昭和54年

年次経済報告

すぐれた適応力と新たな出発

昭和54年8月10日

経済企画庁


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6. 建  設

(1) 2年連続の高い伸びとなった建設活動

53年度の建設活動の慨要を建設省「建設投資推計」でみると,総額は42兆6000億円,前年度比9.8%増と,52年度(同13.5%増)に引続き高い伸びとなった( 第6-1表 )。まず,建築部門についてみると,住宅は前年度比6.4%増と52年度(6.2%増)とほぼ同じ伸びとなったが,非住宅が同12.9%増と52年度の伸び(8.7%増)を大きく上回って増加した結果,建築全体でも同9.0%増と伸びを高めた(52年度同7.2%増)。他方,土木部門は,公共事業(前年度比14.6%増)が水準は高いものの52年度の伸び(26.3%増)を下回り,また公共事業以外の伸びも同7.1%増と鈍化(52年度同21.7%増)した結果,全体で同11.1%増と高い水準なからも伸びがやや鈍化した。53年度の建設投資を投資主体別にみると,政府投資は景気回復をめざす積極的な財政政策の結果,公共事業などの土木部門(前年度比12・5%増),建築部門(同19・6%増)共に高い伸びとなり,政府投資全体としても14.2%増と引続き大きく増加した(52年度同23.3%増)。他方,民間投資はその8割強を占める建築部門で設備投資関連部門などを中心に伸びを高めたものの,52年度に好調だった土木部門の伸びが鈍化したことなどから,全体として前年度比7.1%増と52年度(同8.0%増)同様,緩やかな伸びにとどまった。

第6-1表 建設投資の推移

第6-2図 建設工事デフレータの推移

次にデフレータの動きを建設工事費デフレータでみると,53年度は,建設資材や労務費が年度全体としては落着いていたため,デフレータは建設総合で前年度比4.6%の上昇と,52年度(3.8%)に引続き落着いた動きとなった。内訳をみても,建築は4.1%の上昇(52年度3.2%),土木は5.5%の上昇(52年度4.4%)と,いずれも前年度よりやや上昇率を高めたものの,引続き落着いている。しかしなから 第6-2図 により四半期ごとの推移をみるとデフレータは53年中は落着いていたものの,54年に入り急上昇していることが判る。これは,堅調な国内需給や改正道交法による過積規制強化の影響などの国内要因に石油など海外原料高や円安傾向などの海外要因が加わり,建設資材価格が急上昇てでいるためである。

第6-3図 公的固定資本形成(実質)の推移

これらの動きを背景として,建設資材や労務費の上昇を差引いた53年度実質建設投資は総額21兆6000億円(45年度価格),前年度比4.9%増(52年度同8.9%増)となった。このうち,政府投資は8.3%増(52年度同17.6%増),民間投資は2.8%増(52年度同4.2%増)となっている。この結果,実質ベースの総額では,過去のピークである48年度の水準を5年ぶりに上回った。

(2) 政府投費は年度上期に集中

次に,53年度における政府投資の執行時期的,地域的特徴をみてみよう。

まず,時期的にみると政府投資は年度前半において特に高い伸びを示したことが特徴である。国民所得統計における公的固定資本形成(実質)は,53年4~6月期に前期比7.6%増,7~9月期に同5.4%増と大きく増加した( 第6-3図 )。これには,53年度予算の早期執行に加え,52年度第2次補正予算のかなりの部分が,進捗ベースで53年度にずれ込んだことが大きく影響している。こうして,年度後半には政府投資の伸びが鈍化したにも拘らず,52年度からの累積的効果が,民需中心の景気回復ヘ大きな役割を果すこととなったのである。

第6-4表 地域別公共工事請負金額の推移

政府投資の地域的動向をみると,53年度は,各地域共ほぼ平均した高い伸びを示したことが大きな特徴である。これを公共工事請負金額でみると,前年度最も低い伸び(14.7%増)となっていた近畿地方が,53年度は29.9%増と最も高い伸びをみせ,逆に,52年度に前年度比38.1%増と最も高い伸びとなった四国地方が,53年度は17.5%増と相対的に低位な伸びとなるなどの変化はあったが,全体としてみれば各地方共下均に近い伸びとなり,地域的バラツキの度合は51,52年度に比しかなり小さかった( 第6-4表 )。

(3) 住宅着工戸数は4年ぶりの減少

53年度の住宅建設の動向を新設住宅着工戸数でみると,総戸数は149万8000戸,前年度比2.2%減と4年ぶりの減少となった。これは公的資金分が住宅金融公庫資金融資住宅(公庫住宅)を中心に大きく増加したものの,民間資金分(公的資金を含まない住宅)が一段と減少テンポを早めた結果である( 第6-5表 )。

