昭和61年
年次経済報告
国際的調和をめざす日本経済
昭和61年8月15日
経済企画庁
昭和60年度の地域経済の動向をみると,我が国経済が,9月以降の急速な円高の影響もあって,景気拡大の足取りが緩やかとなった中で,地域別には,地方圏の景気が先行して足踏み状態となり,大都市圏の景気拡大テンポも緩やかなものとなった。
主な分野別に,その特徴をみると,鉱工業生産は,生産上昇の牽引力であった電気機械の生産が60年に入り急速に鈍化したことや,年度後半には,円高の影響等も加わり,北海道,中国を除き各地域とも増勢は大幅に鈍化した。中でも,東北,北陸,四国,九州の生産は,電気機械の鈍化の影響を強く受け,60年度は前年度並みまたは減少となった。このような生産の動向を反映して,大都市圏を中心に製造業からの求人減が目立った。また,民間設備投資も増勢が鈍化したが,大都市圏では引き続き順調に増加した。
他方,建設活動は,公共工事が大型工事の寄与した近畿,沖縄などで高い伸びとなったほか,多くの地域で前年度を上回った。住宅着工は,貸家を中心に堅調に推移した大都市圏と,総じて低調であった地方圏とで明暗が分かれた。
個人消費も大型小売店販売額は大都市圏では堅調に推移したのに対し,地方圏は総じて盛り上がりを欠き,ここでも,大都市圏と地方圏で明暗がみられた。
また,円高の影響による輸出関連業種の収益悪化等から,企業の業況判断は地方圏は多くの地域で年間を通して好転せず,大都市圏でも年度後半には悪化した。
全国の鉱工業生産は,58年1~3月期以降,電気機械を中心に急速に上昇を続けてきたが,60年に入ると,1~3月期に減少した後,4~6月期は一時増加したものの,60年半ば以降は弱含みで推移している。
地域別の鉱工業生産の推移をみると(第13-1図),関東,東海,近畿の大都市圏では60年半ば以降,総じて伸び悩み傾向となり,特に近畿は61年1~3月期に大きく低下した。一方,地方圏をみると,59年まで全国を上回る上昇テンポを辿った九州,北陸では,60年に入ると,低下傾向となり,東北も年後半には低下した。しかし,東北,九州は61年1~3月期には持ち直しの動きとなった。また,59年まで上昇テンポが全国を下回った地域をみると,中国が7~9月期上昇し,その後横ばいで推移しており,四国は60年に入り低下を続けたが,61年1~3月期にはやや持ち直した。北海道は60年4~6月期に増加したが,その後は,一進一退の動きで推移しており,全国との格差は依然大きい。
各地域における鉱工業生産の動向を業種別にみると(第13-2図),大都市圏においては,関東は,4~6月期に電気機械を中心に大幅に増加したが,7~9月期には電気機械が減少し,10~12月期以降は電気機械が持ち直したものの,一般機械や鉄鋼など素材型業種の減少から横ばいとなった。東海は7~9月期以降横ばいで推移しているが,輸送機械(自動車),化学等の下支えによりあまり大きな落ち込みはみられなかった。近畿は,10~12月期までは電気機械を中心に比較的堅調であったが,61年1~3月期には円高の影響を強く受け,特に,電気機械,一般機械に加え素材型業種の減少もあり,大幅に低下した。
地方圏では,東北,九州は電子部品を中心とする電気機械の減少を主因に低下したが,61年1~3月期には,電気機械を中心に持ち直しの動きとなっている。また,北陸は電気機械が一進一退を続け,ウエイトの高い繊維が減少を続けたことから,低下傾向を辿った。他方,中国は7~9月期に一般機械(化学機械)の大幅な増加から上昇したが,その後横ばいとなった。また,四国は,電気機械,般舶の減少を主因に60年初めから低下を続けていたが,61年1~3月期には,電気機械を中心にやや持ち直している。
昭和60年度の民間設備投資の動向を日本開発銀行調査(61年2月調査)でみると,全国では,9.3%増(前年度比増減率,以下同じ)となり,このうち製造業は8.7%増,非製造業は9.7%増となった。
地域別には,関東,東海,近畿の大都市圏では2桁増となり,中国,北海道も増加した。他方,東北は59年度に続き大幅に減少したほか,59年度に大幅増となった北陸,四国,九州でも減少した(第13-3図)。
