昭和45年
年次世界経済報告
新たな発展のための条件
昭和45年12月18日
経済企画庁
69年の東南アジア諸国の経済は,農業生産の好調と順調な工業生産に加えて,輸出の著しい伸長により,前年に引続いて経済の拡大が続いた。最近の食糧増産は天候条件に恵れているということに加えて高収量品種の普及が著しく,70年の生産も概して良好のようである。しかし,68年以後の経済拡大に大きく寄与した輸出はアメリカの景気後退と回復の遅れにより韓国,台湾,香港などの70年上期の対米輸出の鈍化をもたらしており,さらに,西欧先進諸国経済の鈍化傾向もあって,一次産品市況の軟化が続いている。マレーシア,シンガポールなどの一次産品輸出国は前年の伸び率を大きく下回っている。このため,70年上期の東南アジア諸国の輸出増加率は69年下期に比べてやや鈍化した(主要10カ国の輸出増加率は69年下期の17.5%から70年上期14.9%へ)。
このような輸出環境の悪化とともにベトナム特需の減少や先進諸国の援助の頭打ち傾向など概してアジアをとりまく状勢は厳しいものになってきている。
ベトナム特需は1965年以降のアジア諸国の経済に直接,間接に影響を及ぼしてきたが,68年頃からは減少傾向をたどった。69年に,11年ぶりに国際収支が赤字に転落したタイでは,貿易収支の赤字を相殺してきた貿易外収支,移転収支の黒字幅が縮小している。ベトナム戦線の縮小にともなって今後さらに特需の漸減が続くであろう。
また,先進諸国による援助は68年から69年にかけて頭打ち傾向にある。アジア諸国に対する援助は全体の4割余りであり,最近では民間ベースの援助が増加しているものの第6-2表にみるように公的援助がアメリカの援助削減などにより68年には前年より2億5,000万ドル近く減少し,69年には4,500万ドル増加したにすぎない。このような援助の頭打ち傾向は先進諸国の国際収支の悪化と財政負担の増加などを反映したものであり,今後も援助額の大幅な増加は期待できないであろう。さらに,多くの国では対外債務の累積により元金の返済圧力が増大している。
以上のようにアジア諸国をとりまく情勢はかなり厳しいものになってきており,これがアジア諸国の国際収支面などに大きな影響を及ぼさずにはおかないであろう。本年に入り,タイの輸入関税率の引上げ,南ベトナムの輸入規制,フィリピン,韓国などの引締め政策の強化などの動きはそうした国際収支の悪化に対する対策であり,また,今後の動向を見込んだ対応でもある。
こうした各国の動きとともに,エカフエによる域内貿易自由化,アジア支払い同盟などの構想も具体化されてきている。
先進諸国側も「第2次国連開発の10年」にあたって,発展途上国の経済開発に積極的な姿勢をみせており,71年初からは工業製品,半製品などに対する「低開発国特恵」が実施されるに至った。
1)概 況
69年の経済成長率(実質)は15.9%と史上最高の伸びを記録した。現在,第2次経済開発計画(67~71年)を実施中であるが,経済成長率が67年8.9%,68年13.3%と高成長を続けたことにより,すでに農業部門を除いて目標を達成した。
しかし,こうした経済の高成長のあまり,農業の近代化の遅れ,外国借款の元利金償還の累増,輸入の急増にともなう国際収支の赤字の拡大,物価,賃金の上昇,社会資本の相対的立ち遅れなど経済構造にひずみをもたらしている。政府はこうした問題の解決を追われているが,69年11月にはウオン貨の切下げとともに新規貸付けの抑制,政府支出の削減など引締め政策を実施した。その後,70年上期中には国内金融機関の貸出し増加を引下げるなど引締め政策を強化しており,生産,輸入面でその影響がみられる。しかし,物価の騰勢,通貨発行の増加テンポは依然として衰えていない。
2)農 業
69年の農林漁業生産は,国民所得ベースで11.9%増と過去10年間の平均成長率7%を大きく上回った。米の生産は66年の392万トンから67年360万トン,68年320万トンと2年連続して減産であったが,69年は407万トンとまずまずの生産であった。今年の収穫は台風などの天候条件の悪化により390万トンから400万トンとほぼ昨年並みの収穫が予想されている。69年から今年にかけて米の生産がやや改善しているとはいえ,生産目標を69年は10.5%,今年は約11%下回っている。しかも,米の消費需要は年々増えており,依然として自給の見通しがたっていない。このため,食糧の輸入はアメリカ,日本などから68年に約1億5,000万ドル,69年には2億5,000万ドルにのぼっており,外貨の負担増をまねいている。また,68年から米の増産奨励のために高米価政策に転換したことから,政府の買上げ価格は68年が前年比17%高,69年22.6%高と引上げられ,今年はさらに30%高に引上げられる方針である。こうした米価の引上げは一般物価の上昇要因となっている。
