昭和58年
年次経済報告
持続的成長への足固め
昭和58年8月19日
経済企画庁
57年度の農業生産は,耕種生産が前年度比2.0%増,畜産生産が伸びを高め2.7%増となったことから,農業総合で2.2%増となった( 第7-1表 )。
主要作目についてみると,米の生産は,作付面積の減少に加え作柄が「やや不良」となったことから0.1%の増加にとどまった。前年度不作であった麦類は作柄も回復し16.7%増となり,いも類や豆類の生産も増加した。野菜は,春野菜が増加したものの,夏秋野菜が低温や台風等の影響から減少し,秋冬野菜もわずかに減少したため,全体ではほぼ前年度並みとなった。前年度に低温や台風の影響で減少した果実は,みかん,りんご,ぶどう等総じて増加し,全体で8.0%の増加となった。畜産生産は,肉用牛が乳用種の減少により高水準であった前年度に比べ伸びは大きく鈍化したものの,牛乳が需給改善から,ブロイラーが飼料価格の低下などから増勢を強め,さらに豚は前年度の減少から増加に転じ,鶏卵も増加基調で推移した。
57年度の農産物生産者価格は,農産物需給が総じて緩和基調で推移したため,総合で前年度比2.1%の下落となった( 第7-2表 )。
品目別にみると,主要な行政価格は,米の政府買入価格が1.1%,加工原料乳の保証価格が0.6%それぞれ引き上げられ,麦の政府買入価格は据え置かれた。一方,市場で価格が形成される品目では,野菜は,夏秋野菜が上昇したものの春野莱が大幅に下落したことから,前年度を4.2%下回った。果実は,みかんをはじめ総じて生産量が増加したため12.1%下落した。畜産物は,牛肉,豚肉,生乳が強含みで推移したものの,ブロイラーが弱含み鶏卵が大幅に下落したことから,畜産物全体では2.3%下落した。
第7-2表 農産物生産者価格,農業生産資材価格の動向(前年度比騰落率)
他方,農業生産資材価格は,一般卸売物価の安定や海外原材料価格の下落などから,総合で前年度比0.3%の下落となった。飼料は,アメリカにおける夏以降の穀物価格の下落による配合飼料価格の引き下げもあって,前年度比4.9%下落した。光熱動力は年度前半の原油輸入価格の上昇から6.4%上昇した。
このため,農業の交易条件指数は前年度を1.8ポイント下回り,4年連続の低下となった。
57年度の農業所得(農家1戸当たり)は前年度比1.1%の減少となった( 第7-3表 )。これは,農業粗収益が農産物価格の下落から2.1%増と伸び悩み,農業経営費が資材投入量の増加等から4.1%増と農業粗収益の伸びを上回ったためである。一方,農外所得は一般賃金の伸び率低下を反映し前年度比6.3%増と56年度の伸びをやや下回った。この結果,これらを加えた農家所得は前年度比4.8%増と56年度の伸びをやや下回った。こうしたことから,農家所得に占める農業所得の割合を示す農業依存度は,55年度21.1%,56年度20.3%のあと,57年度は19.4%と引き続き低下した。
しかし,農家所得に出稼ぎ被贈年金扶助等の収入を加えた農家総所得は,年金等の収入の増加もあって前年度比5.9%増と前年度並みの伸びとなった。また,家計費は4.1%増と伸びはほぼ横ばいであったが,農村消費者物価が一段と安定したことから,実質現金家計費は2.4%増と伸びを高めた。
本報告で述べたように,我が国農業の課題としては,土地利用型部門の効率化が重要となっている。稲作等の土地利用型部門においては,30年代以降機械化・化学化の著しい進展により生産性向上が図られてきたが,経営耕地規模の拡大はなかなか進まなかった。施設型部門においては,家畜飼育規模は40~57年に豚は16倍,採卵鶏は28倍などと,経営規模の拡大は急速に進展したものの,農家1戸当たりの経営耕地面積は同期間に10%強の増加にとどまった。また国際比較によっても,我が国の経営耕地規模の増加率は主要先進国の中では最も低いものとなっている。(本報告 第2-13図 )。その背景には経済的条件や制度面の制約など各種の要因があげられようが,以下ではそのうちの1つの要因あでる農地価格の動きを中心にみてみよう。
