昭和59年
年次経済報告
新たな国際化に対応する日本経済
昭和59年8月7日
経済企画庁
58年度の地域経済の動向をみると,鉱工業生産は,回復テンポに地域差がみられるものの,北海道を除いて増加傾向を続けた。建設活動は,ほとんどの地域で住宅建設が民間資金住宅の好調を背景にいくぶん持ち直したが,公共工事は公共投資抑制のあおりを受け低調な動きとなった。個人消費については多くの地域で大型小売店販売額,乗用車販売とも盛り上がりを欠いた。雇用情勢は,大部分の地域で年度後半より有効求人倍率の改善がみられた。
地域別にみると,電気機械など輸出産業が多く立地している関東,東北,九州ではいち早く景気が回復し,北陸,東海,近畿でも景気の回復がみられた。
しかし,中国,四国では,景気回復が遅れ,また,公共工事,一次産業依存度の高い北海道では景気の停滞が続くなど地域経済にはなおばらつきが残されている。
(地域差のみられる回復テンポ)
鉱工業生産は,57年10~12月期を底にして回復に転じ,58年度を通じ一貫して高い伸びを示した。回復のテンポは地域によって様々であるが,おおよそ次の3グループに大別される(第12-1図)。
その第1が,回復テンポの速い地域であり,東北(58年度伸び率7.6%),関東(同8.1%),北陸(同9.7%),九州(同7.8%)の各地域である。まず,東北は,電子部品関連企業の立地が活発に行なわれたことに加えて,最もウエイトの大きな電気機械が輸出中心に急増したため,高い伸びを続けた。関東でも,電気機械関連企業が多く立地しているため,東北にくらべて出足は鈍かったものの,回復テンポはむしろ東北を上回っている。北陸は輸出依存度の高い合繊織物関連業種のウエイトが高いため,好不調の波が大きいが,今回の回復局面の初期では,その回復テンポは他のいずれの地域よりも速かった。九州では,今回の回復局面での出足はかなり遅れたが,電子部品関連業種の好調に加えて,鉄鋼や輸送機械,化学などの回復もあり,58年10~12月期以降の回復テンポは,他の3地域を上回っている。
第2グループは,回復を続けているがそのテンポの遅い地域であり,東海(58年度伸び率5.0%),近畿(同5,1%),中国(同3.2%),四国(同5.0%)の各地域である。これらの地域は,56~57年に前年水準を割り込み,58年4~6月期になってはじめて前年水準を回復した。
第3グループは,北海道(58年度伸び率0.9%減)である。北海道は,全産業に占める製造業のウエイトは小さいが,その製造業は食料品や木材・木製品,窯業・土石製品などの素材型業種に特化しており,今回の景気回復の主因となった輸出産業が少ないため,第2次石油危機以降の停滞がそのまま続いた。
(過去のピークへの回復度)
次に前回の全国の景気のピーク時である55年2月の水準への回復度合いをみよう(第12-2図)。これも回復テンポの差を反映して前述のような3グループに大別される。
第1グループでは,いずれの地域も58年4~6月期に,55年1~3月期の水準及び直近のピークの水準を越えている。まず,東北は55年10~12月期には早くもピーク時水準を越え,その後拡大を続けた。九州は,関東とほぼ同じ動きをしたが,56年7~9月期から1年間はやや停滞的であり,58年10~12月期以降の拡大テンポは早まった。
北陸は,主力の合繊織物が不振であったこともあり,58年4~6月期まで,55年1~3月期のピーク水準を回復しなかったが,その後は他の3地域を凌ぐテンポで拡大した。
第2グループでは,いずれの地域でも,55年以降そのピークを下回ってきたが,東海,近畿は,58年7~9月期,中国は59年1~3月期にそれぞれピークを越えた。また,四国は59年1~3月期にほぼピーク水準を回復した。
しかし,第3グループの北海道では停滞が長く続き,回復の動きはみられなかった。
(持ち直し傾向となった住宅建設)
58年度の新設住宅着工戸数は,113万5千戸,前年度比1.9%減と低調であった。これは年度前半の落ち込みの大きい地域が多かったためである。年度後半からは東北,北陸を除いて,回復または下げ止まり傾向がみられる(第12-3図)。
資金別にみると,公的資金住宅の落ち込みが全体の不振をもたらしたことが明らかである。
(低調に推移した公共工事)
公共工事は,全国で前年度比2.9%減と28年振りに前年度を下回ったが,地域別にみても本四連絡橋工事で公団からの発注増があった四国を除き,いずれの地域でも低調なものとなった(第12-4表)。
第12-4表 58年度公共工事請負金額の対前年度増減率(発注者別)
その中でも公共投資依存度の高い北海道,東北での落ち込みが目立っており,これが北海道の景気の停滞を強める要因となった。
このように,住宅建設は持ち直しているものの,公共工事については,58年度に引き続き59年度も厳しい状況が続くことが予想される。
(回復に転じた大型小売店販売と伸び悩んだ乗用車)
58年度の個人消費の動向をみると,大型小売店販売額は4~6月期に概ね底を打ち緩やかに回復する動きに転じたが,年度を通じて盛り上がりに欠ける動きとなった。百貨店が3.1%増(売場面積調整後0.3%増)と前年度の伸び(2.3%増,売場面積調整後0.1%増)をやや上回ったものの,セルフ店は4.2%増(売場面積調整後0.8%減)と前年度の伸びを下回っている。
地域別にみると底入れ時期は百貨店でのばらつきが目立ち,また,底入れ後は関東,北陸で比較的堅調に推移しているほかは,総じて盛り上がりに乏しい動きとなった。
これに対して,セルフ店では地域別のばらつきがさほどみられず,近畿(57年10~12月期)と北海道,九州(58年7~9月期)を除いてほぼ58年4~6月期に底を打っている。底入れ後は,関東,北陸,中国で比較的堅調に推移しているものの,北海道,東北をはじめとして盛り上がりに欠ける地域が多い。
一方,乗用車の販売動向を乗用車新規登録・届出台数でみると,58年度は3.1%増と前年度の伸び(5.4%増)をかなり下回った。
地域別には,沖繩,関東が前年度に続いて堅調に推移しているものの,九州ではわずかではあるが前年を下回っており,北海道,東北,中国,四国でも低調な動きとなった。
(回復の動きがみられた雇用情勢)
労働力需給を有効求人倍率でみると,全国では57年度0.60倍から58年度0.61倍とほぼ横ばいで推移したが,地域別では,北海道,関東,東海,中国が前年を下回った。
四半期別の推移では,東海,中国(58年7~9月期)を除くほとんどの地域で4~6月期を底上に上昇傾向にある。しかし,そのテンポは地域によってかなり差異がみられた。各地域の底から59年1~3月期までをみると,東海,北陸,関東の回復テンポが早く,対照的に北海道,四国,九州の動きは鈍いものとなった(第12-7図①)。
次に,所定外労働時間の動きを年平均でみると,生産の好調を反映して全国では58年は前年の落ち込みから回復し,56年水準に戻った。
地域別にみると,東北,関東,東海,北陸,沖繩で顕著な増加となっており,近畿,九州でも上向いた。しかし,四国では横ばい,北海道,中国では前年を下回っており,特に北海道では生産活動の低迷を色濃く反映し低下傾向が続いた(第12-7図②)。
このように雇用情勢は生産の回復から有効求人倍率,所定外労働時間とも大部分の地域で回復傾向がみられたものの,地域別にみると,関東,東北,東海,北陸の回復テンボが速いのに対し,北海道では厳しい状況が続き,中国,四国でも回復のテンポは鈍いなど,依然低調な地域が残された。