昭和59年

年次経済報告

新たな国際化に対応する日本経済 

昭和59年8月7日

経済企画庁


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3. 設備投資

(1) 回復した設備投資

58年度の民間企業設備投資は,実質GNPベースで36兆5,400億円となった。これを前年度比でみると,56年度4.8%増,57年度2.8%増のあと58年度は3.8%増(第3-1表)となり,57年度後半からの調整局面は比較的軽微なうちに終了し,回復に転ずることとなった。また前月比でみると,4~6月期0.9%増,7~9月期1.7%増,10~12月期2.1%増,59年1~3月期3.0%増と増加幅は徐々に拡大しており,特に年度後半以降本格的な回復局面に入ったことを示している。これは,この時期から中小企業製造業の設備投資が顕著な伸びを示し始めたことや,大企業でも電気機械等を中心に増額修正の動きが活発化したことなどによる。

第3-1表 民間設備投資関係指標の動向

こうした動きを規模別・産業別に概観すると,まず大企業製造業では,繊維,パルプ・紙,電気機械などが牽引力となって,全体として回復しているが,鉄鋼,窯業・土石など前年度を下回る業種もある。一方,大企業非製造業では,リース業の高い伸びが全体を押し上げる役割を果たしているが,電力投資の不規則な動きを勘案すると全体的には強含みで推移している。

これに対して中小企業では,製造業が,更新,合理化投資を中心に年度後半以降高い伸びを示しているが,建設,木材関連の産業では不調が続いている。また非製造業ではサービス業を中心に回復しつつある。

このように,設備投資は,全体としては回復しているが,その中心は輸出関連や先端技術の分野であり,業種別の回復の程度にはなおばらつきが見られる。

(2) 設備投資の回復要因

今回の設備投資の回復をみると,2つの要因が考えられる。1つは,アメリカ経済の回復に伴う輸出の増加の影響である。すなわち,アメリカ経済は,57年10~12月期をボトムに急速に回復したが,これによって我が国の輸出も58年1~3月期から増加に転じ,58年度全体としては12.8%増となった。

この輸出の影響をみるために,設備投資の変動に内外需がどれだけ寄与しているかを調べてみよう(第3-2図)。まず,前回回復の53年度には,設備投資の伸びのほとんどは,積極的な財政政策もあって内需によって引き起こされた。これに対して,外需は,円高等の影響から,ならしてみると設備投資の増加には寄与しなかった。

第3-2図 設備投資増加の内外需別寄与

しかしながら,55年度に入って景気が後退局面を迎えると,内需の寄与は低下し,57年度まで一進一退の動きを続ける。これとは逆に外需の設備投資に対する寄与は,55,56年度とプラスに働き続けた。このことは,景気後退局面にあっても,設備投資が堅調さを維持した一因が外需にあることを示しており,事実当時活発に行われた設備投資は,シームレス・パイプ関連設備,VTR,半導体の製造設備など,輸出関連産業や輸出関連品目に関わるものであった。

57年度に入ると,輸出の減少から,この外需による下支え効果がなくなり,設備投資も調整局面に入った。しかし,58年に入ると,国内的には在庫調整が一巡し,対外的にも,すでにみたようにアメリカの景気回復から輸出が増加し始めた。こういった状況から設備投資は再び回復し始めるが,今回の設備投資の回復要因を前回と比較してみると,58年度前半は,外需の設備投資の増加に対する寄与率が50%以上となり,後半になると内需の寄与率が増加している。このように,我が国の設備投資は,55年以降外需の動きに影響されている部分が大きく,今回の回復期についてもその初期において設備投資を索引する役割を果たしている。

設備投資回復のいま一つの要因は,中小企業における設備投資の盛り上がりである(第3-3図)。過去の回復期と同様,今回の回復期においても中小企業が大企業に先行するという回復パターンとなったが,特に,年度後半からの中小製造業の回復が顕著であった。ちなみに,日本銀行「短期経済観測」(以下日銀「短観」という)での中小製造業の設備投資実績は,57年度12.0%減に対し,58年度は10.9%増となっており,中小企業金融公庫の「製造業設備投資動向調査」でも,57年度8.7%減に対して,58年度6.3%増となっている。

