昭和60年
年次経済報告
新しい成長とその課題
昭和60年8月15日
経済企画庁
59年度の我が国経済は世界景気の回復,物価の安定,新たな技術革新の進行等を背景として,輸出が引き続き増加傾向にある一方,設備投資が順調に増加したほか,その他の国内需要についても緩やかに増加するなど,景気動向にはなおばらつきが残されているものの,全体として景気は拡大を続けた。したがって,諸外国に比しても,総じて良好な状態を維持したといえよう。
我が国財政を取り巻く環境には極めて厳しいものがある。我が国経済の着実な発展と国民生活の安定・向上を図るためには,引き続き財政の改革を強力に推進し,その対応力の回復を終ることが緊要になっている。
このような背景の下で,59年度予算は,歳出面において,行財政の守備範囲を見直す等の見地から経費の徹底した節減合理化を行うことを基本として,その規模を厳しく抑制しつつ,限られた財源の中で質的な充実に配意するとともに,歳入面においても,その見直しを行い,これより,公債発行額を可能な限り抑制することを基本方針として編成された。
このため,一般会計予算においては,経費の徹底した節減合理化に努め,特に一般歳出(国債費及び地方交付税交付金以外の歳出)については,全体として前年度同額以下に圧縮された。この結果,一般会計予算の規模は,50兆6,272億円となり,前年度比0.5%増という低い伸びとなった。また,一般歳出(同上)の規模は,32兆5,857億円と,前年度比で0.1%の減少となった。
主要経費別にみると,地方財政関係費,国債費,経済協力費が高い伸びを示した。一方,食糧管理費等が前年度比減少となった。歳入については,厳しい財政事情にかんがみ,59年度の公債発行予定額は12兆6,800億円と,前年度補正後発行予定額から1兆1,100億円の減額を行い,この結果,59年度予算における公債依存度は25.0%となり,前年度当初予算から1.5%ポイント低下した。
〈1〉公共事業の執行促進
59年度の財政政策の推移をみると,59年4月17日の閣議決定では,上半期の公共事業等の施行においては,内需の振興に資するような執行を行うこととし,景気の動向に応じて機動的,弾力的な施行を推進するとともに,景気回復の遅れている地域においては必要に応じ施行の促進を図ることが決定された。
これを受けて4月26日の公共事業等施行対策連絡会議において,施行の促進を図るべき地域の基準が決定されるとともに,その他の地域においてもそれぞれ地域経済の実情に応じた機動的,弾力的な施行を図ることとなった。
〈2〉年度補正予算
59年度補正予算は60年2月13日成立した。この補正予算においては,災害復旧費の追加,給与改善費及び義務的経費の追加等,当初予算作成後に生じた事由に基づき,特に緊要となった事項等について措置を講ずることとした。公債発行については,建設公債1,850億円を追加発行することとしたため,公債の総発行予定額は12兆8,650億円となり,この結果,補正後の公債依存度は,25.0%(当初予算ベースも25.0%)となった。
59年度の財政資金対民間収支は,外為の場超幅の拡大があったが,国債の発行超幅が新規財源債の発行減等に伴い大幅に縮小したことから,全体では7,547億円の散超(前年度,散超837億円)となった。
〈1〉60年度予算
60年度予算は60年1月25日国会に提出され,3月9日衆議院,4月5日に参議院でそれぞれ可決成立した。60年度予算は,臨時行政調査会による改革方策の着実な実施を図るなど,特に,歳出面において,経費の徹底した節減合理化を行うことを基本として,その規模を厳しく抑制しつつ,限られた財源の中で質的な充実に配意することとし,併せて歳入面においても,その見直しを行いこれにより,公債発行額を可能な限り縮減することを基本としている。
この結果,60年度一般会計予算額は,52兆4,996億円となり,前年度に比べ,3.7%増となった。また,一般歳出(国債費及び地方交付税交付金以外の歳出)の規模は,32兆5,854億円で前年度比△0.0%の減となっている( 第10-1表 )。
