昭和58年
年次経済報告
持続的成長への足固め
昭和58年8月19日
経済企画庁
鉱工業生産・出荷は,55年央から緩やかな増加を続けた後,57年年初以降減少気味に推移したが,58年に入って増加に転じた。しかし,57年度全体では生産・出荷はそれぞれ0.6%減,1.1%減と前年度水準を下回った( 第2-1表 )。
これは,56年末から輸出が急速に落ち込み,加工型産業を中心とする在庫調整が年度を通じて実施されたことに加え,内需も年度末にかけて設備投資,建設投資を中心に盛り上がりに欠く展開となったことによる。
出荷の動向を内外需別にみると,国内向出荷は前年度比0.4%の減と弱含んだ。また,輸出向出荷は年度末には持ち直したものの4.5%減と前年度水準を下回った( 第2-2図 )。
時期別にみると,国内向出荷は,4~6月期は夏物商品が好調な出足をみせたものの前年度の公共工事前倒し執行の反動的要因などにより停滞した。7~9月期は公共工事の前倒し契約,住宅金融公庫の融資制度改正前の駆け込み着工の影響や一部の耐久消費財でみられた新製品投入の効果などから増加した。しかし,10~12月期は需給改善のための大幅減産や暖冬による冬物商品の不振などから大幅に減少した。その後58年1~3月期は一部の耐久消費財の好調に支えられやや増加した。一方輸出向出荷は海外の実需不振に加え現地在庫の調整もあって57年末にかけて減少傾向が続いたが,1~3月期はアメリカをはじめとして景気回復への動きがみられたことなどから持ち直した。
財別にみると,資本財は総じて弱含みに推移した。これは年度前半には輸出減少などからNC工作機械などが減少し,後半には国内設備投資の頭打ち傾向を反映し化学機械などが減少したことによる。また輸送用,土木用も輸出の不振,公共投資の減少などから減少した。他方,事務用は底固い事務合理化投資により高い伸びを示した。
建設財は三年連続の減少となった。これは公共工事の前倒し契約や住宅金融公庫の融資制度改正前の駆け込み着工の影響から年末にかけて増加したものの,年度全体では実需不振から減少したことによる。
一方,耐久消費財はエアコン,石油温風暖房機など季節商品が夏冬の天候不順の影響により不振となったもののVTR,軽・小型乗用車などを中心に新製品投入による効果がみられたことや,年末にかけて海外流通在庫調整の進展に伴い輸出が増加したとなどから比較的好調に推移した。
非耐久消費財は内外需好調な磁気テープ,医薬品などに支えられ順調に推移した。しかし,繊維製品,ビール,灯油などに天候不順の影響がみられたことは全体の伸びを低くとどめることとなった。
このように最終需要財が総じて低調に推移したことから,生産財も減少を続けてきたが,58年に入り輸出の持直しなどにより一部に回復の動きがみられる。
以上,57年度の生産・出荷は国内需要が盛り上がりを欠くなかで,輸出の減少に伴い加工型産業を中心とする在庫調整が年度を通じて実施されたため前年度水準を下回った。しかし,58年年初以来輸出の持直し,在庫調整の進展などから生産は増加に転じた。
55年から56年にかけて生じた素材型産業を中心とする一度目の在庫調整は,56年7~9月期に一応の終了をみた。しかし,56年末からは個人消費の回復等を背景に国内需要は回復に向ったものの,それまで好調であった輸出が減少に転じたため,57年に入り輸出比率の高い加工型産業を中心に意図せざる在庫が積み上がり,再び在庫調整が余儀なくされた。また,最終需要が伸び悩む中で,冷夏,暖冬などの天候不順要因も加わったことから,二度目の在庫調整はかなり長引いた。
次に形態別に在庫投資の動向を中期的にみてみよう。
在庫投資を形態別にみた一般的なパターンは,流通在庫から始まり,原材料在庫,製品在庫へと波及していく( 第2-3図 )。
流通在庫投資は,53~54年にかけて積極的な積み増しが行なわれたが,54年末から55年央にかけて在庫投資はマイナスとなった。56年初に先行き景気回復期待感から,若干増加に転じたが,7~9月期には調整を余儀なくされた。その後,56年末からの輸出減少をきっかけとして最終需要が伸び悩むなかで,57年に入ってからは意図せざる在庫の積み上がりを生じ,再び調整気味に推移した。
