昭和39年

年次世界経済報告

昭和40年1月19日

経済企画庁


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第1部 総  論

第2章 世界の経済成長

4. 今後の見通し

最後に,1965年の経済見通しを地域別に概観しておこう。まずアメリカであるが,64年12月現在で合計46か月という戦後最長の景気上昇を達成しえた理由は,消費と投資の刺激を目的とした財政・金融政策(低金利政策,投資減税,大幅減税など)のほか,自動車需要や住宅建設の持続的拡大にあった。

しかし,最近では住宅需要が一応の飽和点に達したらしいこと,減税の効果が一応出つくしたとみられること,イギリスに追随して行なわれた公定歩合引上げの影響が注目されることなど,先行き若干の警戒要因が出ている。その結果,65年の経済成長率についても,64年のそれ(名目で約7%)を下回る4~6%程度と予想する向きが多い。

つぎに西欧諸国のうち,イギリス経済の予想はきわめて困難である。64年10月以降労働党新政府が打ち出した一連の国際収支対策のなかには,輸入課徴金や輸出払戻し制など国内の生産活動にプラスのものもあるが,補正予算に盛られた増税(ガソリン税)や法人税の新設,および公定歩合の危機レート(7%)への引上げなどは直接的,間接的に国内需要にデフレ的影響を及ぼすであろう。なおイギリスの全国社会経済研究所は,公定歩合引上げの直前に65年の経済成長率3.5%という推定を発表したが,その後の情勢の変化によって2.7%という推定もなされている。

第15表 主要5カ国の実質経済成長率

欧大陸に目を転ずると,63年後半から輸出と投資を主軸に安定的成長をとげた西ドイツは,労働力需給の逼迫と設備のフル操業から経済拡大テンポの鈍化は免れないであろう。ぞれでも,政府推定では64年の6%から65年の5%(民間研究所では7%から6%)へと,比較的高い成長率が見込まれている。

この西ドイツと対照的なのはフランスとイタリアである。フランスでは民間投資の停滞のほか,65年度予算も引締め基調であるので,65年の成長率は当然鈍化が予想され,政府予測でも64年の推定5.2%に対して65年は4.3%と見込んでいる。

イタリアでは,最近政府が公共投資の増加や金融緩和などデフレ政策をとりはじめたので,65年には景気回復に向うと思われるが,民間設備投資の早急な回復が見込まれないので,景気回復テンポは早くないであろう。政府予測でも,64年の推定成長率3%に対して65年は3~4%程度とみている。

その他の西欧諸国でも,一般に65年には成長率の鈍化が予想されている。

いま, OECD諸国全体の国民総生産の約8割を占めるアメリ力,イギリス,フランス,西ドイツ,イタリアの5大国について,64年の推定成長率と65年の予測成長率をまとめると第15表のようになる。これによると,5大国の経済成長率は63年の3.5%増,64年の5.2%増に対して65年は4.3%増となる。

他方,低開発諸国の経済見通しについて述べると,これは農業生産の動向に左右されるところが大きいので予測が困難であるが,少なくとも欧米諸国の成長率鈍化によって低開発諸国の輸出増勢が鈍ることは免れまい。

最後に社会主義国の経済情勢についてみると,ソ連では近年成長率鈍化の傾向がみられたが,最近では経済効率の重複や農業集約化の推進など,成長率を高めるべく努力されつつあり,65年の計画目標も64年より高い水準に置かれている。また中国においても,63年以来みられた経済回復傾向が65年も続くものと思われる。

以上のようにみてくると,社会主義国を別にすれば,65年の自由圏の経済成長率は,全体として64年より鈍化するものと考えられ,それだけ日本の輸出をとりまく国際環境は厳しさを増すものと思われる。


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