昭和44年
年次世界経済報告
国際交流の高度化と1970年代の課題
昭和44年12月2日
経済企画庁
第2部 世界経済の発展と国際交流の増大
以上にみてきたように,第二次大戦後,世界各国間の交流は,商品,サービスはもとより,資本,技術,人材,知識など,あらゆる分野においてますますさかんになっており,この傾向はとくに1960年代に入ってから,一層加速化されているように見受けられる。1960年代の経済成長率が,先進国,後進国を問わず,一段と高まったのも,多くの国が成長を重視する政策を採用したばかりでなく,こうした国際間の交流の増大がその一因となったことを否定することはできない。つまり,国際交流の緊密化の進展は,一部の国の繁栄が他の国々に急速に波及する作用をもつし,また,技術,知識,人材の交流を通じて,進んだ技術が短時日の中に世界各地に伝播されるからである。
さらに,このような世界各国相互の依存関係の強化を推進している一つの大きな要因として見逃すことができないのは,国際機関の活動がますます活発化してきていることである。国際連合,世界銀行,国際通貨基金,GATTなど戦後はやくつくられた機関に加え,第87表によるように1960年代に入ってからは経済協力開発機構,その下部機構であるDAC,国際開発協会(IDA),国連開発計画(UNDP)さらに各地域にみられる開発銀行-アジア開銀,米州開銀などが設けられ,国際機関は,その数もかなりふえている。また,これら国際機関の活動も次第に活発化している。国際通貨基金によるS DRの創設は,国際的な通貨,金融の長期的安定と発展を促進しようとする意欲の基本的な成果として注目されるが,また,国連UNCTADやGAT Tによる貿易自由化,OECDによる資本自由化など,商品,資本交流の促進に国際機関の果した役割は大きい。また,OECDによる各国経済政策の調整,情報の交換も,設立10年を経た今日,ようやく具体化の域に達している。
さらに,最近ではEEC委員会による域内通貨調整に関する提案(いわゆるバール提案など)各国の経済政策の調整についての活動も盛んになってきている。
しかしながら,このような経済活動の相互依存関係は,国によって少なからぬ差異があることも事実である。これまでは,主として世界全体として,個々の項目の交流が,どのくらいさかんになったかを検討してきたが,最後に,主要国について,国別に国際的依存度の変化を比較検討してみることにしよう。
もとより,一国の相互依存度関係の程度を数量的に把握するには多くの困難が伴なうし,まして,各国間の比較に耐える厳密な指標を見出すことは容易なことではない。ここでは,日本,アメリカ,イギリス,西ドイツ,フランス,イタリアの6カ国について,①商品貿易,②資本交流,③経済協力,④知識・人材の交流の4項目について,それぞれ若干の指標を選び出し,各国の依存度の大まかな姿と,その特色を検討してみよう。
これは,いわば各国の「国際交流進展度指標」ともいうべきものである。
商品貿易依存度の指標としては,①全商品輸出入額のGNPに対する割合,②工業品輸出額の工業付加価値に対する割合,③工業品輸入額の工業付加価値に対する割合の3つの指標をとり,それぞれについて,1960年の6カ国の単純平均を100とする指数を計算した。ついで,この3つの指数の単純平均によって,第89表に示した。「貿易」に関する世界化進展度の指標を算出した。
これでみると,イギリス,西ドイツ,イタリアなどの貿易依存度は1960年においてすでにかなり高く,しかもその後,1966年にかけてかなり大幅に上昇している。一方,わが国やアメリカの依存度は低く,わが国の場合は余り上昇していない。
もとより,一国の貿易依存度は,国土の大小,資源の賦存状態,国内市場の規模,貿易相手国との地理的距離など多くの要因によって左右され,概して経済規模が大きいほど依存度は低くなる傾向がみられる。しかしながら,このような事情を考慮してもわが国の輸入依存度は主要工業国にくらべて低い。これは輸入制限品が他国にくらべて多いことによるところが少なくない。また工業製品についてみても,わが国の輸入依存度は著しく低位にありしかも多くの国では上昇傾向を示しているのに対して安定していることは注目される。たとえば,1966年について工業品輸入の工業付加価値に対する割合をみると,西欧諸国の21~24%に対して,わが国は18%以上にとどまり,アメリカの6.9%よりも低くなっている。
資本交流については,対外直接投資と対外証券投資およびその国に対する外国からの直接投資と証券投資の,GNPに対する割合を指標としてえらんだ。これを貿易の場合と同様に1960年の6カ国平均を100とする指数で示した。これでみると,1966年で,最も高いのがイギリスであり,ついで,西ドイツ,イタリア アメリカ,フランス,日本の順になる。もっとも日本の場合は,その後,資本面の自由化も進めているので,最近ではかなり高い数値になっているであろうことに留意する必要がある。
ここで,直接投資国の代表ともみられるアメリカの地位が意外に低いのは,第1に,投資の絶対額ではなく,経済規模に対する割合を問題としていること,第2に,対外投資だけでなく,投資の受け入れの額をも対象としているためである。例えば,アメリカの直接対外投資は,44億ドル(1963~67年平均)にのぼり,6カ国全体の79%を占めて圧倒的に高い。しかし,GN Pに対する比率としてみると,0.6%にとどまり,イギリスの0.7%に及ばない。さらに直接投資の受入れ額をみると,西欧諸国では概ねGNPの0.3~0.5%に達しているのに対して,アメリカでは,0.06%にすぎない。
