昭和45年

年次経済報告

日本経済の新しい次元

昭和45年7月17日

経済企画庁


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7. 財  政

(1) 昭和44年度の財政-景気に対する中立性と財政体質改善の進展

44年度財政においては,ひきつづく景気の上昇を背景にその規模の決定と運営に際して景気刺激を回避することが企図されると共に,43年度に始まつた財政体質改善がさらに推進された。

わが国の景気は43年8月の金融引締め解除後も上昇を続け,さらに44年度に入つてからは,都市銀行等に対するポジション指導が緩められたこともあってその拡大テンポは一層加速化された。一方,このような経済の拡大にもかかわらず国際収支は記録的な黒字を示した。しかし,国内では卸売物価の高騰が目立ち,景気の過熱が懸念されたため,44年9月には公定歩合が引上げられ,同時にポジション指導も強化されるなど,一連の金融引締め措置がとられた。その後は,貸出金利の大幅上昇等にみられるように金融面には政策効果が徐々に浸透しつつあるが,実体経済の拡大基調はつづき,物価の騰勢にも大きな変化はみられなかつた。

このように長期繁栄と国際収支黒字,卸売物価の急騰等,日本経済はかつてない経験をした。一方,社会資本の整備や,社会保障の充実等の財政需要は大きく,これらの財政需要に応えるよう重点的な財源配分がなされたが,その規模においては景気を刺激しないよう留意された。しかし,経済の拡大を背景に租税収入は大きな伸びを示しており,国債発行額も縮減され,公債依存度は当初予定をさらに下回るものとなつた。

また44年度財政は財政硬直化打開の2年目としてひきつづきその体質改善が進められた。総合予算主義がとられ,生産者,消費者両米価の据え置き,自主流通米制度の創設等,総合農政の展開がみられたが,米の政府買入数量の増加,公務員給与の改定などから再び補正予算を組むことが必要となつた。

第7-1表 44年度における財政関係主要事項

45年度予算においては,国際収支黒字下における景気調整という新しい経験の中で,内外均衡の両立と物価の安定を図ることが目標とされた。このため財政により景気を刺激することのないよう政府は財政支出の規模を適度にとどめ,所得税,住民税の減税をする一方,法人税負担の引上げを行なつた。また,ひきつづき総合予算主義を原則とし,財政体質の改善を推進することとした。

以下44年度における財政の動向を詳しくみよう。

(2) 44年度予算の性格

(一) 当初予算の特色

44年度においてはひきつづく景気の拡大の中で国際均衡と物価の安定を確保し,均衡のとれた持続的成長を図ることとともに,財政の体質を改善し,社会資本,社会保障に重点的財源配分を行ないつつ国民負担の軽減を図ることが基本方針とされた。

このため第1に財政規模を適度なものとし,景気を刺激しないよう配慮された。一般会計予算は6兆7,395億円で前年度当初予算に対して15.8%の増加となつた。また財政投融資計画も前年度比14.0%増と低い伸びに抑えられた。これに対し地方財政計画は前年度比18.5%と前年度に続く高い伸びとなつた( 第7-2表 )。第2には総合予算主義がひきつづき採用されるとともに,歳出内容の合理化等により財政体質の改善が図られた。第3に財政体質改善,景気調整の両面から公債依存度の引下げが図られた。

(二) 歳入予算-公債依存度の引下げと国民負担の軽減

44年度の蔵入予算の特色は( 第7-3表 ),第1に前年度にひきつづき公債発行額の縮減による公債依存度の引下げが図られたことである。44年度の発行予定額は当初4,900億円で前年度(当初予算)に比べ1,500億円減少し,公債依存度は10.9%から7.2%へと低下した。第2に租税および印紙収入は初年度1,503億円にのぼる減税にもかかわず景気の上昇を背景に16.2%の増加が見込まれ,国債の減額とあいまつて歳入中に占める割合は85.1%へと増大した。また44年度においては国民負担の軽減が基本方針の一つとされ,43年7月の税制調査会の「長期税制のあり方についての答申」に沿つた税制改正が行なわれた( 第7-4表 )。所得税については初年度1,503億円と戦後最大の規模の減税が行なわれた。これは課税最低限の引上げ,給与所得控除の適用範囲の拡大などのほか,昭和32年度以来初の本格的税率緩和を含むものであつた。この結果,夫婦と子供3人の標準世帯の課税最低限は83万円から93万円へとひきあげられた。また,地方税についても,住民税の課税最低限の引上げ等を中心に初年度870億円の減税が行なわれ住民負担の軽減が図られた。

