昭和45年
年次世界経済報告
新たな発展のための条件
昭和45年12月18日
経済企画庁
1969年半ばまでほゝ順調な拡大を続けたイタリア経済は,労働協約の改定期を迎えた年央以降うち続くストライキや政治的空白から,様相を一変して生産の著しい低下を招き,63~64年以来の大きな経済停滞を示した。この傾向は70年に入っても続き,年初に一時的な回復をみせたものの,ストの再燃した第2四半期以降再び生産停滞を示しており,秋になってもまだ回復の兆しはみえない。
69年の国民総生産は実質5.0%増(名目9.2%増)と前年の伸び(実質6.0%増)を下回った。この成長率は1966~70年計画の目標値(実質5.0%)にはかろうじて達したものの,6.0%とみられるその潜在成長率を下回るものであった。これはいうまでもなく69年央以降イタリアの労働者の約半数を巻き込んだといわれる広汎なストライキによる鉱工業生産低下のためであり,69年第2四半期から第4四半期までの間に実質GNPは4.6%も低下した。
労働攻勢が強まる直前の69年半ば頃までは実質GNPは年率約7~8%の大巾な拡大基調にあったことから,OECDはストライキによって69年全体の実質GNPは約2%低下したと推計している。
70年に入っても前年以来の様々の問題ー政情の不安定,労働攻勢の高まり,物価の上昇などーは未解決のまま残されており70年の経済成長率は当初の政府見通しを下回ったものとみられている。
政情の不安定という問題は,70年8月に発足したコロンボ新内閣が戦後32代目の政権であることからもわかるように,とくに最近だけの問題ではない。しかし69年央以降の政権抗争が労働問題と結びついてイタリア経済に大きな影響を与えたことは見逃せない。
63年以来5年半にわたって続いた中道左派連立政権は69年7月連立与党の社会党の分裂から崩壊し,1カ月の政治的空白の後にキリスト教民主党の単独少数内閣(首相ルモール)が成立した。これは共和党,社会党などとの連立工作に失敗した後の産物でもあり,発足当時から不安定さはおおうべくもなく,70年2月初に至って崩壊した。その後中道左派の連立内閣を目指す組閣工作は,離婚法や共産党の処遇をめぐって難航し3月末にようやく成立をみたが,5月以降労働争議が再燃するなど従来からの懸案事項は依然として解決をみなかった。こうした中で行われた6月の統一地方選挙では共産党の躍進が予想されたが,中道左派政党が得票を伸ばして,ルモール内閣は一応信認された形となった。しかし社会党系の勢力争いは,得票を伸ばしたことによって複雑化し,それによって連立内閣はその体質がかえって虚弱化するという皮肉な結果となった。このためルモール首相は7月初突然内閣総辞職を発表し,これに代って8月初コロンボ首相の新たな中道左派連立内閣が発足することとなった。しかしまだ社会党,共産党などとの抗争のみならず,キリスト教民主党内部での派閥抗争(アンドレオッチ・コロンボ派とピッコーリ,ルモール派など)も依然として続くものとみられ,労働問題や経済問題など未解決のものも多く,コロンボ政権の行く手は必ずしも楽観を許されず71年春までにまた政権の交代を予想する向きも多い。
69年の国内総需要は実質5.9%増と前年(5.2%増)をわずかながら上回った。しかしストライキによる生産停滞の影響を強く受けた第2四半期から第4四半期の間に実質1.8%の減少を示し,70年に入っても基調的には内需は根強いものの,生産の回復が遅れているため伸び悩みとなっている。なかでも投資の落込みは大きく,資本財生産の急激な低下から69年第2四半期~第4四半期の間に約10%もの減少となり,機械などの設備投資は第4四半期に68年から69年第2四半期までのすう勢を20%も下回った。このためこのべ一スでの推定によれば設備投資のロスは69年の投資額の約6%に達したものとみられている。政府投資も建設業の停滞がネツクとなって著しい低下となった。
他方,個人消費はストライキにもかかわらず69年には実質5.7%増と前年(4.7%増)をかなり上回った。これは労働協約改訂が一部産業では69年中に発効となったこともあって賃金が大巾に上昇したことや年金の改定が行われたことなどから個人所得が大巾に伸びたためであるが,このほか消費財生産がストライキの影響を投資財生産ほど受けなかったことも一因となっている。
