昭和61年

年次経済報告

国際的調和をめざす日本経済

昭和61年8月15日

経済企画庁


[目次] [年次リスト]

1. 国際収支

(1) 緩やかな景気拡大となった世界経済

  (世界経済と世界貿易の動向)

  1983年に入って景気回復に転じ1984年も引き続き回復基調にあった世界経済は,アメリカ経済の拡大速度の鈍化が明確になる中で,西欧経済は引き続き息の長い拡大を続けるなど,1985年は緩やかな景気払大の年となった。

  こうした世界経済の動向を反映して,世界輸出数量(共産圏除く。IMFによる)は,84年8.3%から,85年2.4%増へと伸び率は鈍化した。

  また1985年の世界経済は,ドル高,高金利,原油高が修正された年であり,これまで世界経済を規定してきた枠組が大きく変化した年であったといえよう。

(2) 経常収支黒字の拡大

  (経常収支の黒字幅引き続き拡大)

  昭和58年度以降大幅に拡大してきた経済常収支の黒字幅は,60年度も引き続き拡大し史上最高の550億ドルとなった。

  貿易収支は, G5以降のドル安・円高による逆Jカーブ効果もあって輸出が拡大し,一方原油価格等一次産品価格の低迷を主因に輸入が減少したため,60年度は史上最高の616億ドルの黒字となった。

  60年度の貿易外収支の赤字は,前年度比23億ドル減少し47億ドルとなったが,これは投資益収支の黒字が28億ドル拡大したこと等による。

  (長期資本収支の流出超過幅更に拡大)

  60年度の資本移動について,長短資本の流出入についてすべてネットアウトした長短資本取引等の合計(長短資本収支,金融勘定及び誤差脱漏の合計)でみると,550億ドルの純流出であった。なおこれは定義上恒等的に経常収支の黒字(赤字)と同額の赤字(黒字)となる。

  その内訳をみると長期資本収支が732億ドルの純流出,短期の資本取引の合計(短期資本収支と金融勘定の符合を変えたものの合計)が141億ドルの純流入となった。このような長期資本の流出超,短期資本の流入超という傾向は59年度以来続いている。

  長期資本収支の内,本邦資本では,証券投資の流出が710億ドルと大幅な流出額となった。中でも債券が,米国の債券市場の活況等を背景にして635億ドルの流出となった。ドル高,円安修正局面でのこのような資本の流出増加は,為替変動リスクを回避すべく,先物為替予約付き,ドル―ドル型といった形をとったとみられること,また債券相場堅調の下でキャピタルゲインを目的とした短期の資本取引が増加したこと等によるものとみられる。その他の本邦資本では,直接投資が製造業に加え金融機関等による現地法人投資より流出増となったが,延払信用,借款は減少となった。一方,外国資本では,債券が相場堅調に加え円の先高感等により流入幅拡大,外債も普通社債,ワラント債を中心に流入増となり,また処分超過傾向が続いていた株式は60年末以降内需関連株等を中心に取得が増加傾向となり60年度では1億ドルの流出超にとどまった。

  短期の資本取引の合計は,為銀部門の短期借り154億ドルを中心に141億ドルの純流入であった。なお,外貨準備高は14億ドル増加した。

第1‐1表  国際収支の概要

  (ドル高・円安の修正)

  外国為替市場における円の対ドルレートは,60年1~3月期に250~260円台の大幅円安となった後,緩やかなドル高・円安修正が進行し,60年4~6月期250.7円,7~9月期238.6円となった。60年9月のG5以降ドル高・円安修正のテンポは早まり,10~12月期207.1円,61年1~3月期187.9円となった。(円の対ドルレートは,東京外国為替市場インターバンク中心相場)

(3) 高水準横ばいで推移した輸出

  (60年度の輸出動向)

  60年度の輸出(通関額)は1827.0億ドルで前年度比7.7%増となった。これを価格,数量に分けてみると,価格(ドルベース)は同4.5%の上昇,数量は同3.2%の増加となった(第1-2表)。このように60年度の輸出は,価格が一転してプラスに転じ,数量は伸びが大幅に鈍化した。また,円ベースでは60年度後半に円/ドルレートの大幅な上昇などもあり,価格は4.3%の下落となり,金額では1.1%の減少となった。次に四半期別の動きをドルベース金額でみると,60年4~6月期以後着実に増加し,急速な円高の進展がみられた60年10~12月期以降は前年同期比で大幅増となった。