第6-5表 新設住宅着工戸数の動向

次に資金別に53年度の特徴をみてみよう。まず民間資金分は,50年から51年年央にかけて,石油危機後の落ち込みからかなり回復したが,51年4~6月期をピークに以後最近に至るまで傾向的に減少してきた( 第6-6図 )。

特に53年に入ってから下げ足が早まり,53年度全体では前年度比11.2%減(52年度同7.2%減)と大きく減少した。内訳をみると,民間資金分の約4割(53年度)を占める持家の減少(同17.0%減)が目立つが,これまで好調に推移してきた分譲住宅も建売住宅の減少から4年ぶりに前年度を下回った(同10.2%減)。また貸家もやや減少した(同2.8%減)。他方,公的資金分は,前年度比17.4%増と52年度(同20.8%増)に引続き大幅に増加した。これは約3/4を占める公庫住宅が政府の積極的な政策を反映し,前年度比19.1%増(52年度同29.4%増)と大きく増加したことが主因である。公庫住宅以外の公的住宅も概ね堅調に推移した。

第6-6図 新設住宅着工(民間資金分)の推移

次に,最近の住宅建設動向に関するいくつかの特徴を考察してみよう。

まず第1は,本報告第1部第1章でも指摘した新規需要圧力の変化についてである。いま,住宅需要をストック増に結びつく新規需要と,それ以外のマクロ的にみた建替需要に分けて考える。 第6-7図 にみるように,これまで住宅ストックは世帯の増加数を上回って増加し一世帯当りストックを上昇させてきたが,ストックの増加水準そのものは基本的に世帯増加数に依存している。ところが,48年~53年にかけては,婚姻件数や人口移動の減少傾向から世帯増加数は前回のそれをかなり下回り,その結果,住宅ストックの増加数も前回を下回るに至ったのである。ところで,新規需要の減退から住宅ストック増につながる着工戸数は減少しても,建替率が急速に高まればフローの着工戸数全体としては増加する可能性がある。しかし,48~53年にかけては,既に建替率水準そのものがかなり高水準となっていたこともあり,上昇が鈍化し,ストック増加数の低下をカバーし得ず,着工戸数全体としても前回のそれを下回ったのである。

第6-7図 住宅ストックと世帯数の推移

第2は,住宅ローン金利引下げによる住宅投資刺激効果についてである。民間住宅ローンの金利は50年8月から低下を続け,例えば都市銀行の場合,20年ものの金利は50年8月に9.36%であったが,52年8月には8.16%,53年4月には7.62%へと低下し,住宅建設にとって有利な条件が形成されてきた。 第6-8図 をみても,ローン借入条件は50年度以降一貫して改善を続けている。しかし,ローン借入条件の中では借入期間の長期化も大きな要素であり,昭和40年代後半にかけては,むしろ期間延長の寄与が大きかった。ところが,47年7月に民間住宅金融の現体系がほぼできあがって以降,期間の延長はなく現在に至っている。こうして,金利面をみる限り,かつてない好条件が形成されたにも拘らず,借入条件全体としての改善は緩やかなものにとどまっているのである。

第6-8図 民間住宅ローン借入条件の推移と返済期間延長・金利変化の寄与度

第3は,堅調な宅地需要と宅地供給の減少,高地価水準などがもたらしたいわゆるミニ開発の増加についてである。 第6-9図 により,東京都区部における土地規模別土地所有者数の推移をみると,近年,1000平米以上の土地所有者が減少し,かわって小規模土地所有者が急増している。特に,100平米未満のいわゆる「ミニ地主」についてみると,49~51年にかけて7.8%の増加,51~53年にかけては10.6%増と伸びをさらに高めており,これによっても小規模開発を指向する傾向がうかがわれる。こうした「ミニ開発」は,地域の居住環境を悪化させ,また将来の市街地整備にとっても障害となるなど,大きな問題となっている。

第6-9図 土地規模別土地所有者数の推移(東京都区部)