70年に入ってからも投資はストライキの影響から伸び悩み,投資財生産もストライキ前の水準を下回っている。このため70年の総固定投資の伸び率は前年並みの8%程度に留まるものとみられている。これに対し個人消費は,昨年末の労働協約改訂の大部分が70年になって発効となったため所得の上昇から依然として旺盛であり,百貨店売上高をみても70年上期に前年同期比12.7%増と69年の伸び(8.8%増)を大巾に上回っている。
しかし,9月のビジネスサーベイによると,内需の動きの現状判断について伸び悩みと答えた者は,70年初には16~18%であったが,9月には30%前後に達し,5月以来順調な拡大と答えた者の割合を上回るようになっている。
このため政府は投資主導型の経済成長への転換を目標にして8月投資促進を中心とする景気刺激措置をとり,その効果が期待されている。
69年の鉱工業生産の伸びは2.9%増と前年のそれ(6.3%増)を大幅に下回った。この生産の伸び率鈍化は多くの部門にわたっているが,投資財部門が前年の7.4%増から69年には1.5%増となったこと,原料部門も同じく7.5%増から2.5%増に鈍化したことが大きい。これに対し消費財部門は前年の5.l%増から5.6%増へとわずかながら伸び率の増加をみた。これは69年のストライキが金属,機械などの投資財産業を中心に行なわれたためであろう。産業別にみても繊維は69年に6.1%増となっているが,機械は1.7%増に留まり,化学,輸送用機器は0.8%,0.9%の減となっている。
四半期別に鉱工業生産の動きをみると,69年第2四半期まではほぼ順調な拡大基調にあったが,ストライキの激しくなった第3四半期以降大幅な落込みとなっており,70年に入って第1四半期にやや立直りをみせたものの,69年のストライ前のピークをわずかに上回っていたにすぎず,第3四半期以降はまた横ばいないし低下傾向を続けている。第2四半期に上昇傾向を示した産業はわずかに繊維,鉄鋼,化学,食品だけであり,鉄鋼生産も上昇傾向とはいえ1~9月で前年の水準をまだ下回っている。また自動車産業は69年来のストの影響から脱けきれず,フイアツト社だけで70年7月までの12カ月間生産計画を37万台も下回っているといわれている。
このような生産停滞に対処すべくコロンボ新政権は,68年以降実施中の企業の投資免税および増資免税の延長や中小企業向け金融の拡充などの生産刺激措置をとったが,労働争議が秋になっても散発的に起っているため,生産の回復はむしろ労働組合の出方如何にかかっているといえよう。
69年の労働力需要は前年からの緩慢な傾向が引続き,西ドイツなどへの労働力の流出もあって,雇用者数は20万人減少,1%の低下となった。イタリアでは南北の地域間の格差の問題と関連して農業部門から工業部門への労働力の転換が急務とされているが,69年の統計では,農業部門で22万人,サービス部門で13万人の減少があったにもかかわらず,工業部門ではわずかに16万人程度しか吸収できなかったとされており,これらの問題は依然として解決されていない。このため職を求めて南部から北部へ移動してくる労働者は,年10~20万人にのぼっており,種々の問題を発生させている。これまで政府はこうした労働者に対する住宅対策や社会制度の改善などの政策より,成長政策に重点をおいてきた。したがってなおざりにされた労働者の不満が,労働協約改訂期を迎えた69年に一挙に爆発したものといえよう。さらに前述したような政治的混乱が,一層労働攻勢をつのらせる結果となリストライキは長期化し,生産停滞の大きな原因となった。
