昭和59年

年次経済報告

新たな国際化に対応する日本経済 

昭和59年8月7日

経済企画庁


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8. 財  政

(1) 58年度の財政政策とその背景

我が国経済は,56年末にようやく第2次石油危機のデフレ効果から脱したものの,輸出の減少とアメリカの高金利によって57年度中はその回復が制約された。

58年度にはいって,アメリカ経済が回復に転じ輸出が増加するとともに,国内の在庫調整もほぼ一巡したことから,景気は緩やかながら着実に回復し,59年度に入っても国内需要の回復力を次第に確実なものとしつつ着実な拡大を続けている。

こうした背景の下で58年度の財政政策は,財政改革の推進,という環境下で,可能な限り弾力的な運営が行なわれた。

(2) 58年度当初予算

我が国経済を取り巻く環境が,大きく変化していく中で,財政事情は一段と深刻さを加えている。他方,財政の再建を強力に推進し,その対応力を回復することが,我が国経済にとり,一層緊急かつ重要な政策課題となっている。

このような背景の下で,58年度予算は,歳出面においては経費の徹底した節減合理化によりその規模を巌しく抑制するとともに,歳入面においても公債発行額を可能な限り抑制することを基本方針として編成された。このため,特に一般歳出については,全体として前年度同額以下にまで抑制された。この結果,一般会計予算の規模は,50兆3,796億円となり,前年度比1.4%増という低い伸びとなった(第8-1表)。また,一般歳出の規模は32兆6,195億円となり,前年度比0.0%の減少となった。主要経費別にみると,経済協力費,国債費,エネルギー対策費が高い伸びを示し,公共事業関係費は前年度比横ばいとなった反面,その他の一般的経費の伸びは低いものとなった。歳入については,巌しい財政事情の下で58年度の公債発行予定額は,13兆3,450億円と,前年度補正後発行予定額から1兆円の減額を行い,この結果58年度予算における公債依存度は26.5%となった。

第8-1表 予算規模の推移

(3) 58年度の財政政策

① 公共事業の執行促進

58年度の財政政策の推移をみると,58年4月12日の閣議決定および4月25日の公共事業等施行対策連絡会議において公共事業等の年度上半期契約目標を72.5%とすることが決定された。また地方公共団体においても70%以上の執行促進を図るよう要請された。また,58年10月21日の経済対策閣僚会議において,内需を中心とした景気の維持・拡大等を図るため公共投資等の推進をはじめとする当面の政策運営が決定された(「総合経済対策」)。

なお59年3月末の公共事業の契約実績は,国96.1%,都道府県96.4%となった。また59年度上半期についても内需の振興に資するような執行を行うこととされた(59年4月17日閣議決定)。

② 58年度補正予算58年度補正予算は59年2月24日に成立した。この補正予算においては,災害復旧費の追加,給与改善及び義務的経費の追加等,当初予算作成後に生じた事由に基づき,特に緊要となった事項等について措置を講ずることとした。公債発行については,建設公債4,450億円を追加発行することとしたため公債の総発行予定額は13兆7,900億円となり,この結果,公債依存度は,当初予算ベースの26.5%から27.1%となった。

(4) 財政資金対民間収支の動向

58年度の財政資金対民間収支は,国債の発行額及び外為の受超幅が大幅に減少したことから,全体では前年度(受超2兆2,276億円)と様変りの836億円の小幅払超となった。

(5) 59年度予算,財政投融資計画及び地方財政計画

59年度予算は59年2月8日国会に提出され,3月13日衆議院,4月10日に参議院でそれぞれ可決成立した。59年度予算は臨時行政調査会による改革方策の着実な実施を図るなど,特に,歳出面において,その規模を巌しく抑制しつつ,限られた財源の中で質的な充実に配意することとし,あわせて歳入面においても,その見直しを行い,これにより,公債発行額を可能な限り抑制することを基本としている。

この結果,59年度一般会計予算額は,50兆6,272億円となり,前年度当初予算に対し0.5%増となった。また,  一般歳出 (国債費及び地方交付税交付金以外の歳出)の規模は,32兆5,857億円で前年度比0.1%減となっている(第8-2表)。

第8-2表 一般会計歳出予算の主要経費別分類

(ア)歳入予算

一般会計歳入のうち租税及び印紙収入は,前年度補正後予算額に対し2兆6,940億円増の34兆5,960億円になると見込まれている。税外収入については,現下の極めて厳しい財政事情にかんがみ,特別会計及び特殊法人からの一般会計納付等の措置を講ずる等,思いきった増収を図っている。

(イ)歳出予算

歳出予算総額の前年度比増加率は0.5%となった。

主要な経費についてみると,社会保障関係費に関しては,高齢化社会の進展等に対応して,将来にわたって社会保障制度を安定的かつ効率的に運用していくため,従来にも増して,給付の重点化と負担の適正化等を進めていく必要がある。

