昭和48年
年次経済報告
インフレなき福祉をめざして
昭和48年8月10日
経済企画庁
45年秋以降の長い景気後退の中で,建設活動も45年度,46年度と増勢鈍化を続けていたが,47年度に入り景気が本格的に回復しはじめ,後半には急速な盛り上がりを見せるとともに,建設活動は景気全体をリードする活発な伸びを示した。
不況下の46年にも,公共支出の増大から土木工事を主体とする官公需の下支えがあり,また不動産業やレジャー関連産業などの民間非製造業からの建設需要は堅調であつたが,47年に入ると民間住宅建設の急激な上昇がこれに加わり,さらに夏以降には,出遅れていた民間製造業の設備投資も増加に向つたため,建設市場ではこれらの需要要因が重なつて需給ひつ迫の状態となつた。
以下47年度の建設活動をいくつかの統計により振り返つてみよう。
まず,建設投資の動きを建設省調べ「建設投資推計」によつてみると,民間,政府を合わせた建設投資総額は,45年度(前年度比16.8%増),46年度(同14.0%増)と低い伸びにとどまつていたが,47年度(実績見込み)には29.9%増と近来にない増加率を示し,21兆6,600億円に達した( 第6-1表 )。とくに民間建設投資は46年度の7.7%増から,一挙に35.1%増と急増し,財政支出の拡大による政府建設投資(21.0%増)の増加と相まつて建設需要の拡大をもたらし,景気全体の回復から上昇への動きの中で大きな効果を与えることとなつた。建築,土木別にみると,前回の景気回復局面(41年度~42年度)と同様に,建築投資の伸びが大きく住宅,非住宅ともに高い増加を記録した。一方,土木工事は,民間土木工事が17.5%増と伸び率を高めたが,政府土木工事は46年度の大幅増加の反動もあつて23.5%増と伸び率では前年度を下回つた。しかし土木建設投資全体の増加率は過去と比較しても高い水準にあり,民間建築投資の急増とともに,今回の建設需要拡大の原因となつている。
次に,47年度の建設活動を受注面からみてみよう。
建設工事受注総額(建設省「建設工事受注調査(第一次43社分)」による)は,約5兆2000億円,前年度比19.5%増と46年度に引続き堅調な伸びを続け,うち民間からの受注は22.9%増で46年度の伸び率13.1%を大きく上回つた( 第6-2表 )。
これは今回の不況期間中も衰えることなく高い伸びを示していた非製造からの受注が,47年度も不動産業(49.6%増),商業,サービス,金融,保険業(18.2%増)などの好調により,23.4%増と増勢を続けたうえに,景気後退に伴う設備投資の沈静化を反映して45年度,46年度と続けて前年度の水準を下回つていた製造業からの受注が,47年度には増勢に転じ,機械工業(27.3%増),鉄鋼業(11.8%増),繊維工業(19.5%増)などを中心に21.3%増となつたためである( 第6-3図 )。
一方,官公庁からの受注は,46年度には公共投資の大幅拡大から35.0%増と急増し,総受注増加額のうち約6割を占めていたが,47年度には18.6%増と伸び率は半減した。内訳をみると,産業部門(国鉄,公営交通,電電公社,公営水道など)が12.8%増,非産業部門(国,地方公共団体,公団など)が20.7%増となつている。
第6-3図 民間建設受注(業種別)の推移(季節調整値,3ヵ月移動平均)
また工事種類別にみると,建築工事が17.7%増,土木工事が21.4%増となつている。建築工事では,住宅(25.7%増),工場・倉庫など(18.9%増)の伸びが高まつているのが目立ち,学校,病院,官公庁庁舎(8.8%増)は前年度の伸び率を下回つた。
一方,土木工事の中では,ダム・水力発電施設(28.9%減)が46年度の水準を下回つたほか,道路(14.7%増),港湾(17.0%増),鉄道(31.3%増),土地造成(20.9%増)などがそれぞれ前年度の高い伸びよりはスローダウンした。しかし上・下水道(52.3%増),堤防・砂防工事など(43.2%増)は増加率を高めている。
また46年度には,前年度比12.7%増と低水準の伸びにとどまつた施工高は,47年度は同18.1%増と回復を示した。