69年の労働協約改訂は46協約,対象労働者数は500万人にのぼったが,労働争議の頻発はこれまでに例をみないほど大規模なもので,争議参加人員はのべ750万人,争議損失労働時間は3億時間と63年当時の37万人,2,500万時間を大きく上回る大攻勢となった。新協約は部分的には産業によって異なるが,イタリアの労働組合は部門別横割制(3大労組が中心)で,まず全国的規模の労働協約を締結し,それを基礎として地区別,企業別の特色をとり入れた個々の労働協約が各企業毎に結ばれることになっているため,基本的な賃金上昇はほとんど同じで70年1月から発効となった。また週労働時間は現在の43~44時間が,72~73年までに40時間に短縮されることとなる。このような労働攻勢の高まりから69年の時間当りの賃金指数(製造業)は,前年比7.9増と前年(3.6増)を上回ったが,70年にはさらに大巾な上昇となり,上期で前年同期比21.6増に達した。これは新協約の発効によるものが大部分であるがこのほか労働協約更改交渉が69年ほどではないが70年に入っても続いていることや,賃金のスライデイングスケールの実施が行われたことにもよるものである。本年末までには工業労働者の約四分の三が協約改訂の運びとなる予定であるが,どの産業でも同様な賃金上昇が決定されるものとみられている。とくに最近は生産性の低い部門や中小企業まで賃金上昇が平準化されており,その影響を心配する向きが多い。
一方生産性の上昇はストの影響もあって,69年に3.5程度にすぎず(前年5),賃金コストは4.2の上昇(前年1.0の低下)とこれまでにない大巾な上昇となった。さらに70年第1四半期には賃金コストの上昇は実に前年同期比18.3に達して現在のインフレをコスト面から強めており,コストインフレは益々強まるものとみられている。
ここ数年比較的安定的に推移していた物価は,69年の半ば以降急騰をみせ,69年全体で,卸売物価は前年比3.7高,消費者物価は2.7高と前年のそれ(それぞれ0.9,1.4高)を上回った。
こうした物価上昇の端緒は69年に4の上昇を示した輸入価格の上昇によるところが大きいとみられているが,そのほか建設資材や鉄鋼などの産業が生産停滞から69年にそれぞれ19.7,25という大巾な上昇を示したことや,賃金の大巾な上昇による賃金コストの上昇が69年央から著しくなっていることも大きな原因となっている。とくに卸売物価の上昇率が消費者物価の上昇率を上回るほど大巾な上昇となったことは,この間の事情を示すものであろう。用途別にみても卸売物価では投資財が69年に6.6%の上昇,農産品が5.8%の上昇となっているのに対し,消費財は3.9%の上昇となっており,今回の物価上昇が投資財中心であったことを物語っている。
70年に入ってからも物価の上昇は更に加速化されており,卸売物価,消費者物価は上期で,前年同期比8.7%,4.9%の上昇を示している。なかでも投資財の卸売物価はこの間15%もの上昇となり,消費財も7.3%の上昇と騰勢を強めている。これは,賃金コストの上昇が投資財を中心に70年初から急騰したことが大きな原因であるが,それとともに大巾賃上げによる所得の増大から消費が旺盛なことや,昨秋来落込んだ在庫の積増しもあって内需が基調的には根強い反面,ストの影響で生産回復が充分でなく需給がひっ迫度を強めていることによるものであろう。
このようなインフレ傾向に対処するため,政府は8月消費抑制を目的として間接税増税の実施を打出した。しかしこのような増税は種々な形で物価に転稼されることとなるので,物価の上昇は当面鎮静化を期待できない。
69年の国際収支は1,391百万ドルの赤字と前年(627百万ドルの黒字)に比して20億ドルの悪化を示した。これは銀行券持出しなどによる資本流出が増加したためであり,銀行券流出は前年の1,127百万ドルから69年には2,256百万ドルとほぼ倍に達した。もともとイタリアは経常収支の黒字を資本収支の赤字で打消すという形をとってむしろ資本流出を奨励していたが,内外金利差の拡大や政情不安から資本流出が急激に増大し,69年には資本収支は300.3百万ドルの大巾赤字(前年は1,350百万ドルの赤字)となって経常収支の黒字巾16.12百万ドル(前年は1,978百万ドル)を,大きく上回ることとなった。このような資本流出に対処するため当局は69年に一連の規制措置(44年版世界経済報告参照)をとったが,マルク,フランの平価調整をめぐる国際通貨不安や国際的高金利の影響などで資本流出が続き,70年に入ってもこの傾向は容易に収まらなかった。このため当局は2月にさらに次のような措置をとって規制を強めた。
