昭和55年
年次経済報告
先進国日本の試練と課題
昭和55年8月15日
経済企画庁
54年度の建設活動を建設省「建設投資推計」でみると,総額約47兆8千億円,前年度比12.1%増と3年連続の2ケタの伸びを示した。しかし実質べースでは54年度中の建設工事費の大幅上昇の影響により前年度比1.1%の伸びにとどまった( 第6-1表 , 第6-2図 )。
主体別,部門別の動きを実質ベースでみると,政府投資は,54年中を通じてなだらかな公共事業の執行が行われ,その後,物価対策のため公共事業関係予算現額の一部が留保されたこともあり,対前年度比3.1%減(53年度9.9%増)となった。これを投資部門別にみると,政府投資の約4分の3を占める土木部門で3.4%減(53年度7.7%増),建築部門で2.0%減(53年度17.1%増)となっている。他方,民間投資は民間設備投資が堅調に拡大したことを反映して,前年度比4.0%増(53年度1.2%増)となった。これを投資部門別にみると,建築部門で4.7%増(53年度2.2%増),土木部門で1.1%増(53年度3.2%減)となっているが,民間投資がほぼ同率の伸びを示した52年度(4.1%増)と比べると,この年は,電力,ガス業をはじめとして土木部門が活発であったのに対し,54年度は,製造業を中心とした建築部門の増加が著しい。
また住宅投資は,公営・公団住宅の建設が減少したことを主因として政府住宅投資が17.3%減(53年度14.8%増)となったが,民間住宅投資も0.5%の微減(53年度1.6%増)となっている。
次に建設費の動きを建設工事費デフレーターでみると,54年度(暫定)は建設総合で前年度比11.0%の上昇と53年度(5.3%上昇)を大きく上回っている。これを建築・土木別にみると,建築が11.7%の上昇(53年度4.4%上昇)となり,土木の9.9%上昇(53年度6.6%上昇)を上回っている。さらに四半期別にみると,54年10~12月期より建築の上昇率が土木の上昇率を上回っていたが,54年10~12月期には逆転している( 第6-3図 )。こうした現象は,民間部門の建設活動が活発である一方,公共事業のなだらかな執行が行われるという条件の下で,原油原木価格の上昇,円安の影響から製材,合板等の木製品価格が54年半ばを中心に,また,アスファルト,セメント等の土木関連品価格が54年後半を中心に大幅な値上りを示したことから生じたものである( 第6-4図 )。
既に述べたように,最近の政府投資には53年度までとはやや異った役割が期待されるようになったが,これを景気への対応及び社会資本の整備という両面からみることともよう。
公共事業関係予算の執行状況と関係の深い公共工事請負金額(名目値)の推移をみると前年同月比で53年中は30%を超える伸びを示したが,54年に入って1~3月期には公共事業の前倒し発注の影響から6.2%減となったあと,54年度の各期は5~10%の伸びとなった( 第6-5図 )。次に,公共事業の進捗状況を示す公的固定資本形成(実質)の推移をみると,54年4~6月期から10~12月期にかけて前年同期比でほぼ横ばいとなったあと,55年1~3月期は5.8%減となった。また,国民総支出に対する寄与度でみると,54年4~6月期以降54年中は概ね中立的となっているが,55年1~3月期にはマイナス0.7%となっている。
次に,最近の公共事業の土地購入費比率及び平均工期の動向をみてみよう。
「国民経済計算」により一般政府の総固定資本形成と土地の純購入の計に対する土地の純購入の比率をみると,52年度以降地方政府を中心に増大している( 第6-6表 )。これは,①地価上昇率が高まってきたこと,及び②相対的に多くの土地を必要とする治山・治水,街路,都市公園等の公共事業が増加してきたことによるものである。また,公共工事着工統計により公共工事の平均工期をみると,52年度以降長期化傾向にあり,工事種類別にみても同様な傾向がみられる( 第6-7表 )。これは,①52年度以降工事の大規模化がみられること,及び②比較的工期の長い治山・治水,教育・病院等のウエイトが増加する一方,工期の短い庁舎,災害復旧等のウエイトが減少してきていること等によるものである。