第6-10表 住宅金融公庫一般個人住宅(5.05%口)募集状況

第4は,住宅着工状況の最近の変化についてである。住宅着工は,53年度全体としては停滞したが,53年度末から54年度初にかけて次のような特徴的な変化がみられる。まず,前掲 第6-6図 により民間資金住宅の推移をみると,長期低落傾向を続けてきた持家が,54年1~3月期に,11期ぶりに前期比プラスとなった。民間資金分全体としても,ほぼ下げ止まりの形となっている。これは,昨年来,景気が着実に回復してきたことの影響もあるが53年11月以降卸売物価の上昇が続く中で,住宅建築価格の先高感が急速に強まってきたこと,地価の上昇テンポが早まってきたこと,公定歩合引上げに関連し,住宅ローン金利の下げ止まり,先高感が54年に入り広まったことなどを要因として,かなりの需要が先行的に発生したためとも考えられる。一方,住宅金融公庫の募集状況をみると,52年度第4回以降抽選方式から先着順方式に切換えられていたが,53年度第2回までは募集枠にほぼ見合った応募状況であったが,第3回募集(54年1月)以降,募集枠を大幅に上回る申込み受付が続いている( 第6-10表 )。これには,様々な特別措置( 表参照 )の効果も大きかったが,一方で,民間資金分と同様の背景があったためとも考えられよう。

(4) 民間建設では設備投資関連に動意

民間建設活動の内訳を建設投資推計(53年度)でみると,建築が8割強を占めており,民間建設の動きは民間建築の動きに大きく依存していることがわかる。そこで,まず建築着工統計により53年度の建築の動向をみてみよう。

53年度の建築着工床面積総計は前年度比3.8%増と52年度(同2.1%増)に引続き緩やかな伸びとなった( 第6-11表 )。主体別内訳をみると,市区町村(前年度比24.1%増),国(同15.4%増)など公的部門の伸びが高く,民間部門の伸びは全体として低かった。とりわけ,住宅着工の停滞を反映し,個人部門で前年度比0.4%の減と4年ぶりに前年度比減となったことが目立っている。他方,会社その他法人では前年度比5.1%増と,52年度の停滞(前年度比0.3%減)から持直し,底固い動きとなった。

第6-11表 建築着工床面積の推移

次に用途別着工床面積であるが,住宅の動きについては既に詳述したので,ここでは殆んどが民間建築とみられる鉱工業用,商業用,サービス業用について考察しよう。まず,鉱工業用は,52年度においては景気回復の遅れから前年度比17.4%減と大幅に落込んだが,53年度は同4.6%増と堅調に推移した。これは,後にみるように,特に年度後半に製造業の設備投資が活発化し,年度全体としでも堅調な伸びとなったことによるものである。また,サービス業用は,宿泊業用や医療業用が大きく増加したことなどから,前年度比16.1%増と高い伸びを示した。他方,商業用は,前年度比1.9%減と52年度(同6.5%減)に引続き減少した。これは,6割強を占める卸売業・小売業用が3.9%減となったことが大きく影響した。

民間土木の動きを民間土木着工統計でみると( 第6-12表 ),53年度は前年度比7.4%増と堅調な動きを示した。内訳をみると,農林漁業・同組合,運輸業・通信業が前年度を下回った反面,製造業・鉱業・建設業(前年度比13.3%増),電気業・ガス業(同10.9%増),不動産業(同22.9%増)などては,それとは対照的に,活発な投資活動を反映して2桁台の伸びを示した。

第6-12表 民間土木工事の動き(前年度比増減率)

次に建設受注(第1次43社)により,民間建設動向をみると,53年度の民間建設受注額は,前年度比10.2%増と52年度の伸びをかなり上回り,石油危機後初めて2桁台の伸びを記録した( 第6-13表 )。業種別内訳をみると,まず製造業は52年度の低迷(前年度比0.5%減)から大きく抜けだし,同13.3%増と好調な動きを示した。このうち鉄鋼業が引続き大きく減少(前年度比34.0%減)したほかは,機械工業(同10.2%増),化学工業(同18.4%増),繊維工業(同81.2%増)などいずれもその増加は著しい。次に,民間建設受注の8割強(53年度)を占める非製造業は,前年度比9.5%増と引続き高い伸びを示した。このうちウエイトの大きい商業・サービス業・金融保険業が前年度比0.2%減と52年度(同0.1%増)に引続きほぼ横ばいとなり,運輸業も同0.8%増と停滞したが,政策的努力の大きかった電気業(同22.0%増)やマンションブームを背景に不動産業(同22.7%増)などが52年度に引続いて大きく増加した。

第6-13表 建設工事受注の動向

製造業,非製造業別に年度中の動きをみると( 第6-14図 ),年度前半には非製造業が高い伸びを示し,民間建設受注全体を押上げていたが,年度後半では,逆に製造業の伸びが著しく,年度全体でも非製造業の伸びを上回っている。特に,54年1~3月においては,製造業は化学,機械などを中心に前期比22.5%増と著増している。これらは,景気回復の遅れから停滞していた製造業の設備投資が,2年続きの大規模な公共投資の累積的効果などによる景気回復傾向を背景に漸く活発化してきたことの現れとみられ,今後の動向が注目される。

第6-14図 民間建設受注額(43社)の推移


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