1輸出入決済に関し,前受,前払輸出入ユーザンスとも360日を越えないものはフリーとされ,この限度を越えるものは貿易省の事前承認を要していたものを,輸入前払については30日,輸出ユーザンスについては120日を限度とする。
2銀行券による資本流出を監査するため外国銀行により取得されたリラ銀行券をイタリア銀行本支店に送付させることとし,一種の集中管理方式をとる。
さらに3月には西ドイツの公定歩合引上げに追随して,公定歩合を4%から5.5%に引上げ(1.5%の高率適用は継続となったため,再割引の8~9割は7%適用分となる。)国際金利水準へのさや寄せを図った。
こうした一連の措置やあしつぐ外債の調達によって資本流出は鎮静化して資本収支は3月以降改善を示し,上期には23百万ドルの赤字と前年同期の1,527百万ドルの赤字から大きく好転した。このため,経常収支が70年に入って赤字化しはじめたにもかかわらず(上期553百万ドルの赤字),総合収支は上期576百万ドルの赤字に留まった(前年同期898百万ドルの赤字)。経常収支の悪化は前年央以来の貿易収支の悪化によるところが大きく,これは生産停滞による輸出の不振と輸入の膨張が原因である。69年央まで輸出は,引続く世界貿易の拡大や輸出競争力の強さから,年率25%という大巾な増加を続けていたが,69年下期の急激な止産低下から鈍化しはじめ年全体では15%増(前年は17%増)に留まった。もしイタリアの輸出が下期にもOECD諸国の輸入の伸び率と同様に推移していたとすれば,輸出の伸びは20%に達していたとみられ,このことからOECDはストライキが69年の輸出を5%程度低めたと推定している。地域別にみると景気拡大の続いたEEC諸国向けが22%増,なかでもフランス,西ドイツはそれぞれ33%,21%の増加となり,全輸出に占めるE ECのウエイトは42.5%(68年40.1%)と伸びている。これに対し停滞的だったイギリスやアメリカ向け輸出はいずれも前年を下回った。70年に入っても輸出は生産の回復が思わしくないため伸び悩み,機械,繊維など輸出が上期に15%増となったほかは停滞ぎみで,全体では7.3%増(前年同期比)にすぎない。国別にはフラン切下げの影響でフランス向けが10%の減となったことやマルクを切上げた西ドイツ向けが18%増となっていることが注目される。
一方,輸入は69年のストライキによる生産のスローダウンにもかかわらず内需が基調的に根強かったため21.4%の伸び整示し,前年の4.3%増を大巾に上回った。これは前年に低下ぎみだった原材料や半製品の輸入が69年央までの活況によって増加したことや,年央以降国内生産の停滞から消費財や資本財の輸入がそれぞれ34%,24%と大巾な伸びを示したためである。
また地域別にみると輸出と同様EEC諸国からの輸入増加が著しい。70年に入ってからも国内需要は基調的には根強いため大巾な増加を続け,上期に20.9%増(前年同期比)を示した。国別にはマルク切上げにもかかわらず西ドイツからの輸入が28.1%と大巾な増加を続けている。
本年下期になってもまだ輸出の伸びは回復をみせず,貿易収支は依然として大巾な赤字を続け,経常収支に改善がみられなかったため,7月のルモール内閣の総辞職を契機にリラ不安が高まり一時はリラ切下げのうわさも流れていたが,当局は6月の対IMF債権の日本への肩代り(250百万ドル)に続き,7月にはIMFスーパー・ゴールド・トランシュの引出し(133百万ドル)およびGAB債権の回収(330百万ドル)などの外貨準備補強策をとった。さらに8月に就任したコロンボ首相が平価切下げを否定し,新たな景気対策をとるに及びリラ不安は急速に鎮静化した。これと並行して貿易外収支,資本収支が好調に推移しているため,国際収支は8月以降黒字を維持している。もともとイタリアの国際競争力は強いので,生産の回復さえ進めば,国際収支不安は一掃されるものとみられている。この間金外貨準備高は69年12月の50.1億ドルから70年7月には42.1億ドルと激減したが,10月には48.8億ドルまで回復している。
