昭和58年
年次経済報告
持続的成長への足固め
昭和58年8月19日
経済企画庁
57年度の建設活動を「建設投資推計」でみると,続額51兆2,400億円(見込み)で,前年度比増減率は,名目,実質とも1.9%増となった( 第6-1表 )。過去GNPの伸びを上回る高い伸びを示した建設投資は,第1次石油危機を境に伸びが鈍化しており,名目GNPに対する比率は,48年度の24.6%から,57年度には19.2%にまで低下している。
主体別にみると,実質ベースでは民間投資が1.6%の伸びにとどまったのに対し,政府投資は2.4%の伸びを示しており,特に民間部門の不振が目立っている。部門別の動きを実質ベースでみると,建築部門では,昨年度に引き続き1.0%減となったが,土木部門では5.9%増と大幅な増加となったため,全体の建設投資は緩やかながら増加することとなった。
建築部門の内訳をみると,名目で,住宅は1.7%の増加となったが,非住宅は0.2%の減少となった。
一方土木部門では,名目で,公共事業が2.2%増となり,さらに公共事業以外でも8.2%増となった。このように,57年度の建設投資は民間,建築部門の不振が特徴的である。
57年度の建設投資が緩やかながら増加した背景には,物価の落ちつきが大きく寄与している。57年度の建設工事費デフレーターは,建設総合で143.7(50年度=100)となり,対前年度比0.1%の上昇にとどまった。建設工事費デフレーターは55年度以降安定的に推移し,年度平均でみると建設総合で143.2,143.5,143.7と3年間横ばいに近い動きを続けている。これは労務費が上昇したものの資材価格が安定していることによるもので,57年度における変動寄与率を労務費,各資材(25品目)別にみると,労務費0.8%に対して,石材・骨材△0.3%,舗装材料△0.2%,金属製品△0.2%,石油製品0.1%などとなっている。
工事種類別にみると,建築は0.7%上昇,土木は0.8%上昇となっている。これは,木材関係が低水準ながら安定したのに対し,石材・骨材が下落,舗装材料が55年度水準に戻したためで,56年度の建築上昇,土木低下の傾向と逆になっている。
建設資材価格は,57年12月以来安定的に推移している。品目別にみると,鉄鋼は内需不振と輪出の停滞から昨年11月をピークに低下傾向にある。また,製材・木材品は12月まで上昇傾向にあったが,その後円高や内需不振によって低下傾向をたどっている。一方,窯業製品,金属製品は保合い傾向で推移している。
公共投資の動向を公共事業等歳出予算現額でみると,当初予算前年比は56年度0.6%減,57年度3.7%減のあと,58年度も3.6%減となり,公共投資の抑制傾向が続いている。
こうした予算枠の中にあっても機動的な予算執行が行われた。57年度においては,4月9日の閣議決定および4月26日の公共事業等施行対策連絡会議の決定に基づき,上半期の契約目標を77.3%とする公共事業等の前倒し執行を行うこととし,地方公共団体等においても75%以上の執行促進を図るよう要請を行った。この結果,57年9月末の契約率は国等が77.2%,都道府県が75.4%となり,ほぼ目標を達成した。下半期においては,当初予算額が抑制されていることから,契約額が減少することはまぬがれなかったため,57年10月8日には総事業規模2兆700億円の景気対策を盛り込んだ「総合経済対策」が決定された。58年度においても,一般会計の公共事業費予算額(当初)は引き続き前年度比横ばいに据え置かれたが,4月5日の経済対策閣僚会議および4月25日の公共事業等施行対策連絡会議で58年度上半期の公共事業については,目標契約率72.5%と契約促進を図ることが決定された。
このような予算執行状況を反映して,公共工事請負金額の推移をみると,57年4~6月期,7~9月期と年度上半期は増加したものの,10~12月期は前倒しの反動で減少した。しかし,58年1~3月期には総合経済対策の効果があらわれて増加に転じ,年度全体では前年度比3.1%増となった。
一方進捗ベースの公共事業を示す公的固定資本形成の推移をみると,年度を通じてわずかながら実質増となった。しかし,これはデフレーターの落ちつきに助けられた面が大きく,名目の公的固定資本形成は予算の制約からほぼ横ばいにとどまっている。
また,公共事業の受注状況を受注者の資本金階層別請負金額でみると,年度を通じて,資本金階層500万~1億円の地元中堅業者やジョイント・ベンチャーが比較的好調となっている。公共事業の追加が行われた58年1~3月期には資本金階層1億円以上の大手業者を除き,大幅に増加した( 第6-2図 )。
建設投資のうち民間建設投資は60.1%を占めるが,民間土木は全体の12.9%で,住宅・非住宅を合わせた民間建築は全体の47.2%となっている。また,57年度の建築着工床面積1億9,483万m 2 のうち,86.6%にあたる1億6,872万m 2 を民間建築物が占めている。
57年度の建築工事の動向を建築着工統計でみると,居住用が微増を示したものの,鉱工業用の大幅減少をはじめとして他のほとんどの用途で減少したため,全体で2.7%減と3年連続の減少となった。
居住用建築物は,居住専用がわずかながら増加に転じ,居住・産業併用の減少が小幅にとどまったため,全体として前年水準をわずかに上回った。