このような食糧輸入の外貨負担増,物価上昇圧力の背景としては,急成長してきた工業部門に比べ韓国の農業が大きく立ち遅れてきたことが上げられよう。第2図にみるように国民所得ベースでみた農林漁業の生産の伸び率は60年代前半(60~65年)から後半(66~69年)にかけて工業部門の伸びに比べて相対的に低い。このことは,前述の食糧輸入の外貨負担増や一般物価への悪影響というばかりでなく,農業,工業間の所得格差の拡大をもたらしているということで重要である。政府は全体としてはすでに達成した第2次5ヶ年計画において70年,71年を調整期として農業の近代化に取組んでいるが,68年からの価格政策もさることながら水利,耕地整理,機械化などの構造政策が重視されなければならないだろう。
3)鉱工業生産
69年の鉱工業生産は,民間投資活動が年間を通じてやや鈍化したことや第3四半期の台風による影響で前年比20.7%増(68年30.1%増)に止まった。
69年11月には財政,金融面で引締め措置が再び取られたこともあって70年第1四半期の鉱工業生産は横ばいとなった。しかし,第2四半期には前期比8.1%増(季節調整済み)と回復に転じている。
4)物 価
69年の物価は,ここ数年の物価上昇率(66~68年間の年平均上昇率)は卸売物価7.8%,消費者物価9.9%とやや鈍化した。しかし,年間のガイドラインであった卸売物価の6%,消費者物価の10%を各々上回った。政府は11月に物価の抑制のために銀行貸出しの抑制などの非常対策をとった。しかし,その後も物価の上昇テンポは,さらに加速化している。卸売物価は70年第一四半期(前年同期比8.2%高)から第2四半期(同9.1%高)へと上昇しており,消費者物価も第1四半期(同13.1%高),第2四半期(同12.3%高)と依然として高水準であり,69年同期の上昇テンポをいずれも上回っている。このように今年に入ってさらに物価上昇のテンポが高まってきている背景には昨年11月の為替相場の大幅な引下げ,物品税の引上げなどが響いているものと思われる。
5)財政・金融
69年の中央政府財政規模は19.3億ドルでGNPに対する比率は29.4%に達し,経済全体に及ぼす影響は大きくなってきている。一般財政の歳出の内訳をみると国防費の比率が減少し,他方,投融資額は年々その割合を増大している。しかし,70年度予算では,国防費の比率が69年の22.5%から27.2%へと上昇しており,駐留米軍の軍縮化に対応している。
つぎに金融の動きをみると,69年の通貨供量は前年比45.6%増と60年代ではもっとも高い増加率となった。韓国の通貨供給量はGNPの成長テンポをはるかに上回る増加速度を示しており,それがインフレを高進する大きな要因となっている。本年に入って金融面での引締め政策が強化されたが,民間消費の根強い増勢などを反映して1~8月期で22%増(前年同期比)と前年同期の17.0%増(同)を上回っている。
このように昨年,11月に引締め政策がとられたにもかかわらず,通貨供給量の増加テンポが衰えないまま物価騰勢が続いている。
6)貿易と国際収支
69年の輸出は6億2,250万ドル,前年比54.4%増となった。これで韓国の輸出は65年以降年平均約41%増のペースで増加しており,輸出構造の高度化も著しい(輸出総額に占める工業品の輸出比率は65年61%から69年77%へ)。輸入は対日輸入の抑制など輸入制限措置がとられたことから前年比24%増と66年の55%増,67年39%増,68年47%増と比べてやや伸び率が低下した。しかし,貿易収支の赤字額は,68年の10億700万ドルから12億100万ドルとなっており,貿易収支の赤字幅拡大分を資本収支の黒字の増大(69年は前年より2億1,700万ドル増加)で相殺している。外貨準備高は68年末の6億8,200万ドルから69年末9億2,600万ドルに達した。
70年上期の輸出は,第1四半期の伸び率が50.6%増(前年同期比)と好調を続けたが,第2四半期には23.1%増(同)と低下している。この伸び率は68年から69年(四半期毎)にかけてもっとも低い伸び率である。とくに主力市場であるアメリカ向け輸出(69年の対米輸出シエアは50.1%)は第1四半期26.4%増(同)から第2四半期17.9%増(同)へと鈍化をみせている(対米輸出の前年比,67年43.5%増,68年71.3%増,69年32.6%増)。一方,輸入は機械類の輸入増勢の鈍化を主因に第1四半期22.7%増(同)から第2四半期4.6%増(同)へと鈍化している。この結果,上期の貿易収支は6年振りに縮小している(69年1~6月,5億1,130万ドルから70年1~6月5億30万ドル)。
