昭和61年

年次経済報告

国際的調和をめざす日本経済

昭和61年8月15日

経済企画庁


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2. 鉱工業生産

(1) 弱含み傾向となった生産・出荷

  58年初から急速に回復した鉱工業生産・出荷は60年に入って輸出が一服状態となったことから増勢が鈍化した。その後も,60年度初めに一時増加したものの,輸出の動きや電気機械,鉄綱等で在庫調整が行われなこと等を反映して弱含み傾向で推移した。この結果,60年度は,生産・出荷は前年度比でそれぞれ3.5%増,2.9%増と緩やかな伸びに止まった。(第2-1表)。また,61年4月には生産出荷とも3年2カ月ぶりに前年同月の水準を下回った後,5月も2カ月連続前年同月を下回る水準となった。

第2-1表 財別生産・出荷・在庫の前期(年度)比増減率

  (弱含み傾向となった生産活動)

  59年度前年度比9.9%と高い伸びを示した生産は,60年度においては,年度初めに一時増加したものの,その後弱含み傾向となった。これは,①国内需要が緩やかに増加する中で,輸出が横ばいで推移したことに加え,特に61年に入って,製造業の設備投資の増勢が鈍化したこと,②こうした需要の動きの中で,電気機械,鉄綱等の業種で在庫が積上がりをみせ市況が低迷し,在庫調整が行われたことによる。

  鉱工業生産の動向を,加工・組立,素材別にみると,生産を牽引してきた加工・組立型業種は増勢が鈍化し一進一退の状態になった。その内訳をみると,年度内で,主役の交代がみられたことが特徴的である。(本報告1-4-5図)一方,素材型業種は,全体としてやや減少気味に推移した。

  業種別に詳しくみてみると,高い伸びを続けてきた電気機械は60年年央以降急速に減少し,とくに,半導体素子,集積回路は60年後半より減少傾向となり,その減少幅も大きかった。しかし,年末以降には,電子計算機,VTR,半導体素子・集積回路などが持ち直し再び増加に転じた。一般機械は,電気機械と対照的に60年度上期は堅調に増加していたが,国内の製造業設備投資の増勢鈍化を反映して製造設備用資本財を中心に減少したことから10月以降減少傾向となり,61年2月以降は前年同月の水準を下回って推移している。輸送機械では,船舶・鉄道車両は減少したが,乗用車は輸出がアメリカを中心に増加し,国内向けも新車の投入が活発であったこと等により好調であった。鉄鋼は,アメリカ向けの輸出自主規制の影響,中国向け輸出の減少で輪出向けが急速に減少し,内需向けも自動車向けが好調を維持したものの,その他の部門の需要が低調だったこと等から在庫が積み上がり,在庫調整が行われた。このため,生産は減少傾向で推移している。その他の素材型業種も全体としてやや減少気味に推移した。

  (輸出の動き等を反映して弱含んだ出荷)

  出荷の動向を内外需別にみると,輸出向出荷は前年比で59年17.1%増と高い伸びを示した後,60年は9.1%と増勢が鈍化し,60年7~9月期以降は減少傾向となった。国内向出荷も59年7.3%増の後60年は2.5%と増勢が鈍化し,60年7~9月期以降弱含み傾向にある(第2-2図)。時期別にみると,輸出向出荷は60年4~6月期にアメリカ向乗用車などにより増加したものの,7~9月期,11期ぶりに前期比で減少となり,その後も弱含みに推移し,61年1~3月期には鋼船,乗用車などにより前期比2.8%減と比較的大きな減少となった。

第2-2図 内外需別,財別鉱工業出荷の推移と寄与度

  国内向出荷は,60年4~6月期は建設財は減少となったものの,資本財が電子計算機,ファクシミリ等のOA関連機器が順調に伸び,耐久消費財,非耐久消費財,生産財も増加したことから,持ち直しをみせた。

  7~9月期は耐久消費財がセパレート型エアコンディショナなどにより,資本財が化学機械,ボイラ・原動機などにより増加したほか,建設財も増加するなど最終需要財は増加したものの,半導体集積回路などにより生産財が減少したことから微減となった。

  10~12月期も資本財,非耐久消費財等最終需要財は堅調に増加したものの,生産財力が引き続き減少したことから微減となった。

  61年1~3月期は耐久消費財がVTR,セパレート型エアコンディショナなどにより,非耐久消費財が磁気テープなどにより堅調な伸びを示し,建設財も増加したが,資本財が製造業の設備投資活動の増勢鈍化を反映して前期比2.8%減と比較的大きな減少となったため,微増に止った。

  財別にみると,資本財は60年には,59年好調を続けた輸出向けの増勢は鈍化したものの,国内向けは堅調な設備投資を反映して引き続き増加したが,61年に入って製造業設備投資の増勢鈍化を反映して弱含んだ。

  一方,建設財は国内向けは土木用,建築用ともこのところ持ち直しているが,輸出向けが,中国向けの減少の影響で,60年10~12月期以降減少傾向となった。

  生産財は,半導体素子・集積回路が調整局面に入ったことを反映して60年7~9月期以降減少傾向となったが,61年に入ってから半導体素子・集積回路の回復がみられることからやや持ち直した。

