昭和53年

年次経済報告

構造転換を進めつつある日本経済

昭和53年8月11日

経済企画庁


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6. 建  設

(1) 政府施策で伸びを高めた建設活動

52年度の建設活動の概要を建設省「建設投資推計」でみると,総額は前年度比10.6%増と石油危機後初めて2桁の伸びを示した(第6-1表 )。これを実質ベースでみても,建設資材価格等の落ち着きから,6.8%増と名目伸び率とあまり開きのない高い伸びとなった。このような建設投資の増大の背景には,民間部門は総じて低調に推移したものの公共部門(公的資金が投入される部門)が大きく伸びたことがあげられる。52年度の公共部門の伸びは,言うまでもなく政府の積極的景気対策を反映したものである。すなわち,公共事業に特に重点を置いた景気浮揚型予算編成(当初予算),公共事業等の執行促進(52年度上半期の契約率目標73%),住宅金融公庫融資枠の大幅拡大,公共事業等の追加を中心とした第1次補正予算(52年10月成立),公共事業等の切れ目のない執行を図るためいわゆる「15か月予算」の考えに基づいた第2次補正予算(53年1月成立)などである。

第6-1表 建設投資の推移

実質建設投資額の伸び率でみると,政府は13.9%増,民間は2.9%増とその差異が目立っている。建築については伸び率の差が著しく,政府20.9%増に対して民間は2.2%増となっているが,これは民間非住宅建築,特に鉱工業用が落ち込んだことが影響している。

(2) 大幅に増加した公共事業

52年度の政府建設投資は上にみたとおり高い伸びとなったが,その内容を公共工事着工統計でみると,着工総額は10兆1,890億円で前年度比28.0%増となり,石油危機後の緩やかな伸びから一転して急増した( 第6-2表 )。これを発注者別にみると,ウエイトの比較的大きい国,政府企業,都道府県,市区町村が30%を大きく上回る伸びとなり,この結果,中央,地方とも歩調をあわせて大幅に増加した。この背景としては,国については,景気回復に資するため当初予算で公共事業関係費などが大きく伸ばされたうえに,その後の民間需要の盛り上がりが乏しいことなどから2次にわたる補正予算が組まれたこと,さらにこのような大型予算を円滑に消化するため,公共事業施行推進本部が設置されるなど発注促進が図られたことがあげられる。また,政府企業については工事費が51年度に比べかなり増加されたことなどが影響したとみられる。さらに,地方公共団体では,中央政府の公共事業拡大方針に呼応して,建設事業を中心に積極予算が編成され,さらにその執行が推進されたことがあげられよう。なお,公団・事業団が前年度に比してわずかながらもマイナスとなったのは,51年度に前年度比16.3%増とかなり増加したことの反動のほか,日本住宅公団について,最近問題となっている公団住宅の空家問題に対処することが優先課題とされ,年度中の建設戸数が計画を下回ったことなどが影響したものとみられる。

第6-2表 公共工事着工の動向

次に工事種類別公共工事着工額をみると,ウエイトの小さいものにはややバラつきはあるものの,ウエイトの大きいものは総じて前年度より30~40%も増加している。伸び率の特に大きいものとしては,治山治水(46.3%増),農林水産(45.4%増),電信・電話・郵便(43.6%増),下水道・公園(40.0%増)などが注目される。また,特にウェイトの大きいものとしては,道路(27.3%増),教育・病院(33.0%増)なども大幅な増加となっており,公共工事はほとんどの工事種類で大きな盛り上がりをみせたことがわかる。

一方,住宅・宿舎は51年度に比し0.2%増と前年度に引き続き低い伸びとなった。これは,公団住宅が前記のような事情から伸び悩んだことのほか,最近の傾向として,大都市地域において大規模住宅団地を開発するのに適した用地を確保することが困難になってきているうえ,住宅団地建設に伴って必要となる学校,上下水道などの関連公共公益施設の整備費などの問題もあり,一般に公的住宅供給を大規模に行うことがしだいに難しくなってきている。このような状況に対しては,用地費・建設費の適正単価の確保,関連公共公益施設の立替施行など,既にかなりの対策が実施されてきているところであり,今後ともそれらの施策を推進する必要があろう。