1)概 況
69年の実質経済成長率は,農業部門の不振により,前年の10.1%をやや下回る8.7%となった。しかし輸出の大幅な伸びと内需の増大により,経済は高水準の拡大を続けた。
69年の後半から70年第1四半期にかけて鉱工業生産がやや鈍化したが,第2四半期には回復をみせており,また,懸念されていたアメリカ経済の後退による対米輸出の伸び悩みも軽微に止まっている。しかし,物価は賃金の上昇,土地価格の騰貴などにより上昇テンポを高めており,銀行貸出しも増勢を強めていることから,政府では景気過熱の兆しがあるとして,9月に部分的な金融引締め措置をとった。
2)生産活動
69年の農業生産は2度にわたる台風の被害により前年の水準を2.4%下回った。とくに米,バナナ等の被害が大きかった(いずれも減産)。
鉱工業生産は,建設活動が台風の影響で後半に伸び悩みがみられたが,繊維,石油製品,金属,電子機器の伸長により前年比17.0%増となった。建設活動はその後,金融機関の貸付け厳格化もあって,70年上期の伸び率は前年同期比10.3%減となった。しかし,工業生産の伸び率は第1四半期にやや鈍化したものの,第2四半期には年間の拡大テンポに回復しており上期の伸び率は17.3%増となっている,このように工業生産活動が活発なのは依然として内需が根強いこと。輸出産業が好調であることなどがあげられよう。
3)物 価
69年の消費者物価は前年比5.1%高,卸売物価は0.2%減と前年に比べ安定傾向をたどった。しかし,本年に入ってから物価の上昇が激しく,消費者物価は第1四半期3.5%高(前年同期比),第2四半期3.4%高,(同)と上昇を続けており,安定していた卸売物価も第1四半期1.9%高(同)から第2四半期(同)と近年にない上昇テンポとなっている。当局は経済の安定成長を堅持するために各種の物価対策を打ち出しているがその成果が注目される。
4)財政・金融
69年の財政は,前年に引続いて歳入・歳出ともほぼ均衡している。
通貨供給は,69年末で18.2%増加し,前年の10.7%増を大きく上回っている。これは,外貨準備高の増加に加えて69年5月に金融引締めが解除されて銀行貸出しが前年比23%増と大幅に増加したことによる。通貨供給量は本年に入って第1四半期21.7%増(前年同期比),第2四半期19.3%増(同)と前年より増勢を強めている。政府は,こうした物価の高騰,通貨供給量の増勢から再び景気過熱の兆しがあるとして,9月に中央銀行の市中超過貸出し金利の引上げなど金融引締め措置をとった。
5)貿易と国際収支
69年の輸出は,繊維品,電気機器,合板等の好調により前年比32.0%増(68年25.0%増)となったのに対し,輸入は,石油類の小幅な輸入などにより前年比17.4%増(68年21.2%増)に止まり,貿易収支の赤字は前年の約3分の1に当る2,100万ドルに縮小した。国際収支は,貿易収支赤字の縮小に加えて,資本収支が輸出信用の増加などで増大したこともあって,総合収支で8,900万ドルの黒字となり,外貨準備高は69年末4億4,300万ドルとなった。
70年上期の輸出は,前年同期比37.7%増と拡大を続けている。これを69年に比べてみると年間の伸び率32.0%を上回っているが69年下期の46.7%増を下回っている。全輸出の35%余りを占める対米輸出の伸び率は69年第4四半期の44.9%増(同)から70年上期は41.3%増とやや伸び率が低下している。
輸出の増加は,紡織品(同58.4%増),電気製品(同59.2%増)などで顕著に伸びている。一方,輸入も32.9%増(同)と増大しているが,貿易収支は輸出の伸長により若干の黒字(220万ドル)となっている。
1)概 況
1966年から経済開発4カ年計画(66~70)を推進することにより年平均6%(実質)余りの経済成長率を続けており,69年も6.3%(実質)の成長を達成した。経済開発の推進は財政赤字を毎年増大させており69年下期には多額の財政資金が散布させたため,金融引締め,輸入制限などの緊縮政策がとられた。こうした措置にもかかわらず,内外の不均衡は一段と拡大した。とくに,国際収支の面では高水準の輸入と輸出の不振による貿易収支の悪化に加えて移転収支,資本収支も悪化し,国際収支は大幅に悪化した。対外債務の増大もあって外貨準備高は1億2,100万ドル(69年末)の危機水準に陥った。70年2月にはこうした外貨危機に対処するため変動相場制を採用し,貿易為替管理の一部を自由化し,金融財政の引締め措置を強化した。その後,輸出の回復と輸入の減少により貿易収支の赤字の縮小がみられ,IMFおよび日・米からの借入れなどもあって外貨準備高は6月末2億300万ドルヘ回復した。しかし,海外へ逃避した資本の還流が思わしくなく,ペン貨の相場は依然軟調のまま推移している。さらに輸入物価の高騰や賃上げなどにより物価は上昇テンポを高めている。