まず,国際比較により我が国の農地価格水準をみると,45~56年の期間で西ドイツとの比較では2.5~4.0倍,アメリカとの比較では27~44倍程度となっており,我が国の水準は非常に高い。これは,主として我が国の場合は土地が狭小であり,農業の基礎的条件に恵まれていないことを反映したものとみられる。また,同期間における農地価格の上昇率をみると,西ドイツ2.5倍,アメリカ4.2倍であり,我が国は,3.1倍となっている( 第7-4図 )。さらに卸売物価指数との相対指数でみると,各国とも農地価格の上昇率は卸売物価の上昇率を上回って推移しており,実質的にも農地価格はかなり上昇しているとともに,56年の相対指数は各国ほぼ同水準となっている。このことから我が国と欧米先進国との農地価格水準の格差は殆んど縮小していないと考えられる。我が国の場合,こうした実質的な農地価格上昇の要因としては,高度成長期以降の都市化,混住化の進展に伴う住宅地需要の増大,兼業化の進展や資産的保有動機による農地供給の減少等があげられる。
以上のような高水準の農地価格は農地購入による経営耕地規模拡大の制約条件となったため,最近では賃貸借を中心とした農地流動化の促進が図られている。55年には農用地利用増進法が制定されるなど制度面での改善も進められ,利用権の設定面積は54年の2万4千haから57年の10万5千haへと着実に増加している。したがって,中核農家等への土地利用権の集積による経営耕地規模の拡大を進め,土地利用型部門の効率化を図っていくためには,農地流動化の一層の促進が有効であると考えられる。
木材(用材)の需要量は,48年に1億1,800万立方メートルの最高水準に達した後,49,50年と2年連続減少し,51年以降1億立方メートル台で推移したが56年には9,200万立方メートルと1億立方メートルを下回り,さらに57年は9,000立方メートル万と前年に比べ1.8%の減少となった( 第7-5図 )。
57年の木材の用途別動向をみると,製材用材,パルプ用材,合板用材は前年比でそれぞれ1.8%減,2.7%減,5.3%減となった。そこで主要な需要部門である住宅建設と紙パルプ産業の動向をみると,住宅建設は48年に191万戸と最高水準に達したあと第一次石油ショックによる影響等から急減し,51年~54年までは150万戸前後で推移した。57年には115万戸,前年比0.5%減と40年代前半の水準に落ち込んだ。こうした中で非木質系を中心とする住宅の増加もみられ,製材用材,合板用材の需要が低迷した。紙パルプ産業は紙・板紙が56年には需要の減少と価格低迷から生産が減少したが,57年は需要が前年を若干上回り生産はやや回復した。しかし,一方で古紙利用比率が増大したため,パルプ用材の需要は前年を若干下回った。
つぎに,木材(用材)の供給をみると,57年の国産材の供給量は3,200万立方メートル,前年比1.7%増となった。
一方,外材の供給量は5,800万立方メートル,前年比3.6%の減少となった。輸入の動向を丸太,製材品別にみると,丸太はインドネシア産が輸出規制等の影響により大幅減となったものの,米材,マレーシア産が増大したことから前年比4.1%増となった。また,製材品は前年比27.1%増,木材チップは9.5%減となった。
この結果57年の木材自給率は35.7%と前年に比べ1.3ポイント上昇した。
最近の木材価格の動向を日本銀行「卸売物価指数」の製材・木製品の価格指数でみると55年5月から55年末にかけて急激に下落し,在庫調整が完了する56年8月まで下落傾向が続いた。その後上昇に転じ57年1月まではわずかに上昇した。57年2月からは,価格上昇時に手当てされた外材の入荷が始まり,価格は再び下降したが,57年下期には新設住宅着工の増加などにより,緩やかな上昇に転じた。以上の動向から,総じてみれば木材価格はここ数年間下落低迷を続けており,その要因としては,需給の対応が円滑に行われなかったことがあげられる。今後,木材価格の安定を図り,国内の木材関連産業の経営の安定化を図っていくためには,需要動向に見合った供給体制の整備を図っていくことが重要となっている。
我が国の最近の林業生産活動は,木材価格の低迷と経営費増による収益性の悪化傾向などを反映して低調に推移している。
これを人工造林面積の推移でみると,その減少率は近年鈍化しているものの,引き続き減少傾向にある。57年の人工造林面積は14万4千haとなり,これは5年前の78%の水準となっている。実行主体別にみると国営,公営が前年に比ベ減少している。また,人工林は56年3月末に990万haとなっているが,その大半が戦後に造林された間伐林齢に達している育成途上にある森林である。健全な森林育成のためには適切な間伐の実施が必要であるが,実施状況はなお不十分である。
