインフレ再燃防止のためマネーサプライを抑制することを狙ったものとみられる。公定歩合は10月26日にも再度0.25%引き上げられ,6,O%となった。その後11月半ば以降,マネーサプライの増勢鈍化の傾向,短期金利の上げどまり傾向がみられるが,10月18Sの公開市場委員会はマネーサプライの長期目標についてM1についてはすえおき,M2,M3の上限,下限をモれぞれ0.5%ずつ引き下げ6.5~9%,8~10.5%とするなど,依然慎重な政策運営がとられている。

(エネルギー政策)

カーター大統領は4月20日エネルギー教書″を発表した。新エネルギー計画は高価格政策によるエネルギー節約,石油・天然ガスから石炭へのエネルギー転換などがその骨子となっている。

新しいエネルギー政策の目標は,①短期的には石油の海外依存を低下させる,②中期的には80年代後半に予想される世界的な石油の供給不足をのりきる,③長期的には無尽ぞうな新しいエネルギー資源(太陽エネルギーなど)を開発するという段階の目的をもっている。

このため具体的な目標としては,1985年までに,①エネルギー需要の伸びを年率2%以下にする,②石油輸入を総エネルギー消費の1/8,1日当たり600万バーレル以下に減らす,③ガソリン消費を10%削減する,④住宅ビルディングの90%に断熱設備をつける,⑤石炭を4億トン増産する,⑥太陽熱利用を250万世帯以上に普及させる,となっている。

具体的な対策は多岐にわたっているが主なものは以下のとおりである。

(1)価 格

(2)節 約

価格引き上げ以外の節約対策としては以下のものがある。 

(石炭への転換) 

(新エネルギー源) 

○ 太陽熱利用設備の設置については1,000ドルまでは40%,次の6,400ドルについては25%を税額控除(最高2,000ドルまで)する。

8月3日には,これまでバラバラに実施されてきたエネルギー行政を統一的に行なうため,エネルギー省が正式に成立,初代エネルギー省長官にはシュレジンジャーが任命された。

カーター大統領のエネールギー計画については,従来その必要性が叫ばれながら何ら具体的対策がとられなかったエネルギー政策について,正面からこれにとりくんだことについてその行動力は高く評価されよう。しかし,各方面(産業界,消費者)からの反対意見も強く,現段階における議会審議の過程では,殆んどの重要項目について,否決ないしは修正を迫られるなど難航しており,エネルギー法案の成立は来年に持ちこされる公算が強いとみられる。

7. 経済見通し

77年7~9月期に個人消費の伸びの鈍化からやや増勢を鈍化させたアメリ力経済は,年末に至って再び拡大テンポ持直しの気配がみられる。住宅建設が依然高水準の伸びをつづけているのに加え,小売売上げがこれまでの停滞にくらべ,10月,11月と2ヵ月連続に大幅増加を示している。

さらに76年にみられたサマーポーズとの大きな相違点は,政府支出も7~9月期以降好調な増加を示しており,設備投資の不振を補う形となっており,10~12月期もひきつづき増加基調がつづくことが期待される。すでにみたように,77年7~9月期の成長率は3.8%から4.7%へと上向き改訂されたため,77年の成長率は政府見通しの5.1%に近い数字になるものとみられる。相ついで発表された民間の予想(76年12月)では,77年の成長率は一致して4.9%となっている。

カーター大統領は11月30日,78年初めに大幅な減税を提案する意向があることを明らかにした。減税規模がどの程度になるか,今のところ明らかではないが,これにより78年の景気拡大への好材料となろう。しかし,78年の成長率は77年にくらべ,やや低目になるとの見方が多い。物価上昇も概ね77年程度の上昇がつづくとする見方が多い他,失業率も77年にくらべ低下するものの政府が期待するほどの改善はないとみられている。具体的には成長率についてはコンファランスボード(11月28日発表),ワートンスクールの4.2%がやや低めの他は,殆んどの民間予測機関では4.5~4.6%との見方で一致している。需要項目の中身では個人消費が前年をやや下回る程度の伸びになるほか,住宅投資の伸びのテンポが著しく鈍化すること,さらに非住宅固定投資についても悲細的な見方が多く,77年の8%強から5%前後へと鈍化することなどが成長率鈍化の主因となっている。また消費者物価上昇率も,77年の6.6%から6.2%へと(DRI)幾分低下するものの,ほぼ77年程度の上昇率がつづくとする見方が多い。失業率についても,77年の7.1%から6.6%(DRI,その他)へと改善はみられるものの,77年の政府年央見通しによる6.3%を上回るとの見方が多い。

これに対して政府筋では,78年の成長率についてブレメンソールは5%を目指すとしており,バーンズFRB議長は4.5%との見通しを公表している。

第2章 カナダ

1. 概  観

1977年のカナダ経済は景気が低迷を続けるなかで戦後最高の失業率,物価の再騰貴,経常収支の悪化,カナダドルの大幅な下落,などを経験し多難な年であった。

75年春に回復に転じた景気は76年上期まで個人消費,住宅投資,輸出の増加などから急速に上昇したが下期に入ると内需の不振に加えて世界景気のスローダウンによる輸出の増加率低下から停滞ぎみとなった。77年に入ってからも主に内需の弱さから実質GNP増加率は前期比で1~3月期1.7%増,4~6月期0.3%減,7~9月期1.3%増と一進一退となり生産も2月以降低迷を続けている。このため失業者数は増加を続け11月には90万人となり失業率も戦後最高の8.4%を記録した。

第2-1表 実質GNEの推移

76年を通して著しく鈍化した消費者物価上昇率は,77年に入ると食料品の高騰から再び騰勢を強め最近では前年同月比9%を越えるに至った。一方賃金上昇率は物価・所得政策の効果もあって着実に鎮静化に向かつている。経常収支は貿易収支の改善にもかかわらず貿易外収支の悪化のため大幅な赤字を続けている。

こうした状況を背景に政府は10月,小規模ながら刺激策を発表し,同時に物価・所得政策を漸時,廃止することを明らかにした。

第2-1図 実質GNEの推移

2. 需要動向

75年4~6月期から回復に転じた実質GNPは77年7~9月期までに9.4%増加しゆるやかな回復を示している。しかしながら,この増加の大半は最初の一年間で生じており,76年4~6月期から77年7~9月期までの増加率は2.2%と最近では著しく鈍化している。これは今回の回復期の主導力となった個人消費や住宅建設が弱含みに転じるとともに,民間設備投資の回復がおくれているためである。以下需要項目別に動きをみよう。

(1)弱含みに転じた個人消費

76年の実質個人消費支出は前年比6.1%の増加と75年の5.1%増に続いて堅調であり76年のGNP成長の牽引車となった。これは個人可処分所得の増加が13.4%増と前年の17.3%に比べてスローダウンしたものの消費者物価上昇率が75年の前年比10.8%高から76年には7.5%と大幅に低下したことによって実質可処分所得の増加が前年をわずかに下まわる5.9%の増加を示したためである。77年に入ると引続く個人所得の増勢鈍化に加えて,野菜類を中心とする食料品価格の急騰が消費者物価を押し上げ,実質可処分所得の増加は上期には前期比年率2.7%と鈍化した。また,物価高や失業者の増加など先行きに対する不安から貯蓄率は上期平均9.8%と76年の10.6%に比べて若干低下したものの依然高い水準にある。このため実質個人消費は1~3月期(前期比0.1%減),  4~6月期(同0.7%減),と二期連続減少のあと7~9月期は2.O%増加したもののならしてみると弱含み状態を続けている。

小売売上高(名目)の動きから最近の消費動向をみると77年に入ってから7月までほとんど横ばいであったが,8~10月の前3か月比は5.1%増と立直る気配もみせている。

(2)減少を続ける民間住宅投資

民間住宅建設は74,75年と2年連続減少したあと76年には前年比17.6%と大幅に増加した。しかしながら新築住宅に対する需要の低下から76年7~9月期には減少に転じ77年に入ってからも減少をつづけ77年7~9月期まで5四半期連続減少している。76年の増加は新築住宅取得補助金の引き上げや,有利な融資制度を内容とする連邦及び州政府の住宅建設促進政策がとられたため,比較的大きな売残り在庫や高い抵当貸付金利にもかかわらず建築活動が刺激されたことによる。住宅着工件数の動きをみると,76年を通じて年率27万戸(過去5年平均は24万戸)と高い水準を維持したが下期には新築住宅に対する需要が減少しはじめ,とくに高価な一戸建住宅の需要は政府のアパートなどの安い住宅を優先する政策の変化によって著しく減少し,一戸建住宅の売残り在庫は76年末には前年同月を57.6%も上回った。このため住宅着工件数は77年1~3月期に前期比13.7%減少したあとほぼ年率24万戸で横ばいを続け,  1~9月の平均は前年同月比12.6%減となった。

(3)低迷を続ける設備投資

民間設備投資ば76年に実質で前年比3.2%の減少を示したあと77年1~3月期,4~6月期と増加し上期全体では前年下期比4.3%増となったが7~9月期には前期比1.6%の減少となり今回不況のボトムである75年1~3月期とほぼ同水準にとどまっている。

このような投資活動の弱さは,75年までの3年間に年平均8%近い設備投資が行なわれた結果,その後の生産の停滞と相まって操業度が低いことが大きな理由となっている。ちなみに77年4~6月期の製造業の操業率は84.2%と74年1~3月期のピーク93.2%を大幅に下回り,75年7~9月期のボトム82.2%をわずかに上回る低い水準にある。また最近の企業投資動向調査は過剰設備の存在に加えて需要回復の弱さ,利潤率の低さ,政府の緊縮的財政政策や物価,所得政策の先行きの不透明さなどが投資行動を慎重にさせていることを示している。

産業別にみると景気循環の影響を受けやすい製造業や商業部門での弱さが目立つ一方,エネルギー及び資源関連産業の投資は増加している。例えば76年には石油・ガスの探査・開発支出は実に44%(以下いずれも名目)も増加しており,金属鉱業,農業部門も各々18%,16%の増加を示した。

11月発表の通産省の調査によれば78年の企業設備投資計画は名目で6.4%増と実質ではほとんど増加がないことを示唆している。

(4)在庫調整ほぼ一巡

在庫投資の動きをみると,75年下期の自動車販売の急増を中心とする在庫取崩しのあと76年上期は流通部門を中心に年率17.2億ドルの大幅な積増しがおこなわれ実質GNP増加(前期比3.8%増)の主要因となった。(寄与度2.6%)下期も引続き積増しがおこなわれたが上期に比べて小幅となりむしろGN P増加率の減少要因となった。77年上期は輸出の急増や農業部門での在庫調整から3.5億ドルの在庫減少となっrこが,7~9月期は小麦の輸出等から農業部門で大量の在庫減があったものの製造業や小売段階でこれを上回る積増しがあり全体として年率1.7億ドルの積増しとなった。カナダ統計局の10月調査では製造業の7割以上が現在の在庫水準を適当と考えており在庫調整はほぼ一巡したとみられる。

(5)抑制的に働いた政府支出

76年の政府支出は緊縮的財政スタンスを反映して実質で前年比0.2%の減少となった。とくに政府固定資本形成は5,6%減と大幅であった。76年の政府支出の伸びは13.2%(名目)と名目GNPの伸び14.9%を下回り景気回復のマイナス要囚となった。

77年に入ってからも実質の伸びは小さく1~9月の支出は前年同期比1.5%増とわずかであっも。

3. 生産・雇用

(1)停滞つづく鉱工業生産

75年夏より回復に向った生産は77年年初までゆるやかな増加をみせたあと春以降足ぶみ状態をつづけている。

鉱工業生産は75年に前年比4.7%減少したあと76年には4.6%増加した。上期は大きな在庫の積増し,活発な住宅建設,先進国の景気回復による輸出の増加などから自動車・木材・金属を中心に前期比4.3%増加した。しかし下期には0.9%増とほぼ横ばいとなった。これは主として在庫調整や投資財需要の減少のため,電気製品や一次金属製品の生産が減ったことに加えて頻発するストライキや部品不足のため,鉱業や自動車生産が減少したことによる。76年11月以降ストライキの減少などから再び増勢を強め,77年1月まで3.7%増加したあと,需要の弱さを反映して伸び悩み一進一退をくりかえしている。

(2)失業率は戦後最高を記録

76年上期まで7%前後で推移していた失業率は景気の停滞を反映して76年下期より悪化傾向を強め下期は7.3%に上昇した。77年に入ると上げ足は一層強まり11月には8.4%と戦後最高を記録し,失業者は90万人を数えるに至った。 (第2-2図 第2-2表 にみるごとく労働需要の伸びを上回る労働供給の伸びが失業者数を増大させ失業率を押し上げる原因となっている。労働需要側(農漁業公務員軍隊等を除く)の動きをみると生産の回復の弱さを反映して76年下期以降横ばいとなり77年に入ってからも低迷をつづけている。部門別にみるとサービス業は鈍化しながらも雇用者は増えているが製造業・商業では76年上期に一時持直したものの下期以降はむしろ雇用者数を減少させている。供給側の動きをみると生産年齢人口の増加に加えて労働力率が年々高まってきている。これは第三次産業の成長と手厚い失業手当が婦人及び若年層の労働市場への参入を促進しているためと思われ,25歳以上男子はむしろ逓減している。この結果,労働力人口に占める25歳以上男子の比率は70年の52.2%から76年には47.7%へと低下した。こうした供給構造の変化は77年に入ってから一層顕著になり,需要の弱さと相まって7-9月期には若年層,婦人の失業率は各々76年の12.8%,6.6%から14.6%,7.2%となり,わけても家計の中心である25歳以上男子の失業率が労働力人口の増加率鈍化にもかかわらず急速に悪化していることは新たな問題となっている。

第2-2図 失業率の推移

第2-2表 労働需給の推移

4. 物価・賃金

(1)物価鎮静化から再騰へ

食料品価格は,76年中はほとんど横ばいとなり物価鎮静化の大きな原因となった。しかし77年には食料品価格は大幅に上昇し,インフレ再燃の主因となった。(第2-3図)

第2-3図 消費者物価の推移

76年の消費者物価上昇率は前年比7.5%高と75年の10.8%高から大きく改善した。これはカナダドルの上昇等により輸入食料品価格が大幅に下落し,食料品価格が前年比2.7%高と落着いたことが大きな理由であった。一方食料品以外の項目をみるとエネルギー価格の上昇などから前年比9.4%高と75年の10.O%に比べわずかな改善にとどまった。

77年に入ると野菜や果物などの生鮮食品が急騰を始めまた春からは牛肉などの上昇も加わって食料品価格は76年12月の前年同月比0.7%の低下から77年11月には同15.9%高と高騰した。これに石油の国内価格の引き上げや住居費の上昇が加わり消費者物価の上昇率は年初の前年同月比6.1%高から11月には9.1%へと高まった。しかしながら非食料品価格の上昇率は7.4%と1年前の8.6%と比べて改善がみられる。

卸売物価も消費者物価同様76年は食品価格が下落したため全体として4.3%の上昇と75年の6.6%高から改善した。しかし76年11月から食料品や木製品,なかでも輸入品価格の上昇から77年5月まで7か月間で9.9%の急騰をみせたあと,需要のゆるみなどから横ばいとなっている。

(2)改善を続ける賃金動向

まず賃金の実績を全産業の平均週給の動きでみてみると75年4~6月期に前年同期比15.1%増と最大の増加率を示したあと76年4~6月期は同13.0%増,77年4~6月期には9.9%増と着実に上昇テンポが鈍ってきている。また賃金動向の先行指標ともなる,500人以上の雇用者を有する全産業(建設業を除く)の賃金協定妥結額をみると77年4~6月期の前年同期比は7.9%増と鎮静化が進んでいることを示している。(第2-4図)労働市場での需給緩和や,物価・所得政策の効果などが改善に寄与したと思われるが,こうした賃金上昇率の鈍化は産業の労働コストにも良い影響を与えている。例えば非農業部門の単位当り労働コストの上昇率をみると,76年には前年比10.O%増であったが,77年上期の前年同期比は6.7%増と依然高いものの上昇率は鈍化傾向にある。

第2-4図 賃金上昇率の推移

5. 貿易・国際収支

(1)黒字を回復した貿易収支

75年には主として景気のズレによる要因から貿易収支は5億ドル(カナダドル以下同じ,第2-5図)の赤字を記録したが,76年は先進諸国の景気回復に伴い輸出が前年比14.7%増加し,一方輸入は国内需要が停滞ぎみであったため8%の増加にとどまった。このため76年の貿易収支は11億ドルの黒字となった。77年の輸出入の動向を通関統計でみると,輸出はアメリカ景気の上昇などからアメリカ向けが1~10月間の前年同期比18.8%と大幅に増加し,全体では15.5%の増加となった。商品別にみると自動車を主体とする輸送機器が20.3%増,木製品,新聞紙,非鉄金属等の半製品が22.8%増(中でも材木はアメリカの旺盛な住宅投資のため51.3%も増加した)と順調であるが,原油はカナダのエネルギーの輸出削減政策のため76年の前年比25%減につづいて25.3%の減少となっている。一方輸入の1-10月期は前年同期比で13.O%増加し,輸出の伸びを下まわったため同期間中の貿易黒字は23億ドルとなったが,輸出入とも4~6月期以降は伸び悩んでいる。

第2-5図 輸出入の推移

(2)悪化する貿易外収支

76年は貿易収支が16億ドルの改善をみたにもかかわらず貿易外収支の赤字が75年の46億ドルから76年には58億ドルに増大したため経常収支はわずか6億ドル改善したにとどまった(第2-3表)。

第2-3表 国際収支の動き

このような貿易外収支の悪化は75年以降はじまった海外での巨額な長期資金の調達による利子,配当の支払増や海外旅行による支払の増加によるところが大きい。

資本収支の動きをみると,内外での長期金利の差と旺盛な資金需要から企業や地方政府などが海外で90億ドルにのぼる大規模な起債をしたため,長期資本の流入超は76年には75年の39億ドルをこえる79億ドルとなった。一方短期資本は特許銀行の対外貸付の増加やカナダドルの下落予想などから76年には32億ドルの流出超となった。77年に入ってからも長期資本の流入は小幅ながらも続き上期は23億ドルの流入超となり短期資本はわずかに流入に転じた。

(3)急落したカナダドル

カナダドル相場は76年11月にケベック州議会選挙でのケベック党の圧勝とそれにつづく公定歩合の引下げを契機として急落を始め77年3月には心理的バリアーといわれた1カナダドル=95米セントを割った。その後も下落は続き10月下旬には90米セントを割るに至ったが,15億米ドルにのぼるスタンドバイクレジットの設定や,ユーロ市場に於る大型起債などから反騰し,12月に入ると91米セント台を回復した。76年10月から77年10月までの下落率は11.5%と大幅なものであった。このようなカナダドルの急落をもたらした要因としては①米,加の金利差の縮小による外資流入の減少 ②カナダ経済の不調③政府のカナダドル低下を容認する姿勢 ④ケベック独立問題による政治不安などが挙げられる。

6. 経済政策

74~75年の世界的な景気後退期の中にあってカナダは政府の景気刺激措置もあって深刻な不況局面に陥ることがなかったが,反面で国際収支の悪化や賃金の急激な上昇,二桁インフレに見舞われることになった。こうした背景のもとに75年10月「インフレへの挑戦」と題する政府白書が発表され,生産・雇用の持続的な回復を図りながら,インフレ率の漸進的な引下げを目標とする総合的プログラムが明らかにされた。このプログラムは4つの柱からなり,以後の経済政策を規定することになった。

この包括的プログラムに基づいた,インフレ抑制的な政策態度は76年を通して堅持され,また77年に入ってからも基本的にはかわっていない。

(1)財政政策 10月に刺激策を発表

77年度の財政政策は財政規模の拡大を極力抑え,インフレ再燃につながる財政支出による直接的な景気刺激を避けながら民間産業の拡大を中心にインフレなき成長をめざすという立場を踏襲している。

77年3月発表された77/78年度連邦予算(77年4月~78年3月)は,雇用政策を除く主要新規施策の実施見送りや公務員数増加の大幅削減などにより,財政投融資を含む財政支出は前年比7.4%増と76/77年度予算(前年比11.3%増)につづいて,名目GNPの予想成長率(77年,11%,76年,14~15%)を下回る緊縮型となった。(第2-4表)また投資環境の改善,整備という観点から(イ)77年6月末で期限切れとなる5%の投資税額控除制度を3年間延長するとともに内容を若干充実する。(ロ)インフレに伴う在庫評価益への課税を回避するため期首在庫評価額の3%を控除する。(ハ)株式市場への資金流入を容易にするため配当所得の控除率を引き上げる等の減税措置や個人所得税の軽減が図られ,同時に雇用創出計画として,1億ドルの追加支出が発表された。

第2-4表 連邦政府の財政収支

クレチェン新蔵相は4~6月期の実質GNPの低下や,高失業率等を背景に10月,一連の刺激策を発表した。主な財政措置は(イ)低・中所得者に対する100ドルの所得税減税(約7億ドル)(ロ)雇用創出のための1.5億ドルの追加支出。(ハ)雇用創出のため企業に対する雇用控除制度を導入する(約1億ドル)等である。しかしながら今回の刺激策もインフレ再燃を避け,財政赤字(3月見込みの64億ドルから85億ドルに拡大)を圧縮するという両面の要請から比較的小規模にとどまった。さらに11月には財政投融資計画の追加を含め総額19億ドルの追加予算案が議会に上程されたが実際の支出額は承認済支出計画額の見直しや例年末使用額がでるところから当初予算額の445億ドルの範囲内に収まると予想され財政抑制の既定方針に矛盾はないとしている。

(2)金融政策

金融政策は76年暮から77年春にかけて一連の公定歩合の引下げや第二線準備率の引下げを行なうなど緩和策をとる一方10月には通貨供給量の増加目標値を引下げるなどインフレ抑制基調を崩していない。

75年秋カナダ銀行の金融政策は従来の金利水準重視から通貨供給量の重視へと転換し,通貨供給量の増加率目標をインフレ率の低下とともに段階的に引下げ,安定的な成長通貨の供給を図ることをめざすに至った。

76年8月,M1(流通通貨プラス特許銀行の要求払預金)の増加目標値はそれまでの年率10~15%から年率8 ~12%へ引下げられた。これは3月に公定歩合を0.5%引上げた結果,通貨供給量の増加率が目標値を下回るようになり,また物価上昇率が低下したためとられたものである。8月以降,通貨供給量の増加率は5~6%で推移し,目標値の下限をかなり下回るようになり景気の停滞による資金需要の弱さが明らかとなった。このためカナダ銀行は11月から77年5月にかけて公定歩合を4回合計2%(9.5%→7.5%)引下げ,また2月には特許銀行の第2線準備率の引下げ(5.5%→5.O%)を行なった。これら一連の緩和措置の結果通貨供給量の増加率は6月に年率9.3%と回復し7月以降8%台となった。その後10月に入り,カナダ銀行は目標値を1%引き下げ上限11%下限7%(年率,基準値は6月平残)にすると発表した。(第2-6図)

第2-6図通貨供給量(M1)の推移と増加率目標値

(3)物価・所得規制策,段階的に廃止へ

77年10月におこなわれた蔵相の経済財政演説の中で,78年12月末まで継続を予定されていた物価・所得規制策は原則として78年4月14日から段階的に解除されることが発表された。主な内容はイ78年4月14日以降に賃金協約が終了する雇用者,及び会計年度の終了する企業はその日以降現行の規制を解除される。但しインフレ防止庁(AIB)に報告義務のある大企業は78年における3四半期間は規制下におかれる。(ロ)解除後の物価・所得状況を報告する監視機関を設置する。ハ配当規制は78年10月13日まで延期され前年比増加率を6%以下とする,というものである。

75年10月にインフレ抑制策として3年間の時限立法で導入された物価・所得規制策については1年を経過したころから労働界,産業界を中心に廃止を求める声が強くなり77年2月には連邦政府も規制撤廃を政策日程に組み込むことを認めるに至った。この背景には二つの側面が考えられる。第1は物価及び賃金の上昇率が急速に低下しつつあったことである。第2の側面は規制のもたらす弊害が顕著となってきたことである。例えば民間設備投資不振の一因として利潤規制が指摘されていること等である。

こうして連邦政府は撤廃の方法,撤廃後の物価対策等につき労働界・産業界と8月までに数度にわたり協議を重ねたが最終的に労働界の同意を得られず早期撤廃論は一時棚上げされることになった。しかしながら新蔵相は規制策の早期撤廃を優先課題としてとり上げ10月の発表となったものである。

7. 経済見通し

カナダ経済をめぐる環境は前述のように決して楽観できる状況にはないが,いくつかの点で改善がなされ生産や雇用が拡大するための基礎作りが進んでいる。例えば貨金上昇率の落ち着き,食料品を除いた物価上昇率の鈍化,カナダドルの調整などはインフレ・マインドの抑制や国際競争力の回復に寄与するものであり,カナダ経済が健全性を取戻しつつあることを示している。

10月の国会に於て蔵相は刺激策を発表すると同時に78年の実質GNP成長率は刺激策の効果が浸透すれば5%になる見通しであると述べた。また失業を着実に減少させるためには5~6%の安定的な成長が必要であるとし,5%以上の成長を達成するためには中期にわたる経済構造の改善が必要であるとしている。

一方多くの民間予測機関では78年の成長をつぎのようにみている。 個人消費は実質可処分所得の増加から非耐久財を中心にゆるやかな回復をする。民間設備投資はエネルギー関連投資が増加するものの全体としては微増にとどまる。住宅投資については過剰在庫がつづくものの大きく減少はしない。輸出はカナダドルの下落があったものの世界景気のゆるやかな回復のため増加率は77年をやや下回る。

以上を総合して78年の成長率は4~4.5%になると見る向きが多い。 いずれにしても失業を減少させるには不充分な成長率であり雇用情勢の急速な改善は期待できないと思われる。

また消費者物価上昇率については政府は6%以下,民間では7%前後とみている。

第3章 イギリス

1. 概  観

イギリス経済は1976年中も石油危機の後遺症である景気停滞,インフレーション,国際収支赤字の三重苦に悩まされつづけた。景気回復が始まって間もない76年春に,国際収支の悪化とポンドの動揺に見舞われたため,金融政策が引締め基調とされ,財政面でも慎重な運営方針がとられた。その後,9~10月のポンド危機再発で金融引締めは一層強化され,最低貸出し金利が15%という記録的水準まで引上げられ,さらに12月には,財政緊縮措置が発表された。77年3月末発表の77年度予算案も,全体としては引締め基調とされた。

こうした慎重な政策運営の影響もあって,景気回復テンポは76年下期に著しく減速した。77年に入ると景気はさらに停滞し,実質GDP(支出ベース)は上期前期比0.8%減となった。しかし,下期に入って内需もやや持直し,景気は上向く気配を示している。この間,失業は増加傾向をつづけ,77年9月には,失業率も6.1%と戦後最高を更新した。

この中で物価は76年央までは急速な上昇鈍化傾向を示していたが,その後は,第2年次の賃金自主規制により賃上げが抑制されたにもかかわらず,ポンド相場低落による輸入価格の上昇,間接税の引上げなどもあって,騰勢はむしろ強まった。しかし,77年央以降は,ポンド相場の回復,国際商品相場の低落,賃金の引つづく落着きなどを背景に鎮静化に向っている。

対外面でのこの1年の改善はとくにめざましく,貿易収支は76年夏の大幅赤字から77年8月以降は連月黒字を計上するようになり,経常収支も77年1~11月にはほぼ均衡した。ポンド相場も,一連の国際的支援措置もあって,76年末からはむしろ強調に転じている。また,76年末に約41億ドルまで落込んだ金・外貨準備もその後一年間で5倍以上の約206億ドルという記録的高水準に達した。

第3-1図 トリレンマからの脱出をはかるイギリス経済

このような物価の鎮静化,対外面での大幅改善を背景に,政策の優先順位はインフレ抑制から失業問題に移り,10月末,補正予算による景気刺激策がとられた。最低貸出し金利も76年11月以降,低下をつづけ,とくに,外貨流入が激増した77年9~10月には大幅に引下げられて5%へと72年9月以来の低水準となった。

2. 需要動向

実質GDP(支出ベース)は75年7~9月期を底に上昇に転じたが,その後の回復は一進一退をつづけており,半期別にならしてみても,76年上期の前期比3.7%増の後,下期にはほぼ横ばいとなり(同0.1%増),さらに77          年上期には同0.8%減と停滞色を深めた。77年下期に入って,内需の一部に立直りがみられるものの,7~9月期までの過去2年間に実質GDPはわずかに3.1%増加したにすぎず,これまでのピークである74年7~9月期の水準をまだ1.3%下回っている。

こうした76年下期以降の景気の再停滞は,国内最終需要が不振の度を強めたことによるものであり,輸出はこの間,着実な拡大をつづけた。

第3-1表 イギリスの国民経済計算

(1)再び停滞した個人消費

個人消費は76年中は過去2年間の低下から立直りを示していたが,77年上期には前期比2.0%減とかなり落込んだ。          

第3-2表 イギリスの消費関連指標

76年の回復は,主として,過去2年間,低迷していた乗用車需要の立直りを中心に,耐久財が増加したことによるものであった。しかし,77年上期には,この乗用車需要も一服し,家具類などの購入減(前期比10.4%減)もあって,耐久財需要が前期比4.3%減と大幅に減少し,また,食品をはじめとしてその他需要も全般に減少した。

77年上期の全般的な消費需要の弱まりは,①景気回復のおくれや賃金自主規制により収入の伸びが鈍い一方で,根強い物価上昇がつづいていることから,実質可処分所得が76年の0.4%減の後,77年上期も前期比2.4%減と大幅に減少したこと,②景気の先行きに消費者が不安をもっていることもあって,貯蓄率が74年10~12月期の16.4%よりは徐々に低下しているものの,77年4~6月期現在13.5%とまだかなりの高水準にとどまっていることなどを反映したものである。

77年下期に入ると,77年度予算措置による所得税減税,物価上昇率の鈍化などから実質可処分所得の低下がほぼ止ったとみられ,7~9月期の実質個人消費は3期ぶりに増加した。小売売上げ数量も7~9月期には4期ぶりに増加した。

(2)不振をつづけた固定投資

実質国内総固定資本形成は,75年2.2%減,76年3.4%減の後,77年上期は前期比6.8%減と一段と大幅に低下し,10年来の最低水準に落込んだ。76年の低下は非住宅投資(実質3.9%減)が中心であったが,77年上期には,これが前期比4.8%減とさらに低下したのに加えて,住宅投資が同15.8%減と著減したことによる。この固定投資の低下は77年上期の国内最終需要低下の約46%にも相当している。とくに政府部門の落込みが大きく(77年上期の前期比11.3%減),これが固定投資低下の約7割を占めている。

民間設備投資にほぼ相当する産業固定投資(非住宅投資の約半分を占める)を実質でみると,75年15.2%減,76年6.9%減の後,77年上期は前期比0.6%増となった。とくに,製造業部門では76年春以降ゆるやかな回復基調に転じており,76年下期に前期比実質4.3%増,77年上期0.5%増の後,7~9月期は前期比5.1%増となっている。

第3-3表 イギリスの固定投資関連指標

この産業固定投資の回復は,①操業度が76年初を底にしだいに改善に向っており (完全操業以下の企業の比率は76年3月の78%から77年7月の66%へ),②利潤率もこれにともなって上昇していること(企業粗利潤から在庫評価益を差引いた純利潤の国内総所得にたいする比率では75年1~3月期の約4%から77年1~3月期の約6%へ)などを背景としたものである。しかし,企業家の景気見通しは,77年10月末の補正予算による景気テコ入れ後もそれほど改善されてはおらず,ポンド相場の上昇から輸出先行きにもやや懸念がでてきたこと,金利水準が71年の前回不況の底と同水準まで低下しているにもかかわらず資金需要は弱いなど,企業の投資態度はまだかなり慎重である。