2)生産活動
69年の農業生産は,台風と旱ばつの影響により,とうもろこしなどで減産となったが米の生産は前年比6.0%増と前年の増加率16.7%を下回ったものの500万トン(籾)を越えた。
工業生産の伸びは前年比3.6%増と,前年の伸び(8.7%増)をやや下回った。69年第2四半期から伸び率は鈍化傾向にあり,70年第1四半期は前年同期比横ばいとなっている。
3)物 価
米の増産により,68年以降安定していた物価は69年下期に選挙のための通貨膨張政策などにより上昇に転じており,年間の消費者物価の上昇率は1.6%高となった(68年は前年比横ばい)。物価の上昇は本年に入って変動相場制採用後,輸入品価格を背景に急騰をみせており,卸売物価(前年同期比第1四半期12.6%高,第2四半期16.9%高)もさらに上昇テンポを高めている。
4)財政・金融
経済開発4ヵ年計画の推進とともに財政赤字は増大している。69年は大統領選挙の年であったこともあり,16.6%増(前年同期比1~10月期)に達した。財政赤字は中央銀行借入れと各種政府証券発行で補填されているが,証券発行の大部分も結局中央銀行引受けとなるため財政赤字のほとんどが通貨増発要因となっている。69年の通貨供給量は68年の3.5%増から23.6%増へと増大した。71年度予算(70年7月~71年6月)では均衡予算を編成し,金融面でも支払い準備率の引上げ(4月)など財政,金融面で引締めを強化している。
5)貿易と国際収支
69年の輸出は主要輸出品である砂糖,ココナッツが干ばつにより減産したことなどにより前年比0.8%増と不振であった(8億5,500万ドル)。一方,輸入は前年比2.0%減となったものの12億5,400万ドルと輸入水準は高かった。貿易収支の悪化に加えてアメリカのドル防衛政策による投資収益金の国内送金の増加,ベトナム特需の減少,さらにL-L協定の先行き不確定とペソ貨切下げ懸念から資本の海外投避が増加するなど移転収支,資本収支など他の収支も悪化し総合収支は1億3,600万ドルの赤字となった(68年4,600万ドルの黒字)。外貨準備高はすでに68年第2四半期から減少傾向をたどっており,69年末は1億2,100万ドルの危機水準に陥った。また,対外債務残高は短期公共債務が69年9月末現在で15億ドルに増大し,外貨繰りは繁忙をきわめた。こうした情勢から70年2月主要輸出品(木材,砂糖,コプラ,銅)の受取外貨の80%を除くすべての外国為替取引に変動相場制を採用するとともに,輸入L/C発行枠の規制,輸入保証金制度など貿易・為替上の規制を緩和した(主要4品目についての特例はその後改正され,5月1日から輸出税法が実施された)。その後,輸出は砂糖,アバカ,ココナツトの生産回復に加えて為替相場の切下げ効果もしだいに表われて第1四半期14.6%増(前年同期比)から,第2四半期21.2%増(同)と増加している。一方輸入は機械需要の減少などにより,第1四半期7.6%減(同),第2四半期3.0%減(同)と減少し続けている。このため,70年上期の貿易収支の赤字は1,840万ドルと同年同期の1億3,430万ドルと比べ著しく改善した。また,IMFからのスタンド・バイ・クレジツトの取付け(2,750万ドル),日本,アメリカの市中銀行からの借款(計1億3,000万ドル),アメリカの市中銀行への借款返済の繰延べ(2億4,700万ドル)などに成功したことから資本収支面でも改善した。6月末の外貨準備高は2億300万ドルと当面の外貨危機を一応回避した。このように貿易収支面ではしだいに改善の傾向にあるもののペソの相場回復が遅れている。一時下げ止まりがみられたペソ貨の相場は,8月から9月にかけて低落している。こうした背景としては,海外資本の還流が不十分であり,対外債務も依然として重荷となっていることや,国内面で失業者数が増大し,労働紛争が発生していること,厳しい引締め政策による商況の不振などがあげられる。今後,逃避資本の成行きとともに,71年に予定されている初めての債権国会議の動向が注目される。
1)概 況