製造業の設備投資をみると,関東,東海,中国などでは,輸送機械(自動車)の増加により,また北陸は電気機械,北海道は紙・パルプの増加を主因に増加した。他方,東北,四国,九州では減少しており,東北,九州は前年度の増加に大きく寄与した電気機械の大幅な減少,四国は電気機械の減少に加え,船舶での減少が主因となっている。なお,58年度以降,急速に増大していた電気機械の設備投資は,総じて増勢が鈍化,または減少している。
また,非製造業の設備投資は,東北,北陸を除き各地域とも増加している。
大都市圏では,東海は電力の寄与が大きく,関東,近畿はサービス業,不動産業の増加を主因に増加した。地方圏においては,非製造業の設備投資に占める電力のウエイトが高く,その動向を主因に東北,北陸では減少し,北海道,中国,四国,九州では増加した。なお,電力を除いた非製造業の設備投資は四国,九州では減少しており,四国はサービス業,水運業の減少,九州はサービス業の減少が主因となっている。
昭和60年の工場立地動向(通商産業省調査)をみると(第13-1表),全国の工場立地件数(1,000m2以上の用地取得)は2,537件(7.3%増)と,緩やかながらも2年連続で増加している。業種別にみると,電気機械が最も多く全体の20.4%を占め,次いで一般機械(13.1%),食料品(11.8%),金属製品(10.2%)の順となっている。また,前年に比べ増加した業種は,木材・家具(43.5%増),プラスチック製品(41.2%増),鉄鋼(34.2%増)などであり,電気機械は電子機器部品の減少(20.3%減)を主因にやや減少した。
地域別にみると,59年に著増した大都市圏及び東北,九州においては,東北,関東,近畿では伸びが緩やかとなり,東海,九州は減少しており,特に,九州は機械工業を中心に減少した。他方,北陸は2年連続して2桁増となり,中国ではテクノポリス圏域への立地増,四国でも電気機械など機械工業の立地増を主因に2桁の伸びを示した。また,59年に大幅に増加した技術先端型業種(注)の立地件数は9.7%減となり,北陸,中国,四国を除いて各地域とも前年を下回った。
地域別の立地件数の構成比をみると,東北,関東が全体の45%を占めており,特に技術先端型業種では両地域で6割を占めている。なお,研究所用地取得については総数24件のうち関東が過半数を占めている。
昭和60年度の全国の公共工事を請負金額でみると,3.4%増と3年振りの増加となった。
これを地域別にみると(第13-4図),東北,関東では前年度並みにとどまったが,その他の地域は増加した。特に,大型工事などの寄与した近畿,北陸,沖縄では高い伸びとなった。近畿は日本道路公団(近畿自動車道)などの公団・事業団の発注増に加え,地方公共団体の活発な発注もあり,11.5%増,北陸も国,地方公共団体などの災害復旧工事による発注増などにより9.4%増と高い伸びとなった。沖縄も沖縄自動車道工事を中心に,8.6%増と前年度に引き続き増加している。また,中国は本州四国連絡橋工事や山陽自動車道工事を中心に4.5%増,四国は四国横断自動車道工事を中心に3.9%増となった。さらに,北海道,東海,九州などでも,上半期は補助金一括法の成立の遅れなどから伸び悩んだものの,下半期は国,地方公共団体を中心とした発注増により増加した。
昭和60年度の新設住宅着工戸数は,全国では,125万1千戸,3.6%増となったものの,前年度の伸び(6.4%増)を下回った。
これを地域別にみると(第13-2表),大都市圏では関東が9.1%増,東海が7,6%増と高い伸びとなり,近畿も4.9%増と堅調に推移した。他方,地方圏では各地域とも低調であり,中国,四国では,それぞれ1.9%増,1.1%増と低い伸びとなり,増加の続いていた沖縄も0.4%減と前年度並みにとどまった。その他の地域はいずれも前年度水準を下回っており,特に,北海道は9.6%減,九州は7.0%減と大幅に減少した。このように,60年度は,大都市圏で好調に推移したのに対し,地方圏は低い伸び,または減少となり,大都市圏と地方圏で格差がみられた。