第3-3図 中小企業の設備投資環境

このような中小企業設備投資の回復については,①従来から中小企業の設備投資は,景気動向に対して敏感に反応するため,今回の景気回復期においても,業況の改善とともに設備投資が回復した,②55年度後半から3年近くに亘って設備投資の低迷が続いたため,更新投資や技術革新に追いつくための合理化・省力化投資意欲が高まっていたことなどがその要因としてあげられる。

(3) 業種別動向

次に,業種別の設備投資動向について詳しくみていこう(第3-4図)。まず,製造業全体の伸び率をみると,法人企業統計季報(大蔵省)の実質ベースの増減率は,56年度7.2%増,57年度2.0%増と伸びが鈍化した後,58年度は5.4%増と回復に転じた。このように,58年度に入ってから製造業が回復に転じた理由としては,すでにみたようにアメリカの景気回復に伴って,電気機械を始めとする輸出関連業種の設備投資が伸びたこと,技術革新の進展により,新素材,エレクトロニクス機器などに対する需要が増加したことなどがあげられる。

第3-4図 主要業の設備投資(大企業,前年同期比)

こうした要因で設備投資が伸びた業種をみると,電気機械は,内外需とも好調なVTRや,エレクトロニクス機器の製作に欠かせないIC,LSIなどの製造設備によって,年度後半から増額修正を行う程好調であった。また,繊維でも,アメリカ・イラン向けの輸出が増加したことから,織物分野で新型織機の導入が相次いだ。

先端技術関連の投資としては,パルプ・紙において,感光紙などのオフィス・オートメーション (OA)機器向けの需要が増加したことから低迷を続けてきた設備投資が回復し,化学,非鉄金属でも,それぞれ医薬品分野,光ファイバー関連の設備投資を中心に増加している。また一般機械は,NC工作機械の製造設備に一般感があることや,建設機械の不調から全体としては低下しているが,OA機器関連の設備については増加している。

これに対して,連続鋳造設備,シームレスパイプ製造設備などの大型投資が一巡した鉄鋼では大きく減少しており,自動車のFF化がブ段落した輸送機械でも,中小企業ではかなり積極的な投資が続いているものの,全体としては弱含みで推移している。また窯業・土石も,建設業の業況が不振なこともあり設備投資は減少している。

一方,非製造業の設備投資は,製造業と同じく法人企業統計季報ベースでみると,56年度4.9%増,57年度3.6%増の後,58年度は15.9%増とかなりの増加となった。58年度の非製造業設備投資がこのように増加した背普としては,電力業の前倒しや積み増し,中小企業サービス業のなかで成長産業であるリース業が増加してきたことなどの要因が考えられる。

こうした動きをより細かい業種についてみていくと,まず卸,小売業では,56年度中は消費の低迷に伴って設備投資は減少していたが,最近では大型小売店の積極的な店舗展開もあり増加している。不動産業も賃貸マンションの建設や大規模再開発プロジェクトなどから58年度は増加した。これに対して,運輸・通信業では,海運業で鉱炭船,LNG船などへの投資が一段落し,総じて減少している。但し一部で航空機の購入などの大型投資もある。また,サービス業では,すでにみたように,リース業がOA化,FA化の高まりから電子計算機,ファクシミリなどのエレクトロニクス機器を中心に業客を拡大しており,そのため設備投資も着実に増加している。

(4) 今後の設備投資動向

59年度の設備投資計画をみると,大企業では経済企画庁「法人企業投資動向調査」で3.9%増,日銀「短観」で5.3%増となっている。このうち製造業の設備投資は,前者調べで5.8%増,後者調べで11.0%増どなっており,非製造業では,前年度に積み増しが行われた電力業の反動減もあって,前者調べで2.4%増(除く電力5.2%増)後者調べで横ばい(同1.9%増)となっている。

方,中小企業の59年度設備投資計画をみると,日銀「短観」では4.4%減,中小企業金融公庫「製造業設備投資動向調査」では8.7%減となっている。いずれの調査においても58年度物績を下回っているが,年度全体の設備投資計画が十分固まっていない時期の調査であることを考慮すると,この増減率がそのまま実現すると判断することはできない。むしろ過去の同時期の調査に比べて,活発な設備投資意欲が窺われることから,最終的には相当程店の上方修正が行われることが予想される。

以上から,今後の設備投資は,全体的には着実に増加していくものと考えられる。


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