次に,社会資本の整備という側面から近年の政府投資の動向をみることとしよう。社会資本の中核をなす一般政府資本ストック(実質)の推移をみると,48年末まで前年比10%を超える増加を示してきたが,その後8%台に鈍化した( 第6-8表 )。しかし,経済成長率が鈍化した中にあっては着実に増加していると考えられ,特に52年,53年においては公共投資の大幅拡大により,ストックでみても,前年比それぞれ8.4%,9.5%の増加を示した。これを一般政府資本ストックの家計資本ストックに対する比率でみると,51年末まで徐々に低下してきた後53年末には微増となっている。これは,40年代後半を中心に民間住宅投資が活発に行われたこと及び52,53年の公共投資拡大によるものである。
また,フロー面から最近5か年の政府投資の種類別構成の推移をみると,農林水産,交通通信,生活環境,建築(非居住用)が増加基調,維持補修等,建築(居住用)が減少基調となっている( 第6-9図 )。
建設投資推計により,民間建設活動の内訳を建築部門,土木部門別にみると,建築24.4兆円,土木4.7兆円(54年度)となっており,民間建設の動きは民間建築の動きに大きく依存していることがわかる。
そこでまず,建築着工統計により54年度の建築着工床面積の動向を建築主別にみると,国,市区町村を建築主とする着工床面積が減少に転じ,都道府県が低い伸びにとどまっているのに対し,民間建築主の着工床面積は大きな増加を示した( 第6-10表 )。次に建物の構造別にみると,コンクリート・ブロック造が減少し,鉄筋コンクリート造が横ばいで推移したほかは増加した。用途別にみると,過去2年間最も高い伸び率を記録した公務・文教用が公共事業抑制の影響から減少したのに加え,公益事業用も伸び率が鈍化した。また,居住専用は小さな伸びにとどまった。しかし,鉱工業用,商業用は,活発な民間設備投資を反映して大幅に増加した。
次に,建設工事受注額(第一次,43社)により民間建設投資の動向をみると,54年度は前年度比23.5%増と大幅な伸びを示した( 第6-11表 )。このうち製造業については,55年1~3月期に前期比で減少となったものの,前年同期比では,54年度の各四半期とも20%以上の増加を続け,高水準(54年度全体では前年度比36.2%の増加)で推移した( 第6-12図 )。業種別にみると,ここ数年減少を続けてきた鉄鋼業が増加に転じたのに加え,機械,化学,繊維がいずれも増加した。一方,非製造業については,54年4~6月期,55年1~3月期に前期比で20%を超える増加を示し,54年度全体では前年度比20.5%増と堅調な増加を示した。業種別には,電気,不動産が引続き堅調な増加を続けたうえ,53年度に横ばいであった運輸,商業・サービス,金融・保険業でも大幅な増加となった。
民間土木建設の動きを民間土木着工統計でみると,54年度は前年度比9.0%増と前年度(7.4%増)を上回る増加を示したが,建築部門に比べると力強さに欠けた( 第6-13表 )。内訳を業種別にみると,製造業・鉱業・建設業が前年に引き続き増加し,運輸・通信業でもマイナスから増加に転じたが,農林漁業,電気・ガス業では低い伸びにとどまった。
54年度の住宅建設の動向を新設住宅着工戸数でみると,総戸数は148万7千戸,前年度比0.8%減と昨年(同2.2減)に引き続き減少した。このうち公的資金を利用した住宅(民間資金・公的資金を併用した住宅)は住宅公庫融資住宅により増加した。一方,民間資金のみによる住宅(公的資金を含まない住宅)が減少率は縮小しつつも引き続き減少した( 第6-14表 )。