  耐久消費財は,国内向けは夏の猛暑を反映して,セパレート型エアコンデイショナが好調であったほか,ウオッチ,電子レンジ,小型乗用車なども堅調に推移したが,輸出向けは,年度後半は,中国向けのカラーテレビの減少や乗用車の対米自主規制の影響などから弱含んだ。

  非耐久消費財は,猛暑によるビール,果実飲料等の増加はあったものの,ウイスキーの低迷,灯油の減少などがあり緩やかな増加となった。

(2) 積み上がりのみられた在庫

  実質民間在庫投資(GNPベース,季節調整値)は,58年1~3月期を底に,最終需要の増加に見合った積み増しが行われてきたが,60年度に入ってからは,在庫が高まりをみせたことから一進一退で推移した。

  (積み上がりのみられた在庫)

  形態別在庫投資の動きをみると,通常,最終需要や市況に対する敏感度や在庫手当に要する時間の差などから,流通在庫から始まり,原材料在庫,製品在庫へと波及していく。60年度末にかけて流通在庫がかなりの積み上がりをみせており,これが今後の製品在庫の動職にどのような影響を与えていくか注目される。

  まず,流通在庫をみると,60年度に入ってから増加し,60年度末にかなりの積み上がりがみられた。これを販売業者在庫指数で業種別にみると(本報告第1-4-4図),素材関連商品では積み上がりもあるものの,自動車,写真機・時計などではむしろ販売が堅調であったことにより,積極的に在庫を積み増したという性格が強いとみられ,流通在庫の積み上がりは必ずしも意図せざる積み上がりによるものとは言えないことが分かる。

  次に原材料在庫をみると,58年7~9月期を底に緩やかな増加を示していたが,60年度に入って鉱工業生産,出荷が弱含み傾向になったことから減少に転じた。60年度末に,電気機械で在庫調整が終了したことから増加したほか,食料品などが増加したが総じて減少気味となっている。

  最後に,製品在庫の動きをみると,58年10~12月期を底に実需に見合った積み増しが行われていたが60年度に入ってから,輸出が弱含みになったこと等から出荷が弱含み,電気機械,鉄鋼等で積み上がったほか,窯業・土石,紙・パルプ,繊維など素材型業種でも積み上がりがみられた。こうした動きを反映し,電気機械,鉄鋼等では在庫調整が行われ,電気機械では半導体素子・集積回路を中心に在庫調整の進展がみられたが,鉄鋼等では在庫調整の進展が遅れており,依然高水準である。さらに年度下期に入り一般機械,精密機械でも在庫の積み上がりがみられた。

  (業種間でばらつきがみられた在庫局面)

  以上みてきたように,60年度に入ってからの在庫は積み上がりがみられるが,業種別にみると,局面にばらつきがみられるのが特徴である。これを,生産者出荷と製品在庫の関係からみてみよう。図2-4で,出荷と在庫の動きは在庫局面に応じて右回りの曲線を描き,右下側にあるときは,在庫が高まり,在庫の調整が行われることを表している。鉱工業全体では,60年1~3月期に,在庫が高まる局面に入った後,出荷の伸びが小さくなる中で在庫は積み上がりぎみに推移している。これを業種別にみると,電気機械では,60年7~9月期には前年同期比55.7%増と在庫が急速に積み上がった後,61年1~3月期には,ほぼ出荷の増減と在庫の増減がつりあう,45゜線上の近くまで調整が進展した。鉄鋼では59年10~12月期から,在庫が高まる局面に入り,その後在庫調整が行われているが,60年10~12月期以降は出荷が前年同期を下回り減少傾向にあることから調整が遅れていることがわかる。窯業・土石,繊維では,出荷が減少傾向にあるにもかかわらず,在庫が高まりをみせている。一般機械でも,60年10~12月期以降出荷が急速に減少している中,在庫は積み上がっている。一方,輸送機械では,乗用車の対米輸出規制などの影響で不規則な動きをしているが,45゜線上にあり,なお在庫積み増し局面とみられる。

第2-3図 GNPベース在庫投資と形態別在庫投資の推移

第2-4図 業種別出荷と在庫の現局面

  中期的にみると在庫水準の圧縮が進んでおり,また企業の在庫投資態度は極めて慎重であることから,相対的に在庫水準が低い段階から個別の業種ごとに.在庫調整で行われている。このため,在庫は全面的な積み上がり局面を迎えるには至ってはいないが,全体としての製品在庫率は高まってきていることから,それが企業の生産態度に与える影響についてなお十分な注意が必要である。

  (今後の動向)

  昭和60年度に入って,生産,出荷は一時増加したものの,その後弱含み傾向で推移しており,61年4月には3年2か月ぶりに前年割れとなった後,5月も前年割れの水準で推移している。在庫も積み上がりがみられており,電気機械では在庫調整が進展したものの,鉄鋼では在庫調整の進展が遅れている。その他の素材型業種でも積み上がりがみられる。

  また,国内需要は緩やかな増加を続けているが,輸出に弱含みがみられ景気の先行きに懸念が高まっている。以上から,生産・出荷は引き続き弱含み傾向で推移するとみられる。


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