第7-2表 国民経済と財政規模

第7-3表 一般会計歳入予算の推移

一方,財政投融資計画の原資をみると( 第7-5表 ),前年度に比べ郵便貯金の伸びには鈍化が見込まれたものの,原資に占める財政資金全体(産投,簡保,運用部)の比重は増大している。また政保債および地方債は前年度と同額とされた。

(三) 歳出予算

前述のように歳出規模の抑制が図られた中で,歳出予算の内容は財政体質の改善,財源の重点的配分に配慮がなされた( 第7-6表 )。

まず,43年度以来問題となつてきた当然増経費についてみると,44年度も国債費,給与費,公共事業関係費等の増加からそれだけで予算規模をかなり大幅に押し上げる要因となつた。

地方交付税交付金も国税三税の増加を反映して大幅な増加となつた。地方交付税交付金についてはその基本的性格をめぐつて種々の論議がななれているが,これに対し,44年度においては,地方税収の大幅増加が見込まれること,地方財政についても国と同一の基調により節度ある運営が要請されたこともあつて地方交付税交付金は法定額から690億円減額された。食管については,生産者,消費者両米価据え置きのために食管繰入れを537億円増加するとともに総合農政を推進することとした。

第7-4表 44,45年度の税制改正による増減収額

さらに重要施策として物価安定のために,財政規模の圧縮による総需要の抑制,米価据置きのほか,国鉄運賃以外の公共料金の引上げを抑制し,流通機構近代化融資の拡充,低生産性部門の近代化,労働力移動の円滑化などの施策を強化した。

第7-5表 財政投融資計画の原資

第7-6表 主要経費別予算の推移

第7-7表 財政投融資の使途別分類

また,社会保障の充実,社会資本の整備が図られた。なかでも社会資本整備は42,43年度,と景気調整の観点からやや遅れた面もあり,44年度は財政全体としての規模が抑制されたなかで,住宅(前年度比13.3%増,公営住宅の用地費補助廃止を調整した実質規模では33.9%増),生活環境施設(前年度比22.1%増)を中心に極力考慮が払われた。財政投融資計画においても,住宅に重点がおかれている( 第7-7表 )。

また,地方財政計面においても,地方道,下水道の整備をはじめとして街づくり,地域づくりの計画的実施が図られている。

(3) 44年度財政の実行

(一) 財政支出-中立的な支出態度

つぎに支出の実行面をみてみよう。44年度の中央財政支出は,支出面でも契約面でも,年度途中においては特別な政策的措置はとられなかつた。42年度においては支出繰延べが行なわれ,43年度は年度当初より支出が抑制的になされた。これに比べると,44年度の支出態度は中立的なものであつたといえよう。本報告第一部でみたように中央一般政府の固定資本形成は第1四半期にやや落ち込んでものの第2四半期以降着実な伸びとなつた。公共事業関係費予算の進捗率をみても( 第7-8表 ),9月末で24.9%,3月末で83.6%となつており,固定資本形成と同様の推移をたどつている。なお,一般会計全体の進捗率をみると( 第7-9表 ),9月末には41.7%と42,43年度並みであつたのが3月末には,94.4%と,支出促進の行なわれた41年度を上回つており,下期にやや進捗した姿となつている。

一方,地方財政についてみると,地方政府による固定資本形成は,年度当初から支出が進捗し,過去のすう勢(37~44年)を上回る高い伸びとなつている(本報告第1部 第28図 )。こうしたなかで地方の普通建設事業費も前年度にひきつづき高い伸びとなるとみられるが,その内容をみると住民生活に関連の深い住宅費,都市計画費,港湾費,道路橋りよう費などの土木費,学校建設費などの教育費が高い伸びを示しており地方財政が従来よりも財政事情がしだいに好転してきていることもあつて積極的に街づくり,地域づくりに取組んでいることがうかがわれる。

第7-8表 公共事業関係費支出状況

また,政府財貨サービス経常購入(中央,地方を含む)の動きをみると,第2四半期まで落着いた推移をたどつたが,第3四半期には公務員給与の引上げから,かなり伸びが高まつた( 第7-10図 )。

