昭和44年
年次世界経済報告
国際交流の高度化と1970年代の課題
昭和44年12月2日
経済企画庁
1968~69年度(7月~6月)のオーストラリア経済は著しい高成長を達成した。過去5年間平均のGNP実質成長率は5.2%であったのに対し,本年度は8.5%という記録的なものであった。
農牧蓄業は3年間にわたるきびしい干ばつより受けた打撃から完全に立ち直り,鉱業(特に鉄鉱石採掘)はハイ・ピッチで上昇を続け,工業生産も旺盛な内需を反映して耐久財の生産増を中心に堅調に推移した。このことは輸出貿易の著増となって反映され,国際収支も外資の流入が依然高かったため,総合収支の黒字幅は一段と増大した。
このような景気の好調は,その反面,労働力需給をひっ迫させ,ことに69年に入って労働力不足が目立ってきた。その結果,賃金は年度間に8.3%上昇し,消費者物価も3.6%の高騰をみるなど,コスト面からのインフレの危険が問題となり始めてきた。
ニュージーランド経済も,第2次大戦後最悪といわれた不況を克服して,力強い回復を示している。すなわち,一次産品価格の回復(酪農品を除く)や平価切り下げ(1967年11月21日,19.45%)ならびに金融財政面の引締め措置が順次効果を現わして,68年の後半から順調な立直りをみせた。国民総生産の成長率(名目)は1967~68年度(4月~3月)の3.4%から1968~69年度には6%に上昇し,また,1968~69年度(7月~6月)の貿易は前年度に比べ輸出は20%,輸入は27%の各増加を示し,輸出入とも記録的な高水準に達した。しかし,この経済活動の上昇の反面,ニュージーランドもオーストラリアと同様,労働事情はタイトとなり(登録失業者数は69年6月末までの1年間に56%減,求人数は同じ期間に74%増),賃金の6%上昇,消費者物価の5.2%高騰が問題となってきた。
1)生産
オーストラリア経済の基幹となっている農牧畜業は3年間にわたって東部地域を襲った大干ばつの打撃を完全に克服し,1968~69年度の生産額は35億1,500万オーストラリア・ドル(1ドルは403円20銭)と推定されている。前年度の生産額30億5,500万ドルに比較して15%の増大である。
主要農産品のうち,干ばつの被害の最も大きかった小麦は,順調な天候に恵まれたことと,作付面積の増加(18%増)などによって本年度の生産は5億4,00時ブッシェルと,従来の最高を記録した1966~67年度に比べても,なお7,000万ブッシェルの増産を記録した。他の穀物の収穫もまた増加し,特に大麦,からす麦の如きは前年度に比して2倍近い増収であった。
干ばつによって一時1億5,700万頭まで減少した羊頭数は本年度に入って予期以上に急速に回復し,3月末現在で1億7,600万額という記録的な頭数となった。この結果,本年度の羊毛生産高は19億3,400万ポンドとなり,従来の最高であった1963~64年度の17億8,500万ポンドをはるかに上回った。
農畜産品の生産がこの数年大きな波をみせたのに対し,鉱業および製造業の生産は着実な上昇過程を続けている。特に鉱産資源の発見,開発は著しく,鉱業のブーム化を現出している。1968年(歴年)の鉱産品生産高を前年と比較すると第58表のようになっている。なかでも原油,鉄鉱石の生産増加が著しい。近年発見された鉄鉱石とボーキサイトの鉱床はともに世界屈指のもので,特に鉄鉱石は,採掘設備,輸送,港湾設備の据付けと相まって,その生産は加速度的に高められ,前年比54%の増加となった。これら鉱産品の大部分は輸出に向けられている。輸出鉱産品の中心は鉄鉱石で,鉄鉱石が羊毛,小麦と並んでこの国の三大輸出品となるのも遠くないとみられている。
原油も開発が急がれており,1968年の生産は1億3,900万バーレルにも達し,前年比83%の増産であった。しかし,増大する国内需要を充たすに足らず,毎年2億5,000万ドル程度の原油および石油製品を輸入している。