年3回実施される産業省投資動向調査では,77年の製造業固定投資を実質10~15%増(76年11~12月調査),6~10%増(77年4~5月),6.7%増(77年9月)としだいに下向き改訂している。

住宅投資は76年下期以降再び停滞し,76年下期の前期比実質5.4%減,76年上期15.8%減(前年同期比20.4%減)と大幅に落込んだ。とくに,民間住宅は76年末から77年初にかけて急減したが,春以降は住宅協会への資金流入が増加するなど底入れ気配がみられる。一方,政府住宅は76年中は増勢を維持していたが,77年に入ってからは,公共支出削減計画もあって急減した(上期前期比実質13.6%減)。

第3-2図 イギリスの在庫投資

在庫投資(実質)は75年の急減の後,76年には増加に転じ,GDP寄与度もマイナスから大幅なプラスへと急変した。さらに77年上期には,個人消費の停滞による流通,製造段階での意図せざる積増しもあって大幅増となった。

しかし,下期に入ってからは個人消費が回復をはじめ,過剰在庫も緩和に向っているとみられる。

製造業在庫水準は77年7~9月期に5期ぶりに低下したが,在庫率(在庫水準/生産)は107.3(1969,IV=100)と75年央につぐ高水準にあり,需要回復が生産増に反映されるまでには時間がかかるとみられる。

3. 生産・雇用

イギリスの景気は75年10月を底として回復過程に入ったものの,鉱工業生産の回復ははかばかしくなく,76年の伸びはわずか0.6%,77年1~9月の前年同期比も0.8%増にとどまった。このため,77年9月現在の生産水準は75年の底を3.3%上回ったにすぎず,前回の景気のピークである73年7月の水準を7.6%下回っている。

部門別にみた回復の度合にばらつきが大きいのも現局面の特徴である。ウエイトは小さいが,鉱業部門が北海石油の生産が軌道にのってきたこともあって76年下期以降,急ピッチで伸びており,77年1~9月の前年同期比が18.5%増に達している一方で,建設部門では75年5.4%減,76年4.0%減についで,77年1~6月も11.5%減となっている。

製造業は76年下期には年率3,4%増と回復したが,77年1~9月では前年同期比0.9%増にずぎなかった。主として,76年に回復の著しかった化学の伸びが鈍化し,金属加工,繊維,食品加工などでは減少または横ばいとなったことによる。一方,自動車,電機などは輸出を中心に回復をつづけている。

こうした生産回復のおくれを反映して,各種の対策が引つづきとられたにもかかわらず,雇用の改善はすすまず,77年に入って,失業者数はむしろ増加し,戦後の最高水準を記録している。

第3-4表 イギリスの労働市場

雇用者数の減少傾向は76年秋に2年ぶりに下げ止まったが,77年央までの雇用増は約8万人にすぎず,製造業部門でも76年下期以降ゆるやかな増加にとどまっている(77年7~8月の前年同期比0.3%増)。

失業者総数(原数値)は76年夏にはじめて150万人を突破したあとも増加傾向にあり,77年8月には164万人に達した。夏にみられる失業の急増は,主として,新規学卒および成人学生の集中的増加によるものである。しかし,これらを除いた完全失業者(季節調整値)でみても,77年に入ってからも増加傾向をつづけ,9月には145万人と年初来約12万人増加し,失業率は5.6%から6.1%へと高まった。

景気停滞のつづく中で失業対策が引続きとられており,77年8月現在,約27万人が各種制度の適用をうけている。中心となっているのは,75年8月以降の臨時雇用補助金制度(78年3月末まで,8月現在約18万人)であり,このほか,若年者・高齢者・障害者のための特別措量や職業訓練,中小企業補助金制などがある。

第3-5表 イギリスの雇用対策

賃金自主規制の実施されていた75,76年には労働争議は少なかったが,77年に入ってストライキが多発しており,1~9月の係争労働者数は76万人(前       年同期は52万人)に達している。とくに,自主的賃金交渉に移行した8月以降,賃金協約改訂をめぐる争議が急増傾向を示している。

4. 物価・賃金

賃金自主規制の第2年次(1976年8月~77年7月)を通じて賃金上昇率はさらに鈍化をつづけ,この間の平均賃金収入の上昇は8.9%とほぼ政府ガイドライン(年間賃上げ率平均4.5%。賃金収入では特例を含めて7~8%の上昇に相当)におさまった。第1年次(75年8月~76年7月)の実績が13.9%(政府ガイドラインは週6ポンドの賃上げ。賃金収入では約10.5%の上昇に相当),その前の1年間が27.6%であったのと比較すると著しい改善である。

第3-3図 イギリスの賃金上昇と賃金規制

77年に入ってからの鈍化傾向はとくにめざましく,5月以降は賃金収入はほぼ横ばいに止まっていた。しかし,自主的賃金規制の継続が政府の意図に反して不調に終った8月以来,これまで引延ばされていた賃金協約の改訂もあって,上昇テンポはやや高まりを示している。

政府は8月以降,自主的賃金規制にかえて年間賃上げ率を10%に自粛することを労組に要請し,9月初のTUC(労働組合会議)年次大会は賃上げ間隔の12か月ルールを受入れることをきめた。CBIの10月末調査によると,これまでのところ賃上げ自粛はほぼまもられているとされる。しかし,炭鉱労組の期限前大幅賃上げ要求や消防夫の長期ストなど公共部門でも争議が多発しており,先行きは楽観できない。

第3-6表 イギリスの物価,賃金,生産性

一方,物価の騰勢鈍化はかなり遅れており,消費者物価の鎮静化傾向が明らかになったのは77年下期に入ってからである。

消費者物価は75年春から夏にかけての年率40%を上回る異常な事態からは脱出したものの,その後も2桁台の大幅上昇をつづけ,とくに,76年秋以降はポンド相場の急落や国際商品相場の上昇などもあって再び騰勢を強めた。

しかし,77年下期に入ってからは,これまで急騰を示した季節性食品が値下りをつづけ,公共料金の引上げ抑制,ガソリン税の引下げなどもあって,上昇率は急速に鈍化し,7~10月間の上昇は年率4.9%にとどまった。前年同月比上昇率でみても,77年6月の17.7%をピークに10月には14.1%へと鈍化をつづけている。

工業品卸売物価も76年秋以降再び騰勢を強め,とくに,77年1~3月期には年率20%をこす急騰となった。しかし,その後緩慢な鈍化傾向をたどり,10,11月には著しく小幅化した。

原燃料卸売物価は76年春以降のポンド相場の急落や国際商品相場の反騰の影響を最も大きく受けて,76年には27.O%も上昇した。しかし,77年に入るとポンド相場が堅調に転じ,国際商品相場も低落したため急速に上昇率を鈍化させ,とくに,5月以降は低下をつづけている(1~4月5.9%上昇,5~11月5.5%低下)。

76年秋から77年上期にかけての物価騰勢の強まりは,季節性食品を中心とする食料,公共料金,光熱費などでとくに著しかった。これには干ばつのような気候条件や,公共料金政策などが大きく影響しているが,基本的には,景気停滞のなかで需給は大幅に緩和したものの,コスト圧力は依然として強いことが要因となっている。とくに,輸入コストは76年秋に急上昇して,76年下期には消費者物価上昇の4割以上の上昇因となった。一方,賃金コスト要因は74,75年には7割以上の寄与率となっていたが,76年にはかなり小幅化した。賃金収入の伸びが鈍化し,生産性も若干回復して,賃金コストの上昇が75年の31.5%から76年には12,8%へ鈍化したためである。しかし,77年に入って賃金コストは景気停滞による生産性の低下からかなりの上昇を示しており,また賃金自粛の先行きも楽観できないなど依然として問題は残されている。

価格規制については,77年8月以降,これまでの規制方式(不可避的コスト増のみ価格に転嫁することを認める)を大幅に弾力化する一方で,価格委員会の権限を強化し,調査中の価格凍結などができることとされた(78年7月まで)。

5. 貿易・国際収支

76年末以降の対外面での著しい改善は,はじめは短資の還流などを主とする資本取引を中心としており,貿易収支の赤字幅縮小は緩慢にしかすすまなかったが,77年下期に入って貿易収支も連続黒字を計上するなど改善基調はより明らかとなっている。

貿易収支赤字幅は76年7~9月期の年率45.6億ポンドをピークに徐々に縮小に向ったが,77年上期も年率約34億ポンドの赤字と改善のテンポはかなり緩やかなものにとどまっていた。しかし,7月以降は,北海石油関連投資財,船舶,航空機などの輸入が減少したこともあって,4か月連続黒字(年率約9億ポンド)となっている。

77年上期までの緩やかな貿易収支の改善は,輸出が76年30.6%増,77年上期前期比年率30.9%増と好調な伸びをつづけたのにたいして,輸入も同じく27.9%増,20.3%増と大幅に増加したことによる。しかし,この輸入増は76年については主としてポンド相場の急落(76年中に実効レートで約18%)による輸入単価の上昇(76年22.O%)を反映したものであり,数量ベースでは,輸出8.3%増にたいして輸入は6.2%増にとどまっている。77年に入ると,ポンド相場は堅調に転じ,輸入単価の上昇も小幅化したことから輸入金額の伸び率はかなり鈍化した。

この間の輸出の好調持続は,主として,ポンド相場低落による国際競争力の強化によるものであり,世界貿易が全体的に伸び悩む中で,イギリスのシェアは拡大した。とくに,アメリカ,産油国向けが平均以上の伸びとなっており,品目別には,機械,自動車,繊維などの伸びが大きかった。

第3-7表 イギリスの貿易動向

第3-8表 イギリスの国際収支

第3-9表 1976年秋のポンド危機にたいする国際的金融支援措置

貿易収支の改善には,北海石油の生産が76年後半から軌道にのりはじめ,77年央には年産約4,000万トンと自給率が約4割に達し,原油の輸出をするほどになったことも寄与している (77年1~9月総輸出の2.9%)。この結果,石油収支は大幅に改善し,76年の39.6億ポンドの赤字から77年1~9月で21.3億ポンドの赤字へと赤字幅が大幅に縮小した。

こうした貿易収支の改善に加えて,貿易外収支の黒字基調が維持されていることから,経常収支はより明白な改善を示しており,77年1~9月間でほぼ均衡化し,その後も黒字基調をつづけている。

76年9~10月に再燃したポンド危機では短資の大量流出がみられたが,引締め政策の強化や一連の国際的支援交渉の進行もあって年末には短資も還流に転じた。77年に入ると,短資に加えて長資も大量の純流入となった。このほか,ポンド相場の先高をみこした投機的資金の急流入がつづいたこともあって,総合収支は76年の36.3億ポンドの大幅赤字から77年上期には28,2億ポンドの大幅黒字へと急転した。76年の大幅赤字のうち約27億ポンドは外貨建て借入れや政府の外国中央銀行からの借入れによって埋められたが,外貨準備も大幅に減少した(約8.5億ポンド,約13億ドル減少して,年末の水準は41.3億ドル)。77年に入ると,総合収支が黒字化したのに加えて,年初にきまった一連のポンド支援措置からの借入れ(77年9月までに合計約35億ドル),公共部門による引つづく外資取入れなどから金・外貨準備はほぼ一貫して増加しており,11月末までに5倍以上もふえて203.9億ドルと世界第4位の記録的高水準に達している。

ポンド相場も,76年3月および9~10月の急落を中心に1ポンド=1.5695ドル(10月288)まで低下したが (年初来低下率31.2%),その後は堅調に転じ,77年11月初には1.8435ポンドと,約1年間に17.5%も上昇した。

6. 経済政策

76年秋に再発したポンド危機に対処するため,景気の回復がはかばかしくないにもかかわらず,財政・金融政策の引締めが強化された。しかし,77年に入ると,対外面での改善がすすむ一方で,景気はさらに停滞し,失業者数も急増したことから,引締めは徐々に緩和され,10月末には所得税減税を中心とする景気刺激措置がとられた。

金融政策は76年春に国際収支の悪化とポンドの急落から引締めに転じ,最低貸出し金利は,4,5月に2度引上げられ(9→11.5%),さらに,9~10月のポンド相場急落に対処して史上最高の15%へ引上げられた。年末以降は対外面での改善を背景に,金融面ではしだいに引締め緩和に向い,最低貸出し金利は77年春までは小刻みに,夏以降は外資の大量流入もあって大幅に引下げられて,10月央以降は5%と,71年9月来の低水準とされた。しかし,11月末には,外資の急増が止んだことから, 一挙に2%引上げられて7%とされた。

通貨供給量は76年秋に急増した後,イングランド銀行の特別預金の預入率引上げ(9~11月間に3%引上げて6%)や特別預金制度の補完措置再導入(76年11月)のほか,国債の市中消化が好調だったこともあって,半年ばかりは落着いていた。しかし,77年春頃から再び増勢を強め,とくに,9,10月にはポンド相場の先高期待による外資の大量流入から激増した。このため,77年4~9月の通貨供給量M3(ポンド建て)は年率14.3%増と政府目標(77年度9~13%増)を上回る伸びとなった。政府は,10月末,ポンド相場へのこれまでの売り介入による上昇抑制政策を変更し,ポンド相場をフロート・アップにまかせたことから,外資の急流入は止まり,通貨供給量の伸びも11月には若干鈍化した。

財政面では76年12月に,7月発表の公共支出削減計画をさらに強化し(77年度約10億ポンド,78年度15億ポンド),間接税増税(酒・たばこ税の10%引上げ)などによって公共部門借入れ所要額を削減する(77年度105→87億ポンド,78年度115→86億ポンド)という緊縮措置が導入された。

77年3月末に発表された77年度予算案も,対外収支の改善やインフレ鎮静化の先行きにまだ不確定性があるとして,引続き慎重型とされた。主な内容は,①法人税,所得税減税(基礎控除引上げなど平年度13,3億ポンド),②条件付き所得税減税(基本税率の引下げ,35→33%o平年度9.6億ポンド。

第3年次の賃金規制を労組が受入れた場合に実施),③間接税の引上げ(ガソリン,重油,自動車税,平年度8.1億ポンド)などである。この結果,一般会計の歳入規模は前年度実績見込み比11.7%増,歳出は同10.4%増と前年度(歳入12.8%増,歳出10.7%増)より小幅の伸びとされ,赤字幅も57.5億ポンドと76年度の当初予算赤字(67.2億ポンド)より小幅化した。このため,歳入にたいする赤字の比率も低下している(20.2→15.2%)。

しかし,7月央,政府は第3年次の賃金自主規制への移行が不可能となったため,新たに賃上げ自粛の要請を行なうとともに,その前提として,①所得税減税(基礎控除の引上げ,基本税率の引下げ35→34%)など当初予算を修正して,合計9.6億ポンドの当初予算の条件付き減税と同額の減税を実施し,②ガソリン税増税の撤回のほか,③物価およぴ不況対策費の追加(約2.8億ポンド)などの財政措置を発表した。

さらに10月26日こは,対外面での改善がすすむ一方で,景気の回復が予想以上におくれていることを背景に,補正予算による一連の景気刺激策が発表された。

その主要内容は,①所得税減税(人的控除の12%引上げ。77年度9.4億ポンド,78年度12億ポンド),②年金受給者にたいするクリスマス・ボーナス(総額約1億ポンド,予備費より),③公共支出増額(78年度に公共事業4億ポンドなど約10億ポンド。7月発表の措置を含む)などであり,77年度約10億ポンド(76年GDPの0.9%),78年度約20億ポンドの財政負担増となる。

この結果,77年度の所得税減税は,すでに適用されている当初予算および7月の修正分(平年度22.9億ポンド)に加えて総額32.3億ポンドとなりGDPの約3%に相当する大幅なものとなっている。これを1人当り所得にすると週5ポンド(平均6.5%)の収入増に相当すると政府はみている。

10月の措置により,成長率は78年1~3月期に1/2%,79年1~3月期に約1%加速されると推定されている。また,政府部門赤字額は77年度75億ポンド,78年度70億ポンドとなるが,IMFと約束している抑制枠(77年度87億ポンド,78年度86億ポンド)のなかにおさまっている。

第3-10表 イギリスの財政収支

7. 経済見通し

77年の景気回復は弱いものにとどまっており,政府は10月末に77年度予算案発表時(3月末)の成長見通しを下方修正した(実質GDPl.2→0.4%)。

輸出は好調をつづけ,製造業固定投資も回復基調にあるものの,個人消費が上期に実質個人所得の低下から予想以上に落込み,政府支出も実質ではほぼ横ばいに抑えられたことによる。

78年については,10月末の景気刺激措置もあって,より早いテンポで景気回復がすすむと政府はみている (78年下期の実質GDPは前年同期比3 1/2 %増,77年下期は同 2/2 %増)。

また,世界工業品貿易が78年には工業国の景気回復によって実質約9%増の拡大をつづけることを前提に,イギリスの工業品輸出は好調な伸びを続けると期待され,また北海石油の生産増もあって,輸出は実質6~7%の増加となるとみる。この結果,対外面での改善はさらにすすみ,78年の経常収支黒字は15億ポンドにのぼるとしている。

第3-11表 イギリス経済の見通し

内需の回復もひろがりを示し,産業固定投資の増加に加えて,個人消費の著しい回復,政府支出の小幅増,住宅投資の回復が予想され,在庫投資も78年下期にはかなりの拡大要因になるとみている。

こうしたことから雇用情勢は改善にむかうと政府はみている。一方,物価も77年央以降の鎮静化傾向をつづけるが,平均賃金収入の上昇が15%程度になれば,78年のインフレ率は依然として二桁台にとどまる可能性もあるとしている。

こうした政府見通しにたいして,NIESR(全英経済社会研究所)は,賃金収入の上昇率15%,消費者物価上昇率8%,78年度予算による10億ポンドの刺激措置を前提として,78年については3.4%の成長率になるとみている。

第4章 西ドイツ

1. 概  観

西ドイツ経済は,76年夏頃の一時的な足踏みのあと,秋頃から内需を中心に再び景気上昇テンポの高まりを見せ,実質GNPも第4四半期には年率5.7%増と回復を示した。とりわけ設備投資に盛上りの気配が見られたこともあって,77年の景気動向についても楽観的な見方が多く,政府は5%の成長が可能であるとして,追加的刺激策をとるべしとの米・英などの要求を拒否し続けた。

しかし,77年の経済の動きは予想を大きく裏切り,春から夏にかけては停滞が続いた。実質GNPも77年1~3月期には前期比年率3.8%増へ減速し,4~6月期,7~9月期にはそれぞれ年率0.8%減,0,4%減と,ほとんどゼロ成長となり(第4-5図),77年全体の成長率は2,5%程度にとどまると見込まれている。

この景気停滞の原因としては,(1)近隣の貿易相手国の景気回復の遅れによる輸出の伸び悩み,(2)操業度が低く設備投資が盛上らなかったこと,(3)在庫投資が減少したこと,(4)財政健全化のために財政政策が慎重だったこと,などが考えられる。

景気停滞が続き,失業も増大するにつれて,当局も刺激策の採用に踏み切らざるをえなくなり,8月の金融緩和につづいて,9月には財政上の刺激策が決定されるに至った。

秋になると在庫調整が一段落したうえに,景気刺激策の効果もあって,内需を中心に回復テンポが持直すきざしが表われてきたが,操業度はまだ低く,輸出も盛上りに乏しい。

物価沈静化傾向は77年も続いたが,大量失業の改善は見通しが立たず,問題は78年に持ち越された。

2. 需要動向

(1)個人消費‐景気を下支え‐

個人消費は76年において景気回復の大きな要因となったが,77年上期もひき続き景気支持的役割を果たした。 76年の名目の伸びは前年比8.2%増と,75年の同8.9%増を下回ったが,インフレが沈静化したため実質では,3.6%増で75年の2.5%増を上回った。77年上期は,賃金俸給所得の増加率が低かったため,可処分所得は名目,実質とも前期より伸びが小さかったが,財形貯蓄の解除などから貯蓄率が下ったため,実質個人消費は,前期比1.2%増と,76年下期の同1.3%増とほぼ変らぬ伸びを示した (第4-1,2表)。7~9月期には財形解除の影響もあるものの,貯蓄率が13.6%へ大幅に下って消費に回り,実質個人消費は前期比2.O%の増加となって景気を下支えした。

第4-1表 実質GNPと主要需要項目の動き

第4-2表 可処分所得と個人消費の動き

個人消費を小売売上高で見ると,77年1~3月期に急増の後,4~6月期は中だるみを示したが,年央以降は再び回復してきた。これには,財形貯蓄第4-3表小売売上の動き,品目別が1月(約80億マルク)と7月(約150億マルク)に解除になったことが影響しており,特に7月の場合はかなりの部分が消費に向けられたと見られている。

品目別に見ると(第4-3表)77年上期は,自動車の売上げが引き続き好調で,77年は史上最高になると見られている。家具類も好調な伸びを示した。これは景気刺激策の一環として建設が促進された住宅の多くが完成に達したためと見られる。

第4-3表 小売売上の動き,品目別

なお,後述のように9月に決定された所得税のクリスマス控除の引き上げが,77年から実施されるうえに,78年1月からの付加価値税の1%引き上げを見越しての買い急ぎなどから77年末にかけて消費需要は伸長することが期待されている。

(2)設備投資‐盛上りに欠けた‐

機械設備投資は,投資補助金(76年6月末までに完成したものに対して支給される)の影響で,75年下期から76年上期にかけて一時的な盛上りを見せたあと,7~9月期には反動減となった(第4-1表,第4-1図)。その後,10~12月期には前期比7.1%と急増したが,77年に入ってからは7~9月期までほぼ横ばいを続けている。機械設備投資の先行指標である資本財国内受注は既に77年はじめから減少傾向を見せていたが,7~9月期以後かなりの増大を示している(第4-1図)。

第4-1図 設備投資関連指標

産業用建設需要を許可容積で見ると,やはり投資補助金(77年6月末までに完成したものに対して支給される)の影響で75年10~12月期はピークとなったが,76年10~12月期までの一年間に36.5%も減少して,75年前半の水準まで戻ってしまった。その後77年上期にはやや持直しが見られたが,7~9月期には再び減少した (第4-1図)。産業用建設需要が低迷しているのは,企業の設備投資が合理化や設備更新を主として,拡張投資が少なかったためと見られる(第4-4表)。

第4-4表 製造業設備投資の目的別構成

このように,77年に入って設備投資全体として盛り上りに欠けているが,この原因としては,操業度が低いうえに(第4‐5表),輸出を申心に最終需要の増勢が鈍化したこと,発電所や道路建設など,大型プロジェクトの実施が環境規制の強化や住民運動の高まりで阻止され中期的な見通しが立ちにくいこと,また76年にはかなり増加した企業利潤が77年に入って減少したことなどが考えられる。

第4-5表 製造業操業度

(3)住宅建築‐改善のきざしー

住宅建築を建設許可容積で見ると,1971~72年のブーム期の建てすぎや(第4-2図),地価・建築価格の高騰などから75年央頃まで大幅に減少した。その後,75年8月に景気刺激策の一環としてとられた旧住宅の近代化に対する助成措置・住宅金融利子補給とつなぎ融資(76年3月末までに許可申請したもの)などの効果もあって持ち直し,76年春頃までかなりの回復をみせた。しかしその後は前記措置の期限切れから再び減少に転じ,77年1~3月期には前年同期比17.2%の減少となった。そこで政府は77年5月に,社会住宅建設計画(年間建設戸数6万戸)の77年分に3万戸上乗せし,さらに77年末で期限が切れるところを78年以降も継続することを決定した。この効果のほか金利の低落(第4-9図)や所得の回復もあって,許可容積も春以後ゆるやかながら回復を示している。

第4-2図 住宅建築許可容積

(4)輪出‐伸び率鈍化‐

輸出(GNPベース,実質)は76年上期には前期比7.9%もの増加を示して(第4-1表)最大の景気回復要因となったが,下期には3.7%増と増加テンポが半減し,さらに77年上期には1.3%増へ落ち込んで成長鈍化の大きな要因となった。

商品輸出の動きで見ると,75年の7~9月期から76年の7~9月期までの一年間は実質で17.0%の大幅増となったが,その後77年の7~9月期までの一年間ではわずか2.8%増で著しく停滞的となった(第4-3図)。

第4-3図 商品輸出入の動き

また先行指標である製造業の輸出向け新規受注で見ても (第4-4図),75年4~6月期の底から76年4~6月期までの一年間に23.2%増加したが,その後77年4~6の月期は前年同期比4.7%増であり,7~9月期には前期比5.5%減と落ち込んでいる。

これには西ドイツの重要な貿易相手国であるフランスやベネルクス3国などの景気が停滞していることがひびいている。西ドイツの全輸出の約半分はEC諸国向けであるが,77年1~10月間のEC諸国向けの輸出は前年同期比5%しか増えていない(76年の前年同期比は21.8%増)。またソ連・東欧向けは減少を続け,1~10月間は同6.3%減(同2.1%増)で,これも響いている。

これに対して好調な景気上昇を続けているアメリカ向けの輸出は1~10月間に23.7%も増えている(同11.3%増)が,アメリカに対する輸出の割合は76年実績で6%弱と小さい。

第4-4図 製造業輸出向け新規受注

(5)在庫投資‐在庫再調整すすむ‐

75年中に在庫調整が終り,76年に積増しに転じたことから,在庫投資の変動が76年上期のGNPの増加に与えた影響は大きかった。ちなみに同期のGNPの前期比成長率3.7%のうち約1/3は在庫投資の増加によるものであった(第4-1表)。しかし,夏以降輸出を中心に個人消費・政府支出など需要の勢いが鈍化するにつれて意図せざる在庫の積み増しが起ってきたのではないかと思われる。77年に入って,上期は国際商品相場の落着きにもかかわらず,企業の在庫態度は慎重で原材料の積み増しということば起らなかったが,景気停滞のため製品在庫は増えたようである。特に1~3月期は大幅に増加したため,その後は生産調整を行ないながら在庫の適正化を図っていたようである。ただ9月以降景気に持ち直しの気配が見えており,これが続けば荷もたれ感は弱まっていくと見られる。

3. 生産・雇用

(1)生産・受注‐国内受注に回復のきざし‐

鉱工業生産ば,76年春から夏にかけての一服状態の後,10~12月期は前期比0.9%増,77年1~3月期は同1.8%増と持ち直したが,4~6月期(0.9%減),7~9月期(0.9%減)と減少し,生産は停滞的となった(第4-5図)。それでも秋口からはやや改善の気配がうかがわれ,9~10月の前2ヵ月比は,1.3%増であった。

製造業国内向け新規受注も77年1~3月期は前期比4.1%減,4~6月期もひき続き2.2%の減少となったが,7~9月期には刺激策の効果などもあって,4.4%増と持ち直している (第4-5図)。とくに資本財国内受注は夏から秋にかけて回復してきている(第4-1図)。

なお生産と受注の数字は,77年1月から全面的に改訂となり,それ以前の時系列とは厳密には比較できない面があり,それがまた77年上期中,政府や民間研究所の景気判断を困難にさせた一因ともなった。

第4-5図 実質GNP,鉱工業生産,製造業新規受注の動き

(2)雇用情勢‐再び悪化‐

雇用情勢は景気回復過程で一時改善されたものの,77年春頃からは生産活動の停滞を反映して再び悪化した。雇用者数は76年7~9月期からわずかながら増加に転じたが,77年4~6月期になると再び減少した(第4-6図)。失業者数は75年秋頃から減少 し,失業率も75年央の5.2%から76年末の4.4%まで低下したが,これは主として外人雇用者の帰国によるものであった(第4-6図)。その後,77年に入って失業者数の減少が止まり,春以降は逆にわずかながら増加し始め,失業率も77年5月には4.6%上昇し,その後11月まで4.6%を続けている。このため77年の失業率を4%弱に抑えるという政府目標の達成は不可能となった(76年の失業率は4.6%)。

百万人台の大量失業は77年も含めると3年連続となってしまい,問題の解決は78年に持ち越されたが,見通しは暗いようである。

第4-6図 雇用関連図表

4. 賃金・物価

(1)賃金‐賃金コストの上昇‐

賃金の上昇率ば75,76年と次第に小幅になったものの,77年に入って再び上昇テンポが高まった。賃金率(全産業,時間当り)の上昇率は75年の9.3%から76年には5.9%へ小幅化したが,77年上期には前年同期比7.O%と上昇率が再び高まった(第4-6表)。一方,賃金収入(全産業,1人当り)の上昇率は76年に前年比7.0%と賃金率の伸びを上回ったが,これは操短者数が前年に比べ大幅に減少したためである。77年上期も同様に賃金率の伸びをやや上回る7.2%となった。

第4-6表 賃金の動き

政府は1月末の「年次経済報告」で77年の雇用者1人当りの粗賃金収入の伸びを約7.5%と予測した。その後,春の賃上げ交渉では賃金リーダーである金属労組が1月末に6.9%プラスアルファ (計8~8.5%,要求9~10%)と,やや高めに妥結してその後の成行きが心配されたが,3月はじめに官公労組が5.3%プラスアルファ(計約6%,要求8%)という線で妥結し,雇用者全体の平均賃上げ幅は約7%と推定され,政府目標の範囲内におさまった。

第4-7図 生産性,賃金,賃金コスト

しかし,77年の実態経済が期待を裏切って停滞し,第4-7図を見てもわかるように,生産性が横ばい状態であったため,賃金コストが上昇し,これが企業利潤を圧迫し,企業の投資態度に悪影響を与えたといわれている。

(2)物価-ひき続き安定‐

物価面では依然としてスイスに次ぐ低い上昇率を示している。消費者物価の上昇率は75年の前年比6.O%高のあと,76年は4.5%にとどまり,76年末には前年同月比4%を割った (第4-7表,第4-8図)。77年に入ると,年初のタバコ税,酒税の引上げや食料価格の高騰などで一時上昇率が高まったものの春以降は再び落ち着きをとり戻し,11月の前年同月比上昇率は3.7%にすぎず,77年全体でも4%弱と見込まれている。

第4-7表 消費者物価上昇率

第4-8図 物価の動き

工業品生産者価格の上昇率も75年の4.7%から76年3.9%へ低下した(第4-8表,第4-8図)。77年に入って年初はそれでも前年同月比4.2%高であったが,夏には2%台を割り11月には1.7%高にまで落ち着いた。西ドイツの物価がひき続き安定的であったのは,賃金コストは上昇したものの,マルク相場の上昇や春以降の国際育品相場の低落によって,輸入品価格が落ち着いたこと(第4-9表,第4-8図),また景気不振によって競争が激化したことなどが作用していると思われる。

第4-8表 物価の動き

第4-9表 輸入品価格の動き

5. 国際収支

‐黒字幅縮小‐

国際収支面では経常収支黒字幅の縮小傾向が続いている。黒字額は74年の251.3億マルクから75年には93.8億マルク,76年は84.6億マルクへと縮小し,77年1~10月間には39.2億マルク(前年同期は57.O億マルク)となった(第4-10表)。

経常収支の内訳を見ると,77年1~10月間の貿易収支(中介貿易などの補助的取引を含む)は,輸入の停滞を反映して309.6億マルクの黒字と前年同期の281.7億マルクを上回る黒字となったが,旅行支出の増大などから貿易外収支は,前年同期に比べ赤字幅が拡大した(第4-10表)。

第4-10表 国際収支の動き

他方,資本収支は75年には長期資本の流出により経常収支を上回る赤字を計上したが,76年には短期資本の流入により,小幅ではあるが73年以来3年ぶりの黒字となった。77年1~10月間は,再び長期資本が多額に流出したが,マルク急騰による投機的な短期資本の流入も大きかった。同期の基礎収支は87.7億マルクの赤字であった。