このため59年度予算では,中長期的観点にたった医療保険制度の改革を図るとともに,年金制度についても,長期にわたり安定的に機能することを主眼とする改革措置を講ずるとともに,社会的,経済的に弱い立場にある人々に対しては,重点的かつ効率的に福祉施策を推進していくこととして,その結果,9兆3,211億円が計上されている。

地方財政対策としては,国と地方の厳しい財政状況を踏まえ,次のような措置をとることとしている。

まず,地方の財源不足に対処する方法として,50年度以降続けられてきた,交付税及び譲与税配付金特別会計において資金運用部から借入れを行う方策を今後原則として行わないこととし,これに代って,当分の間,地方交付税総額について特例措置を講ずることとしている。あわせて,既往借入金に係る元金償還の国負担額を一般会計の借入金に振替整理し,償還責任を明確化することとともに,同特別会計の借入金の償還方法を変更することとしている。

この結果,地方交付税の総額は,8兆5,227億円(前年度当初予算に対し3,458億円(3.9%)減),地方債計画の規模は7兆2,100億円(58年度に対し3,311億円(4.4%)減)となった。

公共事業関係費については,厳しい財政事情のもと,国民生活充実の基盤となる社会資本の整備に重点的に配意しつつ,総額6兆5,200億円(前年度当初予算に比し1,354億円(2.0%)減)が計上された。

経済協力については,個々の施策の優先度について十分吟味を行った上で重点的に財源を配分することとしており,59年度予算においては前年度比7.9%増の5,439億円を計上している(一般会計ODA関連予算は9.7%増)。

エネルギー対策費については,中長期的なエネルギー需給見通しを踏まえ,石油の安定供給の確保,石油代替エネルギー開発・導入を引き続き計画的かつ着実に推進することとし,58年度予算案に対し0.9%増の6,031億円を計上している。

② 59年度財政投融資計画

59年度の財政投融資計画の策定に当たっては,厳しい原資事情にかんがみ対象機関の事業内容,融資対象等を厳しく見直すことによって,規模の抑制を図り,政策的な必要性に即した重点的・効率的な資金配分を行うこととしている。また,民間資金の活用を図り,対象機関の円滑な事業執行の確保に配慮することとしている。

この結果,59年度財政投融資計画の規模は21兆1,066億円となり,58年度計画額20兆7,029億円に対し4,037億円(1.9%)の増加となっている(第8-3表)。また,資金配分を使途別分類でみると,国民生活の向上とその基盤整備に資する見地から,道路,住宅,中小企業,経済協力,資源・エネルギー等に重点的に配慮することとしている。

第8-3表 財政投融資計画の使途別分類

59年度財政投融資の原資は,58年度計画額に対し3,037億円(1.2%)増の24兆7,066億円を計上している。このうち21兆1,066億円については,59年度財政投融資計画の原資に,また3兆6,000億円については59年度において新たに発行される国債の引受けにそれぞれ充てることとしている。

③ 59年度地方財政計画

現下の地方財政は,巨額の借入金を抱え,これ以上の借入金依存は地方財政の基盤をゆるがせかねない状況にあり,今後行財政改革の積極的推進と財政体質の抜本的改善が喫緊の課題となっている。このため,交付税及び譲与税配付金特別会計における新たな借入れは,原則として行わず,当分の間,法律の定めるところにより地方交付税総額について特例措置を講ずることとし,あわせて既往の借入金について,国・地方の負担区分に応じて分割整理するなど地方財政対策の見直しを行うこととする。

59年度の地方財政計画は,地方財政が引き続き大幅な収支不均衡の状態にあることにかんがみ,おおむね国と同一の基調に立ち策定されている。歳入面においては,最近における地方税負担の状況及び厳しい地方財政の実情にかんがみ,住民負担の軽減及び合理化を図るため,個人住民税について基礎控除等の所得控除の額の引上げ,市町村民税所得割の税率及びその適用区分の調整,低所得者層に係る非課税限度額の引上げ等の措置を講ずるとともに,法人住民税均等割の税率の引上げ,自動車税及び軽自動車税の税率の調整並びに固定資産税等に係る課税標準の特例措置等の整理合理化等を行うこととした。歳出面においては,経常経費,投資的経費を通じてその抑制を徹底して行い,経費支出の効率化と限られた財源の重点的配分に徹している。

この結果,昭和59年度の地方財政計画の総額は,48兆2,892億円であり,前年度に比し,8,032億円(1.7%)の増加となった(第8-4表)。また,公債費を除いた一般歳出の伸び率は0.9%増となった。

第8-4表 地方財政計画


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