それぞれの資金別,利用関係別に内訳をみると,まず民間資金のみによる住宅は,分譲住宅が前年度比8.2%減と53年度(10.2%減)同様大きく減少し,貸家も6.8%減(53年度2.8%減)となったが,民間資金のみによる住宅の約4割(54年度)を占める持家は,4.4%減(53年度17.0%減)と減少率が縮小している。他方,公的資金住宅は,公庫住宅が14.9%増となったものの52年度(29.4%増),53年度(19.1%増)に比べると増加率が縮小したほか,公営住宅,公団住宅等も減少となった。
次に,最近の住宅建設に関する諸特徴の中から,供給側からみた金融機関の住宅金融の動向並びに需要側からみた住宅建築費の資金構成の実態及び居住水準改善の現状と今後の住宅需要について考察することとしよう。
第1に,住宅金融の動向を貸出主体別に住宅ローン新規貸出額の前年同期比増減率でみると,53年4~6月以降54年7~9月期まで住宅金融公庫の伸び率が民間金融機関の伸び率を上回っており,住宅金融に占める住宅金融公庫融資の比重が高まっていることがわかる( 第6-15図 )。最近の民間住宅金融の動向を全国銀行と相互銀行との合計でみると,都市銀行等の住宅ローン金利が年率7.62%であった53年4月から54年6月まで,前年同期比で20%を超える増加を示したあと,新規貸出額は減少している。その後,地価,建築費の上昇,金利のもう一段の先高感が続くなかで住宅金融専門会社の新規貸出額は54年10~12月期を中心に増加した。なお,住宅ローンの残高(全国銀行+相互銀行)の総融資残高に占める割合は55年3月末現在で9.8%と次第に高まってきている。
一方,資金の借り手側から個人持家建築費の資金構成の推移をみると,45年から50年にかけて借入金比率が高まってきたが,51年以降頭うちとなっている( 第6-16図 )。45年から50年にかけて借入金比率が高まったのは,①ローン返済期間の長期化,住宅ローン金利の低下等借入条件の改善に加えて所得の伸びも大きく,所得に対する借入可能額の割合が増加したこと,②ローンを比較的借りやすい若年層の住宅建築が増加したことなどによるよると考えられる。50年以降52年にかけては民間住宅ローンの条件には目立った改善が行われないという中で,公庫融資戸数の増加,融資限度額の引上げ等が行われたため公庫資金比率が高まった。しかし,一方で所得の伸びが低下し,また建築主の年齢がやや高まったことなどもあり借入金比率が頭うちとなっている。つづく53年は,52年度補正予算における公庫融資の追加の影響もあり公庫資金比率が一段と高まり,借入金比率を押し上げることとなった。
第6-16図 個人持家建築費(宅地購入費を含まず)の資金構成の推移
第2に,居住水準改善の動向をみてみよう。「第三期住宅建設五箇年計画」において定められた平均居住水準,最低居住水準に照らして,持家・借家別及び世帯人員別の平均居住水準以下世帯率,最低居住水準以下世帯率の推移をみると,持家世帯・借家世帯とも世帯人員の多少によらず順調な改善が続いていることがわかる( 第6-17図 )。しかし,3~5人世帯の借家では依然として最低居住水準以下の世帯比率が高く,これらの世帯を中心に広さをはじめとした住宅の質改善の需要が強いものと思われる。総理府「貯蓄動向調査」により3年以内に住宅,土地の購入・建築計画を有する世帯の比率をみると,世帯人員3~5人の借家居住世帯において計画世帯比率が高くなっており,借家の3~5人世帯を中心に,住宅・土地に対する需要が強いことを裏付けている( 第6-18図 )。
さらに,今後の需要層を収入階級別にみると,第IV,V位では75%を超える持家率となっており,これらの層における計画は建て替えを主としたものと考えられるのに対し,第I,II分位では持家率も低く,第II分位の借家層を中心に計画世帯比率が高くなっており,持家需要が大きいことを示している。また,世帯主の年齢階級別にみると,30歳代の借家層の計画世帯比率が高く,若年層を中心に持家需要が大きいものとなっている( 第6-19図 )。