受注高の増加にともない未消化工事高は年々大きく増加し続けており,これを施工高で割つた手持工事量の平均月数は,42~44年度頃は約7ヵ月強であつたのが,47年度には年度平均で10.8ヵ月と増えている。建設業における一種の需給ギャッブとも考えられるこの未消化工事高の増加は,建設業における供給能力の増加率,生産性向上のテンポが他の製造業などに比べて低く,需要の増大に追いつけないでいることなどによるものと考えられる。
以上の建設投資,建設受注の動向でわかるように47年度は民間部門,住宅を中心とする建築部門での増加が大きいが,このことは建築工事の着工床面積の増加にもあらわれている。建設省「建築着工統計」によれば,総着工床面積は46年度前年度比0.1%減となつたあと,47年度には同24.0%増と急速に回復を示した( 第6-4表 )。内訳をみると国や都道府県が公共住宅の停滞などから前年度を下回つたため,公共部門の着工床面積は3.7%増と微増にとどまつたが,不況下で低迷していた民間部門の伸びが大きく,会社,その他の法人は35.8%増,個人は21.8%増,となつた。
用途別には居住専用,居住・産業併用が住宅建設の活況を反映して伸びたほか,46年度には停滞を続けた鉱工業用,商業用の増大が目立つている。
また,構造別にみると,鉄骨鉄筋コンクリート造,鉄筋コンクリート造,鉄骨造などの不燃化建築物が大きく伸びた結果,木造の建築物は相対的に比重が下がつてきており,47年度の着工建築物の不燃化比率は,60%を越えている。
さらに,住宅建設の動向を建設省の住宅着工統計によつてみると,47年度の新設住宅着工戸数は186万戸で前年度比21.1%の大幅増加となつた( 第6-5表 )。これは,36年度の20.0%増を上回り,30年以降最高の伸び率であつた。
資金別にみると,民間資金による住宅建設は46年度に1.0%減と純減になつたあと,47年度は31.6%増ときわめて高い伸びを記録し,総着工戸数の75%を占めるに至つた。
これとは逆に,公的資金による住宅は,46年度には不振の住宅建設の中にあつて13.6%増と下支え的な役割を果していたが,47年度には5.0%減と,41年度以来6年ぶりに,前年度実績を下回つた。
民間資金による住宅建設を利用形態別にみると,すべての種類で前年度を上回つているが,とくに,貸家(前年度比38.9%増),分譲住宅(同76.7%増)の伸びが著しいことが特徴的である。これは46年秋以降の大幅な金融緩和が,その後,47年度に入つて景気が回復に転じてからもすぐには引き締めに向わず,緩和基調が持続したため,マンションや建売住宅などの供給主体である不動産業者や建築業者,さらに地主などの個人の貸家建設者などに多量の資金が流れ,貸家,分譲住宅の建設が促進されたものと考えられる。また,持家も個人向け住宅ローンの拡大などから前年度比15.2%増と伸びを高め,46年度には大きく落ちこんだ社宅や寮などの給与住宅も景気の本格的な上昇に伴い,秋以降増加に転じている( 第6-6図 )。
他方,公的資金住宅の建設は,公営住宅(前年度比2.2%減),公団住宅(同23.0%減)が用地取得難などから,前年度を下回つたうえ,住宅金融公庫融資による住宅も1.0%の微増にとどまつた。
とくに,中高層の団地建設を中心とする住宅公団では,47年度当初の建設計画戸数88千戸を大きく下回つた。地元市町村との交渉や,団地建設用地の確保は今後も難しくなるものと考えられるので,公団住宅の建設推進には困難が予想されている。
第6-6図 新設住宅着工(民間資金)の推移(季節調整値,月平均戸数)
以上にみたように,47年度は景気の回復にともなつて建設投資が拡大し,建設市場は活況を呈した年であつたが,次にこれを建設受注や住宅着工の面から,前回(41年),および前々回(38年)の景気回復局面と比較してみよう。建設工事受注総額(第一次43社分)は,過去2回の場合と異なり,景気後退期にも停滞することなく順調な伸びを続けていたが,景気の谷(46年12月)以後約半年を経過した47年夏以降は一層増加のテンポを強めた( 第6-7図 )。