総合収支で見ると,74年,75年の赤字から76年には87.9億マルクの黒字に戻ったが,77年1~10月間は16.5億マルクの黒字と,経常収支の黒字幅縮小を反映して総合収支黒字額も小幅になった。

6. 経済政策

(1)慎重だった財政政策

77年の財政政策は景気回復の促進に重点が置かれていたが,76年以後インフレ再燃の警戒や財政赤字縮小の見地から,財政政策は著しく慎重となり,結果的には景気回復を阻害する一因となった。77年1~10月間の連邦政府の財政支出を見ても前年同期比4.1%増にとどまり,物価上昇を考慮すると,ほとんど前年と変わらなかった。

1月末閣議決定された1977年度(1~12月)予算案は歳出額1,718億マルクで前年度実績込み比6.2%増,一方財政赤字は232億マルクで,前年度実績見込みを30億マルク下回るものであった。同時に決定された中期財政計画(1976~80)においても財政赤字の漸次縮小が目ざされていた。なお77年度予算案はその後議会審議の過程で歳出額1,713億マルクに減らされ,財政赤字も211億マルクとさらに縮小された。

3月には,特別公共投資計画(1977~80)が閣議決定された。これは4年間に総額160億マルクの公共投資を行ない,交通・上下水道・住宅環境・エネルギーなど各種インフラストラクチャーを拡充して経済成長を中期的に支援しようとするものであり,77年については発注ベースで35億マルクが見込まれた。

5月になると景気停滞や雇用改善の遅れを背景に,一連の雇用対策と前述の社会住宅の増強計画が発表された。また78年1月からの付加価値税の引き上げ幅が2%から1%に縮小される一方,財産税などの各種減税,児童手当増額などは,予定通り実施されることが決定された。差引きで約10億マルクの減税となる。

その後政府は,財政面からの新たな刺激措置は,財政赤字の縮小やインフレ再燃防止の観点から採れないとしていたが,景気情勢の悪化が明白となった夏には,ついに新たな措置の必要性を認め,9月央減税や減価償却率の改善などを含む景気刺激策を決定した。議会審議を経た結果,主な内容は,①77年より所得税のクリスマス控除を引き上げる,②77年9月1日に遡及して減価償却率を改善する,③78年より所得税の基礎控除を引き上げる,④78年より所得税の所得控除を導入する,というもので,減税規模は総額109億マルクとなる。

刺激策の閣議決定と同時に発表された78年度予算案も歳出額1,886億マルク,前年度予算比10.1%増とされ,77年度予算に比べるとかなり積極的なものとなった。また連邦財政赤字を漸次縮小するという計画も一時中断され,78年度の赤字は278億マルクと,前年より67億マルク拡大すると見積られている。

州および市町村の78年度予算についても政府は大幅な拡大を要請している。

(2)金融政策‐国内流動性の増加‐

連銀は,77年の金融政策を運営するに際して,インフレをさらに抑制し,同時に経済成長の力強い伸びを達成することを目標として中央銀行通貨の増加率目標を年平均8%と決定した(76年12月)。

77年3月になると,短期金融市場の逼迫や,納税期の季節的資金需要の増大に対処するため手形再割枠が25億マルク拡大される一方,売戻し条件付手形買オペレーションの実施が発表された。

さらに5月央には納税資金・行楽資金など通貨需要増を考慮して最低準備率の5%引下げと,再割枠の25億マルクの拡大が決定された(ともに6月1日実施)。

連銀では上記二措置の実施に際してあくまでも季節的な流動性供給の為で政策運営基調の変更ではない旨を強調した。実際,上期のM3の伸びは7.4%(季調後,年率)で目標内におさまっていた。

しかし景気の停滞,失業の増大が明らかになるにつれて,連銀も緩和策に転じ7月にはロンバート・レート(債券担保貸出金利)が0.5%引下げられ(4.5%→4%),8月末には最低準備率の10%引下げ(9月1日実施),再割枠の20億マルクの拡大,と相次いで緩和措置がとられた。

こうした緩和措置のほか年央の財形貯蓄の解除やマルク相場の強調による外資の流入,国内貸付の急増などからマネーサプライは増勢を強め,1~9月間のM3の伸びは10.5% (季調後,年率)に達し,連銀も77年全体では8%の目標を上回って9%以上になるとみている。他方,金利の動きは相次ぐ流動性緩和措置などから低下傾向をたどり,当座貸越金利で見ると,76年末8.3%台だったものが,77年央には8%台を割り,10月には7.7%台まで下った(第4-9図)。

第4-9図金利の動き

その後12月になると,外資流入によるマルクの急騰と国内の過剰流動性に歯止めをかけるため公定歩合の引き下げ(3.5%→3%)と,債券担保貸出金利の引き下げ(4%→3.5%),及び一連の外資流入規制措置がとられた。同時に78年の中央銀行通貨残高の増加率目標も77年と同じ年平均8%と決定され,緩やかなマネーサプライの増加が目指されている。

7. 経済見通し

78年の経済見通しについて,政府は9月央に景気刺激策を決定した時点では,その措置の効果により実質成長率4.5%は可能であると見ていた。

しかし,民間の調査機関は政府の見方よりも悲観的であり,10月下旬発表の五大研究所の秋季合同報告では3%,同じ頃発表された財界の研究所では2.5%,労組の研究所では3.5%,という予測であった。

さらに,11月下旬の五賢人委員会の答申によると78年の実質成長率は3.5%という予測であった。これは78年の世界貿易の伸びを5.5%(77年5.5%)とし,それに基づく西ドイツの輸出量5%増(2.5%増),  および建設投資5.5%増(2.5%増),政府消費3%増(1.5%増)とそれぞれ77年を上回る伸びが予想されるところから算定されたものである。しかし,78年の成長率は年末から年初にかけての賃金交渉の結果いかんに大きく左右されるとし,賃金上昇率5%の場合の成長率は3.5%であるが,賃金上昇率が3%に抑えられれば,成長率は4.5%が可能であり,賃金上昇率が7%と大幅になった場合は成長率は2.5%にとどまるであろうと見ている。

政府もその後78年の見通しを下方修正し,12月上旬に,税収見通しの基礎として78年の実質成長率を3.5%と発表した。

77年を通じて安定していた物価は,78年も沈静化傾向が続くもようで,78年のインフレ率は3.5%(政府筋)と,77年見込み4%弱をさらに下回りそうである。

しかし,百万人台の大量失業については,78年もそのまま残るのではないかという悲観的な見方が多い。

第5章 フランス

1. 概  観

内外不均衡の是正とインフレ抑制を目指して76年9月に打出された「インフレ克服計画(バール・プラン)」という引締め政策のもとで,77年のフランス経済は総じて停滞色につつまれた。輸出は比較的好調に推移したのに対し,国内需要が概して不振を続けたことが生産の停滞を招いた。

この間,失業者の増勢が続き,秋口にようやく落ち着きをみせたものの依然高水準にあり,消費者物価も根強い騰勢を続けた。一方,対外面では,フランの安定,貿易収支の大幅改善など,バール・プランはかなりの成果を収めた。

こうした景気停滞のなかにあっても,政府の政策態度は慎重であり,雇用促進策,不況業種へのテコ入れ策など「選択的」政策がとられたにとどまった。

政府はこれまでのところ,基本的には76年秋以来の経済運営方針を今後も継続するとしていることから,今後の景気回復も緩やかなものにとどまろうとの見方が多い。

2. 需要動向

(1)低迷する個人消費

76年には底固い動きで景気回復の支えとなっていた個人消費(実質)は,76年末から77年初にかけ,一時的要因(物価凍結期間中の買急ぎなど)から,かなりの伸びを示したものの,その後伸び悩み,  1~3月期は前期比ほぼ横ばいとなった。4~6月期にはいると消費の低迷ば一層明瞭となり,たとえば,乗用車新規登録台数も今回復期で初めて前期比マイナス(7.9%減)となるなど,全体では前期比0.2%減と落ち込んだ。その後,卸・小売業者の在庫処分のためのバーゲンセールなどにより,夏場一時的に盛り上がったものの,長続きせず,秋にかけて再び減少に転じた(第5-1図)。

第5-1図 小売売上げ数量

このように消費支出が低迷を続けているのは,①賃金抑制策と引続くインフレから実質購買力の伸びが目立って減少してきている,②雇用情勢の悪化,引続くインフレにより,消費者必理が沈滞しているためとみられるほか,特に4~6月期には,長期国債(欧州計算単位による価値保証付)が発行(当初60億フラン,その後20億フラン追加)され,かなりの部分が個人投資家によって買われたことも消費に少なからぬ影響を与えた。

(2)盛り上がらぬ設備投資

76年の粗固定資本形成は,実質4.5%増,民間企業投資も5.6%増と,かなりの伸びを示した。しかしその動きをみると,上期の好調な伸びと,下期の停滞は対照的である。これは,75年にとられた投資減税の効果が薄れるとともに,76年9月から引締め策に転じたことも加わって,民間企業投資が落ち込んだためとみられる。77年にはいってからも,上期でば年率2%強の伸びにとどまるなど,盛り上がりに乏しい(第5-2図)。I.N.S.E.E.(国立統計経済研究所)の製造業設備投資予測調査(11月)でも,77年は実質約2%増と予測されており,前回調査(6月実施)の4%増から下方修正されている。また,自動車,ガラス,石油部門ではかなりの伸びが予想されている反面,金属,航空機,造船など不況業種では減少を見込むなど業種間格差も目立っている。

第5-2図 粗固定資本形成推移

(3)かなり慎重な在庫政策

75年の大幅な在庫調整のあと,76年前半は総じて需要が強かったことから,かなりの在庫積増しが行なわれたとみられる。しかし,年後半になると,受注が頭打ちの傾向をみせはじめ,生産も伸びを鈍化させるにしたがい,企業の在庫過剰感は徐々に高まりだした。特に流通在庫は,7~9月期の消費財生産が急テンポで上昇したことから,過剰感の高まりは急速であった。77年にはいり,内需の不振が明瞭となり,意図せざる在庫の増加,高金利による企業財務への圧迫もあったことから,企業の在庫政策は厳しさを増していった。秋口になって,ようやく在庫過剰感にも頭打ちの様相がみられるようになったが,過剰感は依然強く残っており,受注の先行きにも多くは望めそうにないため,今後も慎重な在庫政策が続くとみられる(第5-3図)。ちなみに,76年の在庫投資が,182億フラン(名目)とかなりの水準(70~74年の年平均は213億フラン)であったのに対し,77年は109億フランと予想(77年9月政府見通し)されており,一年前の見通し(200億フラン)の約半分と,予想外の落ち込みとなっている(第5-8表参照)。

第5‐3図 企業の在庫水準判断

3. 生産・雇用

(1)停滞続く生産活動

鉱工業生産(土木・建設を除く)は,76年上期までは,自動車等の消費財産業や中間材産業を中心に順調に回復した。しかしその後,渇水によるエネルギー生産の増加など一時的要因から増加をみせたものの,秋口からは,主として国内需要の伸び悩み傾向から,生産の増加テンポは鈍化した(76年上期は年率14.5%の増加テンポに対し,下期は4.1%)。77年にはいると,国内需要の不振が続いた反面,自動車,資本財を中心とした輸出の好調から,生産が一時的に増加(1~3月期は前期比年率13.4%増)したものの,輸出の伸びが一服状態となった4~6月期には,落ち込み,生産水準は,76年下期のレベルに逆戻りした。その後も輸出が資本財を中心に盛りかえしたものの,総じて受注が不振であり,在庫圧力も強いことから,企業はかなり厳しい生産調整をしているとみられ,7~9月期の生産も横ばいを続けている(第5-4図)。

第5-4図 鉱工業生産

このように77年の生産活動は,資本財部門で夏にかけて回復してきているものの,総じて停滞的となっている。今後の見通しは,厳しい生産調整の結果,在庫の過剰感は頭打ちとなっているものの依然高く,受注の回復もはかばかしくないことから,当面は,現行水準なみで推移するものとみられる。

土木・建設活動も低迷を続けている。76年7~9月期に低下をみせたあと,10~12月期に若干回復し,77年1~3月期も同水準を維持した。しかしその後,生産活動は低下を続け4~9月期に前期比4.1%減,7~9月期,同1.2%減と低水準に落ち込んだ。政府は,4月,8月と発動を決めた景気調整基金の使途を土木・建設活動に重点的に配分するなどテコ入れを実施しているが,+の規模もさほど大きくないことから,下支え程度の効果にとどまろう。

(2)深刻さを増した雇用情勢

生産の停滞にともない,雇用情勢は悪化を続けた。求職者数は77年9月から減少傾向を見せはじめているものの高水準にあり,情勢は依然厳しい(第5-5図)。

第5-5図 雇用情勢の動き

75年不況からの回復期に,生産増加にもかかわらず減少をみせた雇用者は,76年にはいりようやく増加に転じ,4~6月期にかなり増加したものの,75年不況期の水準にまで達することなく弱含みになり,生産が停滞するにつれ,再び減少をはじめその後も低水準にとどまっている。これは,75年不況期に企業が操短労働者をふやし,労働力そのものの削減をあまりしなかったために,潜在的に過剰雇用をかかえていたところへ,76年秋から生産が停滞し,企業が過剰人員の圧縮をはかりだしたためとみられる。雇用面での悪化現象は,ほとんど全ての産業でみられるが,比較的好況な自動車産業では,今回復期間中,ほぼ一貫して雇用者は増加しているのに対し,鉄鋼,繊維など不況業種では,回復期にありながら雇用者は減少を続けるなど業種間格差が目立つ。

こうした雇用情勢を反映して,求職者数は76年下期にやや減少をみぜたものの,76年12月の93万人を底として77年にはいると,急テンポで増加しだし,2月に戦後最高を記録してから8月まで7か月連続記録を更新し続け8月は121.6万人となった。一方,未充足求人数は,76年9月から減少を続け,77年6月には9.3万人と,ここ数年で最低の水準に落ち込んだ。

近年の失業の特徴は,本文(第2章第1節)でも指摘した通り,女子失業者の増大,若年失業者の増大であるが,特に若年失業者の問題は深刻で,新規学卒者の参入した77年7月には全体の58.2%を占めるに至っている。こうした問題に対処するため,76年12月の雇用促進策に続き,77年4月には,若年失業者対策として,①77年末までに若年者を採用した企業について,当該採用者にかかる企業の社会保険料を国が肩代りする,②定年前退職制度の適用対象の拡大,③職業訓練受講の促進,などの措置を決定し,7月より実施した。またこれに呼応して,フランス経団連も6月に「77年末までに30万人の雇用機会の創出を推進する」と表明し,失業対策にとり組むこととなった。

このような対策の効果もあって,未充足求人数が,7月より増加に転じる一方,求職者数は,9月,10月と2か月連続して減少を示した。政府によれば,10月末現在で,4月の対策により,26万人の雇用が創出されrことしている。

しかし,求職者数の水準そのものは依然高いうえ,若年者の割合も46.3%(10月末現在)にのぼっており,今後の生産活動の回復も当面多くは期待出来そうになく,更に求人と求職のすれちがいなど構造問題もあることから,失業問題は依然として厳しいものがある。

4. 物価・賃金

(1)消費者物価:根強い騰勢続く

76年秋のバール・プランは,物価に関する限り,その目標(年間の消費者物価上昇率を6.5%に抑える)を達成しえなかった。

76年秋以降の消費者物価の動きをみると,暫定的物価凍結(食料品を除いて76年12月末まで〈但し公共料金は77年4月1日まで,〉),77年1月からの付加価値税率の引下げの効果が年末,年初に現われ,76年12月,77年1月に,それぞれ前月比0.3%高と騰勢は著しく弱まっ1こ。しかし,その後,価格凍結が解除されると,再び騰勢が強まり,4月には,前月比1.3%高と高騰をみせるなど,4~6月期の期間内上昇率は各品目とも軒並み大幅な上昇となり,再び二桁インフレのテンポとなった。これには,4月に公共料金の値上げがあったほか,春先の天候不順や,輸入食料品の高騰から,食料品価格が大幅に上昇したことなども物価上昇に拍車をかけた。その後も,やや上昇テンポは鈍化したものの,依然,年率9%を越える上昇を続けている。

77年1月~10月までの上昇率を76年のそれと品目別に比較してみると,食料品11.8%(76年9.8%),工業品6.2%(同6.3%),サービス8.1%(同11.O%)となっており,食料品の高騰が自立つ(第5-1表)。こうしたことから,政府の物価政策も食料品価格抑制に力が置かれ,6月には,①青果物業者に対するマージン規制の実施,②一部品目(コーヒー,ココアなど)の価格凍結を実施したほか,長期的視点から,①流通機構の改善,②労働移動の促進,③物資節約などの物価対策の大綱が決定されrこ。更に11月には,①一部食料品価格の規制(小売価格の上限設定など),②流通機構の改善促進(スーパー・マーケットの開設促進)などの措置が講じられた。

第5-1表 消費者物価(品目別)の推移

(2)賃金の伸びは鈍化

76年に年率14~15%の上昇をみせた賃金はバール・プランの「賃金上昇抑制勧告(原則として,賃上げを購買力維持の範囲に抑える)」の効果もあって,77年にはいり,その上昇テンポは鈍化し,10月の前年同月比は,12.1%高(76年10月は14.9%高)となった。物価の上昇分を差引いた購買力も大きく伸びを鈍化させ,77年下期には,年率2%程度の伸びとなり,労働時間も下期には前年同期を1%程度下まわっていることから,実質所得は最近ほとんど増えていないとみられる(第5-6図)。

第5-6図 労働者(非農業)時間当り賃金率の動き

一方この間,最低賃金は,消費者物価にスライドして引上げられたほか,7月には一般所得の上昇に見合った引上げが行なわれたことから,12月までに12.5%(77年1月8.94→77年12月10.06フラン)上昇した。

政府は78年についても,全体として賃金上昇率が物価上昇率を上まわらないよう既に勧告(所得階層により原則適用の強さは異なる)し,賃上げ抑制継続の姿勢を示している。こうした二年続きの緊縮政策に対し,労組は反発を示し,かなり広範囲のストライキが行なわれるなど不満の声もあるが,インフレ鎮静を最重点課題としている政府としても,賃上げ抑制は重要な要素だけに今後の動向が注目される。

5. 貿易・国際収支

(1)景気を下支えした輸出

76年前半に,先進諸国の景気回復を主因に急速な伸びを示した輸出は,76年後半にはいると先進国の景気上昇テンポが鈍化したのに加え,干ばつによる農産物不作の影響を受け食料品(全体の輸出の14~15%を占める)の輸出が目立って減少したことから,輸出全体の増加テンポも,下期には四半期当り平均5.3%とやや鈍化した(上期ば平均7.5%)。

77年にはいってからは,4~6月期に伸び悩みをみせたものの,自動車等消費財関連を中心に,工業品が比較的順調に伸びたため,概ね堅調に推移し,内需の停滞をカバーする形で景気下支えの役割を果した。これは,①76年のフラン下落により,輸出競争力が強まった,②内需の不振から輸出ドライブがかかったことなどによるところが大きい。

一方,輸入は76年下期に,干ばつの影響から農産物や,エネルギーの輸入が増加したのに加え,年末にかけては, OPECの原油値上げを見込した駆け込み購入,また一次産品価格の値上りといった外的条件の悪化などから,年率42.7%と急増した(上期は36.8%増)。しかし,77年にはいると,農産物輸入は増加傾向を続けたものの,その他の品目は,景気停滞を反映して,総じて伸びが急速に鈍化し,77年上期は,年率4.9%の増加にとどまった。その後も,7~9月期に前期比3.6%増と落ち着いた動きを示している。特にエネルギーは,政府の原油輸入限度額目標(550億フラン)もあって,輸入の伸びが大幅に鈍化しており,4~6月期には,前年同期比で僅か9%増となっている。

第5-2表 輸出入及び貿易収支動向

第5-3表 地域別貿易

第5-4表 商品別貿易

(2)貿易収支の改善続く

76年下期には,輸出の伸びの鈍化,輸入の急増,加えて76年秋までのフランの下落の影響もあって,貿易収支(季節調整値)は,158.9億フランの赤字(上期は47.1億フランの赤字)と,大幅に悪化し,76年全体でも,74年の赤字幅を上まわった。しかし,77年にはいると,輸出の堅調,輸入の落ちつきから改善傾向が続き,特に9月,10月には,約2年ぶりで,小幅ながらも黒字を記録するに至り,1~10月累計では103.9億フランの赤字と,前年同期の154.5億フランより大幅に改善された。

こうした貿易収支の動きを反映して,経常収支(原数値)も,76年下期大幅悪化のあと,77年にはいり改善をみせ,その赤字幅は1~9月で138億フランの赤字と,前年同期の205億フランの赤字から大幅に縮小した。 一方資本収支の動きをみると,長期資本収支は,76年には前年の小幅な黒 字から53億フランの赤字へと一変した。これは,輸出信用の増加に加え ,恐らくはフランス経済の先行き懸念から,対外証券投資,直接投資が増加し たことによるとみられる。この間,対外ポジションは,フラン売り圧力(特に76年1~3月期)に対する介入などにより大幅に悪化し,外貨準備も76年中に大幅に減少した(75年12月→76年12月,23.8億SDR減少)。77年にはいってからは,フランが総じて安定しており,目立った投機的な動きもないことから,資本収支は改善傾向にあるとみられ,外貨準備も緩やかなテンポではあるが増加している。

第5-5表 国際収支動向

6. 経済政策

76年秋の「インフレ克服計画」により,引締めに転じた政策スタンスは, その後の景気停滞のなかで,各方面からの刺激策への転換の声にもかかわらず,基本的には変らなかった。しかし一方で,失業者の著増,一部産業の極度の不振に対しては,いわゆる「選択的」政策がとられたほか,社会保障給付金の増額など景気の失速を防ぐ配慮は払われた。

(1)金融政策

76年9月に,フランの軟化,インフレ懸念を背景に公定歩合が引上げられた後,一時的な動揺はあったものの,11月より短期市場金利は低下をみせはじめ,77年にはいってからも,総じてこの傾向が続いた(第5-7図)。これは,金融当局が,慎重ながらも金融緩和の方向に動いたためであるが,その背景としては,①フラン相場が落ち着いた動きを示したこと,②景気の停滞への配慮,③先進主要国の金利低下傾向などがあったものとみられる。こうしたなかにあって,公定歩合は,当局の引締め堅持の姿勢を内外に示す配慮から,据置かれてきたが,8月末にようやく1%引下げられた(10.5→9.5%)。

第5-7図 主要金利の推移

マネー・サプライ(M2)については,76年秋にその年間増加目標(12.5%)や,基準貸出枠の設定など量的調整のためにかなりきめ細かい管理方針が打ち出されたが,その後の動きをみてみると,76年末にかけ,早くもその伸びは鈍化し,77年1~2月にやや増加テンポを高めたもののその後は,急速に鈍化し,上期では年率10.4%程度の伸びにとどまった。その後,7月に中小企業向け基準貸出枠の一部緩和などの措置がとられたが,9月までは,年率12%前後の増加テンポで推移している。こうしたマネー・サプライの伸びの鈍化は基本的には,景気の停滞と見通し難などから民間の資金需要そのものがあまり強くないためであるが,対政府信用の伸びが,国債の発行もあって急速に鈍化していることも影響を与えている(第5-6表)。

第5-6表 マネー・サプライの動き

78年についても,政府はマネー・サプライの増加目標を12%と,77年より更に低く押え,名目GDP成長率(12.6%)並みに設定したのをはじめ,基準貸出枠の伸びも77年と同じ伸びに設定するなど,引続き慎重な金融政策運営がなされる見通しである。

(2)財政政策

77年にとられた財政政策は,「インフレ克服計画」という基本的な政策運営方針のなかで,小幅なものにとどまった。

当初均衡でスタートした77年度予算は,3月の第一次補正(公共企業の補助金増額など歳出増192.5億フラン,見直しによる歳入増92.5億フラン),11月の第二次補正(歳出増53.1億フラン,歳入増23.8億フラン)と二回にわたり補正されたが,いずれも物価上昇による経費増大など補正を余儀なくされたもので,景気刺激といった性格のものではなかった。二回の補正により収支尻は,予算上129.4億フランの赤字となっているが,現在の見通しでは160億フラン程度の赤字とみられている(76年は,178.8億フランの赤宇)。

77年にとられた財政面からの景気対策は,4月の若年失業者対策を中心とした「今後1年間の行動計画」(今年度国庫負担33.2億フラン),8月の学童手当増額など一連の景気テコ入れ策(総額約55億フラン)などであった。またその他に不況業種に対するテコ入れ策も逐次決定された。

第5-7表 1978年度予算法案概要

77年9月に発表された78年度予算案(第5-7表)をみると,「対外バランスの保持と,フランの安定を前提としながら,最近の景気停滞を考慮した」とのバール首相の発言にみられるように,大きな特徴として,①69年以来9年ぶりに当初から赤字予算を編成した,②歳出規模の伸びが過去2年と比較してかなり大幅になっていることがあげられる。歳出面では,資本支出,軍事支出の伸びが比較的低く押えられているのに対し,経常支出の伸びが,公務員の増員を押え経費の節約をはかる一方,第7次経済社会発展計画の重点施策を尊重し,社会保障の拡充をはかるなど全体で前年度比22.4%増と大きく伸びている点が注目される。その結果,歳出全体では,19.5%の伸びとなっている。他方,歳入面では,所得税減税(61.6億フラン)を盛り込むなど総額63億フランの減税を実施する一方,石油消費税の増税(50.8億フラン)など総額84億フランの増税措置をとり,全体で前年度比16.6%の増加を見込んでいる。

これを景気への影響という観点からみると,歳出規模は77年度第1次補正後予算比では,12.5%増と,過去2年(同じベースで76年度4.6%増,77年度6~7%増)より大幅な伸びとなっている。しかし,これは同時に発表された政府の名目成長率12.6%とほぼ等しくなっており,この点からすると「中立型」の予算といえよう。各界の反応をみても,現在の景況からすれば,今回の施策では,景気の回復,特に雇用情勢の改善は期待出来ないとの見方が少なくない。

7. 経済見通し

77年実質4.8%の政府の成長見通しは,その後,家計消費の停滞,投資の不振を主因に二度にわたって下方修正され,現在3.O%の成長と見込まれるに至った(第5-8表)。

第5-8表 経済見通しの推移

予算発表時(77年9月)に明らかにされた政府の78年度経済見通しは,①インフレの鎮静化,社会保障の拡充などから個人消費が回復する(77年3.0%増,78年4.O%増),②公共投資の増大,民間設備投資の回復から総固定投資が上向く(77年0.6%増,78年2.9%増),③輸出が農産物輸出の回復もあって引続き好調裡に推移する(77年6.6%増,78年8.1%増)ことなどから,GDP成長率は4.5%になるとしている。この見通しについては,78年3月の保革伯仲のなかでの総選挙という政治上の大きな問題があり,不透明な部分が多いが,①インフレ鎮静化などにより消費が上向く可能性はあるが,賃金抑制策など引締め基調は変らないことから,消費支出の予想伸び率は,やや楽観的である,②設備投資についても,最近企業の外部資金依存度がやや低下しているものの,(イ)依然過剰設備をかかえている,(ロ)需要の停滞と見通し難,(ハ)高金利政策の堅持など投資環境は必ずしも好転しておらず,I.N.S.E.E.の投資予測調査(前述)でも,78年の見通しは,実質増加率で77年をやや上まわる程度とされているなど,総固定投資に多くは期待出来そうにない,③78年の世界経済の見通し,特に西欧経済の緩慢な成長見通しから考えて,輸出の伸びが過大とみられるなど,全体的に楽観的にすぎるとの見方が多く(例えば,パリ商工会議所の見通しは,3.5%成長),バール首相自身も最近では,4.3%成長との発言もしている。このように78年も緩やかな成長にとどまるとすれば,完全雇用を目指した第7次社会経済発展計画(1976~80年)の平均成長率(5.5~6.O%)を3年続けて下まわることになり,雇用情勢の改善もほとんど望めないであろう。一方,物価については,①賃金の伸びの鈍化,②輸入原材料価格の落ち着き,③需給ギャップの大きさなどから判断して,政府見通しの6.5%高はともかく,77年よりは騰勢は鈍化するものとみられる。

第5-9表 主な経済政策

第6章 イタリア

1. 概  観

イタリア経済は76年初頭から引締め下にあり,秋以降それが一段と強化されたが,景気は76年中かなりのテンポで上昇した。しかし77年春以降は引締め効果の浸透からは調整局面に入り,生産は停滞色を強め,雇用情勢も悪化を続けている。一方,懸案の物価は騰勢の弱まりをみせ,国際収支の改善も顕著であり,リラは安定した動きを示している。こうした背景で為替管理が段階的に緩和され,外貨購入税(2月)に続き対外支払い預託金制度が全廃された。さらに公定歩合が6月と8月の2度にわたって引下げられるなど厳しい引締め政策に若干の手直しが行なわれた。

この間,アンドレオッチ政権は,IMF新規借款(約5.2億ドル)交渉を成功(4月)させたことによって対外的な信認を回復したが,対内的には与党キリスト民主党が共産党を含む5野党と当面の経済・社会政策について政策協定を締結(7月)させたことも今後の政策運営にとってプラスとなるであろう。

このようにイタリア経済は76年初めのリラ暴落が引金となって発生した経済危機からようやく脱却しつつあるようにみえる。

2. 需要動向

実質GDP成長率は,75年に戦後はじめてのマイナス成長(3.5%)を記録したあと76年には厳しい引締め下にもかかわらず5.6%とかなりの成長を達成した。しかし77年は引締め効果の浸透によって2~3%増にとどまると見込まれている(第6-1表)。

第6-1表 GDPと需要項目の推移

76~77年の需要動向を国民経済計算ベース(第6-1表)でみると,76年に景気回復をもたらしたのは,輸出(12.1%増)が好調であったほか民間非住宅投資(4.4%増),個人消費(3.2%増)の立直りや在庫投資(対前年GDP比2.6%増)が増加に転じたためである。しかし下期には輸出の増勢は高まったものの,在庫積増の一巡や個人消費の伸び悩みなどから回復テンポは鈍化した。77年上期には景気は停滞色を強めているが,これは在庫べらしの進展(対前期GDP比3/4%減),民間住宅投資の不振(年率1.5%減)に加えて輸出の伸び(7%増)が半減したからである。

なお,ISCO(国立景気研究所)によると,77年の実質GDP成長率を2~3%と見込んでおり,景気の下支え要因として輸出(8~9%増),個人・政府消費(2.5%増)のほか固定投資(5%増)をあげている(77年9月)。

需要動向の推移をISCOのビジネス・サーベイにおける経営者の受注・在庫判断でみてみよう(第6-1図)。これによると,受注は75年秋から急速な上昇を示し77年夏ごろまでこの傾向が続いたが,秋から減少に転じ77年に入って急落をみせている。国内受注,海外受注ともほぼ同様な動きを示しており,とくに国内受注の落込みが目立っている。完成品在庫は76年4~6月期に下げどまったあと横ばいに推移したが77年に入って急上昇を示している。

第6-1図 受注・在庫判断の動き

個人消費の動向をみると,全般的に鈍化傾向にあるなかで耐久消費財の指標としての乗用車の新規登録台数は2年つづいての減少のあと76年には10.5%増と回復した。その後も再三の値上げや引締めを背景として増勢は鈍化しているものの77年1~9月間で前年同期比7.9%増と着実に増加を続けている。こうした個人消費が鈍化をしながらも増勢を維持しているのは,労働協約改訂(76年1月)や賃金・物価スライド制による賃金の大幅上昇によるところが大きい。

