昭和43年

年次世界経済報告

再編成に直面する世界経済 

昭和43年12月20日

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

第6章 東南アジア

1 1967~69年の経済動向

1967年の東南アジア経済は,欧米工業諸国の景気不振の影響を受けて輸出が66年の増加率を下回ったにもかかわらずインドおよびその周辺諸国の農業生産がいちじるしく好転したこともあって,全体として前年に比べ著しい拡大を示した。

第44表 東南アジア諸国の実質経済成長率

67年下期には先進諸国の経済が景気回復に向ったことに加えて低迷を続けた主要一次産品の価格がやや回復をみせたこともあって,68年にはいると輸出も増勢を示している。鉱工業生産の増加も続き,農業生産も前年並みの豊作が見込まれている。

したがって,68年の東南アジアの経済は全体として前年に引続き拡大を続けることが予想される。

以上のように東南アジア経済は全体として67年から68年にかけて好調な拡大を続けているが,主要国についてみると次の通りである。

65年,66年と二年続いて低迷を続けたインドおよびその周辺諸国の経済は,67年の記録的豊作により経済的停滞から脱し,著しい回復を示した。

他方,台湾,韓国等の工業化諸国も,早魃,台風の被害による農業生産の停滞を反映して経済成長率は若干鈍化したものの,依然として従来の高度成長を維持することができた。これは,この両国の経済構造が一次産品依存から脱皮して農業生産の不振に十分耐え得るほどに工業化を通じて高度化されつつあることを示すものとして注目される。

インドネシア・マレーシアおよびタイ等の一次産品輸出国の経済は主要一次産品の価格が低迷したため停滞を余儀なくされた。

以上みてきたように,67年の東南アジア経済は全体として拡大したが,それと同時にインドおよびその周辺諸国の経済のいちじるしい回復により従来この地域の不振グループと見なされていたこれらの国と台湾・韓国・タイ等の工業化諸国の経済成長率の格差は,後者が農業生産の不振によりその成長の速度をやや落したこともあって縮小の傾向を示した。

このような67年の東南アジア諸国の経済の成長率の格差の縮小の主因は農業生産の回復にあるが,この農業生産の回復には各国の食糧増産努力の成果が大きく寄与しているものの,天候が順調であったという自然的条件が最も大きく影響しているので,この傾向が今後も持続すると見るのは問題があろう。

また,東南アジアの67年の経済動向を鉱工業生産,貿易,物価等の主要部門についてみると,まず農業生産は世界全体の増加率が前年比で,3%増であったのに対し,東南アジア全体の食糧生産の増加率はこれを上廻り,6.1%と過去最高の伸びを記録した。この増加率の上昇はインドおよびその周辺諸国の二年続きの凶作からの回復を示すものであるが,豊作であった64年に比でても6.8%増であった。

しかしながら,東南アジアの一人当り食糧生産量は前年に比べ著しく改善されたものの,豊作であった64年の水準まで達してはいない。

鉱工業生産は,前年に比べて67年はその伸びが若干鈍化したが,これはこの地域の鉱業・電気ガス部門における生産の伸びが著しかったにも拘わらず,製造業部門における伸びが著しく低下したためであった。

特に,この地域の全工業生産の5分の1を占めるインド・パキスタンの2国において農業生産の回復が工業部門にまで及ばず,この両国の工業の生産の伸びが低かったことが大きく影響している。

貿易面においては,輸入の増加率が8.2%と著しく高まったのに対し,輸出が2.9%と例年を下回ったため,貿易収支の赤字は増大した。

輸入の増加が著しかったのは,東南アジア諸国の経済活動が全体として高水準に推移したこと,また,輸入自由化に沿った政策の促進ということ等が主因となっている。

このような貿易収支の悪化にもかかわらず金外貨準備は引続き増加傾向を示しているが(68年第2四半期末42億ドル),これは先進国からの援助およびベトナム戦争に関連するサービスの提供による貿易外収入の増大も大きな要因となっているものと見られる。

次いで,東南アジアの物価動向を見ると,農業生産とくに穀物生産の増加を主因として騰勢がやや鈍化したが,68年にはいり韓国,台湾のように再び物価が騰勢を強めた国がでてきた。インドでは食糧の増産にもかかわらず食料品の価格があまり下がらなかった。インドネシアでは,政府の黒字予算を中心とするデフレ政策により物価上昇は著しく弱まったようである。一方韓国の68年にはいってからの物価騰貴は目立っている。

このように,東南アジア諸国の多くの国が物価騰貴に悩まされており,68年にはいって,これを抑制するため財政・金融政策が強化されているにもかかわらず,全体として見た場合,インフレ傾向は強まったものと見られる。