非居住用建築物は3年連続の減少となった。このうち,鉱工業用建築物は,化学工業用が増加したものの,全体の約5割を占める鉄鋼・非鉄金属,機械工業用が内,外需の停滞により減少したことから,全体として減少幅を拡大した。商業用建築物は,不動産業,金融・保険業用が増加したが,ウェイトの大きい卸・小売業や,飲食店用が減少しため,全体として減少した。サービス業用建築物は,下半期のホテル建設ブームを反映して宿泊業用が堅調だったことから,全体として増加した。公務・文教用建築物は宗教用が増加したものの,ウェイトの大きい文教用等が減少したため,前年水準を下回った。
非居住用建築物の使途別の動きをみると,校舎のうち私立学校が増加しているものの,工場及び作業場,事務所,店舖,倉庫,病院・診療所などが大幅に減少し,民間建築設備投資の不振を示している。
次に,民間からの建設工事受注額を大手43社の受注分でみると,製造業からの受注は,繊維工業が前年度比で大幅に伸びたほかは全体に減少したため,13.8%減となった。一方,非製造業は運輸業や電気業が増加したが,「商業・サービス業,金融・保険業,不動産業が減少したため,全体では0.8%増にとどまった。このため,全体としての伸び率は56年度9.5%増から,57年度2.5%減と減少に転じた( 第6-3表 )。
大手83社について民間からの建設工事受注額をみると,大手43社とほぼ同じ傾向を示しており,57年度は前年度比3.0%減となった。しかし,中小465社について民間からの建設工事受注額をみると,57年7~9月期以降,前年水準を上回り,年度全体で前年度比6.6%増となった。このように,57年度は中小の受注が比較的増加したのに対し,大手の受注はやや減少しており,前年度とは逆の様相を示している。
57年度の住宅建設の動向を新設住宅着工戸数でみると,総戸数は,115万7千戸で,前年度比1.3%増となった。
これを資金別にみると,民間資金住宅は,貸家が13.9%増と好調だったものの,持家,分譲が大幅に減少したことから,全体として4.7%減となった。公的資金住宅は,ウェイトの大きい公庫住宅が15.1%増と伸びたことから,全体で8.0%増となった( 第6-4表 )。
また,利用関係別にみると,持家が3.2%増,貸家が8.7%増と好調だったのに対し,分譲は11.7%減(一戸建て5.8%減,共同16.8%減)と不振であった。
その後の動きを前年同月比の要因別寄与度でみると,貸家は57年7~9月期以降堅調な動きを示し,前年比を4~7%ポイント引き上げている。また,分譲は57年4~6月期までの不振からようやく脱して,このところほぼ前年並みの水準を維持している。これに対し,持家は公庫住宅の増加に支えられて57年7~9月期,10~12月期に大幅に増加したものの,その後急減し,全体の足を引っ張る形になっている。また,資金別にみると,民間資金住宅が58年1~3月期以降,前年比を引き上げているのに対し,公的資金住宅,特に公庫住宅はこのところ大幅な引下げ要因になっている( 第6-5図 )。
住宅金融の動向を住宅ローン新規貸出額でみると,57年は前年に比べ3.6%増加した。その内訳をみると,住宅金融公庫が大幅に伸びて,シェアを拡大したのに対して,全国銀行+相互銀行は前年水準を下回った。住宅金融公庫の新規貸出額の増加基調は依然として続いているが,全銀+相互はここ2~3年伸び悩んでいる。ここ数年一貫して増加してきた住宅金融専門会社は,57年には2.3%減と減少に転じた。
最近の地価の推移を地価公示でみると,全用途の全国平均の対前年上昇率は,55年には10.0%であったが,56年には9.6%,57年には7.4%と鈍化し,58年には4.7%と鈍化傾向を一層強めている。
58年の地価公示を用途別にみると,住宅地,宅地見込地,準工業地の上昇率が,それぞれ5.1%,5.2%,4.7%となっており,これらの用途の地域の上昇率が商業地,工業地,市街化調整区域内宅地の上昇率の4.0%,3.7%,4.0%に比べて相対的に高いものとなっている。
また,地域別にみると,三大都市圏の上昇率が4.3%と地方の上昇率5.0%を下回っており,なかでも東京圏の上昇率が4.0%と最低となっている。これを前年と比較すると,上昇率は三大都市圏,地方ともに鈍化しているが,なかでも三大都市圏の上昇率の鈍化が著しく,前年に引き続き三大都市圏の上昇率が地方の上昇率を下回った。
住宅地価格の上昇率は5.1%で,前年に比べて三大都市圏,地方とも鈍化しているが,特に三大都市圏の上昇率が大きく鈍化し,地方の上昇率を下回っている。
住宅地の平均価格を地域別にみると,東京圏が18万3,900円/m 2 ,大阪圏が15万6,000円/m 2 と他の地域に抜き出た高水準となっているが,名古屋圏は9万2,500円/m 2 とこれらに比べて低い水準にある。また,地方都市は,50万都市地域6万8,000円/m 2 ,30万都市地域6万8,300円/m 2 ,その他の地方都市5万1,000円/m 2 となっており,おおむね都市の人口規模に応じた順序を示している。
商業地と工業地の平均価格をみると,商業地の平均価格は住宅地価格のおおむね3~5倍となっているのに対し,工業地は住宅地価格の4~7割程度となっている。また,準工業地はその価格水準が土地利用の状況に応じて幅広くなっているが,平均価格は住宅地とほぼ同程度の水準となっている。市街化調整区域内宅地は市街化区域内の住宅地価格の2~4割程度となっている。