オーストラリアの製造業生産高は最近5年間に平均9.5%の上昇を続け,極めて順調な発展を示している。1967~68年度の製造業生産高は74億3,100万ドルで,5年前に比較して55%増という高い上昇率は,この国の工業化の伸びの著しいことを物語っている。1968~69年度の数字は未だ入手し得ないが,基礎資材,建築材料,耐久消費財の生産増加が目立っている。産業別にみて,石油精製,鉄鋼,自動車(組立を含む)などの工業が急速に伸び,その他小規模ではあるが,電気機器,農業用機械,製粉および酪農関係の機械などの機械産業をはじめ,繊維製品,化学製品,加工食料品などの製造業も増加傾向を示している。1968年7月から69年月まで生産を前年同期と比較すると,銅(精錬)の43%増をはじめ,硫安は40%,亜鉛は29%,アルミニウムは24%,自動車は12%,電動機は11%,といずれも前年の増加率を上回っている。
2)雇 用
生産の上昇は雇用の増大を伴った。1968~69年度において雇用者数の増加率はおそらく3%を超すものとみられている。オーストラリアの労働力供給に大きなウェイトを持つ海外からの移民は,3月末までの9ヵ月間に12万人の純増加(前年度同期は9万人を,1950年代以来の最高を記録した。3月末の雇用者数(農牧畜業を除く)は400万人で,これを産業別にみると第59表のようになっている。
労働力需要の増大につれて,失業者数も昨年6月末の21万3,000人から本年6月末には15万9,000人に急減した。これとともに賃金も急上昇し,男子週平均賃金は同じ期間に65,9ドルから71,4ドルヘと8.3%上昇した。コストインフレを警戒する向きも多くない。
3)物 価
賃金の上昇にもかかわらず物価の上昇は比較的緩かで,本年6月の物価を前年同期と比較すると,卸売物価では,基礎資材が4.1%の増加,食料品およびたぼこが5.4%の低下であった。また消費者物価は2.9%の上昇であった。しかし卸売物価も食料品価格は昨年末を底に,本年に入って上昇傾向を示していることは注目すべきであろう。
4)貿 易
1968~69年度の外国貿易は輸出が33億6,900万ドルで前年度に比べ11%の増加,輸入が34億6,600万ドルで6%の増加であった。輸出についてみると,農業および畜産関係品が急回復し,鉱産品もブーム的に増加した。また製造品も堅調な推移をみせた。これに対し輸入では国防関係品が前年度を下回るとともに,機械類の輸入増加率も低下した。この結果,貿易収支赤字は前年度の2億2,000万ドルから9,700万ドルへと,赤字幅を著しく縮小した。
オーストラリアの貿易を国別にみると,この数年間に大きな変化を認めることができる。かって宗主国としてオーストラリア貿易の王座を占めていたイギリスは,1966~67年度以降,輸出では日本に,輸入ではアメリカにその王座を譲ってしまった。これは,イギリスとオーストラリアとの政治的,経済的な結びつきが後退したのに対し,高度の経済的発展を続ける日本およびアメリカや,地理的に有利性をもつ東南アジア諸国との貿易が,相対的に急上昇した結果であった。イギリスへの輸出は,かつてオーストラリアの全輸出の30%以上を占めていたが,1968~69年度には12.6%に低下した。これに対して,日本への輸出は年々着実に増加して,先に述べたように,1966~67年度にはイギリスをしのいでトップに立ち,1968~69年度には24.4%を占めるにいたった。輸入では1968~69年度にはアメリカが全輸入の25.6%を占め,イギリスは21.6%と後退を示している。日本は第3位にあって地位を高めているとはいえ,全輸入のシェアは12%に止まっている。
商品別にオーストラリアの貿易をみると,輸出では,いうまでもなく畜産品が中心である。しかし,羊毛を主とする畜産品のウエイトは漸減傾向にあり,これに代って,鉱産品,製造品のウェイトが増大してきた。畜産品の輸出は以前輸出の過半を占めていたが,1968~69年度には40%に減少した。しかし,このうち羊毛は23%を占めて依然輸出の中心となっている。1968~69年度の羊毛輸出7億9,700万ドルのうち,その30%は日本向け輸出で,日本はオーストラアの羊毛輸出の最大市場となっている。小麦は羊毛に次ぐ輸出品であり,このほか,鉄鉱石(86%は日本)砂糖,酪農品,石炭(96%は日本)なども重要輸出品となっている。
