昭和39年
年次世界経済報告
昭和40年1月19日
経済企画庁
世界経済についての年次報告は,今回が第6回目のものであります。この報告の目的は,世界経済と日本との関連を念頭におきながら,過去1年間を中心とした世界経済の動向を概観するとともに,そこに流れる重要な諸問題を検討し,それによって日本経済の進むべき道を示唆することにあります。
昨年を通じて,世界経済は概して順調な拡大を示し,そのうちアメリカは戦後ではもっとも息の長い安定的成長を持続しましたが,西欧では,国によって経済情勢にかなり大きな相違がみられたことが特徴的でありました。また,世界貿易は近年まれにみる急速な拡大を続け,日本の貿易はさらにそれを上回る大幅な増加を示しました。しかし,本年の世界経済は,昨年にくらべて成長鈍化が予想されます。一方,このような世界経済の動きのなかで,西欧諸国では物価の上昇が進行し,そのため最近では,単なる高度成長よりも安定的成長を重視するようになってきました。また,世界経済の体制的な面では,工業国間のガット関税一括引下げ交渉,低開発国の輸出促進を目的とした国連貿易開発会議をめぐる南北問題,国際通貨・金融体制の強化をめざす国際流動性問題などが出ております。さらに最近では,アメリカの金利平衡税の強化問題やイギリスのポンド危機が発生し,今後の推移が注目されます。これらはいずれも,日本経済と密接な関係をもっている重要な問題であります。
この報告では,これらの問題の背景や日本に対する影響などを明らかにする,ことに努めました。
これからのきびしい国際環境のなかで,国際競争力の強化と安定成長の達成のためにいっそうの努力をしなければなりませんが,同時にわれわれは,世界経済の発展を促進するために国際協調の維持をはかることが必要であると考えます。
わたくしは,この報告が世界経済に対する国民の認識を高め,またそのなかにおかれた日本経済の理解に役立つことを期待致します。
昭和40年1月19日
高橋 衛
経済企画庁長官