このような財政の動きは経済に対してどのような影響を与えたであろうか( 第7-11図 )。年度初めから租税などの経常収入の伸びが政府総支出の伸びを上回る状態がつづいており,財政全体としては黒字化の方向をたどつた。この結果,国民経済計算上の政府バランスの推移をみても,第1,第2四半期と急速に赤字率が縮少したが,第3四半期には政府在庫の増加は例年よりも小さかつたものの経常購入の高まりからやや赤字率が高まつた。しかし,年度全体としては,経常収入が18.3%増と高い伸びを示す一方政府総支出が13.9%増にとどまり(実績見込),国民経済計算上の財政赤字率(政府総支出に対する比率)は43年度の6.2%から2.6%に縮小し,44年度を通じてみると財政部門は景気に対して抑制的に作用したものとみられる。

第7-9表 一般会計予算支出状況

(二) 税収―好調な法人税収

44年度の一般会計租税及び印紙収入は,当初予算においては5兆7,381億円,前年度決算額に対して16.5%の増加が見込まれた。しかし,経済の予想を越えた拡大を反映して所得税,法人税を中心に当初見込みを大幅に上回り,実績見込額(45今4月現在)は6兆242億円,22.3%の増加となり,42年度以降3年つづいて20%をこえる高い伸びとなつた( 第7-11図 )。

これを主要税目別にみると( 第7-12図 ),総じて見込みを上回る増収となつたなかで,法人税や所得税などの直接税はとくに好調であつた。まず法人税は,企業収益の好調持続を反映して,26.2%増と当初見込みをかなり上回つた。

第7-10図 財政収支の推移

なお,法人税の延納率(半年決算大法人)は,9月期にやや低下し20.3%となつたあと,3月期には24.3%へと上昇した。これを,金融業を除いた一般産業についてみると,44年3月期18.0%のあと9月期21.5%,45年3月期29.0%となつている。延納利子税率がかなり高くなつているものの企業の資金ぐり逼迫を反映して,このように大幅上昇となつたものである( 第7-13図 )。

次に,所得税は源泉,申告ともに好調で当初見込みを上回つた。そのうち,申告所得税は前年度比26.3%増の高い伸びとなつた。源泉所得税も,前年度(25.5%増)には及ばなかつたものの,給与,配当等の高い伸びを反映して当初見込みを大幅に上回り23.6%増となつた。また,相続税も高い伸びとなつた。

次に,間接税をみると,物品税は,冷夏により夏季用電気器具が不振であつたものの,他の耐久消費財の売行きが好調であつたため,当初見込みをやや上回る23.6%増となつた。その他,関税,揮発油税,有価証券取引税も好調であつた。これらに対して,酒税や印紙収入は当初見込みを下回つた。とくに酒税は,清酒の消費量の伸び悩みなどから,前年度(14.9%増)よりさらに増勢は鈍化し,9.8%増となつた。

一方,地方税(道府県税)収入についてみると( 第7-14図 ),44年4月~45年3月の収入済額は,前年同期比21.9%と前年度(24.6%増,決算ベース)にひきつづき好調であつた。なかでも法人県民税,法人事業税それぞれ25.6%増,25.3%増(前年同期比)と好調な伸びを示しているほか,自動車取得税,自動車税,たばこ消費税の高い伸びが目立つている。

第7-11図 租税及び印紙収入の推移 (対前年度増減率)

(三) 公共債発行額の弾力的調節

このように好調だつた国税収入を背景として,国債発行額が弾力的に調節されたことも44年度財政運営の景気警戒的姿勢を示すものであつた。

44年度の国債発行額は当初4,900億円(収入金ベース,以下同じ)とされていたが,自然増収がかなりに上ると見込まれたことから補正予算において400億円の減額が決定され,さらに年度末になつて374億円の減額が行なわれた。年度間を通じての発行額は4,126億円となり,公債依存度は5.9%(補正後予算規模に対する割合)に低下した( 第7-15表 )。政保債についても公社債市場の状況等から当初発行予定額(3,600億円)から600億円減額された。

さらに,45年度に入つてから公社債市場の動向に応じて,国債等の発行条件が改定されたことも,市中消化の原則に基づく国債政策の現われとして評価できよう。

第7-12図 主要税目の収入状況 国税

第7-13図 法人税延納率の推移(半年決算大法人)

第7-14図 主要税目の収入状況 地方税(道府県税)