68年の東南アジア経済は,農業生産が前年並みの豊作が予想されていること,農業生産の回復により鉱工業生産が増加のテンポを速めていること,欧米先進諸国の景気回復に伴い輸出が増勢にあること,などもあって前年に引続き拡大基調が持続することが予想される。

第54図 東南アジアの主要経済指標

2 各国の経済動向

(1) インド

二年続きの凶作に悩まされてきたインドは67年に入り記録的な豊作にめぐまれた。この豊作は天候が順調であったことが主因であるが,肥料の使用,新品種の導入等の,食糧増産努力の成果も大きく寄与しているといわれている。67/68年の同国の食糧生産は9,500万トンと前年度を20%以上も上回った。今年度の食糧生産は,天候に恵まれない地方が出てきたため,前年度の水準に推移することが予想されている。この記録的な豊作により同国の67年度の経済成長率(実質)は9%と前年の2%を大きく上回った。しかしながら1人当り国民所得は64/65年のレベルには達しなかった。

以上のような農業部門の好況は工業部門に波及するに至らなかったが(67年の工業生産は前年比で1.8%増),68年にはいり工業生産は上昇の兆しを見せている。68年1~4月の工業生産は前年同期に比べ6%増であり,この増加は肥料と石油製品部門が主であった。しかしながら,このような工業部門の上昇基調が今後継続するかどうかには疑問がもたれている。まず第1に,援助が68年度は減少するものと見られており,工業用原材料の輸入がこの面より抑制されることが予想されること,第2に農業生産が前年に比べ著しい増産が期待できないこと等が工業部門におけるこの上昇基調を阻害する要因となることが懸念されている。

豊作にもかかわらず,物価は食料価格を中心に上昇傾向を示した。これは食糧の予想以上の退蔵,食糧政策に問題があること等の他,政府の赤字財政信用の膨張等が大きく影響しているが,農業部門の需要が増加したにもかかわらず,工業生産が大分伸びなやんだことも物価上昇の原因となっているものと見られる。

問題の貿易収支の赤字は前年に比べ若干拡大したが,これは輸入の増加率(対前年比24%)が輸出の増加率(22%)を上回ったためであった。68年第2四半期にはいり輸出は増勢に転じており,前年同期を14%上廻る伸びを示した。

第55図 インドの貿易と金外貨準備

この輸出の伸びはインドの伝統的輸出商品であるジュート,茶等によるものではなく,機械製品を中心とするものであった。この輸出増加により,67年度(6~5月)の輸出は,前年度に比べ5.5%増となった。

第45表 インドの主要経済指標

同国政府は67年度の経済回復を足掛りとして,今年度は1億2百万トン(対前年度7%増)の食糧生産と5~6%の工業生産の伸びを前提に,年間約5%の経済成長を目標にしている。この目標を達成するために農業部門が重視されており,高収量品種の導入,肥料使用量の増大,トラクター等の農機具の使用等の「農業革命」が積極的に進められている。

工業部門については,政府は豊作による所得増大が工業部門に波及することによって民間投資が増大することを期待しており,財政投融資は,遊休設備の活用,肥料,トラクター,ヂーゼルエンジン部門等の最優先部門に限定している。

このような政策の目標を達成出来るかどうかは,今年度の農業生産と工業部門の回復にかかっているが,農業生産については地方によっては天候に恵まれない地域が出てきたため,食糧生産は政府の目標を下回るものと見られている。これに加えて,援助の先行きも暗く,インド経済の今後の動向に悪影響を及ぼす要因も多い。

67年には上に述べたようにインド経済は著しい回復を示したが,インドが持続的な経済成長の過程を歩みはじめるには,漫性的外貨危機,非近代的社会関係等障害が多く,長期的,構造的な成長を遂げるには解決されなければならない幾多の問題がある。

(2) パキスタン

パキスタン政府の発表によれぱ,67/68年の同国の国民総生産の成長率(実質)は8.3%に達し,前年度の成長率5.O%を上回るものであった。この結果,第3次5ヵ年計画の3年間の平均成長率は9.O%となり,計画の6.5%をほぼ達成出来た。

第46表 パキスタンの主要経済指標

この経済拡大の主因は農業生産が著増したことにある。政府は,この増産を可能にした要因として灌漑設備の充実,改良種子の導入,化学肥料の使用,良好な気象条件等をあげているが,天候に恵まれたことが最も大きな要因であると見られている。

他方,工業生産は前年度に比べ,67/68年は10%の伸びを示した。65年9月の印パ紛争によって遅れていた外国援助が66年以降順調に入ってきたことが,この工業生産上昇の要因であった。また,輸出産業および農業関連産業に投資の重点が置かれていることは注目に価するであろう。

