昭和60年

年次経済報告

新しい成長とその課題

昭和60年8月15日

経済企画庁


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第2章 新しい成長の時代

世界経済は,1970年代初めから1980年代初めにかけての「石油危機とインフレの10年」の苦渋に満ちた調整過程を経て,今やインフレなき「新しい成長の時代」に入っていくことが期待されている。

この新しい成長は,情報化とエレクトロニクスなどの技術革新の流れを養分に,市場機構,民間活力を一層活用しようとする各国の経済政策によって耕され,スタグフレーションの厳しい環境の中で芽をふくらませ,生育してきたものである。

とくに経済的にも重要性を増し,活力と大きな可能性を有している,太平洋地域という土壌で,新しい成長が最も目覚ましく開花している。

我が国経済も,昭和40年代後半から50年代にかけて成長の減速,二度の石油危機を始めとする外的ショック,国内における各種の構造変化を経験し,資源・エネルギニ制約をはじめ,各種の成長制約要因を必然的に強く意識せざるを得なかった。

結果的には我が国は第1次石油危機後の落ち込みを除けば,他の先進諸国に比較してはるかに安定的な成長を実現してきた。その間における調整は非常に厳しいものであったが,50年代末に至りこうした調整期も終了し,各種の成長制約要因も,少なくとも差し当たり解消ないし軽減していることが明らかになってきた。こうした中で我が国経済社会は,情報化,ソフト化・サービス化,国際化を軸に,新しい成長の時代を迎えつつある。

その特徴は,まず企業部門を中心とし,技術革新に支えられた情報化の進展である。情報・通信技術の革新は,市場での競争を通じ経済社会全体の多面的な情報化を促し,新たな活力と対応力を生み出し,経済社会全体を大きく変化させていく。

第2の特徴は,最近家計部門において質の重視,多様化,個性化,などの現象としてみられる,生活におけるソフト化・サービス化の進展とでもいうべき変化である。これは先の情報化の進展と呼応しながら,経済社会,産業構造の変化を促進し,新たな需要を生み出している。

第3は国際化であり,特に重要性の増しつつある太平洋地域を中心に,各国経済の相互依存の深まりが,一層進展していることである。我が国経済もその一員として高い成長からの利益を享受し,かつ自らもその中で重要な役割を果たすことが求められている。

しかし,こうした新しい成長の時代への移行はまだ終了したわけではなく,その間に解決すべき問題が残されている。まず,高度情報化,国際化がどのように進展するか,今後十分見極めていく必要がある。さらに,高度情報化の進展に伴い,国民生活の不安が拡大したり,社会生活に混乱を招くことがないか,特に失業が増大しないか,という問題がある。また,国際化の進展に伴い,必要な産業調整を円滑に行い得るかという問題も重要である。これらの問題は経済全体の成長の中で解決していくべきであるし,またそれは可能であると考えられる。こうした見地から,本章ではまず今日までの経済成長と景気循環のパターンの変化を回顧し,次いで新しい成長の各要因がどのように育ちつつあるかをみる。最後に新しい成長への移行に際し解決すべき問題について,その解決の方向を探ることとする。


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