第7-15表 公債発行額と公債依存度

(四) 財政資金対民間収支

44年度の財政資金対民間収支は1,312億円の散超(前年度は3,478億円の散超)で前年度に比べ2,166億円の散超減となつた( 第7-16表 )。これは,地方交付税交付金をはじめ公共事業関係費,社会保障費などの支払増加及び国債減額等の散超増要因があつたものの,租税が法人税,所得税などの好調から前年に比べ大幅な揚超増となつたこと,食管で生産者米価据置きや自主流通米などの影響による政府買入量の減少などから前年に比べ,1,144億円の散超減となつたこと,外為資金が輸出の好調や外人投資の流入から散超傾向がつづいているものの円シフトにより散超減となつたことなどの揚超要因が大きかつたためである。

このように44年度の財政資金対民間収支は租税収入の大幅揚超を主因として大幅な散超減となつたものの,前年度にひきつづき散超傾向で推移している。ここで財政収支の動きをやや長期的にみても,今回の景気上昇局面において,好況下にもかかわらず散超傾向がつづいているのは過去の景気上昇期にはみられなかつた特色である。これは国際収支の黒字基調が定着し外為資金が散超傾向に転じたこと,米価の逆ざやや米買入量の当初月込みを上回る増大から食管会計の大幅散超がつづいていることなどのためである。これを外為資金を除く一般財政収支でみると,43年度までは食管赤字を主因に散超傾向を続けてきたが,44年度には,生産者・消費者両米価の据置さ,自主流通米制度の創設などから食管の散超幅は縮小した。一方,税収は実体経済の好調を反映して前年度比10,285億円の増加となつた。このため一般財政収支は前年度を上回る揚超となつた。このように財政の金融市場を通ずる効果は抑制的に作用したが,国際収支の大幅黒字を背景とした外為資金の散超が大きく,財政収支の抑制的な効果を打ち消すものであつた。

(五) 補正予算

44年度においても総合予算主義の原則を堅持して補正要因の解消に努める方針の下に予算編成が行なわれたわけであるが,体質改善の遅れもあつて,45年2月になつて補正予算が組まれることとなつた。その規模は1,913億円で当初予算に対する比率は2.8%と前年度(1.7%)よりやや上昇した( 第7-17表 )。歳出追加額(2,480億円)の中では,食管赤字の増大に伴う食管繰入れの増加(560億円),公務員給与の引上げに伴う給与改善費の増加(567億円),税収増等に伴う地方交付税交付金の増加(995億円)が主なものであつた。一方,その財源についてみると,租税及び印紙収入1,969億円,税外収入344億円が見込まれたが,そのうち400億円を国債の減額に充て,残り1,913億円と既定経費の節減分567億円を歳出追加に充てることとしている。

第7-16表 44年度の財政資金対民間収支

第7-17表 一般会計補正予算の推移

(4) 45年度予算-景気調整と資源配分の両立への第一歩

45年度予算は,物価の根強い上昇基調を抑制しつつ,わが国経済の持続的成長を長期にわたつて確保すること,経済の効率化と国民生活の質的充実のために重点的に財源を配分し,併せて国民負担の軽減を図ることなどを基本方針として編成された。以下にその具体的な内容をみてみよう。

まず第1は,財政面から景気を刺激することのないよう配慮していることである。すなわち,歳入面では公債発行額を縮減し,法人税負担の引上げを図る一方,歳出面でも財政規模を適度のものにとどめている。

(一) 公債発行額の縮減

45年度の国債発行額は4,300億円で,44年度当初予算の4,900億円に対して600億円の減額となつており,公債依存度は44年度(当初)の7.2%から5.4%に低下した。また,政府保証債発行額も3,000億円で,44年度当初計画に比し600億円の縮減が図られた。

第7-18表 日本の法人税率の推移

(二) 法人税負担の引上げ

昭和27年の引上げ以降一貫して低下してきた法人税負担を,現下の経済財政事情にかんがみ,2年間の臨時措置として1.75%ポイント(住民税を含むと2.01%)引上げることとした( 第7-18表 )。これは,本報告第1部でみたように,財政の資源配分機能と景気調整機能を両立させていく正しい方向を示すものであつた。