3. 生産・雇用

鉱工業生産は75年の9.2%減から76年には12.4%とGDPの伸びを上回る大幅な増加となった。しかし77年春以降減少に転じており,1~9月の前年同期比では3.6%増にとどまっている。これを四半期別(当庁による季調値)にみると,75年秋から回復に転じ,76年春ごろまではかなりの上昇テンポをみせたあと増勢は鈍化したが,秋には再び大幅な増加を示し10~12月期には前期比6.1%増となった。しかし77年に入ると引締め強化措置の効果浸透もあって1~3月期2.9%増と増勢鈍化をみせたあと4~6月期5.1%減,7~9月期7.O%減(前年同期比4.2%減)と減少を続けている(第6-2図)。

第6-2図 イタリアの生産・失業・操業状況

つぎに,業種別の動きを,77年1~8月の前年同期比でみると,輸出の好調に支えられて機械(除輸送機器9.9%増)と輸送機器(7.8%増)が増勢を維持しているのに対して,食糧(1.1%減)が前年水準を下回っているほか電力(2.8%増),化学(4.5%増),金属(5.1%増)などもわずかな増加にとどまっている。しかし比較的好調な輸送機器にしても春ごろまでの生産増加を反映したものであって,これを四半期別にみるとその停滞の深刻さが明確となる。すなわち,乗用車生産は前年同期に比べ1~3月期の18.5%増から減少に転じ7~8月平均では21.2%と急減している。鉄鋼生産をみても1~3月期の10.1%増から7~9月期には6.7%減とかなりの悪化を示している。

このような生産活動の停滞は,製造業の操業率の推移によっても確認される(第6-2図)。とくに投資財部門(77年7~9月期の操業率70.2%)の不振が顕著である(同中間財71.3%,消費財同72.6%)。

第6-2表 雇用情勢

生産の低迷を背景として雇用情勢も悪化傾向を続けている。求職者数は前年同期比で生産が増加傾向にあった秋ごろまで減少していたが,77年に入って急増に転じ4~7月期には8.9%増となっている。ISTATの失業統計(3か月毎に実施)は77年1月以降大幅に改訂され,過去との継続性はないが,新系列(原数値)でみると,失業者数は77年1月の145.9万人(失業率6.8%)から7月には169.2万人(同7.7%)に増加し,前年同月の水準を約45万人も上回っている(第6-2表)。産業相は11月下旬,77年末には失業率は9%に達するとの見通しを明らかにした。とりわけ,若年失業者数(14~29歳)は全体の3分の2を占め,その6割が南部イタリアに集中しており,深刻な社会問題となっている。このため政府は若年失業救済措置法による積極的な雇用対策を打出している。しかし厳しい緊縮政策による生産低下,経営悪化などから十分な実効があがっていないようである。イタリアでは不完全就業者や一時的就業者が多数存在しており,失業者数にこれを加えると,305.6万人(7月)となり,これは労働力人口の実にほぼ14%に相当しており,雇用情勢の深刻さを物語っている。

ストライキによる労働損失時間は,主要産業の労働協約改訂交渉(3年毎)が妥結した76年4~6月期に激減(前年同期比15.9%減)したあと減少傾向を続け,とくに,77年に入ってそれが目立っている(1~3月期57.2%減,4~6月期41.9%減,7~9月期12.9%減)。しかし今後は雇用問題の深刻化に加えて秋から始まるサービス産業の労働協約改訂交渉などを考えると,ストライキによる労働損失時間が再び増加するかもしれない。現に三大労組連合は政府の「景気後退」政策と増大する解雇・レイオフに抗議して全国規模でのストライキを呼びかけている。

4. 物価・賃金

物価は76年以降再び騰勢を強めたが,77年春ごろから内需不振,リラの安定化による輸入物価の落着きなどを背景として高水準ながら騰勢は鈍化傾向を示している。

第6-3図によって物価の推移を四半期別にみてみよう。卸売物価は76年10~12月期に前期比5.9%高と上昇率を高めたあと期を追って低下傾向を続け77年7~9月期には1.5%高となっている。前年同期比でみても76年10~12月期の31.2%高から77年7~9月期には14.9%高と上昇率はかなりの低下を示している。消費者物価もほぼ同様な動きをみせており,10~12月期の前期比6.4%高から騰勢は鈍化を続け77年7~9月期には3%高となっている(前年同期比では21.7→19.1%高)。

第6-3図 物価の推移

こうした物価の騰勢鈍化を反映して賃金もいぜん高水準ながら上昇率は低下傾向をみせている。すなわち,賃金上昇率を製造業時間当り賃金率でみると,76年夏ごろから急騰して77年1~3月期には前年同期比33.5%高となったあと低下をみせている。また,最低協約賃金(ブルー・カラー,工業部門)でみても年初来の騰勢鈍化は顕著である)77年1~3月期33.6%→7~9月期24%高)。しかし賃金上昇率はいぜん高水準にあり,生計費の伸び(7~9月期19.9%高)を上回っている(第6-4図)。このように賃金が騰勢鈍化をみせながらも高水準にあるのは,賃金・物価スライド制の抜本的改革が労組の反対で行なわれなかったためである。ただ,今後は年初来実施された各種の労働コスト軽減措置(企業の祉会保険負担の一部国庫肩代り等)によるコスト・プッシュ圧力の緩和(77年の政府見通しは当初の28%から19.6%へ下げられた)やスライド制の部分的手直しの効果などが期待できるので,当面は賃金の騰勢はモダレートなものにとどまるとみられる。

第6-4図 賃金と生計費上昇率の推移

5. 貿易・国際収支

国際収支は76年の大幅悪化のあと77年には著しい改善をみせている。

まず,第6-5図によって貿易収支(通関ベース)をみると,経済活動の回復に伴って輸入が急増し,輸出の伸びを大きく上回ったため,76年の赤字幅は5.4兆リラと前年の2.3倍に拡大した。これはOPECによる原油価格引上げを見越した石油の買急ぎや生産の拡大を背景として原材料在庫手当てが行なわれたことなどによるものである。非石油収支では一応黒字を維持したものの1.3兆リラと前年に比べ半減している。しかし77年春以降は赤字幅は,縮小し,7~9月期には173億リラと若干の黒字を記録している。こうした貿易収支の改善は,上期は輸出の好調と輸入の伸び悩みによるものであったが,その後は輸入の減少が輸出のそれを大きく上回ったからである(輸出の前期比伸び率は1~3月期6.6%増,4~6月期10.1%増,7~9月期7.3%減,輸入はそれぞれ0.0%減,5.4%増,14%減)。その結果1~9月間の累計赤字額は約2兆リラと前年同期(3.8兆リラ)に比べ大幅に縮小した。とりわけ,非石油収支の改善が顕著であり,7~8月平均の黒字幅(8,005億リラ)は前年同期のほぼ2.7倍となっている。

第6-5図 貿易収支の推移

経常収支(原数値,外為ベース)の赤字幅は,貿易収支悪化を主因として76年には1.6兆リラと前年に比べ拡大した。赤字幅の拡大傾向は77年春ごろまで続き1~3月期には2兆リラの大幅赤字となったあと4~6月期には著しく縮小した(192億リラ)。7~9月期は,貿易収支の黒字化,観光収入の急増などを考慮するとかなりの黒字を計上しているものとみられる。オツソラ外国貿易相も77年の黒字は1.5兆リラと前年の大幅赤字に比べかなりの改善を見込んでおり,その理由として,①観光ブームによる予想外の収入増,②リラ下落による輸出の好調,③交易条件の改善,④内需の急減をあげている(12月2日)。こうした経常収支の著しい改善によって,政府が新規借款取付けの条件としてIMFと合意したガイド・ライン(77年4月~78年3月で0.5兆リラの黒字)達成の可能性が強まってきた。

総合収支(原数値,外為ベース)は,76年には経常収支の悪化のほかりラ危機による資本流出の激化によって1兆277億リラの大幅赤字となった。しかし77年春ごろから赤字幅は縮小し6月以降黒字に転化しており,6月から10月までの累積黒字は約3.7兆リラに達している。その結果,77年1~10月間の総合収支尻でみても,1兆6,684億リラの黒字となり,前年同期の1兆9,139億リラの赤字から大幅に改善した(第6-3表)。

第6-3表 国際収支動向

こうした対外面での改善によって76年初頭には50億ドルを割っていた金・外貨準備は着実に増加して77年10月末には110億6干2百万ドルと史上最高を記録した。また,リラの対ドル相場も5月以降安定的に推移しており(3月末1ドル当り887.45リラ→10月末879.75リラ),イタリア銀行は,リラ相場の過度の上昇を避けるためドル買介入を実施していると伝えられている。

対外債務の返債も順調に進んでおり,74年のIMF借款(総額10億SDR)のうち9.5億SDRが2度(7月末7億SDR, 9月末2.5億SDR)にわたって返済されたほか,9月初めには対西独金担保借款(総額20億ドル)のうち5億ドルが予定通り返済された。

以上のように,対外面では顕著な改善をみせており,イタリア経済は「危機的状況」からは脱却しつつあるとみられる。しかし対外債務残高は現在でも約200億ドル(短期の銀行借款70億ドルを含む)の巨額に達している(9月6日,イタリア銀行)とみられており,その金利負担の重荷や新規借款の困難性などを考えると,依然として前途の多難が予想される。

6. 経済政策

前述のように,イタリア経済は75年秋ごろから回復に転じたが,76年初めにリラ危機が再燃,早くも引締め政策への転換を余儀なくされた。年初からの引締め措置によって夏ごろには対外面での改善がみられ,リラも小康を維持していた。しかし秋になると観光収入の減少や石油輸入の急増から国際収支が再び悪化し,激しいリラ投機に見舞われ,引締めが一段と強化された。

すなわち,政府は当面の緊急リラ対策として公定歩合引上げ,第2次特別準備金の設定,金融機関の信用枠の規制などの金融措置,外貨購入に対する課税,リラ先物取引制限などの為替管理強化措置を実施した。同時に財政赤字削減,個人消費抑制,労働コスト引下げを主眼とした経済再建緊急対策を決定した。これは5兆リラの歳入増を目標とする各種増税・公共料金引上げなどの財政措置と中・高所得者の賃金・物価スライド分の凍結措置(12月議会通過)からなっている。これらの措置は秋から年初にかけて続々と実施に移され,その効果浸透によって春以降経済活動が停滞色を強めた反面で物価の騰勢が鈍化し,対外面での改善が顕著となっている。このほか政府は対IMF新規借款(約5.2億ドル)取付条件の重要項目である労働コスト抑制に対処するため,労使双方に対して新たな労働協約の締結を要請していた(11月)が,1月下旬,労使間で合意に達した。これをうけて政府は,2月はじめに,次の措置を決定した。すなわち,①賃金の物価スライド方式の部分的修正(一部産業における「有利なスライド方式」の3年間適用停止),②企業の退職年金からスライド調整分除外(3年間),③失業保険の不当受給防止強化(これらによる労働コスト軽減見込み額は年間約3,000億リラ)のほか④企業の社会保険負担の一部国庫肩代り(約1.4兆リラ,77年2月~78年1月の時限措置),その財源を賄うため,⑤付加価値税引上げ(基本税率12→14%,特別税率30→35%,これによる増税効果約1兆リラ)および石油製品(除ガソリン)に対する増税(0.4兆リラ)などである。さらに3月末には賃金の物価スライド分の算定に新聞代,運賃,電気料金の上昇分を含めないことが政府・労組間で合意に達した。政府が当初めざしていた抜本的改革は労組の強い反対で達成できなかったが,懸案の賃金・物価スライド制の部分的修正を含む賃金抑制法の成立によって,難航していたIMF新規借款交渉が妥結,4月25日には正式に承認され,5月17日にはEC借款(約5億ドル)も決定した。

この間,秋に強化された為替管理措置が段階的に緩和され,2月の外貨購入税に続き,4月には対外支払い預託金制度が廃止された。さらに,公定歩合が6月と8月の2度にわたって引下げられた(15→11.5%)ほか資本市場振興策の一環として配当減税が発表(8月下旬)されるなど厳しい引締め政策に若干の手直しが行なわれた。

しかし9月末に発表された78年度予算案(現金ベース)では支出規模はIMFの厳しい枠内におさめるために前年度比約7%増となっており,物価上昇率(11%)を考えるとかなり低く抑えられていることから,政府の引締め政策の基調には当分変化がないとみられる(発生ベースでは国鉄・郵政を加えた総合収支尻赤字は12.6兆リラと,前年度に比べ1.1兆リラ増となっている)。

7. 1978年の経済見通し

イタリア経済は77年春以降生産の大幅低下や失業の増大がみられるが,政府は国際収支の改善や物価の抑制がまだ不十分であるとしていることから今後も景気回復にはあまり期待できない。政府は78年の実質GDP成長率2%以上と見込んでおり,  「インフレなき回復」政策によって3%にまでもっていきたいとしている(ISCOは2%,いずれも9月末)。需要項目について政府は全く数字を示していないが,ISCOによると,個人・政府消費2%増,輸出6~7%増となっている。設備投資については,工業連盟(11月調査)の工業投資5%増の予想がある。これらの数字からいえることは,失業増大という状況下では消費支出にはせいぜい下支え効果しか期待できないこと,輸出がどれだけ伸びるかが今後の景気回復を左右するとみられることである。

また,内外均衡の回復が一段と達成され,政策の手直しが行なわれれば景気回復にとってプラスとなろう。

いずれにせよ,インフレ・国際収支の制約から78年のイタリア経済の回復はあまり期待できないであろう(IMFのガイド・ライン,インフレ率10%以下,経常収支1兆リラの黒字)。

なお,12月に発表されたOECDの経済見通しでは,78年の実質GDP成長率は1%増とかなり低く見込んでいるほか,消費者物価上昇率123/4%高,経常収支17.5億ドルの黒字となっている。

第7章 オセアニア

1. オーストラリア

(1)概  観

75年央以降回復基調にあったオーストラリア経済は76年4~7月頃の一時的な低迷の後,個人消費の堅調などに支えられて,年末までゆるやかな上昇を示した。しかし,77年に入ると,内需は全般に不振となり,76年末以後の輸出停滞が加わって鉱工業生産は3月以降減少に転じている。このため失業者数は増大し,10月時点で37万人(失業率6%)と史上最高を記録した。ただ年央以降は,輸出や消費などに再び回復の兆しがみえている。

消費者物価は77年1~3月期に前期比2.3%高となったあと,4~6月,7~9月も2%台の上昇とやや鎮静化傾向をみせているが,前年同期比では依然13%台の高水準にある。

対外面では,76年末の豪ドルの大幅切下げにより77年前半に流出していた資本が還流したが,貿易収支は逆に悪化し,切下げによる輸出拡大効果が出てきたのは年央以降であった。10月には総合収支が黒字となり,減少して来た金,外貨準備も8月以降増加している。

このような情勢の中で8月に議会へ提出された1977/78年度(7~6月)予算案は,昨年度に続き,インフレ抑制を目的とした緊縮予算であった。

(2)回復力弱い国内需要

賃金所得の上昇を背景に,76年4~6月以降年末まで個人消費の立直りが見られた(第7-1表)。年末に物価が急騰し,実質所得が減少したため,この動きは77年前半にかけて中断されることになったが,物価が再び落着きをとりもどすにつれて,5月頃から回復に向っている。76年の末に物価が急騰し,実質所得は減少したにもかかわらず,消費が好調であったのは,豪ドル切下げによる物価上昇予想などから消費者が買い急ぎをしたためとみられる。この動きは,乗用車の購入において,とくに目立っていたが,77年に入ると,その反動もあって,4月には68年10月以来の最低水準にまで減少した。

第7-1表 実質国内総生産の推移

住宅投資を民間建築許可件数でみると,75年末以降,月平均1万1千戸前後で横這いとなっていたが,76年11月の豪ドル切下げと同時に実施された金融の引締め強化などにより,減少傾向をたどった末,77年7~9月時点でも1万戸弱の低水準にある。

政府支出も,引締め基調にあったことを反映して,実質ではほとんどふえていない。民間設備投資も全休としての景気停滞を反映して低迷を続けていると思われる。

このような動きに加えて,年末から年初にかけて輸出も減少したため,実質GDP成長率は,76年10~12月,77年1~3月とマイナスを示した。4~6月は前期比0.8%の微増となったが,これは意図せざる在庫の積上りによるもので,最終需要は減少を続け,やや回復の気配が出て来たのは7~9月に入ってからである(前期比1.2%増)。

このような需要の動きを反映して,鉱工業生産は76年8月から年末にかけて,ゆるやかに回復したのち,減少傾向をたどっている(第7-1図)。この中でも,豪ドル切下げによる値上げ予想から,かけ込み需要が生じた輸送機器,家電製品,家具・什器,衣料などの部門の生産減少が目立っている。

第7-1図 鉱工業生産の推移

(3)増加する失業者数

1974年央以降急激に悪化した労働市場は,年々その度合を強めている。77年1月の失業者数は35.5万人と前年同月より3.1%増加して失業率も5.8%となった。しかし,失業者数は例年,新規学卒者の市場参入によって1月に多くなるものの,その後夏季休暇後の産業活動の回復から5月頃までに大幅に減少するものであるが,77年はこの間の減少が9.4%(76年は24.7%減)にとどまり,失業率が年間最低となる5月でも5.2%(前年同月4.3%)と高水準であった。その後やや落着いていたが,10月には電カストの影響もあって前月より4.2万人増加して37万人と史上最高を更新,失業率も6.0%に達した。一方,求人数は2~3万人と低水準にあり,引き続き微減傾向にある。この結果,78年1月には失業率が8%台に達すると予想され,若年労働者の失業問題が深刻になってきている。

第7-2図 失業者数と求人数の推移

(4)物価・賃金の騰勢やや鈍化

消費者物価の上昇率は76年に入ってやや落着いていたが,10~12月期には健康保険制度の改正(76年10月より保険料の個人支払分負担増)により前期比6.O%高となった(第7-4図)。この医療関係費を除くと2.8%の上昇にとどまる。

第7-3図 消費者物価と賃金の上昇率推移

第7-4図 国際収支の推移

政府は76年末の豪ドル切下げによるインフレ加速懸念に対して,預金準備率の引上げ,政財支出の削減,関税率の引下げなどの対策をとったが,さらに77年4月13日には,物価・賃金の3か月自主的凍結を産業界,労組等に要請した。これらの効果や国際商品市況,工業品輸入価格の低落などから,77年に入って物価・賃金は再び落着きをとりもどし,1~3月以降消費者物価の前年同期比上昇率は2%強にとどまっている。賃金(男子週給)も75年度の前年比25.6%高,76年度の同14.4%高から,77年4~6月には前年同期比で10.8%高へと鈍化している。

ただ物価・賃金の自主的凍結策については文字通りには機能しなかったというべきであろう。というのは,賃金調停委員会は5月24日にそれ以降に支払われる賃金に対して,1~3月期の消費者物価上昇率2.3%から豪ドル切下げによる上昇分0.4%を除いた1.9%の賃上げを認め,次いで8月22日にも同様な方法で2.O%の賃上げを認める裁定を下したからである。他方,物価局も,6月208,申請の出ていた鉄鋼製品の4.92%値上げを認可した。

(5)国際収支赤字に改善のきざし

堅調を続けていた輸出は,先進工業国の景気停滞などの影響で10~12月期,1~3月期に不振となり,輸入は76年末の豪ドル切下げによる輸入価格上昇や輸入制限緩和措置などにより1~3月期急増を示した(第7-4図)。しかし4~6月以降は輸出はやや持ち直し,輸入は低迷している。このため黒字を続けていた貿易収支は77年1~3月期にはほとんどゼロとなり,  4~6月以降の黒字も小幅なものにとどまっている。これに運賃・保険料等の貿易外収支の悪化が加わって,77年に入ってからの経常収支の赤字は大幅なものとなっている。ただ輸出の漸増傾向が続く中でとくに11月は大幅な増加となり,輸入も内需不振と10月からの自動車の輸入規制などで停滞してぃるため,経常収支も最近改善する兆しをみせている。

一方,資本収支については,76年央以降の豪ドルの切下げ予想から流出していた民間資本が,切下げ後からは還流を始め,その勢いが余りに急であったため,77年1月には外資規制を強化することとなった。このため,1~3月には大幅な黒字であった資本収支は,規制の影響と経常収支の悪化から,5月以降再び悪化した。政府はこれに対して,5月の外資規制緩和に続き7月には規制措置の撤廃,自動車の輸入規制の再導入,さらに8月には総額19億米ドルの対外借入計画の発表,数次にわたる為替レートの小幅調整などの措置をとった。この結果,9月以降資本収支は好転する気配を示しており,金,外貨準備も増加している。

(6)財政政策

以上のような経済情勢のなかで議会に提出(8月16B)された1977/78年度(7~6月)予算案は,予想されていたよりも厳しい緊縮予算案であった。その内容をみると,政府支出を実質ベースで昨年度並みに抑制し,歳入面では法人税率を引上げるなど,歳入増を計ることによって財政赤字を縮小させている。これで昨年度予算につづき,景気浮揚よりもインフレ抑制を柱とした予算が2年続くことになる。同時に,実質成長率(農業部門を除く)は約2%と前年度実績の3.5%より低い伸び(78年4~6月期の前年同期比は4%に回復)にとどまると見込んでいる。また,通貨供給量(M3)の年度間増加目標も8~10%(前年度実績10.6%)と低い水準に設定した。

2. ニュージーランド

ニュージーランド経済は73年1月のイギリスのEC加盟,同年末の石油ショックその後の先進工業国の不況の影響をうけ,74年以降輸出の停滞などから経常収支の赤字がつづき,厳しい事態に陥っている。とくに,76年は為替レートの切下げが高率のインフレを招き,失業者が増大し,財政も大幅赤字になるといった四重苦の年であった。77年に入ってもこの傾向がつづいているが,ただ,経常収支が輸出の増加から好転するなど, 一部の指標に回復の兆しがみられる。

第7-2表 主要経済指標

(1)低迷つづく国内需要

ニュージーランド・ドルが75年8月に15%,76年11月に7%と連続切下げが実施された影響で物価の上昇が大きく,物価上昇率を差引いた実質卸売売上高(国内総生産の代理指標)は75,76年中前年同期を下回った。77年に入っても1~3月期3.7%減,  4~6月期3.3%減と低下をつづけている。また,個人消費は賃金凍結の延長などから低迷をつづけており,実質小売売上高は76年4~6月期から前年同期比で減少に転じ,77年に入ってからも停滞をつづけ,4~6期には0.7%減少となっている。乗用車(新車)登録台数は74年以降減少に転じたが,76年は消費者金融の抑制措置もあって,前年比12.1%の大幅な減少となった。77年に入っても1~3月期の前年同期比5.2%減のあと,4~6月期は16.5%減と大幅に低下している。民間の住宅建築許可戸数も建築コストの上昇などから74年に急減したあと,75年,76年も減少傾向をつづけ,77年に入っても1~3月期は前年同期比13.8%減,4~6月期は18.4%減と2期連続して大幅に減少した。

第7-5図 乗用車登録台数と住宅建築許可戸数の推移

(2)輪出産業は好調

先進工業国の不況の影響をうけ国内産業活動は低迷しているものの,農林畜産加工品など一部の輸出商品の好調に支えられて,75/76年度(4~3月)の実質国内総生産は前年度比2.O%の増加(名目は15.8%増加)となった。

76/77年度に入っても,国内需要の低迷から鉱工業生産は自動車,テレビセット,洗濯機,冷蔵庫,セメントなどを中心に停滞あるいは減少している。しかし,先進国の景気回復に伴って主要輸出品である羊毛,肉類,酪農製品などの市況,輸出数量とも大幅に好転した。また,近年輸出品の多様化を目的として強化されてきた輸出産品製造業の育成効果とNAFTA(オーストラリアとの自由貿易協定)結成の効果もあって,アルミニューム,新聞用紙,カーペット,パルプなどの輸出が増加し,76年7月~77年4月間の総輸出額は前年同期比45.1%も増加した。輸出価格上昇分を差引いた実質伸び率でみても16.5%の大幅な増加である。

このように輸出向け製造業の生産は増大しているが,国内産業全体では内需不振から75年末以来増勢が鈍化しているため,失業者数は77年6月以降ふたたび急増し,9月の失業者数は4月に比べ70%増加した。反対に求人数は75年以来低水準にあるが,77年に入っても,なお減少傾向をつづけている。

(3)物価の上昇持続と賃金等の凍結延長

76年4~6月期の卸売物価は前年同期比23.8%高,消費者物価も17.7%高と大幅に上昇した。この背景には,2度にわたる為替レートの切下げの影響で76年の輸入価格が前年比23.7%の大幅上昇となったことや,国内石油価格,公共料金の引上げ,賃金コストの上昇などがある。このため,政府は76年6月から1年間の賃金凍結を実施した。さらに,これに対抗する急進派労組の波状ストを抑えるために,スト参加者の一時解雇などを含む雇用関係法改正法を8月18日より施行,同時に,賃金凍結措置の補完策として,同日物価・家賃の年間凍結を発表した。その効果もあって,76年7~9月期の賃金上昇率は前期比0.1%高となり,10~12月期も2.1%高にとどまった。しかし,物価の騰勢はやや鈍化したものの,卸売物価は食料品の高騰を主因に10~12月期には前年同期比19.8%高,消費者物価は15.6%高となお高水準であったため,政府は物価・家賃の凍結を5ヵ月間延長した。この結果,本年に入って消費者物価の騰勢が鈍化(1~3月期の前期比2.6%高)してきた。

しかし,3月,賃金裁定委員会は賃金凍結期間中にもかかわらず6%の賃上げを認める裁定を下した。また,4月には石油価格および電力料金などの公共料金の引上げを実施し,5月には物価・家賃凍結の全面解除を決定したことから,消費者物価は再び騰勢を強め,4~6月期は前期比4.8%高を記録した。他方,5月に期限の切れる賃金凍結措置は3ヵ月間延長(8月15日まで)された。

第7-6図 消費者物価と賃金の上昇率の推移

(4)国際収支は3年ぶりに黒字計上

経常収支は,75年には11.5億米ドルの大幅赤字であったが,76年に入ると羊毛,肉類などの価格上昇,輸出数量の回復から輸出額が前年比29.6%と大幅に増大した。一方,輸入は輸入許可制による輸入量の実質的据え置き,輸入預託金制度の導入および国内金融の引締めなどにより前年比2.1%減少し,経常収支赤字も5.4億米ドルと半減した。このような経常収支赤字に対し,政府は政府借款,長期資本の取入れに努めた結果,総合収支尻は75年の333百万米ドルの赤字から76年は8百万米ドルの黒字に好転した。

77年に入ってからも,輸出は酪農製品,食肉などを中心に増加をつづけ,上期(1~6月)は前年同期比19.5%増大した。これに対し,輸入は輸入預託金制度の再延長もあって2.5%増にとどまり,経常収支は9百万米ドルの黒字と3年ぶりに黒字を計上,総合収支も21百万米ドルの黒字となった。

この結果,金・外貨準備は75年末の428百万米ドルから76年末には492百万米ドル,本年9月末は545百万米ドルと徐々に増加してきている。

(5)経済政策:輸出振興策を強化

77年7月21日に議会に提出された77年度(4~3月)予算案は,公共事業費を中心に歳出規模を極力抑え,前年度実績比18.8%増,実質約3%増,歳入は酒・タバコ税の引上げなどにより24.3%増と歳出を上回る伸びを見込んだインフレ克服重点の緊縮予算案であった。同時に,国際収支改善などを図るために輸出産品生産の増強,輸入代替産業の開発促進などを重要施策としている。

第8章 東南アジア

1. 韓  国

(1)概  観

韓国経済は,74,75年と先進諸国の景気後退を反映して成長率が鈍化したが,76年の実質GNPは15.5%と73年の16.7%に次ぐ史上2番目の高い成長を達成した。これは前年伸び悩んだ輸出が先進諸国の需要回復に伴い大幅に増加したこと,および,輸出関連産業を中心に生産活動が活発化したことなどによるもので,農業生産も引続き好調に推移した。ただ,これまで騰勢を続けてきた物価は様々な物価対策の効果等もあって落着いてきたものの,政府目標に抑えることはできなかった。

77年の経済は76年の高い成長を支えてきrこ輸出が1~3月期までは高い増勢を見せたものの,その後,徐々に鈍化しており,それにつれ工業生産も伸び悩み傾向を強めている。加えて,年初には寒波の影響から大麦等の麦類生産が不作となったため,上期の実質GNPは8.6%増(前年同期比,速報)と前年同期の17.3%増に比較すると低い伸びにとどまっている。一方,貿易収支は76年に引続き77年も改善傾向にあり,外貨準備高も増大している。なお,物価上昇率はほぼ10%前後と比較的落着いた動きをみせている。

(2)生産動向

76年の農林漁業生産は8.9%と近年にない高い増加を遂げた。これは米の生産が前年を11.7%上回る大豊作(522万トン)となったことや漁業の好調(前年比20.1%増)によるものである。特に,米の生産は4年連続の豊作によりほぼ自給を達成しており,この結果,77年1月からは従来行われていた週2回の米無しデーを廃止した。

77年の農業は年初来の寒波の影響で大麦の収穫が大きく減収となるなど上期に大きな打撃(上期の農林漁業生産は前年同期比マイナス7.5%)を受けた。ただ,下期の米の生産は好調で前年比15.2%増の601万トンを記録し,政府は余剰米の輸出をインドネシアに行うこととした。

75年に低迷した鉱工業生産は先進諸国向け需要回復に伴い輸出産業を中心に76年は好調に推移した。これを鉱工業生産指数でみると75年は前年比19.0%増にとどまったのに対し,76年は同33.2%増と増勢を取り戻した。産業別にみると前年輸出不振で低迷した電気機械が前年比74.6%増(前年は同8.7%増),鉄鋼が44.8%増(同6.5%増)と大幅に回復したほか,前年に引続き衣類,履物,非鉄金属,機械機器等も好調であった。ただ,76年の春以降先進諸国の景気回復テンポが鈍化していることなどから76年後半以降輸出の伸びが鈍化していたが,77年に入ってから一層鈍化しており,これに伴って鉱工業生産も1~8月期に前年同期比13.1%増と伸びは大きく鈍っている。

なかでも,繊維製品は輸出不振を主因に1~8月期の伸びは前年同期比1.5%増と低迷しているほか,前年好調であった輸送用機械や電気製品等の生産の伸びも鈍化しており,そのなかで比較的順調なのが履物,鉄鋼等である。

なお,76年の失業率は好況を反映して3.9%とはじめて3%台(75年は4.1%)に低下した。また,77年上期も前年同期をやや下回っている。

(3)貿易及び国際収支動向

76年の貿易は輸出が前年比51.8%増と前年の13.9%増から著るしく回復した。これは総輸出の56%(76年)を占めるアメリカ,日本向けが両国の景気回復に伴い75年の前年比マイナス1.5%から76年には同51.8%増と急増したのが主因で,その他中東(クェートへは前年に比べ5.7倍拡大),フランス,イギリス等EC諸国向け輸出も急増している。品目別にみると合板,繊維製品,電気機器,衣類,履物等軽工業の増加が著るしく,総輸出に占める工業製品の比率も87.7%に高まっている。

一方,76年の輸入は前年比20.6%増(75年は同6.2%増)と前年に引続き輸出の伸びよりも相当低い伸び率にとどまっている。これは国内産業保護,国際収支の制約から輸入制限措置を継続していることによる。品目別には総輸入の18.9%を占める石油及び石油製品が前年より23.8%増加したのに対し,農業の豊作が続いていることから米を中心に穀類の輸入が減少(うち,米は前年比75.9%減)している。