第1-2表 60年度の輸出動向

  輸出動向を商品別にみると,繊維・同製品(ドル1.4%減,数量0.6%減)は,EC向けが大幅増となったものの,主力の中近東向け東南アジア向け等が減少した。化学製品(ドル6.3%増,数量4.0%増)は,主力の東南アジア向けが微減となったものの,EC向け中国向けアメリカ向けが増加した。鉄鋼(ドル5.4%減,トン数3.3%減)は,中近東向けEC向けが増加したものの,主力のアメリカ向け東南アジア向けが減少した。一般機械(ドル13.1%増,数量3.3%増)は,金属加工機械,建設,鉱山用機械がアメリカ向け中国向けEC向けで大幅増となった。電気機器(ドル3.4%増,数量1.8%増)は,半導体等電子部品が主力のアメリカ向け東南アジア向けで大幅減となったものの,通信機がEC向け中国向けで大幅増となったのをはじめ各地域向けで軒並み増加し,またテレビ受像機も中国向けを中心に増加した。テープレコーダー (ドル3.6%増,数量6.6%増)は,主力のVTRが中国向けアメリカ向けで増加したものの,EC向けが59年度に引き続き減少したのをはじめ東南アジア向け中近東向けで大幅減となったことなどにより,伸びが鈍化した。自動車(ドル23.3%増,台数13.6%増)は,東南アジア向け中近東向けが減少したものの,乗用車輸出自主規制枠の拡大したアメリカ向けをはじめEC向け中国向けが大幅増となった。船舶(ドル23.6%減,トン数14.8%減)は,アメリカ向けが大幅増となり,また中国向けも増加がみられたが,その他地域向けは大幅減となった。

  次に地域別の動向をみると,アメリカ向け(ドルベース前年度比12.9%増)は,自動車(同33.6%増)が大幅増加となったが,半導体等電子部品(同37.8%減),鉄鋼(同20.7%減)が大幅減となったため,伸びが鈍化した。西欧向け(同17.5%増)は,半導体等電子部品などが減少したものの,自動車,一般機械,電気機器などを中心に大幅増となった。東南アジア向け(同6.2%減)は,韓国向けインド向けなどが増加したが,マレイシア向けインドネシア向けなどが減少したためマイナスに転じた。中近東向けは,比重の高いサウジアラビア向け(同25.3%減)の減少が響き,59年度に引き続き減少した。ラテンアメリカ向け(同3.8%増)は60年度前半の不振から一転して後半は持ち直し増加となった。アフリカ向け(同20.1%減)は60年度を通じて低迷した。共産圏向け(同36.5%増)は,中国向け(同43.2%増)が一般機械,電気機器を中心に大幅増が続いてきたが,60年度後半(同6.5%増)はテレビ受像機,ラジオ受信機,自動車をはじめマイナスに転じるものが目立ち始め,伸びが急速に鈍化した。

(4) 伸び悩んだ輸入

  (60年度の輸入動向)

  第二次石油危機後の低迷を脱し,58年度,59年度と増加を続けた輸入額は,60年度-に入り再び減少に転じ,通関額で1,300.9億ドル,前年度比3.3%の減少となった(第1-3表)。これは年度を通じて輸入数量が1.1%増と伸び悩んだことに加え,原油価格の大幅下落やその他の一次産品市況軟化等により,価格(ドルベース)が4.4%下落したことによる。四半期別の動きをみると,季節調整値の前期比で,数量では7~9月期を除いて小幅な増加を示したが,ドルベースでは原油価格の下落などから,1~3月期も若干の減少となっている。

第1-3表 60年度の輸入動向

  60年度における我が国をとりまく輸入環境には,60年9月以降の急速な円レート上昇と61年に.入っての大幅な原油価格下落といった2つの大きな変化があった。

  (低迷した原燃料輸入)