(3) 民間不振で伸び悩んだ住宅建設

52年度の住宅建設の動向を新設住宅着工戸数でみると,総戸数は153万戸強で前年度比0.1%増とほとんど横這いにとどまった( 第6-3表 )。これは公的資金分(建築資金の全部又は一部に公的資金を用いているもの)が前年度比20.8%増と大きく伸びたものの,全体の3分の2以上を占める民間資金分(公的資金を含まないもの)が7.2%減と51年度よりかなり落ち込んだためである。このような公共・民間別の明暗の中にはさらに細かい明暗の差が見られる。たとえば,総じて不振であった民間資金住宅建設の中で,分譲住宅は,高水準で推移し前年度比13.1%増となった。これは,分譲住宅の中でも特に高層住宅(マンション)について関連業界が強気の供給計画を保持し,需要もかなり堅調であったことなどが主因とみられる。他方,民間資金による持家建設(自ら居住するための住宅の建設,以下同じ)についてみると,52年度は前年度比12.8%減と低調であり,年度中の動きも,ごく短期的な変動を除けぼ終始弱含みに推移した。居住者からみれば,分譲住宅も持家も自己の所有する住宅(以下「自宅」という)という点で大きな差異はないはずだが,分譲住宅建設と持家建設とがこのような相反する動きをしているのはどのような理由によるのであろうか。この点については本報告(第1章第1節3(2))でも簡単に触れたところであるが,さらに詳述すれば次のような要因によるとみられる。すなわち,第1は,近年更地の供給は減少する方向にあり,特に大都市周辺では持家建設に適した宅地を手頃な価格で入手することが困難となってきていること,第2は,大都市圏では新規の持家建設がいきおい郊外に拡散していっており,通勤の便を考えると都心型マンションなどのメリットが増大していること,第3は,分譲住宅については,規模を小さくすることなどによりコストを抑え,販売戦略上も比較的廉価なものを提供するように不動産業者が対応しており,中低所得層にも手がとどきやすいこと,第4は,マンションなどの分譲住宅の購入者は,将来の転売を見込んだ一時的な住宅という意識が強く,所得が多少伸び悩んでも取得態度はさほど慎重にならないこと,などである。

第6-3表 新設住宅着工戸数の動向

一方,52年度の民間資金貸家建設は,前年度比13.5%減とこれまでの増加から一転して大きく水準を下げた。貸家建設戸数の動きをみると,51年度夏以降減少傾向にあるが,これは,全国的に人口移動数や婚姻件数が近年傾向的に減少していることなどから,新規貸家需要に盛り上がりがみられないことが大きくひびいているものと思われる。

次に公的資金住宅についてみると,その約7割を占める公庫住宅(建築資金の全部又は一部に住宅金融公庫の資金を利用したもの)が,52年度には前年度比29.4%増という驚異的とも言える伸びとなり,これが公的資金住宅全体を大きく伸ばす力となった。これは,景気対策として住宅金融公庫融資枠の拡大が積極的に行われた( 第6-4表 )ためであることは,本報告(第1章第1節3.(2))でも述べたとおりである。

一方,公営住宅の建設は低い伸びとなり,公団住宅についてはむしろ減少となっているが,その背景には既にみたような立地難の問題や関連公共公益施設整備費の負担の問題のほか,地元住民の環境保全要求や公営住宅の建替事業の難航などもあるとみられる。

以上は,52年度中に着工された住宅つまり顕在化した住宅需要についてみたわけだが,ここで今後の住宅建設を支える潜在的住宅需要についてみてみよう。 第6-5図 は家計が今後の生活で特に力を入れたいとする分野をみたものであるが,「住生活」に力を入れたいとする回答は平均25%強で最も高い。ところがこれを所得階層別にみると,「住生活」が特に重視されるのは世帯年収が150~400万円の階層である。それ以下の階層では「食生活」重視であり,逆に400万円以上の階層では「余暇生活」重視となっている。低所得層では,出費のかさむ「住生活」改善はまだ先ということであろうし,高所得層では本報告(第2章第3節3.)でもみたように既に高い居住水準にあるため,より高度な生活パターンとして余暇志向となっているものと考えられる。このように住生活志向は中低所得層で特に根強いが,自宅取得への意欲についてはどうであろうか。 第6-6図 をみると,自宅取得等の計画のある世帯の比率は所得が高くなるに従って高くなるが,これは,近い将来において実現できるとする世帯が所得が高くなるに従い急増するためである。一方,自宅取得等の計画なしとする世帯のうち「住宅価格高騰」を理由とする,いわば価格により需要が抑圧されている層の分布をみると,これは低所得層になるほど多くなっており,これらの世帯を加えると,平均で7割の非自宅居住世帯が価格しだいでは自宅取得の意欲を見せていることとなり,これは所得階層別にみてもあまり差異がない。このようにみると住居(自宅)の潜在需要は相当大量にのぼり,その発現を調節している主因は住宅価格と所得とのバランス関係であると言えよう。