(三) 財政規模

一般会計予算規模は7兆9,497億円で前年度当初予算に対して17.9%増と過去10年間の平均(16.4%,補正後ベース)をやや上回つた。また財政投融資計画は3兆5,799億円で,前年度(当初)に比し16.3%増と過去10年間の平均19.3%を下回つた。一方,地方財政計画は7兆8,979億円で,18.9%増すと過去10年間の平均17.8%(計画ベース)をやや上回つた。

中央,地方を含めた財政部門が国民経済に及ぼす影響をみると,政府財貨サービス購入は12兆1,300億円,前年度比14.8%増と見込まれる。これは45年度の名目経済成長率(政府経済見通し15.8%)を下回つており,,GNPに占めるシエアも16.7%と前年度(16.9%)より0.2ポイント低下する。景気動向を考慮すると経済規模と均衡のとれた財政規模といえよう。

第2は,国民負担の軽減合理化である。所得税については,43年7月の「長期税制のあり方についての答申」の完全実施を目途として,初年度2,461億円と戦後最高の減税が行なわれ,課税最低限の引上げ,給与所得控除の拡充,税率の緩和が行なわれた。この結果,夫婦と子供3人の給与所得者の課税最低限は93万円から103万円(平年度)に引き上げられた。また,住民税においても住民税負担の軽減を図るため初年度654億円の減税が行なわれた。

わが国の所得税の課税最低限は国際的にみてもアメリカ,フランスについで高い水準となつていることを考慮すると,今後とも,常時所得や物価水準の上昇に見合つて控除,税率の調整を行なつていく必要はあるが,従来のように一定の金額的目標を掲げてこれを税制改正の指標とする必要はうすれてきており,景気動向を考慮して所得税減税の規模を決定していくことが可能になつてきているといえよう。

利子配当課税の特例措置についても,課税の公平の観点から総合課税の原則に復帰することを基本的方向としつつ,漸進的な改善合理化が図られることとなつた。

第3に,総合予算主義の原則をひきつづき堅持するとともに,歳出内容の合理化が図られたことである。

まず,総合予算主義についてみると,制度慣行の硬直化の打開が遅れているため,44年度にも食管繰入れや義務的経費の追加などから補正予算の編成を余儀なくされた。しかし,総合予算主義は予算本来の原則であるところから45年度においてもひきつづきこれを堅持することとし,極力追加補正要因の解消に努めることとされた。

歳出内容の合理化についてみると,①公共投資について,住宅,生活環境整備に財源を重点配分するとともに,道路,港湾の建設に民間事業主体や民間資金を活用すること,②過剰米の問題に対処するため,総合農政の第2年目として,生産調整奨励補助金の交付や民間,地方自治体等による農地買上げにより150万トン以上を目標としての生産調整,両米価水準の据置きが図られたこと,③国,地方の財政状況がしだいに変化してきていることもあつて,国,地方の財政負担の調整が図られることとされたほか,326件におよぶ補助金の整理合理化が行なわれ,公務員の5%削減計画にのつとり定員増加の抑制が図られた。

なお,45年度予算成立の遅れから,18日間6,116億円(当初予算の7.7%)の暫定予算が組まれることとなつた。

(5) おわりに―45年度財政の課題

45年度は新経済社会発展計画の第1年度となる。計画が目標としている住みよい福祉社会を築くためには財政の資源配分機能を一層高めていく必要がある。しかし,毎年度の予算の中で当然増経費の割合は年々高まつてきており,大蔵省の資料によると45年においても当然増経費は9,000億円強と,それだけで前年度当初予算を13%強押し上げる要因となつている( 第7-19表 )。硬直化を打開し,財政体質を改善していかなければ,今後予想される社会資本,社会保障等の財政需要に応えることはできなくなろう。45年度予算においても,財政硬直化の打開が漸次進展しはじめているが,硬直化の主たる要因となつている制度慣行については抜本的解決はなされていない。食管,医療保険などについて国民経済的視野に立つて検討していく必要があろう。とくに,米の生産調整をいかに円滑に実施していくかは大きな課題であろう。

一方,最近の経済動向をみると,実体経済の根強い拡大基調がつづくなかで,金融面では引締め政策の影響が徐々に浸透しはじめている。45年度財政は,このような経済情勢の中で出発したわけであるが,年度内においても内外経済の推移を慎重に見守りつつ経済情勢に即応して機動的に対策るを講じ,財政の弾力的運営を図り,金融政策の適切な運用とあいまつてポリシーミックスの実を確保していく必要があろう。

第7-19表 一般会計予算増加内容の内訳


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