このような生産面における順調な伸びは,政府の引締政策が功を奏し通貨量が昨年5月以来増加していないこととあいまって,物価安定に著しく寄与した。卸売物価は68年第1四半期以来一貫して低下傾向を示しており,68年第1四半期は前年同期と比べて約8%の低下となった。

第56図 パキスタンの貿易と金外貨準備

輸出はスエズ運河閉鎖,主要輸出品目の価格低落(ジュートは1年間に20%下落)ポンド切下げがあったにもかわわらず67年度には14%の増加を示した。しかしながら,パキスタン輸出の40%以上を占めるジュート,原綿の国際価格が低迷しているので,輸出の見通しは決して明るくはない。

この3月パキスタンを訪問した世銀調査団およびアメリカ財界使節団の報告書は,同国経済を「後進国における経済開発のモデル」と評価しているが,同国の公共投資の大半が外国援助に依存していること,および貿易赤字の大部分が外国援助で補われているのが現実である。このように同国の経済が外国からの援助に大きく依存しているために生ずる経済上の不安定性には著しいものがあり,パキスタン経済の今後の動向は国際情勢の変化に大きく左右されるであろう。

(3) タ  イ

1967年はタイ経済にとって不況の年であった。これは国内総生産の35%を占める農業部門の不振が大きく響いたためである。天候不順により,農業生産は全体で約2.5%減収したものと推定されている。この農業生産の不振の情況を67年の各産品の輸出量で見ると,米が前年比で3%減,とうもろこしが同じく8.8%減,ケナフが3.1%減であった。他方,ゴムとタピオカは増収を示した。(68年もかんばつにより農業生産は引続き減産が予想されている。)このような農業部門の不振により,タイの67年の国内總生産の伸びは前年を大きく下回り,約4.6%(実質)であった。

食糧不足により米価が騰貴したため消費者物価は前年に比べ4.3%上昇した。

67年の鉱工業投資は非常に活発であった。67年中に投資委員会は108のプロジェクトに対し奨励証(Promotion Certificates)を与えたが,これは前年の3倍となった。この半数以上の56件が,100%タイ企業であり,残りの52件が外国資本との合併あるいは100%外国資本によるものであった。これらのプロジェクに必要な資金の大部分は国外で調達され,タイ国内の調達はわずかであることが示しているようにタイは多国資本を積極的に導入することによってその工業化を進めている。

タイの産業の中でも最近著しい伸長を遂げているものの一つに観光産業があり,同国の高度成長の大きな支えとなっている。同国の観光収入は67年は対前年比で24%と大巾な上昇を示した。この観光収入の大部分はアメリカの旅行客や軍人によるものであるが,アメリカのドル防衛,ベトナム平和によりタイを訪れる観光客,軍人の減少が懸念されている。

貿易収支は前年に比べ著しい赤字を示した(前年比50%増),この貿易収支の悪化は農業生産の減産により輸出がほとんど伸びなかった(前年比11%増),反面,輸入が12.4%増加したことによる。

輸出額が減少した品目はゴム(前年比16%減)ケナフ(45%減)とうもろこし(11%減)等であった。ゴムの輸出量は3%増加したが価格が著しく低下したので,輸出額は逆に減少した。これと対照的に米については輸出量が3%程度減少したがその輸出価格が上昇したために輸出額は,17%増加を示した。タピオカの輸出額は17%と大きく伸びた。

この貿易収支上の赤字はベトナム特需,援助や外国民間資本の流入により資本収支の黒字が拡大し相殺されて余りあり金外貨準備は大きく増加し,年末で10億ドルの水準となった。

また,このような高水準の金外貨準備を中心とする良好な投資環境を背景にアジア開発銀行の第1回目の500万ドルの融資がタイの民間融資機関になされ,発電所,ハイウエー建設に関する融資について世銀と交渉中であり,今後も工業化のための外国資本の流入は続くであろう。

第47表 タイの国際収支

第57図 タイの貿易と全外貨準備

(4) マレーシア

マレーシア経済の貿易依存度は非常に高く,ゴム錫,木材等の第一次産品を中心とする輸出による所得が国民総生産の約4割を占めているが,ゴム,スズ,鉄鉱石等の伝統的輸出商品の価格が長期にわたり低迷しているため,マレーシアはその輸出商品の多角化に努力している。輸出商品多角化については木材(5年間で輸出額2倍)パームオイル(同じく1.7倍)に重点を置いており,年々その輸出量は増加してきている。

ゴム,錫,鉄鉱石等の同国の伝統的輸出商品の国際相場が下落したため,67年に輸出産品の生産量は増加したにもかかわらず,マレーシアの総輸出額は前年に比べ3.2%の減少を示した。この輸出額の減少が大きく影響し67年の実質経済成長率は66年に比べ若干落ちたものと見られている。