(ア)歳入予算
一般会計歳入のうち租税及び印紙収入は,前年度補正後予算額に対し,3兆7,150億円増の38兆5,500億円になると見込まれている。
税外収入については,現下の厳しい財政事情にかんがみ,可能な限りその確保を図ることにしている。
(イ)歳出予算
歳出予算総額の前年度比増加率は3.7%となった。主要な経費についてみると,社会保障関係費については,今後の高齢化社会の進展等に対応して,将来にわたって,社会保障制度を安定的かつ効率的に運用していくため,制度・運営の不断の見直しが必要であるが,昭和59年予算で進めた医療保険,年金,雇用保険及び育英奨学事業等の本格的な制度改革の上に立って合理化,効率化を進めることとし,9兆5,736億円を計上している。
公共事業関係費については,厳しい財政事情のもと,国民生活充実の基盤となる社会資本の整備に重点的に配慮しつつ,総額6兆3,689億円(前年度当初予算に比し1,511億円減,2.3%減)を計上している。
この場合,景気への配意とも関連し,国費はマイナスとしつつも,一般公共事業費については種々の措置を行うことにより,前年度を上回る水準(対前年度比4,606億円増,3.7%増)を確保することとしている。
経済協力費については,厳しい財政事情の下で,個々の施策の優先度について十分吟味を行った上で重点的に財源を確保することとしており,対前年度比7.8%増の5,863億円を計上している。(一般会計ODA関連予算は10.0%増)。
エネルギー対策費については,中長期的なエネルギー需給見通しを踏まえ,石油の安定供給の確保,石油代替エネルギー開発・導入を引き続き計画的かつ着実に推進することとし,前年度比4.2%増の6,288億円を計上している。
〈2〉 60年度財政投融資計画
60年度の財政投融資計画の策定に当たっては,対象機関の事業内容,融資対象等を厳しく見直すとともに,資金需要の実態及び政策的な必要性を勘案し,重点的・効率的な資金配分を行うこととしている。
この結果,60年度の財政投融資計画の規模は20兆8,580億円であり,59年度計画額21兆1,066億円に対し2,486億円(1.2%)の減少となっている。また,資金配分については,国民生活の向上と国民経済の発展に資する見地から,住宅,生活環境整備,道路,技術開発,経済協力等に重点的に配意することとしている。
60年度財政投融資の原資は,59年度計画額に対し1兆1,514億円(4.7%)増の25兆8,580億円を計上している。このうち,20兆8,580億円については,60年度財政投融資計画の原資に,また,5兆円については60年度において発行される国債の引き受けに充てることにしている。
〈3〉60年度地方財政計画
昭和60年度の地方財政計画は,地方財政が累積した巨額の借入金を抱え引き続き厳しい状況にあることにかんがみ,おおむね国と同一の基調により,歳入面においては,地方債の抑制に努めるとともに,地方税負担の公平適正化を推進しつつ地方税源の充実と地方交付税の所要額の確保を図り,歳出面においては,経費全般について徹底した節減合理化を図るとともに,限られた財源の重点的配分と経費支出の効率化に徹し,節度ある行財政運営を行うことを基本として策定された。
歳入面においては,地方税負担の現状と地方財政の実情にかんがみ,地方税について,個人住民税均等割の税率の見直し等,住民負担の公平適正化を図るための措置が行われた。
また,昭和60年度においては国庫補助負担率の引下げが行われたがそれに伴う地方負担の増加額5,800億円に相当する額については地方交付税の特例措置1,000億円及び建設地方債の増発4,800億円により完全に補てんし,地方財政の運営に支障がないよう配慮することとされた。
歳出面については,経費全般についての徹底した節減合理化,限られた財源の重点的配分と経費支出の効率化を基本としている。昭和60年度の地方財政計画の総額は前年度(48兆2,892億円)に比し4.6%増の50兆5,271億円を計上している。なお公債費を除いた一般歳出の伸び率は4.0%増となった。