昭和41年

年次世界経済報告

昭和41年12月16日

経済企画庁


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むすび

1966年の世界経済は,65年に引き続いてかなりのテンポで拡大し,そのなかで日本の貿易もまた好調な発展を遂げることができた。

この間において,ベトナム戦争の拡大,欧米を主とした国際的な高金利傾向,アメリカの景気過熱化対策の進展,イギリスのポンド危機と強力な引締め政策など,注目されるできごとが相ついで発生したが,世界経済の成長基調には根強いものがあった。

世界経済の成長力は,60年代にはいっていっそう強まっており,歴史的にみてもきわめて高い成長力を実現している。このような高成長は,投資,消費などの需要基調が強いことや,潜在的成長能力を開発していくための各国政府の政策的役割の増大を物語るものであるが,一方において,現在の世界経済は,いくつかの重要な課題を解決しながら発展していく必要性に迫られている。

第1には,高い成長のなかで,先進国は共通してインフレ問題に悩まされており,物価安定の重要性が増大していることである。成長政策と安定化政策をいかにして両立調和させていくかは,今日の先進国における経済政策の主要な課題となりつつあるといえよう。

第2には,これとも関連するが,近年の世界経済発展のなかで,国際収支上の困難に悩む国がいぜんとして多いこと,また,アメリカ,イギリスといった基軸通貨国の国際収支の赤字基調の継続のうえで,他の多くの国の国際流動性が賄なわれている矛盾である。このことは,各国ベースで自国の国際収支変動幅を小さくしていく努力が払われねばならないと同時に,世界全体として新しい国際通貨体制が整備される必要性を示唆している。いわゆる「新準備資産創設」問題が,66年中にこれまでの10ヵ国蔵相会議での討議段階をおえてIMFベースでの具体的な検討段階にはいったことは,近い将来における国際流動性問題の新たな展開を期待させるものである。

第3には,60年代前半の世界貿易の拡大には目覚ましいものがあったが,今後とも世界貿易の円滑な発展を続けていくために,広範囲な関税引下げなど貿易障害の除去が望まれていることである。現在進められているケネディ・ラウンドの成功が期待される。

第4には,世界経済の全体的な拡大のなかにおいて,先進国と低開発国の間の格差はひろがる傾向にあり,いわゆる南北問題との解決が切実さを加えている事実である。南北問題解決のためには,先進国から低開発国への援助が促進されることも必要であるが,さらにまた,低開発国の経済開発と発展を促進するための多面的な国際協力が進められることが重要である。66年11月のアジア開発銀行の発足は,とくに東南アジアの経済開発の新展開のための重要な一石をなすものだといえよう。

またわが国の経済は,これまで貿易面において欧米工業国と東南アジア経済をつなぐ重要なかけ橋としての役割を演じてきたが,この役割は今後ともいっそう高まるであろうし,また高める方向に努力すべきであろう。

第5には,近年の世界市場の拡大のなかで,各国の国際競争力がさらに強化される動きにあることを忘れてはならない。とくにアメリカ企業は,これまでの長期繁栄の過程で,設備投資のスケール・メリットによるかつてないコスト切下げを図りつつあり,欧米間の生産性と競争力の差は再びひろがる傾向さえ見せている。昨日の最新設備は,今日の最新設備ではない。経済効率を考慮した絶えざる近代化こそは,今日の世界市場に対応していく道である。

近年の日本経済は近代化と国際化の波を乗りきりながら,力強い発展を示してきた。以上の諸問題や資本自由化など,迫りくる新たな課題に対しても日本経済が,着実,かつ賢明に適応力を培っていくことが肝要であろう。


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