第58図 マレーシアの貿易と金外貨準備

総資本形成は61年以降国民総生産の18~19%(名目)を推移しているが,民間資本が3分の2以上を占めている67年は不況を反映して政府部門の投資が前年に比べ2.3%増加したにもかかわらず民間投資が4.3%減少したために全体として前年比1.8%減であった。

5ヵ年計画の2年目において,マレーシア経済は不況に遭遇したことから,その目標達成を危ぶむ向きも多い。計画の当初2年間で全公共投資目標の37%を達成されたものと推定されているが,全公共投資の4分の1を占める農業部門については目標の31%を達成したにすぎなかった。このように計画が遅れている1つの原因は全公共投資の約4割を占める海外からの援助が予想より少なかったことが大きく影響している。

民間投資は67年には若干減少した。マレーシアは鉱工業部門の投資は民間投資によって賄う方針をとっているが,海外からの民間投資の流れは減少する傾向にあるので,政府は昨年末新しい投資奨励法を制定し,外資流入の増大に努めている。

マレーシア政府は,国際協力を通じてゴム,スズ等の一次産品の価格安定を計ると共に,補助金による灌漑,肥料利用の増加,栽培技術および加工技術の改善,販売,信用機構の改善による輸出産品の生産性向上について努力している。

パームオイルについては,世銀借款によりジェンカ三角地域の開拓が促進されることになっており,この計画が完成すればパームオイルの輸出は大巾に伸びることが期待されている。

第48表 マレーシアの輸出

また,その輸出を促進するために,マレーシアはEECに対して接近をはかった。

マレーシアが直面する大きな問題として英軍の撤退がある。英駐留軍支出は昨年は4億5千万マレーシアドルと推定されているが,これが1971年までに年々減少していくとすればマレーシア経済は深刻な不況に見舞われることが予想される。特に英軍撤退による駐留軍労働者の失業は大きな社会問題となるであろう。同国政府は英軍支出に代えて公共,民間投資および軍事支出を増大させることによりこの事態に対処しようとしており,この資金の大部分は海外で調達されることが計画されている。

なお,68年のマレーシア経済は,ゴム,錫の価格がやや回復してきているので,前年の停滞を脱しやや拡大するものと見られている。

(5) フィリピン

ココナツ,木材の輸出量の尊少によりフブ,リピンの67年9輸出額は前年に比べ5.5減少した。ココナツの減産は台風1の被害によるものであり,木材については資源保護のために輸出量を制限したためである。輸出総額のうちココナツ,砂糖,ヘンプ木材の4商品で約7割を占め,全輸出に占める工業製品のシェアは小さい。最近,パイナップル,合板がその重要性を増しつつあるが,同国の輸出に占める一次産品のシェアは依然圧倒的である。これと対照的に輸入は前年に比べ22%増加したが,この輸入増加は67年前半期の信用緩和による原材料および米を中心とする消費財輸入が中心であった。輸入の60%以上が未加工もしくは半加工の工業原材料である。このような輸出減少と輸入増加から貿易赤字は前年比で36%悪化したが,IMF借入れ短期資本の流入等,資本支出の好転が外貨準備の急激な悪化を防いだ。

第59図 フィリピンの貿易と金外貨準備

このように輸出が頭打ちとなったにも拘わらず,経済は活発に拡大したものとみられており,NEC(National Economic Council)の発表によれは67年の実質経済成長率は5.3%と政府目標(5.6%)を若干下回ったものの貿易収支が悪化したわりには著しい伸びを示した。農業生産は前年に比べ5.1%,工業生産は5.5%と比較的順調な伸びを示したが,この農業生産の増加は主として内需に向けられ輸出の増大とは結びつかなかった。

昨年6月と10月にとられた市中銀行の信用供与に対する規制が実施されたにも拘わらず,市中銀行を中心に通貨量は著しく増大し,67年第4四半期には前期に比べ約14%増加した。この通貨量の増大も68年に入ってから鎮静化の傾向を示しているが,これは3月に実施された法定準備率および,中央銀行再割引率の引上げ等の政府が打出した一連の金融引締政策の効果が出てきたためである。物価も上期に若干下ったが,これはこの時期に税収がピーク時をむかえる等季節的要因のほか上にのべた政府の引締政策が大きく影響している。1~5月の期間に消費者物価指数は1.9%下った68年上半期の輸出は前年同期に比べ約7%増加を示した。68年にはフィリピン経済は,このようなる引き締政策の結果,その成長のテンポをゆるめることが懸念されている。

第49表 フィリピンの主要経済指標

(6) 中国(台湾)