  商品別の動きを数量ベースでみると,食料品輸入は7~9月期に大幅に増加した後,10~12月期には減少したが,肉類,魚介類などが好調だったこともあり,概ね増加基調で推移し,前年度比7.3%増と大きく増加した。

  原料品輸入(前年度比2.4%増)は,上期は比較的順調に増加したものの,その後,鉱工業生産が弱含みで推移したことなどから減少傾向に転じた。

  鉱物性燃料は前年度比1.6%減と,若干の減少を示した。そのうち原油輸入は4~6月期は減少傾向,その後10月まで増加傾向で推移した後,年度下期は原油価格の先行き不透明感等が影響し,月ごとに大きくスウィングし,複雑な動きをした(本文第1章第2節参照)。我が国の原油の通関輸入価格はこのところ軟調裡に推移してきたが,国際石油情勢を反映して,61年3月から急速に下落した(第1-4図)。この結果60年度の原油輸入実績は,数量では6.8%減,ドルベースでは12.6%減となった。原油通関輸入価格の下落は61年度に入っても続いており,5月には1バーレル当たり12.9ドルと,60年度平均(27.3ドル)に較べ52.7%の下落となっている。このように,原油輸入量が減少した反面,61年1月からの石油製品の輸入解禁により灯油,軽油,ガソリンがかなり輸入されたこともあって,その他の鉱物性燃料は増加した。

第1-4図 我が国の原油輸入価格

  (年度後半に増加した製品輸入)

  製品輸入は,年度上期はそれまでの円安の影響もあって減少気味であったが,下期に入ってからは,円レート上昇の効果も現れ,増加傾向を示した。品目別に内訳をみると,前年度比で,化学製品は1.3%増,その他製品は4.0%増とそれぞれ増加したが,増加率は59年度に較べ大きく鈍化した。なお,機械機器は年度前半の不振がひびき,7.2%の減少となった。個別品目の動きをドルベースでみると,欧州車を中心とした自動車や航空機の輸入が好調であったほか,61年1~3月期には,円高を背景に鉄綱,繊維製品等が増加した。また3月には半導体等電子部品が13か月ぶりに前年比で増加に転じた。非貨幣用金は,工業用需要は伸び悩んだが,円高による国内価格の下落や金利の低下などにより,私的保有を目的とした個人需要が増加したこともあり,年度後半には増加した。

  人造プラスチックが増加を示しているのは,円高に加え,サウジアラビア,シンガポール等海外大型プラントの本格稼働に伴う引き取り量が増加している点も考えられる。

  製品輸入比率は59年度に,第二次石油危機以降はじめて30%を越え30.3%となった後,60年度は31.5%となった。61年5月では,原油価格の大幅下落も手伝って45.3%と高率となった。

  (大幅に減少した中近東からの輸入)

  地域別輸入をドルベースからみると,対先進国では,米国からの輸入は6.1%減少した反面,西欧からの輸入は3.0%増加した。四半期別にみると,価格が低迷している一次産品のウエイトが高い米国からの輸入は年度後半も伸び悩んだが,製品が大宗を占める西欧からの輸入は期を追って増加している。対発展途上地域では,東南アジアからの輸入が2.2%,中近東からの輸入が9.7%それぞれ減少した。東南アジアの中では,原油のウエイトの高いインドネシア,木材のウエイトの高いマレイシアなどは価格低迷の影響を受けて減少したものの,韓国,台湾からの輸入は増加した。中近東からの輸入の大宗(8割程度)は原油であるが,同地域からの原油の引き取り量の減少,価格の60年度を通じての低迷と61年度に入っての急落の影響もあって,大幅な輸入額の減少となった。

  国別にみると,原油の公式販売価格を維持するため,弾力的な価格政策の遅れたサウジアラビアからの輸入は急減し,逆に割安な原油を提供したアラブ首長国連邦やイラク等からの輪入は増加した。対共産圏は,中国からの原油,繊維製品,ソ連からの非貨幣用金の輸入増などにより,9.1%増加した。この結果,我が国の全輸入に占める共産圏のシェアは,59年度の5.9%から60年度は6.7%に拡大した。


[目次] [年次リスト]