第6-4表 住宅金融公庫一般個人住宅募集状況

第6-5図 今後の生活で特に力を入れる面

第6-6図 所得階層別にみた非自宅居住世帯の自宅需要の状況

(4) 盛り上がりを欠いた民間建設活動

民間建設を建築と土木とに分けると,前者が85%近くを占めており(前掲「建設投資推計」52年度実績見込),民間建設の動向は民間建築の動きに大きく依存していることがわかる。そこで,建築着工統計により52年度の建築の動向をみると,着工床面積総計は前年度比2.1%増となっているものの,その伸びのほとんどは公的主体,特に地方公共団体の着工床面積の増加によるものである。一方,民間分についてみると,会社その他の法人は前年度より減少し,着工床面積の過半を占める個人建築もわずか0.9%増と不振であった( 第6-7表 )。しかもこれら「民間建築主」分の中には,住宅金融公庫融資を受けた個人住宅等,公的施策と密接に関連したものが含まれており,純粋に民間の資金及びインセンティブによる建築の伸びはこれらをさらに下回るものとみられ,総じて52年度の民間建築は不振であった。

次に用途別着工床面積をみると,住宅については前項において詳述したところであるが,ここではほとんどが民間建築とみられる鉱工業用,商業用,サービス業用について考察しよう。鉱工業用は前年度比17.4%減となり,石油危機後の減少傾向が依然続いている。これは,素材産業を中心に製造業設備投資が盛り上がらないためである。一方,商業用は6.5%減となったのに対し,サービス業用は6.6%増となり対照的な動きを示した。商業用の内訳をみると,大きな影響を与えたとみられるのは,全体の6割前後を占める卸売・小売業用が,51年度までは回復基調にあったが,52年年央以後弱含みとなったことである( 第6-8図 )。その背景には,それまでの大型店舖の出店競争が小康となったことや個人企業の収益の伸び悩みなどがあったとみられる。これに対して,サービス業用の内訳をみると,医療業用が好調に伸びていることが目立つ( 第6-9図 )。しかしながら,医療業用着工床面積の2割~3割は公的主体によるものであり,それが公共投資拡大施策の影響で大幅増加となったことがかなり影響しているといえようが,医療業界は景気動向に左右される度合が少ないことなどから,民間分も前年度比5.4%増と比較的順調である。

第6-7表 建築着工床面積の推移

第6-8図 商業用建築物着工床面積の動向(季節調整値)

次に建設工事受注(大手43社)をみると,52年度は前年度比12.9%増と堅調であったが,それも官公庁の伸び(25.0%増)に支えられたものであり,民間からの受注額は6.5%増となっている( 第6-10表 )。民間からの受注をさらに業種別にみると,製造業は全体としては0.5%減となり不振であるが,その中で化学工業(石油精製を含む)がかなり伸びているのは,政策的に石油備蓄のための施設建設が進められていることなどが影響しているものとみられる。しかしながら,受注額の水準はいまだ低い。一方,非製造業は,商業・サービス業・金融業・保険業からの受注がほとんど横這いとなったほかは,総じて伸びを高め,全体でも8.3%増となっている。特に電気業(27.8%増)は政府の電力投資推進を反映して,また不動産業(20.4%増)はマンション建設の盛り上がりからそれぞれ高い伸びとなった。年度中の動きをみても,電気業,不動産業などを主軸とした非製造業が上昇傾向にあり,このため民間からの建設工事受注は全体としても緩やかな回復過程にあるとみられる。しかしながら,業種別にはもちろん,同一業種内でも建設工事発注には跛行性があり,全体が平均して活気を見せるようになるにはまだ時間を要するものとみられる。

第6-9図 サービス業用建築物着工床面積の動向(季節調整値)

第6-10表 建設工事受注の動向


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