67年の台湾経済は拡大を続け,その経済成長率は実質で8.9%に達した。

この成長率は66年の実績9.4%を若干下回ったが,第4次4ヵ年経済開発計画の目標(7%)を上回るものであった。1人当り所得も約上昇した。

第60図 中国(台湾)の貿易と金外貨準備

この高度成長を導き出したのは,製造業部門における増産(前年比18.2%増)であった。

国内,海外市場における活発な需要増大を反映して,鉱工業生産指数は前年に比べ17.5%増加した。特に製造業部門における伸びは著しく,中でも運搬機具,電気機械,電気器具,金属,非鉄金属,化学品等の耐久財の生産が大きく伸び,資本集約的な高度の技術を要する部門のシェアが増大した。

第61図 中国(台湾)の輸出商品構成の変化

このような工業部門の伸長に対し,農業部門は不振で農業生産の伸びは前年を若干下回る5.6%にとどまった。畜産業および林業は順調な伸びを示したのに対し,農産物の生産が前年の伸びを著しく下回ったためである(前年比で2.6%増)。

これは国際砂糖市場価格の低迷による砂糖きびの減産(前年比23.3%減),台風による米の収穫がほとんど伸びなかったことによる。

輸出は,67年には16%増と,66年並の伸びを示した。主要輸出産品の砂糖,米の輸出が伸びなかったにも拘わらず,このように輸出が全体として伸びたのは工業製品輸出の急速な拡大(前年比23.3%)によるものであった。全輸出額に占める工業製品輸出のシェアは66年の55%から60%へと上昇しており,製品輸出を中心に同国の輸出構成は政府の政策的努力もあって,多様化を一歩進めたということができるであろう。

第50表 中国(台湾)の主要経済指標

他方,67年の輸入の前年に比べ40%の増加を示したが,この増加は資本財及び原材料を中心とするものでこの両者で全輸入額の92%を占めている。

このような輸出入動向を反映して貿易収支は著しく悪化したが,資本収支が好転したため総合収支は66年に比較して改善され,金外貨準備は増加した。

経済の拡大を反映して,通貨量は銀行貸出しを中心に大幅な膨張を示したが,物価の安定は67年中は続いた。

68年に入ってから第1四半期の同国経済の伸びは若干鈍化傾向を示したが,第2四半期には再び従来の成長を回復した結果68年上期全体としては前年同期と同程度の伸びを続けているものと推定されている。特に工業生産は前年同期比17,8%の上昇を示したが,電機および電気器具部門の伸びが目覚ましく,次いでゴム製品,機械部門の増産が目立っている。

68年上半期における貿易面も好調で,輸出が前年同期比11%増と著しく増加基調を示したのに対し,輸入は2%増に止った。

このように中国(台湾)経済は68年にはいっても高成長を持続するものと見られているが,問題となるのは68年にはいってから通貨量の増勢が著しく,これが物価騰貴の一因となっていることである。この通貨膨張は銀行信用の拡大にあり,通貨量は,68年上期に前年同期比29%の増加を示し,卸売物価の上昇は小幅であったが,消費者物価は同じく48%増と上昇し過去7ヵ年における最高を示した。中国(台湾)経済が安定的に拡大を続けるためには,この面でなんらかの対策が講じられることが要請されるであろう。

台湾政府は第5次4ヶ年計画(1967~72)の大綱を公表したが,これによると投資総額は4500百万米ドルと第4次4ヶ年計画の投資額を大幅に上廻っており,投資計画の重点は一貫製鉄所および化学プラントを中心とする重化学工業およびインフラストラクチアー部門に置かれている。

このように重化学工業およびインフラストラクチアー部門に投資の重点が置かれているために,年間の目標経済成長率は1965~68年の実績9%を若干下廻る7%となっており,同じく,農業生産,鉱工業生産の年間目標伸び率はそれぞれ4.5%,13%と第4次4ヶ年計画の実績を下廻っている。

(7) 韓  国

韓国経済は63年以来予想以上の経済成長を遂げたが,これは設備・公共投資の拡大と輸出の著しい伸びを基礎とするものであった。援助およびベトナム特需の果した役割も大きい。67年も前年比87%増(実質)と高度成長を維持し,68年にはいってもこの基調に変りがない。

又,1人当り国民所得も5.9%の伸びを示した。

第62図 韓国の貿易と金外貨準備

このような経済の順調な成長を背景に,政府は第2次5ヵ年計画の拡大修正の方針を決定した。67年には,経済成長のテンポは若干落ちたが,これは干魅によって農業生産が6.1%減であったことが大きく影響している。

このような農業部門の不振にも拘らず,同国が高度成長を持続し得たのは,輸出と内需の増大を背景として工業生産を中心に鉱工業生産め伸び率が23%と高い水率を維持したためである。

製造業の中では繊維工業,食料品関係の比率が大きいが,肥料,精油,セメント,電気機械器具,輸送用機械器具(自動車,造船等)合板等の増加率が大きく,工業生産部門における高度化,多角化への進展は著しい。