69年の経済成長率(国内総生産,実質)は農業,工業の順調な拡大にもかかわらず対外部門の不振により7.9%増に止まった(68年8.7%)。貿易は輸出の伸び悩み,輸入の増大により貿易収支の赤字幅は拡大した。さらにベトナム特需の減少などにより国際収支は,11年ぶりに赤字に転じた。また,インドシナ半島の軍事情勢の混迷から国防費が増大し,財政を圧迫する要因となっている。政府は70年7月に輸入規制を強化するなどベトナム戦後に備えて国際収支面などの対策を急いでいる。
2)生産活動
69年の農業生産は,前年に引続いて,総じて順調な生産であった。米の生産は68年より100万トン余り上回る1,340万トンに達したものとみられている。
工業生産は,セメント,製紙,石油精製などで着実な伸展をみせている。
しかし,69年に入って工場許可件数は減少している。政府は今後の工業化の方向として,外国資本の導入について①タイ国産の原材量を使用する企業②タイの輸出を促進する企業という輸出産業育成策の方向を明らかにしている。
3)物 価
69年の消費者物価は2.1%高(前年比)と前年に引続いて(2.7%高)安定傾向にある。本年に入り第1四半期(前年同期比1.7%高),第2四半期(同0.7%高)と落着きをみせている。しかし,輸入規制の強化にともなって今後上昇する懸念がもたれている。
4)財政・金融
69年の通貨供給量は,金融引締め政策の影響などにより前年比4.7%増に止まった(68年8.4%増)。
70年度予算(69年10月~70年9月)は,米軍の撤退,カンボジア情勢などにより国防費が急増しており,当初予算を大幅に上回るものとみられている。さらに,71年度予算でも国防費が増大して財源調達に苦慮したが開発費を削減するなどして,全体の予算の規模は4.9%増に抑えている。この伸び率は67年以来の低い伸び率であるが,財政赤字が前年度比18.5%増と増大しており,通貨,物価への影響が懸念されている。なお,中央銀行は,10月1日から貸出し抑制,とくに輸入信用の抑制と国債の市中消化を強化した(併せて商業銀行の資本金の危険資産に対する比率を従来の6%から7.5%に引上げた)。
5)貿易と国際収支
69年の輸出は,米の輸出が前年比12.8%増であったがその水準は低く,輸出全体では,6億1,960万ドルと前年比9.5%増に止まった。米の輸出は66年より減少しているが,これは近隣アジア諸国の市場ヘアメリカ米,日本米が流入したこと,東南アジア諸国の食糧自給率が高まったことなどに加えて,国際的に米価が低落してきたことによる。一方,輸入は,工業生産の拡大,消費需要の増大により,12億2,900万ドル(前年比7.1%増)と高水準の輸入を続けた。この結果,貿易収支の赤字幅は68年の5億1,200万ドルから5億3,300万ドルに拡大した。さらに貿易外収支,資本収支の黒字幅も米軍支出,米政府贈与の削減を主因に減少したことにより総合収支は11年ぶりに赤字に転じた(4,800万ドルの赤字)。
従来,タイの国際収支は,第6-6図にみるように貿易収支の赤字を貿易外収支,移転収支,資本収支の黒字によって総合収支の黒字を記録してきている。68年より貿易外収支などの黒字の増加幅は鈍化してきたが,69年には黒字幅が68年に比べて減少している。
本年に入って,輸出は米,ゴム,ケナフなどの減少により第1四半期6.4%減となった。これは,これら品目の第1四半期の輸出価格が前年同期に比べ米31%,ゴム4%,ケナフ29%とかなり低下していることにもよる。一方,輸入は第1四半期33%増(同)となったことにより第1四半期の貿易収支の赤字は前年同期の23億100万バーツから27億6,200万バーツに増大している。このように昨年から今年にかけて国際収支の悪化が著しいことから7月には200品目に及ぶ輸入関税の引上げを実施した(営業税の引上げも同時に)。この措置はこれまでの輸入抑制をさらに強化したものであるが,同時に関税引上げにより新年度予算の財源確保ををめざしたものである。
1)概 況
69年の実質経済成長率は8.5%と1960~68年の年平均経済成長率5.5%と比べかなりの高成長であった。これは,昨年5月の社会暴動により一時的な経済の停滞をまねいたものの,天然ゴムを中心とする一次産品市況の好調による輸出の著しい伸長によるものであった。しかし,堅調を続けてきた一次産品市況は69年末をピークに軟調に転じたことにより,70年上期の輸出は大きく後退をみせている。
2)生産活動
農業生産は,米の生産が85万トンに達し,自給化(95万トン)の達成に近づいている。天然ゴムの生産は政府の品種改良などの増産奨励をともなって前年比17.5%増加した。パームオイルの生産も前年の28.1万トンに対し34万トンと好調であった。