輸入商品のトップは機械類で,1968~69年度の輸入額は14億2,600万ドルに上り,全輸入の42%を占めている。機械類の輸入は年々その増加率を高めているが,これは国内産業の工業化,鉱産資源の開発の進展を反映するものとみられている。その他の主要輸入品としては,化学品,石油製品,繊維製品などをあげることができるが,このうち,化学薬品,プラスチック材料などを中心とする化学品の輸入増加が特に目立っている。
5)国際収支
このように貿易赤字が減少したため,1968~69年度の国際収支は著しく改善された。すなわち,貿易収支の赤字減少のため,経常収支の恒常的な赤字幅は大幅に縮小され,加えて,前年度に引き続いての高い資本流入によって総合収支は1億5,800万ドルの黒字(前年度は8,000万ドルの黒字)を記録した。
貿易収支は通関実績では前述のように,9,700万ドルの赤字(前年度は2億2,000万ドルの赤字)であったが,国際収支ベースでは前年度の2億1,800万ドルの赤字から2,400万ドルの黒字に転換した。貿易外収支は1968~69年度において10億1,500万ドルの赤字となり,前年度よりも1億800万ドルの赤字増加であった。貿易外収支の赤字増大はオーストラリア経済の後進国的体質の特色として指摘されているところであるが,特に1968~69年度は前年度以降に導入した外資(毎年11億ドルないし12億ドル)に対する利潤支払の急激な増加によるものである。しかし,経常収支全体としては前年度の赤字11億2,500万ドルから9億9,100万ドルの赤字に縮少した。また,資本収支では資本の純流入が前年度の12億300万ドルという記録的な高水準には及ばなかったが,それでも11億4,900万ドルという予想外の流入をみたため,総合収支では1億5,800万ドルの黒字となった。
1969年度末における外貨準備高は前年度末より1億7,300万ドル増加して15億1,400万ドルとなった。
こうした国際収支の改善,国内経済活動の増大は,通貨供給高を増加せしめ,その増加率は年々高まっている。
この通貨増加率の上昇は,賃金の上昇によるコスト・プッシュと相まって,インフレ圧力の漸増を示唆するものであろう。
6)オーストラリアの今後の経済見通し
今後の経済見通しについては現在のところ経済が停滞する兆しはない。恐らく今後1年間は現在の上昇傾向がそのまま続くであろうとみられる。
消費,投資とも増加するであろうが,2ヵ年続いた海外資本の流入を次年度も同様に期待することはできないとの懸念も一部ではもたれている。その限りにおいて投資のスローダウンを生じるかも知れない。
輪出見通しは小麦を除いて良好で,特に羊毛,鉄鉱石,機械類の輸出増加がみこまれている。現状でみても1969~70年度初の3ヵ月(7~9月)の輸出は前年同期に比較して19%の著増を示している。輸入は機械類を中心にある程度増大を続けるであろうが,輸入で大きなウェイトを占める軍需品輸入が,予算面で前年度比5%の減少(国防費はこれまで毎年飛躍的に増大)に決定したことも考えると,輸入の増加は小幅に止まるであろう。(7~9月の輸入は前年同期に比べ8%の増加)したがって,貿易収支は黒字基調と予想される。これに対し,貿易外収支は赤字の増加がみこまれるが,この経常収支の赤字を海外資本の流入がどの程度補なうかが,今後の関心事となっている。
オーストラリアは工業化が進んでいるとはいえ,一次産品の輸出国である以上,その経済は相手市場の景気に大きく支配さるという弱点をもっている。この点オーストラリアの経済は70年の世界経済の動きと深い関連をもつであろうが,現状からみて,その見通しは依然明るいものとみられている。
1)生 産
ニュージーランド経済は,牧畜とその関連産業が基調をなしている。1968~69年度(7月~6月)の羊毛生産額(推定)は前年度の1億6,600ニュージーランド・ドル(1ドルは403円20銭)から2億500ドルへと23.5%の著増であった。また肉類(主として羊肉),酪農品,果実,野菜なども生産増加の傾向を示している。