農業部門においては,政府の増産政策にも拘らず食糧自給を達成するまでには至っていない。

ここ数年,食糧不足量は,50万トン前後に達し,この不足はもっぱらアメリカの援助によって賄われてきたが,68年は67年の南部地方の早魃による減収のため約100万トン程度の食糧を輸入せざるを得ない状況である。さらに68年にはいってからも67年に引続く早醜で減収が予想されている。

輸出の順調な伸びも韓国経済が高度の成長を持続している大きな要因となっているが,ベトナム特需のほか政府の輸出振與の政策的要因も大きい。67年に輸出は前年比28%増加した。輸出の産業別内訳では工業製品が69%と大きなウエイトを占め,水産物(15%),鉱産物(11%)がこれに次いでいる。

商品別では合板(36百万ドル)内衣(15百万ドル),生糸(15百万ドル),綿織物,鮮魚の順になっている。

第63図 韓国の崖業構造の変化

他方,輸入の増加も著しく前年比で39%増加した。この輸入の増勢は68年に入ってからも続き上期の輸入額を前年同期と比較すると58%増と非常な高水準を維持している。この輸入の増勢は,67年下期より実施した輸入の自由化(ネガテイブリスト制の,採用),社会間接部門,工業部門の建設投資の活発化を中心とした国内需要の増大によるものと見られている。

このような輸入の増加にもかかわらず,外貨準備は長短期の外資流入により約1億ドル増加した。67年中に通貨量は43%(対前年)増加したが,工業生産,輸入が著しく増大したため,卸売物価の上昇は6.4%増に止った。

しかしながら,物価は,68年にはいって,再び上昇傾向を示している。

この物価の上昇は,2年続きの南部地方の早魃による食糧不足,税法改定による物品税,酒税,石油類税の引き上げ等が大きな要因となっている。

しかしながらこのように上昇基調にある物価も第2四半期に入って,輸入の域大および政府米の放出により,鈍化傾向を示してきている。

以上のべたように韓国経済はいろいろな問題を含みながらも高度成長を持続していくことが予想さね,ベトナム戦争の動向による先行不安が一応懸念されるものの,68年の韓国経済も拡大基調を続けた。

第51表 韓国の主要経済指標

(8) インドネシア

インドネシア経済は,67年に自然災害にもとずく農業減産とゴム,錫等の主要輸出品の価格の低落に見舞われたが,このような悪条件にもかかわらず物価は安定した。65,66年には物価は対前年比で約6倍の騰貴を示したが,67年は1.2倍の上昇に止った。このインフレ終熄の傾向は政府が均衡予算を堅持したことが大きく影響しているが,2億ドルの外国借款がこの均衡予算の達成に重要な役割を演じたことも見逃すことは出来ないであろう。

第52表 インドネシアの主要経済指標

金融引締めも行なわれ,それに伴い政策の深刻化により,工業生産には鈍化傾向が見られた。この鈍化傾向は,上記のデフレ政策の他,設備の老朽化,公共設備の不整備によるところも大きい。

1968年の予算案は完全均衡型となっており,主要な財源としては外国からの借款による収入と税収の増加をあげている。

この予算案の中で注目されるのは経常支出を削減し,開発支出を増加していることである。従って,全予算に占る電力,運輸部門等の開発支出の割合が66年の20%から67年には30%へ増加した。

第53表 インドネシアの財政収支

69年より実施される5ヵ年計画は,食糧自給体制の確立,農業関連基盤施設の整備,資源開発農業関連工業の発展等に重点を置いたものであり,インフレ抑制の観点から開発支出の削減と税制の大幅な改革を含んだものと伝えられている。

このような着実なインドネシア経済復興への努力は関係諸国の注目と大きな関心を受けている。

インフレ要因はまだ完全に終憶せず,輸出,工業生産も停滞的であるが,長期的なインフラストラクチュアの整備に重点をおく政府の地道な努力はインフレ抑制をはじめかなりの成果を収めることが期待されている。

このようなインドネシア政府の地道な努力が奏功し,翌年からの5ヵ年計画が順調にスタートするためには,充分が援助の確保が必要条件であると考えるであろう。

3 今後の問題

今後の東南アジア等の経済を展望する上で重要な意義をもつものとして第2回国連貿易開発会議の(UNCTAD)の開催とベトナム和平の影響がある。

(1) 第2回国連貿易開発会議

第2回国連貿易開発会議は,加盟121ヵ国の代表,各種国際機関のオブザーバーを含め,約2000名が参加し,2月1日から3月29日まで58日間にわたり,ニューデリーにおいて開催された。