工業生産は,69年5月の社会騒動により不振を続けた。69年の民間投資活動は,マレー人優遇策もあって民間投資支出は前年比4.4%減となった。70年第2四半期に入って外国民間投資が96件認可されており,不振を続けてきた投資活動にやや回復の兆しがみられる。
3)物価と財政
68年から物価は安定傾向をたどり,69年の消費者物価も横ばい(前年比0.9%減)であった。しかし,70年に入って第1四半期(19%高,前年同期比),第2四半期(1.0%高,同)と上昇の兆しをみせている。
1970年の国家予算は,防衛,治安対策の上から積極予算が組まれた。経常支出は前年比15.6%増(22億8,200万マレーシアドル)であり,経常支出の26%が国防,治安維持費であり,これまで第1位の比率を占めていた社会福祉,教育の比率が低下している。
開発関連支出は14.4%(9億2,100万マレーシアドル)増であり,この23.8%が国防費となっている。
歳入は,税収入が21億3,000万ドルに過ぎず,輸出入税,国内消費税等の増税を行なうとともに国債発行や外国からの借款を考慮している。
4)貿易と国際収支
69年の輸出は,主要輸出品であるゴム(全輸出の39.9%,69年)が前年比50.2%増,スズ(同18.4%)13.3%増,木材(同,12.0%)11.0%増などの大幅な輸出増加により全体で23.8%増を記録した。この伸びは60年以降最高の伸び率である。これに対して輸入は,米の増産や民間投資活動の停滞により前年比1.3%増に止まった。このため貿易収支は15億マレーシアドルの大幅な出超となり,国際収支は5億3,000万ドルの大幅黒字となった。69年末の外貨準備は7億8,500万ドルと高水準に達した。このような対外面での好調は一次産品市況の回復に支えられたものであった。しかし70年に入ってからはゴム,スズなどの市況が軟調に転じたことから輸出の伸びが大幅に鈍化している。第6-7図にみるようにゴムの輸出価格は第1四半期から第2四半期にかけて低下し,1~6月のゴム輸出は前年同期比7%減となった。この他,パームオイルや工業製品の輸出増加が続いたものの,ゴムの輸出減少,スズなどの輸出鈍化により上期全体の輸出は1.3%減(前年同期比)となった。他方,輸入は昨年に比べ国内需要がやや盛上ってきたことから7%増(前年同期比)と増加している。
1)概 況
69年4月から実施した経済開発5カ年計画(69~74年)は,米の増産計画(ビマス・ゴトン・ロヨン)などに行づまりがみられたが,民間投資外資の導入,輸出などの面では計画を上回った。69年の国内総生産(実績)の増加率は推定によると5%に達したものとみられている(68年4%)。
2)生産活動
農業生産は5カ年計画の重点政策であり,開発計画資金の約30%が向けられている。とくに米の増産計画は集約的米作農業を推進するために外国民間企業などにより農業資材を投入する方式がとられたが,かんがい面積の不足や財政負担の増大などにより行きづまりとなった。米の生産は1,079万8,000トン,前年比4%増に止まった(68年の生産11.8%増)。しかし,コプラ,砂糖などの生産は順調であった。
工業生産は,繊維,セメントを中心に拡大した。鉱業生産も石油,ボーキサイド,ニッケルなどで開発が進んだ。このような鉱工業生産の拡大は外国資本の開発の進捗によるところが大きい。67年に外資導入法が選定されてから外国資本の進出が著しく,67年末の23件1億2,900万ドルから68年末69件2億2,000万ドル,69年末には171件10億8,468万ドルに達している(この中には石油,銀行関係資本を除く)。
また,国内の民間投資も昨年から今年にかけて増加しており,設備投資貸付額は(残高)3月末の233億ルピアから8月末(約定)444億ルピアに増加している。
しかし,外資の導入について政府はこれまでの総花的外資導入政策を改め,優先業種,非優先業種に分けるなど選別化の方向を明らかにしている。
3)財政・金融
スハルト政権は過去における財政の大幅赤字がインフレの高進をもたらした経験に鑑み,均衡予算を編成している。69年度予算では前年度歳出入実績に対して70%増大し3,270億ルピアと大型化しているが財政の均衡化は68年に引続いてつらぬかれた。70年度予算でも4,489億ルピア(歳出入)に拡大しているが均衡予算となっている。
金融面では,69年に数回にわたって預金,金利が引下げられ,4月には金融調整手段の多様化,債権市場の育成を目的として中央銀行短期債権が発行された。