経済協力の指標としては,DAC(開発援助委員会)の資料により,経済協力額のGNPに対する割合を利用した。最近時点(1966~68年平均)についてみると,フランスの1.26%がもっとも高く,ついで西ドイツの0.93%イギリス0.84%イタリア,日本,アメリカの順になっている。フランスやイギリスの経済協力額が大きいのは,一つには旧植民地に対する特殊な関係によるものと考えられ,これを除くと0.7%前後の国が多い。
なお,ここで見逃がせないのは他の諸指標が,全体として1960年代に入って上昇する傾向を示しているのに対して,経済協力については,むしろ低下している点である。6カ国の平均値でみると,1960~61年にはGNPの1.1%に達しているのに対し,最近3カ年では0.86%に低下している。低下の著しいのはフランスとアメリカであるが,その他の国も低下しており,ひとりわが国だけが若干の上昇を示している。
知識,人材などの国際間の交流の程度については,適切な指標を得ることがむずかしいが,ここでは,①海外旅行(支払旅費のGNPに対する割合)と,②国連職員数(人口1①万人当り),③翻訳出版件数,④人口当り外国郵便件数,⑤人口当り外国電報件数,⑤人口当り出版物輸入額の6つの指標で比較してみた。これによると,海外旅費のGNPに対する割合は,西ドイツの1.2%(1963~67年)を筆頭として,西欧諸国が概して高く,地理的に孤立しているアメリカ(0.4%)や日本(0.1%)が低いという傾向がみられる。
1968年,現在の国連専門職員の国連別分布を入ると,総数1908人の中,アメリカの360人がもっとも多く,イギリス131人,フランス111人がこれにつぎ,日本とイタリアが同数の33人となっている。しかし,これを人口100万人当りにしてみると,イギリスの2.4人,フランスの2.2人がもっとも多く,アメリカは1.8人,イタリアは0.6人となり,日本は0.3人ともっとも低い(なお,西ドイツは国連に加盟していないため職員は著しく少ない)。その他国際機関については詳細な数字は入手できないが,欧米諸国にくらべて,日本人職員の数が少ないことは各機関に共通しているようである。
郵便,電報数などについては,西欧諸国間のように互に近接している国では指標が高く出る傾向をもっているが,このような条件に余り左右されないとみられる「翻訳出版件数」件数でみても,西ドイツの3,170件,米独仏の約2,000件に対して,わが国は1,400件で,決して高くないことは注目されよう。
以上,それぞれの項目について,指標の概要と,各国の国際交流の進展状況についてみてきた。個々の指標には,それぞれデータ上の問題や,国の大小,または隣接国の有無などによる若干のバイアスがみられるが,全般的に各国の国際交流の程度を大づかみに把えるためには有用な指標であると思われる。
そこで,上記項目の指標を単純に平均して総合指数を試算してみると,以下の点があげられよう。
まず,国際交流の程度には,国によってかなり大きな差がみられる。国際交流の程度が,1966年においてもっとも高いのは西ドイツ(142)であり,次いでイギリス(135),フランス(116)となっており,アメリカは(79),日本は(49)にとどまっている。このように,国によって大きな差があるのは,或る程度は当然のことといえよう。というのは,国土の大きい国,地理的に主要国から遠くはなれている国は,どうしても,国土が小さく,互に隣接し合っている国にくらべて,国際交流の程度は低くなる傾向があるからである。また,EEC諸国のように,経済統合がすすんでいる国においては,域内諸国との交流は著しくさかんとなり,全体としての国際化進展度も高くなる傾向があるのはいうまでもない。
したがって,ヨーロッパ諸国の水準と,アメリカの水準,さらに日本の水準との間にみられる大きな差のこうした各種の条件のちがいからもたらされた面が大きいことを注意しなければならない。
以上のように各国の水準差には色々問題があるが,ここでもっとも重要なのは,その推移である。指標の推移をみると,ほとんどすべての国について1960年代に入って,かなり顕著な上昇が認められる。とくに上昇率の大きいのは,西ドイツ(12%),アメリカ(11%)日本(11%)の3国であり,イギリス,イタリアでは若干低下している。
このように,世界的な相互依存関係が著しく高まったことが,1960年代の一つ大きな特色として見逃がすことはできない。ことに西ドイツ,アメリカ,日本の上昇はもっとも高く,急速に世界各国との経済相互依存関係が進んできたことを示している。
なお,このよう,な国際交流の進展が,各地における地域化の進行をともないながら実現していることも見逃せない。EEC,EFTA等の地域統合はもとより,たとえば,日本,アメリカ,カナダ,オーストラリア間にみられるように,とくに制度的な措置がとられなくても各国間の経済構造の特性に応じて,一部の国々の間に経済交流がとくに緊密化する傾向も看取される。
といっても,もちろん,こうした動きは世界的な交流関係の緊密化に反するものではなく,原則として,域外に対しても商品,資本交流の自由化を進めながら,域内諸国ではさらに徹底した自由化ないし交流関係を進めようというものであり,世界的な相互依存関係を促進する原因となっている。
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以上のような傾向は1970年代を迎えて,ますます強まろうとしている。このような世界環境の中で,わが国が経済力を一層充実させ,かつそれに相応した国際活動を行なって行くためには,貿易,資本の自由化を推進することはもとより,経済協力の積極化,国際機関活動の充実など,多くの努力が必要であろう。