70年8月に成立したコロンボ新内閣は,生産停滞と物価上昇に対処して,個人消費の抑制と生産投資の促進を図る景気対策を実施し,あわせて労働対策として労働組合から強い要求の出されていた医療,交通,住宅などの社会改革のうちから医療問題をとりあげた。
1)間接税の増税
揮発油税及び石油ガス税,酒類製造税,不動産登録税,電話利用税,しゃし品に対する売上高税など11項目にわたって増税を行い個人消費を抑制する。これによる税収増は4,450億リラの見込みである。
2)生産促進措置
中小企業向け金融の拡充(IMI.MEDIOCREDITOなどに対する出資増額)及び68年以降実施中の民間投資免税ならびに増資免税の延長を行う。
3)健保機関などの赤字是正及び再建
企業の健康保険負担率を引上げて,(1)の政府歳入増と加え(計6,800億リラ),健保会計赤字(7,000億リラ)を補てんする。
これらの政策は全体としてみれば,個人消費を公共消費に転換する形となっており,しゃし品に対する消費を抑え一方において生産の回復,生産性の向上を図って,消費主導型から投資主導型への移行を目指したものである。
さらに9月には支払準備制度を一部変更して,中長期金融機関の債券発行による資金調達を容易にすることにより,上記の投資促進策を資金面から補完する方策を打出した。これと同時に市銀の預金準備に対する金利を引上げて市銀の流動性増大を図っている。このような動きから,最近の国際的な金利低下傾向に歩調をあわせて公定歩合も引下げ引締を緩和するのではないかとみられているが,物価上昇が最近は騰勢が弱まっているとはいえまだ高水準にあること,先の間接税増税も種々の形で物価に転嫁される恐れがあること,労働攻勢が散発的ながらまだ続いていることなどから当局は慎重な態度をとっている。
1971年予算案をみても,積極的景気刺激型ではなく中立的ないし若干引締め的である。一般会計の歳出規模は前年比9.3%増に留められており,投資支出はわずかに2.7%の増加となっている。また特別会計も前年より26.5%も縮小されており,一般会計収支は前年並みの赤字であるが総合収支では前年を6.1%下回る赤字に抑えられている。
しかし,物価安定と生産回復を目指す経済政策が,うまく行くかどうかは,結局労働組合の出方如何ということになるとみられており,その意味で政府が医療問題をとりあげて,労働組合の要求である景気対策と社会改革を同時に実施したことはかなり高く評価されている。
イタリア経済の今後の経済見通しは現在の労働不安をどの位早く克服して順調な経済拡大に復帰しうるかという点にしぼられている。
しかし,現在までのところ生産の回復はみられず先行き楽観を許されない情勢である。したがって70年の工業生産の伸びは10%程度が見込まれていたが,これを下回ることは確実で国内総生産の伸びも当初実質7%程度が見込まれていたが,現在の情勢では,これを下回ることとなろう。
投資の現状はその長期的なトレンドからみてかなり下回っており,賃金の大幅上昇から省力投資に対する意欲もかなり強まると予想され,8月以降の投資促進政策とあいまって上向くものとみられているが,本格的な投資の増大は71年になってからであろう。
個人消費は70年に20%に達するとみられる賃金上昇から大幅な増加が見込まれ,物価の上昇にもかかわらず,実質8%程度の伸びとなり,70年には若干下向くがそれでもなお高水準を維持するとみられている。
物価については70年は69年の上昇率を上回ることは明らかで,当局はGD Pデフレータで6%程度に抑えたいとしているが,最近の貿易物価の上昇や賃金のスライデイングスケールの影響さらには個人消費の増大などを考えると,政府予想を上回ることになるとみられ,さらに71年には物価上昇が加速化する恐れもでている。
一方対外面では,輸出は生産の回復が進まず,伸び悩んでいるが,この傾向は71年上期頃まで尾を引くとみられるのに対し輸入は依然として増勢は強いが,生産の回復につれて徐々に鈍化するとみられるため,経常収支は若干の改善を示すものと予想されている。