この結果,貿易収支は大幅に改善しており,赤字幅は75年の1,671百万ドルから76年には587百万ドルに縮小している。また,貿易外収支も観光収入の急増や中東を中心とした海外建設活動の活発化から大幅に改善(76年は77百万ドルの赤字)しており,経常収支の赤字も318百万ドル(75年は1,888百万ドルの赤字)にとどまった。一方,長期資本収支は直接投資が低迷したものの,公共借款の導入増加などからほぼ前年並みの1,431百万ドルの黒字を記録し,このため基礎収支は前年の赤字から大幅黒字へと転換した(総合収支も1,314百万ドルの黒字)。こうした,国際収支動向を反映し,外貨準備高も76年末には前年末比91.O%増の2,961百万ドルに達している。

77年の貿易動向をみると,76年後半から鈍化傾向にあった輸出は77年に入って一層その傾向を強め,  1~3月期に44.2%増(前年同期比)であったのが,その後,4~6月期23.9%増,7~9月期22.9%増となっている。国別には再び日本,アメリカ向け輸出が鈍化しており,また,カナダ,ベルギーへの上期の輸出は前年を下回っている。特に,この1~2年先進諸国に保護主義の台頭が目立っており,主要輸出産品である繊維製品に関してカナダが76年11月以降同製品輸入を75年実績にとどめるための輸入割当を行ったほか,アメリカとの間でも78~82年の5ヵ年に年率6.5%の拡大で合意に達しており,また, EC諸国との間でも伸び率は低く押えられている。また,対米はき物輸出規制(76年実績の86%に制限,77年6月28日から4年間規制),イギリスにおけるテレビ輸入割当て,カナダでのハンド・バッグに対する規制等韓国の輸出品に対する国際環境は厳しいものがあり,本年に入ってから弱電,衣類,繊維製品,合板等の伸び悩みが目立っている。ただ,輸入の伸びも依然輸出のそれを下回っていることから貿易収支の改善は続いており,10月末の外貨準備高は76年末を43.7%上回る4,256百万ドルに達している。

政府はこうした外貨準備高の急増を背景に国際競争力強化,物価安定等を目的とした大幅な輸入規制措置の緩和(7月1日から)を行った。

(4)金融財政動向

金融面をみると,政府は76年も物価上昇圧力が高いことから金融引締め政策を継続しており,7月には輸出の増勢が続いていることなどによるマネー・サプライ急増に対処するため公定歩合の1部を14%から19%に引上げる等の対策を進めてきた。77年も経済の安定的成長を図るために引締め政策を堅持することにしており,通貨供給量も前年比23~25%増に抑制する予定である。ただ,輸出産業に対する貸付けや中小企業の設備近代化・合理化のための設備資金貸し付けは重点的に行うこととしている。そうした中で,政府は総合物価対策の一環として企業の資金コスト軽減を図るため6月末に公定歩合の1部引下げ(19→15%)及び市中銀行の貸出最高金利の引下げ(21→19.5%)と若干の緩和を行った。なお,国際収支の好転を映じてマネー・サプライが急増(10月末には前年同月比46.O%増)していることから10月に輸出前受金,海外建設工事請負代金のウオン貨転換を年内禁止,市中貸出しの抑制策等のマネー・サプライ抑制措置を講じた。

財政面をみると,77年度(暦年)の予算は総額2兆6,592億ウオン(約55億ドル,前年度当初予算比31.3%増)と過去2年よりはやや控え目な伸びながらも大型予算となった。歳出面では国防費が前年度当初予算比31,4%増(総予算の34.8%)と重点が置かれているほか,公務員給与の引上げで一般行政費が,また,電力・交通等の拡充を主体に経済開発費が大幅に増大している。

78年度の予算は総額3兆5,170億ウオン(約73億ドル,前年度当初予算比32.3%増)で,ほぼ前年並みの伸び率である。歳出面では国防費のウエイトがさらに高まり総予算の35.6%(同35.2%増)を占めているのが注目される。

(5)物価動向

74,75年と高騰を続けた物価は76年に入って卸売物価が前年比12.1%高(75年は同26.4%高),消費者物価が同15,3%高(同25.3%高)と政府目標(卸売物価10%前後,消費者物価12%前後)を達成するには至らなかったものの,騰勢は鈍化傾向を強めた。これは,金融の引締め,  「物価安定および公正取引法」の施行(76年3月15日から)等の政策や農業の豊作,輸入価格の低落(前年比マイナス2.O%)等の効果によるものである。

77年の物価動向をみると,1~9月間の物価は前年同期比で卸売物価が9.1%高,消費者物価が10.O%高とともに本年の政府目標である10%以内にある。政府は物価安定を政策の重点におき,金融引締めの継続,7月から実施した付加価値税制の導入(税率10%,第4次5ヵ年計画達成のための必要財源の確保等を主目的にしている。)や国際収支改善に伴う通貨増発傾向等の物価上昇圧力の増大に対しては総合物価対策((イ)輸入の自由化,関税率の引下げ等輸入の促進,(ロ)公定歩合および市中貸出金利引下げ,(ハ)独・寡占品目,生活必需品の最高価格指定および7~8月中の価格凍結,(ニ)公共料金の年内値上げ見送り)を実施して物価圧力を回避した。

(6)経済見通し

政府は77年1月から始まる第4次5ヵ年計画を76年6月に発表したが,76年の経済成長が予想以上に好調であったことなどから76年12月に主要目標を上方修正した(実質成長率を9.O%から9.2%へ,81年の1人当りGNPを1,284ドルから1,512ドルヘ,同じく81年の輸出規模を130億ドルから141.65億ドルヘ等修正)。

第4次5ヵ年計画(77~81年)の初年度に当る77年の経済について,政府は「安定成長の維持」をスローガンに年初,実質成長率を10%,物価10%,輸出100億ドル,輸入102.8億ドル,外貨準備高37.4億ドルといった主要目標を掲げたが,ほぼ,これらの目標は達成されるとみられている。78年の成長目標は10~11%,1人当りGNPは1,050ドル,輸出は125億ドル等におかれている。

なお,76年で終了した第3次5ヵ年計画も期間申の成長率が目標の8.6%に対し実績は11.2%と超過達成された。

第8-1表 韓国の主要経済指標

2. 台  湾

(1)概  観

76年の台湾経済は,物価安定のもとで農業生産(前年比7.3%増)および        工業生産(前年比24.9%増)ともに好調に推移し,年率11.8%の経済成長をとげ,73年以来最も安定した経済発展を示した。工業生産の増大は輸出の好調と公共投資(10大建設工事)の促進によって達成されたものである。同年の国民総生産の規模は171億ドル(76年価格)で,一人当たり国民所得は809ドルとなった。

77年に入って貿易および工業生産の増勢はやや鈍化し,上半期の経済成長率は前年同期に比べて実質9%の伸びとなった。しかし当初の年間目標8.5%を上回っている。これは農業生産が4.9%増(年間実績予測3.3%)と目標の2.4%増を上回ったためである。工業生産は目標値の13%増とほぼ同率の伸びにとどまった。

第8-2表 台湾の人口増加率,実質国民総生産

第8-3表 台湾の主要経済指標

(2)生産動向

まず鉱工業生産の動向をみると,76年の生産は輸出の好調を主因に前年比24.9%の増加を示した。しかし四半期別に動向をみると,10~12月期に入って増勢は鈍化し,前年同期比19.7%増となった。これは輸出の増勢が大幅に鈍化したこと,また企業の大部分が,賃金上昇と輸入原材料価格の上昇によってコスト・アップを招き,資金繰りが困難になって経営難に陥ったためである。これが工業生産の増勢鈍化につながった。業種別にみると,とくに繊維,鉄鋼,食品などの諸産業の経営不振が目立った。なお繊維,プラスチック,はきもの等の輸出関連産業の低迷を反映して,77年に入っても工業生産の増勢鈍化がつづき,7~9月期には前年同期比9.8%増と上昇テンポは低下した。

政府当局は企業の金利負担の軽減,輸出競争力の強化をはかることを主眼に,4月1日と6月10日に,それぞれ0.75%および0.5%の公定歩合の引き下げを実施した(6月10日以降,公定歩合8.25%)。さらに7月13日には民間設備投資促進の見地から「投資奨励条令」を改正し,8月21日には輸出商社に対する融資の強化,機械・設備輸入関税の免税,海外華僑投資促進のための利潤送金枠の拡大,輸出入銀行および開発銀行の設立などを内容とする「投資環境改善」措置を公布した。また9月23日,公共投資振興のための12大建設項目を発表したが,これは現在施工中の10大建設のプロジェクトが完了次第,78年より着手する予定である。

一方,76年の農業生産は好調で,前年比7.3%の伸びを示し,とくに米の生産(2期作)は,第1期140万トン,第2期131.5万トン,年間全体としては270万トンの史上最高となった。77年上半期の農業生産も相対的に好調で,前年同期比4.9%の伸びを示し,第1期の米作は137万トンに達した。

年間全体としては250万トンの生産が見込まれている。

(3)貿易動向

76年の貿易は,輸出81.7億ドル(前年比53.8%増),輸入76億ドル(前年比27.7%増)と大幅な増加となり,とくに輸出の伸びが大きかったために,貿易収支面では前年の6.4億ドルの赤字から5.6億ドルの黒字に転化した(通関ベース)。

しかし輸出・輸入とも76年第4四半期に入って増勢はやや鈍化し,鈍化の度合は77年に入っていっそう高まった。これは先進工業国の景気回復テンポが遅れ,輸出拡大を主導してきたアメリカ,日本など先進工業国向けの繊維製品,はきもの,プラスチックなどの伸びが大幅に落ちこんだこと,国内投資活動の停滞を反映して機械設備の輸入減退が顕著になったためである。しかし輸出の伸びが輸入の伸びを若干上回ったため,貿易収支面の黒字幅は1~9月間に4.5億ドルと前年同期の3.7億ドルをやや上回った(通関べ一ス)。また貿易収支の黒字幅拡大に加えて,長・短期の海外資金の大量流入により,国際収支ベースの黒字幅も拡大して,76年11月末をピークに漸減し,4月末にボトムに落ちこんだ外貨準備高もふたたび漸減してきた(9月末,14.4億ドル)。

当面対外貿易のうえで問題となっているのは,米台貿易間における台湾側の大幅な輸出超過傾向である。77年1~9月間の出超額は13.2億ドル(年間予測16億ドル)となり,前年同期の9.9億ドルを大きく上回った。こうした情勢をふまえて,アメリカ側で輸入規制の動きが活発となり,はきものについては6月13日,台湾側の自主規制について両国間に合意が成立し,繊維品についても,78年1月に自主規制に関する会議が再開されることになっている。また政府当局は対米輸入を促進するために,主要物資の5ヵ年間の長期輸入契約のほかに,農産品(大豆,小麦,雑穀),工業原材料,小型自動車などの緊急輸入を行なう旨発表した。緊急輸入額は今後1年間で2.5億ドルに達する見込みである。

なお米ドルに対して固定相場制を維持している台湾では,円が米ドルに対して切り上ったことから,台湾元に対しても円が切り上ったことになる。このため対日輸入のシェアが大きいので輸入コストの上昇を招いているが,輸出面では有利になっている。したがって今後ドル価格のいっそうの下落がつづき,輸入コストの上昇が顕著にならないかぎり,当面為替レートの調整を行なわない方針である。

(4)物価動向

物価動向をみると,76年には卸売,消費者物価ともにインフレ警戒による金融引き締めや農業生産の好調によって,年初来ひきつづき落ちついた動きを示し,それぞれ前年比2.8%高,2.5%高にとどまった。しかし安定的に推移してきた物価も,77年に入ってやや上昇に転じ,  7~9月期には前年同期に比べて卸売3.9%高,消費者10.6%高となった。消費者物価の上昇は台風被害による農産品(豆類,野菜,果物)の値上りによるものである。

なお長・短期の海外資金の流入増を主因に,10月末の通貨供給量は前年同期比29.1%の大幅増加となっている。

(5)経済見通し

77年は経済6ヵ年計画(76~81年)の2年度に当たる。11月央発表の政府見通しによれば,77年は当初8.5%の成長率が予定されていたが,輸出の増勢鈍化と国内投資の伸び悩みの影響で8.1%の成長率にとどまるもようである。なお12月初発表の78年の成長率は8.8%が見込まれ,経済6ヵ年計画の年間想定成長率(7.5%)を上回る予定である。物価動向については,77年に比べ卸売物価の下落,消費者物価の上昇を前提として,前年目標とほぼ同様5~6%のGNPデフレーターの上昇を見込み,輸出入総額は77年の実績見込みが180億ドルに対し,78年は200~210億ドルに達するものとみている(うち輸出額は77年の93億ドルの見込みに対し,78年は106億ドル程度)。

3. フィリピン

(1)概  観

76年のフィリピン経済は前年大きく減少した輸出が,先進諸国の需要回復とそれに伴う一次産品価格の上昇等により回復したことや農産物の豊作,製造業生産の持ち直し,等により6.4%の比較的順調な成長を遂げた。また,物価も75年に引続き落着いた動きで推移した。

77年上期の経済動向についてみると,輸出の回復が続いており,一方,輸入の伸びは輸出のそれを下回っていることから貿易収支は徐々に改善しつつある。また,前年と同様農業生産が好調であるほか製造業生産も順調に推移しており,物価も比較的安定している。ただ,74年以降の大幅な貿易収支赤字の継続から膨大な借入れをおこなっており,対外債務が急増している。

(2)生産動向

76年の農業生産は洪水(4~5月),一部地区での病虫害の発生等あったものの,全体的には天候にめぐまれ,前年の5.6%増を上回る8.2%増産を記録した。なかでも米の生産(もみベース)は650万トン(前年の620万トン)と4年連続豊作を記録したほか,バナナやとうもろこし等の生産も好調であった。

77年の農業も引き続き順調であり,上期の農業生産はバナナ,パイナップル,野菜等の豊作から前年同期比7.0%増となっている。また,77年の米の生産も好調で,9月に台風の影響でやや被害がでたものの,前年を7.7%上回る700万トンの生産が見込まれている。

鉱工業生産は,74,75年と不振を続けたあと76年に入りようやく回復をみせ,うち製造業は陶磁器,衣類,紙・同製品等の生産増などから前年比4.5%増(75年は3.2%減)の成長をみた。また,建設活動も前年に引続き好調(76年10月に開催されたIMF総会に向けてのホテル建設等)で,前年比22%(GNPベース)の増加であった。

77年に入ってからも生産の拡大基調は続いており,上期の生産はニッケルや石炭の増産で鉱業部門が前年同期比4.6%増,製造業部門も繊維,衣類,化学製品等の増産で前年同期比4.6%増と比較的順調に推移している。

(3)貿易と国際収支動向

76年の輸出は前年比11.0%増と回復に転じた。同国では総輸出の87.3%(但し74年)が一次産品で占められている。このため,一次産品市況が軟化し,先進諸国の輸入需要の減少した75年には輸出が16.6%もの減少となったが,76年は1次産品市況が上昇に転じたことを主因に4~6月期以降回復・に転じた。主要輸出産品についてみると,砂糖が前年比25.8%減と連続減少したほかは,ココナッツ製品10.9%増,銅20.1%増,木材19.0%増と増加している。しかし,いずれも74年の輸出水準には戻していない。

一方,76年の輸入は前年比4.7%増にとどまった。商品別にみると総額の24.5%を占める原油等の鉱物性燃料が15.7%増加したほか,基礎金属,電気機械の輸入が伸びたが,農業の豊作から穀物等の輸入が10.1%減少したほか,繊維織物の輸入も減少した。

輸出の回復及び輸入が低い伸びにとどまっていることから貿易収支は前年より改善したものの,赤字額は依然巨額で1,116百万ドルに達した。また,観光収入や投資収益等の減少もあって経常収支でみると前年を上回る1,105百万ドルの赤字を記録した。これに対し資本収支も政府ベース資金の借入が急増したことや直接投資の増加等比較的順調にファイナンスできたため総合収支は56百万ドルの赤字にとどまった。しかし,こうした対外借入の急増を反映して債務累積も著るしく,75年末の38.4億ドルから76年末には55.2億ドルと43.8%の急増を示している。

77年の貿易動向をみると輸出の拡大傾向は続いており,上期は前年同期比25.5%増と順調である。特に,主要輸出4品目(上期輸出の60%を占める)は28.7%増と好調で,うちココナッツ製品は同35.9%増のほか銅,木材も価格の上昇から増加しており,また,価格の低迷している砂糖も輸出数量が前年同期の86%増であったことから拡大している。なお,国別には日本向け輸出の回復と中国への急増が目立つ。ただ,一次産品市況が4月以降軟化しており,また,国別にも7~9月期に入ると日本向け輸出は急速に鈍化している(前年同期比1.4%減)など今後が懸念される。

一方,上期の輸入は同5.1%増と輸出の増勢を大きく下回っていることから貿易収支は改善しており,貿易外収支も前年減少した観光収入が増大するなど黒字幅を拡大している。この結果,同国の国際収支は改善傾向を続け,年初に減少をみせた外貨準備高はその後徐々に増大している。ただ,対外債務残高は9月末に64億ドルと76年末より16.3%も増加している。

(4)物価動向

74年に急騰をみせた物価は75年に入って急速に鎮静化した。そして76年も最低賃金の引上げ,米およびとうもろこしの小売価格10%引き上げ,バス等公共料金の29%引上げなど行われたものの,結局は消費者物価が前年比6.2%高(75年は8.2%高),卸売物価が8.2%高(同5.5%高)と比較的落着いた動きとなった。これは同国が米やガソリン等主要物資および公共料金に対して厳しい物価規制を行っており便乗値上げを押えたことや,76年も農産物の豊作で食料品価格が安定していたこと,金融の引締め措置等の効果によるものである。

77年に入ってからは4月の石油価格20%値上げ及び公共料金の値上げ等が相次ぎ,上期の物価は前年同期比で消費者物価7.1%高,卸売物価11.7%高とやや騰勢を高めている。政府は本年に入ってからも物価対策として1月から45品目の輸入関税率の引下げ,5月に生活必需9品目の物価凍結令,6月には価格統制令の2年間延長等の措置をとっている。

(5)経済計画

73年7月から始まった4ヵ年開発計画は77年の6月をもって終了した。同計画ではGNPの成長率を年率7%としたほか,雇用の促進,所得分配の公正化,社会開発の促進,物価の安定及び国際収支の安定等を目標あるいは重点政策としてあげており,このうち,物価の安定,輸出目標(77年度17.1億ドル)等は達成したが,成長率は目標を若干下回ったとみられ,所得分配の公正化等も必ずしも十分に進んだとはみられない。しかし,73年10月のOPECによる石油価格大幅引上げ,74年以降の長期にわたる先進国を中心とした不況等の国際環境を考えると同計画は成功の部類に入るとみられる。

第8-4表 フィリピンの主要経済指標

4ヵ年開発計画の終了にともない,同国は78年1月から5ヵ年開発計画(78~82年)を発足させる。その計画の草案によると,実質GNP成長率は78~80年までは7.0~7.5%,81~82年は8%と設定しており,その他,物価上昇率7%,輸出の伸び率23.8%増,輸入は17.3%増,国内の貯蓄率を78年の27.0%から82年の30.2%へ高める等と設定している。この5ヵ年計画は78年から2000年に至る25年の長期計画と78~88年までの10ヵ年中期計画の一部を構成するものとして位置付けられており,経済効率の向上を目標としている。

なお,同国では77年に入ってから,従来の会計年度(7~6月)を暦年に改訂しており,78年の政府予算は前年度比29.4%増の339億ペソ(約46億ドル)と決定された。また,78年の成長目標は7%とされている。

4. タ  イ

(1)概  観

タイの経済成長率は74年に4.6% (実質GDP)と低迷したあと75年5.5%,76年6.2%と順調な回復をみせている。

76年の経済をみると農林水産業生産が畜産や林業の不振等で伸び悩み,また,前年激減した投資の回復もみられないなどの問題があったが,一方,前年の豊作により農業関連産業を中心に製造業生産が7.5%の増加をみせ,建設活動も活発であった。また,一次産品市況の上昇により前年減少した輸出が大幅に回復し,一方,輸入は低い伸びにとどまったため,悪化していた貿易収支は改善を示した。物価も前年に引続き穏かな上昇にとどまっている。

77年の経済をみると工業生産は順調に推移しているものの,農業生産は干ばつの影響からとうもろこしが前年に比べ大減収となったほか,米の生産も前年を下回るなど低迷している。貿易をみると,上期の輸出は引続き拡大傾向にあるものの,一次産品市況の軟化から先行き増勢鈍化が懸念されており,一方,本年に入って輸入の増大テンポが輸出のそれを上回っているため貿易収支赤字は再び拡大している。また,75,76年と安定していた物価は年初来徐々に騰勢を高めている。

(2)生産動向

76年の農林水産業生産(GDPの26.4%を占める)は前年大豊作を記録した農業が年央の干ばつの発生(東北地方)等で前年比3.4%増(国民所得ベース,75年は3.7%増)と伸び悩んだほか畜産が2.4%増(前年は11.1%増)と不振で漁業・林業も低い伸びにとどまったため,全体でも3.2%増(前年は4.5%増)と鈍化した。主要産品をみると米の生産は前年を1.3%下回る15.1百万トン(もみベース),とうもろこしも同11.5%減の2.7百万トンと減産になった。ただ,75年の生産が記録的豊作であったことを考えると76年の穀物生産は順調であったと言える。その他産品では,ゴム,タピオヵ,砂糖の生産は好調であったが,ジュート(ケナフを含む)は不振が続いてぃる。

77年の農業は干ばつの影響からとうもろこしが前年比35%減の1.75百万トン,また米の生産も干ばつ及びその後の洪水の影響から同4%減の14.5百万トンと不振である。

製造業は74年に4.2%増と低迷(それ以前5ヵ年は年率12.8%の成長)したあと徐々に回復しており,76年は農業関連産業の生産が農業の好調と一次産品市況の上昇で増大したほか,繊維産業も政府の梃入れ(繊維製品輸入に対し課徴金を引上げ)等から持ち直し,前年比7.5%の成長をみせた。業種別に数量ベースでみると砂糖(前年比45.O%増),繊維製品(同14~26%増),セメント(同11.1%増),石油製品(同10.1%増),オートバイ(同18.0%増)等が好調であるが,合板,ジュート製品等は不振であった。

77年に入ってからも工業生産は比較的順調で商務省発表の鉱工業生産指数(カバレッヂは小さい)によると1~10月間の生産は前年同期比6.7%増と前年よりも高い伸びをみせている。ただ,投資活動は依然低迷しており,工業部門に対する外国からの直接投資は76年が前年比マイナス13.1%,そして77年上期も前年同期比マイナス6.5%と不振を続けており,特に繊維産業への投資は激減している。この結果,失業者も増加しており,政府は外国からの投資促進を目的に76年に公定歩合の引下げ,外国企業規制法の見直し(1部業種の制限措置の棚上げ)等を行っており,77年に入ってからも5月に「新投資促進法」を公布し投資の奨励を図っている。しかし,先進諸国の景気回復が思わしくないことや同国及び周辺諸国の政情不安等から投資の盛りあがりはあまりみられない。

(3)貿易と国際収支動向

75年に前年比9.6%減となった輸出は先進諸国の需要回復とそれに伴う一次産品市況の上昇により76年は34.9%増と大幅に回復した。

品目別にみるとタピオカ(63.7%増),ゴム(52.5%増),米(47.0%増),錫(30.3%増)が好調で砂糖(20.1%増)も順調だったのに対し,とうもろこし(0.5%減),ジュート(10.O%減)は不振であった(ジュートを除く前記6品目で76年総輸出の6割を占める)。国別には総輸出の25%を占める日本への輸出が26.3%増大したほか,西独,オランダ,イギリス等EC諸国向けが好調であった。

一方,76年の輸入は投資の停滞等もあって前年比8.9%増(前年は4.3%増)と低い伸びにとどまった。この結果,76年の貿易収支赤字は222百万ドルと前年の662百万ドルの赤字から大幅に改善したが,貿易外収支が観光収入の減少,アメリカ軍撤退に伴う軍関係受取の大幅減により大幅に悪化したため,経常収支では75年の607百万ドルの赤字から76年は469百万ドルの赤字と改善幅は小さかった。一方,資本収支は直接投資が前年より減少したものの,政府ベース資金借入の急増や短資の流入が順調であったことから国際収支は黒字を記録している。しかし,対外債務残高も急増しており,76年末の公的対外債務残高(受取り済分のみ)は前年末比28.1%増の895百万ドルになっている。

77年上期の輸出は米やタピオカ,ゴム,錫の輸出が好調なこともあって前年同期比25.2%増と好調である。しかし,一次産品市況の軟化から輸出拡大テンポは徐々に鈍化しており,品目別にも不作となったとうもろこしや価格の低迷している砂糖の輸出が不振で好調な米も輸出急増から国内の米不足が懸念され,5月以降数次にわたり輸出規制が強化されるなど,先進諸国の景気動向とも合せ輸出環境は徐々に悪化している。

一方,同期の輸入は24.8%と増勢を高めており,5月以降輸出の増勢を大幅に上回り始めた。この結果,年央以降貿易収支は再び悪化傾向を示している。こうした中で,政府は国内産業保護の立場から2月に,76年末で期限切れとなった繊維製品の輸入課徴金を年内延長すると同時に,タイル,鋼鉄線等を同課徴金の対象品目に追加し,3月には中古車輸入を全面禁止とした。

(4)財政動向

77年度(76年10月~77年9月)の予算は景気が回復過程にあるものの,74年来の不況で税収見通しが悪く,前年度比9.6%増687.9億バーツ(約34億ドル)の緊縮財政を余儀なくされた。本予算では米軍の撤退,政情不安等から国防費及び治安維持費が総歳出の25%を占め,経済開発や教育にも重点が置れている。また,収支尻は183.2億バーツの赤字予算となっている。

78年度の予算は総額810億バーツ(約40億ドル)で,前年度当初予算比17.7%増となっている。歳出をみると国防費が前年度比20.1%増で総予算の19.5%(治安維持費を含めると前年同様全体の25%)を占めているほか,借入金の返済額が68.6%も急増し,総予算の13.3%(前年度は9.3%)を占めている。一方,歳入は景気の回復で租税収入が17.8%増(前年度は3.5%増)の620億バーツと回復するものの,収支尻は190億バーツと依然大きな赤字でこれは中央銀行,市中銀行等の借入れによって賄われる。

なお,金融面をみると,76年8月に顕著な景気回復がみられないことから経済活動を刺激し,投資の促進を図る目的で公定歩合を10%から9%に引下げた。

(5)物 価

73,74年と急騰した物価は75年以降再び安定しており,76年も卸売物価が前年比3.9%高,消費者物価が同4.O%高と安定した動きで推移した。こうした物価の安定には75年の農業豊作(76年農業も比較的順調)や輸入価格の下落(76年は前年比2.1%下落)が大きく寄付している。

77年の物価は農業生産が思わしくないことや,3月の石油製品価格の12.3%値上げ等で上昇率を高めており,1~9月期の上昇率は前年同期比で卸売物価が4.9%高,消費者物価が8.2%高であるが,年初より徐々に騰勢は高まっている。なお,8月の電力料金値上げ(20%引上げ),10月から最低賃金引上げ(首都圏で1日25バーツから28バーツヘ)等からみて今後も騰勢は第8-5表 タイの主要経済指標続くとみられる。

第8-5表 タイの主要経済指標

5. インドネシア

(1)概  観

インドネシア経済は70年代に入ってから産油国としての利点を発揮した輸出の急増を背景に極めて順調な成長を遂げている。ただ,75年は世界的不況の影響から輸出が前年より減少し,このため石油生産も減産となるなどの困難に見舞われた。加えて,プルタミナ(国営石油公社)の財政危機(債務総額が3月時点で105億ドルに達し,うち対外短期債務が多額にのぼることから,返済困難におちいった。)とそれに伴う国際収支難等の問題も生じ,成長率は5.4%と低い伸びにとどまった。しかし,76年に入ってからは輸出,石油生産がともに回復し,農業生産も引続き好調であったことなどから成長率は7.1%と再び順調な成長をみせた。また,プルタミナ問題も76年には一段落し,輸出の回復等もあって外貨準備も増加してきた。しかし,物価は引続き2桁の高い騰勢が続いた。

77年の経済をみると,上期の輸出は拡大テンポがやや鈍化しているものの依然順調に推移しており,石油生産も増加している。また,騰勢の続いた物価は77年に入ってから鎮静化傾向を強め,8,9月と一桁の上昇となっている。農業生産も穀物生産をみると干ばつの被害等もあるものの,前年を上回る生産が見込まれるなど総じて順調に推移している。

(2)生産動向

76年の農業生産は一部干ばつにみまわれたものの前年に引続き比較的順調であった。このうち穀物生産は米の生産が前年比4.5%増の23.3百万トン(もみベース)と豊作が続いたが,とうもろこしは干ばつの影響で減産となり,大豆も不振であった。その他作物では天然ゴム,パーム油,砂糖などの生産が好調であった。

77年の穀物生産をみると,再び干ばつや病虫害の被害がみられ,このため米の生産は前年比0.9%増の23.5百万トンと低い伸びにとどまると推計されている。また,その他穀物も前年比12%増と前年の不振から回復をみせたものの,75年の水準には達していず,穀物全体としては増産ながら人口増加率を下回るとみられる。

76年の鉱業生産をみると主産業である原油生産は輸出の回復を主因に前年比15.4%増(前年は5.O%減)と前年の低迷から好調を取戻している。しかし,その他の鉱産物は天然ガスが76年から生産が開始され,銅も増産となったものの,錫,ニッケル,ボーキサイト等は不振であった。77年上期の鉱業生産は総じて順調で石油が前年同期比13.2%増と拡大したほか砂鉄を除くその他の鉱物も天然ガス,ニッケル等軒並み増産となっている。

製造業生産は同国の製造業の規模がGDPの8.8%(75年)を占めるにとどまるなど依然小さいものの近年順調な成長をみせている。76年もセメント,肥料(尿素)等着実な増産をみせている。ただ,74年以降低迷している繊維製品は76年上期に回復の動きをみせたが,その後再び低迷しており,また,鉄鋼関係も不振である。このため,政府は77年1月から国内産業保護の目的で繊維製品,鉄筋等の輸入規制を行った。

(3)貿易及び国際収支動向

76年の輸出は前年比20.3%増(前年は4.3%減)と前年の低迷を脱した。これは先進諸国の需要回復や輸出税の減免等の輸出振興策による。品目別にみると総輸出の7割を占める石油が13.7%増加したほか,前年価格の下落等から大幅に減少した木材(56.2%増),ゴム(47.6%増),錫(71.O%増)が回復したのをはじめコーヒーも急増した(以上5産品で総輸出の9割を占める)。国別にみると近年輸出の急増しているアメリカ向けが本年も30.5%(総輸出の28.7%を占める)と増加したほかEC諸国へも50.2%増 (同7.2%)となったのに対し,日本向けは13.8%増(同41.7%)にとどまった。一方,輸入は前年比18.9%増にとどまった。品目別にみると機械機器(輸送用機械含む)や食料の輸入増加率が高いのに対し,肥料は国内生産が順調であることから急減した。

この結果,貿易収支黒字は再び拡大している。また,貿易外収支も石油企業を中心とした海外への利潤送金が多額にのぼっていたが,同国が石油収入の増大を目的に外国石油会社との間で利益配分につき外国石油会社の取り分を削減(24.1%→15%へ)する等の契約改定を行ったこと(76年4月及び7~8月)等から若干改善したとみられる。資本収支も外国からの直接投資は沈滞しているものの援助資金が増大したことや,プルタミナ関係の対外短期債務支払いが75年中に一段落したことから大幅な黒字を記録している。この結果,総合収支は前年の857百万ドルの赤字から76年は732百万ドルの黒字に転じた。外貨準備高も年末には前年末比2.6倍の1,499百万ドルに回復している。