4)物 価
物価はさらに安定傾向をたどり,消費者物価の上昇率は66年の63.9%から67年113%,68年85%,69年9.5%と大幅に鈍化している。70年の物価上昇率も10%内に収まるものと政府筋は予測している。
5)貿易と国際収支
69年の輸出は石油,ゴム,すず,コプラの増産や市況の堅調などにより前年比11.8%増(8億7,200万ドル)となった。一方,輸入も援助の増大,生産活動の活発化から資本財を中心に15.6%増(7億5,100万ドル)に増加し,貿易収支は4,100ドルの黒字であった。インドネシアの国際収支は貿易収支がかろうじて均衡を維持しているのに対して貿易外収支が大幅な赤字であり,これを資本収支の黒字で補うというパターンであるが,69年は援助資金の増大,民間外資の流入で総合収支はほぼ均衡を達成した(68年1,800万ドル赤字,69年1,200万ドル赤字)。本年に入っても輸出の好調が続いており70年上期の輸出は前年同期比18.2%増となっている。一方,輸入は,1%減(同)と減少している。政府は輸出促進のために4月に主要品目の輸出税率を15%から10%に引下げている。また,7月には一部国内の生産が高まった品目については輸入禁止措置をとった。(ラジオ,テレビ,亜鉛,鉄板など)。
なお,政府は4月に経済開発の促進と経済の自立化を図るために為替相場を簡素化した。これは,従来主として貿易取引に適用していたBE相場(1米ドル326ルピア)と貿易外取引に適用していたDP相場(同379ルピア)を統合して一般相場(同378ルピア)を設定した(援助による輸入は326ルビアの借款相場を継続)。
1)概 況
69年のインド経済は,農業生産が前年を上回る増産を記録したこと,工業生産も消費財産業を中心に拡大したことなどから経済成長率(実質)は68年の2.2%に対し,5.5%を記録した。70年に入って食糧生産の好調が伝えられているが,工業生産にやや伸び悩みがみられたほか,輸出もストの影響などにより前年の増加テンポを下回っている。
2)農業生産
食糧生産は,68年の9,400万トンから69年9,756万へと史上最高の増産を記録した。とくに西ベンガル州,アーンドラ州,タミール・ナダ州などで好調であった。これらの州では,総じて天候条件に恵まれたことに加えて,高収量品種の普及も順調であった。70年の生産(春作)は,69年の6,500方トンから7,000万トンヘ達したものと見込まれている。食糧増産にともなって食糧輸入が67年の870万トンから68年570万トン,69年390万トンへと減少し続けている。今年度の食糧輸入については,政府は400万トンの輸入を見込んでいるがこれは政府の食糧の緩衝在庫(約600万トン)政策に見合うものである。
3)工業生産
工業生産は基礎産業,資本財産業,中間財産業では前年の伸びをやや下回ったが消費財産業の伸長により68年の6.4%増から69年7.1%増となった。69年の生産について,インド準備銀行は①国内需要の盛り上り②化学,セメントなどの好調③稼動率の上昇傾向などを上げているが,政府の目標である年8%を下回っており,61年,65年の上昇テンポに及んでいない。70年に入り,69年年後半からみられた鉄鋼などの原材量不足による伸び悩みがいっそう明らかになった。また,肥料,アルミニウム工業も不振を続けたことにより,第1四半期の鉱工業生産の伸びは5.0%増(前年同期比)に止まっている(69年1~3月6.3%増)。
4)物価と金融
69年の消費者物価は前年比横ばいに止まったが,卸売物価は前年比3.8%高となった。卸売物価はその後も工業原材料,食用油などを中心に上昇を続けており,第1四半期8.3%高(前年同期比)と上昇テンポを高め,第2四半期も6.7%高である。安定をみせていた消費者物価も第1四半期0.6高(同)から第2四半期に入ると5.1%高(同)と上昇している。68年から69年にかけてやや安定していた物価は70年に入り再び上昇加速化の兆しをみせている。金融の動きをみると,14商業銀行が国有化された(69年7月)ことにともなって国有銀行による預金総量は全預金の5分の4余りを占めるものとみられている。通貨供給量は5~10月期が緩和期となっているが,今年4月末から8月末にかけては4億ルピー減少し,前年同期の6億9,000万ルピーの減少と比べて減少幅が小さい。これは,銀行貸付けが増大したことが大きく,銀行預金の増加もその要因となっている。8月28日準備銀行は貸付け抑制のため流動性の比率をさらに引き上げることを要請した。
5)貿易収支と国際収支