いわゆる南北間の格差の縮少をめぐって,援助問題,特恵問題第一次産品問題等について,各委員会に分れて先進国側と低開発国側との間に熱心な討議が行なわれた。ドル不安による金プール制の停止等国際経済状勢の悪化も反映し,会議はかなり難航をつづけたが,援助問題,特恵問題等の主要議題について,多くの留保や今後の検討にまつべき項目を含みつつも,大略以下のような決議が採択された。

1) 援助問題

援助量については,従来の国民所得の1%を国民総生産の1%に引上げることを努力目標とすることとし,多くの先進国は援助の75%以上を政府べースで行なうよう努力する用意がある旨の意向を表明した。援助問題にはこのように一応の努力目標を掲げながらも,各先進国の固有の立場を併記して明確なコミットメントを回避する形がとられている。

2) 特恵問題

特恵問題については,先進国と低開発国との利害が鋭く対立し,さらに低開発国相互間にも微妙な見解の相違があって,議事は難航した。農産加工品を工業製品,半製品と同様,特恵の対象に含めるかどうか,輸出の負担の公平,切下幅等については結を得ることができず,これらの諸問題については,貿易開発理事会の下部機関として特恵特別委員会および作業部会を設置し,ここで討議することとし,一般的特恵制度の早期設立が合意されるに留まった。

3) 一次産品問題

一次産品中の砂糖,ココア等19品目について商品協定交渉の再開および国際機関による研究の推進等についての5決議が成立しただけで,貿易自由化緩衝在庫,合成品代替品問題等の重要問題は今後貿易開発理事会の検討に委ねられることとなった。

以上のように,第2回国連貿易開発会議は援助特恵問題等で前進をみたが,重要問題の多くは今後の具体的検討に委ねられることとなった。これはこのような会議の性格からいってやむを得ないところで,南北問題についての相互理解の場としての本会議の成果は十分許価されるべきで,今後の低開発国の諸問題の解決も本会議における基礎的討議の趣旨に沿って進められることとなろう。

(2) ベトナム和平の東南アジア経済の影響

最終的にベトナム和平が成立し,戦後処理が確定するまでにはまだかなりの長い時間を必要とするものと思われるが,ベトナム和平が東南アジア経済にどのような影響を及ぼすかは,東南アジア諸国にとって今や最大の関心事の一つとなっている。

1) ベトナム戦争の東南アジア経済に及ぼす影響

ベトナム戦争がベトナム周辺諸国,すなわち,日本を含めて中国(台湾)韓国,フイリピン,マレイシア,シンガポール等の諸国にたいしてベトナム特需,経済援助という形で,輸出および貿易外収支に顕著な変動をもたらしてきたのは,アメリカのベトナムにたいする軍事介入が積極化してきた63,64年後からである。その後ベトナム特需は国ごとに若干の相互はあっても,これらベトナム周辺諸国の経済に少なからぬ影響を及ぼして今田にいたっている。

第54表 に示すように,ベトナム向け輸出シエアが比較的高いのはシンガポール,中国(台湾)で8~10%を占めている。これにたいして韓国は65年をピークとしてベトナム向け輸出額およびシエアは急速な低下をみせてきているが,中国(台湾)も67年以降同様に低下しており,これはバイ・アメリカン政策の影響によるものである。

またこれら諸国のベトナム特需関係貿易外収支の最近の動向をみると 第55表 のとおり66年から67年にかけて各国とも急激な増加を示している。とくに貿易外収支の大きいのは,タイ,韓国,フイリッピンで,これらの諸国は輸出特需は小さく,米軍駐留関係,派兵送金,帰休旅行等による貿易外収支がベトナム特需の主要部分を形成してぃることが注目される。

ベトナム特需収入は多かれ少かれこれらのベトナム周辺諸国の経済の発展に影響を与えたが,とくに中国(台湾),韓国,タイの経済成長を促進してきたといわれている。中国(台湾),韓国の産業構造の高度化と安定的高成長にはたしたベトナム特需の促進的効果はかなり大きいものであることは, 第56表 に示すように,セメント,建築資材,関係のベトナム向け輸出の総輸出に占める,シエアが50~100%と圧倒的に高くなっていることからも首肯できるが,60年代に入ってからの両国のインフラ・ストラクチャーの整備を中心とする近代化基盤の整備と積極的な輸出工業化努力が主要因をなしている。たまたべトナム特需がタイミングよくこれらの成長要因に刺激的効果をもたらしたのであり,ベトナム特需を両国のライク,オフの主要因とみる意見もあるが,これは疑問である。

2) ベトナム平和の影響

ベトナム平和の影響は,長期的にはアメリカ経済におけるインフレ要因の激化を仰制し,収支の赤字増大圧力を大幅に緩和し,世界経済の動向にも好影響をもたらすものとみられているが,ベトナム戦争の影響を直接に受けてきたベトナム周辺諸国をはじめとする東南アジア経済に及ぼす影響には幾多の深刻な問題が含まれるものとみられる。

