昭和45年

年次世界経済報告

新たな発展のための条件

昭和45年12月18日

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

年次世界経済報告の刊行にあたって

この世界経済報告は,過去1年間の世界経済の動向を明らかにするとともに,1960年代の各国の高度成長過程の中で生じた問題点をとりあげ,70年代に入って世界経済が調和ある発展を遂げていくために解決を迫られている課題について分析を行なっております。

ここ1年間の世界経済の動向をふりかえってみますと,69年後半から景気後退局面に入ったアメリカ経済は,70年になってからも停滞的に推移する一方,西欧諸国の経済活動にも70年央以降やや鈍化傾向が見られます。このような情勢のもとで世界貿易は好調な伸びを示し,また国際通貨情勢はマルク,フランの平価調整の一応の成功から小康状態にあります。しかし,その反面世界的なインフレ傾向は容易に収束せず,とくにアメリカ,イギリスなどでは景気後退にもかかわらずインフレが根強く進行するというきわだった特徴が見られました。

この世界的なインフレについては,各国経済のつながりが緊密化するなかで国際的波及が無視できないものになっていることや,近年コスト・プッシュの要因が強まっていることなどからその解決への道はますます厳しいものになってきているといわざるをえません。他方,急速な生産拡大や都市集中,技術革新の進展にともなって,公害問題が世界の各地で深刻化してきており,長期的な国民福祉の観点から環境問題を含めた資源配分の適正化が要請されているといってよいでしょう。また,先進国で画期的な高度成長が達成されたこともあって,南北問題は依然として重大な問題でありますが,発展途上国の中でも60年代に先進国を上回るほどの成長率を実現した国がいくつか現われてきたことは注目されます。こうした発展途上国の成功例は南北問題を解決していく上で大きな示唆を与えており,これと関連して先進国の援助・協力のあり方が新たに見直される必要があるといえましょう。

以上にみた諸問題は,いずれをとっても国際的規模での解決が求められており,とくに先進国の責任と役割が大きく問われております。わが国も国際的地位の向上に応じて世界経済に大きな影響を及ぼしうる位置にあり,政策選択もますます世界的視点に立って行わなければならなくなっています。

このような世界経済の動向はわが国経済が当面する諸問題を理解する上で重要な示唆を与えていると思われます。物価問題についても,国際交流の進展にともなって海外要因の影響が大きくなっており,他方コスト要因も次第に無視できないものになりつつあります。公害も深刻化しつつあり,今年の公害国会で数多くの法案が審議され成立しました。そして,南北問題に画期的な一歩となる特恵も来年には実施される予定です。

こうした内外の課題を前にして,この報告が世界経済の現状とその問題2点について国民各位の認識を深める上での一助となれば幸いであると存じます。

昭和45年12月18日

佐藤 一郎

経済企画庁長官


[目次] [年次リスト]