これは過去2回と比べて,景気の谷のあと若干出遅れていた民間製造業からの受注が,47年8月頃から急激に増加に転じたことと,高水準を続けながらも46年に比べると,やや増勢鈍化を示していた民間非製造業からの受注が,47年末から48年にかけて,不動産業,電力業,商業,サービス業,金融保険業などが再び活発化したことにより大きく増加したためである。
さらに土木工事主体の官公庁からの受注は前回および前々回には景気が本格的に回復するのにともない,次第に減少傾向に入つていたが,今回は46年度に引き続き,47年度も大型積極財政による公共事業の拡大が行なわれたために増加を続け,これがさきの民間建設受注の上昇と重なつて総受注高の水準を大きく押し上げる結果となつた。
一方,住宅着工の動向をこれまでの景気回復期と比較してみると,新設住宅着工戸数は前回および前々回と違つて,不況期に減少基調に転じたあと,景気の谷の前後から急激な増加を示した。
第6-7図 建設工事受注額の推移(季節調整値,3ヵ月移動平均,景気の谷=100)
この傾向はとくに民間資金による住宅着工戸数の動きに明らかであり,最近では住宅建設が景気の変動,なかでも住宅信用など金融情勢の影響を強く受けるようになつてきたことをあらわしている( 第6-8図 )。
民間住宅着工の伸びを,持家,貸家など利用関係別に過去の景気上昇局面と対比させてみると,大きくパターンが違つているのがわかる。すなわち,従来では景気の谷のあと,持家建設の増加が先行して全体をリードしていくような形をとつていたのに対し,今回の場合は,持家も増加したが,それ以上に貸家ならびに分譲住宅の伸びが急速で,しかも大量であつたことが特徴的である。もともと貸家建設は,持家にくらべて景気変動の影響を受けやすい性質を持つているが,今回は,前にも述べたように,金融緩和下での企業の設備投資資金需要の鎮静から,貸家建設や建売り住宅,マンション建設などにとつての金融環境は極めて好条件に恵まれていたものと思われる。また全体に占めるウエイトは小さいものの,民間給与住宅の建設は,前2回の場合と同様に不況下で大きく落ちこんだあと,景気の谷以後約半年を経て,企業経営にも本格的な明るさが浸透してきた47年度夏以降回復の度合を強めてきている。
他方,公営,公庫,公団など公的資金による住宅建設は,46年度末に一時着工戸数を伸ばしたが,その後47年度に入つてからは,旺盛な民間住宅建設と競合する形となり,用地取得などの面で民間に比べて立ち遅れが目立ち,伸び悩みの状態が続いている。
また今回の住宅建設の増加を,大都市圏地域とそれ以外の地域とに分けて示したのが 第6-9図 である。
これによると,東京,神奈川,千葉,埼玉,愛知,大阪 兵庫の7都府県の合計である大都市圏地域では,貸家,分譲住宅の比重が高いこともあつて景気変動にともなう着工戸数の増減が激しいのに比べて,その他の地域ではよりコンスタントに住宅建設が増加している。利用関係別にみると,持家の増加は,大都市圏以外の地域の方が若干高いが,その伸び率はともに小さくなつており,また著しい増加を示した貸家建設でも,大都市圏地域とともに,それ以外の地域でも伸び率が高くなつている。一方,マンションや建売り分譲住宅などは大都市圏地域の増加が圧倒的に多くなつており,47年度には7割以上の伸びを記録している。
ちなみに,この7都府県の大都市圏地域で,47年中に建設された民間新設住宅のうち,貸家と分譲住宅は合わせて68.0%を占めており,持家は28.8%に過ぎない。
第6-9図 新設住宅着工戸数(地域別)の推移(前年同期比増減率)
大都市への人口流入圧力は,一時に比べれば近年では減少してきてはいるものの,しばしば指摘されているように,これら地域での住宅の居住水準は全国平均と比べてもはるかに悪い状態である。47年度の民間住宅建設は,きわめて好調に推移したが,もつとも住宅に対する必要度の大きいこれら大都市およびその近郊地域での住宅供給が,その大部分を貸家と分譲住宅に依存していることは,今後の景気の変動による不安定性もそれだけ大きいことを意味しており,今後大都市圏地域での住宅環境を整備していくためには,公的資金による住宅建設の推進とともに,民間住宅建設促進のための安定的な資金供給の途を確保していくことが必要であろう。