次に原材料在庫は,最終需要財メーカーと生産財メーカーで異なった動きをしている。最終需要財メーカーの原材料在庫は,中間製品原材料が多いため電力料金等の値上げを控えた駆け込み的な原材料手当がみられ,54年末から55年初めにかけて在庫の積み増しが行なわれた。しかし,電気機械,輸送機械等の生産が順調に推移したことから,比較的軽微な調整が行なわれたにとどまった。一方,生産財メーカーの原材料在庫は,54年央以降減少気味に推移したものの,55年における最終需要の落ち込みから意図せざる在庫が積み上がった。このため,56年に入り,在庫調整が行われ,56年7~9月期には一応の終了をみた。しかし,56年末からの輸出減少に伴い,在庫が再び積み上がり,年央から二度目の調整を余儀なくされた。
次に製品在庫では,最終需要財メーカーでは54年央から55年前半にかけて積極的な在庫積み増しがみられたが,55年後半からやや調整気味に推移した。一方,生産財メーカーでは,最終需要財メーカーの原材料在庫が積み増しに入った54年には減少となったものの,55年央からは意図せざる在庫増となり,調整局面に入った。57年1~3月期には両者とも,輸出の減少から意図せざる在庫が生じ再び在庫調整を余儀なくされた。
次に出荷の内外需別の動向が製品在庫にどのような影響を与えたかみてみよう( 第2-4図 )。加工型産業の内外需別出荷寄与度をみると,56年10~12月期に外需の寄与がマイナスとなり,それをきっかけとして加工型産業において在庫が急速に積み上がった。しかし,素材型産業に比べて加工型産業は,生産調整が容易なことから,比較的早目に実施されたこともあり,二度目の在庫調整は57年末から58年にかけかなり進展し,58年1~3月期にはほぼ一巡した。
一方,素材型産業では輸出比率の高い鉄鋼を除けば,すでに56年7~9月期に在庫調整を終了した。その後,最終需要が盛り上がをり欠いていることから,在庫は積み増し意欲も弱く,低い水準で推移した。しかし,鉄鋼では内外需の不振から在庫は高水準で推移した。また,繊維は中国,東南アジア向け輸出の不振から在庫は57年を通して緩やかに増加した。
こうして,在庫調整は一部業種を除き,58年1~3月期にはほぼ一巡した。
なお鉄鋼・繊維についても58年に入り鉄鋼が中国向けに,繊維がイラン向けに各々輸出が増加しており,在庫は4~6月期には減少気味に推移している。
従来の在庫調整局面では,調整一巡後,生産の増加と相伴って,在庫の積み増しがみられた。ただし,今回の在庫調整局面では,調整一巡後も,最終需要の盛り上がりが欠けていること等から,企業の在庫積み増し意欲は従来の回復局面に比べて弱いものとみられる。
57年度の民間企業設備投資は,GNPベースで34兆5,348億円となった。設備投資比率は16.9%と,依然高水準を維持しているものの,前年度比では,56年度4.4%増のあと,57年度は1.2%増となり,伸び率は鈍化している。57年度中の動きを前期比でみると,4~6月期0.5%増,7~9月期0.6%増と,上半期はわずかながら増加したが,下半期は,10~12月期0.3%減,58年1~3月期1.0%減と減少に転じた。こうしたことから,53年度から本格的な上昇局面に入り5年間に亘って拡大局面を続けた設備投資も,57年度半ばから調整局面に転じたといえる。
このような設備投資の動向を規模別にみると( 第2-5表 ),大企業では,技術革新関連,省エネルギー化,省力化投資といった,景気変動に左右されにくい独立投資が,継続工事主体に実施されたため,57年度は前年度比4.2%増となった。
56,57年度が景気後退局面であったにも拘らず,設備投資が堅調さを維持できたのは,大企業における独立投資の活発化によるところが大きい。