77年に入ってからの貿易は上期の輸出が日本及びアメリカ向けを中心に先進諸国への輸出が順調であることから前年同期比31.9%増と好調である。これに対し1~5月期の輸入は前年同期比24.8%増と輸出の伸びを下回っており,貿易収支の大幅黒字基調が続いている。この結果,外貨準備高も増大傾向を続け10月末には2,863百万ドルと史上最高を記録している。

(4)財政動向

76年度(4~3月)予算はプルタミナの財政難に端を発する国家財政の苦境や外貨危機の中で石油収入の伸び悩みが予想されたことから前年比28.7%増の総額3兆5,206億ルピア(約85億ドル)と過去数年の予算に比較すると控え目なものであった。特に,歳入面では外国援助への依存度が上昇し総予算の20.4%を占めたのが目立った。

77年度予算は総額4兆2,473億ルピア(約102億ドル)で前年比20.6%増と前年の伸びをさらに下回る緊縮予算である。本予算の基本政策は前年と同様経済の安定を図るため均衡予算を維持し,一方,予算の効率的運用を図るために開発予算は第2次経済開発5ヵ年計画の優先順位に基づき重点配分すること等となっている。

まず,歳入面をみると総予算の45.8%を占める石油会社法人税が石油価格の引上げ等から前年度比17.6%増(前年度は7.6%増)の19,473億ルピアと増収が予定されているほか,輸入の増加を見込んで輸入税が39.3%増となっている。これに対し,前年度急増した外国援助は7,631億ルピアと,6.4%の増加にとどまっている。

一方,歳出は公務員給与の大幅引上げに伴い人件費が前年度比37.5%増となったほか地方自治体補助金,対外債務償還等の経常支出が同29.9%増と高い伸びを示している。これに対し,開発支出は教育や住宅・上水道部門に重点が置かれているものの全体としては12.9%増にとどまった。

なお,同国は高率のインフレが続いているため金融引締め政策が実施されているが,そうした中で,77年1月に預金金利を引下げた(定期預金1年ものを15%から12%へ,2年ものを24%から18%へ等)。預金金利の引下げは74年12月以来のことで,これは目下創設準備中の証券市場のための環境造りを主たる狙いとしたものである。

(5)物価動向

同国は73年以降高率のインフレが続いており,76年の消費者物価も一時より落着いてきているものの前年比19。7%高と依然高水準で前年の19.0%高を上回った。政府は74年以降金融引締め,重要物資(米,砂糖,セメント,肥料等)の備蓄等の物価対策をとっており,穀物生産も近年順調である。76年の上昇が大幅だったのは4月からの石油製品価格引上げ(13~33%)や前年末に行われた米,肥料の価格引上げが影響したもので,年後半には騰勢は急速に落着いてきた。

77年に入っても穀物生産が順調であることもあって物価の鎮静化傾向は続いており,1~9月間の消費者物価は前年同期比11.4%高,また,8,9月の前年同月比では1桁の上昇へと落着いてきている。

第8-6表 インドネシアの主要経済指標

6. インド

(1)概  観

70年代前半のインド経済は農業生産の不振を主因に低迷を続けていた。しかし,75年の記録的な豊作とそれに伴う工業生産の回復等から75年後半以降経済情勢は好転しており,75年度(4~3月)の成長率は8.5%に達した。

76年度の経済は農業生産が前年の大豊作に及ばなかったこともあり,成長率は2%程度にとどまった。しかし,農業生産そのものは順調で,工業生産が大幅に伸び,貿易も輸出が好調であるのに対し,輸入は穀物の豊作から食料輸入が急減したこともあって低い伸びにとどまり,年初来貿易収支は黒字に転ずるなど国際収支も好転した。この結果,外貨準備高も年末には前年末比2.2倍の31億ドルに達した。また,前年から鎮静化の著るしかった物価は76年には卸売物価,消費者物価ともに前年よりも下落している。

77年の経済は農業生産が再び大豊作を記録しており,上期の輸出も好調を持続するなど総じて順調に推移している。ただ,一方で工業生産の増勢が徐々に鈍化しており,物価も年央にかけ再び騰勢を強め,また輸入規制の緩和から年央以降輸入が急増している。

(2)生産動向

76年の農業生産は前年の大豊作には及ばなかったものの,比較的順調であった。穀物生産をみると米(もみベース)は一部地区の天候不順等から前年比12.1%減の64.4百万トンにとどまったが,小麦生産は逆に同19.5%増の28.8百万トンと豊作で穀物全体では同3.8%減の122.6百万トンを記録した。

その他作物をみるとジュート,砂糖きびは順調であったものの,落花生等油種子作物は不振で,綿花も前年を下回っている。

77年の農業は穀物生産がラビ作(乾期作,春収穫),カリフ作(雨期作,秋収穫)ともに天候にめぐまれ,米の生産が75年を上回る74百万トン(前年比14.9%増),小麦も29百万トン (同1.O%増)と史上最高の豊作が見込まれており,穀物全体でも132.6百万トン(同8.2%増)に達するとみられている(FAO11月時点の推計)。また,綿花の生産も豊作とみられている。

なお,政府は75年以降穀物の豊作が続き食料備蓄が増加したこと,このため一部に倉庫不足がおこり,維持費も膨大であること等から10月以降米の国内移動制限を撤廃した。また,76年7月以降食料穀物の新規輸入契約をストップしている。

鉱工業生産は農業の低迷から原料が不足していたことや電力不足,労働争議の多発等によって不振が続いていたが,76年には前年比10.1%増と久し振りに高い成長をみせた。これは75,76年と農業の豊作が続いたこと,電力不足の解消,75年6月の非常事態宣言以降ストが禁止されたこと等に加え,石炭や電力等の基幹部門へ優先的に投資が行われたことによる。この結果,産業別にみると石炭,電力,鉄鋼,セメント,肥料等の基幹産業の生産は順調に伸びたのに対し,やはり主要産業の1つである繊維は不振が続いた。

77年の鉱工業生産も上期に前年同期比6.8%増と比較的順調ながら成長率はやや鈍化傾向にある。これは電力不足や3月の非常事態宣言解除後の労働争議の多発等が影響しているとみられる。

(3)貿易動向

76年の輸出は前年比16.6%増と好調であった。品目別にみると鉄鋼が前年比3.1倍と急増したほか皮製品,綿織物,コーヒー,等が好調であった反面,砂糖が前年よりほぼ半減したほかジュート及び同製品も不振であった。

国別にみると主要輸出相手国であるアメリカ,日本,イギリスはいずれも好調で前年比30%台の増加であったのに対し,ソ連へは同4.7%減,また,イラン向けも半減している。

一方,輸入(c.i.f.)は前年よりも17.O%減少した。これは穀物の豊作の結果,食利が前年比12.1%減となったほか国内生産の増加から肥料が同78.2%減,鉄鋼が同37.5%減となったのが大きく影響している(この3品目は75年総輸入の42.1%を占めている)。

この結果,貿易収支(f.o.b.ベース)は,前年の1,175百万ドルの赤字から一転して467百万ドルの黒字となった。こうした貿易収支の改善に加え海外居住者の本国送金の増大等から外貨準備も急増し76年末には前年末比2.2倍の30.7億ドルへと増加した。

77年上期の貿易をみると輸出は鉄鋼,茶等の輸出が好調であることから前年同期比23.O%増と依然順調である。これに対し輸入は同14.8%増と低い伸びにとどまっていることから貿易収支は大幅黒字を続けており,6月末の外貨準備は前年末比48.3%増の45.6億ドルに達している。政府はこうした外貨準備高の急増を背景に4月末に必需物資の充足や国内産業の国際競争力強化,物価上昇抑制等をねらいとした大幅輸入規制緩和策を発表した。こうしたこともあってその後輸入は7,8月と増勢が高まっており,外貨準備高の増勢も頭打ちとなっている。

(4)財政動向

76年度(4~3月)の予算は総額1,297億ルピー (約145億ドル,前年度当初予算比20.4%増)で,本予算は歳入面では個人所得税,富裕税等の税率を引下げ,歳出面では経済開発支出の増額等景気刺激に重点がおかれていた。

なお,収支尻は32.8億ルピーの赤字予算であった。

77年度の予算(支出予算)は前年度当初予算比20.O%増の1,556.8億ルピー (約177億ドル)と伸び率はほぼ前年度並みである。本予算の重点は農業生産の拡大におかれている。歳出面をみると防衛費(前年度比8.2%増),行政費(同13.5%増)が抑制されているのに対し,農業・中小企業に対する開発支出が増大しており,電力等インフラストラクチャ部門の開発にも重点が置れている。

歳入面をみると個人所得税の課税最低限を引上げたが一方で所得税加重税率等の増税により租税収入は前年度比14.4%増の902.1億ルピーを見込んでいる。その他,国債発行が前年度比86.9%増の100億ルピー,外国援助受入れがネットで同9.7%増の89.4億ルピーとなっている。なお,収支尻は7.2億ルピーの赤字予算となっている。

同国はこれまで金融引締め政策をとってきたが77年6月から7月にかけ市中預貸金金利の引下げ等金融緩和を行った(1~3年の定期預金金利を従来の8.O%から6.O%へ等)。これはこれまで低迷を続けてきた民間投資を活発化し,待に,小規模企業や農業等向け信用供与増加を図ることをねらいとしている。

(5)物価動向

75年以降急速に鎮静化した物価は76年には卸売物価が前年比マイナス2.0%,消費者物価が同マイナス8.O%とともに下落した。これは74年の強力な物価抑制(賃金の一時凍結,株式の配当制限等),75年6月の非常事態宣言以降のヤミ業者取締強化等の諸政策に加え,75年以降の農業生産の豊作によるところが大きい。

しかし,77年に入ってからの物価は食用油や綿花等の国内供給不足や3月の非常事態宣言解除後の投機的買いだめ,売り惜しみ,さらには5月にインフレ抑制策として74年以降実施してきた賃金物価手当の強制貯蓄を撤廃したこと等もあって騰勢を強めており,上期の卸売物価は前年同期比10.1%高,消費者物価も同8.0%高となっている。このため,政府は産業界に対して製品価格の凍結を呼ぴかけている(主要12メーカーが5月末にこれに応じた)ほか,4月に輸入規制の大幅緩和(食用油を自由化)を行った。ただ,本年の農業が大豊作であることや輸入規制の緩和等のインフレ対策などから考えるとさらに騰勢が強まるとはみられない。

第8-7表 インドの主要経済指標

7. パキスタン

(1)概  観

75年度(75年7月~76年6月)のパキスタン経済は当初9.O%の成長目標を設定していたが1.0%の低成長にとどまった。これは,農業生産が穀物は豊作だったものの綿花の減産で低い伸びにとどまったこと,特に,綿花の減産が原料不足となって主要産業である綿工業の不振につながり,また,輸出の低迷となったことが大きく影響している。また,輸出の低迷から貿易収支は大幅な赤字を記録している。なお,物価は75年中は高騰していたが,76年に入ってからは落着いている。

76年度の経済は当初8.1%の成長を見込んでいた。しかし,小麦や米等の穀物生産は引続き好調であったものの,76年の7~9月にかけての洪水の影響で綿花生産が大幅減産となった。また,工業生産も綿工業を中心に不振が続き,総選挙にからむ政情不安も停滞の一因になった。貿易は輸出の低迷と輸入の急増から貿易収支の悪化傾向が続き,77年6月末の外貨準備高も前年度末比31.1%減となっている。こうした点を考えると76年度の成長率は当初目標を相当下回るとみられる。また,76年中比較的落着いていた物価は77年に入って再び騰勢をみせている。

なお,政府は77年度に9.6%の経済成長達成を目標にしており,目下,農業は順調に推移している。

(2)生産動向

農業生産は74年度に小麦,米等の主要穀物の減産からマイナス成長となったあと,75年度も穀物生産は好調であったものの綿花生産の不振があって前年度比4.O%増とわずかな回復にとどまった。

76年度は綿花が年度当初の洪水のために大きな被害を受け,生産高は当初目標の400万俵から実際には210~220万俵へと大幅に減産となった。この綿花の不作は綿花輸出減,原綿不足による綿工業の不振とパキスタン経済に大きな影響を与えた。一方,穀物生産は好調で小麦は900~920万トン(前年度は850万トン),米も255万トン (同240万トン)と大幅な増産でその他,砂糖きびも前年度比10.2%増と順調であった。しかし,農業全体では当初目標8.O%増の達7成は到底困難で目標の半分以下の生産増とみられている。なお,77年度の上期の農業は綿花生産の回復,穀物生産の好調と目下順調である。

工業生産は主産品である繊維製品の輸出需要の低迷,原料不足,企業の国有化不安による投資減退等から74年以降不振が続いている。75年度も鉱工業生産指数は前年度比0.8%減と低迷している。政府は繊維産業については綿花の輸出停止などによる国内生産向け原材料確保等を行ったものの,綿布が前年度比1.5%減,綿糸が同2.6%増と不振であった。ただ,砂糖,肥料,タバコ等の生産は比較的順調であった。

76年度も76年6月~77年3月までの鉱工業生産指数をみると前年同期比4.1%減と不振が続いている。これは繊維産業が原綿不足や電力不足等で不振が続いているのに加え,総選挙にからむその後の政情不安等からストが多発し操業度が低下するなどの困難にみまわれていることによる。そうした中で,砂糖や肥料等の生産は順調な動きをみせた。

政府は民間投資の拡大を図るために,輸出の促進,資本財輸入制限の緩和,所得税等の軽減を行っているが,一方で国有化に対する不安(ブット政権下で重機械,化学,銀行等が国有化された)があるため投資は低迷しており,特に76年7月の綿繰り,精粉,精米工場の国有化によって一層民間投資意欲は鈍っている。このため,77年9月には投資活動を刺激するために,民間企業の固定投資に対する融資金利に上限を設ける一方,税制上の一層の優遇措置をとった。また,加えて海外からの投資で操業する企業は国有化しない等国家支配産業分野に内外の投資を開放する等の措置をとった。

(3)貿易及び国際収支動向

76年の貿易をみると輸出は前年比10.9%増と前年の不振からやや改善をみせた。品目別にみると米の輸出が前年比36.1%増と好調であったほか魚介類,香辛料は順調であった反面,綿花は76年に入って新綿の輸出を停止したこともあって前年比69.4%減と大幅に減少している。

一方,輸入は前年比1.1%減となった。これは国内生産の好調から小麦輸入が大幅に減少したほか同じく肥料等も減少したことによる。この結果,貿易収支赤字(f.o.b.ベース)は前年よりやや改善したものの,それでも1,070百万ドルもの赤字を記録した(経常収支は762百万ドルの赤字)。一方,資本収支は援助資金受取りが前年より増大する等順調であったことから国際収支は37百万ドルの黒字(前年は212百万ドルの赤字)となり,減少傾向にあった外貨準備も76年末には前年末比31.O%増の5.3億ドルと若干の回復をみせた。ただ,貿易収支の大幅赤字にかかわらず76年7月以降,工業生産の増強と消費物資の供給不足解消を目的とした輸入自由化政策を推進したため,76年後半以降再び輸入の増勢が高まっている。

77年の貿易は1~9月期の輸出が綿花(前年同期比42.8%減)の輸出不振を主因に前年同期比0.2%減と低迷しているのに対し,同期の輸入は同15.3%と増大している。このため貿易収支は大幅な赤字を続けており,外貨準備高も9月末には前年末比14.3%減の4.6億ドルと低い水準に落込んでいる。

(4)財政動向

76年度の予算は前年度当初予算比17.4%増の331億ルピー (約33億ドル)で,重点を農業と後進地域を中心とした経済開発,インフラストラクチャーの整備,国防力の充実,インフレの防止の4点におき年間8.1%の成長を目指した。また,収支尻は5億ルピーの赤字予算である。

77年度の予算は前年度当初予算比12.7%増の373億ルピー (約38億ドル)で,物価上昇を考えると緊縮予算とみることができる。本予算は農・工業生産の回復に重点をおいており,9.6%の成長率達成を目標としている。

歳出面をみると既存生産部門の生産回復に重点をおいていることから新規開発は抑制されており,開発支出(資本勘定)は170億ルピーと前年度と同水準である。これに対し経常勘定は人件費の上昇を主因に前年度比26.1%増となっており,うち,国防費は同14.6%増(総予算の24.7%を占める),また債務返済も同51.4%増と急増している。

一方,歳入は租税収入が前年度比8.6%増であるのに対し,外国援助は同5.5%減と前年度より減少を見込んでおり合計4.O%増となってぃる。この結果収支尻は前年を大幅に上回る36億ルピーの赤字予算で,これは主として金融機関からの借入れによってファイナンスされる予定である。

(5)物価動向

73年から75年にかけて2桁の上昇を続けていた物価は75年後半から鎮静化傾向をみせ,76年は卸売物価が前年比8.3%高(前年は22.4%高),消費者物価が同7.2%高(同20.9%高)と落着いた動きであった。これは金融引締め政策の堅持,緊縮財政の実施,輸入自由化の促進等の政策に加え,75,76年と穀物生産の豊作が続いたことによるものである。ただ,76年の後半から再び騰勢をみせており,77年上期には卸売物価が前年同期比12.2%高,消費者物価が同11.5%高と2桁上昇となっている。これは76年10月のレストランの値上げ(約20%),11月のタバコ値上げ,12月のガソリン等の石油製品値上げ(約6%),77年4月の公務員賃金の大幅引上げ(ベースで約20%,諸手当を含むと39.9%)等の要因に政情不安が加わったためとみられる。このため政府は77年6月に公定歩合を従来の9%から10%に引上げるとともに市中預貸金金利を0.5~1.O%引上げたほか7月には輸入規制をさらに緩和し,自由化を進める等の対策をとっている。

第8-8表 パキスタンの主要経済指標

第9章 中  東

1. エジプト

(概  況)

1973年10月の第4次中東戦争終了後,エジプト政府は外資の積極的導入によって国内経済の発展を図る「門戸解放政策」を推進しており,74年6月には外国資本導入の制度化(投資法制定,その後77年6月に一部改正されている。)が行われた。しかしエジプト経済は現在までのところ,①国際収支の悪化とGDP規模を上回る対外債務累積(第9-1表),②財政赤字の増大,③物価の上昇といった種々の問題をかかえており,外国企業の誘致についても,①電話,電力をはじめとする各種インフラストラクチャーの不備,②官僚機構の非能率,等の問題もあって必ずしも十分な成果はあがっていない。

第9-1表 対外債務の内容

ただ最近に至って,アメリカ資本の自動車および食品部門への進出決定,石油部門の好調,援助資金の円滑な流入など,明るい材料もみられる。また,申東和平が実現に向うならば,①外の進出が促進される,②軍事費負担が軽減できる,等の面からエジプト経済に好影響を与えることとなろう。

第9-2表はGDPの推移を示す。76年の実質成長率については8%程度,77年については8%をやや上回ろうとの推測があり (Quarterly EconomicReview誌77年11月15日付),比較的高い成長を続けている。エジプト経済においては農業がGDPの31%,雇用の44%を占め(第9-3表),中心的産業である。このうち,綿花はこのところ予想を下回る作柄となっており,             77年の小麦生産も前年の197万トンから175ないし190万トンに落ち込むと見込まれるなど,農業は全般的に振わなかった。他方,工業生産は76年の11%増に続いて77年1~6月期は17%増と好調であった。

第9-2表 GDPの推移

第9-3表 産業別GDPと雇用

(貿易・国際収支)

76年には輸出の大宗を占める綿花(71~75年平均で輸出総額の44%)が数量で11%減,価格も14%低下となったことから,石油,米などが増加したものの,輸出全体としては前年比横ばいにとどまった。輸入も輸出の2倍半程度と高水準ながら前年とほぼ同額となり,貿易収支の大幅赤字が続いた(第9-4表)。しかし,国外への出稼ぎ労働者(現在50万人程度といわれる)からの送金の増加(75年の3.6億ドルから76年の7.5億ドルヘ),スエズ運河収入増(同運河は75年6月に再開された),観光収入の増加などからサービスが7億ドルの受取超越に転じ(第9-5表),これを主因として経常収支の赤字幅は前年の14億ドルから76年には8億ドルへと縮小した。

第9-4表 輸出入の推移

第9-5表 国際収支

77年上期の輸出は,綿花が9%増に転じたほか,綿製品を中心とする工業品の33%増,石油輸出の好調などから,22%増となった。他方輸入は76年に契約された発電所,住宅,産業設備などの投資の増加もあって中間財を中心に37%の伸びとなっている。

最近石油が輸出産品として大きく伸びてきた。エジプトはOAPEC (アラブ石油輸出国機構)の一員であり,その原油生産量は76年の32.7万バレル/日から77年6~8月平均で44.5万バレル/日へと増加し,メキシコあるいはイギリスの半分程度の規模となっている(第9-6表)。国内消費は76年に16万バレル/日程度であり,生産量の半分以上は輸出されることになる。純輸出額は76年に3億ドル,77年1~6月で2億ドル程度とされている。石油相は80年までに生産量を百万バレル/日,純輸出額を年間11億ドルに引き上げると述べている(77年6月)。現在世界17カ国の56の石油会社が探査活動を行っていると伝えられ,今後の進捗が注目される。なお確認埋蔵量は76年末で19.5億バレルと推定されている。

第9-6表 原油生産量

(財政・金融・物価)

77年度予算案(1月17出こ議会提出,エジプトの会計年度は1~12月)は,①輸入関税引上げ等による増税措置,②公務員賃金,開発投資等の増大,③補助金の削減,などを特徴としている(第9-7表)。

第9-7表 エジプトー般予算の推移

これよりさき,IMFは,「門戸解放政策」に沿ってエジプト経済を再建するにはエジプトの財政を建直す必要があるとし,そのための処方箋を提示していた。その要点は,①食料等消費財に対する補助金支出の削減などによって,国家予算の赤字を削減すること,②為替レートを実勢に近づけ,エジプト・ポンドのフロート制を導入すること(かなりの切下げとなる。),③関税をこの新レートに基づいて計算すること,であった。

77年度予算案の補助金削減措置は,このようなIMF勧告の実現に向って一歩を進めようとしたものであったが,結局,実施されるところとはならなかった。すなわち,予算案が議会に提出された翌日(1月18日)には,パン,たばこ,砂糖,米,ガソリン,タクシー代,ブタン・ガスの6品目が5~50%値上がりしたことから,死者79名を出す大規模な「物価暴動」がおこり,政府は補助金削減を撤回して価格を従来水準に抑えざるをえなくなった(1月19日)。

通貨供給は前年同期比25%程度の大きな伸びが続いている(第9-8表)。消費者物価上昇率は政府統計では10%程度で推移している(第9-9表)が,通貨供給の伸ぴ率からみて必ずしも実態を反映していないともいわれている。

第9-8表 通貨供給伸び率

第9-9表 物価動向

(78~82年の新5ヵ年計画)77年11月,新5ヵ年計画が策定された(計画期間は当初予定では76~80年であったが,78~82年に変更された)。

新計画は政府部門総投資額を約260億ドル(102億エジプト・ポンド)とし,GNP成長率(実質)は年平均11.6%となっている。国内総消費は82年に国内総生産の83%に相当し,残り17%が貯蓄となる(これまでの実績である13%程度よりだいぶ高いが,石油収入増などによって達成可能としている。)。計画によれば,貿易収支の赤字は78年の7.9億エジプト・ポンドから82年には2.1億エジプト・ポンドへと約1/4に減小し,国民所得に対する比率も11.5%から2%へと低下,また投資率(国民所得に対する投資の割合)は77年の23%から82年には28%に上昇することを予定している。

産業部門別生産額の総生産額に占めるシェアは第9-10表のとおりであり,石油が77年の5.6%から82年には12.3%と著増するほか,建設,運輸・通信も増大する。農業,かんがいは20.3%から14.5%に,商業,金融も8.6%から7.0%に,それぞれ減少する。

第9-10表 新5ヵ年計画の産業別シェア

政府の投資額102億エジプト・ポンドは,民間を含めた総投資額123億エジプト・ポンドの8割強を占める。政府投資の重点部門は運輸・通信部門(全体の27%)と鉱工業部門(同24%)である。

2. イラン

(概  況)

76/77年度(76.3.21~77.3.20,以下同じ)には,さまざまなボトルネックの存在にもかかわらず, GDPは名目で31%(第9-11表),実質でもかなりの伸び(77年10月の皇帝の国会での演説では13.8%)を示した。これは,石油を中心に輸出が増加に転じたこと,民間建設部門の投資が前年に比してやや鈍化しながらもかなりの伸びをみせた(第9-12表)こと,個人消費が堅調であったこと,などによるものである。産業別にみると,石油部門(GDPシェア38%)が13%増に転じたほか,建設部門が43%増,農業部門も天候に恵まれて6.4%増となった。77/78年前半(77.3.21~77.8.20)の1人あたり国民所得は2,222ドルに達した(前年同期比20.1%増)とされている。

第9-11表 国内総生産の推移

第9-12表 投資の前年比増加率

以上のように全般的にかなり好調であったとみえるイラン経済のなかで,当面の最大の問題はインフレであり,農村から都市への人口流入に伴う住宅不足の深刻化などから住居費を中心に激しい物価上昇が続いている。ひところの港湾混雑は,輸入物資の荷動きの鎮静化や港湾整備作業が集中的に行われたことなどから改善に向ったが,77年夏には従来も小規模にはみられた電力不足がきわめて深刻化し,テヘランでは1日4時間の停電が相当長期にわたって続くなど,国民生活および経済活動に大きな影響を与えた。

77年8月に成立したアムゼカル新内閣の課題は,これまでの急成長の過程で生じた各種のひずみを除去しながら調和ある発展をとげることにあるといえよう。新内閣の重点施策として発表されているのは,①水利,発電,通信,教育,衛生への政府支出を増やす,②石油収入への依存度を減らす,③国内産業の生産コストの引き下げに努力する(輸入製品に比して数倍高いものがある。),などの諸点である。また,78年3月から83年3月までを計画期間とする第6次5ヵ年計画も策定されつつあり,目標成長率(実質)は現行第5次計画の25.9%の半分にも達しない10%程度のより安定的なものになるといわれている。

(物価・賃金)

激しい物価上昇が続いており,消費者物価の前年同月比は30%高となっている(77年7~9月期,第9-13表)。すでに73年以降かなりのインフレがみられ,75年7月には,生活必需品とサービスの価格を引き下げよとの皇帝命令に基づき,①生産者,流通業者による食料,衣類,建設資材の価格10%引下げ協定,②流通各段階での標準価格設定などの物価統制,③物価監視員による不当利得者や物資隠匿者の摘発,などの「暴利追放運動」が展開され,以後75年10月まで物価が下がり続けるなど,短期的にはかなりの効果をみせた。76年1~3月期,4~6月期の前年同月比上昇率が1桁になっているのは,こうした理由による。しかしその後統制措置が徐々に緩和されるにつれて,物価の騰勢は再び強まりをみせ,現在に至っている。最近はとくに住居費が年率60%にも達する上昇率になっているといわれる。77年8月,皇帝は,今後3ヵ年以内に土地価格の上昇が年間物価上昇率のワク内におさまるよう,政府はあらゆる手段を講じるべきであると述べ,以後土地価格規制の動きが出ている。

第9-13表 物価と賃金の上昇率

賃金も引続き伸びが大きく,76年には36%増となっている(前掲第9-13表)。基本的には73年以後の急激な経済開発に伴って技能および半技能労働者を中心に労働力不足が顕在化していることによるものとみられるが,それ以外に,政府によって企業に対する賃上げの行政指導が行われている点も見逃せない。「利益分配法」(63年制定)に基づいて,企業は利益額の25%を限度として労働者に分配しなければならないと定められている。その割合は経営側と労働側との委員会において決定するたてまえであるが,実際には政府が労働者の地位向上の立場から介入するケースが多い。第9-14表は賃金と労働生産性の推移を示しているが,賃上げ率が生産性上昇率の2倍以上に達している年が多く,これが電力,港湾等インフラストラクチャーの不足,石油収入増加による過剰流動性の発生等と並んで,最近の激しい物価上昇の要因ともなっている。

第9-14表 賃金と労働生産性の上昇率

(財政・金融)

77/78年度予算規模は,国営企業等の収入と支出を除いた一般会計でみて,歳入2兆1,886億リアル(約313億ドル,前年比14%増),歳出2兆3,112億リアル(約330億ドル,同12%増)となっている(第9-15表)。物価上昇を考慮すれば実質的に前年比横ばいないしそれ以下であり,抑制型の予算であるといえよう。歳出内容では,一般行政費と防衛費とが減少し,他方,電力,石油,運輸,通信などを重点に経済関係費が5割強の増加となっている。また,対外投資・援助については,すでにコミット済のものに限られたことから,減少している点が注目される。

第9-15表 イランー般会計

金融は引き締め状態が続いている。76/77年には市中(商業,特殊)銀行の民間部門向け融資伸び率は40%に低下した(前年は55%増)。通貨供給量も77年3月以降,7,500億リアル程度の水準で横ばいとなっている(第9-1図)。また,77年6月には中央銀行の手形再割引率の9%から10%への変更など一連の金利引上げが行われた。

第9-1図 イランの通貨供給量

(貿易・国際収支)

経常収支黒字幅は,75年に輸出の減少と輸入の急増により大きく縮小したあと,76年には,総輸出の9割以上を占める原油輸出が24%増に転じたほか輸入の伸びも鈍化したことから,やや増加して51億ドルとなった(第9-16表)。

第9-16表 国際収支

77年に入ると,輸出入ともやや低迷している。原油輸出は76年秋口からの急増(77年1月からの10.3%値上げをみこしたもの)の反動等もあって10%の値上げが行われたにもかかわらず,1~9月の前年同期比で7%増にとどまっている(第9-17表)。また,非石油輸出も伸び悩んでいる。このうち綿花,カーペットなどの伝統的産品(非石油輸出の7割を占める)については,労働力不足,人件費の急騰により生産,輸出とも頭打ちになっており,また従来は輸出余力のあった一部の工業製品(繊維,衣類,洗剤,石けんはき物等)も増大する内需に応じるのに手一杯の状態とみられる。輸入についても,1~9月で14.6%増と,76年よりさらに鈍化している。なお,輸入品の構成をみると,機械と鉄鋼とで総輸入の6割弱を占めている。

第9-17表 輸出入の動向

外貨保有高は75年末89億ドル,76年末も同じく89億ドルのあと,77年10月末には115億ドルとなった。

3. サウジアラビア

(概  況)

サウジアラビアのGDPは75/76年に1,550億サウジ・リアル(約439億ドル,1ドル=3.53サウジ・リアル)であり,イタリアの経済規模の4分の1  に相当する。石油を中心とする輸出のGDPに対する比率はきわめて大きく,輸入を差し引いた純輸出でみてもGDPの5割弱に達する(第9-18表)。75/76年には世界景気の停滞から石油収入が伸び悩んだ(したがって名目GDPの伸びは鈍化した)が,国内最終需要は81.3%と前年を上回る大きな伸びとなった。しかし激しい物価上昇が続いたこともあって,76/77年と77/78年の予算は抑制型のものとなっている。また,76年夏ごろから,海水淡水化,地域電化,下水,通信網等々のプロジェクトの延期ないしとりやめが行われたほか,第2次5ケ年計画(75/76~79/80)の重点部門である石油精製,石油化学,鉄鋼,アルミ精錬,等重化学工業についても,はかばかしい進展はみられない。

第9-18表 国内総生産の推移

(物  価)

