昭和47年
年次世界経済報告
福祉志向強まる世界経済
昭和47年12月5日
経済企画庁
最近期せずしてイギリスおよびアメリカの経済学会において「経済学」の発展にもかかわらず,経済学が実際的な問題を解くのに役立っていないことを反省する声が高くなっている。ひとつは,1970年12月アメリカ経済学会におけるW.レオンティエフ教授の会長講演「理論の仮定と観察不能な事実」であり,いまひとつはイギリスの王立経済学会におけるE-H・フェルス・ブラウン教授の会長講演「経済学の未発展」である。ともに「経済学」的手法で「経済」を考察しようとするものにとって,頂門の一針となっている。
ブラウン教授は,次の分野で戦後,経済学がすばらしい発展をとげたという。
(1) 資源配分と意思決定の理論
(2) 成長モデル
(3) 計量経済学的分析
他方,現代経済の当面している諸問題として,次のようにあげている。
(1) 貧しい国をどうやって成長させるか,また工業国の成果をどうやって改善するか。
(2) 国際収支の調整
(3) インフレと完全雇用
(4) 自由市場と政府の介入
(5) 環境問題,都市問題
洗練された理論は,各国が,各政策当局者が直面しているこういった問題を解くのに役立ちうるかという疑問がここにある。ブラウン教授は,理論や計量経済学が経済主体の行動に関して勝手な仮定を置いてきたことに,この原因があるという。ここでアルフレッド・マーシャルの「対象とするのは抽象的な,あるいは経済的な人間ではなく,生きている人間である」という言葉を思い起こすのである。
レオンティエフ教授のいうように,魅力ある仮定があっても,統計データによって,これを立証することは多くの場合むずかしい。世界経済を対象とする場合には,つねにこの困難に逢着する。
ブラウン教授の忠告は,事実の観察に専心せよということである。経済学は現在なお,ケプラーやニュートン以前のティコ・ブラーエを必要とする段階にある。経済現象は複雑であり,たえず流動しているし,経済現象は歴史的現象としてあらわれるものである。そして,経済学とその他社会科学との伝統的境界線をとりはらう必要があるという。