これに対して中小企業の設備投資は,景気感応的なこともあり,56年度に引き続き停滞し,57年度は前年度比0.9%減となった。その原因としては,消費の伸びが緩やかであったこと,長期金利が高止まったこと,輸出の落ち込みが下請中小企業を中心に先行き見通しを不安化させたことなど,投資環境が57年度中好転しなかったことが挙げられる。
57年度の動向を業種別にみると( 第2-6表 ),製造業では前年度比で55年度22.9%増,56年度7.9%増のあと,1.9%増と伸び率が急速に鈍化している。このなかで素材型産業は,継続工事主体の独立投資によって堅調さを維持した。特に鉄鋼(19.9%増)は,シームレス・パイプ関連工事,圧延部門の更新などから,1兆円を超える投資額となり56年度に引き続き高い伸びとなった。また化学(12.7%増)も,医薬品部門の研究開発投資を中心に高い伸びを示した。紙・パルプ(8.6%増),は前年度まで減少傾向で推移したが,57年度は省エネルギー投資や石炭転換投資を中心に増加を示した。非鉄金属(2.7%増)も,光ファイバー関連の能力増強投資があり若干の増加となった。
一方,加工型産業では,全般的に減少に転じた業種が多くなった。これは,これらの産業が,56年度まで高水準の投資を行なってきたこと,57年度に入って輸出の落ち込みから工事の一部繰り延べや圧縮など,投資態度を慎重化させたことなどによる。例えば,電気機械(6.8%減)は,半導体分野では好調な投資が続いているものの,VTR部門で,海外在庫調整や貿易摩擦問題等もあり,能力増強投資に一服感がみられた。輸送機械(6.4%減)でも,自動車のFF化投資が一段落したこと,内生化の動きや貿易摩擦などによる先行き需要の不安から,下請中小企業部門で投資マインドが慎重化したことなどにより減少に転じた。また一般機械(4.6%減)は,ファクシミリを始めとするOA関連機器の能力増強投資はあるものの,NC工作機械の輸出不振などが影響して減少した。
非製造業でも,製造業と同じく前年度比で,55年度12.8%増,56年度5.3%増のあと57年度は3.9%増と伸び率が鈍化しており,58年1~3月期には,前期比で5.7%減と減少に転じている。業種別には,不動産(19.7%増),サービス(15.1%増),ガス(9.7%増)が,それぞれ賃貸ビル工事,リース業における業容拡大,LNG関連投資などから増加した。小売(1.7%増)は,百貨店増設などの大型工事が支えとなって若干増加したが,卸売(5.7%減)は,取引活動の停滞を反映して減少した。また,運輸・通信(3.4%減)も海運業の投資が一段落したこともあって減少した。
58年度の設備投資計画をみると,大企業では経済企画庁「法人企業投資動向調査」で3.9%減,日本銀行「短期経済観測」(以下日銀「短観」という)で0.4%減と,いずれも前年度を下回る計画となっている。なかでも,大型投資が一段落した製造業の落ち込みは大きく,前者調べで7.9%減,後者調べで2.5%減となっている。
一方,中小企業の58年度設備投資計画は,日銀「短観」で12.0%減,中小企業金融公庫の「製造業設備投資動向調査」で19.2%減と,依然として大幅な減少が見込まれている。中小企業の設備投資動向は,計画から実行までの期間が短いこと,2年以上に亘る停滞が続いていることから,現在の計画をもって58年度全体の動向を判断することは必ずしもできないが,景気回復力に盛り上がりが欠けていることを考えると,上半期中は停滞する可能性もある。
最後に,今後の設備投資動向をみるうえでの重要な点として,更新投資の問題に触れておこう。 第2-7図 の平均更新期間や除却比率をみると,40年代には,平均更新期間の急激な低下と上昇,それに伴う除却比率の上昇と低下があり,明瞭な更新循環が確認できた。しかし,50年代に入ると,平均更新期間は緩やかに長引く傾向にあり,除却比率は平準化している。このような平均更新期間の長期化と除却比率の平準化は,更新投資循環の波がなだらかなものになってきていることを示している。
以上から,今回の調整局面においては,更新投資がある程度の下支えをすると見込まれる。したがって,今後設備投資が上昇に転ずるか否かは,消費・輸出等経済環境の好転に依存しているとみられる。