69年の輸出は下期から伸び悩みをみせ,年間で4.6%増に止まった。しかし,輸入は前年に引続いて減少傾向をたどり年間で7.3%減少した。輸入は,食糧輸入の減少や,工業製品の国内供給が総じて高まったことなどによるものである。この結果,貿易収支の赤字は68年の6億3,500万ドルから69年2億ドルへと縮小し,国際収支の改善に寄与している。外貨準備高も68年末の6億8,200万ドルから9億2,600万ドルへと大幅に増加した。
輸出は70年に入って第1四半期が10.6%増(前年同期比)となったが第2四半期は6,7月のカルカツタ港のストの影響もあって2.4%減となり,70年上期の輸出の伸び率は9.3%減と,69年上期(29.7%増)よりかなり低下している。69年下期からの輸出の伸び悩みの原因としては,内需の回復により輸出意欲が減退していること,鉄鋼,アルミ等の原材料不足による機械金属製品輸出の鈍化が上げられよう。輸出伸長のためには内需の抑制と輸入ライセンス制の緩和が必要であり,年7%の輸出増加率の目標達成のために,政府はその検討に乗り出した。一方,輸入は70年第1四半期5.7%減(前年同期比)と減少したが第2四半期には14.6%増(同)と増加に転じている。このため貿易収支の赤字は再び増大しており,今後,輸入抑制の緩和の動きもあってその成行きが注目されている。
1)概 況
1969/70(69年7月~70年6月)の経済成長率(実質)は5.8%とほぼ前年並み(68/69年5.7%)に止まった。最終年をむかえた第3次5か年計画は(1965/66~69/70年),1965年のインド,パキスタンの紛争や1968年から69年にかけての政治,社会不安の発生などにより,期間中の目標経済成長率37%に対し,32%に止まり,目標達成は農業,工業生産とも不可能であった。
70年7月から第4次5カ年計画(70年~75年)が実施されたが,ヤヒヤ政権に替る新政権が政治,社会の不安をどのように解消していくかが目標達成を大きく左右するであろう。
2)生産活動
1969/70年の農業生産は6.8%増と前年の3.5%増を上回った。第3次5カ年計画の農業生産の目標は年平均4.5%,であり西パキスタンでは年平均5.9%と目標を達成したが東パキスタンでは3.2%と目標を下回っている。
工業生産は68/69年の10.5%増から69/70年7.4%増へと鈍化した。とくに織物,砂糖などで不振が続いた。
工業生産活動の伸び悩みに加えて,68年から69年にかけて民間投資活動の停滞が続いている。政治,社会不安が治まらない状態で内外の投資家が投資を差控えたものと思われる。大蔵省の見通しによると,第3次5カ年計画期間中に220億ルピーの外国民間投資見通しに対し,218億ルピーに止まったものと推定している。
3)物価と財政・金融
68年に総じて安定していた物価はヤヒヤ政権の食糧等の物価統制の影響により69年には消費者物価が3.1%高,卸売物価も5.7%高となった。70年2月,4月の消費者物価は食料を中心に顕著な値上りさみせており,卸売物価も第1四半期から第2四半期にかけて上昇テンポを高めている(3.8%高から5.4%高へ,前年同期比)。
4)貿易と国際収支
輸出は,主要輸出品であるジュートの不振,工業生産品の停滞,国内消費の増加などにより69/70年(69年7月~70年3月)は前年比2.5%減となった。輸入は外国援助の減少,食糧輸入の減少などにより69年7月~70年3月期で2億400万ドルとほぼ前年並みである。しかし,国際収支は政府援助などの減少により前年より悪化した。
その後,輸出は,ジュートの輸出が70年第1四半期から第2四半期にかけて顕著な増加をみせていたこともあって4~6月期の輸出は12.0%増(前年同期比)となったがその水準は低く,本格的な回復に及んでいない。こうしたことからルピーの為替相場の不安定が続いており,ルピー切下げの要請が高まった。政府は6月に”根拠がない”ものと公式に言明した。
対外レートの回復には輸出力の振興が重要であるが,7月に政府は輸出報奨制の改定を行った。従来の30%のボーナス外貨割当品目についてはさらに5%の割当てをふやし,これまで制度の対象以外の品目(3品目)についても新たに10%の外貨割当てることにした。この措置は輸出インセンテブを高めるということばかりでなく,輸出報奨制の拡大によりルピー貨が実勢レートで適用されることにより部分的切下げの意味をもっており,当面の切下げを回避したものといえよう。しかし,今度のルピー切下げ圧力には根強いものがあり,切下げは避けられないであろう。その時期は新政権の誕生間もない頃において行なわれるものとみられている。