73年秋の石油価格大幅引上げ以降,経済規模の拡大は急速であった。これに伴う需要圧力の強まりと港湾,住宅,労働力などさまざまなボトルネックの発生から,消費者物価は75年35%,76年32%と急騰し,とくに住居費は大きく上昇した(第9-19表)。しかし,住居費も76年10~12月期に至って横ばいないし微落に転じたことなどから,77年の物価上昇率は引続き高率なが          らもかなり鈍化したと見込まれる。

第9-19表 費目別消費者物価上昇率

この間の物価対策は,総需要抑制策と個別対策とに大別できるが,前者については(財政)の項でみることとし,ここでは後者について触れよう。まず,74年6月に生計費対策として,補助金給付範囲の拡大(小麦,米,砂糖に加えて薬品,牛乳,乳製品,肉,食用油等)や,道路税廃止,関税引下げ,石油製品消費税廃止,電力料金引下げ,など税・公共料金負担の軽減による消費者物価抑制策が実施された。76年3月には,住宅対策,労働力対策,プロジェクト管理対策,食料対策,その他の5本柱からなる総合インフレ対策が講じられた。ついで同年6月には,①木材,鉄骨等の資材,②茶,カン詰,チーズ,コーヒー等の食品について,輸入・卸売・小売の各段階でマージンの規制がなされることとなった。その後もセメント価格規制(77年4月),ジェッダのホテル料金凍結(同6月)などが行われた。

(財  政)

76/77年の歳出予算は前年同額の1,109億3,500サウジ・リアル(約314億ドル),翌77/78年も1,114億サウジ・リアルと前年比0.4%の微増にとどまり(第9-20表)。物価上昇を差引いた実質伸び率は2年連続マイナスとなっている。これは,73/74年から75/76年までの3年間の歳出実積の伸び率が,それぞれ83%,88%,121%ときわめて大きかったことと対照的であり,最近の財政運営においては物価抑制のために引締め措置がとられたといえよう。なお,財政支出がサウジアラビア経済に占める比重は50%にも達しており(75/76年のGDPに対する財政支出実績の比率,第9-21表),財政引締めが景気過熱を抑える効果はかなり大きいとみてよい。

開発歳出の部門別構成をみると,76/77年以降若干の変化がみられる。前年までの公共事業・住宅部門支出は1%未満であったのに対して,76/77年には12.2%にまで増大した(第9-22表)。75年から76年にかけては住居費の上昇はとくに大きく (前掲第9-19表),その対策として公共事業・住宅部門への支出が急増したものとみられる。また,運輸・通信部門の比重も,ボトルネック解消の見地から高められている。

第9-20表 予算と実績

第9-21表 国民総支出と財政支出の比較

第9-22表 開発歳出(予算ベース)の部門別構成比

(プロジェクト入札価格)

物価抑制のための財政引締め策の一環として,個別プロジェクトの応礼価格が過大になるのを抑えようとする動きがみられた。すなわち,応札価格をつり上げている企業に対する対抗措置としてそのような企業のブラツクリストが作成され(同2月),公共工事の入札規則が改定された(同6月)。その主な内容は,①工事の入札または施行は国際市場の実勢を超えない公正な価格によるべきである。②政府が業者の入札を検討したうえ,価格,条件,仕様の点で不適当であり,かつ交渉をもってしても妥協できないと判断した場合,その業者の入札は取消しできる。③すべての入札価格が著しく市場価格を上回る場合,政府はその中の最低入札価格業者に対し,その価格の引下げを要請できる。④もしその入札業者が妥当なレベルまで価格を引下げなかったり,入札を辞退する場合は,次の入札者と交渉に入るが,入札者すべてに価格引下げを要請できる,などとなっている。こうした考え方は,すでに77年1月の4地域電化プロジェクトの入札の際にもあらわれており,サウジアラビア政府は1番札の日本および西ドイッ企業との交渉を打切って,結局,パキスタン,インド,台湾,韓国の各企業と契約を結ぶこととなった。契約価格は,日本,西ドイッ企業の応札価格のにほどに圧縮されていると伝えられる。

(貿易と国際収支)

サウジアラビアでは,源油輸出が輸出総額の9割5分ほどを占めている。75年には,原油輸出が前年比1割減少した(第9-23表)ことなどから,経常収支黒字幅は約90億ドル縮小して139億ドルになった。76年には,原油輸出が3割増に転じたために,輸入は前年並みの7割弱の大幅増加を続けたものの,経常収支は75年とほぼ同水準の136億ドルの黒字となった。

77年上期2/3ついては,輸出総額が前年同期比17%,輸入が48%,それぞれ増加した。この結果,輸出総額に対する輸入総額の比率は引続き着実に高まって34%となった(74年13%,76年上期27%,76年下期32%)。

第9-23表 輸出入の推移

第10章 中南米

1. ブラジル

(1)概  観

ブラジル経済は1968年以来1974年まで7年間連続して経済成長率(実質GDP) 9%以上の高成長を続けたが,73年の石油価格急騰,それを発端とした74年,75年の世界的不況の影響を受けて75年の成長率は4.0%と前年の半分以下に落ち込み,貿易収支は35億ドルの赤字となり,物価上昇率も74年以降30%近くにはね上った。こうした経済情勢のもとで政府は76年には,国際収支改善とインフレ抑制を目的として低成長覚悟でスタートしたが,先進工業国の景気回復を背景に工業生産が予想以上に伸びたため8.8%の高成長率を達成した(第10-1図)。

第10-1図 ブラジルの経済成長率と物価動向

しかしブラジルは生産財の輸入依存度が非常に高いため高成長は国際収支の悪化をもたらす傾向があり,政府の輸入抑制策にもかかわらず76年の貿易収支は21億4,700万ドルの赤字となり,年末の対外債務残高は259億ドルに達した。またインフレも激化し,卸売物価,消費者物価ともに40%を上回る上昇を示した。

このため77年に入って,政府はインフレ抑制を最大の目標に緊縮政策をとっている。そのため物価は上半期には再び上昇テンポをたかめたものの下半期にはやや落着きをみせており,前年比37%程度の上昇率に収まるものとみられている。一方貿易収支は輸出の好調から黒字転換も期待でき,経済成長率も5~6%と予測されている。

(2)生産動向

1976年の農業生産(畜産業を含む)はGDPベースで前年比4.2%増と75年の同3.4%増をやや上回ったものの第二次国家開発計画(1975~1979年)の目標7%を達成できなかった。特に農作物については,75年の大霜害でコーヒー樹の約半数が被害を受けたため,76年のコーヒー生産が前年比69%の大幅減少となったのを始め,東北部の千ばつで綿花が29%減と不振であった。一方,小麦は前年比80%増の増産となったほか米(同27%増),さとうきび(同17%増),大豆(同14%増)などが順調であったが,農作物全体では前年比0.4%の微増にとどまっている。畜産部門は前年比12.2%増と75年の同14.9%増に引き続いて好調であった。

1977年の農業生産は,かなりの好調が予想されている。まずコーヒー収穫は15.3百万袋と推計されており,これは76年の2.5倍に当るが,それでも75年にくらべれば24%下回っている。他に大豆,綿花,とうもろこし,ココア等も増産の見通しである。しかしFAOの予測によれば小麦,米は減産が予想され穀物全体では僅かながら減産の見通しである。

製造業の生産をGDPベースでみると76年は10.5%増(75年は3.8%増)と予想以上の上昇を示した。この原因は農産物を中心とする輸出の好調や大幅賃上げを背景に国内消費需要が増大し,紙製品(前年比21.8%増),ゴム製品(同13.4%増),食料品・タバコ (同12.O%増),電機・通信機器(同11.6%増),化学製品・化粧品(同11.3%増)などの生産が伸びたことが主因である。しかし繊維品(同7.2%増),輸送機械(同7.2%増)は製造業平均の伸びを下回っており,特に自動車生産は同4.1%増と75年(同1.5%増)に引きつづき停滞している。

77年上半期の製造業全体の生産は7%台の増加であった。しかし部門別には,かなリバラツキがあり,鉄鋼,石油製品は20%を越える伸び率であるものの,自動車部門は減産となった。また下半期の見通しは暗く,先細りになると見られている。これは自動車をはじめとするいくつかの最終生産物の生産落ち込みが,基礎工業部門の生産に影響を与え始めることや,77年度公共投資予算の大幅削減(予算総額の16%に相当する400億クルゼイロ)の影響が出はじめると予想されるためである。

(3)物価動向

1976年の物価をみると,政府の年初来のインフレ抑制努力にもかかわらず卸売物価は前年比43.2%高,消費者物価(グアナバラ州生計費)も同41.9%高と66年以来の高い上昇率となった。これは生計費上昇を上回る大幅な賃金引上げ,輸入預託金制などの輸入抑制による輸入原材料価格の上昇,金利自由化( 9月)による高金利,年初来の過剰流動性,などが要因と思われる。因にブラジルの物価は比較的落着いていた70年頃でも上昇率は20%前後に達していた。

四半期別に卸売物価の動向をみると,76年第3四半期に前期比12.8%高とピークに達し第4四半期8.7%高とやや落着いたが,77年1月の価格改訂が予想を上回る大幅なものとなり,77年第1四半期は前期比9.8%高,第2四半期は11.9%と再び上昇率が高まった(第10-1表)。しかし5月の賃金改定が生計費上昇分を僅かに上回る程度(44%)に収まったことや,政府のインフレ抑制を目的とした緊縮政策の効果があらわれたことから第3四半期には前期比3.6%高にまで改善された。このため政府は77年のインフレ率は37%にとどまるとみている。第10-2図はヴアルガス研究所発表の総合物価指数の累積上昇率であるが,これでみると77年6月以降にインフレ率沈静化傾向がみられる。

第10-1表 ブラジルの物価,通貨量指標

第10-2図 総合物価指数の累積上昇率

(4)貿易・国際収支

1976年には,輸出の好調から貿易赤字が縮小し,長期借款の増加で資本収支の黒字幅も拡大したため総合収支は73年以降はじめて黒字(11億9,170万ドル)となった。この結果外貨準備高は76年12月末で65億4,100万ドルと2年ぶりに増加した。しかし対外債務累積額は依然増大を続けている。

1976年の輸出額は前年比16.8%増の101億2,800万ドルに達した。この主因はコーヒー輸出額の急増である。75年の霜害の影響でコーヒーは世界的に需給がひっ迫し価格が急騰したため,数量では僅かな増加にすぎなかったものの金額では前年比156.7%増加した(第10-3図)。この他にも大豆,とうもろこし等非伝統的一次産品といわれる農産物が前年比20.9%増と好調であったが,製造工業品は同6.O%増にとどまった。この結果近年急速に拡大していた製造工業品輸出の輸出総額に占める割合は(65年176 7%,70年22.4%,75年36.3%),76年には33.O%と若干低下した。一方,輸入額は政府が輸入預託金制など数々の輸入抑制策を採ったこともあってほぼ75年と同水準となった。この結果貿易収支は21億4,700万ドルの赤字となり,75年の約35億ドルの赤字から,かなりの改善をみせた。

第10-3図 ブラジルの輸出総額に占めるコーヒーのシェア

76年の貿易相手国別動向を第10-4図でみると,輸出は対アメリカ,対EECが(特に西ドイッ,フランス中心に)増加し,輸入は対アメリカ,対EECともに減少し,サウジアラビア,イラク等の産油国からの石油輸入が拡大しているのが特徴である。

貿易外収支は,利子支払の増加が大きく響き,39億1,870万ドルの赤字となり,75年の赤字幅(32億1,270万ドル)を上回った。このため経常収支は60億6,200万ドルの赤字(75年は約67億ドルの赤字)となった。また対外債務残高は76年も増大し,12月末には259億ドルに達し,純債務輸出比率は1.91と75年末の2.708から嘆かに低下したものの高率を示している。

第10-4図 ブラジルの国別貿易動向

77年上半期の貿易動向をみる一月平均一と,輸出は前年同期比41%増と好調を続け,輸入は3%の増加にとどまった。この結果貿易収支は大幅に改善され,2億3,300万ドルの黒字(76年同期は13億5,400万ドルの赤字)となった。貿易収支が黒字となったのは73年の石油危機以来はじめてである。輸出好調の原因はコーヒー価格が76年来の高値を更新し,輸出額が前年同期比155%増加したこと,および,製造工業品輸出が20%増加したことなどによる。一方輸入は預託金制やその他の抑制的措置により昨年並水準となっている。

また1978年経済見通しはQ.E.Rによれば,財政支出の縮小や通貨供給量の引締めなど,緊縮政策が前年から引き継がれ民間投資は低迷が予想されているものの,農業生産が好調であることや,1977年央以降のインフレ率低下から企業家が自信を回復していることや,一次産品を中心とする輸出増による国際収支改善が続いていることから実質GDP成長率は77年と同じ5~6%と予測している。

第10-2表 ブラジルの生産,貿易指標

2. メキシコ

(1)概  観

メキシコ政府は,1976年9月1日に1954年以来22年間堅持してきた1ドル=12.5ペソの固定為替レートを放棄し,変動相場制(実質的には通貨ペソの切下げ)に移行した。これは直接的には経常収支の大幅な悪化により資本の国外流出がとめどなく増大したためであったが,①73年以降の世界的景気後退とインフレ波及,②農業生産の停滞,③財政赤字の累積などが背景となっている。しかしペソ切下げ後も通貨不安とインフレは静まらず,経済的混乱のうちに76年12月には政権交代が行なわれた。

このような状況下で1976年の経済成長率(実質GDP)は2.O%に落ち込んだ。これまでメキシコ経済は長期間にわたり高成長(60年代平均7.1%,70年代前半5.6%)を持続していたが(第10-5図),近年成長率は鈍化傾向を強め,ついに76年は人口増加率(3.5%)を下回る低成長率となった。

第10-5図 メキシコの経済成長率と物価動向

産業別には,農業,鉱工業ともに2%台の低い伸び率にとどまっており,77年見込も農業が気象条件から期待できず,鉱工業生産は自動車をはじめとする製造業の不振から前年並とみられる。

物価上昇率はペソ切下げ後一層高まり,77年に入ってその上昇率はようやく弱まりつつある。

貿易面では,石油を中心とする輸出の好調と国内不況を反映した輸入の減少により貿易収支赤字幅は縮小した。この傾向は77年も続いており,3月には貿易収支が黒字となるなど改善基調にある。

こうして77年経済は1~3月期にボトムに達し,その後緩やかに回復しつつあり,成長率は2~3%と見込まれている。

(2)生産動向

1976年の農業生産は,降雨に恵まれ,FAOによれば,前年比2.1%の増産(75年ば同0.7%増)であった。特に穀物生産は8.6%の増加で,これは政府が数年来積極的に農業開発投資を行なってきた効果のあらわれとみられる。しかし70年頃からの穀物不足は続いており,76年も小麦,とうもろこしを約1.1億ドル輸入している(前年比72.4%減)。

一方77年の農業生産は上半期には雨量も十分で増産の予想となっていたが,8月にソノラ,シナロア地方(主要穀倉地)が干ばつにあい,一転して見通しは暗くなった。このためようやく減少傾向にあった穀物輸入は再び増加しそうである。

鉱工業生産の伸び率は,74年以降年々低下をつづけ,76年の前年比は2.7%増にとどまった。四半期別動向を前年同期比でみると,第10-6図のとおり76年10~12月期と77年1~3月期にはマイナスの伸び率となっている。このうち製造業(76年のGDP構成比は24.5%)の生産活動も76年10~12月期以降大きく落ち込んでいるが,これは自動車,トラックの不振が主因となっている。これは9月のペソ切下げの影響で輸入部品が値上がりし,販売価格が50%も引上げられたうえ,更にガソリン,自動車保有税の値上げ,市中銀行の資金不足から消費者信用が縮小され,需要が減少の一途を辿ったからである。

第10-6図 鉱工業生産動向‐対前年同期増加率‐

一方76年の石油の生産・販売は好調で,PEMEX(メキシコ石油公社)の年次報告によれば,石油,液化ガスの生産は前年比10.9%増加した。76年末現在の確認埋蔵量は111億6,000万バーレル(可採年数24.9年)で,推定埋蔵量は600億バーレルを上回るとみられている。また76年の石油化学製品生産も好調で前年比8.6%増であった。

77年の製造業生産動向をみると,1~3月期は前年同期比2.8%減とマイナスとなったものの4~6月期には同2.8%増と回復している。自動車は前年に引き続き不振であるが鉄鋼,繊維,化学で主に輸出需要と在庫積増しから増加したもようである。

(3)物価動向

メキシコの物価は73年以降インフレ傾向を強めていたが,76年にはペソ切下げの実施された9月を境に急騰した。76年の消費者物価指数をみると,1~8月は前年同期比14%の上昇で75年の同期上昇率(16.1%)を若干下回っていたが,1~12月でみると前年比20%高と上昇率は高くなる。この傾向は卸売物価に一層顕著にあらわれている。

これはペソ切下げに伴う輸入品価格の上昇に加えて,政府が切下げ後交通機関を含む一般消費者物資の値上げを認めたこと,これら物価上昇補償の名目で賃金の一率23%引上げを認めたことなどが原因となっている。更に11月にはガソリン,電力料金が大幅に値上げされ(ガソリン33%,電力料金21~65%),インフレ傾向は収まらず賃金・物価の悪循環に落ち込み77年に入った。

しかし心配された1月の最低賃金改訂が,10%の引上げ幅に留まったことからインフレ先行きにも希望が持たれるようになった。事実77年の消費者物価は1~3月期に前期比8.1%高,  4~6月期に同3.9%高とその上昇率は低下しつつあり(第10-3表),政府は今年のインフレ率の目標を20%以下としている。

第10-3表 メキシコの物価,通貨量指標

(4)貿易・国際収支

1976年の輸出は前年比15.4%増となった。伝統的輸出品のコーヒー,綿花,砂糖の輸出額は国際価格の上昇もあって前年比63.2%増となった。

更に1974年から新たに主要輸出品目に加わった石油輸出は5億5,700万ドルに達し,メキシコ最大の外貨獲得品目となり輸出総額の16.9%を占めている。一方近年急速に増大していた製造工業品の輸出は11億9,100万ドルで輸出総額に占めるシェアは36.1%と前年に引続き低下した。この製造工業品のシェアは1960年には20.8%であったが,その後年々増大を続け74年には,62.2%にまで達したが,世界的景気後退,更に石油輸出の増大による相対的シェアの縮小もあって75年には42%に低下していたものである。

一方輸入は前年比8.4%の減少となった。これは国内不況から原材料や消費財輸入が減少したためである。この結果貿易収支は27億3,200万ドルの赤字となり,75年にくらべると約10億ドル赤字幅は縮小した。

貿易外収支は2億9,200万ドルの赤字で75年を大幅に上回る赤字幅となった (75年赤字幅は4,750万ドル)。これは公的債務利払いが前年より2億ドル強増えたことが主因である。

こうして経常収支は大幅な赤字(30億2,400万ドル)となり,多額の資本流入にもかかわらず総合収支は3億3,300万ドルの赤字となった。更に公的部門対外債務残高は76年12月末現在で196億ドルに達し(76年輸出額の約6倍に相当),75年末から36%急増している。

77年1~6月の貿易は輸出が引続き好調で前年同期比30.O%と大幅に増加した。これは輸出価格急騰によるコーヒー輸出(51%増)や石油・同製品の輸出増(56.8%増)によるところが大きい。一方輸入は国内経済活動の停滞とペソ切下げが影響して前年同期比21.2%減と大幅に減少した。このため貿易収支の赤字は著しく縮小し3億1,200万ドルとなった(前年同期は14億5,800万ドルの赤字)。

また公的債務法が77年1月から施行されたこともあって,77年6月末の公的対外債務残高は209億4,800万ドルと76年末比6.9%増にとどまっている。

第10-4表 メキシコの生産,貿易指標

こうした輸出の回復を背景に77年年間では成長率2~3%が見込まれている。また78年の見通しは,Q.E.R.によると賃金上昇率の引上げ予想(15~20%)のもとで消費需要がふくらみ,石油生産の大幅拡大と同部門に支えられた輸出の好調から成長率は3.5~4.5%になると見られている。一方メキシコ政府は成長率5%を目標においている。

第11章 ソ  連

1. 概  観

76年のソ連経済は,国民所得成長率(物的純生産,支出ベース)が前年比5%と農業不作で伸び悩んだ75年を1ポイント上回り,やや明るさを取り戻した(第11-1表)。しかし,計画目標の5.4%を下回り,これで3年連続して成長計画が未達成に終った。

第11-1表 ソ連の主要経済指標

このような状況下,77年計画では成長率が前年比4.1%と計画としては近年にない低水準に設定された。77年の実績見込みは未公表であるが,76~77年の2年間の成長率が8.4%と見込まれていることから,77年の成長率は計画の4.1%を下回る公算が強い。また,第10次5か年計画では76~77年の成長率が9.7%とされていることから,計画2年目にして早くも大幅な計画の遅れが生じている。

工業生産をみると,第9次計画期間(1971~75年)には幾つかの問題点を残しながらも年率7.4%の高伸を示したが,76年には前年比4.8%と著しい増勢鈍化となった。これは75年の農業不作にともなう消費財生産の停滞を反映しているが,76年の記録的豊作を受けた77年でも1~11月前年同期比5.7%増と年次計画の5.6%を僅かに上っているにすぎない。生産拡大の最重要指標として政府が重視している労働生産性の向上は,同時期に4.2%と計画を大きく下回った。工業生産の年次計画超過達成は確定的であるが,78年計画では前年比4.5%増と再び増勢が鈍化することを予想しており,第10次計画の年平均増加率6.3%の達成は楽観できないとみられる。

農業生産をみると,75年に大幅減産となった後,76年は前年比4.1%の増加となった。穀物生産が前年比6割増の223.8百万トンと記録的豊作となったほか,工芸作物も全般に好調であったためである。ただ畜産は,飼料不足やそれを見越した大量の家畜屠殺の影響で停滞ないし減産状況産は7%台の増加であった。したがって,前年比約8%増(当庁計算値)という意欲的な76年増産計画は,半分しか達成されなかった。77年計画も前年比7.5%増(同)と依然大幅増産の姿勢を崩していない。77年の穀物生産は,195.5百万トンと史上第4位の生産高となっているが,第10次計画目標(215~220百万トン)を約20百万トン程下回っており,この数量に近い穀物の輸入が77/78年度に行なわれるとみられている。一方,76年に不振だった畜産は好調で,前年比2桁の増産が達成されよう。

生活面では,従来に比べて所得が伸び悩んでいるが,国民の消費意欲は依然旺盛と考えられ,政府も消費財の生産拡大に努力を払っている。また,77年初には,財政負担軽減,サービス向上を名自に一部商品価格とサービス料金の改訂が実施された。

対外面では,76年に輸出が先進工業国向けを中心に好調となったうえに輸入が全般に伸び悩んだ結果,貿易収支赤字は大幅に減少した。77年(上期)については,先進工業国貿易に鈍化がみられるものの,社会主義国,途上国との貿易が好調で,貿易収支は黒字化している。

2. 工業生産

機械・設備,化学・石油化学など生産財生産の好調に支えられて,第9次5か年計画期間中平均7.4%の増産を達成した工業生産は,第10次5か年計画初年度の76年には前年比4.8%増と生産拡大テンポが目立って鈍化した。これは,75年の農業不作にともなって消費財生産が前年比3%増と75年に比べて増加率が半減したことによる。ただ,生産財生産も従来に比べると伸び悩んだ(第11-1表)。

77年計画では,消費財部門の立ち直りを見込んで前年比5.6%増と76年実績より大幅な拡大が予定された。しかし,第10次計画の年平均増加率の6.3%に比べると増加率は依然低い。1~11月の実績をみると前年同期比5.7%増と年次計画を僅かに上回っており,77年実績見込みも5.8%と計画の超過達成を確定している。

また,「効率と質の改善」の申心指標であり,政府が最も重視している労働生産性の向上は,76年には前年比3.3%と年次計画未達成となった後,77年1~11月でも年次計画の4.8%を下回る4.2%の上昇に止まり,しかもかい離幅が大きくなっている。今後若干の改善がみられたとしても年次計画の未達成は確定的である。工業生産増加の約8割が生産性の向上に負うとされているだけに,この未達成は労働力配置の問題と相まって重大な問題を提起していると考えられる。

部門別に内訳をみると (第11-2表),76年は75年に比べて全般的に増勢鈍化がみられたが,その中で機械・金属加工,化学・石油化学工業部門は従来同様好調な伸びを示した。これら部門では77年も比較的順調な増産を続けている。とくに計算機,計器・自動化機器などの先端技術品目が2桁の増産を続けているのが目立っている。ただ肥料は不振であり,77年にやや持直したものの,計画水準には達していない。

第11-2表 工業部門別生産動向

76年に原材料調達面の隘路から,不振となっていた食品・軽工業部門は,77年に入ると,農業生産の回復や年初の消費財増産に関する党・政府決定を受けて立直りを見せている。とくに76年に大幅減産となった食肉,動・植物油脂,砂糖,乳製品が非常に好調となっている。また76年に伸び悩んだ耐久消費財も77年には改善がみられる。中でも注目されるのは,テレビ全体の生産は1~11月で前年同期比減産となっているのに対して,カラーテレビが同39%増と大幅にふえている事実である。

他方,鉄鋼・非鉄金属,建設資材など基幹工業部門では不振が続いており,電力・熱エネルギーも,77年は伸び悩みとなっている。とくに鉄鋼,セメントは76年に計画未達成になったのに続いて,77年に入っても,同じ傾向が続いている。用材の搬出高も不振状態を脱していない。燃料採取部門では天然ガスが好調で,76年に前年比11.1%増と計画を超過達成したのに続いて77年1~11月でも前年同期比7.5%増と年次計画を上回っている。他方,76年に前年比6.9%増と持ち直した電力,同5.9%増と辛じて計画目標を達成した石油,同1.6%増と不振であった石炭は,77年に入って芳しくなく,計画未達成の様相がこくなっている。

3. 農業生産

農業生産は,第11-1表にみられるように74,75年と連続して前年比減産を記録した後,76年は前年比4.1%増と持ち直した。しかし,前年比約8%増(当庁計算値)と言う意欲的生産計画は,生産に占める比重が大きい畜産が予想外に不振であったため,半分しか達成されなかった。

77年計画でも,前年比7.5%増(当庁計算値)と再ひ大幅な資産を見込んでいる。77年の実績見込みは公表されていないが,76~77年の実績見込みから推計すると前年比6.5%程度の増産が見込まれ,年次計画をやや下回る増産幅になっている。

76年の穀物生産は播種面積が前年より若干縮小したとはいえ,75年の凶作から一転して223.8百万トンと史上最高の豊作となった。また甜菜,綿花,油脂作物など全般に豊作であった(第11-3表)。

第11-3表 主要農産物の生産動向

77年についてみると,穀物生産は,播種面積が大幅に拡大した(前年比2.9%増)ことやウクライナを中心とした冬穀地帯で順調な成育がみられたため,当初76年に引き続き記録的豊作となることが予測されていた(アメリ力農務省7月予測)。しかし,その後ボルガ以東の春穀地帯で早魃がみられたり,収穫期に降雨,降雪がみられたため,目標(第10次計画では年平均215~220百万トンの生産を目標としている)を大幅に下回る195.5百万トンになるとソ連国家計画委員会議長は公表した。これは史上第4位の生産高であるが,飼料用に需要が著増しているため目標と実績のかい離幅である20百   万トンかそれを上回る穀物の輸入が必要となり,うち15百万トン程度がアメリカから買付けられるとみられている(米ソ穀物協定では,8百万トンまで無条件で買付けることが可能としているが,米ソ定期協議において,77/78年度については15百万トンまで上限が引き上げられている)。西側市場での穀物買付けに必要な交換可能通貨は20億ドルにものぼると考えられ,再び外貨事情を圧迫する要因になろう。

第11-4表 ソ連の穀物需給動向

畜産部門は,75年の不作で著しい停滞状況に陥った。これを家畜飼養頭でみると,第11-5表で明らかなように,不作が決定的となった75年末から76年初に大量の家畜の屠殺(繁殖力の大きい豚が中心)が行なわれたとみられ,76年初から76年央にかけて目立って頭数が減少した。この傾向は秋口まで続いたが,その後豊作に伴う飼料不足の緩和で,家畜頭数も次第に回復に向った。

第11-5表 家畜飼養頭数

このような状況を背景に,畜産物生産は第11-3表にみられるように肉,ミルク,卵,羊毛など軒並減産に追い込まれた。

77年に入って畜産は著しい改善をみせている。すなわち,家畜飼養頭数でみても,年初から年央にかけて増加テンポが加速化する状態にあり,畜産物生産もこれと軌を一にしている。主要畜産品は上期に前年同期比2桁の増産を達成している。また,先の国家計画委員会議長報告によれば,ミルク,卵,羊毛などの国家買付量は年次計画を超過達成するとされており,畜産の好調を物語っている。

4. 雇用・国民生活

国民経済全体での労働者・職員数(除コルホーズ農民,年平均)は,60年代を通して年3%以上の増加率を示してきたが,70年代に入って増勢鈍化は顕著となった。そして第11-1表にみられるようにここ2~3年その傾向が著しくなっている。労働力の増勢鈍化に対しては,生産性の向上によって増産を確保しようとしていることは前述したが,生産性の向上が思うにまかせられない工業では,逆に労働力を重点投入することによって増産計画を遂行しているのが現状である。しかし,労働力の増加テンポは更に鈍化することが見込まれるうえに,サービスを中心とする非生産部門の強化発展が求められている現状では,工業への労働力の重点投入はもはや限界状態に至っていると考えられる。したがって,今後労働生産性の順調な向上がみられない限り,従来のような大幅な生産拡大は期待し難いと言える。

つぎに賃金,所得動向をみると,労働者・職員の月平均賃金は76年に前年比3.8%増と75年より増加率が高まった(第11-1表)。しかし,賃金に社会消費フォンドからの追加受取分(年金,奨学金,扶助料,等)を加えたものは前年比3.5%増と75年(4.2%)に比べて鈍化した。このため,  一人当りの実質所得も前年比3.7%増と同じく鈍化をみせている。

77年についてみると,労鋤者・職員の賃金は,1~9月前年同期比2.6%の増加と76年より鈍化した。しかし,76年末には従来低賃金に置かれていた非生産部門の勤労者を中心に全体の1/3の労働者・職員の最低賃金を,向う4年間に渡って18%引き上げることが決定されており,賃金格差はやや縮小する方向にあるとみられる。

これに対して,小売売上高(国営・協同組合商業)は,76年に前年比4.6%増と75年実績に比べて伸び悩んでいる。しかし,これは唯単に所得の増勢鈍化によるものではなく,食料品等の潜在需要の大きな商品の品不足も影響していると考えられる。

第11-6表 耐久消費財販売動向

〈異例の物価手直し〉

ソ連では小売商品価格およびサービス料金は国民生活安定の見地から永年凍結されていた。しかし,それを支える財政支出が巨額化して,効率的経済運営をさらに困難にすると考えられることから,77年初に,国民生活に影響の少いとされる一部商品価格や運賃などのサービス料金の改訂を行うことによって,財政負担の軽減をはかろうとした。内訳けをみると,基礎食料品や繊維品などの生活必需品の大部分は据え置かれているものの,カーペット,絹織物,クリスタル製品など生活水準の向上に伴って需要が増しつつあった高級品の価格が引き上げられたほか,個人用仕立て料金,タクシー,航空運賃(4月1日から)などが大幅に引き上げられた。それと同時に,テレビ,ラジオ,冷蔵庫,掃除機など従来割高とみられていた耐久消費財の価格が5~25%引き下げられた。