一方,工業化も進み,肉類加工,酪農品などの畜産関係工業,パルプ,製紙,ベニヤ板などの林業関係工業,プラスチック,カゼインなどの化学工業,その他繊維,セメント,機械器具工業なども,小規模ながら増産を続けている。本年4月末の一次産業の労働人口(14万3,000人)が前年同期に比べわずか0.4%の増加に過ぎなかったのに対して,製造業(28万8,000人)が4.4%の増加であったことは,ニュージーランドの工業化を示す一つの指標であろう。労働力人口の分布にみる製造業の内訳は,金属・機械工業が3分の1占めて一番多く,次いで食品加工業,繊維工業の順となっている。
2)雇 用
ニュージーランドの登録失業者数は68年6月末の8.130人から69年6月末には3,579人に急激した。ここにも経済活動の回復をみることができる。なお,求人数はこれと対照に2.096人から3.640人に増加している。
なお,全産業に対する賃金支払高は69年6月に前年同期比6.8%の増加となった。
3)貿 易
次に貿易をみると,1968~69年度の輸出は9億8,700万ドルで,前年度に比較して20.4%の増加であった。一方,輸入は8億9,500万ドルで27.1%の増加であった。輸出に比べ輸入の増加が大きかったため,貿易収支の黒字は前年度の1億5,200万ドルから1億3,800万ドルへとやや減少した。ニュージーランドの主要輸出品は,肉類,酪農品,羊毛,皮革などの畜産品で,この畜産品の輸出は全輸出のちょうど80%を占めている。肉類の輸出は3億900万ドルで最も多く,次いで羊毛は2億1,300万ドルであった。羊毛は価格の上昇と数量の増加によって,前年度比35%の著増であった。
畜産品以外では林業関係品(木材,パルプ,紙)カゼイン,魚介類,果実および野菜の輸出増加が目立っている。また,製造品の輸出は金額こそ少ないが,前年度に比べ39%の大幅増加であった。一方,輸入では,機械類が前年度より32%増加して2億5,300万ドルに達し,全輸入の3分1近くを占めている。これに次いでは,化学品,織物,石油,鉄鋼など主要輸入品として高い増加率を示している。
ニュージーランドの貿易を相手国別にみると,1968~69年度において,輸出ではイギリスが3億8,100万ドルで全輸入の39%(前年度は44%)を占め,次いで,アメリカ,日本,オーストラアの順となっている。イギリスは輸出市場のトップにあるが,肉類,羊毛の輸出不調によって前年度に比べわずか8%の増加に過ぎなかった。これに対し,アメリカ,日本,オーストラリアはそれぞれ24%,29%,32%という大幅な伸びを示した。輸入ではイギリス(2億3,800万ドル)がやはりトップにあって全輸入の30%(前年度は38%)を占めている。対前年度の増加率は26%とかなりの増加であるが,アメリカは51%,日本は40%と一段と高い増加率を示したことは,今後の市場変化の動向の一端を示唆するものとして注目される。
4)国際収支
このような貿易の好調は,国際収支の改善に貢献した。1968~69年度の国際収支ベースによる輸出は前年度より1億6,980万ドル増加して10億2,480万ドルに増加し,一方,輸入は1億3,180万ドル増加して7億7,630万ドルとなった。この輸出超過は貿易外収支の赤字を相殺して,経常収支において6,410万ドルの黒字をもたらした。資本収支については未だ発表されていないが,国際決済銀行などへの短期債務の返済(1億7,600万ドル)などを考慮して若干の赤字をみることも予想されている。
5)ニュージーランドの今後の経済見通し
ムルドーン蔵相は去る6月末1969~70年度の予算案を議会へ提出するに当って「ニュージーランド経済は1967年以来の危機を克服し,最も安定した状態にある」と説明している。
1970年の国際経済は増勢鈍化の兆しがあるにしても,69年後半も,国内の経済活動は好調を続けているので,恐らくこの1年経済の上昇傾向に大きな変化はないであろうとみられている。
ただ,ニュージーランド経済に大きなウェイトをもつ酪農品は,イギリス,EECの需要,オーストラリアの輸出価格に左右されるところが多く,また,羊毛は先進工業国の合繊工業の脅威にさらされているなど,対外要因に深い関係をもつだけに,ニュージーランド経済には宿命的な弱点があることを考慮に入れねばならない。