これを利用関係別でみると,持家は各地域とも低調に推移した。他方,貸家は,大都市圏では堅調な伸びをみせたのに対し,地方圏では増勢に鈍化がみられ,特に,北海道,九州では,年間を通して減少し,貸家の動きが大都市圏と地方圏の明暗を分ける要因となった。
昭和60年度の個人消費の動向をみると,全国の大型小売店販売額は,4.0%増と大都市圏が堅調な伸びとなったことを主因に前年度をやや上回る伸びとなった(第13-3表)。地域別にみると,関東(4.8%増),東海(4.0%増),近畿(4.3%増)の大都市圏では,前年度並みないしそれを上回る伸びとなったが,その他の地域では全国の伸びを下回り,前年度の伸びに比べても九州を除いて低下した。
大型小売店販売額のうち百貨店販売額をみると,関東(6.1%増),近畿(4.5%増)では店舗増等もあり衣料品(特に婦人服),飲食料品を中心に前年度を上回る伸びとなり,九州(3.3%増)も前年度の伸びを上回った。その他の地域は前年度の伸びを下回り,特に,北海道(1.2%増),東北(2.5%増)では農業で水稲が2年連続の豊作となり,消費面への好影響が期待されたものの,低い伸びにとどまった。一方,セルフ店販売額をみると,飲食料品の持ち直しもあって東海(3.9%増),近畿(4.1%増)では,前年度の伸びを上回り堅調であったが,その他の地域では衣料品の伸びの低下を主因に盛り上がりを欠いている。
大型小売店販売額を四半期別にみると(第13-5図),関東,東海,近畿の大都市圏では,年間を通して堅調な伸びとなったが,その他の地域では全体的に盛り上がりを欠き,特に,北陸,四国,九州では上半期は低調であった。
乗用車の販売動向を新規登録・届出台数でみると,関東では60年7~9月期以降比較的順調に推移し,2.1%増となったものの,東海,近畿では横ばい,その他の地域では,引き続き減少した。
企業の業況判断を日本銀行「全国企業短期経済観測」のDI(「良い」とみる企業割合-「悪い」とみる企業割合)によってみると(第13-6図),全国では60年5月(日本銀行の調査時点,以下同じ)までは「良い」とみる企業が多かったが,8月には同じ割合となり,11月以降は円高の影響もあって「悪い」とみる企業が多くなっている。これを地域別にみると,大都市圏及び中国は59年5月以降業況判断が好転していたが,年度後半にかけてこれらの地域でも「悪い」とみる企業が多くなっている。その他の地域は業況判断が好転することなく年間を通して「悪い」とみる企業が多く,年度後半にかけてさらに悪化している。
製造業についてみると,関東,中部,近畿,九州では60年8月までは「良い」とみる企業が多かったが,11月以降「悪い」とみる企業が多くなっている。その他の地域でもほぼ年間を通して業況判断の好転はみられず,東北,北陸,四国では年度後半にさらに悪化している。これは,急速な円高による電気機械等輸出関連業種の収益悪化等が主因であるとみられる。
一方,非製造業についてみると,関東,中部では年間を通して「良い」とみる企業が多かったが,近畿,中国では年度後半に業況判断が悪化し,その他の地域も年間を通して好転がみられなかった。
労働力需給を有効求人倍率でみると,全国では60年度0.67倍と前年度に比べ0.01ポイント上昇した。しかし,四半期別の推移をみると(第13-7図),60年4~6月期の0.69倍(季節調整済み,以下同じ)から61年1~3月期の0.66倍へと低下している。
地域別にみると,関東(60年4~6月期0.92倍→61年1~3月期0.84倍,以下同じ),東海(1.29→1.23),近畿(0.60→0.54)の大都市圏では急速に低下しており,その他の地域でもほぼ横ばいで推移している。
また,新規有効求人倍率を四半期別にみると,有効求人倍率と同様の傾向を示し,全国(0.98→0.93)では急速に低下しており,地域別にみても,東北,沖縄を除き低下している。特に,関東(1.23→1.11),東海(1.84→1.69),近畿(0.97→0.86)の大都市圏では0.1ポイント以上の大幅な低下となっている。
さらに,新規求人数をみると,電気機械からの求人数の著減を主因に製造業の求人が減少しており,特に,東北,関東,近畿,九州では前年比10%を超える大幅な減少となった。