物価手直しの背景としては,国家財政負担の増大があげられるが,食料品価格の手直しが行なわれない限り抜本的解決とは考えられず(畜産品に対する補助金支出だけで国防予算を上回るとソ連政府は公表している),財政健全化のためには,近い将来に新たな価格改訂が避けられないとみられる。また,一部製品について価格引き下げが行なわれたことは,価格引き上げが国民に与える心理的影響を考慮したものと考えられる。

第11-7表 耐久消費財保有状況

5. 貿  易

(1) 76年貿易

ソ連統計によれば,76年の輸出は総額280.2億ルーブル(371.2億ドル)で前年比16.6%増と75年並の増加テンポを維持したが,輸入は総額287,3億ルーブル(381.O億ドル)で前年比7.7%増と75年に比べて著しく増勢が鈍化した。この結果,貿易収支赤字(輸出入ともにf.o.b.)は75年の26.4億ルーブル(36.6億ドル)から76年には,7.4億ルーブル(9.8億ドル)へと1/3に縮小した。

76年の貿易で特徴的なことは,上期に対先進工業国貿易がソ連側の大量の穀物輸入と西側の輸入需要回復で活況を呈していたが,下期に至って対先進工業国貿易が伸ひ悩みをみせたのに対して,対社会主義国貿易,対途上国貿易が上期の伸び悩みを脱して好調となったことである(本文第IV-13表参照)。

取引圏別に輸出入動向をみると,対社会主義国貿易では,輸出が12.8%増,輸入が8.1%増とそれぞれ75年に比べ増勢鈍化となった。この結果,対社会主義国貿易収支は,76年は13.4億ルーブルの黒字と75年にくらべて黒字幅は倍増した。

対先進国貿易では,輸出がこれら諸国の景気回復に伴って前年比27.6%増と75年の停滞状況を脱したが,輸入については,上期に大量の穀物輸入がみられたもののその他商品の輸入が抑えられたため,前年比11.5%の増加と72年以来の著増傾向(年間30%以上の増加)に歯止めが掛った。このため,貿易収支赤字は,75年の35.6億ルーブル(49.4億ドル)から76年の29.9億ルーブル(39.7億ドル)へと縮小したものの,赤字幅は依然大きい。輸出面では特に米・英・仏・伊への輸出増加は目覚しかった (第11-9表)。他方輸入面では,穀物輸入の増加から対米輸入が著増している。

対日貿易は,輸出入とともに一割程度の増加をみたが,主要国の中では比較的伸び悩んだと言える。

第11-8表 貿易における数量,価格動向

第11-9表 主要取引国別ソ連貿易動向

対途上国貿易では,輸出が前年比13.O%増と75年の減少傾向を脱して増加に転じ,輸入は前年比6.5%減と70年代になって初めて減少を記録した。このため,貿易収支は9.1億ルーブルの黒字と再び大幅な出超となった。この申で目立った動きを示している国はエジプトで,輸出入ともに大幅な減少をみている(第11-9表)。

76年貿易を輸出入商品構成の点からみると,輸出で特徴的なことは,石油,天然ガス輸出の好調から,燃料・電力輸出の全体に占めるシェアがさらに高まっている反面,農業不振を反映して,食料品・同原料の地位が引き続き低下したことである。輸入では,機械・設備のシェアが引き続き高まっている(第11-10表)。

第11-10表 商品別輸出構成

(2) 77年(上期)貿易

77年上期の貿易動向をみると,輸出は前年同期比21.3%増と76年を上回る伸びを示し,輸入は同6.1%増と76年並の増加率にとどまった。この結果,77年上期の貿易収支は0.3億ルーブルの黒字と76年下期に続いて黒字を計上した(本文第IV-13表参照)。

取引圏別にみると,対社会主義国貿易および対途上国貿易が輸出入ともに加速化して好調となった反面,対先進国貿易では,輸出に増勢鈍化の兆しがみられ,輸入ば前年同期に比べて減少するなど,対先進工業国貿易にかげりがみられた。

対社会主義国貿易の中では,コメコン諸国との取引が全般に好調となっているが,いずれの国とも輸出が輸入を上回る増加となった(第11-9表)。

対先進工業国貿易では,西ドイツをはじめとする欧州主要国の取引が輸出入ともに前年同期に比べて減少した。これは,ソ連の外貨不足とこれら諸国の景気低迷による影響と考えられ,これまで順調に発展してきた東西貿易が一つの転換期にさしかかっていることのあらわれとして注目されよう。

6. 78年経済計画

77年12月央に開催された最高会議に於いて,先に共産党中央委員会総会で採択されていた78年経済計画と国家予算が,ほぼ原案のままで可決成立した。

この78年経済計画(第11-1表)をみると,支出国民所得成長率は前年比4%と77年計画に続いて低成長となっている。第10次5か年計画では78年迄に国民所得が75年比14.6%増加することがされているが,78年計画が達成されたとしても12.7%の増加に止まることになり,5か年計画半ばにしてすでに,大幅な計画の遅れが生じることになる。

工業生産は前年比4.5%増と76年の4.3%につぐ低増加率となっている。76年計画は75年の農業不作が考慮されての低率増加であったが,今回は農業生産が大きく影響しているとは特に考えられず,むしろ,労働生産性の伸び悩みや労働力不足のあらわれとみられ,これで工業生産の低率増加傾向は決定的となってきたと言える。このような工業生産の伸び悩みの中にあって,生産財は前年比4.7%増,消費財は同3.7%増と生産財優位は貫かれているものの,国民の関心の特に高い一部消費財については大幅増産の方向が打ち出されている。

農業生産は,前年比7.2%増(当庁計算値)と76,77年計画並の増加率を設定している。これが達成されれば第10次5か年計画の農業増産計画はほぼ順調にすすんでいると言える。この申で穀物生産は220百万トンと再び意欲的生産計画となっている。ただ畜産では,ミルク,卵の国家買付量が5か年計画で予定された水準を上回るものの,家畜生産とその国家買付量は5か年計画で計画された水準を幾分下回ることが見込まれている。したがって,食肉等の需給が再び窮屈になることも予想される。

建設投資面をみると,78年の投資総額(固定投資)は77年実績見込比3.4%増と2年続きの低い伸びとなっている。これは投資の大部分(9割近く)を占める国家投資が財源難で伸び悩んでいるためと考えられる。

国民生活面では,1人当りの実質所得が前年比3%増と所得の増勢鈍化が一層鮮明となっている。他方消費面では,小売商品売上高が同3.9%増と同じく増勢鈍化を予定している。ただ,生活サービス供与高は同8.5%増と依然大幅に拡大となっており,サービス重視を貫いている。

対外面では,78年の貿易総額(輸出入合計)は前年比10%の増加を見込んでいる。貿易の重点は引き続き社会主義諸国との取引にあるとされ,貿易全体に占めるこれら地域の比重は59%に達するとされている(76年実績では,56%)のが特徴であろう。対先進工業諸国貿易も拡大することを予定しているが,ソ連としてはコンペンセーション方式による取引拡大を目指しており,資本財輸入にあたっては,この方式に重点を置いて行くものと考えられる。

78年経済計画を全体としてみると,成長鈍化が明確に打ち出されており,計画当局にとって非常に厳しい内容であると考えられる。もしこの計画が未達成に終るならば,背水の計画とみられた第10次計画をも達成することが困難となるばかりでなく,80年代に向けた経済発展の足掛かりを失うといっても過言ではない。また年次計画が全体として達成されても第10次計画の達成は予断を許さないと言える。

第12章 中  国

1. 概  観

1976年10月7日に,華国鋒首相が毛沢東主席逝去後の空席を埋めて,党中央委員会主席および中央軍事委員会主席に就任した。その後9ヵ月を経て77年7月1681こ3中全会(中国共産党第10期申央委員会第3回会議)が開催され,「四人組」の追放ととう小平の職務復帰(党副主席および副首相等の就任)が決定した。つづいて8月12出こ予定を1年繰りあげて11全大会(中国共産党第11回全国代表大会)が開催され,党人事および党規約が改正され,農業,工業,国防,科学技術の近代化を目ざす華国鋒体制の経済重視政策が明確にうち出された。

なお華国鋒首相の党主席就任と,とう小平の党副主席および副首相就任による現政権のもとで,77年11月に「大寨に学ぶ第2次全国農業会議」が開催されて後,経済各分野にわたる全国会議が頻繁に開催されている。これは76年以来経済面に及ぼした「四人組」のマイナスの影響が大きかっただけに,これらの影響を一掃して新たな経済政策を全国的に滲透させようとする,華国鋒政権の精力的な動きを示すものといえよう。

2. 工農業生産

1976年の中国経済は,毛沢東,周恩来,朱徳等の指導者層の相次ぐ逝去と,「四人組」による後継指導者をめぐる政情不安や河北地震の発生等の影響で,経済発展テンポはいちじるしく鈍化した。米商務省の推計によると実質GNPの伸びは2~3%にとどまり,第4次5ヵ年計画期(71~75年)の年間平均成長率6.5%を大きく下回った。(第12-1図参照)これは工業生産が前年比3.4~5%増と第4次5ヵ年計画期の年率10%の伸びを大幅に下回ったためである。たとえば基幹産業の粗鋼は2,300~2,400万トンと前年の2,600万トンを下回わり,原油生産も前年比13%増にとどまって,最近10年間に年率20~25%の伸びを示してきたのと対比すると,増産テンポはかなり低下した。ただ「四人組」による政情不安が,工業生産に与えた影響は,地域によって,あるいは業種によってかなりまちまちである。

第12-1図 中国の実質GNP,工農業生産,食糧生産の動向

しかし農業部門に及ぼした政情不安の影響は,工業部門に比べて比較的小さかったようである。それでも計画当局は農民が集団労働をサボタージュして,自留地耕作(個人所有地)に積極的になった事例をあげて,「四人組」の生産阻害の事実を指摘している。 76年の農業生産は前年比1.9%増と伸び率はかなり低かった。とりわけ食糧生産(大豆をふくむ)は,小麦を中心とする夏季作物は好調だったが,年央以降の異常気象にみまわれて,米,雑穀を中心とする秋季作物が不調となり,食糧全体としては前年の2億8,500万トンから2億9,000万トンへわずかな増加を示したにすぎなかった。

一方輸送部門も「四人組」の影響をうけてかなり混乱し,燃料・動力が不足して地方輸送に問題が発生した。77年2月に開催された「全国鉄路工作会議」で事態の改善が図られたようだが,工業生産の急速な回復に電力供給が77年秋にも追いつかず,現在きびしい電力需給調整がとられている。

なお輸送部門の混乱や基礎工業の生産停滞は,政情不安や河北地震などが直接的な原因となったほかに,投資不足による設備更新の遅れや,長期間にわたって凍結された賃上げ停止にともなう労働意欲の低下も影響している。

しかし,これまで停滞していた工業生産も,77年第2四半期に入って回復が本格化し,1~11月間の工業生産は前年同期比13.7%増となり,「四人組」の影響がとくに大きかった漸江,貴州,雲南,河南,江西等の諸省では,1~8月間に前年同期比20~40%の大幅な増加を示した。また鉄鋼,石炭など基礎工業の生産も8月には既往最高水準に達したことが明らかにされた。

これは経済重視政策を明確にうち出した華国鋒政権のもとで,サボタージュ,操業停止,生産破壊を推進してきた「四人組」の支配を断ちきり,工場内の企業管理上の規則を強化し,一定の利潤確保をめざし,生産目標達成のための社会主義労働競争運動が全国的に展開されたためである。また労働意欲の向上をねらいとして,77年5月の全国工業会議で賃金改訂を検討する旨公約されたことも影響している。

農業部門では,76年秋から77年春にかけて発生した早ばつおよひ冷凍害によって,小麦を中心とする夏季作物の生産は当初の増産目標を達成しなかったが,早稲は作付面積の増加もあって既往最高の収穫高となり,秋季作物(晩稲,中稲,雑穀など)も気象条件の好転とともに,順調な成育を示していると伝えられている。

3. 賃金引上げ

現在国民経済のいっそうの発展をめざして,社会主義労働競争運動が全国各地区,各部門,各基層単位(工場,農村人民公社,機関),各職場において展開されている。こうした労働生産性の向上政策と平行して,一方では77年5月に開催された全国工業会議で労働者に対する賃金改訂を検討する旨公約され,賃上げは10月から実施されることになった。

職員・労働者の賃金は1950年代以来ほとんど引上げられず, 一般大衆の賃上げに対する要求はここ数年来根強いものがあったといわれる。「四人組」支配当時にも賃金引上げは重要案件となったが,76年初期に予定されていた賃金改訂に関する全国会議の開催は,急進的指導者グループによって中止されたといわれる。したがって華国鋒政権の当面する政策課題として,賃金引上げ問題の解決は重要課題の一つとなっていた。

中国の職員・労働者の賃金体系は,原則的には企業労働者と国家機関職員の二つの体系に分かれ,前者は8等級,後者は30等級の賃金体系で構成されている(第12-1表,第12-2表参照)。企業労働者の場合,この標準賃金率にもとづいて各地域,各産業別に労働者の賃金率が格付けされる。中国の賃金体系は56年に現在の体系が整い,その後微調整されてきたが,本格的な賃上げは63年以来実に14年ぶりである。今回の賃上げの概要をみると,ねらいは勤続年限が長く,長期間にわたって賃上げが固定されてきた低所得者層を主要対象として,労働意欲を高めることにある。賃上げは職員・労働者総数の約46%が対象となり,さらに10%あまりの職員・労働者に対しても一定の賃金が引上げられることになっている。

第12-1表 企業労働者の標準賃金表

第12-2表 国家機関職員の標準賃金表

なお昇級は,年功や能力,成績に応じて行なわれ,賃上げに要する原資は賃金支払総額の約10%相当額が見込まれている。現在全国的な規模で展開されている祉会主義労働競争の成績が,賃上げの測定基準となる可能性が強く,その意味で今回の賃金改訂がインセンティヴ・ポリシイ的性格をもつものということができる。今回の賃上げは初年度の過渡期的措置で,78年以降も必要に応じて部分的な賃金引上げが実施される予定となっているが,その場合も高級職員・労働者の賃金は据置いて,低所得者層と高所得者層との賃金格差は縮小させることになっている。

以上のような職員・労働者の賃金引上げは,労働意欲を高め,生産増強に役立つが,農民がその対象から除外されている点が問題である。中国政府の長期的構想としては,農民・労働者間の所得格差を縮小することが最大目標となっており,そのためにこれまで価格操作(農産品政府買上げ価格の引上げ,農業用生産財,日用工業品供給価格の引下げ)や,農業税負担の軽減(食糧義務供出量の安定化と穀物輸入による需給調整)を通して,農民所得水準が高められてきた。今回の賃金引上げは低所得者層を主要対象としているとはいえ,必然的に農民・労働者間の所得格差を広げるおそれがある。

また賃金支払総額の増額によって,これまで賃上げが停止されていた時期に比べて,短期的には蓄積率はいくぶん低下することになろうが,国民経済ならびに国防の近代化目標が従来になく大きいだけに,蓄積と消費の配分については慎重な考慮が払われるだろう。

なお今回の賃金引上げが,消費性向の高い低所得者層を対象としているため,これに見合う消費物資の供給増がなければインフレ発生の原因となる。

現在主食ならびに食料油,綿布,肉類(ただし北京,上海を除く各地域)は配給制となっているが,副食品,衣類,耐久消費財等について,賃金引上げに見合う供給量を確保しなければならないであろう。

4. 対外貿易

1976年から77年にかけての対外貿易動向については,本文第4章第3節および第5章第5節で述べたが,その特長として貿易収支の赤字累積,あるいは延払いによるプラントおよび穀物輸入の中・短期債務残高の累積があげられる(第12-3表参照)。

中国当局は貿易収支の赤字累積と対外債務残高の急増に対処して,金売却等の方法によって外貨補填を行なう一方,輸入抑制策に転じた。西ドイツのドレスナー銀行の情報によると,中国は75年から76年にかけて,ロンドン市場で約10億ドルの金売却を行なったと伝えており,数次にわたる金売却のうち,76年末の80トン(約3,5億ドル)の売却が最も大きかったとしている。

なおこの間に「四人組」によって代表される急進的指導者グループが,「資源輸出,プラント・技術輸入」による積極的な工業化政策を批判するキャンペーンを展開したことも,輸入停滞を加速化させる要因となった。

輸入停滞は77年上期に入っても続いているが,アメリカ筋の推計によると,77年全体としての貿易収支尻は,輸出の微増傾向と相まって20億ドルの黒字となり,対外債務の償還を計算に入れても,外貨保有高は73年初以来の最高額に達するものとみている。

こうした外貨保有高の漸増を背景に,76年末から77年7月にかけて,1,100万人ンを上回る穀物およびそれぞれ100万トン前後の大豆,砂糖の輸入契約(約14.6億ドル)が行なわれ,また鉄鋼,化学肥料等の輸入成約も増加傾向を示している。しかしプラント・技術の輸入成約はまだ本格化していない。

第12-3表 中国の対外債務償還

5. 経済政策

華国鋒体制のもとで開催された「工業は大慶に学ぶ全国会議」,および11全大会の2つの大会で,華国鋒主席と余秋里副首相によって,それぞれ社会主義建設に関する長期的経済政策課題が明示された。この2つの大会で明確に示された社会主義建設の長期的目標は,1975年1月の2中全会(中国共産党第10期中央委員会第2回会議)と第4期全国人民代表大会第1回会議において,それぞれ毛沢東主席の指示にもとづいて提示されたものを,「四人組」追放後あらためて再提起したものである。

毛沢東主席の指示による長期的目標は,今後25年間の国民経済の発展を展望し,まず第1段階として,1980年以前に独立した比較的整った工業体系と国民経済体系をつくりあげ,第2段階として,本世紀内に全面的に4つの近代化(農業,工業,国防,科学技術)を実現し,中国の国民経済水準を世界の前列に並ばせるというものである。そしてこの長期的目標を達成するために,次のような政策方針をうち出している。

第1に国民経済のバランスについては,農業を基礎とし,工業を導き手として,農業,軽工業,重工業およびその他の経済部門の均衡的発展と躍進をはかる。とくに食糧,鉄鋼,鉄道輸送を重視する。

農業については80年までに基本的に機械化を実現し,農業,林業,牧畜業,農家副業,漁業を大幅に伸ばし,人民公社の集団経済を一段とうち固め発展させる。

工業については農業を支援し,近代的な機械設備によって農業を技術面から改造し,また強大な基幹産業を建設し,先進的な技術装備で国民経済諸部門および国防建設を強化する。

第2に中央と地方との関係では,文革以降地方分散化が強力に進められてきた経済管理の方針を修正し,大局的な利益を無視して分散主義に陥ることを避けて,漸次集権化を強めるようにする。

また中央諸部門がなにごともとりしきり,地方の積極性を束縛することには反対するが,たとえば国民経済発展の方針と政策,工業と農業の主要な生産目標,基本建設(固定投資)の投資とプロジェクトの建設,重要物資の分配,主要商品の買付けと割り当て,国の財政予算と通貨発行,就業人員の増加数と賃金総額,主要な工業製品と農産物の価格などに関する決定権はすべて中央に集中しなければならない。

第3に蓄積と消費との関係では,国民の当面の利益と長期的利益という2つの側面を考慮しながら,国家,集団,個人の3者の関係を正しく処理しなければならない。とくに社会主義経済の高成長を持続させるために,労働生産性の向上と節約の増進をはかり,拡大再生産のための蓄積を増加させる必要がある。

第4にできるかぎり先進的技術を取り入れ,技術革新,技術革命をくりひろげて労働生産性を高めなければならない。また科学技術の近代化のために教育事業の発展と教育の質の向上をはかり,実効ある措置を講じて科学者,技術専門家の強大な隊列を育てあげる必要がある。

このため77年9月,国務院のなかに国家科学技術委員会を設置し,また海外からのプラント・技術導入がふたたび積極化されようとしている。さらに技術吸収の受け入れ体制として,教育改革案を採択し,文革以後,知育偏重,労働軽視という批判のもとに廃止されていた大学入試に関する「全国統一入学試験制度」を77年末から復活させ,技術専門家養成への途を開いた。

第5に独立自主,自力更生と対外貿易との関係では,自力更生はアウタルキーを意味するものではなく,外国の科学・技術と文化を一概に分析も加えずに拒否するのはよくない。4つの近代化を実現し,社会主義強国を建設するためには外国貿易は重要であり,また先進的技術や重要物資の輸入のためには,輸出資源の開発や輸出品の増強に努めなければならない。

要するに,①集権化と分散化の関係ではやや集権化に力点をおき,②国民経済バランスのうえでは,農業重視とともに基礎工業の重視による工業間バランスをはかり,③労働生産性の上昇と節約によるいっそうの蓄積の増大に努め,④労働意欲向上のために一定の賃上げと消費物資の供給増加をはかり,⑤先進的技術の導入による設備の新設・更新と技術専門家の育成に努め,⑥国防力の強化をはかるというものである。

第13章 国際金融情勢

1. 外国為替市況(76年11月~77年11月)

77年の国際為替市場は,76年に大幅下落を演じたポンド,フランス・フラン,リラが総じて安定的に推移した結果,前半は概して平静に推移したが,後半はドルの軟化から一転して波乱含みの様相を呈し,円,マルク,スイス・フランがドルに対して大幅に値上りした。

(1)ポンド,フランス・フラン,リラの安定

76年に大きく動揺した西欧通貨は,10月のマルク切上げを中心とするEC共同フロート通貨の調整,イタリアにおける外貨購入税の復活,そしてIMFによるポンド救済措置の具体化などを契機に,11月以後ようやく安定を取戻した。77年前半は,こうしたポンド,フランス・フラン,リラの安定化を軸に主要通貨は概して平静に推移した。ポンドは,1月にIMF借款(約39億ドル),BIS借款(30億ドル),ユーロ市場借款(15億ドル)など一連のポンド救済措置が実現したことを背景に,年初より堅調な動きを示し,76年末の1ポンド=1.70ドルから77年6月末には1.72ドルへと上昇した。上半期中ポンドの上昇率が小幅であったのは,イングランド銀行が大量のポンド売り介入を実施し,ポンド相場の急激な上昇を抑えると同時に,外貨準備の積増しを図ったためである。一方,フランス・フランも,貿易収支の改善傾向等を背景に,77年前半はほぼ1ドル=4.9~5.0フランの間できわめて安定した動きが続いた。リラも,外貨購入税の全廃(2月)および対外支払いは預託金率の段階的引下げ(4月に全廃)などが響いて,1~3月はやや軟化したものの,4月以後はIMFの対伊救済措置の正式合意(総額約5.2億ドル),さらに夏場に入ってからは観光収入の増加などの要因を背景に,ほぼ1ドル=885~887リラの安定した動きとなった。このように,6月末にドルが軟化するまでの国際為替市場は,4月初の共同フロートの微調整(スウエーデン・クローネの6%,ノルウェー デンマーク両クローネの各3%切下げ)を除けば大きな動きがなく,平穏裡に推移していた。

(2) ドルが軟化

ドルは,カーター政権の穏健な景気刺激策およびアメリカの短期金利の底入れ感などを映して年初強含みを示したあと,1月末から2月にかけてアメリカの異常寒波,さらにクライン・ペンシルバニア大教授の日独通貨の10%切上げ発言などを背景に一時やや軟化した。しかし,その後はほぼ横這いで推移していた。だが,この間アメリカの貿易赤字幅は拡大の一途を辿り,こうした大幅赤字を背景にドルは6月末に至って急速に軟化した。7月に入るとさらに軟調傾向を強め,円に対しては7月上旬に1ドル263.5円の安値をつけたほか,下旬にはマルクに対して1ドル=2.24マルクの既往最安値を示現した。このほか,フランス・フラン,スイス・フランに対してもドルはかなりの低落を示し,ポンドもこうしたドルの軟化に対処し,従来の対ドル・レートくぎ付け政策を変更したため7月下旬には急伸した。しかし,ドルは,この時はバーンズFRB議長のドル防衛発言および米国の短期金利上昇傾向を支援材料に7月末から8月中旬にかけて持ち直し,円,スイス・フランを除くほとんどの主要通貨に対して以前の下げ幅の大半を回復した。なお,8月末にインフレの高進と国際収支の急激な悪化を背景に北欧通貨の再調整が行なわれ,スウェーデン・クローナの共同フロート離脱およびこれに対応してノルウェー,デンマーク両クローネの各5%切下げが実施された。

(8)  ドルが再び軟化

その後ほぼ安定していたドルは,9月下旬のIMF総会で,わが国など黒字国に対する批判が強く表明されたことなどを契機に再び軟化した。とくに,ブルメンソール米財務長官の発言などを呼び水に円の対ドル・レートは10月上司に260円割れ,11月初には250円割れと急ピッチの上伸が続いた。

また,スイス・フランも既往最高値の更新が続き,10月下旬には1年余ぶりに対ドイツ・マルク相場のパリテイを上回った。このように,当初は円,スイス・フランに対する軟化が中心であったが,10月末から11月初にかけて,ドルは一時,全面安の様相を呈し,11月初にはマルクも7月高値をさらに更新したほか,フランス・フラン,リラも1ドル=4。8フランス・フラン,877リラ台と,それぞれ15か月ぶり,9か月ぶりの高値をつけた。一方,ポンドも外貨準備の急増(76年末の42.3億ドルから77年10月末の202.1億ドルヘ)を背景に堅調が続き,当局がポンド相場の上昇を容認した10月末には一気に約3.5%急騰し,1年6か月ぶりの高水準(1ポンド=1.84ドル)となった。

その後ドルは,政府当局者による強いドルを維持する旨の発言が相次いだことなどから一時小康状態をみせたが,円,マルク,スイス・フランといった強い通貨に対してはその後も安値更新を続けたあと,11月末に至りやや持直している。なお,こうしたマルク上伸に伴い,11月中旬以後に,EC共同フロートの緊張が高まった。

2. 自由金価格の動き

金価格は,76年8月下旬に1オンス=103.5ドルまで暴落したあと反騰し,77年3月には150ドル台を回復,1年半ぶりの高値をつけた(第13-1図)。76年秋以後金価格がこのように急騰した背景には,工業用,装飾用需の増加,国際商品市況の上昇,インフレ再燃への懸念,さらに,76年の金価格下落の主因となったIMFの金競売で比較的高値がついたことなどがあったとみられる(IMFの金競売方法は,77年3月より従来の6週間毎に24トンから毎月第1水曜日こ16トンの売却へと変更)。その後,国際商品市況の軟化, IMF金競売の不振などを背景に反落,6月中旬には1オンスー137ドルと2月下旬の水準に落ち込んだ。しかし,ドルの軟化から6月下旬から7月にかけて再び持ち直した。その後しばらく,1オンス=145ドル前後で横這いが続いたが,9月に入ると,南部レバノン情勢の緊迫,アメリカ景気の先行き不安感の抬頭などを背景に再び上昇に転じ,ドルが大幅に軟化した9月末以後は一段と騰勢を強め,11月中旬には167,95ドルと75年7月以来の高値を記録した。南アフリカの金売却量が,国際収支の好転からほぼ昨年並みにとどまる見通しであることも金需給に好影響を与えたとみられる。しかし,これを高値とし,ソ連の穀物不作による金売却への懸念,サダト大統領のイスラエル訪問による中東情勢好転の期待などを背景に,11月下旬には160ドル程度へと反落した。

第13-1図 自由金価格の推移

第13-1表 主要加盟国への金返還状況

なお,IMFは,77年1~2月に加盟国への第1回金返還(約600万オンス)を実施した。これは,途上国援助のための保有金放出計画とは別に,同じくIMF保有金の1/6を,75年8月末現在のクオータに基づき4年計画で加盟国に返還(売却価格は1オンス=35SDR)するというもので,2回目の返還(約625万オンス)は,77年12月に実施される予定である。

3. ユーロ市場

(イ)市場の動向

ユーロ市場規模は,不況の底となった75年にやや拡大テンポが鈍化したが,その後景気回復とともに再び拡大テンポを高め,76年は前年比20.5%の伸びをみせた。BIS(国際決済銀行)によると,76年末にはグロスで3,107億ドルに達し,銀行間の二重取引を除いたネットでは2,470億ドルとなった(第13-2表)。77年に入ってからの伸びは,モルガン銀行(ヨーロッパ域外を含む)によると,上期にネットで年率16.4%の増加(76年全体で22%)とやや拡大テンポが鈍化している。ユーロ市場拡大の主体となったのはいぜんドルであり,ユーロカレンシー全体に占めるドルの比率は,73年末の68%から76年末には74%へと高まった。

借り手についてみると,76年には先進工業国のユーロ市場資金調達が急増した。75年に全体のほぼ1/3まで低下した先進工業国は,76年には,先進工業国の経常収支が全体としてかなり悪化したことから39%へとシェアを高め,77年1~6月間ではさらに43%を占めるに至っている。また,石油収人の減少や大規模プロジェクトに伴うファイナンス需要などから,OPEC諸国     の資金調達耳基年の29億ドルから76年には40億ドルへと大幅に増加したあと,77年も1~6月ですでに35億ドル(全体の約2割)の借入れを行なっている。

借入れ国は,ヴエネズエラ,イラン,アルジエリア,ナイジェリアなど国内開発に力を注いだ国のほか,比較的余裕のあったアラブ首長国連邦などにも及んでいる。

第13-2表 ユーロ・カレンジー市場の規模の推移

第13-3表 公表された中・長期ユーロ・カレンツー貸付

一方,75年以来ユーロ市場で大量の資金を調達した非産油途上国と共産圏は,累積債務問題の表面化などから市場が新規の貸付に慎重な態度を取り始めたこともあって伸び悩みを示し,77年上期の借入れ実績はいずれも前年同期以下となった。

なお,貸付条件をみると,77年前半はユーロ市場が資金余剰となっていることを反映して,貸付マージンの縮小および貸付期間の長期化傾向が見られた。

(ロ)金利の動き

ユーロダラー金利(ロンドン市場,3か月もの)は,アメリカの景気回復を反映して76年前半は上昇基調を続けた。しかし,年央以降景気拡大テンポの鈍化とともにユールダラー金利も南下し,12月初には4 7/8%と,72年央以来の低水準となった。77年に入ってからは5 1/8%程度で横這いに推移していたが,4月位後FRBがインフレ懸念から金融を引締めたため上昇基調に転じ,5月には6%台となった(第13-2図,第13-4表)。その後,アメリカの短期金利の上昇一服から一時弱含みとなったが,7月以後はドルの軟化などを背景にアメリカの短期金利が再び上昇傾向を強めたためユーロダラー金利も上昇に向い,10月には7%台と75年初頭以来の高水準に達した。

一方,76年に為替投機の対象となり急上昇したユーロ・ポンド(ロンドン市場,3か月もの,以下同じ),ギルダー,フランス・フラン金利は,77年に入り急ピッチの下落を示した。ユーロ・ポンド金利は,ポンド危機が頂点に達した76年10月には20%のピークに達したが,ポンド相場の回復を背景に英国の最低貸出金利が相次いで引き下げられたため,急速に低下傾向をたどり,77年10月には5%台へと低下した。ユーロ・ギルダー金利も,75年8月に16%のピークに達したあと下落し,77年5月には約3%にまで低下した。しかし,その後は国内短期金利の上昇を反映してかなりの反発を見せた。

76年央に5/8%と極めて低水準になったユーロ・スイス・フランは,77年にはいると,スイス・フランとの軟化(スイスからの短資の流出)などから国内金融市場がひっ迫したため,5月には4%台にまで上昇した。だが,その後はスイス・フランが一転して急反発を示したことなどから低落し,8月以後はほぼ2%台の横這いとなった。

第13-2図 ユーロ・カレンシー金利

第13-4表 主要短期金利の推移


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