昭和42年

年次世界経済報告

世界景気安定への道

昭和42年12月19日

経済企画庁


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第1部 1966~67年の世界経済

第1章 世界経済の現況

1967年の世界経済をとりまく諸情勢は,近年になく目まぐるしい動きを示した。

ベトナム戦争が依然継続したほか,中東戦争の勃発とその後のスエズ運河閉鎖,中国における文化大革命の進展など,政情不安を反映したもろもろのできごとが起り,世界諸国の経済や貿易に対してかなりの影響を及ぼした。

一方において,ケネディ・ラウンドによる工業国を中心とした関税一括引下げ交渉の妥結や,国際流動性増強問題に関する各国の合意成立など,世界経済の将来体制の大きな前進のために画期的な意義をもった多国間交渉が結実した。ケネディ・ラウンドといい,国際流動性問題といい,世界経済の発展のための各国の過去数ヵ年にわたる努力の成功を物語るものである。ケネディ・ラウンドは,当初の関税引下げ目標よりはいくぶん後退したが,戦後最大の規模の関税引下げ交渉の成功を示すものであって,68年以降の世界貿易の拡大にとって有力な刺激効果となることは確かである。工業国間の関税一括引下げ後の問題として,低開発国に対する特恵関税供与が重要性を高めているが,すでに工業国間の特恵供与の基本原則に関する合意が成立し,近い将来に具体化される動きにある。また,4ヵ年にわたって討議を重ねてきた国際流動性増強問題は,IMFからの特別引出権の創設という形でその大綱が決定し,68年3月を期限として協定や細則の改正などその具体化に必要な作業が進められている。

67年中の以上のできごとは,世界経済の現状と将来を考えるうえにそれぞれ重要な意味をもっているが,67年の世界経済の最大の特色は,世界の工業国において過去10ヵ年来最も広汎な景気停滞が生じたことであった。イタリアと日本を例外として工業諸国の生産は著しい停滞を示した。その結果として,工業国の輸入の拡大テンポは急速に低下したため,世界貿易の増勢も目立って弱まり,低開発諸国の輸出にもはなはだ不利な影響を及ぼすことになった。低開発国全体の67年前半における輸出は,季節調整済みの計数でみると,若干の減少となった。下期になると多くの工業国の景気刺激策の影響もあって,工業国の景気停滞が世界経済全体に及ぼす累積的悪影響はどうやら最小限に止められつつあったが,この間において,中東紛争の衝撃や欧米景気の不振をこうむることが最も強かったイギリスは,11月18日に至りつぃに14.3%に及ぶポンド引下げを決定し,これに追随してデンマーク,アイルランド,イスラエル,香港などが為替平価を切下げるという波紋が生じた。

当面,最も注目すべきことは,今般のポンド切下げがイギリスの経済再建のみならず,世界景気全体が回復に転ずるタイミングやその強さにどのような影響を及ぼすかということと,ポンド切下げ後の国際金利の上昇がどういう成り行きを示すかということであろう。

近年かなり順調な拡大を遂げてきた世界貿易が,工業国で生じた広汎な景気停滞に阻まれて,著しく伸び悩んだことは58年来約10年ぶりの体験であり,また基軸通貨であるポンド切下げも49年来約20年ぶりのできごとであった。つぎに,工業国の景気動向に焦点をあてながら,67年の世界経済の足どりをふり返ってみることにしよう。


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