こうした林業生産活動の低調さは,木材価格の低迷や労賃等の経営費の上昇により林家の生産意欲が減退していることのほか,林道等の生産基盤の整備の遅れや林業労働力の高齢化等も原因となっていると考えられる。したがって,森林のもつ木材生産,国土の保全,水資源かん養,自然環境の保全・形成といった諸機能を十分発揮させるためには造林・林道等の基盤整備や林業の担い手養成を図り,林業生産活動を活発化することが重要な課題となっている。
200海里漁業水域が各国において設定された後も,我が国の漁業生産量は遠洋漁業の減少を沖合,沿岸漁業などの生産増によりカバーし,55年1,112万トン,56年1,132万トンのあと,57年は1,141万トンと前年に比べ0.8%増加した( 第7-6表 )。
57年における生産量を漁業種類別にみると,海面漁業の生産量は1,026万トン,前年比1.1%増となった。これは,すけとうだら,さば類などの減少はあったものの,さんまが28%増,前年に引き続きまいわしが7.5%増となったことによる。一方,海面養殖業,内水面漁業の生産量は前年比1.5%減となった。部門別にみると,遠洋漁業は前年比3.6%減となったが沖合・沿岸漁業は2.4%増となった。
57年水産物の輸入は数量で前年比6.5%増,金額で19%増とともに増加した。品目別にみると,輸入額の3割以上占めているえびが数量で前年比5.6%減となったが,さけ・ます,かつお・まぐろ類,いかがそれぞれ50%,24.3%,40.2%増とほとんどの主要品目で増加した。
57年の水産物価格をみると,産地市場価格は前年の上昇率を下回ったものの前年比4.3%の上昇となった。消費者価格は,生鮮魚介が前年比7.9%上昇と伸びの低かった前年(2.8%上昇)を大幅に上回ったが,塩干魚介は4.0%上昇と前年なみの伸びとなった。産地市場価格を品目グループ別にみると,多獲性魚は漁獲量の減少したさば類,するめいかなどの値上がりにより前年比14.5%上昇した。底ものは,かれい,たらなどの漁獲量が減少したため,4.4%上昇した。
我が国の水産物は,40年代以降生鮮品主体から冷凍品,加工品へと形態変化していることに加え,輸入品も増加しており,それに伴って流通構造も大きく変化してきた。流通構造の変化の特徴をみると,①主要水揚港では地元加工冷蔵庫向けの出荷比率が高まり,地元外への直接出荷は相対的に低下している。これは大規模港の冷凍・加工施設が整備され,冷凍・加工能力が増大したことによる。②従来は委託集荷,せり,入札販売が主体であったが,最近では買付集荷,相対販売が増加している。これは冷凍品,加工品が規格性貯蔵性を備えているためであり,その結果として大量流通が可能となっている。③えび類や,かつお・まぐろ類などの冷凍輸入品の増加を背景に,水産会社や商社による産地・消費地市場を経由しない市場外流通も行われるようになるなど流通経路が多元化している。④消費者ニーズの変化もあり,量販店や外食産業等の取扱量が伸びを高めている。
こうした流通構造の変化は,水産物供給の周年化や価格安定化にも寄与したと考えられる。この点についていくつかの魚種で冷凍品比率との関連をみると,40~56年で大幅に冷凍品比率が高まったまぐろは季節度係数,価格変動係数ともに低下しており,周年化や価格安定化が進んだことを示している( 第7-7表 )。また,えびは冷凍品比率は従来から高かったことから,両係数の低下幅は小さいが,その水準が他の魚種に比べかなり低いことが特徴的である。一方,生食用としては冷凍品比率が低く,その比率が同期間で変化の少ないかつおは,両係数の水準は相対的に高く,また周年化もあまりみられない。
以上のように,冷凍化の進展や輸入の増加やそれに伴う流通構造の変化は,消費者ニーズの変化にも適応したものであったといえよう。しかし,水産物の価格上昇率をみると,近年,代替関係にある肉類の価格上昇率を上回って推移しており,これは消費者の高級化志向等を反映している面はあるものの,水産物の需要拡大にとってはマイナス要因となることも懸念される。全般的な食料需給緩和基調の中で今後肉類との競合が強まることも考えられることから,生産流通加工における効率化を進めるとともに,新規需要の開拓,新規商品の開発等が重要となっている。