ベトナム平和成立後におけるアメリカの対外政策はニクソン新政権の設立により保護主義的国内優位の政策が強化されるものとみられ,アメリカの東南アジア政策も東南アジア諸国の自主性を中心とした重点的選択的なものとならざるを得ないであろうし,軍事経済援助の消減をはじめとして大きな転換が予測される。しかし,一方では,従来相つぐ戦乱と政治的対立のより広域的で長期にわたる経済開発計画の樹立が不可能で,経済開発の谷間であった。

インドシナ地域のおいて,メコン川流域総合開発を中心とする大規模プランの実施やアジア,ハイウエーの提案があり,戦災復興とあわせて,東南アジア経済の発展に大きな進展をもたらすことになろう。しかしメコン流域開発計画は総額で約10億ドルで,年間ベトナム関係国際収支赤字15億ドル周辺諸国のベトナム特需を支える要因となっていた点からみると,これにベトナム特需の代替的効果を期待するのには若干無理があろう。これらの点から太平洋先進国の多角的援助方式の必要性がアメリカ議会でも論議され,わが国をはじめ関係国でも広域経済圏の確立を通じて東南アジア地域にたいする公共,民間投資の効果的推進が検討されつつあるのは大いに有意義といえよう。このような地域協力と大規模開発プランの推進とによって,長期的にベトナム周辺諸国をはじめとする東南アジア経済の安定成長が期待されるとしても,これらの和平後の需要パターンとベトナム特需パターンには大きな変化があるものと予測される。

またこのような長期的影響のほかに,ベトナム周辺諸国にとって問題なのは,ベトナム和平成立後の需要パータンに適応するまでの一時的ショックをどう処理するか,またそのショックがどの程度のものかという点である。ベトナム周辺諸国は 第57表 にみるようにかなり豊富な外貨準備を蓄積してきており,一時的ショックに耐え得るだけの経済的浮揚力をつけてきている向きも多い。しかし,これは,ベトナム和平後のアジアの諸情勢,ベトナム和平の方式,成立時間にも左右されると同時に,それぞれの国の輸出競争力,外貨準備にたいするベトナム特需の寄与率や特需の内容等にも大きく関係している。

この点からベトナム周辺諸国にたいするベトナム和平の経済的影響をみると 第58表 のとおり,韓国の特需は貿易外収支に大きく依存しているため,和平成立によってかなりの影響をうける可能性があり,急速に経済構造の高度化を実現している韓国経済がどのようにベトナム和平後の状況に対応してゆくかが注目されよう。貿易外収支に激変があった場合,これを輸出その他の面でカバーする必要に迫られることとなろうが,さきにみたように,韓国は主要工業品目でベトナム向け輸出シエアが70~100%に達するものが多く,その輸出先の転換に加えて,輸出量の大幅増大という二重の困難に直面することが懸念される。

同様な問題は,韓国と同様,外貨準備に占める貿易外収支特需のシエアが大きいフィリピンについても予測されるが,最近におけるフイリピンの経済構造面における近代化の努力がどの程度までベトナム・ショックをカバーし得るかが注目される。

程度の差はあれ,ベトナム周辺諸国中66,67年貿易外収支特需が最大であるタイについても,深刻な間頭となろう。

この点シンガポール,中国(台湾)等ベトナム向け輸出シエアが高い国はもともと輸出指向性のつよい経済体質を有しているため,和平成立後の需要パターンにたいする適応は以上の諸国にくらべて比較的スムーズに行なわれるものと考えられるが,シンガポールについては,71年までに予定される英駐留軍の撤退等ベトナム以外の諸要因とのからみ合いを通じての影響を懸念する向きもある。

中国(台湾)は特需面では貿易外収支の方が大きいため,和平による貿易外収支の不安定化が一応懸念されるが,その外貨準備にたいするシエアは約1割で小さい上,輸出依存度も高く,近年貿易の多角化が急速に推進されているところから,ベトナム・ショックの影響を十分に分散して,安定成長を持続してゆくであろうと予測される。肥料,型鋼等をはじめ主要工業品のベトナム向け輸出シエアは高いが,この面における弾力的な適応は十分可能であろうし,懸念される貿易外収支特需も若干の変動はあっても,モのショックの吸収は比較的スムーズに行なわれるであろう。

ベトナム和平により,東南アジア経済は,とくにベトナム周辺諸国における戦争特需の終熄と平和経済にたいしる適応過程を通じて,一つの転機を迎えるものとみられるが,アメリカのアジア政策の転換とも関連して,ベトナム和平後の東南アジア経済における日本経済の役割が,域内貿易,地域経済協力の面で重視されてきている。