ところで居住水準の向上は,新築住宅の建築・購入のほか住宅の住み替えによっても実現できる。住宅統計調査により,入居時期別に中古持家住宅(一戸建,長屋建住宅のほかに共同住宅を含む。)への入居世帯数をみると,49年以降増加する傾向が示されており,このことは売買による建物移転登記個数の増加からも推定することができる( 第6-20図 )。住宅総計調査によると,53年には,約15万戸の住宅が中古持家として取得されたと推計され,これは53年の持家総数の1%弱に,また,新設住宅着工戸数(持家+分譲)の14%弱にあたっており,とくに大都市地域におけるマンション等の共同住宅で中古住宅のウェイトが高まっているといえる。
第6-18図 世帯の人員別住宅・土地の購入・建築計画の有無別世帯数分布(勤労者世帯)
第6-19図 住宅・土地の購入・建築計画の有無別世帯数分布(勤労者世帯)
住宅金融公庫は51年度より中高層耐火共同住宅で建築後の経過年数が3年以上10年以内のもの等一定の要件を満たすものの購入者に対し購入資金の貸し仕けを行っているが,その中古融資対象物件を同じ時期の公庫融資に係る新築物件と比較すると戸当たりの平均価額は30%安くなっている( 第6-21表 )。
今後とも,住宅の量的充足を背景に,住宅需要者の一部が価格面でのメリット等から良質な中古持家住宅にシフトしていくと考えられるが,これらの需要に応えるとともに,各人の選択の自由度を残しつつ,世帯人員の変化等に応じた住宅ストックの適切な配分を実現し,全体としての居住水準の向上を図るためには中古住宅の流通市場の整備が重要な課題であろう。
良好な居住水準を確保するためには,広さ,構造等の面で質の高い住宅を取得(あるいは建築,賃借)する必要があることは言うまでもないが,高質の住宅は,適切な広さと住環境を備えた宅地と一体となってこそ居住水準の向上をもたらすものであろう。ここでは主として個人持家の建設に焦点を当てた宅地取得の動向をみることにしよう。
個人持家建築主の宅地取得方法別戸数分布の推移を建築時期別にみると,土地購入者割合は46年から48年にかけて高まったあと49年,50年と減少している( 第6-22図 )。これは購入者の中で最もウエイトの高い「1年前より過去3年間」に宅地を購入した者の構成比が低下したことに示されるように,47,48年における地価高騰により宅地取得が大きく制約されたためである。つづく51年から53年にかけては,地価安定傾向の中で50年以降宅地取得が増加したため「当年」及び「1年前より過去3年間」を合わせた宅地購入者割合が49年に比べて増加しているが,中でも「当年」宅地取得者の割合の増加が顕著である。一方,「4年前以前」の宅地購入者は,自己敷地内建替えのウェイトが高いと思われる「10年前以前」宅地購入者割合の増加を主因として51年に増加したが,その後減少しており,宅地購入者割合の減少は主として「4年前以前」の宅地購入者割合の減少によってもたらされている。
第6-22図 宅地の取得方法別戸数分布(個人持家建築主)の推移
以上のように,宅地取得時期と住宅建築時期との関係は,地価や建築費,建替えの動向,あるいは所得,住宅金融の動向等により左右されるものであるが,これらの経済環境の変化の中で宅地購入者に占める「当年」宅地取得者割合は傾向的に増加していることが注目される。
第6-23図 同一年に宅地を購入し住宅を建築した個人持家の住宅建設費(土地購入費+住宅建築費)の推移
こうした中で地価と住宅建築費は上昇を続けているが,利用可能な住宅建設資金額(土地購入資金+住宅建築資金)は相対的に低い伸びとなっているため,そのしわ寄せは敷地面積の狭小化となって現れている。特に大都市地域では地価の水準が高いうえ上昇率も大きいことから,全国平均に比べて宅地購入費割合は高く,敷地面積も全国平均の7割程度(53年)となっている( 第6-23図 )。
一方,一団地当たりのマンション(3階以上の民間分譲住宅に限る。)の平均敷地面積をみると,一件あたりの土地取引面積の小規模化( 第6-24図 )を反映して53,54年と小さくなってきている。こうしたなかで,平均的な建ぺい率,容積率は,やや高まる傾向をみせているが平均的な地上階数は50年代に入ってから横ばいとなっている( 第6-25図 )。