昭和40年
年次世界経済報告
昭和40年12月7日
経済企画庁
以上にみてきたように,1964~65年の世界経済は,全体としては,おおむね順調な拡大を続けてきた。この拡大のなかで,工業国の果たした役割は大きく,工業国自体が成長を持続しただけでなく,それが世界貿易の拡大をもたらし,非工業国の経済にも好影響を及ぼした。
工業国は,その経済成長を維持するため,国内面では時機に応じて景気対策や成長政策を打ち出す一方,国際面では,ポンド危機対策にみられるように,国際協力を推進して,かなりの成功をおさめた。こうした事態の動きから推して,今後も,世界経済は,若干のスローダウンはあるにしても,当面,拡大基調を続けることが可能であろう。
ところで,これまで高度成長を統けてきた日本は,たまたま64~65年の時期に景気後退期を迎えたが,海外経済環境にめぐまれて,輸出の著増による国際収支の好転を実現した。ただ,日本経済と,とくに密接な関係をもつアメリカおよび東南アジアの経済は,今後,これまでと同様のテンポの上昇を持続し,輸入を増加させることがしだいにむずかしくなっていくことも考えられるので,日本の輸出増加への努力がいっそう強く要請され,また東南アジア諸国に対する援助の増強も必要となってこよう。
ひるがえって,眼を将来に注ぎ,世界経済の今後の発展を考えるとき,解決を迫ってくる問題は数多い。この1年間も,これらの諸問題の解決に国際的な努力が重ねられてきたが,その多くは未解決のまま66年以降に持ち越された。
第3章でみたように,最近激しい議論が戦わされているものに国際流動性増強問題があるが,アメリカ・イギリスとヨーロッパ大陸諸国,とくにフランスとの対立もあって,早急な打開はむずかしい。また,先進国を中心に貿易の自由化をいっそう進める目的でケネディ・ラウンドがもたれたが,これも難行している。
世紀の問題としてクローズ・アップされるようになってきた南北問題にしても,1964年に開催された国連貿易開発会議以後,さほどの進展をみせていない。ガットの低開発国条項の採択,OECDにおける援助条件の緩和の決議,オーストラリアの特恵供与などの動きがあったが,先進国と低開発国の対立がうまく処理され,解決の方向へ進みだしたとみるにはまだはやいようである。
このように,これらの世界経済の基本的重要問題は,今後になお,その解決を見出していかねばならないけれども,それには,国際協力のいっそうの推進が必要となる。
国際社会の現状をみると,国際協力がかなり進展した半面,先進国の間では各国の利害関係から諸問題の解決は必ずしも期待どおりのテンポでは進行せず,また,低開発国も,国連貿易開発会議でみられたように,先進国に対し,つぎつぎと要求を出してきている。
しかし,各国の利害の主張のなかから,新しい高次の水準での国際協力体制が生まれてくるような方向に進むことが時代の要求である。そのための討議の場もすでにいくつか設けられている。先進国にとっては,今後,当分受ける権利よりも,与える義務が多くなることもありえようが,その際,長期的観点に立って,これらの諸問題に取り組んでいく必要がある。他方,低開発国も,先進国に対する要求を打ち出す半面において,援助の受入れ体制の整備はもとより,自らの経済発展のためにいちだんの努力を払うことが要請される。
日本としては,現在の景気後退から一日も早く脱出し,安定した経済成長の軌道に乗ることが,先進国の一員としての責務であり,これによって,世界経済の拡大に資するとともに,また,その実績をもって,今後,国際協力体制の整備に積極的に参加してゆくよう努力する必要があろう。